異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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8章 新たな王と新たな時代2 亡霊と王

605 自称兄 (改)

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「ティムルと……妹と話をさせてくれないかっ!」


 ティムルの兄を名乗る男ティモシーが、完全にピンク思考になった俺を呼び止めてくる。


 さてどう対応しようかなとティムルの顔を窺うと、ご自由にどうぞと言うように肩を竦めて苦笑するお姉さん。

 兄と名乗る人物の話に興味も無く、距離を置きたいとすら思っていないみたいだなぁ。


 ティムル本人が全く興味を持っていないからこのまま無視してもいい気もするんだけど、無視して帰った場合はずっとこの時の事が頭に引っかかりそうで嫌だな。

 どうせ碌な話にはならないだろうけれど、それでも聞かないよりは聞いておくべきかぁ……。


「……2人ともごめん。一応あの男の話を聞いてみようと思う。だからもうちょっとだけ我慢してくれる?」

「あはーっ。ダンが謝る理由なんて何処にも無いけど、これを理由にいーっぱい甘えさせてもらうからねーっ」

「理由なんか無くてもいっぱい甘えてくれていいんだよ? でも了解だ。溶けちゃうくらい甘やかしてあげるからね」


 ティムルとシャロの頬にキスをしてから、俺達を追ってきたティモシーと向き合う。

 ……けど、ドワーフ族の男性はみんな色黒で人間族に比べて筋骨粒々だから、ティモシーとティムルが似ているかどうかは全然判断がつかないなぁ。


 ティモシーが会話できる位置まで近付くのを待って、俺から声をかけてみる。


「ティモシーさん、だったよね? ティムルはあんたの事を覚えてないみたいだから、ティムルの夫として俺が応対させて貰うよ」

「……確かダン、とか言ったか。アンタの話を疑うわけじゃないが、ドワーフのティムルが家族を忘れたとは俄かには信じられん。記憶についてはティムルから直接聞きたいんだが」

「ごめんなさいね。私はここで過ごした生活を殆ど何も覚えて無いの。家族構成も両親の顔も、兄だという貴方の存在も全く記憶に無いわ」

「…………っ」


 ティムルの口から直接覚えていないと聞かされ、言葉を詰まらせるティモシー。

 嫌味や嫌悪感すら含まれていない平坦な口調に、ティムルが本気で自分を覚えていない事を理解したのだろう。


「あんたにも言い分はあるんだろうけど、聞いての通り妻はアンタの事を覚えてないんだ。だから妻と直接話をするのは控えてくれないかな?」

「……親や先祖を敬い技術を伝えるドワーフ族が、兄の俺や両親の顔を忘れるなどあってはならない……! 今すぐ思い出せっ! 俺だ! お前の兄のティモシーだ!」

「あはーっ。私って落ち零れでドワーフ族の面汚しだったんでしょ? そんな私が家族のことなんて覚えてる訳ないじゃなーいっ」


 話を聞かないティモシーにイラつく俺に代わって、ティムルが軽いノリで返答する。

 お、思ったよりも楽しそうだなお姉さんっ!?


 ティムルに負担をかけたくないとか思っちゃったけど、ティモシーと会話する事にティムルはなんの苦痛も感じてはいないようだ。


「逆に聞くけどティモシーさん。貴方こそ私の何を覚えてるのぉ?」

「……なにぃ?」

「多分母だと思われる不機嫌な女性が食事を運んできた記憶とか、たまに会うドワーフに罵られた記憶とか、クラクラットには碌な思い出が無いんだけど? これ以上何を思い出せって言うのかしらぁ?」

「そ、それはその……。なんと言うかだな……」

「私はずっと1人だった記憶しか無いわよ? 私の記憶には、兄だと思われる少年の姿は欠片も残ってないわねぇ」


 ティムルの言い分に心当たりがあるのか、突然しどろもどろになるティモシー。

 ひょっとしてコイツ、ティムルを冷遇していた記憶でもあるのか?


