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8章 新たな王と新たな時代2 亡霊と王
602 ※閑話 失伝 終焉 (改)
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「用意できたよコル。この通信魔法陣ならきっと、テレスに私達の声を届けてくれるはずだよ」
「ようやくかぁ~っ! お疲れ様メルっ!」
ようやく準備できた通信用のマジックアイテムを手渡すと、喜びのあまり私に抱き付いてくるリーダーのコル。
私とカルの意見を尊重して待機を受けいれてくれたコルだけど、リーダーである彼女には私の知らない苦労と苦悩があったの違いない。
「ここからは私の仕事だから、貴女はゆっくり休んで良いからねーっ」
嬉しそうに私を労ってくれるコルの姿に、ようやく肩の荷が下ろせた気がした。
72時間で完成するかと思われた越界通信魔法陣だったけれど、想定よりもテレスからの魔力流入量が多くて、完成までに100時間以上を要してしまった。
おかげでこの世界にはどんどん魔力が満ちてくれたけれど、越界通信に求められる魔力出力がどんどん上がってしまってホント参っちゃったよお……。
「こちらは越界調査隊J-0385小隊リーダー、コルモマエサです。テレスの皆さん、通信が聞こえたら返事をしてください」
コルは待ちきれないとばかりに、直ぐに魔法陣を起動してテレスとの通信を試みる。
うん。今のところ想定外のトラブルも起きず、ちゃんと彼女の声を元の世界に送ってくれているかな?
「繰り返します。こちらは越界調査隊J-0385小隊……」
「……なかなか応答が無いなー。もしかして置いてかれちゃったかー?」
「もしそうなら合流は絶望的だね……。テレス側が何らかのメッセージでも残してくれている事を祈るしかないよ」
なかなか応答しないテレスに、カルもミルも不安を隠せない様子だ。
救命導着のおかげで生きていくことに不安は無くなったけれど、今度はテレスのみんなと無事に合流できるかどうかという不安でみんな押し潰されそうになっている。
もしもテレスと合流できなければ、私たちは4人で死ぬまでこの世界に留まらなければならなくなるだろう。
4人一緒なら何も怖くないとは思ったけれど……。
4人しかいない世界で死ぬまで生きていくことの困難さは、想像するのも嫌になるよぉ……。
「繰り返します。こちらは越界調……きゃあっ!?」
「「「コ、コルっ!?」」」
突然耳に届くコルの悲鳴。
急いで彼女に駆け寄ろうと思った私の目に、見覚えの無い真四角の物体が飛び込んでくる。
「……なにあれ? マジックアイテム、なの……?」
コルの目の前の地面にめり込んでいる金属製の箱のような物体は、さっきまでは確かに無かったはずよね?
どうやらコルはこれに驚いて悲鳴を上げたみたい。
びっくりしてペタンと座り込んでいるコルに声をかける。
「大丈夫コル? 怪我は?」
「あ……だ、大丈夫、怪我は無いわ……。ちょっとびっくりしちゃったけど……」
「ちょうど通信魔法陣の中央に埋まってんねー……」
コルを引き起こすのは私に任せたのか、カルは学者らしく目の前の物体に興味を向けている。
カルがスルーしたってことは、コルの体には傷1つないんだろう。
「越界通信に反応したってことは、これってテレスから送られてきた物質なわけー?」
「あれ? もしかしてこれって……」
「え? ミルはあれを知ってるの?」
素早く私たちを背中に庇ったミルが、なんだか気になる事を呟いた。
彼女は私の問いかけには答えず、目の前の四角い物体から目を離さずにリーダーであるコルに確認する。
「ねぇコル……。これってさ、もしかして非常用連絡結晶じゃないかな……?」
