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8章 新たな王と新たな時代2 亡霊と王
619 人材 (改)
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「ドワーフ族がこの地を目指す前の資料や記録は、その一切が残っておらんからなぁ……」
あまり期待はしていなかったけれど、やはりカイメンからも有用な情報は得られなかった。
カイメンの話を聞き終えた俺達は、さっさと転職施設を後にする。
暫定的にとは言えドワーフの代表になったカイメンも色々と忙しいらしいし、ゴツい男でごった返している場所に可愛い奥さんを置いておきたくないからなっ。
「あ、ごめんみんな。奈落に行く前に中継都市に寄っていいかな?」
そう言えばクラメトーラへの物資輸送を始めようと思っていた事を思い出したので、忘れないうちに話を進めておこう。
それにキャリアさんにお世話になる事も多いし、家族の事は全員紹介しておきたい。
「キャリアさんにみんなのことを紹介がてら、クラメトーラへの物資の搬送を始めてもらおうと思ってさ。ちょっとだけ付き合ってくれる?」
「中継都市? キャリアさん? ……って、誰?」
「つうか、クラメトーラへの物資の搬送ってなんだよ……? なんかまたとんでもないこと言い出してんな……」
「あ、そっか。チャールとシーズは中継都市に行ったことも無ければ、キャリアさんとも面識は無いんだ?」
キャリアさんはティムルの師匠で、トライラムフォロワーに協力してくれているシュパイン商会のトップだよーっとザックリ説明しただけで、2人はどれ程凄い人物なのかを察してくれたようだ。
でも2人とも。ティムルの師匠って言っても戦闘面の話じゃなくて、商人としての話だからね?
ほえ~っと感心しているチャールとシーズの一方で、シャロとキュールは期待に膨らんだおっぱいをむぎゅむぎゅと押し付けてきてくれる。
「ふふ。中継都市に足を運ぶのは私も楽しみです。あそこは今マグエル、アルフェッカと並んで、この王国内で最も賑っている場所の1つでしょうからね?」
「中継都市にはリーチェさん以外のエルフが沢山居るんだよね? 邪神出現前から生きていた彼らに、是非話を聞かせてもらいたいなぁっ」
「仕事の邪魔にならない程度に自重してねキュール? 一応エルフたちには協力をお願いしてる立場だから」
勿論節度は弁えているさと胸を張るキュールの姿に、なんか逆に不安になってしまうのは何故だろうな?
けれど楽しげなシャロとキュールの姿に、チャールとシーズも段々期待感が高まってきたようだ。
「へへっ! シャロさんとキュールさんを見てたら、俺も中継都市に行くのが楽しみになってきたぜっ! ダン、早く行こうぜっ!」
「了解お姫様。それじゃこのままエスコートさせていただきますねー」
お姫様呼びに真っ赤になって固まるシーズにキスをして、4人と共に中継都市に向かって転移した。
シーズのおかげですっかりデート気分だよ。ありがとね。ちゅっちゅっ。
「は~……。流石ご主人様が関わっている場所です。スペルディアにも負けない活気を感じますねぇ」
中継都市を目の当たりにしたシャロが、感心したようにうんうんと頷いている。
転移先の中継都市は都市の周囲に城壁の工事が始まっており、なんだか実際以上に規模が大きい都市に感じられてしまう。
中継都市は大勢の人が忙しなく動き回っていて、既にかなりの人が出入りしているように見えた。
「うわーっ!? あっちに見えるのってグルトヴェーダ山岳地帯だよねっ!? なのに少しだけど緑が見えるよ!?」
「賑ってんなーっ! 流石にマグエルほどの人では無さそうだけど、活気だけならこっちの方が上なんじゃねぇかっ!?」
チャールとシーズが初めて訪れる中継都市の様子を見て、ねぇねぇと興奮気味に話しかけてくる。
こういうところはまだ子供っぽくて可愛いなぁ。
「ごめんね2人とも。街を見て回るのはまた今度、観光は機会を改めてからにしよう」
はしゃぐ2人を抱き寄せて、お詫び代わりに軽く唇を合わせる。
このあとレガリア掃討作戦の打ち合わせもしなきゃいけないし、何気に今日は忙しいんだよー。
「あ、いっそここでデートする約束しておこっか? これからもどんどん賑っていく場所だろうし、改めてまた足を運ぶのも楽しそうだよね」
「そんなの約束するに決まってんだろ!? 絶対だぞ!? 絶対約束だからなーっ!?」
「デ、デートかぁ……。うわぁ、めちゃくちゃえっちなことされちゃいそう……」
「えっちなことはデートじゃなくてもめちゃくちゃするから心配しないで。それじゃいくよみんな。キャリアさん、居ればいいんだけど」
みんなにちゅっちゅっとキスをして、恥ずかしがってキスを嫌がるキュールとは少し長めに舌を絡めてから、中継都市の開発拠点となっている場所に足を運んだ。
さぁて、キャリアさんは中継都市に居てくれるかな?
