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7章 家族みんなで冒険譚2 聖域に潜む危機
501 失伝 (改)
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勢い余って集まったドワーフたちの悉くを失神させてしまい、なんとか意識を手放さずに済んだ2人と対峙する。ニーナをお姫様抱っこしたままでなっ。
用意された椅子は俺用に準備されたものらしいので、ニーナは俺の膝の上に座ってもらおうねーすりすり。
ニーナに頬ずりしながら、正面のドワーフに声をかける。
「俺達を呼びつけたのはそっちだ。だからまずは用件を聞きたいな。俺達に何の用?」
「あ……そ、その、だな……」
辛うじて意識を保っている2名もガタガタと震えていて、とてもまともな状態には見えない。
もう殺意なんて飛ばしてないのにいつまで震えてるんだよ?
こっちとしてはお前らに付き合う義理も無いんだから早く話して、さぁさぁさぁっ。
「俺達を案内してきたタリクとマイスに聞いた話じゃ、俺達の装備品について何か言いたいんじゃないのか?」
「そっそそ、装備品……。そ、そうだ、装備品だ……!」
装備品と聞いて、ガタガタと震えるだけだった2人のドワーフの目に力が戻ってくる。
どんだけ職人馬鹿なんだよ? 素直に凄いなぁ。
「俺達も暇じゃないんでね。早いとこ話を始めてくれる?」
「あ、ああ。取り乱して済まなかった。本題に入ろう」
相手の震えが収まったところを見計らって催促すると、ふぅ……と深く息を吐いてから落ち着いた様子で自己紹介を始める2人。
さっきまでの圧迫面接感はいったいなんだったんだか。
「ワシはクラクラット職人連合の長を務めている、『大地の工廠』のエウレイサだ」
「同じく職人連合に所属しておる『玉響の打鐘』のスポッタだ」
「仕合わせの暴君のダンと、妻のニーナだ」
エウレイサさんとスポッタさんね。この人たちも聞き慣れない発音の名前で覚えにくいなー。
名前の前の大地の工廠と玉響の打鐘っていうのは、この人たちが所属している工房の名前かな?
俺はパーティ名を名乗っちゃったけど構わない、よね?
「さて、既に聞いているなら話は早い。ワシらがアンタがたを呼んだのは他でも無い。アンタがたの身に着けている装備品が聖銀や精霊銀よりも上の素材で作られているようにしか思えないからご足労いただいたわけだ」
ん? 神鉄って確信があって呼んだわけじゃないのか?
って、防具って神鉄の~とかオリハルコン~とかって名前じゃないのか。武器はインベントリの中だし、装備品の名称だけで素材の特定までには到らなかったと。
「アンタがた2人もドラゴン種の素材で作られた防具を身につけているし、先日一緒にいた小さな少女は全身をドラゴン種の装備品で固めていたという報告も受けている」
「しかもだ。アンタがたの装備品はスキルが最大まで付与されているだろう? それもほぼ全て大効果スキルでだ。そんなものワシらでもお目にかかった事は無い」
付与されてるスキルまで鑑定されてるのか。
流石に職人の街だけあって、付与術士も普通に居る場所なのね。
既に鑑定をされた後だし、今も身に着けている装備品のことを誤魔化すのは無理か。
でも俺達の装備品が異常なのは認めるけど、俺達を呼び出した用件が分からないな。
「話が見えないね。俺達の装備なんてアンタたちには関係ないだろ? いい加減用件を言ってくれないかな?」
「関係ないはずが無かろう? 我らドワーフ族しか作れないはずの聖銀より上の装備品を、アンタがたは完璧な仕上がりで運用しておるのだからな」
俺の言葉に被せるように核心に踏み込んでくるスポッタ。
しかしどういうことだ?
今のスポッタの言葉から推察すると、クラクラットには名匠の存在が伝わっているように感じられるんだけど、それならなんで俺達が呼びだされる必要がある?
