異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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7章 家族みんなで冒険譚2 聖域に潜む危機

507 査問 (改)

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「貴様、俺にいったいなにをした!? なぜ貴様との奴隷契約が破棄出来んのだっ!?」


 ニーナとリーチェと一緒にクラクラットを来訪し、ドワーフたちの実質的な支配者として君臨していたアルケミストのカイメンと、奴隷商館で再会した。

 アウラの安全以外にはほぼ興味の無かった俺は、カイメンをほぼ放置状態でリリースしてしまったんだけど、どうやら俺とカイメンの奴隷契約は破棄されずに済んでいたようだ。


「奴隷契約の破棄を禁止してなかったのは俺だから、これに関してはペナルティを与えるわけにはいかないか。でもカイメンに聞き取りくらいはしておこう」

「了解なのー。ねぇカイメン。貴方はダンとの奴隷契約をどうやって破棄するつもりだったのー?」


 朝食はなんだったのと聞くくらいのノリで、ニーナがカイメンに奴隷契約の破棄方法を問いかける。

 俺も大概躊躇わない方だと思うけど、ニーナの方が1枚も2枚も上手感あるよな……。


「……金を払って、ここの奴隷商人に契約の破棄を依頼したんだ。無理矢理結ばれた不当な契約だと言ってな……!」


 苦々しくこちらを睨みつけながら、ニーナの質問に淀みなく答えるカイメン。

 カイメンと奴隷契約を結んでいるのは俺だけだけど、俺がカイメンに偽証も黙秘も許さないと思えば、カイメンに逆らう術は無いらしい。


 なるほどなー。確かに無理矢理結んだ契約だったわ。

 奴隷であるカイメン的には嘘を言っていないから、奴隷商人も依頼に応じてくれたようだね。


「だが……くっそぉ! 何度試してみても契約は失効してくれなかった……! なぜだ!? 貴様は私に何をしたんだぁっ!?」

「お前が目の前で見ていたこと以上のことは何もしてないよ。お前だって一部始終見てただろ」

「……あれはいったいなんだったんだ!? 従属魔法を唱えすらせずに、ただ奴隷にすると宣言されただけで強制的に奴隷契約を結ぶなど聞いたこともないぞっ!」

「まぁまぁちょっと落ち着いて。落ち着くまで黙っててくれる?」

「ふ、ふぐぅっ……!?」


 俺が軽くお願いしただけで、カイメンは口を噤んで一切言葉を発せなくなった。

 ふ~む、おかしいなぁ? ニーナとティムルを奴隷として所有していた時だって、ここまでの拘束力と強制力は無かったはずなのに。


 首を傾げていると、周囲の風が動いたのが感じられた。どうやらリーチェが音を遮断したみたいだ。

 音を遮断したという事は、他の人には聞かせられない話題かな?


「ダンの従属魔法はスキル融合して進化してるんでしょ? だから奴隷商人だけの従属魔法よりも強力で、奴隷商人だけじゃ解除できないんだと思うよ」

「あ、そっか。魔物使いなんて巷に溢れているとは思えないし、下位スキルで上位スキルの解除を試みたって無理なのかぁ」

「奴隷商人って王国で管理されてるから、恐らく職業浸透や転職にも制限が課せられるはずだ。だから奴隷商人を浸透させて魔物使いになった人なんて、恐らくダンの他には居ないんじゃないかな? ダンの従属魔法に逆らえる人間は、現在この世界には存在してないと思うよー」

「ふぅん? レガリアにならいるかもしれないってレベルなのかねー」


 王国の奴隷商人の管理とか良く分からないけど、リーチェが言うなら多分そうなんだろうな。


 奴隷商人って恐らく奴隷解放を経験することで得られる職業だと思うけど、国に届け出ていない奴隷商人は重罪扱いらしいもんね。

 俺みたいにセカンドジョブ、サードジョブに設定出来れば隠しようもあるけど、普通の人はステータスプレートを確認されたら1発で詰みだもんな。罪だけに?


