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8章 新たな王と新たな時代2 亡霊と王
592 ※閑話 失伝 創世 (改)
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「どうかしらメル。テレスとは連絡がついた?」
「ん~……。やっぱり無理だね。単純に出力が足りないみたいだよー」
既に何度も問答を繰り返している私とコル。
先遣隊のリーダーとしてはテレスに連絡を取るのが最優先事項なのは分かっているけど、これは時間が経たないと解決できない問題じゃないかな~……。
幸い私達の呼び水作戦は想定通りに上手くいき、無に等しかったこの世界に魔力が流れ込み、ミルが作った太陽のような照明が世界を明るく照らし、カルが作った大地には空気と風に満ち溢れている。
まだ他の生物を生み出すことは控えているけど、もう救命導着を着なくても問題なく活動できるくらいに快適な世界が生み出された。
食料も飲み水もまだ無いので、導着の生命維持機能に頼らざるを得ないんだけどね。
「魔力が飽和してしまったテレスから、魔力が全く無いこの世界に魔力が流れ込む勢いは尋常じゃないみたい。おかげで私たちが死ぬ心配は無さそうだけど、テレスと通信するにはもっと大出力の通信装置が要ると思うなー」
「通信装置の出力不足なんて、完全に想定外だったものねぇ……。持ち込んだ荷物が無事だったとしても、結局はテレスと通信するのは無理だったでしょうね。まったくもう……」
切羽詰った状況こそ脱したものの、今度は膠着してしまった状況に苛立ちを隠せない様子のコル。
先遣隊のリーダーとしては、テレスに連絡の取れない今の状況は歯痒くって仕方が無いんだろうなぁ……。
なんて少し心配していたのに、コルはふぅっ! とひと息吐いて、胸を張るように空を仰ぎ見る。
「まっ、メルのおかげでこうして生きていられるんだし、文句を言うのもお門違いよね?」
「あ、相変わらずの切り替えだなぁ~。普通の人はもっと文句を言ってくると思うけど」
「な~に~? 文句を言って欲しいならいくらでも提供して差し上げるわよ~? やることが無くて暇してるしね~?」
からかように流し目で私を見てくるコルに、ブンブンと首を振って否定の意を示す。
コルが冗談を言っているのは私にだって分かるけど、下手な答えを返しでもしたら冗談の延長で本当に説教されかねないんだよな~……。
慌てて両手と首を振る私に呆れたように息を吐いてから、軽く咳払いして真面目な表情を浮かべるコル。
「それじゃメル。魔法技師としての意見を聞かせて。テレスと通信する為の大出力の通信装置は、今この状況下でも用意することは可能なの?」
「可能だよ。けどそれを作り出すためにはもうちょっと魔力が足りてない感じなんだ」
魔法技師の私は、魔力さえあればある程度のマジックアイテムは自力で生み出せる。
けれどこの世界の創世と維持にも莫大な魔力を消費しちゃってるから、余剰分の魔力はまだあまり多くないのだ。
「その魔力が溜まるにはどのくらいの時間がかかる見込みかしら?」
そんなことはコルも分かっているのだろう。
特に文句を言うでもなく、淡々と事実確認を続けてくる。
「今の魔力の流入量を考えると、72時間程度は掛かると思う。早くて、だけど……」
「72時間……。思ったより長いような短いような、なんとも判断が難しい時間ねぇ。ちなみにその時間を短縮することは無理なの?」
「それはあまりお勧め出来ないかな……。コルは魔力の流入量を増やせって言ってるんだと思うけど、そうすると今度は通信に必要な出力も上がっちゃうからね。相対的に見ると意味が無い行為だと思うんだ」
「あ~……。流入してくる魔力を押し返す出力を求めてるのに、魔力の流入量を増やすんじゃ本末転倒かぁ~っ……!」
私の説明を聞いたコルは、頭を抱えて蹲ってしまった。
先遣隊のリーダーとして一刻も早くテレスと連絡を取りたいコルとしては、かなり辛い状況なんだろうなぁ。
