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8章 新たな王と新たな時代1 色狂いの聖女
574 兄 (改)
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「待ってよダンさん」
「はい?」
ゴブトゴさんとの話も円滑に進み、無事にシャロを家族に迎える事が許されたので、早速シャロの荷物や愛妾たちを引き取りに行こうと応接室を出た俺とシャロの背中に、微かに怒気を孕んだロイ殿下が声をかけてくる。
振り返ってみるといつものヘラヘラした表情を浮かべているロイ殿下だったけど、その声はなんとなく強張っているように感じて、いつもの余裕が感じられない。
「これからちょっと話せないかな? 俺と2人で。真面目な話があるんだよ」
「今じゃなきゃダメです? 俺って今からラズ殿下の奴隷を迎えにいったりしなきゃいけないんですけど」
「子供じゃないんだ。ラズだって身辺整理くらい1人で出来るよ。な、ラズ?」
「済みませんが主人を通さず私に声をかけてくるのは控えていただけます?」
「ひどっ!?」
取り付く島も無いシャロの態度に、いつも通りのツッコミを入れるロイ殿下。
茶化した雰囲気だけど、この場を譲ってくれる気はなさそうだ。
う~ん……。野郎と2人きりで会話するとか、想像するだけで嫌になるなぁもう。
でもこの2日間対応してもらったこともあるし、こっちも多少は譲るべきかぁ。
「じゃあちょっとだけ待ってもらえます? パパっと済ませちゃうんで」
「へ? 待つのはいいけど、済ませるって何を?」
「シャロ。ステータスプレートを出してくれるかな?」
「え、私ですか? 分かりました」
首を傾げながらステータスプレートを取り出したシャロの腰を抱き寄せ、困惑するシャロを正面から見詰めて宣言する。
本当ならもっとムードやシチュエーションに拘りたいところだけど、きっとシャロが1番喜んでくれるのは今だろ。
「……シャーロット・ララズ・スペルディア。俺は貴女に婚姻を申し込みたい」
「あはっ。そういう事でしたか」
俺の結婚の申し込みに溢れんばかりの笑顔で応えててくれるシャロ。
流石のシャロもこのタイミングでプロポーズされるとは思っていなかったらしく、意図せずサプライズが成功してくれたようだ。
「俺の可愛いシャロ。今後命が続く限り俺と連れ添って、死ぬまで俺の子供を産み続けてくれる?」
「勿論ですご主人様っ。私たちの子供だけでアライアンスボードをいっぱいにしましょうねっ?」
……いくら底無しの俺と最高に可愛いシャロでも、500パーティ、つまり3000人も子供を作るのは無理じゃない?
なんて野暮なツッコミを入れる前にステータスプレートが光って、無事にシャロとの婚姻契約が成立してくれたようだ。
ダン 男 26歳 勇者 仕合わせの暴君
ニーナ ティムル フラッタ リーチェ ヴァルゴ
ニーナ(婚姻) ティムル(婚姻) フラッタ・ム・ソクトルーナ(婚姻)
リーチェ・トル・エルフェリア(婚姻) ムーリ(婚姻)
エマーソン・ソクトヴェルナ(婚姻) ヴァルゴ(婚姻) ターニア(婚姻)
ラトリア・ターム・ソクトルーナ(婚姻) リュート・マル・エルフェリア(婚姻)
シャーロット・ララズ・スペルディア(婚姻)
奴隷契約(非表示)
お互いのステータスプレートを見ながらシャロと唇を重ね、永遠の愛を己の魂に誓う。
第一印象は最悪だったシャロと、まさか夫婦になる日がくるなんて思ってなかったよ。
けれど夫婦になった以上は、シャロの事を誰よりも幸せにして見せるから、俺と一緒に幸せになろうね。
「……それこそ今でなきゃダメだったの? 城の中でよくもまぁ躊躇わずにそんなことが出来るもんだよ」
不機嫌そうに問いかけてくるロイ殿下をスルーして数十秒ほどたっぷりとシャロとキスを交わし、シャロに強く舌を吸われながらゆっくりと顔を離した。
シャロはエロ経験値が高めだから、積極的に気持ちよくしてくれるなぁ。
「女性に愛を誓う場所に拘りは無いですよ。ゴブトゴさんにも祝福されちゃったし、まだ妻と婚姻を結んでいないのはあまり良くないなと思いまして」
「くすくす。色狂いの貴方らしくない、とても常識的なお言葉ですね?」
「……っ」
「色に狂った私は人目など、ましてや肉親の目など気にしませんよ? ですが今後はご主人様の妻として接してくださいますようお願いしますね?」
ロイ殿下を一瞥して、再度唇を重ねてくるシャロ。