「メモリー……って! テレスに何かあった場合の緊急連絡手段のことっ!?」
「「えっ!?」」
2人の話の内容に、私とカルの驚きの声が重なった。
戦闘員のミルと隊長のコルしか知らない連絡手段。
緊急用のマジックアイテムだったから魔法技師である私にも伏せられていて、リーダーであるコルと最後まで生き残る可能性の高い戦闘員のミルだけに伝えられていた情報みたいだね。
でも、テレスに何かあった場合の緊急手段って……。
2人の会話に、私とカルの不安はどんどん募っていく。
「でっでも、私が見せられたメモリーボックスって、確か手の平に載るくらいのサイズだったはずだけど……。これってどう見ても直系1メートルはありそうじゃない……?」
「メモリーボックスは込めた魔力量によって大きさが変わるって説明もあったでしょ? 恐らく事前に見せられたほうが簡易的なサイズで、本来はこのサイズなんじゃないかな……」
「……それとも、こっちの方が本来込めるべき魔力量を超過して作成されたのかもね」
なるほど。事前に知らされていた2人が直ぐに確信できなかったのは、伝えられていたものとサイズが違っていたからなんだね。
手の平サイズと1㎥の箱じゃあ、同じマジックアイテムだと分からなくても無理ないよ。
「なんにしても……。メモリーボックスであるなら危険は無いはず、よね?」
「多分……としか言い様が無いね。込められた魔力が暴発したり、そもそも攻撃魔法が込められている可能性だってある。……可能性の話をしだしたらキリが無いけどさ」
「かと言って、これがテレスからのメッセージである以上確認しないという選択肢は無いわ……。ごめんみんな。一瞬だけ時間をちょうだい」
幼い女の子のように地面にお尻を着けたままで両腕を組み、部隊長として真剣な表情で思案するコル。
でも結論は直ぐに出たようだった。
「……危険性があっても確認しないわけにはいかないわ。リーダーコルモマエサより戦闘員ミルザエシスへ。最大限の警戒を持ってメモリーボックスの解析をお願いします」
「了解だよリーダー。念の為、みんなはあと3歩ほど下がってくれるかな」
様々な危険性を想定したコルだったけれど、結局は確認するしかないと判断したようだ。
正式な作戦としてミルにメモリーボックスの調査を命じ、そして不敵に笑って頷きを返すミル。
私とカルは大人しくミルの判断に従い、コルと共に3歩ほど後ずさった。
「それじゃいくよ。『精霊よ。匣に秘されし想いを伝えて。アクセス……!』」
ミルがメモリーボックに向けて精霊魔法で魔力を通す。
すると直ぐにメモリーボックスから魔力が立ち上り始め、その魔力はまるで結晶化するように1ヶ所に纏まっていく。
ミルの背に隠れながら何が起こるのかと様子を窺っていると、魔力結晶が淡く発光し始め、その先に映像が映し出された。
「……このメッセージは、別の世界からテレスにアクセスした者の下に届くようになっている。このメッセージは総司令が下した最終決定だと判断して欲しい」
「やっぱりこれはテレスが意図的に送り込んできたものなのね……。けど、最終決定って?」
「シッ! 今は黙って聞きなさいメル」
思わず零れてしまった私の呟きを即座に叱責するコル。
んもーっ。ミルが精霊魔法で声を拡散してくれてるんだから、聞き漏らす心配なんて無いでしょーっ!
これじゃ喋ってる男の人が誰なのかも聞けないじゃないのーっ。
「まずは結論から言わせてもらおう。諸君がこのメッセージを目にしているという事は、すなわちテレスの壊滅を意味する。テレスに生き残りが存在する事を期待するのは金輪際止めるように」
「「「……え」」」
黙ってと言われたばかりなのに、映像に映し出された男性が発した言葉に思わず聞き返してしまう。
けれどそんな私の呟きに、コルとカルの同じような声が重なった。
テレスが壊滅……?
