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7章 家族みんなで冒険譚2 聖域に潜む危機
510 履き違え (改)
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「ドワーフたちの代表者に相応しいのは誰か、全員で話し合って探っていこう」
口では真面目な事を真剣に話し合っているのに、頭の中では雷雨のような激しい快楽が瞬いている。
ドワーフ族の将来を話し合う中、俺以外の全員に背を向けてサドっ気全開の表情を見せるニーナとリーチェの2人の手から、暴力的な快感が注ぎ込まれ続けている。
身体操作性補正を全力で行使しているのに、それを突き抜けて2人の手の平にヌメリが混じり始める。
「気持ち良いねー? でも我慢しなきゃ駄目だからねー。我慢したらもっともっと気持ちよくしてあげるからねー」
「気持ち良さそうなダンを見てたら、ぼくもすっごくえっちな気分になってきちゃったぁ……。ねぇダン、ぼく達のことも気持ち良くしてよぉ……」
2人は激しく手を動かしながら、俺の両手を固定している自身の太股をもぞもぞと動かしてくる。
彼女たちの太股に挟まれ、2人の足の付け根にぴったりと密着している俺の両手さんを動かしたいのは山々なんですけど、今一瞬でも気を抜いたら暴発しちゃいそうなんですよねぇ!
「そうだなぁ……。それじゃカラソルさんを代表にするんじゃなくてさ、彼にはドワーフ族の代表の補佐をしてもらうのはどうかな?」
下半身から伝わる天国のような地獄の快楽から意識を逸らしながら、折衷案を提案してみる。
って2人とも! 無理矢理俺の手を自分の下着の中に突っ込んじゃ駄目だってばっ!
「カラソルさんは代表を嫌がってるし、ドワーフたちは商人に代表になって欲しくないんでしょ? なら間を取って、カラソルさんに代表者のサポートをさせるのはどうかなって」
「本人に代表を任せるのでは無く、代表の補佐を頼むのか。確かに補佐であれば反発は出ないかもしれないが……」
ふぅむと小さく頷いて俺に返答してくれたのはレイブンさんだ。
勝手にドワーフの代表みたいに振舞っていたカイメンだったが、レイブンさんの言葉を遮るつもりは無いようだ。
「ダンの話を聞く限り、俺もカラソルという人物の協力は必要だと思う。だがそのカラソルという男はクラメトーラから抜け出した者なのであろう? 本当に信用して良いのか?」
「クラメトーラの地から抜け出した後に、私財を投げ打ってクラマイルの人たちを救済しようとしてた人だよ? そんな人を信用しないなら、逆にどんな人物なら信用できるって言うの?」
「む……そうか。そうだな、確かにその通りだ」
俺の言葉にはっとしたような表情を見せたレイブンさんは、いかんいかんと自分を窘めるように首を振る。
レイブンさんにも悪気は無いんだろうけれど、職人優遇商人蔑視の常識が体に染み付いちゃってるんだろうなぁ。
「いかんな、どうしてもクラクラットを中心として考えてしまう。スペルド王国はドワーフ族を優遇などしてはくれんだろうにな」
「まさにそれがカラソルさんに協力をお願いしている理由だからね。ドワーフ族の立場の低さを正確に理解しながら最大限の利益を追求するには、王国で成功しているカラソルさんの価値観は不可欠だと思うよ」
「ふっ、立場の低いドワーフ族か。はっきり言ってくれるな」
おっと、流石に言葉が過ぎたかな?
でもレイブンさんは気分を害した様子も無く、少し苦笑しただけで流してくれた。
「仮にカラソル氏が補佐を務めるとしてだ。代表者は誰がいいと思う? ……いや、どんな人物がいいと思う?」
カラソルさんの扱いがひと段落したと判断したレイブンさんは、本来の議題だった代表について話を戻した。
わざわざ言い直したってことは、まだ俺の知らない代表候補者が居るってことなんだろうな。
さて、ドワーフの代表に相応しい人物像かぁ。
そう言われちゃうと我が家の女神ティムルお姉さんのことしかイメージ出来ないんだけど、ティムルはドワーフの代表なんてしたくないだろうしなぁ……。
「王国とクラメトーラの関係性についての知識は、補佐であるカラソルさんが担うとして……」
さぁどんな人物が代表に相応しいかなと思案した瞬間、頭の中がピンク色でいっぱいになる。
……ねぇ2人とも。今物凄く真面目に悩んでいるんだから、もうちょっと手加減してくれない?