他でも無いシャロに色狂いらしくないと言われてしまったロイ殿下は、今度はシャロの長い長いキスが終わるまで何も言わずに数分間待ってくれた。
そんなロイ殿下に度々挑むような視線を送りながら、彼に見せ付けるように俺の舌を引っ張り出すほどに強く吸い出したシャロ。
その舌を押し込むようにもう1度と唇を押し付けてきた後、唾液の橋を架けながらゆっくりと唇を離し、ロイ殿下に背を向けたま自然な口調で甘えてくる。
「それではシャロはみんなに事情を説明して、移動の準備を進めて参ります。ですがシャロはお腹が空いてきましたので、お話が終わったら帰る前にもう1度ご主人様のでお腹いっぱいにしてくださいますか?」
「どう見てもまだ膨らんでるように見えるけど、お腹が空いたのなら仕方ないね。せっかくだから最後に城で可愛がってあげたいけど、シャロもそれでいい?」
「畏まりました。皆の前と2人きり、ご主人様はどちらが宜しいです?」
まるで夕飯の献立を話し合うように、ロイ殿下の前で愛の営みについて打ち合わせする。
ロイ殿下の前であえて色狂いとして振舞いながらも、彼には決して見せてこなかった笑顔を向けてくれるシャロが眩しくて仕方ない。
「俺としては2人きりで思い切り愛してあげたいところだけど、ここはシャロの希望に沿いたいかな。俺はシャロを他の男に見せ付ける趣味は無いけど、シャロが見せたいなら受け入れるよ」
「ふふ。では皆と相談してみますね。それでは貴方だけのシャロは私室で塗らしてお待ちしておりますので、早く来て沢山注いでくださいませ」
最後にもう1度唇を重ね、俺のお尻を抱き寄せて自分の股間をぐりぐり押し付けてきてから、名残惜しそうに立ち去っていくシャロ。
そんな彼女の背中が見えなくなってから、ようやく長い長い溜め息を吐くロイ殿下。
「はぁ~……。待ちくたびれちゃったよ。女性に待たされるのは楽しいけど、男性に待たされるのはコレっきりにして欲しいね?」
「済みませんね。妻とはパーティ契約を結べないので、婚姻契約を結んでおかないと少々不安だったもので」
俺はこの城内を敵地だと思っているし、スペルディア家も新女王マーガレット陛下も味方とは思ってないからな。
更にシャロがあまりにも魅力的過ぎて、城内で無茶な事をやらかす輩が出てきてもおかしくないと思ってるから、今の内にステータスプレートで繋がっておきたかったのだ。
シャロのパーティ『女郎蜘蛛』は未だにファミリアに登録したままだけど、やっぱりシャロ本人と直接繋がっている方が安心できる。
肉体的にも精神的にも、本人と直接繋がるに限るのだ。
「それと2度目に待たせたのは妻のほうなので、どうぞ楽しんでいいですよ?」
「楽しめないよ! 何が悲しくて他の人間の情事を見せ付けられなきゃいけないのさっ!? 俺にそんな趣味は無いからねっ!?」
「まぁまぁロイ殿下。騒いでないでとっととお話を済ませましょう」
「なんで俺が待たせたみたいになってんのさっ!? ったく、ついてきてくれ」
苛立たしげに吐き捨て、くるりと踵を返すロイ殿下。
そうして独り歩き去るロイ殿下を、俺はその場に留まって見送った。
「いやついてきてよぉっ!? なんで妹のキスシーンを数分間見せ付けられた挙句、1人で帰らなきゃいけないんだよぉぉぉぉっ!?」
……わざわざ数歩歩いてからツッコミを入れるとか、この人日本出身じゃないだろうな?
うん。やっぱりなんか弄り甲斐があるなこの人。
でもこれ以上時間を無駄にしてシャロを可愛がるのが遅れるのも嫌なので、全身で不満を表現するロイ殿下に仕方なくついていった。
「まったく……。まだ話をする前だってのにえらくくたびれちゃったじゃないか」
ブツブツと不満を口にしながら、目的地らしい部屋のドアを自ら開けて俺を招き入れるロイ殿下。
どうやら案内されたのはロイ殿下の私室らしく、センスの良さそうな調度品が散りばめられた部屋の中央には、コレがメインだとばかりに巨大なベッドが設置されていた。
どう見ても複数人で同時に有酸素運動を楽しめそうなサイズのベッドだけど、部屋には俺とロイ殿下しかいないようだ。
「こんな部屋に連れ込んで、本当にするのは話だけなんでしょうね?」
「なぁに? 俺と2人っきりなのが嫌なら妻を呼ぼうか? 隣りの寝室に何人かいるはずだから」
ロイ殿下の言葉に部屋の奥を見ると、入り口からは少し分かりにくい色をしたドアがある事に気付いた。
ってここが寝室じゃないなら、この巨大ベッドはいったいナニに使ってるんですかね?