生き残りは、もう居ない……って……。
男の言葉を受け止めきれない私に構わず、映像の男は話を続ける。
「コラプサーが越界大転移に反応して動き出してしまった。そして奴が動き始めたら、今の我々には対抗策が何も無い。恐らく瞬く間にテレスは滅ぼされてしまうと判断した我々は、越界転移に成功した諸君に最後の希望と警告を託す事にした」
「そん……な……!? 私達の転移が原因でテレスが……!?」
「……黙って!! 今は黙って聞きなさいっ!!」
「このメモリーボックスは、テレスに向かって越界してきた門に自動的に押し込まれるようになっている。まず諸君は生き残る為に、テレスと繋がっている越界の門を今すぐに閉ざさなければいけない。……こうなる事を防ぐ為に」
そう言って映し出されたのは、テレスの滅亡を決定付ける絶望の光景だった。
動き出したコラプサーが瞬く間にテレス全土を飲み込んでいく、悪夢のような終焉の光景……。
あまりの呆気なさに、あまりの一方的な蹂躙に、こうして見せられても全く現実感が沸かなかった。
その後は音声も映像も乱れ、かなり聴き取りにくかったけれど、何とか要点だけは把握できた。
メモリーボックスは越界調査隊全ての転移先に向けて放たれたこと。
しかしメモリーボックス単体では世界を跨ぐことが出来ないので、受け取るには外側からテレスに向けて越界の門を開く必要があること。
越界調査を中継するはずだったテレスが滅亡した為に、越界調査隊同士で合流することは事実上不可能なこと。
そして、コラプサーとの繋がりを絶つ為に、テレスへの越界の門を直ぐに閉じるべきだということ。
全ての情報を頭の中で反芻した私は、黙り込んでいるリーダーのコルに自分の結論を伝える事にした。
「状況は分かったけれど……。テレスとの越界の門を閉じてしまった場合、この世界は……」
「ええ……。いずれ魔力が枯渇し死に絶えるでしょうね……」
テレスからの魔力供給が無くなれば、この世界はいずれ私たちが降り立った時みたいな空気も光も無い、空間だけが存在する世界に逆戻りしてしまうだろう。
だから、いくらコラプサーが居ると言われても、越界の門を閉じるわけには……!
「……かと言って司令部の警告も無視出来ないわ。テレスにコラプサーが居座っているのは間違いないでしょうから」
「正に二律背反って奴だね……。生き残る為にはテレスとの繋がりを絶つことは出来ない。けれどそのせいでコラプサーの脅威に永遠に晒され続ける事になるのか……」
「仮にコラプサーが動き出した場合、越界の門が繋がっているこの世界は非常に危険だと言えるだろうなー……。テレスと繋がっているのがここだけとは限らないけどさー」
テレスが滅亡した事を知って全員が絶望感に打ちひしがれているはずだけれど、それでも流石に越界調査を任されたメンバーだけはあるなぁ。
誰1人思考放棄することなく、生き残る為にベストな方法を模索し続けられるなんて……。
「って、そうだよ。テレスにコラプサーが居座ったままなら危険だろうけれど、あいつがテレスに現れたのだって越界転移だったわけだよね? だったらテレスが滅亡したら別の世界に行く可能性もあるんじゃ……?」
「その可能性は無いわメル。コラプサーはまだテレスに居るし、今後も居座り続けると思いなさい。希望的観測で現実から目を逸らしちゃダメ」
「現実からって……。まるで何か根拠があるような言い方じゃない。コルには何か確証があるの?」
「ええ。テレスが滅びた今でもテレスから魔力が流入しているでしょ? それが確証で私の根拠よ?」
「あ、あ~そっかぁ……」
テレスがコラプサーに滅ぼされたのは今より少し前の話なのだ。
私たちが越界通信に成功するまでに、既にテレスは滅びていた……。
なのに未だ魔力の流入が続いているのであれば、テレスはまだ溢れるほどの魔力を有した世界だと言っていい気がする。
魔力を喰らう為にテレスに襲来したコラプサーが、世界から溢れるほどに魔力の満ちたテレスを放棄するとは考え難いんだ……。
「……恐らく、テレスが開発に成功してしまった永久機関、『デウス・エクス・マキナ』が原因だろうね。魔力を燃料にして更なる魔力を生み出す夢のシステムだったはずなのに、まさかこんな悪夢が待っているとは……」
「正に夢にも思わなかったってかーっ? 魔力を食い散らすコラプサーにとっては、デウス・エクス・マキナは正に減らないパンみたいなものなんだろうなぁ」
増え続ける魔力消費に対応する為に開発されたマジックアイテム、自動魔力増幅システム『デウス・エクス・マキナ』。
そのせいでテレスには尽きることのない膨大な魔力が常に満ち溢れていて、そのせいでコラプサーがテレスを離れる事は……。
「あれ? ならデウス・エクス・マキナがある限り、コラプサーがテレスを離れる心配も無いんじゃ……?」