なんで俺が考え込む素振りを見せると手の動きを加速させるわけ? ニヤァっと意地悪に笑う2人が可愛すぎて怒れないんだけどぉ。
「カラソルさんの話を素直に聞ける人物であることが第1条件だね。カラソルさんの言いなりになられても困るけど、補佐である人物の言い分に耳を傾けられない人物じゃ意味が無い」
「それはそうだな。そうでなければカラソル氏に補佐を頼んでも仕方が無い」
「第2に、クラメトーラからの支持を得られる人物であることかな。例えばだけど、カイメンみたいにクラメトーラの住人に知られていない人物を代表に据えても仕方ないと思う」
「それもまた当然だな。クラメトーラからの支持を受けられるか不安だという理由でカラソル氏を補佐に回すのだから、代表者はしっかりクラクラットで支持される必要があるだろう」
俺とレイブンさんの会話を、他の全員も真剣な表情で聞いている。
カイメンやタヌークさんも、俺の言い分に問題点はないかと真剣に吟味しているのが分かる。
アウラの解放と共にアルケミストの仕事は終わったと自覚したのか、カイメンやタヌークさんが代表者に名乗り出てくる気配も無さそうだ。
いや、アウラのこと以外にあまり興味を持ってないだけかぁ?
「第3に、クラメトーラとドワーフ族に対して深い愛情と情熱を持っていることが重要だと思う。矢面に立ってドワーフ族の未来の為に戦うには、自分の意思で戦う覚悟を持たないと厳しいでしょ」
「ふっ、その点に関しては心配要らんと思うがな。クラメトーラに住まうドワーフたちは、己の種族とこの地に深い敬意を抱いている者ばかりのはずだ」
「……はぁ~。その思い込みが心配なんだよレイブンさん」
「……思い込みだと? それはいったいどういう意味だ」
まるで詰問してくるように、鋭い視線で俺を射抜くレイブンさん。
ドワーフ族とクラメトーラへの敬意の念を侮辱されては、流石のレイブンさんも黙っていられないようだ。
「どういう意味も何も、そのまんまの意味だよ」
でも、種族全体に困窮と衰退を招いていた原因である敬意なんて、鼻で笑われても仕方ないんだよ?
レイブンさんの眼差しを鼻で笑いながら、種族全員が同じ思いを抱いているという馬鹿げた思い込みを否定する。
「常態化した困窮は、ドワーフ族の心を大分擦り減らしてきたでしょ? 深い敬意を抱いているはずのこの地を逃げ出す者や、同じドワーフ族の仲間を喜々として売り払う者も少なくないみたいじゃない」
クラメトーラしか知らないドワーフ族の中からすら逃げ出す者が出て、先祖代々の土地に敬意を払っていると言いながら同じドワーフ族を迫害する者が溢れていたんだ。
レイブンさん自身は誇り高いドワーフなのかもしれないけれど、ドワーフ族全体として見た場合、ドワーフ族の誇りはもう失われ始めているんだよ?
「クラメトーラしか知らなかったから耐えられたドワーフも、クラメトーラの外には自由と富が溢れていると知ったらどうなると思う?」
「自由と富……」
「アウターに自由に潜れて、食べ物も飲み物も管理されていない世界があると知ったら、ドワーフたちはそれでもクラメトーラに居続けててくれると思う? 今ですら逃げ出している者が居るのに? 里への敬意だけで、お腹いっぱい食べられる毎日から目を逸らし続けられると思ってる?」
無知って時として足を動かす原動力にもなるけれど、足を止める強力な要因にもなり得るんだよレイブンさん。
今まではグルトヴェーダに阻まれた土地のせいで、クラメトーラを離れたら生きていけないと思わされていたドワーフたち。
そんなドワーフたちが、クラメトーラの外の方が良い暮らしを出来ると知った時、クラメトーラで暮らし続ける限り先は無いと知った時、本当に先祖代々の土地に敬意を払い続けてくれるかな?
