異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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8章 新たな王と新たな時代1 色狂いの聖女

575 異常性 (改)

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「実は妻、色狂いなんかじゃないんですよ? 貴方と違って」

「…………はぁ?」


 お前、頭大丈夫か? と心底馬鹿にした態度で聞き返してくるバルバロイ殿下。


 シャロを最も弄んだシスコン馬鹿殿下の部屋に連れ込まれ、その馬鹿本人にお前なんか認めないからなー! と糾弾されて、流石に俺もシャロの夫として黙っていられなくなった。

 なのでシャロを食い物にした報いとして、シャロと繋いだと勘違いしている絆からシャロ本人まで、このクソッタレなバルバロイ殿下からシャロの全てを取り上げてやることにした。


「……何を言い出すかと思えば。ははっ、ラズが色に狂っていないだってぇ?」


 そんな俺の思いも知らず、俺の言葉を笑い飛ばす馬鹿殿下。

 それからまるでウザ絡みしてくる会社の上司のように、これだから分かってない奴は……という態度で得意げに語り出してくる。


「それはお前がラズに自分の理想の女性像を勝手に押し付けているだけだろ? ま、ラズの魅力に溺れた奴にありがちだけどさぁ。でもラズの過去を知っていれば、そんなことは軽々に口には……」

「12歳から18歳までの6年間、実の兄であるアンタに妻が毎日好き放題弄ばれたって話なら知ってますよ? あんたが得意げに語ってる妻の過去ってコレのことですか?」


 ロイ殿下の言葉を遮って、お前の知らないラズを俺は知っているんだぞ、みたいなクソみたいなアドバンテージをとっとと取り払う。

 俺が知っていてお前が知らないシャロはいても、逆はもう無いんだよ。


「へぇ……知ってるんだ? ラズに聞いたの?」

「はい。昨夜妻を孕ませている時に聞きましたよ? ちなみに俺はリムーバーなんて使ってませんので、まず確実に妻は俺の子を身篭ったで……」

「聞かれた事だけ答えろ。余計な事は言わなくていい。耳が腐る」


 折角妹の懐妊報告をしてあげたっていうのに、何が気に触ったのか厳しい口調で俺の言葉を遮るロイ殿下。

 ……なんだかんだでこの男、未だにシャロに未練があるんじゃねぇの?


 シャロから別れを切り出したときにはあっさり了承したとは聞いてるけど、それはただ下らないプライドを捨てられなくて引きとめられなかっただけだろ。

 そもそも、手篭めにした女が自分から離れていくとは思ってなかったんだろうなコイツ。


「で? その話を聞いたならラズが色狂いであることは自明の理だろ? だって12歳の女が、実の兄である俺に火照った体を慰めろとねだってきたんだぜぇ?」


 まるで孕ませたという話に反撃するように、お前の女は自分の意思で俺に抱かれたんだと、自分は仕方なく付き合ってやっていたんだと捲し立てるロイ殿下。


 既に分かっていたことでも、弄んだ張本人にこうも得意げに語られると流石に燻るものを感じるな。

 だけどここで斬るべきはこの男の肉体ではなく、自分勝手に解釈した気になっているシャロとの関係性のほうだ。


「毎晩毎晩気を失うまで妹の相手をしてやったこっちの身にもなって欲しいねぇ? 俺の相手はラズだけでもなかったってのにさぁ?」

「その件につきましては妻も感謝していましたよ。自分から頼んだ事に付き合ってもらったと」

「俺はラズがどれだけ色に狂ってたかって話をしてんだよぉーっ! 動揺してんのかぁ!? それとも自分の妻が淫乱だなんて認めたくないんでちゅかーっ!?」


 動揺は……意外としてないかな?

