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7章 家族みんなで冒険譚2 聖域に潜む危機
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ライオネルさんに世界樹の護りの製法を教えてもらう事を約束して、リーチェにアウラの事を祝福して欲しいとお願いする。
俺のお願いを快諾してくれたリーチェは、感激しながらド淫乱ボディで思い切り抱き付いてきてくれて死ぬほど気持ちいい。
……けど、リーチェに抱きしめられるのは大歓迎なんだけど、リーチェが加減を忘れてるせいで全身の骨が悲鳴を上げているんだよ?
これは死ぬほど気持ちいいと言うか、死に至るほどと言うべきかな?
うん。これ以上はやばそうだ。詠唱短縮で気付かれないようにキュアライトを連射しておこう。
脆弱な人間族さんは、他種族に全力ハグされると体がモタないんだよなぁ……!
全身に駆け巡る激痛を身体操作性補正を駆使してスルーして、なんでもない風を装ってライオネルさんに尋ねる。
「足りてないのって『世界樹の葉』と『宿り木の枝』だっけ? その2つの特徴とかドロップする魔物とか、可能な限り詳しい情報を教えてくれる?」
「あ、ああ。それはいいんだけど……。ダンさん、あんまり無理はしないほうがいいよ……?」
いいんですーっ。俺は愛する妻のハグを受け止められないような情けない男にはなりたくないんですーっ。
この世界って人間族さんだけ断トツで弱すぎるから、異種族婚なんかしちゃうとオチオチ夫婦喧嘩も出来ないね。加減間違えたら簡単に殺されちゃうわぁ。
本来世界樹の葉と宿り木の枝は、新たなエルフが誕生するその時までエルフ族の代表がインベントリに入れて保存しているそうなんだけど、ライオネルさんの前の長老がインベントリに収納したまま亡くなってしまったらしく、既に現物は残っていないそうだ。
ライオネルさんの先代の長老はリュートにリーチェを背負わせた張本人の1人で、エルフ族の出産率の低下の責任を追及されて私刑にされてしまったのだ。
「エルフ族の歴史に言及するのは避けるとして、現物が残っていないのは厄介だね……」
アイテム生成でドロップアイテムを生み出すには、アイテムの価値と具体的なイメージが分からないと難易度が跳ね上がってしまう。
流通させた記録が無いので価値は分からないそうなので、分かる限りのデータを教えてもらう事にする。
世界樹の葉、宿り木の枝の2つとも特定の魔物からドロップしたわけではなく、宿り木の根の最深部近い場所で稀にドロップするレアアイテムだったらしい。
使い道は世界樹の護りの素材以外には見出されておらず、外見的な特徴は植物の葉っぱと枝としか言えないそうだ。
返す返すも、現物さえあればなぁ……。
「それじゃこっちで色々試してみるよ。可愛い奥さんと愛する娘の為にも全力を尽くすつもりだけど、あまり期待しないで待ってて」
「くくく。ダンさんが全力を尽くすのに期待をするなってのは難しいね。だがどちらにしても私たちにはお手上げの状態だからね。お任せするよ」
あんまり買い被られても困るんだけどね。未知のアイテムの生成はまだ試したことがないんだから。
さてと、流石に激痛で意識が遠退きそうだから、そろそろ離してもらおうかなー?