「レイブンさん。愛情や誇りを履き違えるな。既に死んでしまってこの世に居ない先祖ばかりを敬って、今を生きる同族に困窮と迫害と冷遇を強いている事を誇るのはやめろ。滑稽にも程があるよ」
「こっ、滑稽だとぉっ!? 先祖を敬いその想いを継ぐことを……滑稽とぬかしたかぁっ!?」
「……レイブンさん、俺の話聞いてた? 先祖を敬うことを馬鹿にしてるんじゃない。先祖しか見ないで、今苦しんでいる同族の姿から目を逸らしているのが滑稽だって言ってるんだっ!!」
いつの間にかニーナとリーチェの手は止まっていて、俺の頭の中はピンク色から真っ赤な怒りに塗り変わっていく。
悪意に晒されて苦しんでいるならまだしも、こんなの滑稽と言わずしてなんと言えってんだよ?
悪気も無いのに同族に困窮を強いて不幸を生み出していて、なにが先祖への敬意だっ! 笑わせるなぁっ!
「女子供に鍛冶はさせない! 商人は信用できない! この地を去った者は信用できない! いい加減にしろよテメェっ!! お前らのその自分勝手な押し付けで、これまでどれだけのドワーフの命と幸せを奪ってきたと思ってんだっ!!」
幸いにもティムルのことは幸せにしてあげることは出来た。
だけどそうできなかったドワーフは、俺と出会うことすら出来ずに死んでいったドワーフたちは数え切れないんだよ!
王国とは殆ど交流を持っていないくせに、王国に認可された奴隷商人は居て当たり前とか、今までどれだけのドワーフの命をはした金で売り払ってきたと思ってやがるっ!?
「そんなに死んだ人間が大事なら、今を生きる友人や家族、今を苦しむ同族たちがどうでもいいって言うのなら、今すぐ死んで1人で先祖に会いに行けばいいっ!!」
「っ……!」
「そんなに死にたいなら勝手に死ね! 他人を巻き込まずに勝手に死んでろ! 何が誇りだ、何が敬意だ、何が愛情だぁっ!! 死者だけを敬い生者を蔑ろにする種族なんざ、今すぐ俺の手で滅ぼしてやってもいいくらいだ!!」
燃え盛るような激情を吐き出しながら、ニーナとリーチェを抱き寄せる。
腕から伝わる2人の体温。胸に感じる大切な2人の存在。
俺は2人を守るためならなんだってしてみせる。それが愛情ってものじゃないのか、ドワーフ族さんよ?
「レイブンさん。アンタに家族は居ないのか? 親や兄弟、子供は居ないのか? 恋人や友人、親しい隣人や笑顔で挨拶を交し合うドワーフの知り合いは居ないのかよ?」
「ぐ……ぬぅ……」
「アンタは自分の大切な誰かに、先祖のために泣いてくれって言ってるんだよ? アンタの子供に、先祖のために貧しくあり続けてくれと言ってるんだ。友人よりも愛する誰かよりも、とっくに死んでる先祖のほうを優先すると言ってるんだぞっ……!?」
先祖を敬うなと言ってるんじゃない。今を見ろって言ってるんだ。
今苦しんでいるドワーフたちを差し置いて、先人とこの地に深い敬意を持つと胸を張っているレイブンさんの姿は……。
どこもまでも馬鹿馬鹿しくて、果てしなく痛々しいんだよ。
「先祖代々の土地を守るためには、今を生きるドワーフが犠牲になって当然なの? これを滑稽と言わずになんて言えばいいの? 答えてよレイブンさん」
「ぐ、ぬ……。それは、ぐぅ……」
「……答えられないってことは、レイブンさんだって本当は分かってるんだろ? ドワーフ族はいい加減、現実から目を背けるのをやめてくれないかな?」
静まり返る室内。
レイブンさんはおろか、カイメンやタヌークさんに至るまで、俺から目を逸らして気まずそうな表情を浮かべている。
これだけ言ってもまだ、自分たちの価値観が間違っているとは思いたくないのかもしれない。
人間族は偽りの王位を簒奪した結果、レガリアという呪いに長年蝕まれる事になった。
エルフ族は偽りの英雄を生み出した結果、長命であるにもかかわらず滅亡の危機に瀕する事になった。