この世界に降り立った時も絶望的な状況ではあったけど、今の状況は膠着しているものの閉塞しているわけじゃない。
72時間経てば安全にテレスに連絡が取れる算段がついているのだ。
けれどその72時間でテレスの人々が他の世界に移住してしまう可能性は少なくない。
そう判断して魔力の流入量を増やせば、マジックアイテムの製作は早まっても通信に必要な魔力出力も増加してしまうので、連絡にかかる時間が短縮されるとは限らない。
最悪の場合は今より状況を悪化させてしまう可能性だってある。
だから迂闊には決断出来ないんだろうな……。
「大体コラプサーから逃げる為に越界してきたのに、魔力を呼び込みすぎたら本末転倒よね……。仮にここが移住先に選ばれたとしたら今の魔力流入量じゃ足りないけど、それはテレスの上層部が判断して調整するべき話だし……」
「まぁ、魔力が全く存在しない世界だったから、コラプサーに目を付けられる事はまず無いとも思うけどね……」
本来はテレスにだってコラプサーが出現することは無かったはずなんだよねぇ……。
だけど人類はどこまでも強欲で、果てしなく魔法技術を発展させすぎてしまったから……。
魔法技術の全てを否定するような相手が魔法文明の行き着く果てに現れるなんて、なんだか神様っているんだなぁって思わされちゃうよ。
「ん~……。このまま72時間手を拱いているのは避けたいけど、ちょっと私だけで判断しなきゃいけないような問題でもないわよね。2人が帰還したら4人で相談しましょ」
「ん、りょーかい。私は何か方法が無いか考えてみるよ」
コルは責任重大な決断を迫られる時は自分1人で決断するくせに、どっちを選んでも平気みたいな時は積極的に相談したがるんだよなー。
まったく、頼りになるリーダーだよ。
私たちが生み出した大地と環境の調査に赴いていたカルとミルも戻ってきて、4人揃っての報告と相談会が始まる。
「当然と言えば当然なんだけど、私達の他には微生物1匹存在してないねー。大地は生み出したけど、まだ水が無いからなー」
「用心の為に私も同行したけど、はっきり言って散歩しただけだったかな。大地が続いているだけの見応えのない風景だったけどね」
退屈な調査だったよと、2人揃って肩を竦めるカルとミル。
カルとミルの言っていることなんて調査するまでも無く分かっていたことだけど、越界の大転移魔方陣にだってトラブルが生じてしまった今、想定だけで物事を判断するのは危険だと、コルの判断で2人はフィールドワークに赴いたのだった。
……その結果は私たちの想定通りみたいだったけど。
「精霊魔法で測定してみたところ、大地の面積は約200k㎡くらいだね。ただ流入する魔力が少しずつ大地に変換されているみたいだから、長い時間をかけてゆっくり広がって行きそうかな」
「200k㎡ね。テレスの全人口が移住してくるとなると全然足りないと思うけど、一時的な避難場所としては充分すぎる面積ね。広がるペースは?」
「正確には何とも言えないけど、現在の魔力流入量だと毎分1センチ弱って感じじゃないかな? ただしこの大地や環境の維持にも魔力が使用されているから、最終的にはどこかでブレーキがかかるはずだ」
「毎分1センチとして……365日で5k㎡くらい? 最終的に止まるみたいだし、その程度なら特に留意する必要も無いかしらね」
「だねー。生物や植物なんかを生み出したらもっと魔力消費は増えるはずだから、コラプサーが現れる心配は全く無いよー」
3人の話し合いに技術者の私は口を挟まず、黙って耳を傾ける。
テレスの人たちが全員移住してきたらあまりにも狭すぎるけれど、もしも私たちもここを放棄して別の世界に越界することになっても問題は起きなさそうなんだね。良かった良かった。
私たちの都合で勝手に創世しちゃったのに、そのせいでコラプサーを呼び込んで世界を消滅させるような事になってしまったら流石に酷すぎるもんねぇ……。
「じゃあ今度はこっちの話ね。メルの見立てだとテレスに通信できるようになるのは72時間は掛かるみたいなんだ。そこでみんなの意見を聞いてみたいのよ」
最短でも72時間はテレスと通信が取れないこと。