「リーチェ。ティムルのことも抱きしめてあげたいから、ちょっとだけ体をズラしてくれる?」
「あっ、ごめんねっ? ぼくだけ抱きついちゃってて!」
ティムルの名前を出すと直ぐに言う事を聞いてくれるリーチェ。解せぬ。
解せないけど命には代えられないので、リキャストが終わった同時詠唱スキルでキュアライトを重ねがけする、
リーチェが避けてくれたおかげで出来たスペースに、肩を竦めながら飛び込んできてくれるティムル。ぎゅー。
「物は言い様ねぇ? リーチェの抱擁から解放されつつ私も抱きしめちゃうなんてっ」
「さーてなんのことですかねぇ? 俺はただ大好きなリーチェとティムルを一緒に抱きしめたかっただけですけどー?」
「ぼくもティムルのこと、大好きだよーっ」
再度リーチェが力いっぱい抱きしめてきてくれるけど、流石にティムルごと俺の背骨をへし折る膂力は無い模様。
……フラッタあたりだとティムルごとへし折ってきそうだから怖いわぁ。
「それじゃ俺達はお暇するね。中継都市の建設を任せっぱなしにして申し訳ないけど、なるべく俺は関わる気が無いから頑張ってねっ」
「普通の人は積極的に口出ししてきそうなものですけどねぇ。自由にさせていただいてありがたいですよ」
「なるべくあらゆる種族に居心地の良い場所として整備していくつもりだよ。やり甲斐がある大仕事だ」
カラソルさんとライオネルさんに中継都市の丸投げを念押ししてから、リーチェとティムルと抱き合ったままスペルディアの王城前に転移した。
俺達の転移に気付いた顔見知りの門番が直ぐに声をかけてきてくれる。
「ダンさん? 本日お見えになるお話は聞いておりませんが、何か緊急の案件ですか?」
「アポ無しで突然来てごめんね。緊急性は無いけどいくつかゴブトゴさんに確認したいことが出来ちゃってさ。今日って会えるかな? 無理なら出直すよ」
「ゴブトゴ様は新王の即位式の準備で忙しくされていますからねぇ……。確認はして参りますけど、期待はしないでくださいね」
直ぐに城に転移していく門番さん。
門番さんもポータルが使えるようになったんだなぁ。むしろ使えなかったであろう今までがおかしい気がするけど。
アポ無しでの訪問とは言え、普通客人を門の外につっ立って待たせておくなんてありえないような気もするんだけど、客を待たせるのが大好きだった前王シモンはよくやらかしてくれたらしい。
それにこの世界では貴族ほど転移魔法を使えるから、馬車なんかで乗りつけるよりもポータルを使った移動の方が早くて楽なので、結果的に城門前で立って待たせるような習慣が出来てしまったみたいだ。
それでも、権威の象徴として馬車で乗りつける事に意味を見出す貴族は少なくないらしいけどね。
ティムルとリーチェの極上エロボディを抱きしめながら暫く待っていると、門番さんがポータルで戻ってきてくれた。
けれど一緒に居る人物を見て、ちょっとゲンナリしてしまう。
「げっ……」
「ひどっ!? 人の顔を見るなりその反応は流石に酷くないかなぁっ!?」
露骨にどん引きした俺の反応に過剰に反応する男は、スペルディア第4王子のバルバロイ・フォート・スペルディア、通称ロイ殿下だった。
流石にゴブトゴさんがわざわざ出迎えてくれるとは思ってなかったけどさぁ。
だからってアンタが出迎えに来るとも思ってなかったんだよ……。
「だって、いきなり嫌いな人が目の前に現れたらこんな反応しちゃいますって。暇なんすかロイ殿下?」
「雑ぅ! 俺の扱いめっちゃ雑だねっ!? 一応これでも王族なんだけどなー!?」
「ゴブトゴさんに話を繋いでくれたと思ったんだけど、なんでこの色ボケ殿下が一緒に来たわけ?」
「王族の俺を差し置いて門番に話しかけないでくれる!? そしてダンさんにだけは色ボケって言われたくないからねっ!?」
む、確かに色ボケは俺にもブーメランぶっ刺さりそうだな。
ぶっ刺さっても甘んじて受け入れるしかないけど? だけど俺はぶっ刺されるよりぶっ挿したいんだよ?
