異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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7章 家族みんなで冒険譚2 聖域に潜む危機

522 ※閑話 利益追求 (改)

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「ごめんニーナ! あと任せちゃっていいかな!? 俺達先に別荘に行ってるからぁっ!」


 笑顔のニーナさんに見送られて、ヴァルゴさんとフラッタ君に纏わりつかれたダンさんが転移していった。


 ……夫婦仲睦まじいのは知っているけれど、まさかこんなに大勢の魔人族の前で求愛し始めるとは思わなかったなぁ。

 ダンさん達らしいと言えばらしいけど。


「さぁ私たちも家に帰るの。夕飯の支度もしていかなきゃだしねー」


 パンパンと手を叩きながら残ったメンバーに指示を出し、集まっていたディロームの民を解散させるニーナさん。

 その姿が少しだけ意外に感じた私は、思い切って本人に直接聞いてみる事にした。


「ニーナさんは一緒に行かなくて良かったのかい? 貴女とダンさんも仲睦まじく見えるけど」

「ふふ。ありがとキュールさん。でもダンの体は1つしかないからねー。みんなで譲り合わないといけないの」


 やれやれと、少し呆れた様子で肩を竦めるニーナさん。

 みんながダンさんを求めて仕方が無いけれど、ダンさんの体は1つしかないから家族で譲り合うと……。


 う~ん、なんて狂った言葉なんだろうね。

 全員が世界中の誰よりも幸せそうにしているから、彼女たちはこれでいいのかもしれないけれど。


 物思いに耽りそうになったけれど、早くダンさんに合流したいというニーナさんに急かされ、聖域の樹海を後にする。

 その後、皆さんが大急ぎで大量の食事を作っている時に来客があった。


「キュールさん。貴女にお客さんが見えてるわよー。ちょっと来てくれるかしら?」

「え、私にかい? 手紙ならともかく来客って……?」


 私がここに居るのは陛下もご存知のはず……。

 帝国で何か緊急事態が起こったとしても、学者でしかない私が緊急で呼び出されるとは思えないんだけどな?


 首を傾げながらティムルさんと共に玄関に足を運ぶと、そこには表情を消した1人の男が立っていた。


「これはこれは……。意外な人選ですね、カルナス将軍」

「…………」


 家の前に立っていたのは、ヴェルモート帝国最強と名高いカルナス将軍だった。

 しかし将軍は私の軽口には答えず、私を案内してきたティムルさんにゆっくり深々と頭を下げた。


「急な来訪でしたのに、即座に対応していただき恐縮です。このお礼は後日改めて……」

「気になさらないでください。キュールさんは私たちにとっても大切なお客様ですから。帝国のみなさんとも仲良くしていきたいですしね」

「はっ! 奥様のお気持ち、必ず皇帝陛下にお伝えしておきますっ」


 右手を自身の胸に当てて、まるで宣誓するように大仰に答えるカルナス将軍。

 そんな将軍の態度に苦笑しながら、ご用件をどうぞと話の続きを促すティムルさん。


 カルナス将軍はもう1度ティムルさんに軽く頭を下げてから、私のほうに真っ直ぐに向き直る。


「キュール。陛下がお呼びだ。今すぐ同行してもらうぞ。……用件は分かっているな?」

「帝国を離れてスペルド王国で暮らしたいと嘆願した件ですよね? やはり陛下はお許しになってくれませんでしたか」

「いや、陛下は大笑いして了承していたぞ? だが本人の口から詳しい話を聞きたいと仰せになっている」


 おや? 意外な事にカレン陛下はお怒りではないようだ。不幸中の幸いだね。

 しかし安堵する私に釘を刺すように、だが……と静かに言葉を続ける将軍。


「陛下はお許しになっても、他の者も陛下と同じ考えであるとは限らない。むしろお前の身勝手な振る舞いが原因で陛下への不平不満を募らせている者も居る」


 最奥の間への立ち入りを許されている私を自由にさせている陛下に対して、不公平だと不満を募らせているということか……。

 陛下に迷惑をかけるのは覚悟の上だったけど、思った以上に大事になってしまっているみたいだね。


 私を射抜く将軍の視線も、自分はお前の行動を許してはいないぞと雄弁に語りかけてくるようだ。


「だからこれより陛下と重臣たちの前で、お前自らの口で説明してもらおうというのだ。お前の態度次第では陛下の評判を落とすことにも繋がりかねん。精々覚悟して釈明するんだな」