ドワーフ族もそれと同じで、ガルクーザの脅威から逃げ出し、他の種族と手を取り合うことから逃げ出し、自分たち自らの手で脅威に抗うことから逃げ出してしまった。
今生きている自分達がドワーフ族を繁栄させることからも逃げ出し、責任を過去に求め希望を未来に託し、決して今を見ようとはしなかった。
その結果が、ドワーフ族の衰退と困窮なのだ。
「俺が言っている愛情ってね。自分の大切な誰かに幸せになって欲しいと願い、自分の大切な誰かが笑顔でいてくれるように望む事を言うんだよ。今流れている血と涙を止めて、将来幸福に過ごして欲しいと祈ることを言うんだ」
この世で最も強い感情は愛だなんて、綺麗事にも程がある。
場所が変わり時代が変われば、愛よりも他のものが優先されることだって普通にありえる。
だから、俺なんかがドワーフ族の価値観を否定するのは間違っているのかもしれない。
けれど俺は許せないし、ドワーフ族の価値観を認めたくない。
……我ながら暴君だな。みんなの人を見る目は確かすぎるね。
「価値観の違う俺達がこれ以上話し合っても平行線だね。帰ろうか」
「……いいのダン?」
少し不安げな表情で心配してくれるニーナに、大丈夫だよと笑顔を返す。
確かに俺は不幸が大嫌いな暴君様なのかもしれないけれど、だからと言って救われようとする意志が無い者たちまで面倒を見ていられないよ。
ニーナとリーチェを抱き寄せて席を立つ。
「カラソルさんの話も種族代表会議の話も好きにしていい。俺はもう口を挟まないし関わらない。約束するよ」
「ま、待ってくれ! 俺は、俺はどうすれば……!?」
「カイメンも好きに過ごしていいよ。奴隷契約は破棄してやらないけど、犯罪行為さえしなければ好きに生きればいいんじゃない?」
ホムンクルス計画の完了を自覚したカイメンなら、もうくだらない事はしないと思いたい。
また他人様に迷惑をかけるようなことがあれば、俺が責任を持って処分しなきゃいけないけど。
「俺から言えるのは、ドワーフ族はもう少し現実を見て、家族や友人の顔を見て、本当に大切なものは何か、もう1度良く考え直して欲しいってことだけだ。じゃあね」
「「「…………」」」
別れの言葉を告げても、レイブンさんもタヌークさんも、タァツネさん、ヌゥジーナさんも俯いて黙ったままだった。
ニーナとリーチェを抱き寄せて会議室を出て行く俺達の背に、声がかけられる事はついに無かった。
これでアウター管理局からは手を引く事になったわけだけど……。
ドワーフ族から手を引いたこと、カラソルさんになんて説明すればいいかなぁ……?
口では真面目な事を真剣に話し合っているのに、頭の中では雷雨のような激しい快楽が瞬いている。
ドワーフ族の将来を話し合う中、俺以外の全員に背を向けてサドっ気全開の表情を見せるニーナとリーチェの2人の手から、暴力的な快感が注ぎ込まれ続けている。
身体操作性補正を全力で行使しているのに、それを突き抜けて2人の手の平にヌメリが混じり始める。
「気持ち良いねー? でも我慢しなきゃ駄目だからねー。我慢したらもっともっと気持ちよくしてあげるからねー」
「気持ち良さそうなダンを見てたら、ぼくもすっごくえっちな気分になってきちゃったぁ……。ねぇダン、ぼく達のことも気持ち良くしてよぉ……」
2人は激しく手を動かしながら、俺の両手を固定している自身の太股をもぞもぞと動かしてくる。
彼女たちの太股に挟まれ、2人の足の付け根にぴったりと密着している俺の両手さんを動かしたいのは山々なんですけど、今一瞬でも気を抜いたら暴発しちゃいそうなんですよねぇ!
「そうだなぁ……。それじゃカラソルさんを代表にするんじゃなくてさ、彼にはドワーフ族の代表の補佐をしてもらうのはどうかな?」
下半身から伝わる天国のような地獄の快楽から意識を逸らしながら、折衷案を提案してみる。
って2人とも! 無理矢理俺の手を自分の下着の中に突っ込んじゃ駄目だってばっ!