ロイ殿下が騒ぎ立てたせいで口を開くタイミングを失っていた門番さんも、俺が話を振ったことでようやくロイ殿下がついてきた経緯を説明してくれる。
「やはりゴブトゴ様は手が離せないということで……。ですがダンさんの話を聞いておかないと気になって仕方ないと仰っておりまして」
「ぶっちゃけ用件は大したことじゃないんだけどね。それで?」
「それがその……。他の誰かにダンさんの応対をとなった時に、適当な人選がですね……」
ロイ殿下の登場を露骨に嫌がってしまったせいか、兵士さんが申し訳なさそうに説明してくれる。
貴方が悪いわけじゃないんだから何にも気にしないでいいんだよ。悪いのはこの殿下の女癖と性格だから。
「機密が絡む可能性があるのであまり位の低い者には応対させられない。かと言ってダンさんと面識のある王族なんて限られておりまして……」
「つまり消去法ってことね。確かにロイ殿下とラズ殿下くらいしか面識は無いけどさぁ。それならせめて美人のラズ殿下と話がしたかったよ?」
「はっきり消去法って言わないでくれる!? ラズは今仕事中でねっ。空いてるのは俺だけだったんだよっ!」
「ごめんロイ殿下。今真面目な話をしてるからちょっと静かにしててくれる?」
「当事者だから! 俺当事者なんだけどっ!? なんで会話への参加が許されないわけっ!?」
ふむ。打てば響くようなツッコミの精度だな。
正直言って未だにこの人のことは嫌いだし苦手だけど、ゴブトゴさんが送り出してくれたってことは以前よりはまともになってるのかもしれない。
「ロイ殿下が俺の応対をするのはゴブトゴさんも知っているんだね?」
「それは間違いなく。報告をしたのも自分ですし、ロイ殿下にお願いしろと命じられ、ご本人を案内してきたのも自分ですから」
「ゴブトゴは今大忙しだからね。本当に手が離せないんだよ。だからこうして俺が出張ってきたってわけなんだ」
ゴブトゴさんも了承済みならロイ殿下でいいのかな。
この人って組織レガリアとも繋がりがあったおかげで、この世界の裏情報にもかなり詳しいし。
「今回城に足を運んだのは、種族代表会議について色々話があったからなんですけど、ロイ殿下ってこれについて話できますか?」
「アレね。俺もそれなりにこき使われてるから答えられることも多いと思うよ」
「それじゃ仕方ないですね。ロイ殿下で諦めますよ」
「……滅茶苦茶釈然としないけど、まぁよしとするよ。話が進まないからね」
「ある程度お時間をいただくかもしれませんが、何処で話しましょう? 城に入ってもいいものなんですかね?」
「ダンさんが入城するのは構わないけど……。リーチェも同行してるし、中でマギーに鉢合わせるのはちょっと面倒だね。外で話そうか」
俺ってまだマーガレット殿下に嫌われてるのなー。好かれるようなこと何もしてないけどさっ。
ロイ殿下の案内で、城下町のちょっと高級そうな食堂に通された。
中には広い個室もある店で、まさに密談してくださいと言わんばかりのお店にしか思えない。
せっかくの高級店だけど、今日は既に夕食の準備が始まっているからね。ここは飲み物だけ頼むとしよう。
運ばれてきた甘い香りのするお酒にしつこいくらい毒見スキルを発動して、変なものが入っていないか入念にチェックする。
「……流石に警戒しすぎだからね? そんなに心配しなくても、ダンさんと敵対するような命知らずな事はしないさ」
「そう言いながらあっさり毒を盛ってきてもおかしくなさそうなので、つい?」
「信用無いね~? これでもゴブトゴからの評価は悪くないつもりなんだけど」
ため息をつきながら肩を竦めるロイ殿下。
ま、確かに俺が一方的に嫌いすぎている部分はあるかもしれない。
俺はこの国の人たちがどれほど人頭税で苦しめられてきたのかを知っているから、その税金を着服して豪遊していたロイ殿下のことをどうしても許すことが出来ない。