「……私の選んだ道ですからね。覚悟は出来ているつもりです」

「お前の生死などに興味は無いぞ? 陛下の評判を落とさない覚悟が必要なのだ。到着までにしっかり覚悟を決めなおしておくといい」


 私の命よりも陛下の評判が優先か。

 流石は陛下第一主義のカルナス将軍。ブレないねぇ。


 移動魔法を使用する為に一旦究明の道標から脱退して、カルナス将軍とステータスプレートを合わせる。


「済まないティムルさん、チャールとシーズに説明を頼んでいいかな?」

「それは勿論構わないけど、キュールさんこそ大丈夫? ちゃんと戻ってこれるの?」

「そこは安心してください。キュールの安全は保証しますよ」


 私が答えるより早く、不安げなティムルさんに言葉を返す将軍。

 私の生死になど興味は無いって言ってたけど、本当に身の安全は保証してくれるんだろうね?


「キュールの判断は少し物議を醸しておりますが、皇帝陛下自身が既に納得されている話でもありますからね。流石に皇帝陛下の意向を無視する愚か者は居ませんよ。必ず無事に送り届けると約束します」

「はい。キュールさんのこと、どうぞよろしくお願いしますね」


 ふふ。まさかティムルさんに心配されて送り出されるとは思ってなかったなぁ。


 私は客人として一定の距離を保たれていたのかと思っていたけど、ダンさんたちはもっと近くまで受け入れてくれていたのかもしれない。

 そう思うとなんだか悪くない気分だよ。


 行ってきますとティムルさんに手を振って、カルナス将軍と共に帝都フラグニークへ転移した。


「なかなか良い人たちのようだな」

「……えっ?」


 皇帝陛下の下へと急ぐ私に、カルナス将軍が意外な言葉を投げかけてきた。

 話しかけられると思っていなかった私は、将軍へと間抜けな反応を返してしまった。


「急な訪問だったにも拘らず真摯に対応してくれたし、知り合ったばかりのお前のことを心から心配してくれていただろう?」

「あっ、ですね。とても気の良い人たちだと思いますよ」

「神器所有者とその家族と聞いていたからな。正直、私欲に溺れたような者たちなのではないかと疑っていた部分も少なからずある。だが実際にお会いしたら、悪い印象なんて一切無かったな」


 機嫌良さそうにティムルさんを褒めるカルナス将軍。

 叩き上げで陛下の側近まで上り詰めた将軍のことだ。有能そうな人物を見るのは好きなのかもしれない。


「神器所有者の……ダンだったか? 彼が不在だったのは残念だったがな。先ほどの女性が惚れこんだ男ならばつまらぬ男ではないのだろう。会うのが少し楽しみになってきた」

「それは何よりですよ。私は帝国とダンさん達に喧嘩はして欲しくないと思ってますから」

「ふ、穏便に平和的に物事が解決するなら、戦力なんて要らないんだよキュール。あまり夢見がちなことを言うのは感心しないぞ」

「……失言でした。お忘れください」


 ノータイムで私の発言を否定してくるカルナス将軍。

 正直私の発言が失言というのは大袈裟だと思うけど、ここは将軍の価値観に従っておこう。


 将軍は必要に迫られれば、相手が誰でどんな好人物であろうと武力を行使すると言っているのだ。

 その言葉の刃は私の喉元にも突きつけられている気がするね。


 その後は余計な口を挟むのも憚られて、終始無言のままで大会議室まで通された。

 いつものように最奥の間じゃないのは、最奥の間に来ることを許されていないような者も私の話を聞きにきている為のようだ。


 入室すると部屋の中央に立たされ、周囲を重臣達がぐるりと囲って私を見てくる。

 正直居心地は良くないけど、正面の陛下が機嫌良さそうにニコニコとしているのが救いだね。


「くくく。済まんなキュールよ。私としてはお前の選択を支持してやりたいと思っているのだが、お前の勝手を快く思わない者も多くてな?」

「いえ。陛下ご自身にご理解いただけているだけでも心強いです。今回はこのような説明の機会を設けてくださり、心より感謝申し上げます」

「堅苦しい挨拶には興味無い。私が聞きたいのは仕合わせの暴君の魅力についてだ」

「魅力、ですか……?」


 陛下の意外な問いかけに、思わず聞き返してしまった。


 神器についての話や、帝国の情報を漏洩しないようにと宣誓させられるものだとばかり思っていたけど……。

 仕合わせの暴君の魅力って、陛下はいったいなにをお聞きになりたいのだろう?


