異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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7章 家族みんなで冒険譚2 聖域に潜む危機

524 悪意の女王⑧ 潜伏先 (改)

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「片付いた……か? くっ……!」


 静かになった周囲を見回していると、魔力枯渇の影響か強い眩暈と吐き気を感じて息を詰まらせてしまった。


 ぶっつけ本番で試したリーチェとの新合体技、『ジェードテンペスト』。

 その翠の光線に撃ち抜かれたヴェノムデバイスたちは、毒の霧すら残すことなく風の刃でバラバラに引き裂かれていった。


 その凄まじい威力と引き換えに、俺とリーチェの魔力がごっそりと失われてしまったようだ。


「ぐぅぅ……! リ、リーチェは平気……? 動けそう……?」

「さ、流石にキツいけど大丈夫ぅ……。ダンこそ、無事で良かったよぉ……」


 キツいと呻きながらも声を繋げてくれているリーチェには頭が上がらないな……。


 リーチェとキツめの魔力枯渇の症状に悩まされながらも、お互い完全な魔力枯渇には到らなかったことを喜び合う。

 ギリギリの1歩手前の魔力制御にも大分慣れてきたかなぁ……?


「旦那様。お迎えに上がりました」

「お疲れ様なのじゃーっ。暫しリーチェと共に休むが良いのじゃっ」

「ありがと……。正直マジでキツいから助かったよ……」


 地面に座り込むか迷っていると、ヴァルゴとフラッタが迎えに来てくれた。

 2人は周囲を警戒しながら1度ずつ俺にキスをして、直ぐにティムルが守る場所に連れて帰ってくれた。


「敷物を敷いたから直ぐに横になって! リーチェも一緒にすぐに休んでっ」


 フラッタのアナザーポータルで転移帰還した俺は、直ぐにニーナに引っ張られて、リーチェと一緒に地面に横になる事になった。

 俺とリーチェの頭はムーリの柔らかい太股に乗せられ、アウラが俺とリーチェを一緒に抱きしめてくれる。


 蕩けた表情で俺の頭や顎を擦るムーリと、大好き大好きと叫びながら俺とリーチェを力いっぱい抱きしめてくれるアウラ。

 なんだろう? ここはこの世の楽園なのかな?


「新技に関してはあとで詳しく聞かせてもらいたいけどぉ……。まずは確認させてもらうわよぉ?」


 他のみんなも普段よりも熱っぽい視線を俺に送ってくれていて、なんだか淫靡な雰囲気が漂う中、潤んだ瞳のティムルが声色だけは真面目に問いかけてくる。

 ティムル自身も一旦竜鱗甲光を解除して、失った魔力の回復に努めているようだ。


「ダンとリーチェは戦闘可能な状態なの? それとも動くのも厳しかったりするかしらぁ?」

「俺は大丈夫。スキルや魔法さえ使わければ今すぐ戦闘も出来るよ」

「ぼくも平気だよ。みんなに甘えて休ませてもらってるけど、動こうと思えば直ぐに戦闘も可能さ」


 ティムルに答えながら、アウラと一緒に俺のほっぺにちゅっちゅっと何度もキスしてくるリーチェ。

 明らかに青い顔をしているのに、それ以上に朱が混じった扇情的な顔色をしてますねぇ?


 ほっぺに何度もキスしてくれるアウラとリーチェの唇を自身の唇で受け止めて、2人の柔らかな唇の感触を楽しませてもらおう。


「ダンとリーチェのおかげで生体反応は消失してるけどぉ……。ダンはこれで戦闘が終わったと思う?」

「いや、恐らく本体はまだ倒せてないと思う。お姉さんの言う通り生体反応は消失してるから、細かいザコはほぼ全て殺しきったと思うけど……」

「確かにヴェノムデバイスの厄介さから言えば、これで決着はあっさりしすぎているとは思うが……。本体が残っているとする根拠はなんなのじゃ?」

「全ての虫ががそうだとは言えないけど、社会性を持った虫って、1匹の女王の存在が全てなんだよ」


 俺に問いかけながらも双剣を握り締めて、周囲を警戒しているフラッタ。

 根拠を問いかけるフラッタ本人も、まだ戦闘が終了したとは感じていないようだね。


「女王が生きてさえいればいくらでも立て直せる。だから全ての個体は女王を生かすためだけに存在してるんだ。兵隊たちと一緒に襲い掛かってくるとは考えにくいと思ってる」

「蜂や蟻なんかが正にそうだね。ヴェノムデバイスたちがそれらと類似する点があるのも認めるよ」


 キュールさんが俺の言葉に頷いてくれる。

 蜂や蟻なんかはこの世界にも居るんだな。蜂型、蟻型の魔物って可能性も否定出来ないけど。


 キュールさんに頷きだけを返して説明を続ける。


「そんでさ。そういう女王と呼ばれる個体って、基本的に巣の1番奥の最も安全な場所に引き篭もってるもんなんだよ。勇ましく先陣を切って敵と相対したりはしないはずなんだ」