けれど生まれた瞬間から搾取する側で、しかも組織レガリアと繋がってこの国の裏の歴史に精通していたこの男は、王国民の事を搾取されるべき弱者だとしか認識しておらず、同じ人間だと認識することも出来ていなかったのだろうからなぁ。
「それじゃ早速お聞きしますが、凡その開催時期と想定している開催規模を知りたいですね。それと魔人族とドワーフ族の代表については相談があります」
「ふむ。それじゃ分かる範囲で1つずつ回答させて貰うよ。まずは開催時期だけど、新王の即位式が終わってからになると思う。最短でも1ヶ月以上は先じゃないかな?」
おや、思った以上に時間的猶予はありそうだな。
ゴブトゴさんのことだから、数日後に開催を予定しているとか言われても驚かなかったんだけど。
「ゴブトゴは早めに開催したがってるけど、実際難しいと思うよ。流石に新王の即位を放り出して他種族たちとの会議を優先することは出来無いからね」
「思ったよりかなり先で驚きましたよ。そんな状況でロイ殿下は何にこき使われてるんですか?」
「俺の主な仕事は出席者の選定と調整だね。呼ぶ呼ばないでごねる貴族も多いし。ま、そんなわけでまだ規模の方は具体的には答えられないかな。まだまだ調整段階だからね」
まだまだ規模が膨れ上がると言われてるみたいで微妙な気分ではあるけど、調整段階なら都合が良い。
今のうちに魔人族の要望は伝えてしまえば調整も容易だろう。
「魔人族の出席についてなんですが、聖い……侵食の森の中で生活している守人の魔人族って3つの部族に分かれているんですよ。それで種族の代表として出席するなら、各部族の族長が3人とも出席したいと言ってるんですよね」
「ああそんなこと? そのくらいなら平気じゃないかな。魔人族の代表にはタラムの里からも代表者を招く予定だしね」
あ、そっか。王国側と繋がっているタラム族を魔人族の代表として呼ぶ予定だったのか。
それなら無理に守人たちに出張ってもらわなくてもいいのか?
いや、聖域の樹海に関する話もあるし、守人たちの今後の王国での扱いも決めなきゃいけないだろう。
守人達の代表者が会議に参加する必要はあるはずだ。
「タラム族と言えば、歴史学者のキュールさんも会議に出席したいと言ってるんですよ。これって可能なんですかね? 彼女って帝国の人間なんですけど」
「んー……。それは流石に俺の独断で答えられない領域だけど……。ゴブトゴがなんと言うかは読めないけど、俺としては構わないと思うよ」
「構わないんですか? 帝国側に会議の内容が知られると思うんですけど」
「種族間の交流は国家を超えて話し合わなければいけない議題だろうからね。むしろキュール女史以外にも帝国の人間を呼んで、帝国とも情報を共有すべきだと俺は思う。ゴブトゴの判断次第だけど」
ロイ殿下は思ったよりも前衛的な考え方をしているようだ。
というかこの世界って、国家間の対立とか無いのかもしれないな。
魔物という人類共通の脅威が存在しているし、土地も資源もまだまだ潤沢だから対立する理由が無い。
「回答ありがとうございます。一応キュールさんには、許可は下りるかは不明だけど参加の意思は伝えておいたと報告しますよ」
「それでいいんじゃない? 俺としては美人の参加は歓迎だけど、権限を越えた領域に無責任なことは言えないからさ」
キュールさんの件についてはゴブトゴさんの判断待ちだな。俺が出来る事はここまでだ。
リーチェとティムルは口を挟むことなく、ずっと俺に抱きついたまま俺の胸に頬ずりを続けている。
話を聞いていないわけじゃ無いんだろうけど、今のところは2人が口を挟むまでもないと思ってくれているのかな?
さて。守人の次はドワーフの代表について話さなきゃいけないんだけど……。
組織レガリアと繋がっていたロイ殿下なら、もしかしたらアウラのこともホムンクルス計画のことも知っているんだろうか?