 シャロを弄んだこの男を許す気はないし、敵から攻撃を受けることくらいは想定内だ。


「……ロイ殿下が俺を侮るのは別に構わないんですけどねぇ。ロイ殿下、アンタは妹であるシャーロットの事を侮りすぎなんですよ」

「話を逸らすなって言ってんだろぉ!? それとも答えられないってかぁ!?」


 ……ガラ悪いなぁこの人。元々男性にはこんな態度なんだろうなぁ。

 多分ロイ殿下は俺が言葉に詰まってると思って畳み掛けてきてるんだろうけど、もう少し理性的な態度を取っていただきたいもんだよ。


 なんたってこれからアンタの心とプライドを粉々に砕く言葉になるんだからさ。


「そもそも兄であるアンタに妻が関係を願った理由、ご存知ですよね? 自分が所有している奴隷に唆され、そのまま無理矢理関係を強要され、そして徹底的に仕込まれてしまったという話です」

「知ってるに決まってるだろ? 王女であるラズを奴隷が弄んだなんて前代未聞だからね。そんな大変な目に遭わされたラズを放ってなんておけるはずないだろ? いくら色に狂った妹とは言えさぁ?」


 まぁ俺も色狂いだけどねーと笑いながら、幼いシャロにどんな事をねだられたか、それに応えた過去を細かく俺に伝えてくるロイ殿下。

 お前が妻に選んだ女は、俺がこんなに弄んでやったんだと得意げに伝えてくる。


 そんな下らない話を聞き流しながらも、まるで目の前の男が道化にように滑稽に思えてくる。


 バルバロイ・フォート・スペルディアさんよぉ。

 さっきも言ったけど、アンタは俺以前に、シャロを舐めすぎている。


「そこですよロイ殿下。そこの認識が間違ってるんです」

「あぁ!? 自分の妻の過去くらい黙って受け止められねーのか、アンタはよぉ!?」

「妻は色に狂ってないんです。12歳の少女だった当時の妻はね? 実はだったんですよ? ロイ殿下」

「……なにぃ?」


 得意げに語っていたロイ殿下だったが、俺の言葉に多少なりとも思い当たることでもあったのか、怪訝な顔をして俺を睨みつけてくる。


 実の妹の痴態を晒すのをようやく止めてくれてなによりだ。

 加害者が被害者を弄んだ話を得意げに語られても、湧いてくるのは怒りと殺意だけだからな。


「妻は言ってましたよ? 始めに自分を仕込んだ男との情事は、ずっと不快で仕方が無かったって。男の遊びに付き合ってあげただけで自分は全然楽しくなかったそうです。色狂いの言葉とは思えませんよね?」

「はっ! それはあの男がラズを満足させてやれなかっただけだろ? だけどラズが自分から俺に抱いて欲しいと言ってきたのは紛れも無い事実だぜ? 実の兄である俺になぁっ!?」

「満足していなかったのなら、どうして王女である妻が奴隷の男にいつまでも従順に従ったのか、矛盾してると思いませんか? だって妻は監禁されてたわけでも、制約を受けていたわけでも無かったんですよ?」

「…………」


 粛々と問いかける俺の態度に凄んでも無駄だと悟ったのか、ようやく喧しく叫ぶのを止めてくれた。


 シャロの本質は決して色狂いなんかではない。

 彼女は自分の本質を守る為に男の望むままの姿を演じ、嫌々男に付き合っていただけだ。


 それはきっと、始めは自分の身を守る為だったのだろう。

 そして無理矢理初めてを奪われてしまったという事実から心を守る為、自分は色に狂った女だからこんなことは大したことはないんだと、自分自身ですら気付かないうちに情婦を演じ始めてしまったのだ。

 
「満足していない相手に付き合うのも色狂いとして矛盾してませんか? だってそうでしょう? 色狂いと名高いどっかの殿下がすぐ傍にいるのに、満足させてくれない奴隷如きに付き合う意味あります? 色に狂っていればこそ、です」