「人妻に手を出すわけにはいきませんが、それでもロイ殿下と2人きりで過ごすよりはマシかもしれませんね。呼んでいいですよ」
「嫌だよっ! 俺は妻を独占する主義なんでねっ! 不必要に他の男性の目に触れさせる気は無いからっ」
「……はぁ~~」
じゃあ始めっから言わないでくださいよ、面倒臭いなぁという言葉をギリギリ飲み込んで、代わりに長い溜め息を吐く。
さっきは待たせるな的な発言をしてた癖に、自分だってなかなか用件を言わないじゃんかぁ。
「じゃあさっさと話を始めましょうよ。今の状況はお互いに不本意みたいですし」
「だねぇ。じゃあソファに腰掛けてもらえるかな? 流石に男をベッドに座らせたくないから」
「俺も座りたくないですよ。じゃあ失礼します」
ロイ殿下に指し示された大きめのソファに腰を下ろす。
この手触りって、もしかしてスレッドドレッド製? マジで拘ってるんだなこの人。
俺の対面に腰を下ろしたロイ殿下は、思ったよりも真面目な表情で俺に問いかけてくる。
「話というのは当然ラズのことだよ。これでもラズの事は可愛がっているつもりでね、いくらダンさんと言えども簡単には任せられないな」
「えー? ロイ殿下ってそういうキャラじゃないでしょ。でもまぁ残念ながら妻のお兄様でいらっしゃるわけですし、話くらいは聞きましょう」
「……悪いけどおふざけに付き合う気分じゃないんだ」
真剣な表情で俺の態度を咎めるロイ殿下。
あらら? 俺のいじりに乗ってこないなんて、やっぱなにか悪い物でも食べたんじゃないのか? こっそり浄化魔法でもいっとく?
「なら単刀直入にお願いします。優秀なロイ殿下と違って、俺はあまり察しが良くないもので」
「……産まれた時から見てきたけど、さっきみたいなラズは初めて見たんだ。だからラズの兄として聞かせてもらうよダンさん……」
「……はぁ。どうぞ、何なりと聞いてくだ……」
「アンタ、俺の妹にいったい何をした……!?」
俺の言葉を意図的に遮って、強い敵意を込めた目で俺を睨みつけるロイ殿下。
でも何をしたと言われてもな……? 多分アンタもやったことがあることしかしてないんだよなぁ。
「信じる信じないはご自由にされればいいと思いますけど、妻の案内でスレッドドレッドの餌を調達し、彼らを犠牲無く大人しくさせただけですよ?」
「それだけであのラズがああも変わり果てるとは思えないって話をしてるんだよ……! 俺の妹に、ラズに何をしたんだダンさん……!」
「いや、そんな凄まれてもマジで心当たりないんですって」
ぶっちゃけ心当たりがないのは本音なんだよ?
いくらどこかの馬鹿に弄ばれていたとは言え、それが俺を選ぶ理由にはならないはずなのに。
「でもなんか俺にメロメロになってくれたんで、せっかくなので貰ってあげようかなって?」
「王女であるラズを……俺の妹をそんなに軽い気持ちで貰われちゃあ堪ったものじゃないなぁ……!? いくらラズから関係を迫ったとは言え、流石にその態度は無いんじゃない……!?」
込められた敵意から察するに、ロイ殿下が本気で俺に憤っているのは分かるんだけど……。
でも、いったい何が言いたいんだこの人は?
王族として敬われていないのが不満とか? でも今までも散々弄り倒してきた気がするけどねぇ。
「済みませんけどはっきり言ってもらえませんか? 何を仰りたいのかさっぱり分かりません」
「……なんだと?」
「ロイ殿下は何かをお疑いのようですけど、俺は妻と一緒にスレッドドレッドの問題を解決しただけですよ? なんなら誓いましょうか?」
「まだ俺は認めていないと言ったよねぇ!? 人の妹を気軽に妻妻言わないでくれるかなぁ!?」
「彼女が俺の妻である事は、さっき貴方の目の前で見せた通りなんですけど……」
妻を妻と言って何が悪い! とか言いたいところだけど、今のロイ殿下はあまり弄り甲斐が無さそうだ。
でもシャロに執着してるってことだけは嫌ってほど伝わってきた。
「えーと、なんですか? ひょっとしてロイ殿下、妹を取られたからキレてるんですか?」
「おふざけに付き合う気はないとも言ったはずだっ!!」
ソファから身を乗り出して、今にも飛び掛かってきそうな様子で激昂するロイ殿下。
そんな彼の叫びを聞いて、隣の部屋からは動揺したように扉に耳を当てている生体反応がいくつか動いている。
この反応が隣室にいるというロイ殿下の奥さんたちか。
なんだか怖々している辺り、あまり戦えそうには思えないかな。
「俺と敵対したくないと言っていたロイ殿下がここまで怒りを顕わにしているんです。ふざけてるつもりはないですよ?」
おふざけに付き合う気分じゃないのはお互い様だ。
何が悲しくて、シャロを可愛がるのを先延ばしにして、かつて最もシャロを弄んだ男と会話しなきゃならないんだよ。
「ですが、一向に用件を仰ってくれないのはロイ殿下のほうじゃないですか。仰りたい事があるならはっきりと仰ってもらえますか?」
「じゃあ言ってやるよっ! お前はラズに何かしたんだろう!?」
俺の問いかけに喰い気味に答えるロイ殿下。
何かしたって、ナニをしたんだよ、アンタだって散々してきたんだろ?