名匠の情報が伝わっていて、付与術士までの転職魔法陣が存在しているのであれば、自分たちでも神鉄装備を生み出せるんじゃ……。
あ、神鉄素材が手に入れられないとか?
「竜宝玉を用いて作成された防具、恐らく武器も神鉄なのだろう? それだけでも異常なのに、その防具に付与されているスキルもまた異常すぎる……」
「王国中に流通しているスキルジュエルを全て集めても、恐らくその水準の装備は作れんだろう。さて用件だったな」
装備品に付与してあるスキルの異常さもしっかり把握済みか。ウェポンスキルを見られなかったのが不幸中の幸いって感じだな。
エウレイサは1度言葉を切って目を瞑り、覚悟を決めるように小さく息を吐いてから鋭い視線で俺を射抜く。
「アンタがたはいったい何者だ? どうしてドワーフ族が失伝させたはずの上級レシピを扱える?」
「……は? ドワーフ族が失伝……させた?」
「左様。ドワーフ族しか得る事を許されぬ職業、名匠。それは遠い昔に我らの先祖があえて失わせた力なのだ。だがアンタがたは、名匠の力を得ているな?」
言い終わると、ただ静かに俺を見詰めて口を噤むエウレイサ。
しかし、あえて失伝させたってのはどういうことだよ?
上級レシピと名匠の名を口にしているし、名匠に関する知識にも誤りは感じられない。つまり名匠の知識は現代まで正しく伝えられているんだ。
少なくともガルクーザを討伐した蒼穹の盟約には名匠が居たはずだ。そこまでは普通に神鉄装備も作り出していたはずなのだ。
ドワーフ族にしか生み出せない上級レシピの存在は、ドワーフ族にとって大きな存在意義になるはず。
だけどドワーフの祖先たちはあえて失伝させたのだとエウレイサは言い切った。
ドワーフたちのその選択には、いったいどんな意味が込められているんだ?
「そこまで分かってるなら腹を割って話そうか。お察しの通り俺達は名匠の存在を知っているし、その職業の加護を得ている協力者もいるよ。スキル付与もその人にしてもらったんだ」
「であろうな。名匠になった者はスキル付与を失敗しないと言われている。名匠の力無くばそこまでのスキル付与は無理であろうよ」
「名匠が居るだけでは説明がつかないほどのスキル水準だとは思うが、それはまぁいい。だがやはり予想した通り、アンタがたは名匠の力に触れてしまっておったか……」
腕を組んでぐぬぬと唸り出すエウレイサとスポッタ。
いやいや、自分らだけで悩んでないでちゃんと説明しろっての。
なんかさっきから会話が全然進んでないぞ?
名匠の存在とクラクラットのドワーフたちの関係性が、俺が想像していたよりも複雑そうってことしか伝わってこないんだが?
「ごめん。まずは結論から聞きたいな」
俺はいつだって単刀直入のノーガード戦法を信条としているんだよ。駆け引きとか舌戦とかしたくないし出来ないの。
頭を上げてこちらに視線を移した2人に、更に言葉を投げかける。
「俺達には名匠の協力者がいるよ。そしてその人の作ってくれた装備品を活用している。それが何か不味いの? 名匠の力を秘匿するのに協力しろって言いたいわけ?」
「いや。アンタがたに何かをお願いするつもりは無いのだ。名匠の存在を否定する気も無い。だが名匠がこの世に現れているのであればその存在を把握しておきたかっただけなのだ」
「つまりはただの確認だったってこと?」
神妙な面持ちで頷くエウレイサとスポッタ。
ただの確認にしては随分と大掛かりで、しかも荒っぽい歓迎だったけどな? そこを突くと話が進まないからスルーするけどさ。
「やっぱり話が見えないよ。どうしてドワーフたちは名匠の存在を失伝させたの? 俺達が名匠の力を活用してもいいのであれば、ドワーフたちが失伝させる必要もなかったんじゃないの?」
「当然の疑問だな。これは職人連合の極一部にのみ伝えられていることなのだが……」
職人連合にのみ伝えられている情報? って、もしかしてレガリアも把握していない情報があるのか?
