異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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7章 家族みんなで冒険譚1 いつもと違うメンバーで

482 ※閑話 駆け出し (改)

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「今回の遠征では2万リーフちょっと稼ぐことが出来たね。魔玉も光ってくれたし、かなりいい感じの稼ぎじゃない?」

「ようやく全員、全身に装備を揃えられたもんね~。あ~あ、私達もトライラムフォロワーに入れれば良かったんだけどな~」

「まぁまぁ、お金に余裕が出来たのは間違いないでしょ? 今日は思いっきり贅沢しちゃおうよ! 済みませーん注文お願いしまーす!」


 今回の報酬に満足げなアイビー。装備の貸し出しが行なわれているトライラムフォロワーを羨むシーラ。

 そんな2人に構わず、ワクワクとした様子で料理を注文しているシンディ。


 すっかり魔物狩り生活にも慣れてきた私達『欠けた宝玉』のメンバーは、スポット遠征での疲れを癒す為にお馴染みの酒場で料理を楽しんでいる。


 1度どん底まで落ちてしまった私達だけど、今はようやくみんなが心から笑って過ごせる日々を取り戻すことが出来たように思う。


「トライラムフォロワーと言えば、浸透の知識を広めてくれているのはありがた過ぎるわよねぇ。おかげで私達全員、インベントリが使えるようになっちゃったしさぁ」

「この調子ならもうちょっと奥まで行ってもいいかもしれないね。ギルドからの紹介される仕事は……、今の私たちにはあんまり魅力が無いかなぁ?」

「おっとぉ、そいつは残念だねぇエイダ?」

「え……?」


 突然頭上から降ってきた声に視線を向けると、そこには戦士ギルドの受付嬢のモリーさんが立っていた。


「モリーさん! 今日はもうお仕事は上がったんですか?」

「まぁねぇ。最近は戦士に転職する奴が増えてるから、戦士ギルドも結構増員したんだよ。おかげで受付に立つ時間も多少は減ってくれたんだ」


 モリーさんは1人で来店したようだったので、せっかくなのでご一緒にどうぞと、私達のテーブルに合流してもらった。

 戦士に転職した時に、私達全員がお世話になったもんね。


「最近は優秀な魔物狩りがギルドから距離を取りがちだ。もしかしたら職業ギルドの形も変わっていくかもしれないねぇ……」


 ギルドへの批判とも取られかねない私たちの発言にも気分を害した様子はなく、むしろバツが悪そうに呟くモリーさん。

 決してギルドを批判したわけじゃないんだけど、結果的には同じよね……。


 だけどここで黙っている方が気まずいだろうと、なんとかモリーさんに反応を返す。


「職業ギルドが変わる……ですか?」

「変わらなきゃいけないって言うべきかもね。戦死する魔物狩りが激減してるのはいいんだけどさ。魔物狩りが増えすぎて、最近はギルドの仲介がおっつかないところがあるんだ。だからギルドに魅力が無いと言われると言い返せないねぇ」

「すっ、済みませんモリーさん……! 私たちは別にそんなつもりじゃ……」

「謝る必要は無いよシンディ。どう考えたって今のマグエルの方がずっと賑ってるからね。変化した状況に対応するのが遅れているギルド側の方が問題なのさ」


 謝るシンディを笑い飛ばし、豪快にお酒を呷るモリーさん。

 相変わらず話してて気持ちがいい人だなぁ。もしもモリーさんが男の人だったら惚れちゃってたかも……?


「ギルドが用意してやれる仕事に魅力を感じないのは、アンタらがそれだけ優秀な魔物狩りって証拠さ。つまらない事に拘らないで精一杯やりな! ギルドはアンタらの人生に責任なんて持っちゃくれないんだからさ」

「はっ、はいぃ……! ありがとうございますっ。私たち、これからも頑張りますねっ!」


 ……あれ? シンディ、なんで微妙に顔を赤くしてるの?

