異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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7章 家族みんなで冒険譚1 いつもと違うメンバーで

478 触心 (改)

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 キュールさん、そしてチャールとシーズと一緒に、ディロームの里で族長のルドルさんとカランさんに話を聞く。


 けれどタラム族の話を聞いた限りでは、この世界の歴史を追っていく時にタラム族はあまり関わってこないような気がしてきた。

 タラム族の話をこれ以上深堀りしても何も無さそうなので、話を切り上げて次の話題に移行する。


「今日から俺達も聖域の樹海の調査に参加しようと思ってるんだけど、最深部はまだ見つかってないんだね?」

「うむ。聖域を虱潰しに探しているつもりではあるのだがな。今のところ発見には至っておらん。ここ聖域の最深部は、スポットや竜王のカタコンベのような分かりやすい境界線が無い可能性も考えている」


 この口振りだと、カランさんもスポットや竜王のカタコンベに入ってみたのかな?

 聖域の樹海の最深部は、他のアウターのようにひと目で分かるような境界線が存在しない。確かにその可能性も否定は出来ないんだけど……。


「……そもそもの話、聖域の樹海って本当にアウターなのかな?」

「と、申しますと?」


 先ほどチャールが言及したように、聖域の樹海がアウターであることから検証すべきじゃないのか。

 そんな俺の問いかけに反応したのは、族長のルドルさんの方だった。


 カランさんは俺の問いかけに、不思議そうに首を傾げている。


「初めてディロームの里に訪れた時、ルドルさんはこの聖域の樹海もレリックアイテムの1つだと言ったよね? あの時は深く考えなかったけど、アレって結局どういう意味だったのかな?」


 ルドルさんに初めて会ったとき、この樹海がレリックアイテムであると説明された記憶がある。

 そしてレリックアイテムとは、この世界の秩序を保つ為に神から齎されただと言われた筈だ。


 つまりこの聖域の樹海は自然に発生したものではなく、アウターですらない。

 そう考えると、この樹海の特異性に納得できてしまうんだよなぁ。


 正直ワシ自身も分からないことが多いのですが……と前置きして、ルドルさんが俺の質問に答えてくれる。


「恐らくガローブ、グローグの里にも伝わっているかと思いますが、守人の長にだけ伝えられている口伝がいくつかありましてな。聖域の樹海とは、この世界の魔力量を調整する為に神が用意した器であるというのです」

「その話は以前もチラッと触れた気がするけど……器って?」

「魔力とは日々の生活に欠かせないかけがえのない力ですが、過ぎたるは及ばざるが如し、なんにでも限度というものがあるのです。過分な魔力は人々に脅威と破滅を齎す、ゆえにそれを受け止める器が必要なのですな」


 魔力が無ければこの世界では生活が成り立たない。

 けれど魔力が過ぎると魔物が発生し、更には活性化して強化されてしまう。


 だから魔力を適量に保つ為に、余分な魔力を吸収し森に変換してしまうのが聖域の樹海の機能であり役割なのだそうだ。


「その脅威と破滅として伝えられているのが、古の邪神ガルクーザというわけだ……」

「左様。聖域の樹海は余分な魔力を封じる蓋であり、際限なく魔力を吐き出し続ける呼び水の鏡の鞘でもあるのですよ」


 聖域の樹海の様々な特異性。それがルドルさんの言葉で一気に理解できた気がした。


 アウターとは本来、外の世界から魔力が流れ込んでくる場所のことを指しているはずだ。

 だけどここ聖域の樹海はその逆で、調なのだ。


 ということは……。


「……つまり、やはり聖域の樹海はアウターでは無いってことになるね。だから他のアウターとは一線を画す様な場所だったわけだ」

「ま、待ってくれダン殿! いくらなんでもここがアウターでは無いとは考えられぬぞ!? ポータルが使えずアナザーポータルが使え、探索魔法だって適用されるではないか!?」


 カランさんが慌てて俺の結論を否定してくる。


 確かに転移魔法や探索魔法でアウターかどうかを判定することは出来る。

 実際に俺も開拓村跡地では、移動魔法を用いてアウター化を判断したわけだしな。


 けれどそもそもの話、アウターの定義ってのは曖昧なんだよなぁ。


「カランさん。呼び水の鏡が設置された旧開拓村跡地でもアナザーポータルが使えたんだ。あそこは間違いなく聖域の樹海の外だったにも拘らずね」

「せ、聖域の外……。アウターの外でもアナザーポータルが使えたと言うのか……!?」

「そう。アウターではない空間が呼び水の鏡のせいでアウター化していたんだよ。つまりねカランさん。この聖域の樹海も開拓村跡地のケースと同じなんじゃないかって思うんだ」