キャリアさんはバリバリ働く人だから、ここにいるって確定してないのが辛いところだ。
「まったく、ティムルがいないと先触れも出せないの、ダンさんはっ!?」
俺の心配も甲斐も無く、キャリアさんは建設の陣頭指揮を取っていた。
けれどバリバリと働きすぎていて直ぐには現場を離れられず、多少待たされる事になってしまった。
待っている間にお茶と軽食をお願いして、シャロとシーズに交替で食べさせてもらう。もぐもぐ。
キャリアさんがいつ来るかは分からないので、俺の両手は健全に2人の腰を抱き寄せるに留めております。
「ほらダン、口開けなって! 美味いかー?」
「美味しいよー。シーズに食べさせてもらうとより一層美味しいねー」
「ははっ、こういうのも案外楽しいなっ!? ほらダン、あーんっ」
「ほらほらシーズさん。まだご主人様の口の中に食べ物が残ってますよ。楽しいのは分かりますけど落ち着いてください」
どんどん俺の口に食べ物を突っ込もうとしてくるシーズと、それをやんわり制止してくれるシャロ。
俺を挟んで2人がじゃれ合うの、物凄く楽しくて仕方ないなーっ?
「んー? あんまり食べたこと無い味だね? というか何の料理なのかも分からないなぁ? キュールさんは分かる?」
「ん、これは私も食べたことが無いね。チャールの言う通り、確かにダンさんの家でも口にした記憶が無いよ。いったい何の料理なんだろう?」
「それはエルフ達が持ち込んだ食材よ。エルフェリアに残ってる森の恵みを分けてくれてるの」
馴染みの無い料理にチャールとキュールが首を傾げていると、タイミングよく入ってきたキャリアさんが2人の疑問に答えてくれた。
森の恵みと言うだけあって果実が多いな。
けれど全てが甘いと言うわけでもなく、特別に甘党というわけじゃない俺が食べても普通に美味しい。
「エルフェリア精霊国の森の大半は吹き飛ばしちゃったけど、まだ外と共有できるくらいの恵みはあるんだね?」
「エルフたちは人口が少ないし、エルフェリア精霊国にあった森は広大だったみたいだからね。エルフたちの言い分を信じるなら、かつてはスペルド王国全体と同規模の森が広がってたそうだから、まだまだ余裕があるみたいよ?」
そんな広大な森の大部分を吹き飛ばしたダンさんのほうが意味分からないわよとボヤきながら、俺達用に用意してもらった料理に手を伸ばすキャリアさん。
この人のことだから、寝食を忘れて建設指揮を執っていたのかもねぇ。
「しっかし、まさか初対面の女を4人も同行させてくるとは思わなかったわよぉ……? みんな新しい奥さんなのかしら?」
「もっちろん! 4人とも俺の可愛いお嫁さんだよーっ」
疲れたように問いかけてくるキャリアさんに、簡単に4人を紹介する。
いくら俺でも、キャリアさんとの話に部外者を介入させる気は無いってばぁ。
「種族も年齢もバラバラ。そっちの2人なんてまだ子供じゃないの……。チャールとシーズだっけ。アンタたち幾つ?」
「んー? 私たちは14歳だよ。貴女がキャリアさん?」
「ええ。私がキャリアよ、宜しくね。貴女達もダンさんの奥さんなら、これから長~い付き合いになると思うから」
ニコッと笑って自己紹介したキャリアさんは、そのままチャールとシーズの頭を優しく撫でながら挨拶してくれた。
ティムルに対しては結構厳しい態度を取っているイメージがあるキャリアさんだけど、実は子供好きなのかな?
……既に手を出しているチャールとシーズを子供と言ってしまったことで、地味にセルフダメージを負ってしまいそうだ?
「シャーロット第1王女殿下に、元ヴェルモート帝国所属の歴史学者。そして15歳未満の2人とか、どっかのエロジジイなんて目じゃない色男っぷりねぇ? しかも1年かそこらでこのペースでしょ? 最終的にはいったい何人になるのかしらぁ?」
「ま、どっかのジジイみたいに、先に一緒になった家族を放り出したりする気は無いけどねー。可愛いみんなの事は生涯独占しちゃうつもりだよっ」
「あっはっは! 女は幸せだろうけど、男からは妬まれそうだねぇ!? 綺麗どころをぜーんぶかっ攫っていっちゃうんだから!」
俺と会話しているといつも疲れた表情ばかりを見せるキャリアさんが、今日は随分上機嫌な様子だな?
