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8章 新たな王と新たな時代2 亡霊と王
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「妾たちの事は気にせずとも良いのじゃ。戦闘をするわけでもないし、戦闘があっても食後の運動にちょうど良いくらいじゃからな」
「我が家の家族が揃っていて、後衛のぼくが戦う機会があるとも思えないしね。だからさっきの甘いやつ、もうちょっとくれない?」
「完全に食い歩き旅行気分だよこの2人……。可愛いからあげちゃうけどさぁ……」
もぐもぐと料理を食べ続けるリーチェとフラッタを引っ張って奈落を脱出し、もっともっとと強請る2人に料理を与えながら、キュールとシャロのポータルで王国中のレガリアの拠点を見て回った。
料理が足りなくなったら各地で買い足して、フラッタとリーチェに燃料を補給しながらシャロたちが把握している拠点を全部回り、マグエルの自宅に帰ってきたのはまぁまぁ夜が更けてからだった。
「2人とも食べ過ぎでしょーっ! リーチェは全部の栄養がおっぱいにいってるにしても、ちっちゃくて可愛いフラッタのどこにあんな量の食べ物が入ってるの!?」
「……待ってダン。当然のように語ってるけど、栄養が全部おっぱいに行ってるってなにさーっ!?」
いやいやリーチェ。
抗議するのはいいんだけど、言い返す時におっぱいをぶるんって揺らしたら俺の言葉を裏付けちゃってるんだよ?
そしてフラッタは我関せずと、未だにほっぺをもぐもぐ動かしてるしぃ……。
「とりあえずみんなお疲れ様。これから少し話をしたいと思ってるんだけど、アウラとかチャールたちはまだ起きていられそうかな?」
「ん~……。まだ眠くないけど、話が長引いたら危ないかもぉ……?」
「私たちは全然平気かな? 職業浸透を進めてからは夜更かしもあまり苦にならないし」
「その上最近は誰かさんに強制的に眠らされてっからなぁ? 俺達の心配は要らねぇよ」
チャールとシーズが心配なし。アウラがちょっと不安なのね。
ということでアウラを呼んで膝の上に座らせて、ついでに未だに何か食べてるフラッタも抱っこして、眠くなったら自由に寝ていいよと前置きしてから話を始める。
「さて、無事にシャロとキュールの案内で分かっている限りのレガリアの拠点を回ってきたわけだけど……。正直どうするよ? 俺はちょっと頭を抱えたい気分なんだけどぉ……」
アウラとフラッタをよしよしなでなでしながらみんなに問うと、ラトリアやシャロの王国貴族組や、ティムルやリーチェのお姉さん組が揃ってフルフルと頭を振って長い息を吐いた。
どうやら俺と同じく、みんなも頭を抱えたい気分のようだ。
「いやぁ……。レガリアはそれなりにこの国に根付いているとは思っていたけどさぁ……。流石にここまでとはぼくも思ってなかったかなー……」
「お姉さんも同感よぉ……。まさかスペルド王国の街の領主、その殆どがレガリアに与してるとはねぇ……」
同時にはぁぁ~~……っと、盛大に溜め息を吐くティムルとリーチェ。
2人も予想以上のレガリアの侵食振りにゲンナリしてしまっているようだ。
シャロとキュールの2人が把握しているレガリアの拠点、それらを合わせたら、ほぼスペルド王国の全部の都市を回る事になってしまった。
案内をした2人ですらこの結果は予想していなかったようで、少しだけバツが悪そうな様子だ。
「レガリアを名乗り私の体を求めてきた殿方は数知れませんでしたけど……。改めて意識すると、私ってスペルドの殆どの男性貴族に体を許しているんですねぇ……」
「シャロさんやバルバロイ殿下どころか、先代の王シモン陛下がレガリアと関係していたんだよね? とすれば王国の人事なんて思うがままだよ。国を蝕むには頭を抑えればいいってね……」
シャロのことはあとで徹底的に上書きするにしても、コレは正直言って困った。
今回見て回った拠点を虱潰しに襲撃したら、スペルド王国が間違いなく破綻してしまうよぉ……。
マグエルやヴィアバタの領主すらレガリアに与してるらしいんだもん。流石に凹むわぁ……。
「俺のシャロと肌を重ねたってだけで王国中の男性貴族を皆殺しにしてやりたくもあるけど……。当然そうもいかないよね?」
「シャロの身も心も既にご主人様だけのものですから、どうか落ち着いてください」
態々近寄ってきて、俺の両手を自身のおっぱいに導くシャロ。
これが元の世界でちょいちょい目にした『大丈夫? おっぱい触る?』って奴ですかっ!?