「ピンときていないようだな? ならもう少し噛み砕いて聞いてやろう」


 ニコニコしている陛下は私を正面から見据え、そして挑発的な口調で言葉を紡ぐ。

 そんな陛下の仕草に、陛下が何処までも真剣に私に問いかけているのが感じられた。


「お前が我が帝国と天秤にかけて、それでも選んだ仕合わせの暴君。彼らの価値を洗いざらい説明してもらおうか」


 陛下の言葉に、場に緊張感が漂い始める。

 誰かがゴクリと唾を飲み込む音が鳴り響く。


 何処までも上機嫌な様子で私に挑発的な笑みを向けている陛下は、帝国を捨ててでも仕合わせの暴君と一緒にいたいと願った私の気持ちの裏の裏まで話してみせろと仰っているのだ。


「どうした? 話せんのか? それとも我ら帝国の者と話すことなどもう何も無いのか?」


 陛下ご自身は楽しそうで何よりだけど、これでは私が帝国を侮辱しているように取られかねないじゃないか……!

 現に、私のほうに不機嫌そうな視線を送っている者が何人もいるみたいだ。


 ……私本人が言ったワケじゃないんだから、そんなに睨まないでくれるかな、カルナス将軍。


「……人聞きの悪いことを仰らないで欲しいですね。私は帝国と彼らを天秤にかけたつもりは……」

「はははっ! お前は行動を持って帝国よりも仕合わせの暴君を選んだだろう? 今更取り繕わなくていいっ!」


 問い詰めるような言葉とは裏腹に、何処までも上機嫌なカレン陛下。

 陛下も皇帝に即位されるまではかなりのご苦労をされたと聞くからね。帝国を否定されることすら楽しんでおられるということかな。


「お前は自身の好奇心の赴くままに、タラムの集落、レガリア、我がヴェルモート帝国、そして仕合わせの暴君と鞍替えをし続けているのだ。自分の尻軽さを少しは自覚せよっ」

「……確かにそのように仰られると立つ瀬もありませんね。私は探究心の奴隷ですから」

「それを聞きたいのだよキュール。お前の探究心を刺激したのはなんだ? お前の知的好奇心を満たしたのはなんだったのだ? 洗いざらい吐いて行けいっ!」


 く、楽しそうな陛下の様子に騙されてしまったみたいだな。これは尋問で間違い無さそうだ。

 めったなことを言ってダンさん達に迷惑をかけることは避けたいけど、適当な理由でお茶を濁すことを許される雰囲気じゃないし……。


 観念した私は、ダンさん達が追っている聖域の樹海の謎や、この世界の歴史の調査について報告する。

 カレン陛下は私の話に興味深く耳を傾けてくださっていたけど、重臣たちの中には欠伸を噛み殺している者も少なくない。


 カルナス将軍にいたっては、大口を開けてこれ見よがしに大欠伸をかましてくれちゃってるねぇ……。

 私の話に興味は無いというアピールかな? 態々ご苦労なことだよ。


 ……そんな周囲の様子を見て、なんとなく自分の本当の気持ちが理解できたような気がした。

 その気持ちをそのまま言葉に乗せてカレン陛下にお伝えする。


「私が仕合わせの暴君の元に行きたいと願ったのは、好奇心を共有できるから……ですね」

「……なに?」

「仕合わせの暴君、それと究明の道標のみんなは私の話を熱心に聞いてくれました。そして私以上の熱を持って彼らの知識も共有してくれたんですよ。見返りを求めずにね」


 私が帝国に雇用されているのは、私の知識をカレン陛下が必要としてくれたからだ。

 だけど帝国に居る限り私の知識と研究は利益を求められ、利用されることから決して離れられず、いつかは自由を失ってしまうだろう。


「単純な話、私はただ同好の士を求めていただけなのかもしれません。私と同等以上の熱意を持ってこの世界の核心に迫れる仲間を求めて、今まで転々としていたのかもしれませんね」