「それが希望的観測だって言ってるのっ。んもぅ」
私の呟きはまたしてもコルに切って捨てられてしまった。
けれど私の言葉を否定したコルは、少し落ち着いたようにいつもの呆れた顔を見せてくれた。
「高濃度の魔力体らしいコラプサーは、魔力さえあれば何処にでも現れるのよ? デウス・エクス・マキナで増幅された魔力を喰らい続けた場合、こちらの世界にも漏れ出すくらいに肥大するかもしれないし、子供や分体のようなものが発生するかもしれないじゃないの」
「そうだぜメルー。コラプサーに関しては分かってる事があんま無いんだよー。だから司令部は最悪の想定で、世界の繋がりそのものを切り離せって言ってるのさー」
「だけど生きていく為には繋がりを閉ざすわけにはいかない……。結局ここに戻って来ちゃうわけかぁ~っ」
「……そうだね。越界の門を閉じることは出来ない。これは絶対条件で動かせない。けれどそのままではコラプサーの恐怖に永遠に苛まれることになるんだ」
ミルはお手上げと言わんばかりに両手を上げて、頭をフルフルと力なく振って見せる。
ただでさえテレスでも対抗策が見付けられなかったコラプサーなのに、デウス・エクス・マキナを取り込んでほぼ不滅の状態になっちゃってるからなぁ……。
「とりあえず、越界の門を閉じることは出来ないわ。コラプサーに襲われないために死を選ぶなんて馬鹿馬鹿しすぎるからね。異論は無いかしら?」
「あったり前ーっ! せっかくこうして生きてるってのに、絶望で命を諦めるような事をするイザラカルタさんじゃないのさーっ」
「……なら、自分たちで見つけるしかないね。テレスでも見付けられなかった、コラプサーへの対抗策をさ……!」
状況は絶望的で、この世界には私たち4人しか存在していない。
なのにみんなはいつも通りで、ミルなんて絶対にコラプサーを倒してやるんだって決意に燃えてるの。
他の調査隊の人たちがどうなったのかは分からない。恐らくもう2度と会えることは無いと思う。
だからテレスの命を繋ぐのは私たちだけ。私たちが生きている限りテレスの歴史は終わらないんだ……!
……だけど、女4人しか残ってない時点で詰んでないかな?
ねぇコル。その辺どうするのか考えて……って、都合が悪いからって逃げないでよーっ!? 貴女リーダーでしょー!? こら待てーっ!
「ようやくかぁ~っ! お疲れ様メルっ!」
ようやく準備できた通信用のマジックアイテムを手渡すと、喜びのあまり私に抱き付いてくるリーダーのコル。
私とカルの意見を尊重して待機を受けいれてくれたコルだけど、リーダーである彼女には私の知らない苦労と苦悩があったの違いない。
「ここからは私の仕事だから、貴女はゆっくり休んで良いからねーっ」
嬉しそうに私を労ってくれるコルの姿に、ようやく肩の荷が下ろせた気がした。
72時間で完成するかと思われた越界通信魔法陣だったけれど、想定よりもテレスからの魔力流入量が多くて、完成までに100時間以上を要してしまった。
おかげでこの世界にはどんどん魔力が満ちてくれたけれど、越界通信に求められる魔力出力がどんどん上がってしまってホント参っちゃったよお……。
「こちらは越界調査隊J-0385小隊リーダー、コルモマエサです。テレスの皆さん、通信が聞こえたら返事をしてください」
コルは待ちきれないとばかりに、直ぐに魔法陣を起動してテレスとの通信を試みる。
うん。今のところ想定外のトラブルも起きず、ちゃんと彼女の声を元の世界に送ってくれているかな?
「繰り返します。こちらは越界調査隊J-0385小隊……」
「……なかなか応答が無いなー。もしかして置いてかれちゃったかー?」
「もしそうなら合流は絶望的だね……。テレス側が何らかのメッセージでも残してくれている事を祈るしかないよ」
なかなか応答しないテレスに、カルもミルも不安を隠せない様子だ。
救命導着のおかげで生きていくことに不安は無くなったけれど、今度はテレスのみんなと無事に合流できるかどうかという不安でみんな押し潰されそうになっている。
もしもテレスと合流できなければ、私たちは4人で死ぬまでこの世界に留まらなければならなくなるだろう。
4人一緒なら何も怖くないとは思ったけれど……。
4人しかいない世界で死ぬまで生きていくことの困難さは、想像するのも嫌になるよぉ……。
「繰り返します。こちらは越界調……きゃあっ!?」
「「「コ、コルっ!?」」」
突然耳に届くコルの悲鳴。
急いで彼女に駆け寄ろうと思った私の目に、見覚えの無い真四角の物体が飛び込んでくる。
「……なにあれ? マジックアイテム、なの……?」
コルの目の前の地面にめり込んでいる金属製の箱のような物体は、さっきまでは確かに無かったはずよね?