「いくら無能者が多いとは言え、アレだけの数の領主家を一気に滅ぼしてしまうと、その影響は国民へ及んでしまいます。シャロが愛する殿方はご主人様だけですから気にしなくていいんですよーっ」
「ゴブトゴ様が過労で倒れてしまいますから、絶対に自重してくださいねダンさんっ!? 絶対ですよっ!?」
俺に登城を強いた際にヴァルハールを滅ぼしかけたのがトラウマになっているラトリアが、お願いだから落ち着いてくださいねーっ! と何度も念を押してくる。
ここでゴブトゴさんを引き合いに出すあたりが、ラトリアはやっぱ貴族だよなぁって感じるよ。
「それに各地の領主の全員が全員、積極的にレガリアの活動に参加していたとも限りません。短絡的な判断は禍根を残す事になりかねませんよ?」
「レガリアに与していながら組織の活動に参加していない? そんなことあるの?」
「うっ……! ぐ、具体的に聞かれるとお答え出来ないんですけどぉ……」
「ははっ。ラトリアらしいね」
勢いで俺を制止したようだけど、その理由までは上手く言語か出来ていないようだ。
ぐぬぬと縮こまるラトリアの姿に、ゲンナリしていた場の空気が少しだけ軽くなる。
「今のラトリアの意見、なんとなく無視しないほうがいい気がするね。みんな、今ラトリアが言ったようなケースって、ありえると思う?」
「レガリアに所属していながらレガリアとして活動しないケース、ねぇ……」
「レガリアってスペルド王国の足を引っ張る為に生まれた組織だけど、ヴィアバタの領主さんは本気でヴィアバタの将来を考えていたように思えるし、マグエルの領主もマグエルの発展を阻害したりしなかったよね? もしかしたら一枚岩じゃない可能性、あるんじゃないかなぁ?」
ヴィアバタの領主さんの熱意を嘘だとは思いたくない。
マグエルの領主には会ったことが無いけど、マグエルが賑い始めている事を喜んでくれていると信じたい。
大体にして今代のメナスであるノーリッテは、スペルド王国になんて何の執着も見せていなかったはずだ。
実質的な組織運営はゼノンという男に丸投げしていたとは言え、アイツがトップに立っていた期間のレガリアは他の時期のレガリアよりも、スペルド王国に対する憎悪が薄かったりしなかったんだろうか?