「確かに、いくら強かったとしても敵と対峙した時点でリスクはゼロではありませんね。ならば始めから姿を現さないほうが合理的ですか……」

「今回だって、現れた直後のヴェノムコマンダーをダンさんが両断していますからね。姿を現す危険性は恐らく伝わっているはずです」

「そもそもあれほどの数が潜んでいたヴェノムデバイスすら、ダンが無理矢理捕獲するまでは逃げ回っておったからのう。女王個体が妾たちの前に姿を現していた可能性は低そうなのじゃ」


 ラトリア、エマ、フラッタの竜人族3人娘が、女王がまだ現れていない可能性を後押ししてくれる。


 脳筋ソクトルーナ家の3人だけど、姿を隠している女王を卑怯だと罵ったりする事はないようだ。

 脳筋だからこそ、何が何でも生き残るという生存本能の方を評価しているのかな?


「話は分かりましたが……それではこのあとはどうなさるおつもりですか? 現在私たちの周りには、生体反応も魔物の反応も一切無い状態なのですが」

「ん~。未だに察知スキルに反応が無いのか……」

「女王だって野生動物だろうから生体察知で探せるはずなんだけど……。私たち以外の反応は一切無いんだよねー? 恐らくヴェノムデバイスと関係ない魔物たちは、さっきの音か毒で全滅しちゃったんだと思うけどー」


 ヴァルゴとニーナの齎してくれた情報を頭の中で整理する。

 遠くの方では地鳴りと共に何本もの大木が倒れ始めているようだけど、ジェードテンペストの余波のせいなのか俺達とは反対側に倒れてくれているらしいので、地震の様な揺れは無視しよう。


 あいつら百足だったり蜘蛛だったり蝉だったりと節操が無いけど、ベースは昆虫系だと思うんだよね。

 あっと、蜘蛛って厳密に言えば昆虫じゃないんだっけ? まぁ細かい事は今はいいや。


「あいつらは魔物ではなく野生動物だから、似た様な虫の生態をベースに考えるとして……」


 普通の虫の場合、女王個体はその生物が最も安全だと認識している場所、巣の奥に居るのが一般的だと思う。

 そしてヴェノムデバイスもヴェノムコマンダーも大樹の中を移動して来たのだから、あいつらは木の中に巣食っていると考えるのが妥当だろう。


 けれどデバイスもコマンダーも、木を労わるような素振りは一切見受けられなかった。

 それどころか俺達に対して毒枝を落したり、倒木をあてようとしている節すらあった。あいつら自身が積極的に機の損傷を利用してきたように思える。


 もしも本体が大樹の中に潜んでいたとした場合、木々へのこのぞんざいな対応は、社会性生物としてちょっと矛盾していると思うんだよな……。


「……多分としか言い様がないけど、ヴェノムデバイスたちは打ち止めだと思う。俺達を確実に殺すために、さっきの大合唱は恐らく全個体を総動員して行なわれたものだと思うんだ」

「察知スキルに反応が無いからそれは否定しないけど……。ということは、察知スキルの範囲外に親玉が潜んでいるってこと? 確かに聖域の樹海はとても広いから、察知スキルでカバー出来ていない範囲は多いけど……」


 首をかしげながらも、問いかけが終ると直ぐに俺の口の中に舌を潜りこませてくるリーチェを抱き締める。


 昆虫と言えば飛ぶ個体も多いし、ヴェノムコマンダーも普通に飛んでいたからな。

 もしかしたら本体は上空に待機して……。


 いや、木の上はアナザーポータルが使えない、アウターではない空間って判定だった。

 なら聖域の樹海の異常を引き起こしている存在が、アウター外の空間に潜んでいるとは考えにくいんじゃないか?