いや、そもそもキャリアさんって俺にはそんなに当たりが強いわけじゃなかったか。
キャリアさんの休憩も兼ねて軽食を食べながら暫し歓談したあと、グルトヴェーダへの物資輸送を本格的に始めたい旨を伝える。
「あ~……。準備が出来ているとも言えるし、出来ていないとも言えるわねぇ……。一応全力で準備していたつもりだったけど、それを更に上回ってきたかぁ……」
「えっと……具体的にはどういうことかな?」
「輸送を始めることは可能。けれど想定していた規模の輸送隊を組むには準備不足ってことよ~……」
お疲れ気味のキャリアさんにもう少し詳しく話を聞いてみると、輸送を担当する予定のクリミナスワークスたちの職業浸透は順調で、既に全員が行商人の浸透を開始しているそうだ。
けれど俺の要請が予定より早すぎて、浸透が早い者でもまだ荷運び人を浸透させている最中なのだそうだ。
「輸送中も安全じゃないから、クリミナスワークスの連中に戦闘訓練もさせてるんだけどねぇ。訓練を中断してでも職業浸透を優先したほうがいい?」
「いや、安全性を考慮するなら戦闘訓練を中断して欲しくないな。噂を聞きつけた野盗なんかも襲ってくるかもしれないからね」
一刻も早くクラメトーラに物資を送り込みたいとは言え、その為に危険を冒すのは違うだろう。
いくら1度は犯罪奴隷に落ちたとは言え、家族の為に社会復帰を目指す連中を危険に晒すわけにはいかない。
でも物資の輸送は出来ればもう始めたいんだよな。
ならどうすればいいだろう?
「そうだなぁ……。犯罪奴隷の家族の中にポータルを使える人は増えてる?」
「ええ。主人や父親が移動魔法を習得出来ないのを知って、その家族が率先して冒険者を目指してくれたからね。それなりの人数は揃えられたと思ってるわ」
犯罪奴隷の家族たちも、かつて家族の負担を夫や父親1人に背負わせてしまった事を反省し、積極的に職業浸透を進めてくれたそうだ。
戦えない者も職業浸透を進められるシステム作りは既に済んでいたので、トライラムフォロワーや家族に護衛されて旅人を浸透させ、冒険者になった人が沢山いるらしい。
「家族たちからは戦闘技術を学ぶ人はそんなに出てないけどね。お金の管理が楽になる旅人はかなり人気よ。商人も浸透させて行商人になりたいって人も少なくないみたい」
「なるほど、報告ありがとう。クリミナスワークスが荷物を運搬することは可能。だけどスピードや量がまだ不十分ってとこかぁ」
重量軽減スキルは行商人のものだけでも強力だけど、持久力と敏捷性がまだ足りてないか。
だけどなるべく早い段階でクラメトーラに大量の物資を届けてあげたいんだよな。
ポータルでは運べない量の物資の山を見れば、貧困に喘ぐ一般のドワーフたちがクラメトーラの外に興味を抱いてくれるきっかけにもなるだろうし……。
「ちなみに、明日から物資輸送を開始してって言ったら可能かな?」
「ふふんっ。可能に決まってるでしょ。ダンさんからいつ号令がかかるか分からなかったから、逆にいつでも大丈夫なように馬車も物資も手配済みよっ」
クリミナルワークスの職業浸透以外の手配は既に全て済ませていてくれたようだ。
そもそもクリミナルワークスの職業浸透速度も尋常ではないんだけどな。
俺がそういう都合を一切合財無視しているのが悪いだけで?