「俺の妹に何かして、俺からラズを奪ったんだろうがっ! そうじゃなければあのラズが、あんなに変わり果てるわけがないんだっ!」
……やっぱ妹が取られたからキレてんじゃないかよ。
色狂いってだけでも終わってるのにいい歳してシスコンとか終わってますよ?
引き取った娘に手を出してる俺は滅びるべきかもしれないけど?
ひょっとしたらロイ殿下は、シャロを好き放題手篭めにして、シャロの事を自分の所有物だと思い込んでいたのかもしれない。
長年全力で仕込んだ自分の最高傑作が横取りされた気にでもなってるのかもな。下らない。
「……ふむ。つまりロイ殿下は、俺がまだ何らかの情報を隠していると思ってらっしゃるわけですね」
「白々しいっ! どうせバレないと思っているのかっ!?」
「そうですね……。例えば心を操る魔法薬とか、意志を縛るスキルとか、そういった物で妻を強制的に自分の物にしたのだとお疑いになっていると」
「建国の英雄リーチェ、王国最強の双竜姫ラトリアとか、アンタの周りにはあまりにも美女が集まりすぎてる! それもその力を持って集めたんだろう? この卑怯者めっ!」
いやぁ……。俺の周りに美人が集まってくる理由は、俺にも分からないんですよね~。
以前ニーナにも指摘されて、割と真剣に話し合った事を思い出してしまうなぁ。
って言っても、今のロイ殿下は俺がなにを言っても納得してくれないだろう。
今のロイ殿下はシャロの事で冷静さを欠いてて、俺を否定することから思考がスタートしている。
だから俺がやってないと言っても信じてくれないし、何も見つからなくても何か隠しているはずだと言って、絶対に疑念が晴れる事はないだろう。
「……宜しい。妻もロイ殿下に感謝していると申し上げておりましたし、俺も腹を割って話しましょう」
今のロイ殿下に俺の話をするのは悪手だ。
意外な事にロイ殿下はシャロに強い執着を見せていて、シャロを守る為に、もしくはシャロを連れ去ろうとしている俺を否定する為に俺に突っかかってきているわけだ。
俺の話を否定する為に会話している相手には、どんな説明も弁明も意味を成さない。
じゃあ今なにを話すべきか。そんなもの、シャロの事に決まってる。
「腹を割って、ねぇ? いったいどんな話を聞かせてもらえるんだか……」
「まだ妻との付き合いは浅いですが、それでも俺が妻に関して感じたことを申し上げさせてもらいますよ」
ボロボロの仮面に隠し通したシャロの真実。
ボロボロの仮面で必死に守り通したシャロの本音を教えてやる。
「覚悟は宜しいですかロイ殿下? これから貴方は真実を知り、そして心砕かれる事になりますが」
「……はぁ? 今聞いているのはあんたがラズに何をしたかなんだけど? なんで俺が覚悟を決めなきゃいけないのさ? 馬鹿馬鹿しい」
「……なんで覚悟を決めるのか、だって?」
否定から入る人間に真っ向からぶつかるのは得策じゃあないんだけど。
自分の意見の認識が完全に的外れだったと認識する程度の地頭は、この人は持ち合わせているだろう。
「貴方が俺の妻に抱いている認識がまるっきり的外れで、ロイ殿下は妹のことなんかちっとも分かっていないってことを思い知る覚悟を決めろって言ってんだよ。この馬鹿殿下」
「ははっ! 言うに事欠いて、俺がラズのことを分かっていないだって!? 面白い、聞かせてもらおうじゃないかその話」
言われなくても聞かせてやるさ。
いくらシャロが感謝していたとしても、幼かったシャロがアンタに安らぎを覚えていたとしても。
それでもアンタがシャロにやったことは、絶対に許されることじゃねぇんだからなぁ……!
まるでスポットの最深部でティムルが熱視を発現した時のような、内側から身を焦がすような激しい怒りが逆巻いているのを感じる。
けれどこの炎は身を焦がすほどの熱量なのに、何故か思考から熱を奪い、逆巻けば逆巻くほど俺の思考を冴え渡らせる。
「まず大前提……根本的なことからアンタは間違ってるんですよ。俺の妻の1番の理解者みたいな顔をして、アンタは妻の事を何1つ分かっていなかったんだ」
「それは聞いたばかりだよー? 俺はその内容を聞いてるんだけどー? 適当な出任せでこの場を煙に巻こうって算段だったのかなー?」
こんなことをしても、人の心を本質的に理解できないアンタには何も思い知らせることが出来ないかもしれないけれど。
それでも俺の可愛いシャロを弄んだ報いとして、アンタのシャロへの想いだけは、シャロの夫としてきっぱりと否定させてもらう。
「アンタは見る目が無いから気付かなかったようですけどね。妻は色狂いなんかじゃないんですよ?」
「…………はぁ?」
俺の言葉が予想外だったのか、馬鹿にしたような態度で聞き返してくる馬鹿殿下。
ただでさえ馬鹿殿下なんだから、これ以上馬鹿面晒してんじゃねぇよ。
馬鹿なお前がシャロと繋いできたと勘違いしているその絆。
これからシャロの夫の俺が責任を持って、ひと欠片も残さず完全に否定してやるからなぁ……?