 確かにモリーさんはかっこいいけど、モリーさんって間違いなく女性だよ? 美人だし。


 今日は懐が暖かい私達が奢る事にして、ちょっと頼みすぎなくらいに料理を注文する。

 それじゃあ次の機会には4人分奢らなきゃいけないねぇと豪快に笑うモリーさんは何処までも男前で、そんなモリーさんを見詰めるシンディの目が熱っぽくてちょっと心配。


 賑やかな店内で気心の知れたモリーさんと楽しく食事していると、聞き覚えのある男の声が聞こえてきた。


「おっ、モリーじゃねぇか。女にモテ過ぎて、とうとう女に手を出す事にしたのかぁ?」


 相席している私たちには目もくれず、上機嫌な様子でモリーさんを揶揄するのは、反骨の気炎の斥候役にして私達の師匠であるティキだった。

 って、やっぱりモリーさんって女性にモテモテなんだ? シンディは大丈夫かなぁ……?


「そういうティキこそ女に相手にされるようになったのかい? 女の私よりモテないようじゃお先真っ暗だよ?」

「モリーより女にモテてる野郎がマグエルにどんだけ居るんだって話だよ……。マスター! こっちにいつもの頼むわ」


 ニヤリと挑発的な笑みを返すモリーさんに、あっさりと撃沈されるティキ。

 私たちを気にせずモリーさんの隣に腰掛けたティキは、グイッとお酒を呷ってからようやくこちらに気付いたようだ。


「あ? エイダたちじゃねーか。意外な組み合わせで飲んでたんだな」

「席についてから気付かないでよ。人によっては叩き出されても文句言えないんだからね?」

「わりーわりー。今日はうちの連中は来てなくてよ。独りで飲むのもなんだなぁって思ってたところにモリーを見つけちまったもんで、ついな」


 お詫びと言いながらティキは、私たち全員に飲み物のおかわりを注文してくれる。

 仕方ない。許してやるかー。


 なんでもティキは長期の依頼を終えて今日マグエルに戻ってきたばかりらしく、報酬を受け取った反骨の気炎のメンバーはそれぞれ別々に街に繰り出してしまったそうだ。

 ティキの説明を聞いたモリーさんが、目を丸くして大袈裟に驚いてみせる。


「へぇ? アンタらが依頼のあとの打ち上げをしないなんざ珍しいね? いつも依頼の後は馬鹿みたいに騒ぐくせにさぁ」

「んー。今回の依頼はちょっと簡単すぎてなぁ。みんな元気が有り余ってんだよ。そのくせ報酬は破格だったもんで、みんな夜の街に繰り出しちまったんだよなぁ。リーダーは奴隷商人のところに行っちまったし」

「あん? アンタも女奴隷を買うのが目標とか言ってなかったかい? トルカタが奴隷を買うなら一緒に付いていきゃ良かったじゃないか」


 思ったよりも親しげな様子の2人に、シンディが面白くなさそうな表情を浮かべている。

 でもねシンディ。モリーさんは女性には興味無いと思うよ?


 だけどこのままだと場の雰囲気が悪くなってしまいそうなので、私が少し探りを入れてあげるとしますかー。


「ティキとモリーさんってなんか随分親しげなんだね? でもティキって戦士でもないのに、何処にモリーさんとの接点があったの?」

「んー、俺とモリーは2人ともマグエルの出身でな。腐れ縁って奴だ。ガキの頃からの知り合いだよ」

「そうそう。所謂幼馴染ってやつだね」


 幼馴染っ! 子供の頃からの知り合いなんだ?

 でも2人とも魔物狩りとして活動してるのに、同じパーティになろうとは思わなかったのかなぁ?


「ティキは昔っからフラフラしてるところがあってねぇ。おかげさまで惚れる要素が一切無くて、最終的に酒飲み友達に落ち着いたってわけさ」

「モリーはモリーでいっつも女に囲まれてたがな。まぁコイツと飲む酒は悪くねぇからよ。1人の時には良く付き合ってもらってんだわ」


 あら、ひねくれているところのあるティキが、モリーさんの前では随分素直な感じじゃない?