どうやらコルはこれに驚いて悲鳴を上げたみたい。
びっくりしてペタンと座り込んでいるコルに声をかける。
「大丈夫コル? 怪我は?」
「あ……だ、大丈夫、怪我は無いわ……。ちょっとびっくりしちゃったけど……」
「ちょうど通信魔法陣の中央に埋まってんねー……」
コルを引き起こすのは私に任せたのか、カルは学者らしく目の前の物体に興味を向けている。
カルがスルーしたってことは、コルの体には傷1つないんだろう。
「越界通信に反応したってことは、これってテレスから送られてきた物質なわけー?」
「あれ? もしかしてこれって……」
「え? ミルはあれを知ってるの?」
素早く私たちを背中に庇ったミルが、なんだか気になる事を呟いた。
彼女は私の問いかけには答えず、目の前の四角い物体から目を離さずにリーダーであるコルに確認する。
「ねぇコル……。これってさ、もしかして非常用連絡結晶じゃないかな……?」
「メモリー……って! テレスに何かあった場合の緊急連絡手段のことっ!?」
「「えっ!?」」
2人の話の内容に、私とカルの驚きの声が重なった。
戦闘員のミルと隊長のコルしか知らない連絡手段。
緊急用のマジックアイテムだったから魔法技師である私にも伏せられていて、リーダーであるコルと最後まで生き残る可能性の高い戦闘員のミルだけに伝えられていた情報みたいだね。
でも、テレスに何かあった場合の緊急手段って……。
2人の会話に、私とカルの不安はどんどん募っていく。
「でっでも、私が見せられたメモリーボックスって、確か手の平に載るくらいのサイズだったはずだけど……。これってどう見ても直系1メートルはありそうじゃない……?」
「メモリーボックスは込めた魔力量によって大きさが変わるって説明もあったでしょ? 恐らく事前に見せられたほうが簡易的なサイズで、本来はこのサイズなんじゃないかな……」
「……それとも、こっちの方が本来込めるべき魔力量を超過して作成されたのかもね」
なるほど。事前に知らされていた2人が直ぐに確信できなかったのは、伝えられていたものとサイズが違っていたからなんだね。
手の平サイズと1㎥の箱じゃあ、同じマジックアイテムだと分からなくても無理ないよ。
「なんにしても……。メモリーボックスであるなら危険は無いはず、よね?」
「多分……としか言い様が無いね。込められた魔力が暴発したり、そもそも攻撃魔法が込められている可能性だってある。……可能性の話をしだしたらキリが無いけどさ」
「かと言って、これがテレスからのメッセージである以上確認しないという選択肢は無いわ……。ごめんみんな。一瞬だけ時間をちょうだい」
幼い女の子のように地面にお尻を着けたままで両腕を組み、部隊長として真剣な表情で思案するコル。
でも結論は直ぐに出たようだった。
「……危険性があっても確認しないわけにはいかないわ。リーダーコルモマエサより戦闘員ミルザエシスへ。最大限の警戒を持ってメモリーボックスの解析をお願いします」
「了解だよリーダー。念の為、みんなはあと3歩ほど下がってくれるかな」
様々な危険性を想定したコルだったけれど、結局は確認するしかないと判断したようだ。
正式な作戦としてミルにメモリーボックスの調査を命じ、そして不敵に笑って頷きを返すミル。
私とカルは大人しくミルの判断に従い、コルと共に3歩ほど後ずさった。
「それじゃいくよ。『精霊よ。匣に秘されし想いを伝えて。アクセス……!』」
ミルがメモリーボックに向けて精霊魔法で魔力を通す。
すると直ぐにメモリーボックスから魔力が立ち上り始め、その魔力はまるで結晶化するように1ヶ所に纏まっていく。
ミルの背に隠れながら何が起こるのかと様子を窺っていると、魔力結晶が淡く発光し始め、その先に映像が映し出された。
「……このメッセージは、別の世界からテレスにアクセスした者の下に届くようになっている。このメッセージは総司令が下した最終決定だと判断して欲しい」
「やっぱりこれはテレスが意図的に送り込んできたものなのね……。けど、最終決定って?」
「シッ! 今は黙って聞きなさいメル」
思わず零れてしまった私の呟きを即座に叱責するコル。
んもーっ。ミルが精霊魔法で声を拡散してくれてるんだから、聞き漏らす心配なんて無いでしょーっ!