「……流石のラズも、実の兄である俺に抱かれるのに躊躇いがあったんじゃないの?」


 一瞬だけ迷った様子を見せたロイ殿下だったが、直ぐに推論を展開してくる。


 多分俺がなにを言いたいのか、この男はもう気付いているだろう。

 だけどはっきりとそれを口にされるまで何処までも逃げ回り、決して認めることは無いだろうな。


「歴代のスペルディア家の人間にも、相手に困らない立場でありながら肉親と関係を持ってしまった人間なんていないからねぇ。だけど奴隷の慰み者になってしまったことで、その躊躇いも無くなったんでしょ」

「違うんですよロイ殿下。妻は自分の安全を確保する為に奴隷に従い、自分の身を守る為に貴方の望む色狂いの仮面を身につけてしまったんですよ」


 昨日少し会話しただけでも分かるくらいに、シャロはかなり頭がいい。

 俺との付き合いなんて無きに等しいのに、それでも俺の思考を汲み取って、俺の喜ぶ振る舞いを先読みする。


 ……そんな頭のいいシャロが、気付いてないわけないだろ?


「貴方なんでしょ? 妻を奴隷に襲わせ、色女として仕込ませたのは」

「…………」


 地球の常識に当て嵌めるのは危険だけど、女性王族の貞操なんて最優先で守られる物の1つのはずだ。

 人払いをしていなかった初めての時に、自分の意に反してひと晩中弄ばれたのに、誰も助けに入らないなんてあるわけがないんだよ。


 そう、他の王族が人払いを指示でもしていない限りはなぁ……!


「奴隷の背後に貴方がいる事に気付いたから妻は奴隷に従ったんですよ。だから妻は身の安全の為に自ら貴方にその身を差し出したんですよ。自分より年上で狡猾な兄に目を付けられないためにね?」

「…………」


 さっきまでの饒舌さが嘘のように、こちらを窺う様に睨みつけながらも押し黙ってしまったロイ殿下。

 その沈黙が、俺の言葉が正しいと証明してくれているように感じる。


「よくもまぁ俺の事を卑怯者なんて罵れますよね? 誰かさんは妹にバレないようにコソコソと人を使って襲わせておいて」

「…………」

「流石の色狂いの殿下も、年下の妹に手を出す狂人には見られたくなかったんですか? ていうか突然黙り込んでどうしたんです? 俺の語った自分の過去を黙って受け止めてる最中ですか?」

「…………出鱈目だ。何の根拠があって、そんな……」


 ようやく搾り出したのが、お決まりみたいな犯罪者のセリフとはね。

 別にこの男に何か面白い切り返しを期待していたわけじゃないけど、それにしたってつまらない答えだ。


「俺は別に他人の過去話を証明するつもりなんてないですよ? そんなことに意味はありませんし」

「なんだとぉ……? だったらなんでこんな下らない話を……!」

「ロイ殿下も俺の言葉を否定しても意味無いでしょ? だってんだから」

「……っ!」


 ぶっちゃけた話、根拠を示せとか言い出した時点で黒だと思うけどね?

 科学捜査とか存在しないこの世界では、権力者である殿下がゴネれば、大抵のことは押し通せるのかもしれないけど。


 でもシャロ本人に伝わっているのなら、いくら否定したって意味無いんだよなー。

 シャロが真実を知っていると言う事は、兄への感謝という呪縛から既に解き放たれている事を意味するのだから。


「18歳になった妻に関係の解消を切り出されたとき、恐らくアンタは信じられない想いだったでしょうね。何年もかけて毎日毎日失神するまで満足させてやったのに、まさか自分から離れようとするなんてって」

「…………」

「でも俺から言わせりゃ当然の結果なんですよ? シャーロットはアンタにどれだけ弄ばれようとも、んですから」

「嘘だぁーーっ! そんなっ、そんなはずがあるかぁーーっ!!」


 堪えきれずにとうとう立ち上がって吼えるロイ殿下。

 さっきまでの俺を煽るような怒鳴り方とは違う、完全に余裕を無くした者の悲鳴のような怒声だった。


 いくら図星を突かれたからって、突然奇声を発しちゃダメじゃないか。

 その突然の叫びに、ドアに耳をつけていた隣室の方々が滅茶苦茶びっくりした様子で扉から離れちゃったよ?