「カラソルさんは代表を嫌がってるし、ドワーフたちは商人に代表になって欲しくないんでしょ? なら間を取って、カラソルさんに代表者のサポートをさせるのはどうかなって」
「本人に代表を任せるのでは無く、代表の補佐を頼むのか。確かに補佐であれば反発は出ないかもしれないが……」
ふぅむと小さく頷いて俺に返答してくれたのはレイブンさんだ。
勝手にドワーフの代表みたいに振舞っていたカイメンだったが、レイブンさんの言葉を遮るつもりは無いようだ。
「ダンの話を聞く限り、俺もカラソルという人物の協力は必要だと思う。だがそのカラソルという男はクラメトーラから抜け出した者なのであろう? 本当に信用して良いのか?」
「クラメトーラの地から抜け出した後に、私財を投げ打ってクラマイルの人たちを救済しようとしてた人だよ? そんな人を信用しないなら、逆にどんな人物なら信用できるって言うの?」
「む……そうか。そうだな、確かにその通りだ」
俺の言葉にはっとしたような表情を見せたレイブンさんは、いかんいかんと自分を窘めるように首を振る。
レイブンさんにも悪気は無いんだろうけれど、職人優遇商人蔑視の常識が体に染み付いちゃってるんだろうなぁ。
「いかんな、どうしてもクラクラットを中心として考えてしまう。スペルド王国はドワーフ族を優遇などしてはくれんだろうにな」
「まさにそれがカラソルさんに協力をお願いしている理由だからね。ドワーフ族の立場の低さを正確に理解しながら最大限の利益を追求するには、王国で成功しているカラソルさんの価値観は不可欠だと思うよ」
「ふっ、立場の低いドワーフ族か。はっきり言ってくれるな」
おっと、流石に言葉が過ぎたかな?
でもレイブンさんは気分を害した様子も無く、少し苦笑しただけで流してくれた。
「仮にカラソル氏が補佐を務めるとしてだ。代表者は誰がいいと思う? ……いや、どんな人物がいいと思う?」
カラソルさんの扱いがひと段落したと判断したレイブンさんは、本来の議題だった代表について話を戻した。
わざわざ言い直したってことは、まだ俺の知らない代表候補者が居るってことなんだろうな。
さて、ドワーフの代表に相応しい人物像かぁ。
そう言われちゃうと我が家の女神ティムルお姉さんのことしかイメージ出来ないんだけど、ティムルはドワーフの代表なんてしたくないだろうしなぁ……。
「王国とクラメトーラの関係性についての知識は、補佐であるカラソルさんが担うとして……」
さぁどんな人物が代表に相応しいかなと思案した瞬間、頭の中がピンク色でいっぱいになる。
……ねぇ2人とも。今物凄く真面目に悩んでいるんだから、もうちょっと手加減してくれない?
なんで俺が考え込む素振りを見せると手の動きを加速させるわけ? ニヤァっと意地悪に笑う2人が可愛すぎて怒れないんだけどぉ。
「カラソルさんの話を素直に聞ける人物であることが第1条件だね。カラソルさんの言いなりになられても困るけど、補佐である人物の言い分に耳を傾けられない人物じゃ意味が無い」
「それはそうだな。そうでなければカラソル氏に補佐を頼んでも仕方が無い」
「第2に、クラメトーラからの支持を得られる人物であることかな。例えばだけど、カイメンみたいにクラメトーラの住人に知られていない人物を代表に据えても仕方ないと思う」
「それもまた当然だな。クラメトーラからの支持を受けられるか不安だという理由でカラソル氏を補佐に回すのだから、代表者はしっかりクラクラットで支持される必要があるだろう」
俺とレイブンさんの会話を、他の全員も真剣な表情で聞いている。
カイメンやタヌークさんも、俺の言い分に問題点はないかと真剣に吟味しているのが分かる。
アウラの解放と共にアルケミストの仕事は終わったと自覚したのか、カイメンやタヌークさんが代表者に名乗り出てくる気配も無さそうだ。
いや、アウラのこと以外にあまり興味を持ってないだけかぁ?
「第3に、クラメトーラとドワーフ族に対して深い愛情と情熱を持っていることが重要だと思う。矢面に立ってドワーフ族の未来の為に戦うには、自分の意思で戦う覚悟を持たないと厳しいでしょ」
「ふっ、その点に関しては心配要らんと思うがな。クラメトーラに住まうドワーフたちは、己の種族とこの地に深い敬意を抱いている者ばかりのはずだ」
「……はぁ~。その思い込みが心配なんだよレイブンさん」
「……思い込みだと? それはいったいどういう意味だ」
まるで詰問してくるように、鋭い視線で俺を射抜くレイブンさん。
ドワーフ族とクラメトーラへの敬意の念を侮辱されては、流石のレイブンさんも黙っていられないようだ。
「どういう意味も何も、そのまんまの意味だよ」
でも、種族全体に困窮と衰退を招いていた原因である敬意なんて、鼻で笑われても仕方ないんだよ?