「大体ねぇ。もしもティモシーさんと血の繋がりがあったとして、それがなんだって言うの? 記憶にも残らないほど印象が薄い相手を家族として受け入れろ、なんて言われても到底無理よ?」

「無理、だと……!? くっ、お前という奴は昔から……!」

「私の家族はステータスプレートで繋がっているみんなだけよ。血筋以外の繋がりを示せないアンタのことなんか家族だと思えるわけがないじゃない。まったくもう」


 ティムルはただ煩わしそうにおどけてみせる。


 血以外の繋がりを示せない、か。確かにその通り過ぎるよ。

 血が繋がっているから無条件で心も通じ合うと思っていたのか? 馬鹿馬鹿しいったらありゃしないね。


 実際にはその血筋さえも明確な繋がりを示せないんだから、マジで付き合うのも馬鹿らしいんだよなコイツ。


「親や先祖を敬うドワーフ族だっけ? 聞いて呆れるね。年下のティムルに伝えるべき知識も技術も伝えなかったくせに、自分の事を覚えていないなんて許せないって何様だよ?」

「ちっ、違うっ……! コイツが……、ティムルが悪いんだ! コイツは先人たちの教えに疑問を持ったりしたから……!」

「その結果、ティムルだけが全ドワーフの頂点に立つ名匠の力を得てしまったんだよねー? これじゃまるで先人の教えのほうが間違ってるみたいだな?」

「くぅぅっ……!」


 ぐぬぬと唸るティモシー。


 だけどこんな男を論破したところでなんの意味も無いんだよ。

 ティムルと直接話をするなって言ってるのに、こっちの話を聞く気が無い男になんてこれ以上付き合ってられないよ。


「俺の妻はお前のことなんて覚えていないんだから、妻と直接話をするのは止めて俺に用件を話してもらえるかな。次に直接ティムルと会話した時点で俺達は帰らせてもらうからね」


 さっきはティムルの方から話しかけた気がするけど、それもコイツが俺の言葉を疑ってかかったからだ。

 ティムルがコイツを覚えていないと明言した以上、もうティムルと会話させる気にはならないね。


「お、俺はティムルの兄なんだぞ……!? 用件が無ければ話しかけるななんて、そんな横暴な話が罷り通るとでも……!」

「かつて捨てた妹が立派に成り上がって帰ってきたからって、家族ってだけで親しく接してもらえるなんて虫のいい話が罷り通る訳ないでしょ? 要するに用事は無いのね? なら俺達はここで……」

「待て! 待ってくれ! 俺の事を覚えていないのは分かった! だが両親の事は流石に覚えているだろう!? 俺のことはもう良いから、親父とお袋にひと目会ってやってくれないかっ!?」


 自分の話では埒が明かないと踏んだのか、今度は両親に会って欲しいと喚き始めるティモシー。

 でも両親に合わせてどうするんだよ? 碌な扱いを受けていなかったと明言されたばかりじゃねぇか。


「……あんたねぇ。いい加減にしてくれない?」


 さっきティムルの口からはっきりと、両親のことも覚えてないって言われただろ?

 なにより親に会ってくれなんて、いくら本当に血が繋がっている相手だとしても、俺のティムルに求婚されてるみたいで最高にイラつくんだけど?


「……ねぇダン。会いに行ってみない? 私の両親とやらに」

「へ?」


 しかしイラつき始めた俺に、当のティムルが意外な提案を持ちかけてくる。

 まさかここでティムルの方から会ってみようと持ちかけられるとは思ってなかった。


「お姉さんがいいなら俺は構わないけど……。でもなんで?」

「単純に興味があるのよねぇ。私が肉親に会って何か思うところがあるのか、私の両親は今更私に会って、いったいどんな顔をするんだろうとか、ね?」


 興味があると言うティムルの表情に、良くも悪くも強い感情は感じられない。

 両親に再会したいとか、自分を捨てた相手に恨み言をぶつけたいとか、そういった強い感情を抱いているようには見えなかった。


「それに、今日はクラメトーラの厄介事を全部片付ける気で来てるでしょ? 私の家族を自称する相手が接触して来たのをこのまま放置なんてしておくのは、ちょっと気持ち悪くってぇ……」