レガリアってスペルドに反発したドワーフには興味を持ってなかったのかもしれないな。
ホムンクルス計画だって把握はしていたけど手は出してなかったっぽいし、アルケミストの連中とは一定の距離を保って関わっていたのかもしれない。
「他種族と比べて戦闘力に劣るドワーフ族。そのドワーフ族にのみ上級レシピが扱えるという事実が広まるのは危険だと判断したらしいのだ。ワシらのご先祖様はな」
「ドワーフ族がそこまで明確に戦闘力が低いとは思わないけど……。名匠の存在が広まると危険って、具体的には?」
「うむ。他種族に戦闘力にモノを言わせて支配され、ドワーフ族は奴隷のように扱われてしまうのではないか、そのように危惧したそうなのだ」
「……なるほど」
さっき俺がレイブンさんに語った懸念を、ドワーフのご先祖様も抱いたってことか。
生産に特化した種族が奴隷労働を危惧するのは自然な流れなのかもな。
ドワーフ族しか上級レシピを扱えないことって他種族との交渉の材料になると思ってたんだけど、暴力で無理矢理支配される可能性を想定したようだ。
それを言ってしまったら何も出来ないんじゃないかって気がするけど、ガルクーザという脅威に晒され、偽りの英雄譚という人間の悪意に触れたドワーフ族たちは、人の悪意から目が逸らせなくなってしまったのかもしれない。
あー……。職人が多いドワーフ族のことだから、目利きスキルで世の中に溢れる悪意の多さを目にしちゃったのかもしれないなぁ……。
「ってちょっと待って? いつわ……建国の英雄譚では、ドワーフ族の英雄が英雄たちの装備品を用意したとされているよね? つまり以前は名匠の存在は公になっていたわけだし、今も英雄譚にその名残が見られるよ。その辺は気にしないわけ?」
「世に知られていたのは、一部のドワーフが腕を磨いた末に重銀や神鉄を扱えるようになるということだけだ。ドワーフ族にしか得られない職業である名匠と、その職業スキルについて知られていたわけではないらしい」
「つまり、腕の良い職人ならば誰でも神鉄に到達出来るのかもしれない。ドワーフ族の職人にしか上級レシピを扱えていないのは、ドワーフ族がそれだけ熱心に鍛冶に打ち込んでいるおかげだという印象も強かったのだ。当時の人々はあくまで、努力の末に上級レシピが解放されるという認識だったのだよ」
「う、う~ん……?」
455年も前の事をはっきり言い切られるとちょっと疑いたくなってくるけど、名匠以外の生産職には全種族問題なく転職出来るのだから、上級レシピもみんなに解放されると思っても不思議では無い、か?
でも竜爵家に竜騎士が伝わっていたように、種族専用職業の存在を知っていれば名匠の存在に気付きそうな……って、そもそも種族専用職業自体があまり知られてないのか。
455年前はどうだったか知らないけれど、現在は竜人族とドワーフ族にしか種族専用職業は認識されていない。
リーチェがエルフ族の専用職である巫術士を知っていたけど、種族専用職業については確か知らなかったはずだ。
まして、スペルド王国の裏で暗躍していたレガリアの構成員は殆どが人間族で、その人間族の専用職業である好事家、複業家、蒐集家は恐らく発見されていないからな。
種族専用職業って存在自体が殆ど知られてなかったとしても不思議ではないかも?
「ちなみにだけど、名匠を得る方法もドワーフには伝わってるのかな?」
「職人を極めし者のみが辿り着ける境地、と伝わっているな。だが少なくともここ200~300年は名匠が誕生したという記録は残っていないな」
「条件は伝わっているのに名匠になれた者が現れていない?」
職人を極めるというのは恐らく、生産職を全て浸透させるという意味だろう。
名匠になるとスキル付与に失敗しないという話も伝わっている事から、付与術士の浸透まで必要なことも伝わっているはずだ。
……なのに、数百年単位で名匠が誕生してないのは何故なんだ?