 現在地は聖域のほぼ中心地点だ。

 未だに聖域を聖域たらしめている要因は分かっていないけれど、聖域が異常をきたしていることに特別な理由があるとすれば、それはこの付近にあると思うんだよなー。


 貪るように俺の舌をしゃぶるリーチェの頭をよしよしなでなでしながら、アウラの頭も抱き寄せてすりすりと頬ずりする。


 アウター内で、アウターの中心から離れていないのに、俺達の察知スキルに引っかからない場所ぉ……?


 なんだそれ? 女王個体はスキルに引っかからない能力、例えば気配遮断みたいな能力を持ってたりするのか? 

 もしそうならお手上げに近い状態なんだけど?


 この広い聖域を察知スキルでくまなく捜索していくとか、いくらなんでもムリゲーでしょ。


「……あ、いや違う。あったわ」

「ん~。何があったのパパぁ……? ちゅ~~っ」


 アウラの舌の甘さで口の中と頭の中がいっぱいになった瞬間、ピコーンと言わんばかりに1つの解答が頭の中で閃いた。

 察知スキルが届かない場所。アウラのおかげで思い出せたわ。


 ありがとうアウラ。お前は自慢の娘だよー。ぎゅー。すりすり。ちゅうちゅうれろれろ。


 一心不乱に俺にキスするリーチェとアウラの背中を優しくトントンと叩いてやると、俺の意図を察した2人は直ぐに口を解放してくれる。

 俺と2人の口は、互いの唾液が糸を引いて繋がったままみたいですけど? これエロくて興奮するな?


「木の中は恐らく違う。上空もアウター外判定になっていたから恐らく敵は潜んでいない。となると、残る潜伏場所は1つだけだ」


 言いながらアウラにちゅっとキスをしてみせると、ティムルとリーチェがその意図に気付いて、同時にあっ! と声をあげた。

 流石にドワーフのティムルと、アウラと関係が深いリーチェは、俺と同じ事に気付いたみたいだ。


「地中……地面の下ね!? アルケミストの時と同じで、この下に本体が居るって、ダンはそう睨んでるのねっ!?」

「言われてみればヴェノムデバイスは地面を異常に嫌がってたよね……!? あれって習性的な行動じゃなくて、本体の居る地面に意識を向けられたくなかったから……!?」


 ティムルとリーチェが俺の考えを言語化してくれる。

 その2人の導き出した解答を聞いたみんなは、解答から逆算して事実を検証し始める。


「本体が地中に潜んでおるなら、地表でどれだけ騒いでも影響が無いのじゃ……! しかも地面に阻害されて察知スキルを回避出来るし、これ以上の潜伏先は思い当たらぬなぁ……!?」

「さっきの不快な音だって、地中に居れば殆ど影響は無かっただろうね……。手下が全身毒塗れでも、自分の居住空間とは別のところに潜ませていれば影響が無いの……」

「なにより、この森を聖域たらしめている何かがあるとすれば、それはやはり樹上よりも地中に隠されているほうが納得がいきます……!」


 本体の場所を確信して獰猛な笑みを浮かべるフラッタ、苦々しく先ほどの騒音に言及するニーナ。

 そしてヴァルゴが槍の切っ先を地面に向けながら、憎々しげに言葉を続ける。


 聖域の樹海の異変を解決する為にスペルド王国に助けを求めたのに、結局は聖域の樹海の内部に異変の原因があったのだと知って無力感を感じてしまっているのかもしれない。


「地中にある何らかのレリックアイテムに干渉している生物だとすれば……。異常な繁殖力にも説明がつきそうですね……! と言うか、もう他の潜伏場所が思い当たりませんよ……!」

「……でも、地中に本体が居るとしても、それをどうやって討伐すればいいのかしら? 暴王のゆりかごの時みたいにブレスで掘削するわけにはいかないわよね?」


 ティムルが腕を組んで考え込んでいる。


 暴王のゆりかごの時は、事前にアウラの姿を見ていたことである程度確信を持てていたからねぇ。

 魔力視の出来るティムルのおかげで、アウターの中心点の場所の特定もスムーズだったし。


 だけど未だ隠れたままの女王は自由に動くことも出来るだろうし、こんなだだっ広いアウター内に片っ端からブレスで風穴を開けていたら、俺の魔力がいくらあっても足りないだろう。


「大丈夫だよティムル。それについてはアイディアがあるんだ」


 リーチェとアウラを抱きしめながら体を起こし、膝枕してくれていたムーリに感謝と労いのキスを献上する。

 嬉しそうに舌を絡めてくるムーリのせいで、話の続きをするのがちょっと遅れてしまった。


 みんなもキスが終わるまで行儀良く待っててくれなくてもいいのにぃ。

 あ、みんなもキスに参加しろって意味じゃないですよ?