「殆どが人間族で構成されているレガリアの中枢に、魔人族のキュールを引き込んだ奴がトップだったんだ。組織レガリアだって揺らいでいたっておかしくないと思うんだ」
「ん……。確かにレガリアに与していたのはほぼ人間族の貴族のみ……。他種族の貴族は精々協力者、もしくは利用されるだけの存在だったはず。そんな組織で、最重要機密であろうマジックアイテムの開発に魔人族を起用するのはかなり異例でしょうね……」
「でもさぁ~、ノーリッテは殆ど表に出ていないって話だったよ? 組織への影響はさほど多くはなかったんじゃないかな?」
むー。シャロが俺に同意しかけてくれたけど、キュールがあっさりと否定してくるかー。
キュール本人としては、あんまり自分を特別視されたくないってのもあるんだろうけど。
「……正直、私は王国の事情に疎いので、適切な判断が出来ているか自信ありませんが」
会話が途切れたタイミングで、意外な人物が口を開く。
王国に最も関心が無いと思われる魔人族のヴァルゴが、少し緊張した様子で俺達の注目を集めた。
「ヴァルゴ?」
「要するに旦那様は、王国の貴族を皆殺しにするのに抵抗がおありなんですよね? けれど組織レガリアの意志を継ぐ者を残しておくのも良くない、と」
「うんうん。出来れば犠牲者は少ない方がいいに決まってる。シャロの件に関してはもう過ぎたことだし諦めた。レガリアの残党も残しておくわけにはいかないけど、根絶やしにしたら国が立ち行かなくなるので困ってるって感じかな」
レガリアの意志を継ぐ者は残してはおけないって言っても、現実問題として皆殺しにするわけにはいかない。
かと言って、居るかどうか分からない消極的な賛同者を選別する方法も思いつかない。
こんなどっちつかずのままじゃ、レガリアの残党掃除を決行するわけにはいかないんだよぅ。
「でしたら旦那様。殺さなきゃいいだけではないのですか?」
「……へ?」
ヴァルゴが軽く首を傾げながら当然のように言い放った言葉が理解できず、つい間抜けな反応を返してしまう。
殺さなきゃいいって……。殺さなくていいならそれに越した事は無いって話だよ?
だけど殺さなきゃいけない相手と殺さなくていい相手の選別なんて、いったいどうやったらって話を……。
「いやいや。なんで襲撃した拠点を皆殺しにする前提で話を進めてるんですか。私たちの力量なら、相手を殺さずに無力化することも容易いでしょう?」
「…………あ」
「今までの相手が魔物ばかりだったから排除イコール殺害と結び付いてしまったのかもしれませんけど、判断がつかないのであれば無力化、制圧だけを先に済ませてしまって、取調べは時間をかけて行なってもいいんじゃないですか?」
不思議そうに首を嗅げるヴァルゴの様子に、サッと血の気が引いてしまう。
ヤ、ヤバい……。本当に自然に、排除イコール殺害と想定しながら話を進めてたよ……!
出来ればマグエルやヴィアバタの領主は殺したくないって……。
そもそも何処の領主も殺さずに捕えればいいだけだったんじゃん! 俺、馬鹿すぎかっ!?
「んー。私もついつい相手を殺すことばかり考えちゃってたのー。レガリアとは全力で死闘を繰り広げてきたから、生かして捕えるって発想が無かったなー」
「そ、それを1番気軽に手を血で染められるヴァルゴに指摘されちゃうなんてぇ……。お姉さん、いつの間にか随分物騒な考えになっちゃってたわぁ……」
「「すぅ……すぅ……」」
ニーナとティムルがあちゃーとばかりに額に手を当てて悩む傍ら、俺の腕の中ではアウラとフラッタの末っ子コンビが仲良く寝息を立てていた。
アウラは予告されてたけど、フラッタぁ……。お前、三大欲求の権化かよぉ……?