これじゃ喋ってる男の人が誰なのかも聞けないじゃないのーっ。
「まずは結論から言わせてもらおう。諸君がこのメッセージを目にしているという事は、すなわちテレスの壊滅を意味する。テレスに生き残りが存在する事を期待するのは金輪際止めるように」
「「「……え」」」
黙ってと言われたばかりなのに、映像に映し出された男性が発した言葉に思わず聞き返してしまう。
けれどそんな私の呟きに、コルとカルの同じような声が重なった。
テレスが壊滅……?
生き残りは、もう居ない……って……。
男の言葉を受け止めきれない私に構わず、映像の男は話を続ける。
「コラプサーが越界大転移に反応して動き出してしまった。そして奴が動き始めたら、今の我々には対抗策が何も無い。恐らく瞬く間にテレスは滅ぼされてしまうと判断した我々は、越界転移に成功した諸君に最後の希望と警告を託す事にした」
「そん……な……!? 私達の転移が原因でテレスが……!?」
「……黙って!! 今は黙って聞きなさいっ!!」
「このメモリーボックスは、テレスに向かって越界してきた門に自動的に押し込まれるようになっている。まず諸君は生き残る為に、テレスと繋がっている越界の門を今すぐに閉ざさなければいけない。……こうなる事を防ぐ為に」
そう言って映し出されたのは、テレスの滅亡を決定付ける絶望の光景だった。
動き出したコラプサーが瞬く間にテレス全土を飲み込んでいく、悪夢のような終焉の光景……。
あまりの呆気なさに、あまりの一方的な蹂躙に、こうして見せられても全く現実感が沸かなかった。
その後は音声も映像も乱れ、かなり聴き取りにくかったけれど、何とか要点だけは把握できた。
メモリーボックスは越界調査隊全ての転移先に向けて放たれたこと。
しかしメモリーボックス単体では世界を跨ぐことが出来ないので、受け取るには外側からテレスに向けて越界の門を開く必要があること。
越界調査を中継するはずだったテレスが滅亡した為に、越界調査隊同士で合流することは事実上不可能なこと。
そして、コラプサーとの繋がりを絶つ為に、テレスへの越界の門を直ぐに閉じるべきだということ。
全ての情報を頭の中で反芻した私は、黙り込んでいるリーダーのコルに自分の結論を伝える事にした。
「状況は分かったけれど……。テレスとの越界の門を閉じてしまった場合、この世界は……」
「ええ……。いずれ魔力が枯渇し死に絶えるでしょうね……」
テレスからの魔力供給が無くなれば、この世界はいずれ私たちが降り立った時みたいな空気も光も無い、空間だけが存在する世界に逆戻りしてしまうだろう。
だから、いくらコラプサーが居ると言われても、越界の門を閉じるわけには……!