「……つまり聖域の樹海は元々アウターでは無く、聖域が受け止めた膨大な魔力のせいでアウター化してしまった空間であると……。そう仰るのですね?」


 慎重な口調で俺に確認してくるヴァルゴに頷きを返す。


 アウターとは別の世界から大量の魔力が流れ込んできている場所だというけれど、移動魔法や探索魔法の適用範囲はもうちょっと大雑把なんじゃないかと思うのだ。

 開拓村跡地がアウター化し始めていたように、一定以上の魔力に満たされた空間であるならアウターとして認識され、魔法の適用範囲が変わってくるんじゃないだろうか。


「開拓村跡地がアウター化していた時も、実際に足を踏み入れるまでアウター化しているのに気付けなかったからね。聖域の樹海もアウターの境界が曖昧だ。俺には両者が酷似しているように思えるんだよ」

「外から魔力が流れ込んでくる場所じゃなくって、溢れた魔力を受け止めて森に変換してしまう場所なんだね。そう考えると最深部なんて始めから存在してないのかも?」


 ふむふむと頷きながら呟くニーナ。

 そして直ぐにその呟きに続いて、仮説を展開するティムル。


「……最深部は無くても中心部はあるんじゃないかしら。森の侵食が外側に向かって広がっていくのなら、樹海の中心地に魔力の受け皿となる何らかのマジックアイテムが存在しているかも……?」

「最深部ではなくて中心部か。そこに聖域の機能を司る何かがあるかもしれないってことだね。例えば何らかのレリックアイテムがあるとか」

「せ、聖域の中心にレリックアイテムが……!?」


 聖域の中心部という発想と、そこにレリックアイテムが存在しているかもしれないと聞いてルドルさんが慄いている。

 この樹海そのものがレリックアイテムだと認識していたルドルさんにとって、樹海はレリックアイテムが作り出した結果でしかなかったかもしれないというのはショックだったのかな?


「ねぇダン。最深部じゃなくて中心部を探すとして、そんなのどうやって探せばいいのかな? サーチを使ってそれらしい場所を徹底的に調べるとか?」

「ふぅむ。仮にサーチを使ってそれらしい場所を探したとしても、そもそも中心部とやらが存在するかも分からぬし、そこに何かがあると決まったわけでもないのじゃ。闇雲に探すのはちと無謀かもしれぬのう」


 ニーナとフラッタが、聖域の調査方法に不安を抱いているようだ。

 だけどね2人とも。世界に漂う余剰魔力を使って樹海が拡張し続けているなら、中心から外側に向かう魔力の流れがあるはずなんだよ?


「そこはお姉さんに頑張ってもらおうと思ってるんだ。ティムルなら魔力の流れを目で追えるからね」

「あはーっ。ダンに頼ってもらえるのってすっごく嬉しいわ。お姉さん張り切っちゃうわよーっ」


 ティムルが熱視をアピールするように、碧眼になって俺に笑顔を向けてくれる。

 碧眼の女神の笑顔に見蕩れて、聖域に起こっている異変のことなんてどうでもよくなってしまう俺。


「あ、あのぅダンさん……」

「ん? なぁにムーリ?」


 そんな俺にこそこそっと寄ってきたムーリが、自信なさげに耳元で囁いてくる。

 ああ、ムーリの囁くような吐息が気持ちいいなぁ。


「私って足手纏いになってませんか……? なんだか皆さんのお話にもついていけなくって……」

「全然足手纏いになんかなってないよ? ここでの戦闘にも不安は無かったし」

「た、確かに魔物との戦闘に不安はありませんでしたけど、ターニアさんやラトリアさんたちは勿論、アウラとも実力差を感じちゃいますよぅ……?」

「いやいや、それを言ったら非戦闘員を3人も連れてるんだから、戦える時点でムーリが足手纏いなんてことは全然ないってば」


 どうやらムーリは、アウラの加入をきっかけに自分の戦闘力に自信が無くなってしまったようだ。

 今までは歴戦の兵とパーティを組んでいたから実力不足も気にならなかったんだろうけど、若干10歳にして最高の資質を持つアウラの戦闘力を目の当たりにして、すっかり意気消沈してしまっている。