しかし考え込みそうになった俺の胸を、お姫様抱っこしているニーナがくいくいっと引っ張ってくる。
「なぁにニーナ? 今ちょっと考え事をしてたんだけど……」
「ダンー、忘れたのー? 私たちには鑑定スキルがあって、ダンの職業浸透速度は異常だったんだよー?」
「あっ……! そ、そういうことかぁ……!」
鑑定スキルがあった俺達と違って、この世界の人々には職業が浸透したタイミングが分からないんだった……!
生産職は全てインベントリを覚えられるので、インベントリの拡張上限を知っていれば目安に出来たんだろうけど、そもそも職業浸透の概念自体が殆ど伝わってなかったんだったね。
そして最近探索を頑張っている傾国の姫君と双竜の顎の職業浸透は、俺達仕合わせの暴君の浸透速度よりも大分遅い。
人間族を含めた種族混成パーティを組まないと、俺達と同等の職業浸透速度は得られないのだ。多分。
グルトヴェーダに阻まれたクラメトーラで種族混成パーティなんて結成できるはずは無いし、そもそも職業浸透をしようにも魔物が出ない土地なんだった。
誰でもなれる分析官ですら数百年単位に1人しか確認されていないとリーチェが言っていたし、暴王のゆりかごでも満足に魔物を狩れなかったドワーフたちが名匠を得られるはずがないわけだ……。
「って、俺今考えてること口に出してないよね? それなのに良く教えてくれたねニーナ。ありがとう。ぎゅー」
「ダンの考えてることって分かりやすいのっ。だいたいいっつも人のことばっかり考えてるの」
えー? 人のことなんて考えてないよ。みんなの事とみんなとエロい事をすることしか考えてないよ?
ニーナに思考を読み取られることには慣れちゃったけど、毎回その精度には驚かされちゃうなぁ。ニーナって俺の頭の中を直接覗けるとしか思えないよ。
ニーナをぎゅーっとしてよしよしなでなでして、これまでの情報をまとめてみる。
ドワーフ族には名匠の存在が伝わっていた。
だけど名匠によって得られる恩恵よりも他の種族に気付かれたときの危険性を重視したドワーフの先人は、あえて名匠の存在を歴史の闇に葬った。
知識が伝わっているのに新たな名匠が産まれていないのはほぼ確定で、なのに名匠しか作れないはずの装備品を身に纏った俺達が現れたことで、確認せずにはいられなかった。そんな感じか?
「えーっと……。ドワーフたちと名匠については分かったけど、結局俺達に何の用なのかが分からないよ?」
歴史の闇に埋もれたドワーフの専用職業が復活していたと知ったら、確かに好奇心を抱くかもしれない。
でも好奇心だけで接触してきたにしては、ちょっと威圧的で強制力を感じる対応だったのが気になる。
興味本位の割に職人連合の親方衆を集め、若い衆を嗾けてきたりもしている。これでただの確認と言われても納得できないな。
「敵対する気も情報の秘匿を強要する気も無い。そんなアンタらが名匠の存在を確認してどうしたかったの? 俺を逃がさないぞって強い意志を感じたんだけどな」
「名匠を確認して何がしたかったか、だとぉ? そんなの決まっておろうが……!」
会話を始めた時はガタガタ震えていたエウレイサとスポッタが、強い意志を宿した瞳をギラつかせながら声を張り上げる。
しかし発せられた言葉の内容に、俺は思わずガクッとズッコケてしまった。
「全職人の頂点に立つという名匠……! ドワーフが目指す最終目標に到達した者に会わせてくれぬかっ!」
「製作スキルも付与スキルも圧倒的で、まさに名匠を呼ぶに相応しい仕事振りだ! 1人の職人として是非ともお会いしてみたいのだっ!」
やっべぇ~……。面倒臭い事になっちゃったわ。ティムル、絶対嫌がるだろうな……。
なんだろうな。ラトリアにぐいぐい迫られた時を思い出すよ。
敵意じゃない感情の押し付けって邪険に扱うのも難しいから、逆にどう対応すべきか迷うんだよなぁ。どうしようかこれ……?