もしもカイメンたち研究者連中をドワーフの代表として調整しようとしていたとしたら、研究者たちを壊滅させたことを怒られちゃったりするかなぁ?
俺のお願いを快諾してくれたリーチェは、感激しながらド淫乱ボディで思い切り抱き付いてきてくれて死ぬほど気持ちいい。
……けど、リーチェに抱きしめられるのは大歓迎なんだけど、リーチェが加減を忘れてるせいで全身の骨が悲鳴を上げているんだよ?
これは死ぬほど気持ちいいと言うか、死に至るほどと言うべきかな?
うん。これ以上はやばそうだ。詠唱短縮で気付かれないようにキュアライトを連射しておこう。
脆弱な人間族さんは、他種族に全力ハグされると体がモタないんだよなぁ……!
全身に駆け巡る激痛を身体操作性補正を駆使してスルーして、なんでもない風を装ってライオネルさんに尋ねる。
「足りてないのって『世界樹の葉』と『宿り木の枝』だっけ? その2つの特徴とかドロップする魔物とか、可能な限り詳しい情報を教えてくれる?」
「あ、ああ。それはいいんだけど……。ダンさん、あんまり無理はしないほうがいいよ……?」
いいんですーっ。俺は愛する妻のハグを受け止められないような情けない男にはなりたくないんですーっ。
この世界って人間族さんだけ断トツで弱すぎるから、異種族婚なんかしちゃうとオチオチ夫婦喧嘩も出来ないね。加減間違えたら簡単に殺されちゃうわぁ。
本来世界樹の葉と宿り木の枝は、新たなエルフが誕生するその時までエルフ族の代表がインベントリに入れて保存しているそうなんだけど、ライオネルさんの前の長老がインベントリに収納したまま亡くなってしまったらしく、既に現物は残っていないそうだ。
ライオネルさんの先代の長老はリュートにリーチェを背負わせた張本人の1人で、エルフ族の出産率の低下の責任を追及されて私刑にされてしまったのだ。
「エルフ族の歴史に言及するのは避けるとして、現物が残っていないのは厄介だね……」
アイテム生成でドロップアイテムを生み出すには、アイテムの価値と具体的なイメージが分からないと難易度が跳ね上がってしまう。
流通させた記録が無いので価値は分からないそうなので、分かる限りのデータを教えてもらう事にする。
世界樹の葉、宿り木の枝の2つとも特定の魔物からドロップしたわけではなく、宿り木の根の最深部近い場所で稀にドロップするレアアイテムだったらしい。
使い道は世界樹の護りの素材以外には見出されておらず、外見的な特徴は植物の葉っぱと枝としか言えないそうだ。
返す返すも、現物さえあればなぁ……。
「それじゃこっちで色々試してみるよ。可愛い奥さんと愛する娘の為にも全力を尽くすつもりだけど、あまり期待しないで待ってて」
「くくく。ダンさんが全力を尽くすのに期待をするなってのは難しいね。だがどちらにしても私たちにはお手上げの状態だからね。お任せするよ」
あんまり買い被られても困るんだけどね。未知のアイテムの生成はまだ試したことがないんだから。
さてと、流石に激痛で意識が遠退きそうだから、そろそろ離してもらおうかなー?