「私が居ないほうがスムーズに調査が出来るんじゃないですか……? 優しいダンさんは私に気を使ってくれてるだけで……」

「はは。勿論可愛いムーリには一緒に調査に参加して欲しいなぁって思ってるけど、実力が不足してるとは本当に思ってないよ。おいでムーリ」


 不安げなムーリの手を引いて、胡坐をかいている俺の足の上に座らせる。

 本当ならベッドの上でこれでもかとムーリの必要性を思い知らせてやりたいところだけど、今は後ろからぎゅっと抱きしめてムーリの不安を解消させてあげよう。


 腕に感じる重みの元凶を思い切り揉みしだいてあげたいところだけれど、一応まだ話は終わっていないので、バックハグするだけに留めておく。


「……ねぇムーリ。もしも実力不足で悩む事があったら、出会った頃の俺とニーナを思い出してみて?」

「え? 出会った頃のお2人、ですか?」

「俺達にだって弱くて実力不足の時があったって、ムーリは全部見てきたでしょ?」

「……あっ」


 ハッとしたように小さく声をあげるムーリ。

 そんなムーリを抱きしめながら、他の人には聞こえないくらいの声量でムーリの耳元に囁きを届ける。


「出会った時の俺達なんて、今のムーリだったら目を瞑ってても圧倒できちゃうよ? それくらいムーリは強くなってるから。全然足手纏いなんかじゃないよ」

「……ふふ、あははっ。それって参考になりませんってばっ。実力不足なんて言いながらなんでもかんでも解決して見せてたダンさんと比べたら、余計落ち込んじゃいますよっ」


 言葉とは裏腹に、楽しそうに声を弾ませるムーリ。

 残念ながら後ろから抱きしめて体を固定しているので、声と一緒におっぱいまで弾ませてはもらえなかった。


 だけどムーリからは不安そうな様子は無くなり、後ろから抱きしめている俺の両手に自分の手を重ねてきてくれた。


「実力不足を嘆くより、腕を磨く為に参加すべし、ですねっ。こんなに頼りになる家族が傍に居るんですから、学ばせてもらうつもりでご一緒する事にしますっ」

「うん。一緒に来てくれてありがとう。ムーリが傍に居てくれて凄く嬉しいよ。これからもずっと一緒にいようね」


 耳元で囁いてやると、ムーリは気持ち良さそうに息を吐いて強張っていた体を弛緩させた。

 不安も緊張も解れてくれたかな? やっぱりムーリの体は柔らかいままの方がムーリらしいよ。


 スポットの最深部で戦えるムーリが足手纏いのわけないんだけど、周囲のメンバーがちょっと強すぎるからね。

 一般の魔物狩りと比べれば超エリートってくらいのムーリでも実力不足を感じるのも仕方なしかぁ。よしよしなでなで。


 俺に身を委ねて心地良さそうにしているムーリに頬ずりして、言葉も発さず無言でイチャイチャしていると、コソコソと小声で話しながらも興奮しているチャールの声が聞こえてきた。


「こんな巨大な森全体がマジックアイテムによって生み出されているなんて……。この世界って本当に神秘と謎に満ちているのねーっ!」

「いやいや、ダンの話はまだ仮説に過ぎないからな? 結論は調査の結果次第ってことだ。真実を求めるなら焦りは禁物だぜチャール」


 好奇心に目を輝かせているチャールと、冷静にツッコミを入れているシーズ。


 ……ドレッドなんかもそうだけど、孤児のみんなって冷静な子はトコトン冷静だよなぁ。

 それだけ厳しい境遇に身を置き続けたってことなんだろうか?


「……なるほど。つまり私たちはこれから、何なのかも分からない物を探すんだね? それなら私も少しは役に立てそうだよ」

「キュールさん?」


 ムーリとイチャイチャしたりチャールたちの会話に耳を傾けたりしていると、キュールさんがなんだか不敵な笑みを浮かべていた。

 俺が視線を向けた事に気付くと、やはりニヤリとしたちょっとドヤった顔を浮かべるキュールさん。


「知っての通り、私は戦闘力が皆無なんだけどね。こう見えて1つ特技があるんだ」

「ふむふむ。その特技が聖域の調査に役立つと?」

「その通りだ。話が早くて助かるよ」


 俺の言葉が満足いくものだったらしい。キュールさんは満足げに笑顔を浮かべて大きく頷いている。

 でも、今の会話の流れで別の解釈をする方が難しくない?


「魔人族の種族特性って個人差が大きいのは知っているかな? 私の種族特性はその中でもかなり特殊でね。戦闘力は無い代わりに調査に向いた能力なんだ」


 そう言ったキュールさんの右手が黒い魔力で覆われた。

 これってヴァルゴのダークブリンガーの要領で、魔技によって制御した魔力を己の右手に集中させたのか。


「私はこの右手に触れた対象の情報を読み取ることが出来るんだ。原理は説明できないけどね。私はこの能力を本質に触れるという意味を込めて『触心』と呼んでいるんだ」

「触心? 魔力に触れることで情報を読み取るって……」


 つまりキュールさんの魔技は鑑定の亜種ってことかな?