その状況を打開する為に何か手を打ったら、状況が好転する可能性も悪化する可能性も等しくあること。
72時間の間は魔力をあまり無駄遣い出来ないこと。
そして私たちはなるべく早くテレスと連絡を取らないといけない状況にある事を、改めてコルが説明する。
「72時間待てば安全に通信する手段が得られる。けれどその72時間で私たちはこの世界に取り残されてしまう可能性があるわけよ。そこで4人で相談して、どっちを選ぶか決めたいのよねー」
「ちなみに技術者の視点で言わせてもらうなら、出来れば72時間待つ方を推奨するよ。まずありえないと思うけど、この世界に流れ込んでいる魔力はコラプサーのいるテレスのものだから、魔力流入量を増やした際に何らかのアクションを起こされる可能性は無視出来ないよ」
「それを言っちゃったら避難のために大越界するのはかなり危険だよねー。こういうことを言い出したらキリが無いんだけどさー」
カルの言う通り、テレスの人たちが集団大越界転移をする時が1番危険なんだよねぇ。
でもコラプサーは人ではなくて魔力に引かれる存在だから、人の根絶を狙って追いかけてくるとは考えにくい。
膨大な魔力を必要とする転移の瞬間こそが危険なのであって、転移さえしてしまえば安全は確保できるとも思う。
「私は72時間待つほうに1票入れるよ」
「こーらミル。面倒臭がらずにちゃんと理由まで言いなさーい」
「はいはい、了解だよリーダー」
コルのツッコミに面倒臭そうに応えるミル。
戦闘の時はすっごく頼りになるのに、お喋りするのがあまり好きじゃないんだよなーこの子は。
「私たちは転移直後に死んでいてもおかしくなかったからね。メルのアイディアとコルの判断、そしてカルの生み出した環境のおかげで命を繋げたんだ。仮にテレスに置き去りにされたとしても、今生きているだけで充分だ。想定外の脅威を呼び込む可能性がある行動は推奨出来ないよ」
「個人的な感情ではなく、戦闘員の視点でも推奨出来ないのね?」
コルの問いかけに、ミルは黙って頷きを返す。
戦闘員のミルと技術者の私が推奨出来ないと言ってしまったので、コルも諦めて72時間待つ事にしたようだ。
この間は魔力をあまり使用できずに環境の調整、整備が行えないカルが、最後までぶーぶー不満を漏らしてたけどね。
魔力が溜まるまでの時間は、4人でひたすら話をして過ごした。
テレスの人たちに置き去りにされてしまうことは考えたくなかったけれど、そういう可能性もあることは先発隊に抜擢された時からみんな覚悟している。
なのでもしもこの世界に4人だけで永住する事になったら、どんな世界にしたいかを話し続けた。
「やっぱり、どれだけ時代が進んだとしてもコラプサーを呼び込むのは避けたいわよね。人類同士が戦争を起こして魔法技術を飛躍的に発展させないよう、あえて人類の敵性存在を用意するのはアリだと思うの」
「ん~っ! 生物の創造はかなり迷うねっ! でもこのままじゃ食事も出来ないし環境の循環も起きないから、何処までと割り切って生物も生み出さなきゃいけないんだよな~っ! 生物学者としては手を出したくないけど、環境学の専門家としては手を出さざるを得ないよ~」
「コラプサーを呼び込まないことが1番大切だけど、どうせ現れないだろうってなんの対抗手段も用意しておかないのも問題だよ。いつかこの地にコラプサーがやってきた時、奴をどうにか撃退、可能ならば殲滅できる手段を用意しておきたいな」
んー、リーダーのコルと戦闘要員のミルは、どうしてもコラプサーを中心に考えちゃうよねー。
カルは学者だから生物の必要性を誰よりも分かっているけど、学者だからこそ自分の手で生物を生み出す事に躊躇いを覚えているみたいだった。
「コラプサーをどうにかできる方法があるならテレスは滅んだりしてないってのーっ。少なくとも魔法技術でアイツに対抗するのは無理だよねー。片っ端から魔力を食っちゃうんだもん。あんな生物見たことないよ~っ。……そもそも生物なのかも分からないけどさぁ」
「今のところ移動魔法で遠くに飛ばすことには成功してるんだっけ。けど越界させるほどの大転移をコラプサーに仕掛けるのは難しいだろうね。でも移動魔法が足掛かりにはなりそうだな……」