「リーチェ。ティムルのことも抱きしめてあげたいから、ちょっとだけ体をズラしてくれる?」
「あっ、ごめんねっ? ぼくだけ抱きついちゃってて!」
ティムルの名前を出すと直ぐに言う事を聞いてくれるリーチェ。解せぬ。
解せないけど命には代えられないので、リキャストが終わった同時詠唱スキルでキュアライトを重ねがけする、
リーチェが避けてくれたおかげで出来たスペースに、肩を竦めながら飛び込んできてくれるティムル。ぎゅー。
「物は言い様ねぇ? リーチェの抱擁から解放されつつ私も抱きしめちゃうなんてっ」
「さーてなんのことですかねぇ? 俺はただ大好きなリーチェとティムルを一緒に抱きしめたかっただけですけどー?」
「ぼくもティムルのこと、大好きだよーっ」
再度リーチェが力いっぱい抱きしめてきてくれるけど、流石にティムルごと俺の背骨をへし折る膂力は無い模様。
……フラッタあたりだとティムルごとへし折ってきそうだから怖いわぁ。
「それじゃ俺達はお暇するね。中継都市の建設を任せっぱなしにして申し訳ないけど、なるべく俺は関わる気が無いから頑張ってねっ」
「普通の人は積極的に口出ししてきそうなものですけどねぇ。自由にさせていただいてありがたいですよ」
「なるべくあらゆる種族に居心地の良い場所として整備していくつもりだよ。やり甲斐がある大仕事だ」
カラソルさんとライオネルさんに中継都市の丸投げを念押ししてから、リーチェとティムルと抱き合ったままスペルディアの王城前に転移した。
俺達の転移に気付いた顔見知りの門番が直ぐに声をかけてきてくれる。
「ダンさん? 本日お見えになるお話は聞いておりませんが、何か緊急の案件ですか?」
「アポ無しで突然来てごめんね。緊急性は無いけどいくつかゴブトゴさんに確認したいことが出来ちゃってさ。今日って会えるかな? 無理なら出直すよ」
「ゴブトゴ様は新王の即位式の準備で忙しくされていますからねぇ……。確認はして参りますけど、期待はしないでくださいね」
直ぐに城に転移していく門番さん。
門番さんもポータルが使えるようになったんだなぁ。むしろ使えなかったであろう今までがおかしい気がするけど。
アポ無しでの訪問とは言え、普通客人を門の外につっ立って待たせておくなんてありえないような気もするんだけど、客を待たせるのが大好きだった前王シモンはよくやらかしてくれたらしい。
それにこの世界では貴族ほど転移魔法を使えるから、馬車なんかで乗りつけるよりもポータルを使った移動の方が早くて楽なので、結果的に城門前で立って待たせるような習慣が出来てしまったみたいだ。
それでも、権威の象徴として馬車で乗りつける事に意味を見出す貴族は少なくないらしいけどね。
ティムルとリーチェの極上エロボディを抱きしめながら暫く待っていると、門番さんがポータルで戻ってきてくれた。
けれど一緒に居る人物を見て、ちょっとゲンナリしてしまう。
「げっ……」
「ひどっ!? 人の顔を見るなりその反応は流石に酷くないかなぁっ!?」
露骨にどん引きした俺の反応に過剰に反応する男は、スペルディア第4王子のバルバロイ・フォート・スペルディア、通称ロイ殿下だった。
流石にゴブトゴさんがわざわざ出迎えてくれるとは思ってなかったけどさぁ。
だからってアンタが出迎えに来るとも思ってなかったんだよ……。
「だって、いきなり嫌いな人が目の前に現れたらこんな反応しちゃいますって。暇なんすかロイ殿下?」
「雑ぅ! 俺の扱いめっちゃ雑だねっ!? 一応これでも王族なんだけどなー!?」
「ゴブトゴさんに話を繋いでくれたと思ったんだけど、なんでこの色ボケ殿下が一緒に来たわけ?」
「王族の俺を差し置いて門番に話しかけないでくれる!? そしてダンさんにだけは色ボケって言われたくないからねっ!?」
む、確かに色ボケは俺にもブーメランぶっ刺さりそうだな。
ぶっ刺さっても甘んじて受け入れるしかないけど? だけど俺はぶっ刺されるよりぶっ挿したいんだよ?