 それに今までの王国では、奴隷は毎年勝手に……しかも大量に生み出されていたから、奴隷商人たちは濡れ手に粟状態で稼ぎまくっていたことだろう。

 奴隷商人として国から認可を受けた奴は、もう他の職業に転職しようなんて思わなかったんだろうね。


「あはっ。つまりダンが望めば、この世界の全ての女を好き放題に出来るってことだねっ!」

「しないからっ! ニーナはすぐそうやって嫁を増やそうとしないでくれるっ!?」

「ラズ殿下やマーガレット新女王様とかぁ……帝国の皇帝様も女性だっけ? 選り取り見取りなのっ」

「従属魔法なんか無くても好き放題させてくれる、俺の愛する可愛い家族にしか興味無いでーす。ニーナとリーチェが隣りにいるのに、他の女の事を考える余裕なんてある訳ないでしょ?」


 ラズ殿下やマーガレット殿下なんかは王族だけあって確かに美人だけど、ニーナとリーチェが俺の腕の内側に収まってるのに無理して手を伸ばすほどではないかな。


 からかってきたニーナのほっぺと、ついでにリーチェのほっぺにもキスをする。

 リーチェの頬から口を離した時に、もう大丈夫だよと耳元で囁き、音の遮断を解除してもらった。


「そんなに邪険にしないでくれよカイメン。別に俺達はお前なんかに興味無いから、逆に酷い扱いをする気も無いよ」

「ふぐぅっ……! ふぐーーっ!」


 怒りの形相で何か反論したそうにしているカイメンだけど、さっきのお願いがまだ効力を発揮していて口が開けないようだ。

 使いにくいと思ってたけど便利だな、強化された従属魔法は。


 とりあえず口を挟めないカイメンの事は放置して、カイメンを連れて来た奴隷商館の男に声をかける。


「見ての通りコイツは俺達の所有してる奴隷なんだ。このまま連れてっていいかな? それともなにか用事が残ってたりする?」

「あーっ……と。すまねぇ兄ちゃん。それは俺じゃ返答できねぇ。上に聞いてくるからもう少々待っててくれねぇか?」


 どうやら契約の失効こそできなかったものの、奴隷商人とは既にやり取りしていたらしく、無理矢理奴隷にさせられたと主張しているカイメンの発言を無視するわけにはいかないようだ。

 ここでカイメンなんかを誘拐して犯罪者にされるリスクを取るのは馬鹿馬鹿しすぎるので、大人しく従うとしよう。


「何度も走らせちゃって悪いね。待ってるから宜しくー」

「下っ端が走らされるのは当然ってな。じゃあちょっくら行ってくるぜ」


 奴隷商の下っ端従業員は、この場にカイメンを残して商館へと走っていった。

 ……って、カイメン置いてっていいの? 俺とカイメンのやり取りで、俺達が奴隷契約を結んでいる事は間違いないと判断してくれたのかな?


 ステイルークでゴールさんに雇われていた門番さんといい、奴隷商館で働いてる人って何気に有能な気がするよ。

 顧客には身分が高い人も多そうだし、しっかりと教育されているのかな?



 数分程度待っていると、下っ端の男は少し年老いた男性を伴って戻ってきた。

 恐らくはこの商館の奴隷商人さんなのだろう。


「悪いな兄ちゃん。会長が直接確認しないわけにはいかないって聞かなくてな。もうちょっと付き合ってくれっか」

「仕方なかろうが。カイメンさんは無理矢理奴隷契約を結ばされたと主張しているのだからな。事実確認は必要だろう」

「会長さんにもお時間取らせて申し訳ないね。何でも聞いてよ」


 この奴隷商人はカイメンが強制奴隷契約の被害者であることを疑って、その所有者である俺に直接真偽を確かめに来たようだ。

 ……なんかこの世界って奴隷制度自体は最悪のシステムなのに、奴隷商人は善人っぽい人多くない?


 自称下っ端の男が俺と会長さんとやらの間に入ってお互いの説明してくれる。

 相手の事はこの奴隷商館を運営している奴隷商人、としか紹介してくれなかったけど、それ以上の情報に意味は無いのも確かか。


 鑑定しても良いけど……。ま、必要ないかな。


「ふぅむ。見たところ思っていた以上に若そうだね。とても犯罪組織に関わっているとは思えないが……」

「実際そんなものに関わってないからね。っていうかどこから出てきたの? そんな話」

「別にお前さんに限った話ではなくてな? 違法奴隷契約なんて個人でやれる行為では無いからの。違法奴隷取引となるとまず組織的な犯行を疑うのじゃよ」


 違法奴隷取引は個人で行なえるような犯行ではない、かぁ。

 ほんとに奴隷関係の決まりはしっかりしてるのなー。


 違法奴隷取引なんてあると正規の奴隷商人は商売上がったりだから、割と過剰な反応をしてしまっているのかもしれないな。


「奴隷商の間では昔から、違法に人身売買を繰り返している巨大な犯罪組織が存在しているという噂がまことしやかに囁かれておるのじゃよ」

「なーる。奴隷商人って王国に管理されてるんだもんね」


 っていうかその組織って、まんま組織レガリアのことじゃね? 竜人族の飼育とかしてたしなあいつら。

 ノーリッテにいたっては従属魔法を進化までさせてたし、正規の奴隷商人から見たら天敵みたいな存在だった気がするよ。


「それで、事実確認ってどうすればいいの? 犯罪組織と関わっていない証拠を出せ、とか言われても困っちゃうんだけど」

「お前さんの職業を見せてもらって、後はステータスプレートに宣誓してカイメンさんを奴隷にした理由を正直に語ってもらうだけじゃ。疚しいことが無ければすぐ終わるじゃろ?」