話し合いが終わったら、残る1つの欲求も思い切り解消してあげなきゃいけないなぁっ。
「ぼくは精霊魔法で相手を無力化するのは得意だよ。1人旅の間、暴漢を撃退することも少なくなかったしね」
「私も対人戦には不安はありません。スペルディアの王宮騎士たちに稽古をつけるよりずっと楽でしょう」
リーチェとラトリアが、相手を殺さず無力化するのは任せろと、魅力的なおっぱいをどーんと張ってくれる。
しっかし精霊魔法で相手を無力化って……。
もしかしなくても呼吸を阻害するんだろうか? え、えげつねぇ~……。
「私はまだ少し不安は残りますけど、殺せと言われるよりはとても気が楽ですよ。子供達の未来を守るためならこの手を血に染めることも厭いませんけど、やっぱりできるだけ人を手にかけたくはないですからねっ」
「あははっ! 私も皆殺しにする考えしか頭に浮かばなかったのっ! 私もすっかりダンさんに染められちゃったのーっ」
「ヴァルゴさんに同行するとなると、正直私には荷が重いですが……。その分学べるものも多そうです。ワクワクしてしまいますねっ」
本音では人を殺めたくないと笑うムーリと、すっかり上書きが済んだことを笑うターニア。
そしてヴァルゴとペアで行動する予定のエマは、実力不足を憂いながらも挑戦的な表情を浮かべている。
相手を殺さなくていいとなった途端に、みんなすっかりやる気に満ちてしまったようだ。
この世界って殺伐としているけれど、魔物という脅威が存在するおかげで、対人戦を避けようと思えばトコトン避けられるんだよな。
戦えるみんなの手を汚させたくないってのは俺のエゴかもしれないけれど、みんなも望んでいないのならなるべく綺麗なままでいて欲しいね。
「えーっと。全部で6組に分けるのよね? ダンはシャロとキュール、チャールとシーズと一緒に回るわけだし」
「そうだね。仕合わせの暴君がちょうど1名ずつ分かれる感じかな」
「なら担当区域は6等分にしようか。それぞれの組の戦力差は、もう殆ど気にしなくていいレベルだと思うからね」
ティムルとリーチェが中心となって、それぞれの担当する地域を決めていく。
基本的に捕えるのは当主のみで、その家族や使用人たちは今回は放置することになった。手が足りないからね。
なるべく怪我をさせることなく無傷で制圧、かつ無力化し、城に引き渡して取り調べてもらう事にする。
けれど今の多忙な時期に、これ以上ゴブトゴさんに負担をかけて良いものか……。
「今回は資料の回収作業はしなくていいんだよねー? 私も母さんも、何が重要な資料とか分かんないのー」
「ええ。今回は領主の確保に目標を絞りましょ。家人の前で資料や書類を持ち出したら、私たちのほうが強盗になっちゃうからねー」
「ティムル……それは流石に今更過ぎませんか? 各地を襲撃して回る時点で、私たちは国家転覆を狙う逆賊みたいな扱いをされると思いますけど」
……なんだろうなぁこの緊張感の無さは?
なんか旅行かイベントの前日みたいな、ソワソワしつつも気軽な雰囲気なんだけど?
しかし、強盗や逆賊かぁ……。
組織レガリアの存在を知っているゴブトゴさんなら釈明の余地もあるけど、当主の家族や使用人の人から見たらマジで恐怖だろうな、俺達って。
「……あー。どうせ犯罪者扱いされるなら、領主達を縛っちゃおっか? 奴隷契約で。取調べも楽になるだろうし」
「ん……。恐らくスレイブシンボルの1件で、ゴブトゴ様はダンさんの奴隷商人の浸透を勘付いておられるとは思うんですけど……。領主たちを奴隷にしてしまうと、完全に言い逃れできなくなってしまいますよ、ね? シャーロット様」
「ですね。ラトリア様が心配される通り、ご主人様が奴隷契約を行使してしまうと面倒なことになりかねません。特にどこかの馬鹿が、鬼の首を取ったように騒ぎ立てるでしょうね」
あー……。確かに馬鹿殿下あたりは喜んでマウント取ってきそうだわぁ……。
やっぱり奴隷契約でみんなのことを性奴隷にしたんだろ! みたいなウザ絡みされそう。
……奴隷契約でみんなを無理矢理……っていうシチュエーションは結構燃えるけど?