ロイ殿下が騒ぎ立てたせいで口を開くタイミングを失っていた門番さんも、俺が話を振ったことでようやくロイ殿下がついてきた経緯を説明してくれる。
「やはりゴブトゴ様は手が離せないということで……。ですがダンさんの話を聞いておかないと気になって仕方ないと仰っておりまして」
「ぶっちゃけ用件は大したことじゃないんだけどね。それで?」
「それがその……。他の誰かにダンさんの応対をとなった時に、適当な人選がですね……」
ロイ殿下の登場を露骨に嫌がってしまったせいか、兵士さんが申し訳なさそうに説明してくれる。
貴方が悪いわけじゃないんだから何にも気にしないでいいんだよ。悪いのはこの殿下の女癖と性格だから。
「機密が絡む可能性があるのであまり位の低い者には応対させられない。かと言ってダンさんと面識のある王族なんて限られておりまして……」
「つまり消去法ってことね。確かにロイ殿下とラズ殿下くらいしか面識は無いけどさぁ。それならせめて美人のラズ殿下と話がしたかったよ?」
「はっきり消去法って言わないでくれる!? ラズは今仕事中でねっ。空いてるのは俺だけだったんだよっ!」
「ごめんロイ殿下。今真面目な話をしてるからちょっと静かにしててくれる?」
「当事者だから! 俺当事者なんだけどっ!? なんで会話への参加が許されないわけっ!?」
ふむ。打てば響くようなツッコミの精度だな。
正直言って未だにこの人のことは嫌いだし苦手だけど、ゴブトゴさんが送り出してくれたってことは以前よりはまともになってるのかもしれない。
「ロイ殿下が俺の応対をするのはゴブトゴさんも知っているんだね?」
「それは間違いなく。報告をしたのも自分ですし、ロイ殿下にお願いしろと命じられ、ご本人を案内してきたのも自分ですから」
「ゴブトゴは今大忙しだからね。本当に手が離せないんだよ。だからこうして俺が出張ってきたってわけなんだ」
ゴブトゴさんも了承済みならロイ殿下でいいのかな。
この人って組織レガリアとも繋がりがあったおかげで、この世界の裏情報にもかなり詳しいし。
「今回城に足を運んだのは、種族代表会議について色々話があったからなんですけど、ロイ殿下ってこれについて話できますか?」
「アレね。俺もそれなりにこき使われてるから答えられることも多いと思うよ」
「それじゃ仕方ないですね。ロイ殿下で諦めますよ」
「……滅茶苦茶釈然としないけど、まぁよしとするよ。話が進まないからね」
「ある程度お時間をいただくかもしれませんが、何処で話しましょう? 城に入ってもいいものなんですかね?」
「ダンさんが入城するのは構わないけど……。リーチェも同行してるし、中でマギーに鉢合わせるのはちょっと面倒だね。外で話そうか」
俺ってまだマーガレット殿下に嫌われてるのなー。好かれるようなこと何もしてないけどさっ。
ロイ殿下の案内で、城下町のちょっと高級そうな食堂に通された。
中には広い個室もある店で、まさに密談してくださいと言わんばかりのお店にしか思えない。
せっかくの高級店だけど、今日は既に夕食の準備が始まっているからね。ここは飲み物だけ頼むとしよう。
運ばれてきた甘い香りのするお酒にしつこいくらい毒見スキルを発動して、変なものが入っていないか入念にチェックする。
「……流石に警戒しすぎだからね? そんなに心配しなくても、ダンさんと敵対するような命知らずな事はしないさ」
「そう言いながらあっさり毒を盛ってきてもおかしくなさそうなので、つい?」
「信用無いね~? これでもゴブトゴからの評価は悪くないつもりなんだけど」
ため息をつきながら肩を竦めるロイ殿下。
ま、確かに俺が一方的に嫌いすぎている部分はあるかもしれない。
俺はこの国の人たちがどれほど人頭税で苦しめられてきたのかを知っているから、その税金を着服して豪遊していたロイ殿下のことをどうしても許すことが出来ない。
けれど生まれた瞬間から搾取する側で、しかも組織レガリアと繋がってこの国の裏の歴史に精通していたこの男は、王国民の事を搾取されるべき弱者だとしか認識しておらず、同じ人間だと認識することも出来ていなかったのだろうからなぁ。