レイブンさんの眼差しを鼻で笑いながら、種族全員が同じ思いを抱いているという馬鹿げた思い込みを否定する。
「常態化した困窮は、ドワーフ族の心を大分擦り減らしてきたでしょ? 深い敬意を抱いているはずのこの地を逃げ出す者や、同じドワーフ族の仲間を喜々として売り払う者も少なくないみたいじゃない」
クラメトーラしか知らないドワーフ族の中からすら逃げ出す者が出て、先祖代々の土地に敬意を払っていると言いながら同じドワーフ族を迫害する者が溢れていたんだ。
レイブンさん自身は誇り高いドワーフなのかもしれないけれど、ドワーフ族全体として見た場合、ドワーフ族の誇りはもう失われ始めているんだよ?
「クラメトーラしか知らなかったから耐えられたドワーフも、クラメトーラの外には自由と富が溢れていると知ったらどうなると思う?」
「自由と富……」
「アウターに自由に潜れて、食べ物も飲み物も管理されていない世界があると知ったら、ドワーフたちはそれでもクラメトーラに居続けててくれると思う? 今ですら逃げ出している者が居るのに? 里への敬意だけで、お腹いっぱい食べられる毎日から目を逸らし続けられると思ってる?」
無知って時として足を動かす原動力にもなるけれど、足を止める強力な要因にもなり得るんだよレイブンさん。
今まではグルトヴェーダに阻まれた土地のせいで、クラメトーラを離れたら生きていけないと思わされていたドワーフたち。
そんなドワーフたちが、クラメトーラの外の方が良い暮らしを出来ると知った時、クラメトーラで暮らし続ける限り先は無いと知った時、本当に先祖代々の土地に敬意を払い続けてくれるかな?
「レイブンさん。愛情や誇りを履き違えるな。既に死んでしまってこの世に居ない先祖ばかりを敬って、今を生きる同族に困窮と迫害と冷遇を強いている事を誇るのはやめろ。滑稽にも程があるよ」
「こっ、滑稽だとぉっ!? 先祖を敬いその想いを継ぐことを……滑稽とぬかしたかぁっ!?」
「……レイブンさん、俺の話聞いてた? 先祖を敬うことを馬鹿にしてるんじゃない。先祖しか見ないで、今苦しんでいる同族の姿から目を逸らしているのが滑稽だって言ってるんだっ!!」
いつの間にかニーナとリーチェの手は止まっていて、俺の頭の中はピンク色から真っ赤な怒りに塗り変わっていく。
悪意に晒されて苦しんでいるならまだしも、こんなの滑稽と言わずしてなんと言えってんだよ?
悪気も無いのに同族に困窮を強いて不幸を生み出していて、なにが先祖への敬意だっ! 笑わせるなぁっ!
「女子供に鍛冶はさせない! 商人は信用できない! この地を去った者は信用できない! いい加減にしろよテメェっ!! お前らのその自分勝手な押し付けで、これまでどれだけのドワーフの命と幸せを奪ってきたと思ってんだっ!!」
幸いにもティムルのことは幸せにしてあげることは出来た。
だけどそうできなかったドワーフは、俺と出会うことすら出来ずに死んでいったドワーフたちは数え切れないんだよ!
王国とは殆ど交流を持っていないくせに、王国に認可された奴隷商人は居て当たり前とか、今までどれだけのドワーフの命をはした金で売り払ってきたと思ってやがるっ!?
「そんなに死んだ人間が大事なら、今を生きる友人や家族、今を苦しむ同族たちがどうでもいいって言うのなら、今すぐ死んで1人で先祖に会いに行けばいいっ!!」
「っ……!」
「そんなに死にたいなら勝手に死ね! 他人を巻き込まずに勝手に死んでろ! 何が誇りだ、何が敬意だ、何が愛情だぁっ!! 死者だけを敬い生者を蔑ろにする種族なんざ、今すぐ俺の手で滅ぼしてやってもいいくらいだ!!」
燃え盛るような激情を吐き出しながら、ニーナとリーチェを抱き寄せる。
腕から伝わる2人の体温。胸に感じる大切な2人の存在。
俺は2人を守るためならなんだってしてみせる。それが愛情ってものじゃないのか、ドワーフ族さんよ?
