異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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7章 家族みんなで冒険譚2 聖域に潜む危機

492 ※閑話 印刷技術 (改)

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『職業の加護が魂に定着することを浸透と呼ぶ。職業が浸透すると、その後職業を変更しても浸透した職業の補正、スキルは失われない』


『職業:村人 重要度:
 転職条件:この世界で生を受けた者が始めに得ている職業。
 職業性能:特別な能力は無いが、村人の浸透が進んでいないと他の職業に転職することが出来ない。
 浸透目安:魔玉1つ発光 または 15歳になること』


『職業:戦士 重要度:高
 転職条件:村人が浸透すると転職出来るようになる戦闘職。
 職業性能:装備品の性能を引き出すことで魔物と戦いやすくなる。
 浸透目安:魔玉3つ発光』


『職業:旅人 重要度:高
 転職条件:村人が浸透すると転職出来るようになる職業。
 職業性能:体力がついて疲れにくくなる。ドロップアイテムを収納出来る『インベントリ』が使用可能になる。
 浸透目安:魔玉3つ発光 または インベントリ3つを最大まで成長させる』


『職業:商人 重要度:高
 転職条件:村人が浸透すると転職出来るようになる職業。
 職業性能:魔物のドロップアイテムの品質が向上する。他人の悪意を赤い光として見ることが出来る『目利き』が使えるようになる。
 浸透目安:魔玉3つ発光』



「うんうんっ。悪くないんじゃないかなっ?」

「そうね。必要な情報だけが分かりやすくまとめられていると思うわ」


 チャールとシーズが作った職業に関する資料を、ニーナとティムルがうんうんと頷きながら絶賛する。

 2人から見せられた資料は鑑定や職業設定から得られる情報を上手に取捨選択した感じで、多くの人が知りたいと思っている情報だけを切り取って分かりやすくまとまっているように思えた。