「おいっ! 何をさっきからコソコソと……!」

「煩いちょっと待ってろ。『オーバーウェルミング』」

「ひっ……!?」


 一瞬だけ魔力威圧を発動して、喚きかけたティモシーの口を強制的に塞いでしまう。


 お姉さんの透き通るような声を遮らないでくれる?

 ただでさえお前にはイラついてるんだからさぁ。


「よ、容赦ないですねご主人様……。これってスレッドドレッドを屈服させた能力でしょう? 人に使って平気なんですか?」

「大丈夫だよシャロ。これは魔力をぶつけて驚かしてるだけで、攻撃能力は皆無なんだ。そうじゃなきゃシャロの大切なスレッドドレッドに放ったりしないから」

「あ~……。確かにキュアライトを纏って殴りつけるよりはよほど平和的なのかしらぁ……?」


 キュアライトブローを知っているティムルは、相手に痛みを与えずに制圧できるオーバーウェルミングの評価に迷っているようだ。

 そしてティモシーを鑑定したティムルは、大丈夫よねぇ? って顔をしながら問いかけてくる。


「……この萎縮って状態異常は浄化魔法で治療できるのよね?」

「出来るはずだよー。それでなくても自然回復するけどね。恐慌よりちょっと軽めの精神異常って感じかなー?」

「恐慌と比べるような状態異常を気軽に放っちゃダメだからねっ!? キュアライトで殴りつけるよりはマシだろうけど、これじゃあんまり大差ないからっ!!」


 どんな判定を下すか迷っていたティムルだったけど、理解し易いように彼女が受けた事のある恐慌という精神異常と比べてしまったことで、無事に有罪判決が下された模様。

 まったく、女神ティムルはこんな男にまで優しいんだから困っちゃうなぁ。


「コイツは俺が責任もって治療するよ。だから今は話を進めようか」

「ん、そうね……。よく考えたら私がこの人を庇う義理も無いし、話を進めましょうか。でもその前にダン、私の為に怒ってくれてありがとっ」


 感謝の言葉を口にしながら、その口を俺の口に重ねてくれるティムル。

 たったこれだけでさっきまでの苛々が全部吹き飛んじゃうよぉ。


「あ、ご主人様っ! お話を再開する前に私にも! シャロもキスして欲しいですっ!」

「相変わらずシャロはおねだり上手だね。でも今は話がしたいからこれで我慢してくれる?」


 シャロの柔らかい唇にもちゅっとキスをして、これからの行動を話し合う。

 さっさとティモシーの話も片付けて、ティムルとシャロの2人と思い切り楽しみたいからなっ!


「それじゃティムルは、ティモシーの話に乗りたいってことでオッケー?」

「そうね。正直言って家族に会ったからなんだって感じなんだけど……。自分でも予想できない感情が芽生えるかもしれないから、第三者であるシャロが居る今のうちに会ってみたいのよ」

「私、ですか?」


 自分の口を手で押さえ、キスの余韻に浸ってニヤニヤしていたシャロは、突然自分の名前を呼ばれたことでキョトンとした表情を浮かべている。

 ってかその表情も、俺とのキスの余韻に浸る姿も魅力的過ぎるんだよ?


「ダンは私たちのことになると、私たち以上に感情的になっちゃうからね。当事者の私も冷静じゃいられないかもしれないから、クラメトーラとほぼ関わりの無いシャロにストッパーになって欲しくって」

「は、はぁ……。私にお役に立てることがあるなら協力しますけど……。私にご主人様を止められるとはとても思えませんよ?」

「あはーっ。それは大丈夫よー。もしもの時はキスしてあげたりおっぱいを触らせてあげれば、ダンは全てをかなぐり捨ててシャロに集中してくれるからねーっ」

「くっ……! 言い返せない……!」


 ティムルの言い分に反論したいけど、これってまさにティムルとリーチェが俺を止めてくれた方法だからな……!