「さっすがキャリアさん。それじゃ明日……は1日休ませて、明後日から物資の輸送を開始してもらおうかな?」
記念すべき第1回目の物資輸送は、駆り出せる人員を全て動員して、最大量の物資を輸送してもらおう。
メインの運び手となるクリミナルワークスには大量の物資が積まれた馬車を人力で引いてグルトヴェーダを超えてもらうことになるのだけど、行商人の浸透が済んでいれば負担はそこまで大きくはないはずだ。
「輸送隊には必ず2人以上冒険者も同行してもらって、日没と夜明けを合図に交代して、夜通し輸送を継続してもらいたいんだ」
クリミナルワークスを4グループに分けて、2グループで日勤と夜勤を担当し2グループは休むという2シフト体制を取ろう。
旅人と行商人の持久力補正があれば、苛酷な運搬に耐えうる体力も充分のはずだ。
「夜間も行軍させるのはちょっと可哀想だけど、仮に夜休ませたって荷物の護衛は必要だからね。ならいっそ進ませた方がいいでしょ」
「ま、街から通いでグルトヴェーダを超えようなんて、相変わらず発想が狂ってるねぇ……?」
竜王が道を拓いてくれた事を知っているはずのキャリアさんだけど、それでも長年抱いてきた常識を振り払って物を考えるのは難しそうだ。
反骨の気炎と薄明の瑞雲が楽すぎて逆に辛かったって試走の報告をあげたの、キャリアさんだって知ってる筈なんだけどなー。
「ちょっと待って……。えっと、4グループに分けるとなると、引ける馬車は10台弱になると思うわ。こんな規模でも平気かしら?」
「うん。今回はそれでいいよ。休みのグループも体力的に余裕がありそうなら、休みのうちに浸透を進めさせて欲しいかな。これは無理強いさせないように徹底して欲しい」
休日も別の作業に従事させるなんてブラック労働もいいところだけれど、職業浸透が進むほどに輸送している本人が楽になっていくハズだからな。
仮に行商人の浸透終えて荷運び人に転職出来たら、重量軽減の大効果スキルを習得できて輸送が一気に捗ってくれることだろう。
「無理強いするな、ねぇ……。普通そこは無理矢理浸透を進めろっていうとこじゃないの? 相変わらず奴隷の扱いにはとても思えないわぁ……」
「……沢山の商人を育ててるキャリアがそんなことに疑問を持つとは思えないけど、人材ってのは宝だからね。今まで育成に投じた時間を費用を無駄にするのは馬鹿のやることでしょ。長く使うほどに性能だって良くなっていくっていうのにさ」
「あははっ! 相変わらず悪ぶるわねぇ?」
やはり俺の事を試していたらしいキャリアさんは、俺の答えに満足したのか笑いながらからかってくる。
別に悪ぶっているつもりじゃなくて、自分の所有物は大切に扱いたいってだけなんだけどな。
「でもその通りよ。奴隷だからと使い潰すのは最悪の運用方法。奴隷たちは道具であり人でもあるのだから、磨けば磨くほど性能を向上させてくれるわ。人材は長く大事に扱ってこそ、よね」
「使い潰す気は無いけど、運用に躊躇う気も無いよ。状況的に仕方なかった部分もあったけど、クリミナルワークスは間違いなく犯罪者なんだからね。精々働かせて償ってもらうさ」
あいつらが犯罪奴隷になってしまった事実はどうやっても消えないけれど、なら犯罪奴隷のままで幸せになる道を模索すればいいだけだ。
家族だって協力してくれているんだから、いくらだってやりようはあるだろ。
その後、キャリアさんともう少し物資輸送の打ち合わせをする。
その結果、輸送する物資の費用は俺が出す予定だったけれど、全額シュパイン商会の持ち出しで賄われる事になった。
俺が出資すると輸送した物資の売り上げは俺のものになってしまうけれど、シュパイン商会の出資ならばシュパイン商会が総取りすることが出来る。
ということで今回は、こんな儲け話をみすみす見逃すわけにはいかないよっ! と意気込むキャリアさんのご厚意に甘える事にした。
「まったくダンさんに付き合うようになってから、次から次へと本当に気の休まる暇も無いよ。中継都市の建設が終わったら多少はのんびりさせてもらいたいわねぇ?」
「今のところはもう何も予定は無いよー。これ以上は人口が増えてくれないとどうしようもないんじゃない?」
「ダンさんの語る『どうしようも無い』ほど信用出来ない言葉も無いと思うわよ? 嘘を吐いてるつもりは無いんでしょうけどね?」
肩を竦めながら、チャールとシーズにお土産のお菓子を持たせるキャリアさん。
笑顔でお礼を言う2人の頭を撫でながら、疲れた様子で2人に問いかける。
「たまに会う私ですら身が持たないんだけど、貴女たちは妻として一緒に居て平気なの? 疲れない?」
「いやぁ……。ベッドの上のほうがヘトヘトにされちゃうから、疲れる暇も無いかなぁ……」
「ま、疲れると言えば疲れるよなぁ……。1度始めると、ダンってばずーっと離してくれねぇしさっ」
「ダンさん……。こんな若い子にあまり無理されるんじゃないわよ?」
2人の口から漏れだした我が家の寝室事情に、キャリアさんがジトーッとした冷たい視線を向けてくる。
チャールとシーズが笑顔のおかげで、それ以上は言及してこなかったけど。
俺も2人に無理させるのは心苦しいとは思ってるんだよ?
でもチャールもシーズも可愛いから、沢山可愛がってあげたくなっちゃうんだよねー。
キャリアさんにひたすら撫でられているチャールとシーズを抱き寄せて、ゆっくりと席を立つ。
キャリアさんの言う通りこの2人に無理をさせない為に、えっちな気分になる前に他のみんなと合流しなくっちゃね!