用意された椅子は俺用に準備されたものらしいので、ニーナは俺の膝の上に座ってもらおうねーすりすり。
ニーナに頬ずりしながら、正面のドワーフに声をかける。
「俺達を呼びつけたのはそっちだ。だからまずは用件を聞きたいな。俺達に何の用?」
「あ……そ、その、だな……」
辛うじて意識を保っている2名もガタガタと震えていて、とてもまともな状態には見えない。
もう殺意なんて飛ばしてないのにいつまで震えてるんだよ?
こっちとしてはお前らに付き合う義理も無いんだから早く話して、さぁさぁさぁっ。
「俺達を案内してきたタリクとマイスに聞いた話じゃ、俺達の装備品について何か言いたいんじゃないのか?」
「そっそそ、装備品……。そ、そうだ、装備品だ……!」
装備品と聞いて、ガタガタと震えるだけだった2人のドワーフの目に力が戻ってくる。
どんだけ職人馬鹿なんだよ? 素直に凄いなぁ。
「俺達も暇じゃないんでね。早いとこ話を始めてくれる?」
「あ、ああ。取り乱して済まなかった。本題に入ろう」
相手の震えが収まったところを見計らって催促すると、ふぅ……と深く息を吐いてから落ち着いた様子で自己紹介を始める2人。
さっきまでの圧迫面接感はいったいなんだったんだか。
「ワシはクラクラット職人連合の長を務めている、『大地の工廠』のエウレイサだ」
「同じく職人連合に所属しておる『玉響の打鐘』のスポッタだ」
「仕合わせの暴君のダンと、妻のニーナだ」
エウレイサさんとスポッタさんね。この人たちも聞き慣れない発音の名前で覚えにくいなー。
名前の前の大地の工廠と玉響の打鐘っていうのは、この人たちが所属している工房の名前かな?
俺はパーティ名を名乗っちゃったけど構わない、よね?
「さて、既に聞いているなら話は早い。ワシらがアンタがたを呼んだのは他でも無い。アンタがたの身に着けている装備品が聖銀や精霊銀よりも上の素材で作られているようにしか思えないからご足労いただいたわけだ」
ん? 神鉄って確信があって呼んだわけじゃないのか?
って、防具って神鉄の~とかオリハルコン~とかって名前じゃないのか。武器はインベントリの中だし、装備品の名称だけで素材の特定までには到らなかったと。
「アンタがた2人もドラゴン種の素材で作られた防具を身につけているし、先日一緒にいた小さな少女は全身をドラゴン種の装備品で固めていたという報告も受けている」
「しかもだ。アンタがたの装備品はスキルが最大まで付与されているだろう? それもほぼ全て大効果スキルでだ。そんなものワシらでもお目にかかった事は無い」
付与されてるスキルまで鑑定されてるのか。
流石に職人の街だけあって、付与術士も普通に居る場所なのね。
既に鑑定をされた後だし、今も身に着けている装備品のことを誤魔化すのは無理か。
でも俺達の装備品が異常なのは認めるけど、俺達を呼び出した用件が分からないな。
「話が見えないね。俺達の装備なんてアンタたちには関係ないだろ? いい加減用件を言ってくれないかな?」
「関係ないはずが無かろう? 我らドワーフ族しか作れないはずの聖銀より上の装備品を、アンタがたは完璧な仕上がりで運用しておるのだからな」
俺の言葉に被せるように核心に踏み込んでくるスポッタ。
しかしどういうことだ?
今のスポッタの言葉から推察すると、クラクラットには名匠の存在が伝わっているように感じられるんだけど、それならなんで俺達が呼びだされる必要がある?