「ラズが寝た相手は俺だけじゃない! 10名を超える男娼に、王国貴族の男たちにも数え切れないほど股を開いた女だっ! そのラズが色事を好きじゃなかっただとぉ!? 馬鹿も休み休みに言えっ!」

「それもねー……。それが妻にとっての不幸であり、けれど不幸中の幸いでもあったんですよ」


 シャロじゃなければ耐えられなかった地獄の日々。

 けれど耐えてしまったことで、シャロはどこまでも果てしなく傷つけられ弄ばれ、汚され続ける事になってしまったのだ。


「今から1から全部説明して、アンタが妻にしてきた全てを懇切丁寧に否定して差し上げます。ですからまずは黙って俺の話を聞いてくださいます?」

「……言ってみろよぉ! さっきから的外れなことばかり言いやがって……、! 絶対に許さないからなぁ……!?」


 虚勢を張るように強がりながらも、意外なほど大人しくソファに腰を下ろすロイ殿下。


 多分この人、シャロが自分から離れた理由を分かってないんだ。だからそれを知りたくて大人しく腰を下ろしたんだろうな。

 つまりそれほどまでにシャロはこの男の思い通りに弄ばれ、けれども本心をひと欠片すら見せずに隠し通したのだ。


「まず始めに、18歳になった妻がアンタとの関係を解消した理由ですが、これは本当に単純なんですよ」

「……聞いてんだからさっさと言えよ」

「18歳になり、多少の分別と教養を身に付けた妻は、もうアンタに何かをされても真っ向から跳ね除ける自信がついたんです。だからもう貴方に付き合う必要は無くなったんですよ」


 本格的に商売を始めたのは最近だと言っていたけれど、それと同時に細々と商売の真似事を続けてきたとも言っていたシャロ。

 恐らく回りの人間に不審に思われないギリギリを見極めながら、知識と教養、そしてお金を少しずつ蓄えていたのだろう。


「アンタは強がって妻に飽きたとか言ったそうですけど、妻はそもそもアンタとの情事に溺れてなんかいなかったんです。誰かさんが下らないプライドのために引き止められなくて、妻もさぞかし助かったで……」

「…………ちっ! それはもういい! 次の話をしろっ!」


 不機嫌そうに舌打ちし、けれど反論もせずに次の説明を催促してくるロイ殿下。

 色狂いと呼ばれるほど女性の扱いに自信があったアンタは、その扱いの技術を否定される事が1番我慢ならないんだろうな。


「先ほども申し上げましたが、妻が色女として振舞ってきたのは演技なんです。長らく本気で演じ続けてしまったため、妻は自分でも演技と素の境界が分からなくなっているみたいですけどね」

「……はっ。なにを言い出すかと思えば、演技だなんて……」

「妻は傷ついた自分自身を誤魔化す為に色女を演じ、様々な男に体を許したんです。だけど元凶のアンタにだけはもう身体を許したくないからアンタとの関係だけはさっぱり解消したんですよ」

「お前の話は矛盾だらけだろうがっ!? なぜ情事で傷ついた女が、自分から進んで男に体を許すっていうんだ!?」

「妻は自分は色女だから男の慰み者になっても平気だと、自分の中で自分に訪れた災難に理由付けしたんです。要はそれほどまでに始めの男にされた事が耐え難く辛い経験だったんです、妻にとってはね?」