 もしかしてティキってモリーさんの事を……なんて浮ついた雰囲気ではないかぁ。


「しかしティキ。今回の依頼ってグルトヴェーダ山岳地帯の徒歩での踏破じゃなかったかい? それが簡単って、随分大きく出るじゃないのさ」

「確かに依頼を聞いた時は俺もビビったんだけどよぉ。魔物は出ねぇわ野盗の心配もねぇわ、戦闘も一切無く、ただ歩くだけの1ヶ月だったからなぁ」

「……はぁ? グルトヴェーダを踏破する依頼の話、だよねぇ……?」

「その歩く道だって整備されてるしよぉ。夜なんか移動魔法で街まで送ってもらえるから、危険度の調査のために今日は野営させてくれって頼まなきゃいけねぇくらいだったんだぜぇ……?」


 楽すぎて逆に気疲れしてしまったと、肩を竦めてみせるティキ。

 そんな依頼の報酬がメンバー1人1人に金貨60枚ずつ支払われたと聞いて、流石のモリーさんも絶句している。


「たった1ヶ月で金貨60枚……? しかもそれをパーティ全員に別々に支払うだってぇ……? そんなことされちゃあギルドの紹介する仕事に魅力なんか感じてもらえるわけないねぇ……」

「いや? 依頼主はダンって野郎なんだがよ。これからはこの報酬が一般的になっていくだろって言ってやがったぜ?」

「ダン? ティキの仕事の依頼主ってダンだったの?」

「あん? エイダたちもダンのこと知ってんのか?」


 ティキの口から知っている名前が飛び出したことで、思わず2人の会話に割って入ってしまった。


「マグエルに来る前にちょっとね。ティキの言っている依頼主さんと同じ人かは分からないけど」

「ふ~ん。まぁアイツ、色々と顔が広そうだったもんなぁ」


 ティキに詳しく話を聞くと、やっぱり依頼主は私達を野盗から助け出してくれたあのダンで間違いないみたいだった。

 ニーナもティムルも元気そうにしていて、それどころかあの2人の他にも沢山の女性を妻に迎えているみたいだった。


「ああ、ダンって教会の子供達を面倒見てる男のことかい?」

「おっと。モリーもダンと面識があんのか?」

「まぁね。子供達を連れて戦士ギルドに来る奴なんか珍しくってさ。何度か来てるし流石に覚えてるよ」


 ティキと私の会話を聞いて、モリーさんもそう言えばと会話にはまってきた。


 ダンは去年の年末頃から教会の孤児たちに転職をさせていて、今では100人を優に超える子供達の転職をモリーさんにお世話してもらったみたい。

 教会の子供達は職業浸透の新たな知識を持って短期間で転職を繰り返す為、今では小さな子供達が転職に失敗する事態を心配することも無くなったそうだ。


「教会の子たちは凄いよねぇ。始めに転職の世話をした子は半年ちょっとで6つくらい職業を浸透させちまったって話だよ。それでいて新しい子の転職に付き合って、未だに戦士ギルドに顔を出してくれたりするんだよねぇ」

「職業浸透だけじゃなく、あいつらはしっかりとした戦闘の手解きを受けてっからな。何人か俺より強ぇガキもいやがるから、やってらんねぇよなまったくよぉ」


 言葉とは裏腹に、なんだか楽しそうに笑うティキ。

 奢ってやるよと、私たちとモリーさんに追加のお酒を振舞ってくれた。


「ダンの言うことを真に受けたわけじゃねぇけどさ。最近のマグエルってすげぇ賑ってるだろ? だからなんつうかよ、俺もこのままでいいのかなって気にさせられんだよなぁ」

「あっはっは! 卑屈なティキとは思えないセリフだねぇ」


 豪快に笑うモリーさんに、鬱陶しそうに右手を払ってみせるティキ。

 始めは不機嫌そうにしていたシンディも、いつの間にか2人の会話を興味深そうに聞いている。


「……でも分かるよそれ。教会の子たちが瞬く間に職業を浸透させていくのを見てるとさ、私もギルドで受付なんかやってていいのかって気分にさせられちまうからね」

「教会のガキどもは1番強くダンに影響されてるらしくってよ。もう常識からして違うんだよな」

「常識が違う?」

「ああ、アイツらって魔物狩りを始めた最初の月に数万リーフの稼ぎを叩き出すのが普通だと思ってんだぜ? 実際に稼いでくるから反論も出来ねぇしよぉ……」

「えっ……」


 ウンザリしたようなティキの言葉に、私達は思わず顔を見合わせてしまった。

 私達も魔物狩りを始めた月から2万リーフくらいは稼いだ気がするけど、それって凄い額だったの?


