異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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8章 新たな王と新たな時代1 色狂いの聖女

557 巣穴 (改)

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「お待たせしました。早速参りましょうか」


 聖域の樹海壊滅の余波を受けて、衣装作りに欠かせない素材を生み出す野生動物であるスレッドドレッドの飼育に問題が起きている。

 なので現地への視察を希望したら、案内人にラズ殿下が現れたでござるの巻?


「……案内人がラズ殿下なのはいいとしても、せめて護衛くらい伴ってくれません? 王女殿下と2人きりとか問題が起こる気配しかしませんよ」

「あら? ダンさんが求めてくださるなら私は受け入れますよ? 問題になんてするつもりはありません」

「そういうところが問題だって言ってんですよ!」


 流石は色狂いと名高いラズ殿下。なんでもない事のようにあっさりと異性を受け入れようとしてくるな。

 流石にラズ殿下を求めるつもりはないけど、こんな人と2人きりで行動したってだけで妙な勘繰りを受けそうで嫌なんだよ~。


「ラズ殿下は独身かもしれませんけど俺は既婚者なんですぅ~! 妻に黙って妙齢の女性と出掛ける時点で問題なんです~っ!」

「とは言ってもですね。スレッドドレッドは国の機密情報扱いで、王女である私の管轄なんです。それに護衛なんて引き連れてきても、ダンさん相手じゃ壁にもなれないでしょう?」


 特に興味も無さそうに、ただ面倒臭そうに小さく溜め息を吐くラズ殿下。

 肉体関係を望まないならさっさと用件を終わらせてくれって感じの態度だ。


 う~ん……。これが演技だとしたら俺には見抜けないなぁ。手強い。


「……スレッドドレッドは危険な野生動物と聞いているんですけど、本当にラズ殿下の管轄なんですか? この機会に俺を篭絡しようとして無理やり出張ってきたとかではなく?」

「求められれば喜んでお受け致しますけど、ドレスや高級下着作りに欠かせないスレッドドレッドの飼育は私の管轄で間違いないですよ。私は宝飾品なども好きですが、ベースとなる衣装に拘らなければ片手落ちですからね」

「その意見には賛同しますけどねー……。せめて2人っきりは何とか出来ません?」

「……はぁ~~」


 面倒臭そうに俺を一瞥した後、これ見よがしに長い長い溜め息を吐くラズ殿下。

 うん。『面倒臭いなこの男』って顔に書いてあるんだよ? もう少し表情抑えてくれませんかね?


「私だって即位式の準備で忙しいところを、ダンさんが視察に行きたいと言うからあの馬鹿に呼び出されたっていうのに……」

「うっ……」

「大体どんな護衛を連れていってもダンさんの相手にはなりません。そしてダンさんが味方であるなら、護衛を連れて行く意味は無いでしょう?」

「そ、それはそうかもしれないですけど……!」


 くっ! 理詰めで諭されるのは苦手なんだよな……!

 今のところ、一切の反論の余地も無いしさぁ……!


「それに私はダンさんの奥様を見て、自分のほうが魅力的だと言えるほど自惚れてはおりません。私も無理強いするつもりはありませんし、ダンさんが求める気が無いのであれば問題など起こりえませんよ」

「い、いやいや、ラズ殿下も魅力的な女性だとは思ってますよ? でもそれとこれとは……」

「それに今のスレッドドレッドたちは不安を抱えていて、かなり気が立っています。魔物ならまだしも、野生動物であるスレッドドレッドの居る場所に生半可な腕の者を同行させるわけには参りません」

「……で、本音は?」

「さっさと済ませて寝室に戻りたいので、とっとと行きましょう、です」


 ですよね~。ブレないなぁこの人。

 俺が求めれば応じてくれるっていうのも本当なんだろうけれど、この人は渋る相手を追いかけるよりも、求めてくる相手との時間を大切にしたいタイプなんだろうな。


「勿論スレッドドレッドの問題を解決していただけたらとてもありがたいですよ? 対価に私の体を差し出しても良いくらいです」

「解決しなくても差し出してくれる物を対価にするのはどうかと思いますよ? ラズ殿下が魅力的なのは認めますけどね……」


 ロイ殿下に比べると、ラズ殿下はより性欲に忠実で分かりやすい人の気がする。

 暗躍できる程度には優秀な人なんだろうけれど、ロイ殿下に比べて刹那的な快楽を求めている人に見えるな。


 これ以上言い争っても時間がかかるだけだし、仮にラズ殿下と肉体関係を持っても我が家の奥さんたちは絶対に怒らないだろうから、間違いが起こる前にさっさと用件を済ませたほうがいいな。