「……ま、あの化け物への対抗策なんて、私たちが考えるべき問題じゃないと思うけどねー」
コラプサーの話題を嫌ったのか、コルが少し強引に話を切り上げた。
コルはリーダーとして私たち以上にコラプサーの脅威を学んできたから、アイツに抱いている恐怖心も人一倍強いのかもしれない。
「それでメル。貴女はここをどんな世界にしたいのかしら?」
「へ? 私?」
「そうそう、メルトレスティさんに聞いてるんですよー。この世界を調整する事になったら、実際に作業するのは学者のカルと技術者のメルだからね。メルの意見もなるべく取り入れていきたいのよ」
「え、え~……? 私はいいよぉ。3人の好きなように決めてってばぁ……」
「細かい事はいいから、この世界をどんな世界にしていきたいかくらいは教えてくれない? 緑豊かな世界にしたいとか、青い海が広がる世界にしたいとか、漠然としたイメージでいいからさっ」
コルの質問に、改めてこの世界で暮らしていくことをイメージしてみる。
私がこの世界に望むもの。この世界で私が送りたいと思う理想の生活ってなんだろう?
考え込む私に、ニコニコしながら私の言葉を待つ3人の姿が目に入った。
「あっ、そっか……」
私が望むのは、みんなで仲良く楽しく暮らせる世界。
誰もが笑ってて、みんなが一緒に居られる幸せな世界で暮らしたい。
いがみ合って憎しみ合って、その末に世界を滅ぼしてしまう……。そんな愚かで悲しい世界はもう沢山だ。
「私は、この世界を優しい世界にしたいな……」
思わず零れた私の呟きは、その後もずーっとからかわれるネタにされちゃった。
けれど3人ともからかいはしても、私の願いを否定することは1度も無かった。
こんな優しい3人みたいな世界に、人の悪意とは無縁の優しい世界になって欲しい。
それが私の素直な願いだった。
「ん~……。やっぱり無理だね。単純に出力が足りないみたいだよー」
既に何度も問答を繰り返している私とコル。
先遣隊のリーダーとしてはテレスに連絡を取るのが最優先事項なのは分かっているけど、これは時間が経たないと解決できない問題じゃないかな~……。
幸い私達の呼び水作戦は想定通りに上手くいき、無に等しかったこの世界に魔力が流れ込み、ミルが作った太陽のような照明が世界を明るく照らし、カルが作った大地には空気と風に満ち溢れている。
まだ他の生物を生み出すことは控えているけど、もう救命導着を着なくても問題なく活動できるくらいに快適な世界が生み出された。
食料も飲み水もまだ無いので、導着の生命維持機能に頼らざるを得ないんだけどね。
「魔力が飽和してしまったテレスから、魔力が全く無いこの世界に魔力が流れ込む勢いは尋常じゃないみたい。おかげで私たちが死ぬ心配は無さそうだけど、テレスと通信するにはもっと大出力の通信装置が要ると思うなー」
「通信装置の出力不足なんて、完全に想定外だったものねぇ……。持ち込んだ荷物が無事だったとしても、結局はテレスと通信するのは無理だったでしょうね。まったくもう……」
切羽詰った状況こそ脱したものの、今度は膠着してしまった状況に苛立ちを隠せない様子のコル。
先遣隊のリーダーとしては、テレスに連絡の取れない今の状況は歯痒くって仕方が無いんだろうなぁ……。
なんて少し心配していたのに、コルはふぅっ! とひと息吐いて、胸を張るように空を仰ぎ見る。
「まっ、メルのおかげでこうして生きていられるんだし、文句を言うのもお門違いよね?」
「あ、相変わらずの切り替えだなぁ~。普通の人はもっと文句を言ってくると思うけど」
「な~に~? 文句を言って欲しいならいくらでも提供して差し上げるわよ~? やることが無くて暇してるしね~?」
からかように流し目で私を見てくるコルに、ブンブンと首を振って否定の意を示す。
コルが冗談を言っているのは私にだって分かるけど、下手な答えを返しでもしたら冗談の延長で本当に説教されかねないんだよな~……。
慌てて両手と首を振る私に呆れたように息を吐いてから、軽く咳払いして真面目な表情を浮かべるコル。