「それじゃ早速お聞きしますが、凡その開催時期と想定している開催規模を知りたいですね。それと魔人族とドワーフ族の代表については相談があります」
「ふむ。それじゃ分かる範囲で1つずつ回答させて貰うよ。まずは開催時期だけど、新王の即位式が終わってからになると思う。最短でも1ヶ月以上は先じゃないかな?」
おや、思った以上に時間的猶予はありそうだな。
ゴブトゴさんのことだから、数日後に開催を予定しているとか言われても驚かなかったんだけど。
「ゴブトゴは早めに開催したがってるけど、実際難しいと思うよ。流石に新王の即位を放り出して他種族たちとの会議を優先することは出来無いからね」
「思ったよりかなり先で驚きましたよ。そんな状況でロイ殿下は何にこき使われてるんですか?」
「俺の主な仕事は出席者の選定と調整だね。呼ぶ呼ばないでごねる貴族も多いし。ま、そんなわけでまだ規模の方は具体的には答えられないかな。まだまだ調整段階だからね」
まだまだ規模が膨れ上がると言われてるみたいで微妙な気分ではあるけど、調整段階なら都合が良い。
今のうちに魔人族の要望は伝えてしまえば調整も容易だろう。
「魔人族の出席についてなんですが、聖い……侵食の森の中で生活している守人の魔人族って3つの部族に分かれているんですよ。それで種族の代表として出席するなら、各部族の族長が3人とも出席したいと言ってるんですよね」
「ああそんなこと? そのくらいなら平気じゃないかな。魔人族の代表にはタラムの里からも代表者を招く予定だしね」
あ、そっか。王国側と繋がっているタラム族を魔人族の代表として呼ぶ予定だったのか。
それなら無理に守人たちに出張ってもらわなくてもいいのか?
いや、聖域の樹海に関する話もあるし、守人たちの今後の王国での扱いも決めなきゃいけないだろう。
守人達の代表者が会議に参加する必要はあるはずだ。
「タラム族と言えば、歴史学者のキュールさんも会議に出席したいと言ってるんですよ。これって可能なんですかね? 彼女って帝国の人間なんですけど」
「んー……。それは流石に俺の独断で答えられない領域だけど……。ゴブトゴがなんと言うかは読めないけど、俺としては構わないと思うよ」
「構わないんですか? 帝国側に会議の内容が知られると思うんですけど」
「種族間の交流は国家を超えて話し合わなければいけない議題だろうからね。むしろキュール女史以外にも帝国の人間を呼んで、帝国とも情報を共有すべきだと俺は思う。ゴブトゴの判断次第だけど」
ロイ殿下は思ったよりも前衛的な考え方をしているようだ。
というかこの世界って、国家間の対立とか無いのかもしれないな。
魔物という人類共通の脅威が存在しているし、土地も資源もまだまだ潤沢だから対立する理由が無い。
「回答ありがとうございます。一応キュールさんには、許可は下りるかは不明だけど参加の意思は伝えておいたと報告しますよ」
「それでいいんじゃない? 俺としては美人の参加は歓迎だけど、権限を越えた領域に無責任なことは言えないからさ」
キュールさんの件についてはゴブトゴさんの判断待ちだな。俺が出来る事はここまでだ。
リーチェとティムルは口を挟むことなく、ずっと俺に抱きついたまま俺の胸に頬ずりを続けている。
話を聞いていないわけじゃ無いんだろうけど、今のところは2人が口を挟むまでもないと思ってくれているのかな?
さて。守人の次はドワーフの代表について話さなきゃいけないんだけど……。
組織レガリアと繋がっていたロイ殿下なら、もしかしたらアウラのこともホムンクルス計画のことも知っているんだろうか?
もしもカイメンたち研究者連中をドワーフの代表として調整しようとしていたとしたら、研究者たちを壊滅させたことを怒られちゃったりするかなぁ?
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