 ファミリアのアライアンスプレートを取り出し、ラズ殿下を加入させる。


「まったく、出発前につまらないことで時間を取らせないでくださいよ。こう見えても私は多忙ですし、スレッドドレッドの問題も本当に大変なのですからね?」

「第1王女殿下と2人きりになりたくないって、つまらない事なのかなぁ? まぁでも時間を取ってしまった分は問題解決に尽力しますよ」

「ええ。ダンさんの能力には期待しています」


 期待している、か。さっきも言ってたけど困っているのは本当なんだな。

 ここで問題解決に失敗したらスレッドドレッド製の衣料品が販売されなくなる可能性もある。気合を入れねばっ。


「それでは参りますよ。『虚ろな経路。点と線。見えざる流れ。空と実。求めし彼方へ繋いで到れ。ポータル』」


 それにしてもこの人、戦える身のこなしをしてないのにポータルが使えるの凄いな。流石は王族だわ。

 出発前にひと悶着あったけど、ようやくラズ殿下のポータルでスレッドドレッドの飼育場所に転移した。




「概ね聞いていた通りの場所ですね……」


 ラズ殿下のポータルで転移した先は森の中だった。

 いや、周囲には木が生い茂っているけれど、転移場所は人の手が入って拓かれている感じがするので、森というよりは林なのかもしれない。


 けれど前方には巨大な岩の壁が聳え立っており、上がどのくらいの高さなのか見上げても良く分からない。

 壁には狸の巣穴くらいの大きさの穴が無数に空いており、壁の前には石造りのこじんまりとした家が数件建っていた。


「ここがスレッドドレッドの巣穴です。場所的には終焉の箱庭の南端に近い場所、とでも言っておきましょうか」

「巣穴……。つまり目の前の岩壁に住んでいるわけですね。ここにある家は糸を採取するための家ですか?」

「その通りです。が、糸はスレッドドレッドたちが自ら差し出してくれるので、食事の提供以外では人払いと監視の意味合いが強いですね」


 自分から糸を提供してくれる蜘蛛って……。絵面を想像したらシュールすぎませんかねぇ?


 というか頭良すぎだろスレッドドレッド。

 そんな野生動物を怒らせたらと思うと背筋が凍るな……。


「ただ現在はスレッドドレッドの気が立っておりますので、最小限の見張りを残して引き上げさせているんです」

「……やっぱり危険なんですか? かつて飼育に成功するまでに多数の犠牲者が出ていたような話も聞きましたけど」

「あら? 意外と博識なんですね」


 今まで淡々と語るだけだったラズ殿下が、驚いたように目を見開いて褒めてくる。

 なんか、初めて面倒臭い以外の感情を見せてくれた気がするなぁ……。


「彼らは基本的に頭が良くて、普段は木しか食べません。ですがひと度餌が無くなると雑食になって、驚くほど凶暴化するんですよ。そうなると強靭な糸で獲物を拘束し、巣穴に引き摺り込まれて頭からバリバリ、です」

「グロいシーンを淡々と語るのやめてもらえますぅ?」


 危険な野生動物の話をしているはずなのに、喜々としてその生態を説明してくるラズ殿下。

 いや、俺は以前小耳に挟んだだけで、スレッドドレッドに興味があるわけじゃないんですよ?


「でもラズ殿下は直接足を運んで良かったんですか? 滅茶苦茶危険な生物にしか聞こえないんですけど」

「危険だからこそ他の者を向かわせるわけにはいかないでしょう。私ならダンさんがついておりますから、恐らく安全だと判断しております」

「ラズ殿下の命を握ってんの俺なの!? なんでそんな簡単に自分の命を人に委ねてんですかっ!」


 くっそぅ! この人淡々としてるせいで本気なのか冗談なのか分かり難いよっ!