「ありがとう! 小さい子が読む事も考えて、なるべく単純で分かりやすいように意識したんだっ」

「ま、みんなは職業浸透を既に知っている人たちだからなぁ。浸透なんて言葉すら知らない人たちにも直感的に理解してもらうのが理想だぜ」

「やはり目安があると分かりやすいのじゃ。魔玉の発光を目指しつつ職業浸透も進めることが出来るとなれば、燻っていた魔物狩りたちも動き出すやもしれぬなっ」


 ドヤ顔のチャールと意気込むシーズ。

 そんな2人と一緒に、ワクワクした顔を見せているフラッタ。


 フラッタは戦士や兵士の浸透に丸1年かけてきた経験があるからな。

 他のみんなよりも、効率の良い職業浸透が世に広まって嬉しいと感じているのかもね。


「ねぇ2人とも。この重要度ってどうやって決めてるの?」

「あとは行商人のような複合職の記載方法も考えなければいけませんね」


 フラッタ以上に時間をかけて職業浸透を進めたリーチェと、種族全体が職業の加護を失ってしまっていたヴァルゴが熱心に問い詰めている。

 そんな2人の熱意に、チャールとシーズはちょっとタジタジしているね。


「重要度は私達の主観と、戦闘や資金稼ぎに役立つかどうか、そして他の職業の前提条件かどうかを考えて決めてみたよ。初期職業である村人には記載しなくて良いかなって」

「複合職や上位職の転職条件もちゃんと記載するよ。ただ、まずは自分たちが浸透している職業からだと思ってさ……!」


 まずは基本職からってことか。そう考えれば充分な内容だな。


 鑑定が使える俺達から見ると情報が少ないように感じられるけど、伝えるべき情報を分かりやすくまとめてあって読みやすい。

 これなら資料を読むだけで、職業浸透の仕組みを凡そ理解できそうだ。


「2人ともお疲れ様。俺も問題無い内容だと思うから、この資料を複製して各地の教会に広めていいかな?」

「もっちろん! 出来るだけ早く他の教会の子にも教えてあげたいからねっ」

「出来るだけ沢山の人に読んでもらって感想を聞きたいなっ。つうことで頼んだぜダン!」


 チャールもシーズも見られて恥ずかしいなんて気持ちは微塵も無いようだ。

 どんどん広めちゃって欲しいと頼まれたので、2人から資料を預かった。



 2人と別れ、家族と一緒に寝室に引っ込む。

 フラッタとアウラの末っ子コンビを抱き寄せながら、ベッドの上で写本について話し合う。


「ダンは以前写本について少し語ってくれたことがあったよね。確か文章を板に彫って、そこに紙をペタッとくっつけるんだっけ?」

「そうだねニーナ。そうすると彫られたところだけ紙が触れないから、そこだけインクが付かずに文章が白く浮き上がるって原理なんだ。今からやって見せるね」


 木片を用意して、ショートソードで表面に文章を刻み付ける。

 俺の身体操作性補正があれば、ベッドに座ったままフラッタとアウラと密着していても、一瞬で職業浸透の説明文を刻むことが出来た。


「あとはこの板にインクを塗って、その上から紙を密着させれば完成だよ。これで原版が壊れるまで何枚でも同じ文章を紙に転写できるんだ」

「ショ、ショートソードでこのような細かい文章を一瞬にして刻むとはの……。職業補正の無駄遣いも良いところなのじゃ」


 野暮なツッコミを入れるフラッタの口をキスで塞いでいるうちに、出来上がった原版をみんなに見てもらう。

 すると俺の腕の中のアウラが、う~んと少し納得のいかない様子で首を傾げている。


「確かに2人の作った文章だけど、これって結局パパが作った事になるんじゃないの? 2人に文章を考えさせた意味、あったのかなぁ?」

「んー? そこは問題ないんじゃないですか? 旦那様の目的は知識の普及ですから」

「鑑定が使える私達が資料を作ると、どうしても余計な情報を織り込みたくなっちゃいそうだったからね。原文は他の人に考えてもらう必要があったんだよー」


 ヴァルゴとニーナが直ぐにフォローしてくれるけど、アウラの言い分も分かる。


 アウラはチャールとシーズの頑張りを見ているからな。2人が作ったこの文章をそっくりそのまま普及したいと思ったんだろう。

 そっくりそのまま同じ文章を刻み込んだとしても、それは彼女たちの字ってわけじゃないからな。


 知識の普及という面では及第点だけど、印刷とかコピーという精度には程遠い。

 いや、俺の身体操作性補正なら2人の文字をそっくり真似ることも出来そうだけど、アウラが求めているのはそういうことじゃないよなぁ。


 フラッタが仰け反るくらいに口を吸ってから、不満げなアウラのほっぺにキスをする。


「アウラはチャールとシーズの書いた文字を、そっくりそのまま複製したいと思ったんだよね?」

「う、うん……。パパの威た世界では、本当に書いたそのまんまの文字を複製できたんでしょ? その話を聞いてたから、ちょっと違うなって思っちゃって……」


 申し訳無さそうに俯こうとするアウラをキスで引き止める。

 アウラの表情が蕩けきるまで口の中をあやしてあげてから、コピーについて考える。


「とりあえず保険として原版は作っちゃおう。その上で、2人が作ってくれたこの資料その物を複製する方法を試してしてみよっか」

「あはーっ。ダンったら娘に甘いんだからー。ま、原版を作った上で試すなら誰にも迷惑はかからないわよね」


 娘に甘いとか言いながらアウラの頭をよしよしなでなでするティムルだって、十分すぎるくらいアウラに甘いと思いますけどねー?