「明日は領主たちの誘拐をスムーズに行なう為に、仕合わせの暴君も6パーティに分かれるよ。そうすれば領主とパーティ組んですぐに移動できるからね」
エロい妄想を振り払って、最終的な打ち合わせに入る。
明日は朝イチから、6手に分かれて各地の領主を拉致る。
領主以外にも何名かレガリアに参加している人も把握できているけど、今回はターゲットを領主に絞って、俺達家族だけで決行することになった。
エルフや守人たちなら手を貸してくれるだろうけれど、彼らに犯罪者になってもらうわけにはいかない。
全員がレガリアの参加者だとは限らない今は、俺たちが泥を被るしかないさ。
「さぁ明日は忙しくなるよーっ。万全を期すためにも、今日はえっちはお休みして休息を取ろうねー」
「おーっとダンよぉ! えっちしないなら、俺とチャールも一緒に寝て構わねぇよなぁっ!?」
……なんで毎回喧嘩口調でエロいことを口にするんだシーズはっ……!
ま、可愛い末っ子2人を起こすわけにはいかないから、今日は俺も自重してくれるよ、多分?
「我が家の家族が揃っていて、後衛のぼくが戦う機会があるとも思えないしね。だからさっきの甘いやつ、もうちょっとくれない?」
「完全に食い歩き旅行気分だよこの2人……。可愛いからあげちゃうけどさぁ……」
もぐもぐと料理を食べ続けるリーチェとフラッタを引っ張って奈落を脱出し、もっともっとと強請る2人に料理を与えながら、キュールとシャロのポータルで王国中のレガリアの拠点を見て回った。
料理が足りなくなったら各地で買い足して、フラッタとリーチェに燃料を補給しながらシャロたちが把握している拠点を全部回り、マグエルの自宅に帰ってきたのはまぁまぁ夜が更けてからだった。
「2人とも食べ過ぎでしょーっ! リーチェは全部の栄養がおっぱいにいってるにしても、ちっちゃくて可愛いフラッタのどこにあんな量の食べ物が入ってるの!?」
「……待ってダン。当然のように語ってるけど、栄養が全部おっぱいに行ってるってなにさーっ!?」
いやいやリーチェ。
抗議するのはいいんだけど、言い返す時におっぱいをぶるんって揺らしたら俺の言葉を裏付けちゃってるんだよ?
そしてフラッタは我関せずと、未だにほっぺをもぐもぐ動かしてるしぃ……。
「とりあえずみんなお疲れ様。これから少し話をしたいと思ってるんだけど、アウラとかチャールたちはまだ起きていられそうかな?」
「ん~……。まだ眠くないけど、話が長引いたら危ないかもぉ……?」
「私たちは全然平気かな? 職業浸透を進めてからは夜更かしもあまり苦にならないし」
「その上最近は誰かさんに強制的に眠らされてっからなぁ? 俺達の心配は要らねぇよ」
チャールとシーズが心配なし。アウラがちょっと不安なのね。
ということでアウラを呼んで膝の上に座らせて、ついでに未だに何か食べてるフラッタも抱っこして、眠くなったら自由に寝ていいよと前置きしてから話を始める。
「さて、無事にシャロとキュールの案内で分かっている限りのレガリアの拠点を回ってきたわけだけど……。正直どうするよ? 俺はちょっと頭を抱えたい気分なんだけどぉ……」
アウラとフラッタをよしよしなでなでしながらみんなに問うと、ラトリアやシャロの王国貴族組や、ティムルやリーチェのお姉さん組が揃ってフルフルと頭を振って長い息を吐いた。
どうやら俺と同じく、みんなも頭を抱えたい気分のようだ。
「いやぁ……。レガリアはそれなりにこの国に根付いているとは思っていたけどさぁ……。流石にここまでとはぼくも思ってなかったかなー……」
「お姉さんも同感よぉ……。まさかスペルド王国の街の領主、その殆どがレガリアに与してるとはねぇ……」
同時にはぁぁ~~……っと、盛大に溜め息を吐くティムルとリーチェ。