「ちなみに今までの常識だと、どのくらい稼ぐのが普通だったの?」

「ああん? 始めの月は生き残れるかどうかの方が大事で、報酬なんて気にしてる余裕はねぇんだよ、普通はな。実際駆け出しの死亡率って相当高いんじゃねぇかな。その辺どうなんだモリー?」

「……そうだね。うちで転職した新人の半数くらいは始めの月に……。更にその半分は1年以内に命を落としてた感じかな。去年までの話、だけどね?」

「そんなに……? でも私達だってゼロから魔物狩りを始めたのに……。他の人たちと何が違ったんだろう……?」


 私達は順調にお金を稼げていて、春になってお金に余裕が出てきた私はマグエルに母さんを呼んで、弟のエイサンと一緒に余裕がある暮らしが送れている。

 全てを失った私達でさえ稼げる魔物狩りになったっていうのに、そんなにも沢山の新人が命を落としていたなんてとても信じられなかった。


 そんな私の呟きに、目を丸くしたのはモリーさんだ。


「エイダたちがゼロから魔物狩りを始めただってぇ? 馬鹿言っちゃいけないよ。殆どの新人は装備品すらまともに用意できないんだからね?」

「え……?」

「しかもエイダたちにゃあ軽くではあるけど俺が指導をしてやったからな。やっぱエイダたちとも常識が違ってる気がすらぁ」


 たった数日、依頼の合間の暇な時間に受けた程度のティキの手解き。

 あんなことでさえ受けられたのが幸運だと言われるほどに、何も知らずにスポットに向かうのが当たり前だったの……!?


「殆どの新人はよ、今まで武器の握り方すら知らずにスポットに潜ってたんだよ。あわよくば魔物狩りで稼げるかもって、そんな淡い期待を抱きながらな……」

「魔物狩りをするには装備品は必須だろう? だけど新人の多くはその最低限の装備品、武器さえも用意できずに魔物狩りに挑み、そして命を落としていたんだよ……」


 ティキとモリーさんの静かな呟きに、2人が見送ってきた命の多さを思い知らされる。


 ……そう言えば私の家だって決して裕福じゃなかった。

 魔物狩りをすればこんなにも簡単に生計が立てられるのに、それでも食堂で必死に働きながら、少ないお金で苦しい生活をしていたんだっけ。


 確かにあんな生活をしていたら、いくら稼げると分かっていても魔物狩りを始める準備すら出来ない。

 最低限武器だけでも用意できなければ、魔物と戦うことは出来ないのに……。


「そう、言えば……。確か私達を助けてくれた時、ダンもダガーくらいしか持ってなかったんじゃない……?」

「…………あ」


 震えた声で呟かれたアイビーの言葉に、私たちが野盗から助けられた時の記憶がフラッシュバックする。


 当時は装備品のことなんて何にも知らなかったけど、魔物狩りを始めた今なら理解できてしまう。

 あの時ダンもニーナも、碌に装備品を身につけていなかったということを……!


 ……そう。ダンもまた今までの常識に漏れず、装備品も用意できないギリギリの状態で魔物狩りを始めたに違いない……。


「そんな……そんな状態だったのに報酬を折半し、野盗が溜め込んでいたお金を全部私たちに……!?」


 感謝よりも先に羞恥心が沸き起こる。

 恥知らずだった今までの自分に憤りを覚えると共に、ダンたちがしてくれた行為に戦慄してしまう。


 あのお金があったから、私たちは最低限の装備品を揃えてスポットに挑むことが出来たんだ……!

 全てを失ってゼロから魔物狩りを始めたなんて、私ったらなんて甘ったれた事を……!


「なんだぁ? お前らってダンに助けられるかなんかしたのか? あの野郎、見境なく色んな人を助けてやがったんだな……」

「自分も大富豪になってるってのが凄まじいね。自己犠牲の塊の善人ってワケじゃなく、ちゃんと自分も稼ぎつつ人助けをするたぁ、なんだか不思議な御仁じゃないか」


 その後はそれぞれのダンとのエピソードを肴に、店が閉まるまで飲み明かしてしまった。

 私達とダンとの出会いを話すのは少し気が引けたけど、アイビーもシーラもシンディも一緒になって語ってくれた。


「目指す場所があるなら迷うな。歯を食い縛ってでも進め、か……」


 ティキが小さく呟いたひと言が、なんだか私の耳にいつまでも残っていた。
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