「……かと言って司令部の警告も無視出来ないわ。テレスにコラプサーが居座っているのは間違いないでしょうから」
「正に二律背反って奴だね……。生き残る為にはテレスとの繋がりを絶つことは出来ない。けれどそのせいでコラプサーの脅威に永遠に晒され続ける事になるのか……」
「仮にコラプサーが動き出した場合、越界の門が繋がっているこの世界は非常に危険だと言えるだろうなー……。テレスと繋がっているのがここだけとは限らないけどさー」
テレスが滅亡した事を知って全員が絶望感に打ちひしがれているはずだけれど、それでも流石に越界調査を任されたメンバーだけはあるなぁ。
誰1人思考放棄することなく、生き残る為にベストな方法を模索し続けられるなんて……。
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「その可能性は無いわメル。コラプサーはまだテレスに居るし、今後も居座り続けると思いなさい。希望的観測で現実から目を逸らしちゃダメ」
「現実からって……。まるで何か根拠があるような言い方じゃない。コルには何か確証があるの?」
「ええ。テレスが滅びた今でもテレスから魔力が流入しているでしょ? それが確証で私の根拠よ?」
「あ、あ~そっかぁ……」
テレスがコラプサーに滅ぼされたのは今より少し前の話なのだ。
私たちが越界通信に成功するまでに、既にテレスは滅びていた……。
なのに未だ魔力の流入が続いているのであれば、テレスはまだ溢れるほどの魔力を有した世界だと言っていい気がする。
魔力を喰らう為にテレスに襲来したコラプサーが、世界から溢れるほどに魔力の満ちたテレスを放棄するとは考え難いんだ……。
「……恐らく、テレスが開発に成功してしまった永久機関、『デウス・エクス・マキナ』が原因だろうね。魔力を燃料にして更なる魔力を生み出す夢のシステムだったはずなのに、まさかこんな悪夢が待っているとは……」
「正に夢にも思わなかったってかーっ? 魔力を食い散らすコラプサーにとっては、デウス・エクス・マキナは正に減らないパンみたいなものなんだろうなぁ」
増え続ける魔力消費に対応する為に開発されたマジックアイテム、自動魔力増幅システム『デウス・エクス・マキナ』。
そのせいでテレスには尽きることのない膨大な魔力が常に満ち溢れていて、そのせいでコラプサーがテレスを離れる事は……。
「あれ? ならデウス・エクス・マキナがある限り、コラプサーがテレスを離れる心配も無いんじゃ……?」
「それが希望的観測だって言ってるのっ。んもぅ」
私の呟きはまたしてもコルに切って捨てられてしまった。
けれど私の言葉を否定したコルは、少し落ち着いたようにいつもの呆れた顔を見せてくれた。
「高濃度の魔力体らしいコラプサーは、魔力さえあれば何処にでも現れるのよ? デウス・エクス・マキナで増幅された魔力を喰らい続けた場合、こちらの世界にも漏れ出すくらいに肥大するかもしれないし、子供や分体のようなものが発生するかもしれないじゃないの」
「そうだぜメルー。コラプサーに関しては分かってる事があんま無いんだよー。だから司令部は最悪の想定で、世界の繋がりそのものを切り離せって言ってるのさー」
「だけど生きていく為には繋がりを閉ざすわけにはいかない……。結局ここに戻って来ちゃうわけかぁ~っ」
「……そうだね。越界の門を閉じることは出来ない。これは絶対条件で動かせない。けれどそのままではコラプサーの恐怖に永遠に苛まれることになるんだ」
ミルはお手上げと言わんばかりに両手を上げて、頭をフルフルと力なく振って見せる。
ただでさえテレスでも対抗策が見付けられなかったコラプサーなのに、デウス・エクス・マキナを取り込んでほぼ不滅の状態になっちゃってるからなぁ……。
「とりあえず、越界の門を閉じることは出来ないわ。コラプサーに襲われないために死を選ぶなんて馬鹿馬鹿しすぎるからね。異論は無いかしら?」
「あったり前ーっ! せっかくこうして生きてるってのに、絶望で命を諦めるような事をするイザラカルタさんじゃないのさーっ」
「……なら、自分たちで見つけるしかないね。テレスでも見付けられなかった、コラプサーへの対抗策をさ……!」
状況は絶望的で、この世界には私たち4人しか存在していない。
なのにみんなはいつも通りで、ミルなんて絶対にコラプサーを倒してやるんだって決意に燃えてるの。
他の調査隊の人たちがどうなったのかは分からない。恐らくもう2度と会えることは無いと思う。
だからテレスの命を繋ぐのは私たちだけ。私たちが生きている限りテレスの歴史は終わらないんだ……!
……だけど、女4人しか残ってない時点で詰んでないかな?
ねぇコル。その辺どうするのか考えて……って、都合が悪いからって逃げないでよーっ!? 貴女リーダーでしょー!? こら待てーっ!
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