「だね。そんなのでいいならさっさと済ませちゃおうっか。己が本質。魂の系譜。形を持って現世に示せ。ステータスプレート」


 第1職業を冒険者に設定して、ステータスプレートを呼び出す。

 奴隷商人は俺のステータスプレートの職業欄を見て問題が無いことを確認すると、続いて自分のステータスプレートを取りだした。


「これよりお互い宣誓するぞ。お前さんは『カイメンさんを奴隷にした理由を偽らずに説明する』ことを、ワシは『その説明に違法性を感じなければ、お前さんの主張を信じる』ことを誓うのじゃ」

「了解。俺は『カイメンを奴隷にした理由を、正直にアンタに説明する』よ」


 俺のステータスプレートが淡く光る。

 光が収まってからステータスプレートを確認すると、そこには『宣誓(偽証禁止)』の文字が表示されていた。


 続いて奴隷商のステータスプレートも淡く光る。口には出さなかったけれど宣誓が済んだようだ。

 ステータスプレートを確認するかと問われたけれど、宣誓の内容には特に興味ないので確認しなくていい。


 もういいのかと視線で問うと、奴隷商人が頷きを返してくる。


「俺がこの男、カイメンを奴隷にした理由はね……」


 さて、偽証禁止だったっけ。なんて説明しようかな?

 でもいくら偽証を禁止したところで自由に喋れるんだったら、抜け道なんていくらでもあるんだよ?


「カイメンは俺の娘を監禁して、彼女の体を弄くってたんだ。だから奴隷に落としたんだよ」

「な、なんじゃと……!? それが本当ならカイメンさんの方が犯罪者ではないか……!」


 俺の説明に驚愕する奴隷商人。

 偽証禁止の誓約も反応なし。これならどうとでも説明できそうだな。


「ふっ、ふぐぅ~~っ!?」

「……っ。こほん。だけどカイメンにも言い分があってね。コイツは娘の体の調子を整えようと思ってやっていたことだったんだ」


 嘘を言おうとすると言葉が出なくなるので、失敗判定が分かりやすいな。

 嘘を言うとステータスプレートが反応するとかだったら困ったけど、これだとあんまり意味のない誓約に感じるよ。今回に限っては好都合だけど。


「む、娘さんの体の調子じゃと……? つ、つまりカイメンさんは医者なのか?」

「医者では無いけど、娘の体について研究していた男なんだ。娘の体はちょっと特別でさ。今までは長いこと外で遊ぶことも出来なかったんだよ」

「ふーっ! ふぐーーっ!」


 うるさいなぁカイメン。

 ちゃんと偽証禁止を宣誓して喋ってるんだから、俺の言葉に嘘が無いのはお前だって分かってるだろー?


「娘さんは病弱だったのか? それで娘さんは今……?」

「おかげさまで元気にしてるよ。今日も森で元気に走り回っているはずさ」

「ほぉ、それは何よりじゃな……」


 カイメンがさっきから何かを叫びたそうにしているけれど、今は俺が説明を求められてる場面だからね。

 発言されてもややこしくなるだけだろうし、そのまま黙っててちょうだいな。


 ニーナとリーチェが顔を隠して肩を震わせているけれど、奴隷商から見たら涙を堪えているように映るんだろうなぁ。


 そっと2人の肩を抱いて、悲しむ妻の顔を奴隷商から隠してあげよう。

 悲しんでいる妻の笑いを堪えている表情なんて、会長さんにはとても見せられないからね。


「この男が娘を監禁し、研究していたのは事実なんだ。だから犯罪者として奴隷にした。だけど娘の体調を整えてくれたのも事実だからね。ご覧のように比較的自由に過ごさせていたんだよ」

「む、むぅぅ……。想像していたよりもずっと複雑な関係なのじゃな……」

「だけどカイメンがやったことを考えたら、流石に奴隷契約を解消して野放しにするわけにもいかないでしょ? だから奴隷契約を無効にされたら困るんだ」

「なるほどのぅ……。カイメンさんがやったことが善意なのか、それとも好奇心に突き動かされたものなのかは分からんが、誘拐と監禁をした犯罪者として裁かれれば犯罪奴隷化は必至。しかしお前さんの所有物であるうちはそれも回避できるというわけか……」

「ふぐううううう! ふぐっ! ふぐうううう!」


 カイメンが顔を真っ赤にしてなにかを訴えようとしているけれど、偽証禁止の誓約が成立している為か、会長さんは俺の言葉を全く疑う気配は無い。

 ということでカイメンももうちょっと落ち着こう? そのままじゃ血管ブチ切れちゃうよ?