だからシャロ。背中におっぱいを押し付けたり耳元に吐息を吹きかけるの、今は止めて欲しいんだよー?
あまり期待はしていなかったけれど、やはりカイメンからも有用な情報は得られなかった。
カイメンの話を聞き終えた俺達は、さっさと転職施設を後にする。
暫定的にとは言えドワーフの代表になったカイメンも色々と忙しいらしいし、ゴツい男でごった返している場所に可愛い奥さんを置いておきたくないからなっ。
「あ、ごめんみんな。奈落に行く前に中継都市に寄っていいかな?」
そう言えばクラメトーラへの物資輸送を始めようと思っていた事を思い出したので、忘れないうちに話を進めておこう。
それにキャリアさんにお世話になる事も多いし、家族の事は全員紹介しておきたい。
「キャリアさんにみんなのことを紹介がてら、クラメトーラへの物資の搬送を始めてもらおうと思ってさ。ちょっとだけ付き合ってくれる?」
「中継都市? キャリアさん? ……って、誰?」
「つうか、クラメトーラへの物資の搬送ってなんだよ……? なんかまたとんでもないこと言い出してんな……」
「あ、そっか。チャールとシーズは中継都市に行ったことも無ければ、キャリアさんとも面識は無いんだ?」
キャリアさんはティムルの師匠で、トライラムフォロワーに協力してくれているシュパイン商会のトップだよーっとザックリ説明しただけで、2人はどれ程凄い人物なのかを察してくれたようだ。
でも2人とも。ティムルの師匠って言っても戦闘面の話じゃなくて、商人としての話だからね?
ほえ~っと感心しているチャールとシーズの一方で、シャロとキュールは期待に膨らんだおっぱいをむぎゅむぎゅと押し付けてきてくれる。
「ふふ。中継都市に足を運ぶのは私も楽しみです。あそこは今マグエル、アルフェッカと並んで、この王国内で最も賑っている場所の1つでしょうからね?」
「中継都市にはリーチェさん以外のエルフが沢山居るんだよね? 邪神出現前から生きていた彼らに、是非話を聞かせてもらいたいなぁっ」
「仕事の邪魔にならない程度に自重してねキュール? 一応エルフたちには協力をお願いしてる立場だから」
勿論節度は弁えているさと胸を張るキュールの姿に、なんか逆に不安になってしまうのは何故だろうな?
けれど楽しげなシャロとキュールの姿に、チャールとシーズも段々期待感が高まってきたようだ。
「へへっ! シャロさんとキュールさんを見てたら、俺も中継都市に行くのが楽しみになってきたぜっ! ダン、早く行こうぜっ!」
「了解お姫様。それじゃこのままエスコートさせていただきますねー」
お姫様呼びに真っ赤になって固まるシーズにキスをして、4人と共に中継都市に向かって転移した。
シーズのおかげですっかりデート気分だよ。ありがとね。ちゅっちゅっ。
「は~……。流石ご主人様が関わっている場所です。スペルディアにも負けない活気を感じますねぇ」
中継都市を目の当たりにしたシャロが、感心したようにうんうんと頷いている。
転移先の中継都市は都市の周囲に城壁の工事が始まっており、なんだか実際以上に規模が大きい都市に感じられてしまう。
中継都市は大勢の人が忙しなく動き回っていて、既にかなりの人が出入りしているように見えた。
「うわーっ!? あっちに見えるのってグルトヴェーダ山岳地帯だよねっ!? なのに少しだけど緑が見えるよ!?」
「賑ってんなーっ! 流石にマグエルほどの人では無さそうだけど、活気だけならこっちの方が上なんじゃねぇかっ!?」
チャールとシーズが初めて訪れる中継都市の様子を見て、ねぇねぇと興奮気味に話しかけてくる。
こういうところはまだ子供っぽくて可愛いなぁ。
「ごめんね2人とも。街を見て回るのはまた今度、観光は機会を改めてからにしよう」
はしゃぐ2人を抱き寄せて、お詫び代わりに軽く唇を合わせる。
このあとレガリア掃討作戦の打ち合わせもしなきゃいけないし、何気に今日は忙しいんだよー。
「あ、いっそここでデートする約束しておこっか? これからもどんどん賑っていく場所だろうし、改めてまた足を運ぶのも楽しそうだよね」
「そんなの約束するに決まってんだろ!? 絶対だぞ!? 絶対約束だからなーっ!?」
「デ、デートかぁ……。うわぁ、めちゃくちゃえっちなことされちゃいそう……」
「えっちなことはデートじゃなくてもめちゃくちゃするから心配しないで。それじゃいくよみんな。キャリアさん、居ればいいんだけど」
みんなにちゅっちゅっとキスをして、恥ずかしがってキスを嫌がるキュールとは少し長めに舌を絡めてから、中継都市の開発拠点となっている場所に足を運んだ。
さぁて、キャリアさんは中継都市に居てくれるかな?