「はい?」
ゴブトゴさんとの話も円滑に進み、無事にシャロを家族に迎える事が許されたので、早速シャロの荷物や愛妾たちを引き取りに行こうと応接室を出た俺とシャロの背中に、微かに怒気を孕んだロイ殿下が声をかけてくる。
振り返ってみるといつものヘラヘラした表情を浮かべているロイ殿下だったけど、その声はなんとなく強張っているように感じて、いつもの余裕が感じられない。
「これからちょっと話せないかな? 俺と2人で。真面目な話があるんだよ」
「今じゃなきゃダメです? 俺って今からラズ殿下の奴隷を迎えにいったりしなきゃいけないんですけど」
「子供じゃないんだ。ラズだって身辺整理くらい1人で出来るよ。な、ラズ?」
「済みませんが主人を通さず私に声をかけてくるのは控えていただけます?」
「ひどっ!?」
取り付く島も無いシャロの態度に、いつも通りのツッコミを入れるロイ殿下。
茶化した雰囲気だけど、この場を譲ってくれる気はなさそうだ。
う~ん……。野郎と2人きりで会話するとか、想像するだけで嫌になるなぁもう。
でもこの2日間対応してもらったこともあるし、こっちも多少は譲るべきかぁ。
「じゃあちょっとだけ待ってもらえます? パパっと済ませちゃうんで」
「へ? 待つのはいいけど、済ませるって何を?」
「シャロ。ステータスプレートを出してくれるかな?」
「え、私ですか? 分かりました」
首を傾げながらステータスプレートを取り出したシャロの腰を抱き寄せ、困惑するシャロを正面から見詰めて宣言する。
本当ならもっとムードやシチュエーションに拘りたいところだけど、きっとシャロが1番喜んでくれるのは今だろ。
「……シャーロット・ララズ・スペルディア。俺は貴女に婚姻を申し込みたい」
「あはっ。そういう事でしたか」
俺の結婚の申し込みに溢れんばかりの笑顔で応えててくれるシャロ。
流石のシャロもこのタイミングでプロポーズされるとは思っていなかったらしく、意図せずサプライズが成功してくれたようだ。
「俺の可愛いシャロ。今後命が続く限り俺と連れ添って、死ぬまで俺の子供を産み続けてくれる?」
「勿論ですご主人様っ。私たちの子供だけでアライアンスボードをいっぱいにしましょうねっ?」
……いくら底無しの俺と最高に可愛いシャロでも、500パーティ、つまり3000人も子供を作るのは無理じゃない?
なんて野暮なツッコミを入れる前にステータスプレートが光って、無事にシャロとの婚姻契約が成立してくれたようだ。
ダン 男 26歳 勇者 仕合わせの暴君
ニーナ ティムル フラッタ リーチェ ヴァルゴ
ニーナ(婚姻) ティムル(婚姻) フラッタ・ム・ソクトルーナ(婚姻)
リーチェ・トル・エルフェリア(婚姻) ムーリ(婚姻)
エマーソン・ソクトヴェルナ(婚姻) ヴァルゴ(婚姻) ターニア(婚姻)
ラトリア・ターム・ソクトルーナ(婚姻) リュート・マル・エルフェリア(婚姻)
シャーロット・ララズ・スペルディア(婚姻)
奴隷契約(非表示)
お互いのステータスプレートを見ながらシャロと唇を重ね、永遠の愛を己の魂に誓う。
第一印象は最悪だったシャロと、まさか夫婦になる日がくるなんて思ってなかったよ。
けれど夫婦になった以上は、シャロの事を誰よりも幸せにして見せるから、俺と一緒に幸せになろうね。
「……それこそ今でなきゃダメだったの? 城の中でよくもまぁ躊躇わずにそんなことが出来るもんだよ」
不機嫌そうに問いかけてくるロイ殿下をスルーして数十秒ほどたっぷりとシャロとキスを交わし、シャロに強く舌を吸われながらゆっくりと顔を離した。
シャロはエロ経験値が高めだから、積極的に気持ちよくしてくれるなぁ。
「女性に愛を誓う場所に拘りは無いですよ。ゴブトゴさんにも祝福されちゃったし、まだ妻と婚姻を結んでいないのはあまり良くないなと思いまして」
「くすくす。色狂いの貴方らしくない、とても常識的なお言葉ですね?」
「……っ」
「色に狂った私は人目など、ましてや肉親の目など気にしませんよ? ですが今後はご主人様の妻として接してくださいますようお願いしますね?」
ロイ殿下を一瞥して、再度唇を重ねてくるシャロ。
他でも無いシャロに色狂いらしくないと言われてしまったロイ殿下は、今度はシャロの長い長いキスが終わるまで何も言わずに数分間待ってくれた。