2人も予想以上のレガリアの侵食振りにゲンナリしてしまっているようだ。
シャロとキュールの2人が把握しているレガリアの拠点、それらを合わせたら、ほぼスペルド王国の全部の都市を回る事になってしまった。
案内をした2人ですらこの結果は予想していなかったようで、少しだけバツが悪そうな様子だ。
「レガリアを名乗り私の体を求めてきた殿方は数知れませんでしたけど……。改めて意識すると、私ってスペルドの殆どの男性貴族に体を許しているんですねぇ……」
「シャロさんやバルバロイ殿下どころか、先代の王シモン陛下がレガリアと関係していたんだよね? とすれば王国の人事なんて思うがままだよ。国を蝕むには頭を抑えればいいってね……」
シャロのことはあとで徹底的に上書きするにしても、コレは正直言って困った。
今回見て回った拠点を虱潰しに襲撃したら、スペルド王国が間違いなく破綻してしまうよぉ……。
マグエルやヴィアバタの領主すらレガリアに与してるらしいんだもん。流石に凹むわぁ……。
「俺のシャロと肌を重ねたってだけで王国中の男性貴族を皆殺しにしてやりたくもあるけど……。当然そうもいかないよね?」
「シャロの身も心も既にご主人様だけのものですから、どうか落ち着いてください」
態々近寄ってきて、俺の両手を自身のおっぱいに導くシャロ。
これが元の世界でちょいちょい目にした『大丈夫? おっぱい触る?』って奴ですかっ!?
「いくら無能者が多いとは言え、アレだけの数の領主家を一気に滅ぼしてしまうと、その影響は国民へ及んでしまいます。シャロが愛する殿方はご主人様だけですから気にしなくていいんですよーっ」
「ゴブトゴ様が過労で倒れてしまいますから、絶対に自重してくださいねダンさんっ!? 絶対ですよっ!?」
俺に登城を強いた際にヴァルハールを滅ぼしかけたのがトラウマになっているラトリアが、お願いだから落ち着いてくださいねーっ! と何度も念を押してくる。
ここでゴブトゴさんを引き合いに出すあたりが、ラトリアはやっぱ貴族だよなぁって感じるよ。
「それに各地の領主の全員が全員、積極的にレガリアの活動に参加していたとも限りません。短絡的な判断は禍根を残す事になりかねませんよ?」
「レガリアに与していながら組織の活動に参加していない? そんなことあるの?」
「うっ……! ぐ、具体的に聞かれるとお答え出来ないんですけどぉ……」
「ははっ。ラトリアらしいね」
勢いで俺を制止したようだけど、その理由までは上手く言語か出来ていないようだ。
ぐぬぬと縮こまるラトリアの姿に、ゲンナリしていた場の空気が少しだけ軽くなる。
「今のラトリアの意見、なんとなく無視しないほうがいい気がするね。みんな、今ラトリアが言ったようなケースって、ありえると思う?」
「レガリアに所属していながらレガリアとして活動しないケース、ねぇ……」
「レガリアってスペルド王国の足を引っ張る為に生まれた組織だけど、ヴィアバタの領主さんは本気でヴィアバタの将来を考えていたように思えるし、マグエルの領主もマグエルの発展を阻害したりしなかったよね? もしかしたら一枚岩じゃない可能性、あるんじゃないかなぁ?」
ヴィアバタの領主さんの熱意を嘘だとは思いたくない。
マグエルの領主には会ったことが無いけど、マグエルが賑い始めている事を喜んでくれていると信じたい。
大体にして今代のメナスであるノーリッテは、スペルド王国になんて何の執着も見せていなかったはずだ。
実質的な組織運営はゼノンという男に丸投げしていたとは言え、アイツがトップに立っていた期間のレガリアは他の時期のレガリアよりも、スペルド王国に対する憎悪が薄かったりしなかったんだろうか?