名匠の情報が伝わっていて、付与術士までの転職魔法陣が存在しているのであれば、自分たちでも神鉄装備を生み出せるんじゃ……。
あ、神鉄素材が手に入れられないとか?
「竜宝玉を用いて作成された防具、恐らく武器も神鉄なのだろう? それだけでも異常なのに、その防具に付与されているスキルもまた異常すぎる……」
「王国中に流通しているスキルジュエルを全て集めても、恐らくその水準の装備は作れんだろう。さて用件だったな」
装備品に付与してあるスキルの異常さもしっかり把握済みか。ウェポンスキルを見られなかったのが不幸中の幸いって感じだな。
エウレイサは1度言葉を切って目を瞑り、覚悟を決めるように小さく息を吐いてから鋭い視線で俺を射抜く。
「アンタがたはいったい何者だ? どうしてドワーフ族が失伝させたはずの上級レシピを扱える?」
「……は? ドワーフ族が失伝……させた?」
「左様。ドワーフ族しか得る事を許されぬ職業、名匠。それは遠い昔に我らの先祖があえて失わせた力なのだ。だがアンタがたは、名匠の力を得ているな?」
言い終わると、ただ静かに俺を見詰めて口を噤むエウレイサ。
しかし、あえて失伝させたってのはどういうことだよ?
上級レシピと名匠の名を口にしているし、名匠に関する知識にも誤りは感じられない。つまり名匠の知識は現代まで正しく伝えられているんだ。
少なくともガルクーザを討伐した蒼穹の盟約には名匠が居たはずだ。そこまでは普通に神鉄装備も作り出していたはずなのだ。
ドワーフ族にしか生み出せない上級レシピの存在は、ドワーフ族にとって大きな存在意義になるはず。
だけどドワーフの祖先たちはあえて失伝させたのだとエウレイサは言い切った。
ドワーフたちのその選択には、いったいどんな意味が込められているんだ?
「そこまで分かってるなら腹を割って話そうか。お察しの通り俺達は名匠の存在を知っているし、その職業の加護を得ている協力者もいるよ。スキル付与もその人にしてもらったんだ」
「であろうな。名匠になった者はスキル付与を失敗しないと言われている。名匠の力無くばそこまでのスキル付与は無理であろうよ」
「名匠が居るだけでは説明がつかないほどのスキル水準だとは思うが、それはまぁいい。だがやはり予想した通り、アンタがたは名匠の力に触れてしまっておったか……」
腕を組んでぐぬぬと唸り出すエウレイサとスポッタ。
いやいや、自分らだけで悩んでないでちゃんと説明しろっての。
なんかさっきから会話が全然進んでないぞ?
名匠の存在とクラクラットのドワーフたちの関係性が、俺が想像していたよりも複雑そうってことしか伝わってこないんだが?
「ごめん。まずは結論から聞きたいな」
俺はいつだって単刀直入のノーガード戦法を信条としているんだよ。駆け引きとか舌戦とかしたくないし出来ないの。
頭を上げてこちらに視線を移した2人に、更に言葉を投げかける。
「俺達には名匠の協力者がいるよ。そしてその人の作ってくれた装備品を活用している。それが何か不味いの? 名匠の力を秘匿するのに協力しろって言いたいわけ?」
「いや。アンタがたに何かをお願いするつもりは無いのだ。名匠の存在を否定する気も無い。だが名匠がこの世に現れているのであればその存在を把握しておきたかっただけなのだ」
「つまりはただの確認だったってこと?」
神妙な面持ちで頷くエウレイサとスポッタ。
ただの確認にしては随分と大掛かりで、しかも荒っぽい歓迎だったけどな? そこを突くと話が進まないからスルーするけどさ。
「やっぱり話が見えないよ。どうしてドワーフたちは名匠の存在を失伝させたの? 俺達が名匠の力を活用してもいいのであれば、ドワーフたちが失伝させる必要もなかったんじゃないの?」
「当然の疑問だな。これは職人連合の極一部にのみ伝えられていることなのだが……」
職人連合にのみ伝えられている情報? って、もしかしてレガリアも把握していない情報があるのか?