「実際に娘もカイメンを恨んじゃいないからさ。あまり酷い扱いをさせる気は無いんだよ」

「むぅ。娘さん自身も恨んでおらぬのなら、確かに犯罪者として扱うのは偲びない、か……」

「だけどカイメンは俺の奴隷になることを拒否したからね。……っ、強制的に奴隷にさせてもらったってわけさ」


 悪いけど、と言おうとしたら口が開かなかった。

 カイメンを奴隷にしたことを悪いとは一切思っていないので、どうやら偽証判定に引っかかってしまった模様。


「……っ、どうかな? これで納得してくれた?」



 説明は以上だよって言おうとしたら、またしても偽証判定が下されてしまった。

 ステータスプレート裁判長によると、俺の説明責任は不十分だそうですね。そりゃそうだ。


「ふぅむ。どうやら嘘は一切言っておらぬようじゃし……」

「ふぐっ、ふぐぐぐぐぐ……!」


 俺の言うことを完全に信じた様子の奴隷商と、怒りに顔を紅潮させながらも微妙に諦めを感じさせるカイメン。


 嘘を一切言わず本当のこともまぁまぁ喋っても、このくらい切り抜けるのは余裕よ余裕。

 本当に尋問するのなら、本人の自由に喋らせちゃ駄目なんだよ? 嘘を吐く事を禁じられても、本当の事を言わない自由があるなら意味が無いからね。


「しかし今の話が本当であるなら、なぜカイメンさんに会話を禁止しておるのだ? 話の内容的には、カイメンさんが喋っても問題なかったのではないか?」

「カイメンは俺達に悪感情を抱いているからね。嘘にならない範囲で会話を誘導しかねないと思ったんだ」


 やば。自分で言っててどの口が言ってんだって思っちゃうな。

 嘘にならない範囲の会話誘導って、今まさに俺がやってることだっての。


「今の話に嘘は無いけど、カイメンが口を挟んで来たらややこしくなるかなって」

「ああ、強制的に奴隷にしたのだったな。であればその懸念も止むなしか」

「俺の説明を聞いた会長さんは、今の話をどう判断したかな?」

「ふぅむ、お前さんの娘さんを誘拐、監禁しているのは流石に看過できんな。たとえ善意からくる行動であったとしてもだ」

「……ふぐぅ」


 がっくりと肩を落すカイメン。話の流れが決定付けられたことを悟って諦めたようだ。


 アルケミストの連中も、悪意があってやっていたわけじゃないのが厄介だ。

 悪意が無ければ何をしてもいいってものでもないけど、ホムンクルス計画をただ引き継いだだけのカイメンに全責任を負わせようって気には正直なれない。


 なのでこれからカイメンには、ドワーフ族の発展の為に身を粉にして働いてもらうべきだろう。


「うむ。事情は理解した。なにやら複雑な事情じゃが、お前さんに悪意は無さそうじゃ。カイメンさんの引渡しを許可しよう」


 奴隷商がそう宣言すると、俺と奴隷商のステータスプレートが同時に発光し、宣誓の項目が消えていた。

 さて、ボロが出ないうちに引き上げますかねぇ。


「娘の快癒もあって比較的軽めに制限してたのが仇となったね。会長さんには面倒をかけて申し訳なかった。同じ事を起こさないように気をつけるよ」

「そうじゃな。どうやら強制的に奴隷契約を結んだこと自体は本当のようじゃし、同じようなことを起こされていちいち説明に赴いては手間じゃろう。カイメンさんの事を思うなら、それこそしっかりと制約を設けるべきじゃな」


 所有している奴隷が迷惑をかけたと言うことで、迷惑料として金貨3枚ほどを渡して奴隷商館を後にする。

 気持ち機嫌が良くなった奴隷商に見送られながら、カイメンと共にアウター管理局に向かって歩き出した。


 しかし歩き始めて数分。

 もう確実に奴隷商館には声も届かないであろう場所まで移動した瞬間、ニーナとリーチェが腹を抱えて笑い声をあげたのだった。
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