「それじゃメル。魔法技師としての意見を聞かせて。テレスと通信する為の大出力の通信装置は、今この状況下でも用意することは可能なの?」
「可能だよ。けどそれを作り出すためにはもうちょっと魔力が足りてない感じなんだ」
魔法技師の私は、魔力さえあればある程度のマジックアイテムは自力で生み出せる。
けれどこの世界の創世と維持にも莫大な魔力を消費しちゃってるから、余剰分の魔力はまだあまり多くないのだ。
「その魔力が溜まるにはどのくらいの時間がかかる見込みかしら?」
そんなことはコルも分かっているのだろう。
特に文句を言うでもなく、淡々と事実確認を続けてくる。
「今の魔力の流入量を考えると、72時間程度は掛かると思う。早くて、だけど……」
「72時間……。思ったより長いような短いような、なんとも判断が難しい時間ねぇ。ちなみにその時間を短縮することは無理なの?」
「それはあまりお勧め出来ないかな……。コルは魔力の流入量を増やせって言ってるんだと思うけど、そうすると今度は通信に必要な出力も上がっちゃうからね。相対的に見ると意味が無い行為だと思うんだ」
「あ~……。流入してくる魔力を押し返す出力を求めてるのに、魔力の流入量を増やすんじゃ本末転倒かぁ~っ……!」
私の説明を聞いたコルは、頭を抱えて蹲ってしまった。
先遣隊のリーダーとして一刻も早くテレスと連絡を取りたいコルとしては、かなり辛い状況なんだろうなぁ。
この世界に降り立った時も絶望的な状況ではあったけど、今の状況は膠着しているものの閉塞しているわけじゃない。
72時間経てば安全にテレスに連絡が取れる算段がついているのだ。
けれどその72時間でテレスの人々が他の世界に移住してしまう可能性は少なくない。
そう判断して魔力の流入量を増やせば、マジックアイテムの製作は早まっても通信に必要な魔力出力も増加してしまうので、連絡にかかる時間が短縮されるとは限らない。
最悪の場合は今より状況を悪化させてしまう可能性だってある。
だから迂闊には決断出来ないんだろうな……。
「大体コラプサーから逃げる為に越界してきたのに、魔力を呼び込みすぎたら本末転倒よね……。仮にここが移住先に選ばれたとしたら今の魔力流入量じゃ足りないけど、それはテレスの上層部が判断して調整するべき話だし……」
「まぁ、魔力が全く存在しない世界だったから、コラプサーに目を付けられる事はまず無いとも思うけどね……」
本来はテレスにだってコラプサーが出現することは無かったはずなんだよねぇ……。
だけど人類はどこまでも強欲で、果てしなく魔法技術を発展させすぎてしまったから……。
魔法技術の全てを否定するような相手が魔法文明の行き着く果てに現れるなんて、なんだか神様っているんだなぁって思わされちゃうよ。
「ん~……。このまま72時間手を拱いているのは避けたいけど、ちょっと私だけで判断しなきゃいけないような問題でもないわよね。2人が帰還したら4人で相談しましょ」
「ん、りょーかい。私は何か方法が無いか考えてみるよ」
コルは責任重大な決断を迫られる時は自分1人で決断するくせに、どっちを選んでも平気みたいな時は積極的に相談したがるんだよなー。
まったく、頼りになるリーダーだよ。
私たちが生み出した大地と環境の調査に赴いていたカルとミルも戻ってきて、4人揃っての報告と相談会が始まる。
「当然と言えば当然なんだけど、私達の他には微生物1匹存在してないねー。大地は生み出したけど、まだ水が無いからなー」
「用心の為に私も同行したけど、はっきり言って散歩しただけだったかな。大地が続いているだけの見応えのない風景だったけどね」
退屈な調査だったよと、2人揃って肩を竦めるカルとミル。
カルとミルの言っていることなんて調査するまでも無く分かっていたことだけど、越界の大転移魔方陣にだってトラブルが生じてしまった今、想定だけで物事を判断するのは危険だと、コルの判断で2人はフィールドワークに赴いたのだった。
……その結果は私たちの想定通りみたいだったけど。