 我が家では娘のことも奥さんのことも、思いっ切り甘やかす方針ですけどーっ。


「でもさダンさん。この資料をそっくりそのまま複製する方法なんてあるの? ダンさんの世界ではどうやってそんなことが出来てたのかな?」

「ごめんターニア。コピー機とかカメラとか言うんだけど、その原理は全く知らないんだ。俺の故郷の技術を俺の知識で再現するのも解説するのも無理だと思って」

「ってことは、こっちの世界の知識と技術……。具体的にはスキルと魔法でそれを再現したいってこと? そんなことできるのかなぁ?」

「うん。俺は出来ると思ってるんだ。なぜならこの世界の紙とインクはスキルで作られたものだからさ」


 この世界の紙とインクは、両方ともアイテム作成で生み出すマジックアイテム扱いをされている。

 なのでぶっちゃけ流通している価格は安くないので、トライラム教会なんかでは木切れを使って読み書きの練習をさせたりしているのだ。


 だけど手書きで読み書きさせる為だけの道具にしては、あまりにも高いと思うんだよ?


「んー……。確かにダンさんのおかげで、スキルと魔法って意外と応用が利く事は分かってますけど……」

「紙にインクを触れさせた時点でインベントリには入らなくなるから、今のところ書物を生成した例って無いんだよね? でも紙とインクが両方マジックアイテムの時点で、その2つを融合させる事は可能だと思う」

「ティムルさんが開発したレインメイカーも、プライミングポストと水玉を融合させて開発したんでしたね。そう考えれば確かに出来そうな気は……」


 ラトリアとエマの年長竜人コンビですら、うっすらとではあるけど出来そうだと感じているんだ。

 出来ると思うじゃなくて、無理矢理にでも実現してみよう。


 開発を始める前に体の精密操作の訓練も兼ねて、みんなにも木の板に文章を刻んで原版を作ってもらう。

 ダガー使いのニーナとティムルは余裕そうに完成させ、フラッタはドラゴンイーターを封印して何とか完成させることが出来た。


 つうか巨大なバスタードソードであるドラゴンイーターなんか始めから試すなっての。俺でも無理だわ。


 リーチェとヴァルゴもエストックと槍であっさりと原版を完成させた。

 ヴァルゴは疑ってなかったけど、リーチェの剣術の腕だって達人級だよねぇ。


 そして剣の達人であるラトリアとエマもあっさりと成功したんだけど、ターニアは少し苦戦した。

 そしてムーリにはまだ難しかったようで、原版を壊してしまったので記録無しだ。


 最後のアウラはメイス系武器では文字を刻めずに、かと言って刃物も槍も上手く扱えなくてリタイアしてしまった。


「う~っ。分かってはいましたけど、まだまだみなさんとの差は大きいですねぇ……!」

「私こういう細かい作業苦手かもー……。面倒臭くなってきちゃうよぅ……」

「2人とも気にしないで。職業浸透がもっと進んでから再挑戦すればいいよ。2人にはまだ身体操作性補正が殆ど浸透してないからさ」


 アウラとフラッタの間にムーリも挟みこんで、落ち込む2人をキスで慰める。

 成功しても失敗してもみんなと沢山愛し合えるから、俺としてはどう転んでも全くなんの支障も無いなっ。


「それじゃ原版も大量に出来たし、仮に資料の複製に失敗しても何の問題も無くなったね。早速色々試していこう」

「んー。紙とインクを触媒にするのは間違いないよね? でもアイテム作成の時に文章を記載した状態で生み出すなんて出来るかなぁ?」

「文章の書かれた紙はもうマジックアイテム扱いされないから、チャールたちが書いた資料を触媒にすることは出来ないのよねぇ……。となると、明確なイメージが必要になってくるのかしら?」


 ニーナとティムルが首を捻って、う~んう~んと悩んでいる。

 チャールたちの書いた資料を触媒にコピーしたら、資料の数は変わらないからコピーに成功しても意味無いっての。


 だけど、明確なイメージっていうのもピンと来ないんだよなー。

 明確なイメージを持って限りなく本物に近いモノを生成するんだったら、俺の補正をフル活用して2人の文章をそっくりそのまま真似るのと大差無いと思う。


 コピー機をイメージするなら、印刷という出力の機能を司るのはアイテム作成スキルだと思うんだよ。

 だから俺達に足りないのは情報をインプットする機能、情報を読み取る機能だと思うんだ。


 スキルで生成できるアイテムは魔力で形作られている。

 ならインプットの機能も魔力で行なうと仮定するなら……。魔力の情報を読み取ると言えばティムルの熱視か?