 アンタにとっちゃ数あるお遊びの1つ程度の認識だったんだろうが、シャロにとってはそんな軽いもんじゃなかったんだよ。

 なのにその出来事を良かったとか、本人を弄びながら言ってたらしいじゃないか、このクソ野郎。


 要するにシャロは弄ばれてしまったことで、自暴自棄になってしまったのだ。

 心を守る為に体を蔑ろにして、体を蔑ろにすることで心が擦り切れていく、最低の悪循環だけど。


 そんな最低な行為に縋らなければ生きていけないほどにシャロは傷ついていながら、そんな最低な行為に耐えられるほど彼女は強い女性だったのだ。


「要するに、自分を偽らなければ自分を保っていられないほどに妹を傷つけたんですよ。アンタはね」

「…………」


 俺が真実を突きつけても、未だこの男は突きつけられた言葉に向き合おうとはしていない。

 俺の話に矛盾はないか、どこかに反撃の糸口はないかと黙りこくり、自分が傷つけてしまったシャロのことなんて一切思いやろうとしていない。


 ……こんな説明、する意味あるのかなぁ?

 どうせ目を逸らして見なかった事にして終わりだろコイツ。


「15名の男娼なんですけどね。妻は男娼を心から愛していたんですよ。男娼を危険に晒したくないからと自らがスレッドレッドの巣穴に赴き、救助された男娼を抱きしめて泣けるほどに、彼女たちは愛し合っていたんです」


 シャロは男娼たちと愛し合って救われていたと言っていた。

 けれどアンクは、シャロは男娼たちで自分の気持ちを紛らわせていただけなんだと明言した。


 この両者の認識の齟齬が、シャロの抱える闇の本質。


「スペルディア家の人間って、なにか1つ変な性質を持ってるってゴブトゴさんが言ってたでしょ? でも妻の異常性が色狂いじゃないのなら、妻はどんな異常性を持って生まれたと思います?」

「……勿体付けるな。さっさと言えよ」

「妻の本質を誰も理解していなかったから色狂いなんて勘違いできたんですよ。馬鹿馬鹿しい。今まで妻を抱いておきながら妻の本質を理解していなかった全ての男は恥を知ってください、恥を」

「勿体振るなと言ってるだろうがぁーっ! とっとと言えぇっ!」

「……シャーロット・ララズ・スペルディア第1王女の異常性はね? 『博愛』なんですよ」


 シャロは借金奴隷に落ちた孤児を愛妾として慈しみ、犯罪奴隷に落ちたアンクたちを引き取り愛し、王族に疎まれていたスレッドドレッドの飼育に愛と情熱を注げる女性なんだよ。

 その結果自分自身がボロボロに傷つこうが、自分自身が危険な場所に足を踏み入れようが、決して誰のことも見捨てない博愛主義者。それがシャーロット・ララズ・スペルディアの本質なんだ。


 本来は聖人君子のように称えられるはずであったシャロの人間性を、この馬鹿が歪めて壊してしまったのだ。

 シャロ自身すら自分の本質を見失ってしてしまうほどに、グチャグチャに……!


「もしくは『献身』、あるいは『自己犠牲』と言ってもいいかもしれません。要は他人の為にどこまでも自分の身を捧げられる女性なんですよ、妻はね?」

「自己犠牲、だと……? ラズが……?」

「他人を虫けらか玩具か障害物としか思っていないロイ殿下には信じられないでしょうけれど、妻と男娼たちは本気で愛し合っていました。しかしその男娼たちから妻を頼まれたんですよ。自分たちでは無理だから、シャーロット様を幸せにしてあげて欲しいと」

「……どういうことだ?」

「妻は男娼たちに愛を注ぐことで満たされていたんです。けれど妻を本気で愛した男娼たちは、妻がボロボロに傷ついている事に気付いてしまうんです。このまま自分達を愛し続けてしまったら、妻は死ぬまで自身を削り続けるとね」


 シャロは俺に抱かれた時に、安心してしまったと言っていた。

 自分がどんな行動を取ろうとも決して影響されなかった俺に、自分の身を削る必要が無いと知って安心したんだ。


 常に与える側でありたいと願うその本質ゆえに、男の望むままに弄ばれることを選んでしまったシャロ。

 けれど与える事に喜びを覚えるシャロは、奪われる事に喜びを抱いてたわけじゃないんだよ……!