 流石に命懸けでボケてるとは思わないけどさぁ!


「つうかやっぱ護衛欲しかったでしょここ! なんで1人で来てるんですかアンタは!」

「それが、護衛では役に立たないのですよ。野生動物の糸はスキルや攻撃魔法では断てませんから」

「あ、あ~……。そういうことかぁ……」

「そういう事なんです」


 少しだけ悔しそうに語ったラズ殿下の言葉に、護衛をつけられない理由に得心が入った。


 職業補正が役に立たない野性動物が相手だから、俺の思っている以上に切羽詰った状況だったのかもしれない。

 そこで野生動物相手にも戦える俺が視察を希望したことで、渡りに船とばかりにラズ殿下が案内を買って出たと……。


 迷わず俺に頼らざるを得ないほど状況が悪いのか?


「ダンさんはイントルーダー級の野生動物を討伐したばかりと、先ほどあの馬鹿から聞いております。人任せで恐縮ではありますが、どうかお力添えを……」


 俺に真っ直ぐ向き直り、水が流れるように淀みない所作で静かに頭を下げるラズ殿下。


 ここまで正面から頼み込まれると躱し難いな~……。

 いや、今回は躱す予定はないんだけどさ。


「あまり期待されすぎると困りますけどね。精一杯やらせてもらいますよ」

「それで構いません。たとえダンさんに解決できなくても、今のところ他の者にも解決出来ていないことですから。それでダンさんを責めるのはお門違いでしょう」


 俺に協力の意志があると判断したラズ殿下は、突然首元から胸の谷間に手を突っ込み、そこから小さなベルのような物を取り出した。

 そして呆気に取られる俺に構わずそれを振り、リィンリィンと透き通るような綺麗な音色を響かせる。


 く……。あまりにも自然な動作だったので、ツッコミが出来なかったんだよ?


「それは?」

「これはただの呼び鈴ですよ。問題発生後にこちらに残した者を呼んでいるだけです」


 スレッドドレッドの巣穴からも、石作りの家からもまだ50メートル程度は離れているのに、呼び出しの音は聞こえるんだろうか?

 妙に綺麗に響き渡っているし、マジックアイテムなのかもしれない。


 って、ポータルが使えるって事は、ラズ殿下はインベントリ持ちのはずだ。

 もしもこのベルがマジックアイテムだったら、胸の谷間から取り出した意味が無いよなぁ?


「先ほどから熱心に私の胸を見ておいでですが、興味があるのですか? なんなら見せます?」

「その呼び鈴をそこから取り出す意味はあったのかなって思ってただけですよ。見せなくていいですー!」

「どうぞ遠慮なさらずに。服に手を入れて直接揉みしだいても構いませんし、シャツをめくって吸いついていただいてもいいんですよ?」

「魅力的な提案ですが結構ですー! 好きあらば色事をぶっ込んでくるの、控えてもらっていいっすかねぇ!?」


 揉んでも吸ってもいいとか言われちゃうと、どうしても注目しちゃうじゃん!


 サイズはティムルと同サイズくらいかなぁ!?

 首元からちらりと見える真っ白な谷間が目に眩しいですねぇ!