 いや、熱視は魔力の大きさや動きを見るものであって、情報を読み取るものでは無いな……。


「紙もインクもマジックアイテムなんだから、両者は魔力で構成されているはず……。なら魔力を用いて両者の情報を読み取ることは可能なんじゃないか……? あとはその読み取った情報をスキルで出力してやれば……」

「むー? ダンが言ってる事はさっぱり分からんのじゃ~。もう少し分かりやすく説明は出来ぬかのう?」

「もう少し詳しくかぁ……って、ちょっと待てよ……?」


 魔力を用いて対象の情報を読み取る能力……?

 なんか最近、そんな能力に触れたばかりだったような気が……。


 首を傾げるフラッタをぎゅっとしてから、ヴァルゴに問いかける。


「ヴァルゴ。魔力を同調させて、相手の情報という名の魔力を受け入れる能力。これって最近聞いた覚えがないかな?」

「魔力を同調……って! まさか旦那様、触心の事をおっしゃっているんですか!?」


 俺の問いかけに、俺の欲しい答えを返してくれるヴァルゴ。

 キュールさんと同じ魔人族だけあって、直ぐに正解に思い当たってくれたようだ。


「でも触心はキュールさん独自の魔技です……! 私達があれを再現するのは……!」

「触心と比べると、読み取る情報は圧倒的に少なくて済むはずだ。それなら練習次第で誰にでも出来るようにならないかなぁ?」


 そう言いながらベッドの上に紙とインクの素材、そしてチャールたちが作った資料を並べる。

 紙とインクを融合させて生成するイメージを持ちながら、アイテム作成で発生する魔力光にチャールたちの資料も触れさせ、その表面をスキャンする事を意識する。


「『紡ぎ合わせ、組み立て創れ。秘蹟の証明。想いの結晶。顕現。アイテム作成』」


 頭に描いた成功のビジョンを辿るように、ゆっくりとスキルを発動する。

 数秒後、スキルの発動光が収まった時、そこにはチャールたちが作った資料が、2存在していた。


「成功……したんだね?」

「……うん。素材の紙とインクを融合させるつもりでスキルを発動し、そのスキル光に原稿を触れさせながら、原稿から情報を読み取る感じかなぁ。ちょっと口では説明しにくいかも」

「あ、相変わらずあっさり成功させちゃうわねぇ……」


 スキャナーとプリンターの仕組みをちゃんと理解出来ていないので、ふわふわっとした説明しか出来なくてもどかしい。

 リーチェとティムルはアイテム開発を試したことがあるためか、俺の成功を喜ぶよりもどん引きしてしまっている様子だ。解せぬ。


「んー……ダン。今のって私にも出来るの? ダンにしか出来ないかなぁ?」

「そんなことないよニーナ。恐らく練習次第じゃないかな? ちょっと今までとは違う魔力操作を要求されるのは間違いないけど、俺に出来たってことはニーナにだって出来るはず」

「了解なのっ。みんなも練習するよーっ! 私達が今のをできるようになれば、の複製も可能になるのっ!」

「アレですねっ!? 了解ですっ! そういうことならがんばっちゃいますよーっ」


 ニーナの謎のひと言で、なぜか突然やる気を出すムーリ。

 え、アレって何? 今俺ひょっとして、自分の首絞めちゃいました……?


 その後、異様なほど熱心に複写の練習を始めるみんなは、どれだけ俺が問い詰めても絶対に口を割る事はなかった。


 これだけ口を噤むって事は、エロ方面でなにか考えているのかもしれないなーっ?

 打ち明けてくれる日がめっちゃ楽しみぃっ!


 残念ながらその日に複写を成功させた人は出なかったけど、成功するまで練習するよと声をかけ合っているみんなから漲る並々ならぬやる気に、俺は大きな期待と一抹の不安を覚えたのだった。
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