キャリアさんはバリバリ働く人だから、ここにいるって確定してないのが辛いところだ。
「まったく、ティムルがいないと先触れも出せないの、ダンさんはっ!?」
俺の心配も甲斐も無く、キャリアさんは建設の陣頭指揮を取っていた。
けれどバリバリと働きすぎていて直ぐには現場を離れられず、多少待たされる事になってしまった。
待っている間にお茶と軽食をお願いして、シャロとシーズに交替で食べさせてもらう。もぐもぐ。
キャリアさんがいつ来るかは分からないので、俺の両手は健全に2人の腰を抱き寄せるに留めております。
「ほらダン、口開けなって! 美味いかー?」
「美味しいよー。シーズに食べさせてもらうとより一層美味しいねー」
「ははっ、こういうのも案外楽しいなっ!? ほらダン、あーんっ」
「ほらほらシーズさん。まだご主人様の口の中に食べ物が残ってますよ。楽しいのは分かりますけど落ち着いてください」
どんどん俺の口に食べ物を突っ込もうとしてくるシーズと、それをやんわり制止してくれるシャロ。
俺を挟んで2人がじゃれ合うの、物凄く楽しくて仕方ないなーっ?
「んー? あんまり食べたこと無い味だね? というか何の料理なのかも分からないなぁ? キュールさんは分かる?」
「ん、これは私も食べたことが無いね。チャールの言う通り、確かにダンさんの家でも口にした記憶が無いよ。いったい何の料理なんだろう?」
「それはエルフ達が持ち込んだ食材よ。エルフェリアに残ってる森の恵みを分けてくれてるの」
馴染みの無い料理にチャールとキュールが首を傾げていると、タイミングよく入ってきたキャリアさんが2人の疑問に答えてくれた。
森の恵みと言うだけあって果実が多いな。
けれど全てが甘いと言うわけでもなく、特別に甘党というわけじゃない俺が食べても普通に美味しい。
「エルフェリア精霊国の森の大半は吹き飛ばしちゃったけど、まだ外と共有できるくらいの恵みはあるんだね?」
「エルフたちは人口が少ないし、エルフェリア精霊国にあった森は広大だったみたいだからね。エルフたちの言い分を信じるなら、かつてはスペルド王国全体と同規模の森が広がってたそうだから、まだまだ余裕があるみたいよ?」
そんな広大な森の大部分を吹き飛ばしたダンさんのほうが意味分からないわよとボヤきながら、俺達用に用意してもらった料理に手を伸ばすキャリアさん。
この人のことだから、寝食を忘れて建設指揮を執っていたのかもねぇ。
「しっかし、まさか初対面の女を4人も同行させてくるとは思わなかったわよぉ……? みんな新しい奥さんなのかしら?」
「もっちろん! 4人とも俺の可愛いお嫁さんだよーっ」
疲れたように問いかけてくるキャリアさんに、簡単に4人を紹介する。
いくら俺でも、キャリアさんとの話に部外者を介入させる気は無いってばぁ。
「種族も年齢もバラバラ。そっちの2人なんてまだ子供じゃないの……。チャールとシーズだっけ。アンタたち幾つ?」
「んー? 私たちは14歳だよ。貴女がキャリアさん?」
「ええ。私がキャリアよ、宜しくね。貴女達もダンさんの奥さんなら、これから長~い付き合いになると思うから」
ニコッと笑って自己紹介したキャリアさんは、そのままチャールとシーズの頭を優しく撫でながら挨拶してくれた。
ティムルに対しては結構厳しい態度を取っているイメージがあるキャリアさんだけど、実は子供好きなのかな?
……既に手を出しているチャールとシーズを子供と言ってしまったことで、地味にセルフダメージを負ってしまいそうだ?
「シャーロット第1王女殿下に、元ヴェルモート帝国所属の歴史学者。そして15歳未満の2人とか、どっかのエロジジイなんて目じゃない色男っぷりねぇ? しかも1年かそこらでこのペースでしょ? 最終的にはいったい何人になるのかしらぁ?」
「ま、どっかのジジイみたいに、先に一緒になった家族を放り出したりする気は無いけどねー。可愛いみんなの事は生涯独占しちゃうつもりだよっ」
「あっはっは! 女は幸せだろうけど、男からは妬まれそうだねぇ!? 綺麗どころをぜーんぶかっ攫っていっちゃうんだから!」
俺と会話しているといつも疲れた表情ばかりを見せるキャリアさんが、今日は随分上機嫌な様子だな?