「……来ませんね。それなりに戦える者を配置しておいたつもりなのですが」

「まさかスレッドドレッドに? だけど目の前の巣穴を見る限り、人を引き摺り込めそうには見えませんが……」


 言いながら生体察知を発動すると、岩壁のせいで多少は察知効果が減衰されてしまったようだけれど、それでも巣穴の中には無数の生体反応が犇いているようだ。

 手前の家の中には……反応が無いな。


「配置していた人の人数は? 配置したのはいつです?」

「配置人員は1名。昨日1度交替しているはずですから、ここに来て1日2日くらいの者かと」

「なら問題が起こってても間に合う可能性はありますねっ。近づきましょう!」


 ここからだと察知スキルの反応が分かりにくい。もっと近づかないと。

 ラズ殿下の返事を待たずに、彼女の手を引いて巣穴に向かって駆け出した。


「あっ、ダンさんっ……!?」


 戸惑いの声を上げるラズ殿下には悪いけど、手を握るくらい許してもらいたい。

 家族でもない女性をお姫様抱っこは出来ないし、危険な野生動物が居るはずの場所に王女様を1人残していくわけにもいかないんだよ。


「う、迂闊に近寄っては危険ですよっ……!? 何か考えがっ……?」

「近づかないと捜索スキルの効きが悪くて。ラズ殿下の御身も危険に晒せないのでご同行願ったんです」


 説明しながら数件の家を通り過ぎるけれど、やはり生体反応も魔物の反応も感知出来ない。

 横目で見た感じだと、荒らされているようにも思えないけど……。


 ラズ殿下の足に合わせて、数秒かけて巣穴の前まで辿り着く。


「……なんの反応もありません、ね?」

「ちょっと待ってくださいね、今調べてみます……」


 集中力を高めて生体察知を発動する。


 岩壁の内側では無数の反応が蠢いているけれど、こちらのほうに注意を向けている様子は無いな?

 凶暴で雑食っていうから、近づいたら即襲ってくることも覚悟してたんだけど。


 気を取り直して生体反応を探っていく。


「……あった! 生きてる!」

「ほ、本当ですかっ……!? 良かった……!」


 思った以上に嬉しそうな声を上げるラズ殿下。


 巣穴のかなり深いところ、恐らく岩壁の20~30メートルくらい内側の部分に、気をつけをしたような人間大の生体反応が見つかった。

 この格好は糸で拘束されてるってことか?


「……生きているのは朗報ですけど、どうやって救出するかが問題ですね。岩壁を攻撃魔法で破壊することも出来ませんし」

「人を呼んで巣穴を掘らせましょうか……!? 巣穴に引き摺り込まれている以上、最早一刻の……」

「――――なにっ!?」


 焦りを見せるラズ殿下の背後の地面から、突然生体反応が現れた。

 俺は振り返るよりも早く魔法障壁を展開しつつ、ラズ殿下の肩を抱きながら背後に現れた生体反応を視認する。


「ダ、ダンさん……!? こ、このタイミングは流石に困りますっ……!?」

「色事から離れろエロ殿下! 目の前を良く見てください!」

「なっ……!? こ、これは、糸……!?」


 振り返った俺達の目の前には、魔法障壁で止められた粘着性の糸が宙に浮いている。

 どう考えても、俺達を拘束しようとして放たれたものだろう。


「……糸もですけど、その先の地面も確認してください」

「地面……? って、あれは……!」


 糸を阻んだ魔法障壁の先の地面には、成人男性の手の平くらいのサイズの蜘蛛が2匹ほど、こちらに背を向けてケツから糸を吐き出していた。

 ……ヴェノムデバイスを見た後だと、手の平サイズの蜘蛛でも可愛く見えるから困るな。


「あれがスレッドドレッドで間違いないです?」

「え、ええ……! あれはスレッドドレッドの子供ですね……。でも子供が糸を吐き出すなんて今まで聞いたことが……」

「……つまり、子供も攻撃できる事を隠し通してきたわけか。気配の小さい子供が地中を通って、気付かれないように背後に回ったようですね。頭良すぎかよ……」


 しかし、こうして奇襲に失敗したなら、子供の身が危険じゃないの?

 なんて思った瞬間、巣穴の方の反応が出口に向かって殺到してきているのが分かった。


 奇襲に失敗したら、次は種族総出で総攻撃ってか? 行動に迷いが無いな。


「……ちなみにですけど、やっぱ殺しちゃ不味い……ですよね?」

「う、うう……! で、出来ればっ、出来れば穏便に事を収めていただければとっ……!」

「ですよね~……。こいつらが凶暴化したのだって、ある意味俺のせいみたいなものだし、了解でーっす……」


 人間と長らく共存して来たらしいコイツらを安易に殺すわけにはいかない。

 思った以上に頭の良い生物のようだし、たとえ正当防衛でも殺してしまったりしたら今後の飼育に禍根を残す……どころか共存ルートが絶たれてしまうかもしれない。


 あ~あ。ラズ殿下じゃないけど、面倒臭い事態に巻き込まれてしまったよぉ。

 まぁ、手が無いわけでもないけど、さ?
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