「殆どが人間族で構成されているレガリアの中枢に、魔人族のキュールを引き込んだ奴がトップだったんだ。組織レガリアだって揺らいでいたっておかしくないと思うんだ」
「ん……。確かにレガリアに与していたのはほぼ人間族の貴族のみ……。他種族の貴族は精々協力者、もしくは利用されるだけの存在だったはず。そんな組織で、最重要機密であろうマジックアイテムの開発に魔人族を起用するのはかなり異例でしょうね……」
「でもさぁ~、ノーリッテは殆ど表に出ていないって話だったよ? 組織への影響はさほど多くはなかったんじゃないかな?」
むー。シャロが俺に同意しかけてくれたけど、キュールがあっさりと否定してくるかー。
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会話が途切れたタイミングで、意外な人物が口を開く。
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「ヴァルゴ?」
「要するに旦那様は、王国の貴族を皆殺しにするのに抵抗がおありなんですよね? けれど組織レガリアの意志を継ぐ者を残しておくのも良くない、と」
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こんなどっちつかずのままじゃ、レガリアの残党掃除を決行するわけにはいかないんだよぅ。
「でしたら旦那様。殺さなきゃいいだけではないのですか?」
「……へ?」
ヴァルゴが軽く首を傾げながら当然のように言い放った言葉が理解できず、つい間抜けな反応を返してしまう。
殺さなきゃいいって……。殺さなくていいならそれに越した事は無いって話だよ?
だけど殺さなきゃいけない相手と殺さなくていい相手の選別なんて、いったいどうやったらって話を……。
「いやいや。なんで襲撃した拠点を皆殺しにする前提で話を進めてるんですか。私たちの力量なら、相手を殺さずに無力化することも容易いでしょう?」
「…………あ」
「今までの相手が魔物ばかりだったから排除イコール殺害と結び付いてしまったのかもしれませんけど、判断がつかないのであれば無力化、制圧だけを先に済ませてしまって、取調べは時間をかけて行なってもいいんじゃないですか?」
不思議そうに首を嗅げるヴァルゴの様子に、サッと血の気が引いてしまう。
ヤ、ヤバい……。本当に自然に、排除イコール殺害と想定しながら話を進めてたよ……!
出来ればマグエルやヴィアバタの領主は殺したくないって……。
そもそも何処の領主も殺さずに捕えればいいだけだったんじゃん! 俺、馬鹿すぎかっ!?
「んー。私もついつい相手を殺すことばかり考えちゃってたのー。レガリアとは全力で死闘を繰り広げてきたから、生かして捕えるって発想が無かったなー」
「そ、それを1番気軽に手を血で染められるヴァルゴに指摘されちゃうなんてぇ……。お姉さん、いつの間にか随分物騒な考えになっちゃってたわぁ……」
「「すぅ……すぅ……」」
ニーナとティムルがあちゃーとばかりに額に手を当てて悩む傍ら、俺の腕の中ではアウラとフラッタの末っ子コンビが仲良く寝息を立てていた。
アウラは予告されてたけど、フラッタぁ……。お前、三大欲求の権化かよぉ……?