「それでダン、アイディアって何かしらぁ?」

「うん。それにあたって究明の道標の3人に造魔のことを明かさなきゃいけないんだけど……良いかな?」

「え……? 造魔スキルを?」


 一瞬だけ考え込む様子を見せたティムルだったけど、すぐに納得したように頷いてくれた。

 キュールも帝国から離脱したことだし、なによりも女王個体より優先すべき懸念事項ではないと判断したのだろう。


「あまり一般的に広めないほうがいいスキルだとは思うけど……この3人に関しては今更じゃない? 魔物に乗ってアウター内を移動とかもしちゃってるのよぉ?」

「だよね~。今更気にすることじゃないか。それじゃ早速説め……」

「待った! 待ってくれダンさん! その前に私の話を聞いてくれないかいっ!?」

「へ? キュールさん?」


 造魔スキルで女王個体を炙り出そうとする俺を、キュールさんが必死の形相で制止してくる。


 ……って、なんで?

 未知のスキルを使用するとか、キュールさんならノリノリで見学してきそうなのに。


「話って何かなキュールさん。なにやらただことじゃない雰囲気だけど」

「…………出来れば話したくないけど、これを言わないのはフェアじゃないからね」


 なんだか悲壮感すら漂う雰囲気を醸し出すキュールさん。

 いつものマッドサイエンティストで好奇心旺盛な姿とは似ても似つかなくて、正直言って似合わないなっ。


「実は帝国を抜けるにあたって、私が得た情報は帝国に全て包み隠さず報告しろって命令が出てるんだ……! だから秘匿すべき情報を私の前で開示するのは……!」

「ああなんだ。そんなことかー」


 思い詰めた表情のキュールさんにはちょっと申し訳ないけど、話の内容に拍子抜けしてしまった。

 キュールさんの立場を考えるなら決死の覚悟で告白したのかもしれないけど、今この状況で配慮しなきゃいけないほどの事情ではないよな。


「俺って魔物使いって職業が浸透しててね。魔力次第で自分の討伐した魔物を生み出し、自由に操ることが出来るんだよー」

「ちょーーーーっ!? なにを普通に情報を開示してるのさーーーっ!? 私の告白の意味はーーっ!?」


 面倒なのでさっさと情報開示をしてしまったら、なぜか逆に全力で怒られてしまった件。解せぬ。


 でもねキュールさん。貴女が帝国からの客人って時点で、情報漏洩のリスクは常に想定してたんだよ。

 そんな覚悟に満ちた告白なんかしなくっても、今更追い返したりするつもりはないってば。


 一応最低限、召喚士の情報は秘匿させてもらってるわけだし。


「気にしないでキュールさん。魔物使いに関しては、為政者は知っておいたほうがいい情報って感じもするしね。メナスが使っていた魔物を操る能力の正体がこれだったりするし」

「き、気にしないでって……! メナスの能力って……! えぇ……!?」

「俺は腹芸をするつもりは無いし、そもそも出来ないんだ。キュールさんのことは信用してるけど、貴女なりの事情もあるんでしょ? なら気にせず行動しちゃってよ」


 あんぐりと大口を開けるキュールさんをスルーして、みんなと少し離れた場所に立つ。


 リーチェとムーリのキスのおかげか、既に魔力枯渇の症状は鳴りを顰めている。

 これなら造魔しても大丈夫だろう。イントルーダーを呼び出すわけでも無いしな。


「造魔召喚! スウォームワーム!」


 キュールさんにも分かりやすいように口上を上げながら造魔スキルを発動し、懐かしのスウォームワームさんにお越しいただいた。

 土管サイズのクソデカミミズであるスウォームワームさんだけど、ヴェノムデバイスとヴェノムコマンダーを見た後だと可愛くすら感じられるから不思議なものだ。


 さぁ行くのだ、地中探査用魔物のスウォームワームくんっ!

 地中に引き篭もってガタガタ震えている臆病者を、強制的に炙り出してくるのだーっ!
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