「精霊魔法で測定してみたところ、大地の面積は約200k㎡くらいだね。ただ流入する魔力が少しずつ大地に変換されているみたいだから、長い時間をかけてゆっくり広がって行きそうかな」
「200k㎡ね。テレスの全人口が移住してくるとなると全然足りないと思うけど、一時的な避難場所としては充分すぎる面積ね。広がるペースは?」
「正確には何とも言えないけど、現在の魔力流入量だと毎分1センチ弱って感じじゃないかな? ただしこの大地や環境の維持にも魔力が使用されているから、最終的にはどこかでブレーキがかかるはずだ」
「毎分1センチとして……365日で5k㎡くらい? 最終的に止まるみたいだし、その程度なら特に留意する必要も無いかしらね」
「だねー。生物や植物なんかを生み出したらもっと魔力消費は増えるはずだから、コラプサーが現れる心配は全く無いよー」
3人の話し合いに技術者の私は口を挟まず、黙って耳を傾ける。
テレスの人たちが全員移住してきたらあまりにも狭すぎるけれど、もしも私たちもここを放棄して別の世界に越界することになっても問題は起きなさそうなんだね。良かった良かった。
私たちの都合で勝手に創世しちゃったのに、そのせいでコラプサーを呼び込んで世界を消滅させるような事になってしまったら流石に酷すぎるもんねぇ……。
「じゃあ今度はこっちの話ね。メルの見立てだとテレスに通信できるようになるのは72時間は掛かるみたいなんだ。そこでみんなの意見を聞いてみたいのよ」
最短でも72時間はテレスと通信が取れないこと。
その状況を打開する為に何か手を打ったら、状況が好転する可能性も悪化する可能性も等しくあること。
72時間の間は魔力をあまり無駄遣い出来ないこと。
そして私たちはなるべく早くテレスと連絡を取らないといけない状況にある事を、改めてコルが説明する。
「72時間待てば安全に通信する手段が得られる。けれどその72時間で私たちはこの世界に取り残されてしまう可能性があるわけよ。そこで4人で相談して、どっちを選ぶか決めたいのよねー」
「ちなみに技術者の視点で言わせてもらうなら、出来れば72時間待つ方を推奨するよ。まずありえないと思うけど、この世界に流れ込んでいる魔力はコラプサーのいるテレスのものだから、魔力流入量を増やした際に何らかのアクションを起こされる可能性は無視出来ないよ」
「それを言っちゃったら避難のために大越界するのはかなり危険だよねー。こういうことを言い出したらキリが無いんだけどさー」
カルの言う通り、テレスの人たちが集団大越界転移をする時が1番危険なんだよねぇ。
でもコラプサーは人ではなくて魔力に引かれる存在だから、人の根絶を狙って追いかけてくるとは考えにくい。
膨大な魔力を必要とする転移の瞬間こそが危険なのであって、転移さえしてしまえば安全は確保できるとも思う。
「私は72時間待つほうに1票入れるよ」
「こーらミル。面倒臭がらずにちゃんと理由まで言いなさーい」
「はいはい、了解だよリーダー」
コルのツッコミに面倒臭そうに応えるミル。
戦闘の時はすっごく頼りになるのに、お喋りするのがあまり好きじゃないんだよなーこの子は。
「私たちは転移直後に死んでいてもおかしくなかったからね。メルのアイディアとコルの判断、そしてカルの生み出した環境のおかげで命を繋げたんだ。仮にテレスに置き去りにされたとしても、今生きているだけで充分だ。想定外の脅威を呼び込む可能性がある行動は推奨出来ないよ」
「個人的な感情ではなく、戦闘員の視点でも推奨出来ないのね?」
コルの問いかけに、ミルは黙って頷きを返す。
戦闘員のミルと技術者の私が推奨出来ないと言ってしまったので、コルも諦めて72時間待つ事にしたようだ。
この間は魔力をあまり使用できずに環境の調整、整備が行えないカルが、最後までぶーぶー不満を漏らしてたけどね。
魔力が溜まるまでの時間は、4人でひたすら話をして過ごした。
テレスの人たちに置き去りにされてしまうことは考えたくなかったけれど、そういう可能性もあることは先発隊に抜擢された時からみんな覚悟している。