話し合いが終わったら、残る1つの欲求も思い切り解消してあげなきゃいけないなぁっ。
「ぼくは精霊魔法で相手を無力化するのは得意だよ。1人旅の間、暴漢を撃退することも少なくなかったしね」
「私も対人戦には不安はありません。スペルディアの王宮騎士たちに稽古をつけるよりずっと楽でしょう」
リーチェとラトリアが、相手を殺さず無力化するのは任せろと、魅力的なおっぱいをどーんと張ってくれる。
しっかし精霊魔法で相手を無力化って……。
もしかしなくても呼吸を阻害するんだろうか? え、えげつねぇ~……。
「私はまだ少し不安は残りますけど、殺せと言われるよりはとても気が楽ですよ。子供達の未来を守るためならこの手を血に染めることも厭いませんけど、やっぱりできるだけ人を手にかけたくはないですからねっ」
「あははっ! 私も皆殺しにする考えしか頭に浮かばなかったのっ! 私もすっかりダンさんに染められちゃったのーっ」
「ヴァルゴさんに同行するとなると、正直私には荷が重いですが……。その分学べるものも多そうです。ワクワクしてしまいますねっ」
本音では人を殺めたくないと笑うムーリと、すっかり上書きが済んだことを笑うターニア。
そしてヴァルゴとペアで行動する予定のエマは、実力不足を憂いながらも挑戦的な表情を浮かべている。
相手を殺さなくていいとなった途端に、みんなすっかりやる気に満ちてしまったようだ。
この世界って殺伐としているけれど、魔物という脅威が存在するおかげで、対人戦を避けようと思えばトコトン避けられるんだよな。
戦えるみんなの手を汚させたくないってのは俺のエゴかもしれないけれど、みんなも望んでいないのならなるべく綺麗なままでいて欲しいね。
「えーっと。全部で6組に分けるのよね? ダンはシャロとキュール、チャールとシーズと一緒に回るわけだし」
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「今回は資料の回収作業はしなくていいんだよねー? 私も母さんも、何が重要な資料とか分かんないのー」
「ええ。今回は領主の確保に目標を絞りましょ。家人の前で資料や書類を持ち出したら、私たちのほうが強盗になっちゃうからねー」
「ティムル……それは流石に今更過ぎませんか? 各地を襲撃して回る時点で、私たちは国家転覆を狙う逆賊みたいな扱いをされると思いますけど」
……なんだろうなぁこの緊張感の無さは?
なんか旅行かイベントの前日みたいな、ソワソワしつつも気軽な雰囲気なんだけど?
しかし、強盗や逆賊かぁ……。
組織レガリアの存在を知っているゴブトゴさんなら釈明の余地もあるけど、当主の家族や使用人の人から見たらマジで恐怖だろうな、俺達って。
「……あー。どうせ犯罪者扱いされるなら、領主達を縛っちゃおっか? 奴隷契約で。取調べも楽になるだろうし」
「ん……。恐らくスレイブシンボルの1件で、ゴブトゴ様はダンさんの奴隷商人の浸透を勘付いておられるとは思うんですけど……。領主たちを奴隷にしてしまうと、完全に言い逃れできなくなってしまいますよ、ね? シャーロット様」
「ですね。ラトリア様が心配される通り、ご主人様が奴隷契約を行使してしまうと面倒なことになりかねません。特にどこかの馬鹿が、鬼の首を取ったように騒ぎ立てるでしょうね」
あー……。確かに馬鹿殿下あたりは喜んでマウント取ってきそうだわぁ……。
やっぱり奴隷契約でみんなのことを性奴隷にしたんだろ! みたいなウザ絡みされそう。
……奴隷契約でみんなを無理矢理……っていうシチュエーションは結構燃えるけど?
「明日は領主たちの誘拐をスムーズに行なう為に、仕合わせの暴君も6パーティに分かれるよ。そうすれば領主とパーティ組んですぐに移動できるからね」
エロい妄想を振り払って、最終的な打ち合わせに入る。
明日は朝イチから、6手に分かれて各地の領主を拉致る。
領主以外にも何名かレガリアに参加している人も把握できているけど、今回はターゲットを領主に絞って、俺達家族だけで決行することになった。
エルフや守人たちなら手を貸してくれるだろうけれど、彼らに犯罪者になってもらうわけにはいかない。
全員がレガリアの参加者だとは限らない今は、俺たちが泥を被るしかないさ。
「さぁ明日は忙しくなるよーっ。万全を期すためにも、今日はえっちはお休みして休息を取ろうねー」
「おーっとダンよぉ! えっちしないなら、俺とチャールも一緒に寝て構わねぇよなぁっ!?」
……なんで毎回喧嘩口調でエロいことを口にするんだシーズはっ……!
ま、可愛い末っ子2人を起こすわけにはいかないから、今日は俺も自重してくれるよ、多分?
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