いや、そもそもキャリアさんって俺にはそんなに当たりが強いわけじゃなかったか。
キャリアさんの休憩も兼ねて軽食を食べながら暫し歓談したあと、グルトヴェーダへの物資輸送を本格的に始めたい旨を伝える。
「あ~……。準備が出来ているとも言えるし、出来ていないとも言えるわねぇ……。一応全力で準備していたつもりだったけど、それを更に上回ってきたかぁ……」
「えっと……具体的にはどういうことかな?」
「輸送を始めることは可能。けれど想定していた規模の輸送隊を組むには準備不足ってことよ~……」
お疲れ気味のキャリアさんにもう少し詳しく話を聞いてみると、輸送を担当する予定のクリミナスワークスたちの職業浸透は順調で、既に全員が行商人の浸透を開始しているそうだ。
けれど俺の要請が予定より早すぎて、浸透が早い者でもまだ荷運び人を浸透させている最中なのだそうだ。
「輸送中も安全じゃないから、クリミナスワークスの連中に戦闘訓練もさせてるんだけどねぇ。訓練を中断してでも職業浸透を優先したほうがいい?」
「いや、安全性を考慮するなら戦闘訓練を中断して欲しくないな。噂を聞きつけた野盗なんかも襲ってくるかもしれないからね」
一刻も早くクラメトーラに物資を送り込みたいとは言え、その為に危険を冒すのは違うだろう。
いくら1度は犯罪奴隷に落ちたとは言え、家族の為に社会復帰を目指す連中を危険に晒すわけにはいかない。
でも物資の輸送は出来ればもう始めたいんだよな。
ならどうすればいいだろう?
「そうだなぁ……。犯罪奴隷の家族の中にポータルを使える人は増えてる?」
「ええ。主人や父親が移動魔法を習得出来ないのを知って、その家族が率先して冒険者を目指してくれたからね。それなりの人数は揃えられたと思ってるわ」
犯罪奴隷の家族たちも、かつて家族の負担を夫や父親1人に背負わせてしまった事を反省し、積極的に職業浸透を進めてくれたそうだ。
戦えない者も職業浸透を進められるシステム作りは既に済んでいたので、トライラムフォロワーや家族に護衛されて旅人を浸透させ、冒険者になった人が沢山いるらしい。
「家族たちからは戦闘技術を学ぶ人はそんなに出てないけどね。お金の管理が楽になる旅人はかなり人気よ。商人も浸透させて行商人になりたいって人も少なくないみたい」
「なるほど、報告ありがとう。クリミナスワークスが荷物を運搬することは可能。だけどスピードや量がまだ不十分ってとこかぁ」
重量軽減スキルは行商人のものだけでも強力だけど、持久力と敏捷性がまだ足りてないか。
だけどなるべく早い段階でクラメトーラに大量の物資を届けてあげたいんだよな。
ポータルでは運べない量の物資の山を見れば、貧困に喘ぐ一般のドワーフたちがクラメトーラの外に興味を抱いてくれるきっかけにもなるだろうし……。
「ちなみに、明日から物資輸送を開始してって言ったら可能かな?」
「ふふんっ。可能に決まってるでしょ。ダンさんからいつ号令がかかるか分からなかったから、逆にいつでも大丈夫なように馬車も物資も手配済みよっ」
クリミナルワークスの職業浸透以外の手配は既に全て済ませていてくれたようだ。
そもそもクリミナルワークスの職業浸透速度も尋常ではないんだけどな。
俺がそういう都合を一切合財無視しているのが悪いだけで?