そんなロイ殿下に度々挑むような視線を送りながら、彼に見せ付けるように俺の舌を引っ張り出すほどに強く吸い出したシャロ。
その舌を押し込むようにもう1度と唇を押し付けてきた後、唾液の橋を架けながらゆっくりと唇を離し、ロイ殿下に背を向けたま自然な口調で甘えてくる。
「それではシャロはみんなに事情を説明して、移動の準備を進めて参ります。ですがシャロはお腹が空いてきましたので、お話が終わったら帰る前にもう1度ご主人様のでお腹いっぱいにしてくださいますか?」
「どう見てもまだ膨らんでるように見えるけど、お腹が空いたのなら仕方ないね。せっかくだから最後に城で可愛がってあげたいけど、シャロもそれでいい?」
「畏まりました。皆の前と2人きり、ご主人様はどちらが宜しいです?」
まるで夕飯の献立を話し合うように、ロイ殿下の前で愛の営みについて打ち合わせする。
ロイ殿下の前であえて色狂いとして振舞いながらも、彼には決して見せてこなかった笑顔を向けてくれるシャロが眩しくて仕方ない。
「俺としては2人きりで思い切り愛してあげたいところだけど、ここはシャロの希望に沿いたいかな。俺はシャロを他の男に見せ付ける趣味は無いけど、シャロが見せたいなら受け入れるよ」
「ふふ。では皆と相談してみますね。それでは貴方だけのシャロは私室で塗らしてお待ちしておりますので、早く来て沢山注いでくださいませ」
最後にもう1度唇を重ね、俺のお尻を抱き寄せて自分の股間をぐりぐり押し付けてきてから、名残惜しそうに立ち去っていくシャロ。
そんな彼女の背中が見えなくなってから、ようやく長い長い溜め息を吐くロイ殿下。
「はぁ~……。待ちくたびれちゃったよ。女性に待たされるのは楽しいけど、男性に待たされるのはコレっきりにして欲しいね?」
「済みませんね。妻とはパーティ契約を結べないので、婚姻契約を結んでおかないと少々不安だったもので」
俺はこの城内を敵地だと思っているし、スペルディア家も新女王マーガレット陛下も味方とは思ってないからな。
更にシャロがあまりにも魅力的過ぎて、城内で無茶な事をやらかす輩が出てきてもおかしくないと思ってるから、今の内にステータスプレートで繋がっておきたかったのだ。
シャロのパーティ『女郎蜘蛛』は未だにファミリアに登録したままだけど、やっぱりシャロ本人と直接繋がっている方が安心できる。
肉体的にも精神的にも、本人と直接繋がるに限るのだ。
「それと2度目に待たせたのは妻のほうなので、どうぞ楽しんでいいですよ?」
「楽しめないよ! 何が悲しくて他の人間の情事を見せ付けられなきゃいけないのさっ!? 俺にそんな趣味は無いからねっ!?」
「まぁまぁロイ殿下。騒いでないでとっととお話を済ませましょう」
「なんで俺が待たせたみたいになってんのさっ!? ったく、ついてきてくれ」
苛立たしげに吐き捨て、くるりと踵を返すロイ殿下。
そうして独り歩き去るロイ殿下を、俺はその場に留まって見送った。
「いやついてきてよぉっ!? なんで妹のキスシーンを数分間見せ付けられた挙句、1人で帰らなきゃいけないんだよぉぉぉぉっ!?」
……わざわざ数歩歩いてからツッコミを入れるとか、この人日本出身じゃないだろうな?
うん。やっぱりなんか弄り甲斐があるなこの人。
でもこれ以上時間を無駄にしてシャロを可愛がるのが遅れるのも嫌なので、全身で不満を表現するロイ殿下に仕方なくついていった。
「まったく……。まだ話をする前だってのにえらくくたびれちゃったじゃないか」
ブツブツと不満を口にしながら、目的地らしい部屋のドアを自ら開けて俺を招き入れるロイ殿下。
どうやら案内されたのはロイ殿下の私室らしく、センスの良さそうな調度品が散りばめられた部屋の中央には、コレがメインだとばかりに巨大なベッドが設置されていた。
どう見ても複数人で同時に有酸素運動を楽しめそうなサイズのベッドだけど、部屋には俺とロイ殿下しかいないようだ。
「こんな部屋に連れ込んで、本当にするのは話だけなんでしょうね?」
「なぁに? 俺と2人っきりなのが嫌なら妻を呼ぼうか? 隣りの寝室に何人かいるはずだから」
ロイ殿下の言葉に部屋の奥を見ると、入り口からは少し分かりにくい色をしたドアがある事に気付いた。
ってここが寝室じゃないなら、この巨大ベッドはいったいナニに使ってるんですかね?