「帝国ではその欲求は満たせなかったと?」

「……申し訳ありませんけどそういうことになりますね。帝国が私に求めるのは、私の知識を如何に統治に役立てるかということでしたから」


 私の知識を求められるのは大変光栄な話なんだけどね。

 私自身がまだまだ知識を得足りないんだよ。


 このまま帝国でゆっくりと老いていくなんてご免さ。

 私は死ぬまで研究者であり続けたいのだから。


「ふむ……。どうやら本音からの言葉のようだな……」


 私の言葉に考え込むカレン陛下と、ざわざわし始める周囲の温度差が激しいな。


 利益を求める事の何が問題だと憤慨する者。

 やはり帝国を下に見ているなどと的外れに激昂する者。


 その様々な反応を見るのはとても興味深いけど、そんな貴方たちから得られる知識には期待が出来そうにないんだよね。


「熱意を共有できていなかったと言われると耳が痛いな。私にとってキュールの知識とは、常に利益に直結するものであったし……」

「利益追求は当然の話ではあるんですが……。私はまだ知らないことが多すぎることを彼らに教えてもらったんです」

「くく……。決意は固そうだな? これは引き止めても無駄らしい」


 カレン陛下はにやりと笑いながら、お手上げとでも言うかのように両手を掲げてみせる。

 終始面白がっているように見えた陛下だったけど、一応引き止める気はあったようだ。


「ヴェルモート帝国皇帝、カレン・ラインフェルドの名において宣言する。キュールの希望を全面的に聞き入れ、帝国からの離脱を認めると。ただし……」


 正式に私の離脱を認めておきながら、しかし直ぐに表情を引き締めて、抜け目無く条件を提示してくるカレン陛下。

 そして提示された条件も、決して軽いものではなかった。


「お前が得た知識は帝国にも共有してもらうぞキュール。秘匿は許さん。お前が仲間と共に手に入れた情報、その全てをヴェルモート帝国に開示してもらう。誓えるか?」

「……仲間の意志に反してでも、ですか?」

「そうだ。お前は最奥の間まで足を踏み入れることを許された人間だ。つまり帝国の機密情報のほぼ全てを把握していると言っていい。そんなお前を引き渡すのだから、こちらにも相応のメリットは必要だろう?」


 カレン陛下の言い分に、思わず吐きそうになったため息を何とか我慢する。


 何処までいってもカレン陛下は利益のことしか見ていない。

 私の知識に興味を持ってはくれているけど、探究心と好奇心を持ってくれているわけでもないのだ。


 ……うん。やはりここは私の居場所ではないらしい。


「情報の開示は受け入れます。ですがステータスプレートに宣誓すると、先方にあらぬ疑いをかけられてしまうかもしれませんが……」

「口約束で構わん。虚偽の報告をしたければするがいい。その時はお前の熱意とやらがその程度だったと判断するだけだ」


 く、そう来るか。虚偽の報告は私の知識欲への冒涜であると……。


 そんなことを言われてしまっては嘘を吐くわけにはいかないな。

 でなければ私の人生を私自身が否定する事になってしまうだろう。


「……承知しました。陛下の寛大なご判断、心より感謝申し上げます」

「好きに動くが良い。そうしてお前の得た知識は、ヴェルモート帝国で有意義に利用させてもらうからな」


 ……なんだろうなぁ。

 今まではカレン陛下の姿勢を好ましくすら思っていたのに、こうも帝国の利益に固執されると、今の私には少々さもしく感じられてしまうよ。


 カレン陛下は22歳の若さで帝国の頂点に上り詰めたお方だ。

 常に帝国の利益を優先し、そのために全てを利用する姿勢は立派だと思うけれど、なんだか少し余裕が無く感じられてしまうね。


 あ~……。早く帰ってチャールとシーズと、利益なんて忘れて夜通し語り明かしたいものだねぇ……。
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