 鑑定スキルが対象の情報を読み取れる事を考えると、対象の魔力に干渉することで情報を抜き取る能力があってもそこまで不思議では無いのかもしれない。


「ふふ。信じられないかな? 学者として数多の資料を読み解いているうちに発現した能力なのだけどね、我ながら学者らしい能力で重宝してるよ」

「魔技……、魔人族の能力って個人差が大きいんだよね? つまりキュールさんの望みに応じた能力が発現したってことなのかねぇ?」

「そうかもしれないね。実際この能力は重宝しているし」


 俺の思いつきの呟きに、またしても満足げに頷くキュールさん。

 魔技の発現条件は良く分からないけど、少なくとも個人の資質と望みに大きく左右されるものらしい。


 そこで一旦言葉を切ったキュールさんは、俺に挑戦的に微笑みながら魔力に覆われた右手を差し出してくる。


「どうだいダンさん? もしも貴方がこの能力に懐疑的なら、私と握手してみないかい? 貴方の事を丸裸にして差し上げようじゃないか」


 ……丸裸にって言われると微妙な気分になるなぁ。

 まるでキュールさんと裸の付き合いをするみたいに聞こえて、まーた1人家族が増えてしまうような気がしてしまうんだよ?


「ふむ。ちょっと待ってね……」


 さて、エロい雑念は今は捨てて、キュールさんからのお誘いに乗るべきか否か……。


 もしもキュールさんの触心によって鑑定と同等以上の情報が抜かれても、今の俺にとってはそこまでの痛手ではないと思う。

 今更キュールさんが俺に敵対的な行動を取るとも思えないし、好奇心の赴くままに触心を体験してみるのもいいかもしれない。


「面白そうだし握手しよっか。俺の中身なんて普段から家族に全部覗かれてるしね」

「ほほう! 普通は情報を読み取られると聞くと嫌がられるものなんだがね。流石は神器所有者だけあって豪胆じゃないかっ」

「ま、何を読み取ったにしてもあんまり言いふらして欲しくはないけどね?」

「そこは信用して欲しいな。たとえなにを読み取ったとしても口外したりはしないさ。そのくらいの分別はあるつもりだよ」


 どうだろうなぁ? 俺の職業浸透数とか読み取ったら吹き出しちゃうんじゃないかなぁ?

 ま、既に分析官も法王も浸透済みで、鑑定されて困るような情報も無いでしょ。


 ということで、差し出されていたままのキュールさんの右手と握手し触心してもらうことにした。


「ほう、ダンさんは私の2つ下なのかい。だけど……あれ? 職業が上手く読み取れない……? なんだか情報が多重に折り重なっているような……」


 お、すげぇ。マジで鑑定と似たようなことが出来るみたいだな。

 ごめんねキュールさん。俺の職業情報って3つの職業が折り重なっちゃってるんだよ。


「……へ? 婚姻契約が多いのは分かってたけど、な、なんだいこの奴隷の数は……? ちょちょ、情報が多すぎて全部を読み取りきれない……!?」


 驚愕の声を上げながら、顔を青くしてふら付き始めるキュールさん。


 これってもしかしなくても魔力枯渇の症状か?

 俺のステータスプレート情報が多すぎて魔力枯渇を起こしかけてるってこと?


 つまり触心は、読み取る情報が多いほどに魔力消費が嵩んでいくのかな?


「キュールさんストップストップ。そのままじゃ魔力枯渇を起こしちゃうよ。一旦触心止めて」

「ぐ、ぐぐ……! 悔しいけどこれ以上は、無理ぃ……!」


 右手を離して地面に蹲るキュールさん。

 その全身には玉のような汗が噴き出しており、意識を失う1歩手前くらいの重さの魔力枯渇を味わってしまっているようだ。


「ダ、ダンさんって何処まで規格外なのさぁ……。まさか触心で、情報を読みきれない相手がいるなんてぇ……」


 自信満々に握手を提案してきたこともあって、涙目になってすっごく悔しがっているキュールさん。


 別に追加職業のことがバレても構わなかったんだけど、この分だとバレてなさそうかな?

 勇者や魔王、神殺しなんかも気付かれた様子は無いから、魔物使いや召喚士も読み取れなかっただろうね。


 ニーナとティムルを家族に迎えるための障害として、今まで散々邪魔者扱いしてきた奴隷契約。

 まさかその奴隷契約のおかげで俺の個人情報が守られるとは、何が役に立つか分かったもんじゃないなぁ。
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