「さっすがキャリアさん。それじゃ明日……は1日休ませて、明後日から物資の輸送を開始してもらおうかな?」
記念すべき第1回目の物資輸送は、駆り出せる人員を全て動員して、最大量の物資を輸送してもらおう。
メインの運び手となるクリミナルワークスには大量の物資が積まれた馬車を人力で引いてグルトヴェーダを超えてもらうことになるのだけど、行商人の浸透が済んでいれば負担はそこまで大きくはないはずだ。
「輸送隊には必ず2人以上冒険者も同行してもらって、日没と夜明けを合図に交代して、夜通し輸送を継続してもらいたいんだ」
クリミナルワークスを4グループに分けて、2グループで日勤と夜勤を担当し2グループは休むという2シフト体制を取ろう。
旅人と行商人の持久力補正があれば、苛酷な運搬に耐えうる体力も充分のはずだ。
「夜間も行軍させるのはちょっと可哀想だけど、仮に夜休ませたって荷物の護衛は必要だからね。ならいっそ進ませた方がいいでしょ」
「ま、街から通いでグルトヴェーダを超えようなんて、相変わらず発想が狂ってるねぇ……?」
竜王が道を拓いてくれた事を知っているはずのキャリアさんだけど、それでも長年抱いてきた常識を振り払って物を考えるのは難しそうだ。
反骨の気炎と薄明の瑞雲が楽すぎて逆に辛かったって試走の報告をあげたの、キャリアさんだって知ってる筈なんだけどなー。
「ちょっと待って……。えっと、4グループに分けるとなると、引ける馬車は10台弱になると思うわ。こんな規模でも平気かしら?」
「うん。今回はそれでいいよ。休みのグループも体力的に余裕がありそうなら、休みのうちに浸透を進めさせて欲しいかな。これは無理強いさせないように徹底して欲しい」
休日も別の作業に従事させるなんてブラック労働もいいところだけれど、職業浸透が進むほどに輸送している本人が楽になっていくハズだからな。
仮に行商人の浸透終えて荷運び人に転職出来たら、重量軽減の大効果スキルを習得できて輸送が一気に捗ってくれることだろう。
「無理強いするな、ねぇ……。普通そこは無理矢理浸透を進めろっていうとこじゃないの? 相変わらず奴隷の扱いにはとても思えないわぁ……」
「……沢山の商人を育ててるキャリアがそんなことに疑問を持つとは思えないけど、人材ってのは宝だからね。今まで育成に投じた時間を費用を無駄にするのは馬鹿のやることでしょ。長く使うほどに性能だって良くなっていくっていうのにさ」
「あははっ! 相変わらず悪ぶるわねぇ?」
やはり俺の事を試していたらしいキャリアさんは、俺の答えに満足したのか笑いながらからかってくる。
別に悪ぶっているつもりじゃなくて、自分の所有物は大切に扱いたいってだけなんだけどな。
「でもその通りよ。奴隷だからと使い潰すのは最悪の運用方法。奴隷たちは道具であり人でもあるのだから、磨けば磨くほど性能を向上させてくれるわ。人材は長く大事に扱ってこそ、よね」
「使い潰す気は無いけど、運用に躊躇う気も無いよ。状況的に仕方なかった部分もあったけど、クリミナルワークスは間違いなく犯罪者なんだからね。精々働かせて償ってもらうさ」
あいつらが犯罪奴隷になってしまった事実はどうやっても消えないけれど、なら犯罪奴隷のままで幸せになる道を模索すればいいだけだ。
家族だって協力してくれているんだから、いくらだってやりようはあるだろ。
その後、キャリアさんともう少し物資輸送の打ち合わせをする。
その結果、輸送する物資の費用は俺が出す予定だったけれど、全額シュパイン商会の持ち出しで賄われる事になった。
俺が出資すると輸送した物資の売り上げは俺のものになってしまうけれど、シュパイン商会の出資ならばシュパイン商会が総取りすることが出来る。
ということで今回は、こんな儲け話をみすみす見逃すわけにはいかないよっ! と意気込むキャリアさんのご厚意に甘える事にした。
「まったくダンさんに付き合うようになってから、次から次へと本当に気の休まる暇も無いよ。中継都市の建設が終わったら多少はのんびりさせてもらいたいわねぇ?」
「今のところはもう何も予定は無いよー。これ以上は人口が増えてくれないとどうしようもないんじゃない?」
「ダンさんの語る『どうしようも無い』ほど信用出来ない言葉も無いと思うわよ? 嘘を吐いてるつもりは無いんでしょうけどね?」
肩を竦めながら、チャールとシーズにお土産のお菓子を持たせるキャリアさん。
笑顔でお礼を言う2人の頭を撫でながら、疲れた様子で2人に問いかける。
「たまに会う私ですら身が持たないんだけど、貴女たちは妻として一緒に居て平気なの? 疲れない?」
「いやぁ……。ベッドの上のほうがヘトヘトにされちゃうから、疲れる暇も無いかなぁ……」
「ま、疲れると言えば疲れるよなぁ……。1度始めると、ダンってばずーっと離してくれねぇしさっ」
「ダンさん……。こんな若い子にあまり無理されるんじゃないわよ?」
2人の口から漏れだした我が家の寝室事情に、キャリアさんがジトーッとした冷たい視線を向けてくる。
チャールとシーズが笑顔のおかげで、それ以上は言及してこなかったけど。
俺も2人に無理させるのは心苦しいとは思ってるんだよ?
でもチャールもシーズも可愛いから、沢山可愛がってあげたくなっちゃうんだよねー。
キャリアさんにひたすら撫でられているチャールとシーズを抱き寄せて、ゆっくりと席を立つ。
キャリアさんの言う通りこの2人に無理をさせない為に、えっちな気分になる前に他のみんなと合流しなくっちゃね!
だからシャロ。背中におっぱいを押し付けたり耳元に吐息を吹きかけるの、今は止めて欲しいんだよー?
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