レガリアってスペルドに反発したドワーフには興味を持ってなかったのかもしれないな。
ホムンクルス計画だって把握はしていたけど手は出してなかったっぽいし、アルケミストの連中とは一定の距離を保って関わっていたのかもしれない。
「他種族と比べて戦闘力に劣るドワーフ族。そのドワーフ族にのみ上級レシピが扱えるという事実が広まるのは危険だと判断したらしいのだ。ワシらのご先祖様はな」
「ドワーフ族がそこまで明確に戦闘力が低いとは思わないけど……。名匠の存在が広まると危険って、具体的には?」
「うむ。他種族に戦闘力にモノを言わせて支配され、ドワーフ族は奴隷のように扱われてしまうのではないか、そのように危惧したそうなのだ」
「……なるほど」
さっき俺がレイブンさんに語った懸念を、ドワーフのご先祖様も抱いたってことか。
生産に特化した種族が奴隷労働を危惧するのは自然な流れなのかもな。
ドワーフ族しか上級レシピを扱えないことって他種族との交渉の材料になると思ってたんだけど、暴力で無理矢理支配される可能性を想定したようだ。
それを言ってしまったら何も出来ないんじゃないかって気がするけど、ガルクーザという脅威に晒され、偽りの英雄譚という人間の悪意に触れたドワーフ族たちは、人の悪意から目が逸らせなくなってしまったのかもしれない。
あー……。職人が多いドワーフ族のことだから、目利きスキルで世の中に溢れる悪意の多さを目にしちゃったのかもしれないなぁ……。
「ってちょっと待って? いつわ……建国の英雄譚では、ドワーフ族の英雄が英雄たちの装備品を用意したとされているよね? つまり以前は名匠の存在は公になっていたわけだし、今も英雄譚にその名残が見られるよ。その辺は気にしないわけ?」
「世に知られていたのは、一部のドワーフが腕を磨いた末に重銀や神鉄を扱えるようになるということだけだ。ドワーフ族にしか得られない職業である名匠と、その職業スキルについて知られていたわけではないらしい」
「つまり、腕の良い職人ならば誰でも神鉄に到達出来るのかもしれない。ドワーフ族の職人にしか上級レシピを扱えていないのは、ドワーフ族がそれだけ熱心に鍛冶に打ち込んでいるおかげだという印象も強かったのだ。当時の人々はあくまで、努力の末に上級レシピが解放されるという認識だったのだよ」
「う、う~ん……?」
455年も前の事をはっきり言い切られるとちょっと疑いたくなってくるけど、名匠以外の生産職には全種族問題なく転職出来るのだから、上級レシピもみんなに解放されると思っても不思議では無い、か?
でも竜爵家に竜騎士が伝わっていたように、種族専用職業の存在を知っていれば名匠の存在に気付きそうな……って、そもそも種族専用職業自体があまり知られてないのか。
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リーチェがエルフ族の専用職である巫術士を知っていたけど、種族専用職業については確か知らなかったはずだ。
まして、スペルド王国の裏で暗躍していたレガリアの構成員は殆どが人間族で、その人間族の専用職業である好事家、複業家、蒐集家は恐らく発見されていないからな。
種族専用職業って存在自体が殆ど知られてなかったとしても不思議ではないかも?
「ちなみにだけど、名匠を得る方法もドワーフには伝わってるのかな?」
「職人を極めし者のみが辿り着ける境地、と伝わっているな。だが少なくともここ200~300年は名匠が誕生したという記録は残っていないな」
「条件は伝わっているのに名匠になれた者が現れていない?」
職人を極めるというのは恐らく、生産職を全て浸透させるという意味だろう。
名匠になるとスキル付与に失敗しないという話も伝わっている事から、付与術士の浸透まで必要なことも伝わっているはずだ。
……なのに、数百年単位で名匠が誕生してないのは何故なんだ?