 っていうか緊急時にはシャロがおっぱい触らせてくれると思うと、なんか意図的に感情的になっちゃいそうなんだけどっ!?


「え、えぇ~……? ご主人様ってどれだけ私たちのことが好きなんですか……?」

「みんなのためなら思わず世界を救っちゃうくらい愛してるよ。家族に迎えたばかりのシャロのことも、みんなと同じくらい愛してるつもりだけど?」

「う、う~……! そんなあっさり、至極当然みたいな言い方しないでくださいよ~っ! ストッパーの私が暴走しちゃうじゃないですかっ!」

「可愛いシャロの暴走は是非とも受け止めてあげたいけど、まずは雑事を片付けよう。ティモシーの話に乗って、ティムルの家族に会いに行く。その後はノープランってことで」


 了解と言いながら順番にキスをしてきてくれるティムルとシャロ。

 毎回こうやってキスしてくれれば暴走なんてしないから、2人には常にキスしてもらいたいところだねっ。


「それじゃティモシーを治療するよー。ピュリフィケーション」

「…………ぶはぁっ! はぁっ! はぁっ!」


 萎縮で上手く呼吸も出来なかったらしいティモシーは、浄化魔法を受けてようやく呼吸の仕方を思い出すことが出来たようだ。

 以前殺気を飛ばして失神させちゃった職人連合の連中よりは平気そうにしてるかな?


「いっ、いきなりなにしやがるん、だ……!」

「何じゃないよ。俺はアンタをまだ信用してないんだ。俺を差し置いて妻に近付こうとするのは止めてもらえるかなぁ?」

「ひっ……!」

「ダンー落ち着いてー。せっかく萎縮を治療したのに、今度は失神させちゃう気なのぉ?」

「……おっと。ごめんごめん」


 ティムルの指摘を受けて、慌てて平常心を取り戻す。

 なんだかんだ言って、今更ティムルの家族を名乗るティモシーに、自分でも思った以上に苛立ってしまっているようだ。


 ひと息吐いて心を落ち着けてから、ガタガタ震えているティモシーに話しかける。


「悪いねティモシーさん。俺はこの通り短気な上に機嫌が悪いんだ。だからもう余計なことは喋らず、両親のところに案内してもらえるかな?」

「あ……え、と……」

「ああ、別にこっちは会わなくても構わないから、気が変わったのならこれで話は終わりでも良いよ」

「待っ……て、くれ……! する、黙って案内するから……!」


 震えながらも、搾り出すように懇願してくるティモシー。

 冷遇していたわりに随分とティムルに執着するな? そんなに名匠ティムルとお近付きになりたいのか?


 いや、こんなに可愛い妹が居たら溺愛しちゃうかもしれないなっ。実際は冷遇されてたんだけどっ。


「ティムル。シャロ。悪いけどもう少しだけ我慢してね。せっかくの機会だからお姉さんの過去も清算しておきたいんだ」

「あはーっ。私の都合にダンが付き合ってくれてるんでしょ? でもお姉さんも同感よ。この機会にしっかり片をつけてしまいたいわぁ」

「ほ、本当に私が同席しても良いものなんでしょうか? 私、本当になんの縁もゆかりも無いんですけど……」


 苛立ちを抑える為に愛する2人と手を繋ぎ、これ以上ティモシーと揉めない為に、黙って彼の背についていく。


 集会所に背を向けて歩いていくティモシー。

 どうやらティムルの両親はあの場には立ち会っていなかったようだ。


 さぁて。ティムルを売り飛ばした張本人とのご対面かぁ。

 短絡的な行動に走らないように、いつでも2人のおっぱいに手を伸ばせるようにしておかないとなっ。
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