「人妻に手を出すわけにはいきませんが、それでもロイ殿下と2人きりで過ごすよりはマシかもしれませんね。呼んでいいですよ」
「嫌だよっ! 俺は妻を独占する主義なんでねっ! 不必要に他の男性の目に触れさせる気は無いからっ」
「……はぁ~~」
じゃあ始めっから言わないでくださいよ、面倒臭いなぁという言葉をギリギリ飲み込んで、代わりに長い溜め息を吐く。
さっきは待たせるな的な発言をしてた癖に、自分だってなかなか用件を言わないじゃんかぁ。
「じゃあさっさと話を始めましょうよ。今の状況はお互いに不本意みたいですし」
「だねぇ。じゃあソファに腰掛けてもらえるかな? 流石に男をベッドに座らせたくないから」
「俺も座りたくないですよ。じゃあ失礼します」
ロイ殿下に指し示された大きめのソファに腰を下ろす。
この手触りって、もしかしてスレッドドレッド製? マジで拘ってるんだなこの人。
俺の対面に腰を下ろしたロイ殿下は、思ったよりも真面目な表情で俺に問いかけてくる。
「話というのは当然ラズのことだよ。これでもラズの事は可愛がっているつもりでね、いくらダンさんと言えども簡単には任せられないな」
「えー? ロイ殿下ってそういうキャラじゃないでしょ。でもまぁ残念ながら妻のお兄様でいらっしゃるわけですし、話くらいは聞きましょう」
「……悪いけどおふざけに付き合う気分じゃないんだ」
真剣な表情で俺の態度を咎めるロイ殿下。
あらら? 俺のいじりに乗ってこないなんて、やっぱなにか悪い物でも食べたんじゃないのか? こっそり浄化魔法でもいっとく?
「なら単刀直入にお願いします。優秀なロイ殿下と違って、俺はあまり察しが良くないもので」
「……産まれた時から見てきたけど、さっきみたいなラズは初めて見たんだ。だからラズの兄として聞かせてもらうよダンさん……」
「……はぁ。どうぞ、何なりと聞いてくだ……」
「アンタ、俺の妹にいったい何をした……!?」
俺の言葉を意図的に遮って、強い敵意を込めた目で俺を睨みつけるロイ殿下。
でも何をしたと言われてもな……? 多分アンタもやったことがあることしかしてないんだよなぁ。
「信じる信じないはご自由にされればいいと思いますけど、妻の案内でスレッドドレッドの餌を調達し、彼らを犠牲無く大人しくさせただけですよ?」
「それだけであのラズがああも変わり果てるとは思えないって話をしてるんだよ……! 俺の妹に、ラズに何をしたんだダンさん……!」
「いや、そんな凄まれてもマジで心当たりないんですって」
ぶっちゃけ心当たりがないのは本音なんだよ?
いくらどこかの馬鹿に弄ばれていたとは言え、それが俺を選ぶ理由にはならないはずなのに。
「でもなんか俺にメロメロになってくれたんで、せっかくなので貰ってあげようかなって?」
「王女であるラズを……俺の妹をそんなに軽い気持ちで貰われちゃあ堪ったものじゃないなぁ……!? いくらラズから関係を迫ったとは言え、流石にその態度は無いんじゃない……!?」
込められた敵意から察するに、ロイ殿下が本気で俺に憤っているのは分かるんだけど……。
でも、いったい何が言いたいんだこの人は?
王族として敬われていないのが不満とか? でも今までも散々弄り倒してきた気がするけどねぇ。
「済みませんけどはっきり言ってもらえませんか? 何を仰りたいのかさっぱり分かりません」
「……なんだと?」
「ロイ殿下は何かをお疑いのようですけど、俺は妻と一緒にスレッドドレッドの問題を解決しただけですよ? なんなら誓いましょうか?」
「まだ俺は認めていないと言ったよねぇ!? 人の妹を気軽に妻妻言わないでくれるかなぁ!?」
「彼女が俺の妻である事は、さっき貴方の目の前で見せた通りなんですけど……」
妻を妻と言って何が悪い! とか言いたいところだけど、今のロイ殿下はあまり弄り甲斐が無さそうだ。
でもシャロに執着してるってことだけは嫌ってほど伝わってきた。
「えーと、なんですか? ひょっとしてロイ殿下、妹を取られたからキレてるんですか?」
「おふざけに付き合う気はないとも言ったはずだっ!!」
ソファから身を乗り出して、今にも飛び掛かってきそうな様子で激昂するロイ殿下。
そんな彼の叫びを聞いて、隣の部屋からは動揺したように扉に耳を当てている生体反応がいくつか動いている。
この反応が隣室にいるというロイ殿下の奥さんたちか。
なんだか怖々している辺り、あまり戦えそうには思えないかな。
「俺と敵対したくないと言っていたロイ殿下がここまで怒りを顕わにしているんです。ふざけてるつもりはないですよ?」
おふざけに付き合う気分じゃないのはお互い様だ。
何が悲しくて、シャロを可愛がるのを先延ばしにして、かつて最もシャロを弄んだ男と会話しなきゃならないんだよ。
「ですが、一向に用件を仰ってくれないのはロイ殿下のほうじゃないですか。仰りたい事があるならはっきりと仰ってもらえますか?」
「じゃあ言ってやるよっ! お前はラズに何かしたんだろう!?」
俺の問いかけに喰い気味に答えるロイ殿下。
何かしたって、ナニをしたんだよ、アンタだって散々してきたんだろ?
「俺の妹に何かして、俺からラズを奪ったんだろうがっ! そうじゃなければあのラズが、あんなに変わり果てるわけがないんだっ!」
……やっぱ妹が取られたからキレてんじゃないかよ。
色狂いってだけでも終わってるのにいい歳してシスコンとか終わってますよ?