「レイブンさん。アンタに家族は居ないのか? 親や兄弟、子供は居ないのか? 恋人や友人、親しい隣人や笑顔で挨拶を交し合うドワーフの知り合いは居ないのかよ?」
「ぐ……ぬぅ……」
「アンタは自分の大切な誰かに、先祖のために泣いてくれって言ってるんだよ? アンタの子供に、先祖のために貧しくあり続けてくれと言ってるんだ。友人よりも愛する誰かよりも、とっくに死んでる先祖のほうを優先すると言ってるんだぞっ……!?」
先祖を敬うなと言ってるんじゃない。今を見ろって言ってるんだ。
今苦しんでいるドワーフたちを差し置いて、先人とこの地に深い敬意を持つと胸を張っているレイブンさんの姿は……。
どこもまでも馬鹿馬鹿しくて、果てしなく痛々しいんだよ。
「先祖代々の土地を守るためには、今を生きるドワーフが犠牲になって当然なの? これを滑稽と言わずになんて言えばいいの? 答えてよレイブンさん」
「ぐ、ぬ……。それは、ぐぅ……」
「……答えられないってことは、レイブンさんだって本当は分かってるんだろ? ドワーフ族はいい加減、現実から目を背けるのをやめてくれないかな?」
静まり返る室内。
レイブンさんはおろか、カイメンやタヌークさんに至るまで、俺から目を逸らして気まずそうな表情を浮かべている。
これだけ言ってもまだ、自分たちの価値観が間違っているとは思いたくないのかもしれない。
人間族は偽りの王位を簒奪した結果、レガリアという呪いに長年蝕まれる事になった。
エルフ族は偽りの英雄を生み出した結果、長命であるにもかかわらず滅亡の危機に瀕する事になった。
ドワーフ族もそれと同じで、ガルクーザの脅威から逃げ出し、他の種族と手を取り合うことから逃げ出し、自分たち自らの手で脅威に抗うことから逃げ出してしまった。
今生きている自分達がドワーフ族を繁栄させることからも逃げ出し、責任を過去に求め希望を未来に託し、決して今を見ようとはしなかった。
その結果が、ドワーフ族の衰退と困窮なのだ。
「俺が言っている愛情ってね。自分の大切な誰かに幸せになって欲しいと願い、自分の大切な誰かが笑顔でいてくれるように望む事を言うんだよ。今流れている血と涙を止めて、将来幸福に過ごして欲しいと祈ることを言うんだ」
この世で最も強い感情は愛だなんて、綺麗事にも程がある。
場所が変わり時代が変われば、愛よりも他のものが優先されることだって普通にありえる。
だから、俺なんかがドワーフ族の価値観を否定するのは間違っているのかもしれない。
けれど俺は許せないし、ドワーフ族の価値観を認めたくない。
……我ながら暴君だな。みんなの人を見る目は確かすぎるね。
「価値観の違う俺達がこれ以上話し合っても平行線だね。帰ろうか」
「……いいのダン?」
少し不安げな表情で心配してくれるニーナに、大丈夫だよと笑顔を返す。
確かに俺は不幸が大嫌いな暴君様なのかもしれないけれど、だからと言って救われようとする意志が無い者たちまで面倒を見ていられないよ。
ニーナとリーチェを抱き寄せて席を立つ。
「カラソルさんの話も種族代表会議の話も好きにしていい。俺はもう口を挟まないし関わらない。約束するよ」
「ま、待ってくれ! 俺は、俺はどうすれば……!?」
「カイメンも好きに過ごしていいよ。奴隷契約は破棄してやらないけど、犯罪行為さえしなければ好きに生きればいいんじゃない?」
ホムンクルス計画の完了を自覚したカイメンなら、もうくだらない事はしないと思いたい。
また他人様に迷惑をかけるようなことがあれば、俺が責任を持って処分しなきゃいけないけど。
「俺から言えるのは、ドワーフ族はもう少し現実を見て、家族や友人の顔を見て、本当に大切なものは何か、もう1度良く考え直して欲しいってことだけだ。じゃあね」
「「「…………」」」
別れの言葉を告げても、レイブンさんもタヌークさんも、タァツネさん、ヌゥジーナさんも俯いて黙ったままだった。
ニーナとリーチェを抱き寄せて会議室を出て行く俺達の背に、声がかけられる事はついに無かった。
これでアウター管理局からは手を引く事になったわけだけど……。
ドワーフ族から手を引いたこと、カラソルさんになんて説明すればいいかなぁ……?
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【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
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