「俺がアンタから誰を奪ったって? 寝言は寝て言え、このクズが」


 自分が望まない相手にひたすら弄ばれるストレスに、自分が選んだ男娼に愛を注ぐことで何とか耐えていたんだよシャロは……!

 本来この世界の誰からも尊敬される聖母のような女性にもなれたはずのシャロを、この世界で最も貞操観念の緩い情婦にしやがったのはテメェだろうが……!


「お前こそが妻から女性としての尊厳を根こそぎ奪い続けてきたんだろうがぁっ!! 俺が何かをしただと!? お前がしたんだろっ!! 遊び半分で鼻歌混じりに、実の妹に対して最低の陵辱行為をっ!!」

「…………くっ」

「妹が変わり果てるはずがないだぁっ!? お前が歪めたんだよ! お前が壊したんだよっ!! お前がもう取り返しもつかないほどにグチャグチャに汚してしまったんだよ!! 優しく母性溢れた彼女に見限られるほどになぁっ!!」

「はっ……? 俺が、見限られていた、だって……?」


 シャロの事を王国中の男に股を開いた女だと口にしたこの男は、王国中で唯一シャロに体を許してもらえない男に思い至り驚愕している。

 誰も拒絶しない、全てを受け入れるシャロに唯一拒絶されていたと気付いた気分はどうだ? クズ野郎。


 ……なんで男って、1度愛し合った女性が生涯自分を好きだなんて、そんな奇跡のような事を何の根拠も無く信じられるんだろう?

 裏で手を回して自分の純潔を散らさせ、更には自分は恩人のように振舞いながら男の望む振る舞いを強要した本人なんか、あのシャロが好きなはずないだろうが……!


「……妻に自分の理想像を勝手に押し付けるな色狂い。妻は身の安全の為に嫌々アンタに付き合ってやってただけだ。全てを承知の上でな」

「あ……そんな、そんなはずは……」

「6年間も妹に気を遣われてた気分はどうだ? このクソ野郎。俺の事を妹の夫として認めていない、だったか? その妹に兄だと認めてもらえていなかったくせに何様だこの下種が」

「あ、兄とすら……? お兄様お兄様と慕ってきていたラズの姿が……全部嘘……?」

「自分の腕の中で眠る妹が自分を慕ってくれてると思ってたのか? お前の腕の中にいる間は安全が保証されてるから安心して眠ってただけだ。勘違いするなクズ野郎」


 シャロを壊してたのはお前だと突きつけた時にも対して動揺していなかったくせに、自分の思い通りに弄んでいたはずのシャロの手の上で転がされていたと気付いて震え出すクズ野郎。

 妹を傷つけてしまった事実より、そんな妹に侮られていた方がショックなのかよ。救えないな。


「いつまでも俺の妻の1番の理解者みたいな振る舞いしないでくれる? お前はシャーロットを弄んだだけのクズ野郎で、傷ついたシャーロットが選んだのは俺なんだよ。分かったら2度と妻に近づくな。次は会話で済ませる気は無いからね」


 怯えるように肩を竦めるロイ殿下の目を真っ直ぐに見てシャロとの接触禁止を宣言する。


 動揺したように視線を泳がせ、俯くことしか出来ないロイ殿下を放置し、部屋を出るべく席を立つ。

 しかし警戒しながら部屋を出る俺に、ロイ殿下が声をかけてくる事は無かった。


 ……ここまで完璧にブチ折ってやったんだから、せめて3歩歩くまでは忘れないでくださいよ?


 さぁ馬鹿殿下との下らない話も終わったことだし、愛しのシャロをいーっぱい愛してあげないとなーっ。

 シャロが他人に奪われた分も、自ら進んで捧げてきた分も、利子をつけてぜーんぶ注ぎ直してあげるからねっ。
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