しかし考え込みそうになった俺の胸を、お姫様抱っこしているニーナがくいくいっと引っ張ってくる。
「なぁにニーナ? 今ちょっと考え事をしてたんだけど……」
「ダンー、忘れたのー? 私たちには鑑定スキルがあって、ダンの職業浸透速度は異常だったんだよー?」
「あっ……! そ、そういうことかぁ……!」
鑑定スキルがあった俺達と違って、この世界の人々には職業が浸透したタイミングが分からないんだった……!
生産職は全てインベントリを覚えられるので、インベントリの拡張上限を知っていれば目安に出来たんだろうけど、そもそも職業浸透の概念自体が殆ど伝わってなかったんだったね。
そして最近探索を頑張っている傾国の姫君と双竜の顎の職業浸透は、俺達仕合わせの暴君の浸透速度よりも大分遅い。
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誰でもなれる分析官ですら数百年単位に1人しか確認されていないとリーチェが言っていたし、暴王のゆりかごでも満足に魔物を狩れなかったドワーフたちが名匠を得られるはずがないわけだ……。
「って、俺今考えてること口に出してないよね? それなのに良く教えてくれたねニーナ。ありがとう。ぎゅー」
「ダンの考えてることって分かりやすいのっ。だいたいいっつも人のことばっかり考えてるの」
えー? 人のことなんて考えてないよ。みんなの事とみんなとエロい事をすることしか考えてないよ?
ニーナに思考を読み取られることには慣れちゃったけど、毎回その精度には驚かされちゃうなぁ。ニーナって俺の頭の中を直接覗けるとしか思えないよ。
ニーナをぎゅーっとしてよしよしなでなでして、これまでの情報をまとめてみる。
ドワーフ族には名匠の存在が伝わっていた。
だけど名匠によって得られる恩恵よりも他の種族に気付かれたときの危険性を重視したドワーフの先人は、あえて名匠の存在を歴史の闇に葬った。
知識が伝わっているのに新たな名匠が産まれていないのはほぼ確定で、なのに名匠しか作れないはずの装備品を身に纏った俺達が現れたことで、確認せずにはいられなかった。そんな感じか?
「えーっと……。ドワーフたちと名匠については分かったけど、結局俺達に何の用なのかが分からないよ?」
歴史の闇に埋もれたドワーフの専用職業が復活していたと知ったら、確かに好奇心を抱くかもしれない。
でも好奇心だけで接触してきたにしては、ちょっと威圧的で強制力を感じる対応だったのが気になる。
興味本位の割に職人連合の親方衆を集め、若い衆を嗾けてきたりもしている。これでただの確認と言われても納得できないな。
「敵対する気も情報の秘匿を強要する気も無い。そんなアンタらが名匠の存在を確認してどうしたかったの? 俺を逃がさないぞって強い意志を感じたんだけどな」
「名匠を確認して何がしたかったか、だとぉ? そんなの決まっておろうが……!」
会話を始めた時はガタガタ震えていたエウレイサとスポッタが、強い意志を宿した瞳をギラつかせながら声を張り上げる。
しかし発せられた言葉の内容に、俺は思わずガクッとズッコケてしまった。
「全職人の頂点に立つという名匠……! ドワーフが目指す最終目標に到達した者に会わせてくれぬかっ!」
「製作スキルも付与スキルも圧倒的で、まさに名匠を呼ぶに相応しい仕事振りだ! 1人の職人として是非ともお会いしてみたいのだっ!」
やっべぇ~……。面倒臭い事になっちゃったわ。ティムル、絶対嫌がるだろうな……。
なんだろうな。ラトリアにぐいぐい迫られた時を思い出すよ。
敵意じゃない感情の押し付けって邪険に扱うのも難しいから、逆にどう対応すべきか迷うんだよなぁ。どうしようかこれ……?
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しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
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