引き取った娘に手を出してる俺は滅びるべきかもしれないけど?
ひょっとしたらロイ殿下は、シャロを好き放題手篭めにして、シャロの事を自分の所有物だと思い込んでいたのかもしれない。
長年全力で仕込んだ自分の最高傑作が横取りされた気にでもなってるのかもな。下らない。
「……ふむ。つまりロイ殿下は、俺がまだ何らかの情報を隠していると思ってらっしゃるわけですね」
「白々しいっ! どうせバレないと思っているのかっ!?」
「そうですね……。例えば心を操る魔法薬とか、意志を縛るスキルとか、そういった物で妻を強制的に自分の物にしたのだとお疑いになっていると」
「建国の英雄リーチェ、王国最強の双竜姫ラトリアとか、アンタの周りにはあまりにも美女が集まりすぎてる! それもその力を持って集めたんだろう? この卑怯者めっ!」
いやぁ……。俺の周りに美人が集まってくる理由は、俺にも分からないんですよね~。
以前ニーナにも指摘されて、割と真剣に話し合った事を思い出してしまうなぁ。
って言っても、今のロイ殿下は俺がなにを言っても納得してくれないだろう。
今のロイ殿下はシャロの事で冷静さを欠いてて、俺を否定することから思考がスタートしている。
だから俺がやってないと言っても信じてくれないし、何も見つからなくても何か隠しているはずだと言って、絶対に疑念が晴れる事はないだろう。
「……宜しい。妻もロイ殿下に感謝していると申し上げておりましたし、俺も腹を割って話しましょう」
今のロイ殿下に俺の話をするのは悪手だ。
意外な事にロイ殿下はシャロに強い執着を見せていて、シャロを守る為に、もしくはシャロを連れ去ろうとしている俺を否定する為に俺に突っかかってきているわけだ。
俺の話を否定する為に会話している相手には、どんな説明も弁明も意味を成さない。
じゃあ今なにを話すべきか。そんなもの、シャロの事に決まってる。
「腹を割って、ねぇ? いったいどんな話を聞かせてもらえるんだか……」
「まだ妻との付き合いは浅いですが、それでも俺が妻に関して感じたことを申し上げさせてもらいますよ」
ボロボロの仮面に隠し通したシャロの真実。
ボロボロの仮面で必死に守り通したシャロの本音を教えてやる。
「覚悟は宜しいですかロイ殿下? これから貴方は真実を知り、そして心砕かれる事になりますが」
「……はぁ? 今聞いているのはあんたがラズに何をしたかなんだけど? なんで俺が覚悟を決めなきゃいけないのさ? 馬鹿馬鹿しい」
「……なんで覚悟を決めるのか、だって?」
否定から入る人間に真っ向からぶつかるのは得策じゃあないんだけど。
自分の意見の認識が完全に的外れだったと認識する程度の地頭は、この人は持ち合わせているだろう。
「貴方が俺の妻に抱いている認識がまるっきり的外れで、ロイ殿下は妹のことなんかちっとも分かっていないってことを思い知る覚悟を決めろって言ってんだよ。この馬鹿殿下」
「ははっ! 言うに事欠いて、俺がラズのことを分かっていないだって!? 面白い、聞かせてもらおうじゃないかその話」
言われなくても聞かせてやるさ。
いくらシャロが感謝していたとしても、幼かったシャロがアンタに安らぎを覚えていたとしても。
それでもアンタがシャロにやったことは、絶対に許されることじゃねぇんだからなぁ……!
まるでスポットの最深部でティムルが熱視を発現した時のような、内側から身を焦がすような激しい怒りが逆巻いているのを感じる。
けれどこの炎は身を焦がすほどの熱量なのに、何故か思考から熱を奪い、逆巻けば逆巻くほど俺の思考を冴え渡らせる。
「まず大前提……根本的なことからアンタは間違ってるんですよ。俺の妻の1番の理解者みたいな顔をして、アンタは妻の事を何1つ分かっていなかったんだ」
「それは聞いたばかりだよー? 俺はその内容を聞いてるんだけどー? 適当な出任せでこの場を煙に巻こうって算段だったのかなー?」
こんなことをしても、人の心を本質的に理解できないアンタには何も思い知らせることが出来ないかもしれないけれど。
それでも俺の可愛いシャロを弄んだ報いとして、アンタのシャロへの想いだけは、シャロの夫としてきっぱりと否定させてもらう。
「アンタは見る目が無いから気付かなかったようですけどね。妻は色狂いなんかじゃないんですよ?」
「…………はぁ?」
俺の言葉が予想外だったのか、馬鹿にしたような態度で聞き返してくる馬鹿殿下。
ただでさえ馬鹿殿下なんだから、これ以上馬鹿面晒してんじゃねぇよ。
馬鹿なお前がシャロと繋いできたと勘違いしているその絆。
これからシャロの夫の俺が責任を持って、ひと欠片も残さず完全に否定してやるからなぁ……?
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