なのでもしもこの世界に4人だけで永住する事になったら、どんな世界にしたいかを話し続けた。
「やっぱり、どれだけ時代が進んだとしてもコラプサーを呼び込むのは避けたいわよね。人類同士が戦争を起こして魔法技術を飛躍的に発展させないよう、あえて人類の敵性存在を用意するのはアリだと思うの」
「ん~っ! 生物の創造はかなり迷うねっ! でもこのままじゃ食事も出来ないし環境の循環も起きないから、何処までと割り切って生物も生み出さなきゃいけないんだよな~っ! 生物学者としては手を出したくないけど、環境学の専門家としては手を出さざるを得ないよ~」
「コラプサーを呼び込まないことが1番大切だけど、どうせ現れないだろうってなんの対抗手段も用意しておかないのも問題だよ。いつかこの地にコラプサーがやってきた時、奴をどうにか撃退、可能ならば殲滅できる手段を用意しておきたいな」
んー、リーダーのコルと戦闘要員のミルは、どうしてもコラプサーを中心に考えちゃうよねー。
カルは学者だから生物の必要性を誰よりも分かっているけど、学者だからこそ自分の手で生物を生み出す事に躊躇いを覚えているみたいだった。
「コラプサーをどうにかできる方法があるならテレスは滅んだりしてないってのーっ。少なくとも魔法技術でアイツに対抗するのは無理だよねー。片っ端から魔力を食っちゃうんだもん。あんな生物見たことないよ~っ。……そもそも生物なのかも分からないけどさぁ」
「今のところ移動魔法で遠くに飛ばすことには成功してるんだっけ。けど越界させるほどの大転移をコラプサーに仕掛けるのは難しいだろうね。でも移動魔法が足掛かりにはなりそうだな……」
「……ま、あの化け物への対抗策なんて、私たちが考えるべき問題じゃないと思うけどねー」
コラプサーの話題を嫌ったのか、コルが少し強引に話を切り上げた。
コルはリーダーとして私たち以上にコラプサーの脅威を学んできたから、アイツに抱いている恐怖心も人一倍強いのかもしれない。
「それでメル。貴女はここをどんな世界にしたいのかしら?」
「へ? 私?」
「そうそう、メルトレスティさんに聞いてるんですよー。この世界を調整する事になったら、実際に作業するのは学者のカルと技術者のメルだからね。メルの意見もなるべく取り入れていきたいのよ」
「え、え~……? 私はいいよぉ。3人の好きなように決めてってばぁ……」
「細かい事はいいから、この世界をどんな世界にしていきたいかくらいは教えてくれない? 緑豊かな世界にしたいとか、青い海が広がる世界にしたいとか、漠然としたイメージでいいからさっ」
コルの質問に、改めてこの世界で暮らしていくことをイメージしてみる。
私がこの世界に望むもの。この世界で私が送りたいと思う理想の生活ってなんだろう?
考え込む私に、ニコニコしながら私の言葉を待つ3人の姿が目に入った。
「あっ、そっか……」
私が望むのは、みんなで仲良く楽しく暮らせる世界。
誰もが笑ってて、みんなが一緒に居られる幸せな世界で暮らしたい。
いがみ合って憎しみ合って、その末に世界を滅ぼしてしまう……。そんな愚かで悲しい世界はもう沢山だ。
「私は、この世界を優しい世界にしたいな……」
思わず零れた私の呟きは、その後もずーっとからかわれるネタにされちゃった。
けれど3人ともからかいはしても、私の願いを否定することは1度も無かった。
こんな優しい3人みたいな世界に、人の悪意とは無縁の優しい世界になって欲しい。
それが私の素直な願いだった。
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Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。
この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。
こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。
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