異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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6章 広がる世界と新たな疑問2 世界の果て

429 スイートクッキング (改)

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 異世界初の発禁本が爆誕しそうな流れを阻止したいのに、ヴァルゴの甘いキスが俺を捕らえて離さない。というか物理的にも捕らえられてて逃げられないんだよ?

 逃げられないなら仕方ないな! 思いっきり堪能してしまえー!


「んんんっ!? んーーーっ! ふっ、ぐぅぅ……!」


 ヴァルゴの後頭部をしっかりと抱き寄せ、絶対に逃げられないようにしてから本気のキスを開始する。

 ふはははっ! 未だに俺以外の誰も真似出来ていない高速詠唱キスのお味は如何かねっ? 今更逃げようったってそうはいかないよーっ!


 数秒ほどで白目を向いて気を失ったヴァルゴの口内をそのまま数十秒ほど蹂躙し続けてから口を離す。

 失神した可愛いヴァルゴはちゃんとお姫様抱っこで確保してあげる。よしよしなでなで。


「みんながしたいって言うなら俺も止めないけどさぁ。普通に断魔の煌きとかの話を書けば良くない? そのほうが絶対ウケいいってばぁ」

「何を言ってるのさ。ダン以上の英雄なんてこの世界に居る訳ないでしょ? 他ならぬぼくが断言してあげるよっ」

「ふははっ! 建国の英雄に認められてしまっては諦めるしかないのじゃ! 観念するが良いぞダン!」


 よし、リーチェとフラッタも今夜の高速キスターゲットに追加しておこう。

 まぁリーチェの言い分にも一理あるけどさ。偽りの英雄譚を暴いちゃったわけだから。


「俺の話を本にする話は諦めるから、それとは別に断魔の煌きや双竜の顎の話もちゃんと書き起こしてもらえる? 知名度の高い相手の英雄譚のほうが絶対喜ばれるはずだからね」

「それよダン! 私達は貴方のことが誰にも知られていないのが不満なのっ! 貴方が名声を欲していないのは分かるけれど、妻としては大好きな旦那様を自慢したくて仕方ないんだからねっ!」


 ちょっとティムルお姉さんってば。怒ったように見せかけて愛の告白をしてくるのやめてくれない?

 お姉さんの告白に応えようとお姉さんの中にお邪魔したいのに、まだチャールたちが同席してるんだよ?


「あはっ。ダンさんの体験は普通じゃ考えられないからねぇ。逆に作り話だと思われて楽しんでもらえるんじゃないかなって思うのー」


 ちょっぴり興奮気味のティムルに変わって、同い年のターニアが少し意地の悪そうな笑顔を浮かべて俺を諭してくる。

 誰が生きるファンタジーだ。当事者の俺にとっては全部ノンフィクションなんですけどー?


「出だしからして村人のままでアウターエフェクトと対峙し、寸での所で断魔の煌きに救出されるって、その時点で創作感ハンパないのっ。おかげで読み物としては最高の物語だと思うんだーっ」

「ダンさんには申し訳ないですけど、ターニア様のおっしゃる通りダンさんを直接知る人でなければ嘘にしか聞こえないでしょうね。それがかえって娯楽小説に向いているのではないかと思うんですよっ」

「こんなことを仰っているラトリア様ですけど、恐らくご自分だけが本にされるのが恥ずかしいのでしょうねぇ。なんとかダンさんを道連れにしようと必死なようです」

「ああエマ! 余計なこと言わないのっ!」


 いやラトリア。そこは口止めじゃなくて否定するべきだってば。

 でもまぁターニアの言う通り、俺の辿ってきた道は創作物もいいところかもしれないな。


 初っ端はターニアの言う通りだし、獣爵家の血筋で呪われたニーナと出会い、大商人ティムルと出会って、竜爵家の令嬢フラッタと建国の英雄リーチェと共にスペルド王国に潜む悪の組織に迫っていく。

 その過程でトライラム教会と縁を繋ぎ、姿を消していた魔人族のヴァルゴと出会い、455年間王国に巣食っていた呪いを祓うに至る、か。映画かな?


「みんなの視点でダンのことを書き上げるのはいいけど、ダンの言う通り既に有名な人達の英雄譚もあるといいよね。そっちはどうしようか?」

「う~ん……。ダンさんのことなら拒まれても書く気満々なんですけど、他の人の英雄譚にはあんまり興味を持てないんですよねぇ……」


 ニーナの質問に答えたムーリの言葉に、俺の家族はみんなウンウン分かるよと言わんばかりに頷いている。

 いやぁもう俺の家族ってどれだけ俺のことが好きなのよ? 俺も大好きだからあとでいっぱい愛し合おうねっ!


「そうだ。さっきターニアさんも言ってたけど、既にある英雄譚なら歌にして広めている人達がいるからね。そういう人達に聞いた話をまとめた方が早いんじゃないかしら? それなら私達が直接関わる必要も無いと思うし」

「なるほど、外注するわけね。お願いできるならお願いしたいかな。これもティムルに任せちゃっていい?」

「大丈夫よ。私も商会の人に丸投げしちゃうから。既に歌にされている英雄譚なら私達が書き上げるよりも良い物を作ってくれるでしょ」


 そうだね。そういう人達はある意味英雄譚のプロとも言えるだろうし。

 脚色や演出込みで、面白おかしく飾り付けてくれることだろう。


 俺の伝記という将来発禁間違い無しの書物が生み出されることが確定したところで今日はお開きだ。

 チャールとシーズも離れに戻ったので、あとは家族団欒の入浴タイムに移行する。


 ちなみに、チャールとシーズは我が家の入浴設備を利用したことは1度も無かったりする。今でさえ待遇が良すぎるのだから、これ以上お世話になるのは遠慮したいと固辞されているのだ。

 ま、うちの入浴設備は家族で楽しむものだと割り切ろう。


「可愛い俺のヴァルゴ。今日はいっぱい甘えてくれたおかげで我慢するのが大変だったよ。ここからは遠慮なく甘えさせてあげるからね」

「だめぇ……。奥をゆっくり突いちゃダメですよぅ……」


 手際よくヴァルゴを裸に剥いて、お互いささっと体を洗ってお湯を楽しみながら1つになる。

 正面から抱き合ったヴァルゴがうっとりした表情を見せてくれて最高に可愛い。


 さっきは少し無理させちゃったからな。甘やかすつもりだったのに高速詠唱キスじゃ甘やかしたことにはなるまい。

 温めのお湯にゆっくり浸かりながら、夕飯の続きのように甘い時間を楽しもうね。


 この日はかなり長湯をして、全員とゆっくりじっくり湯船で愛し合った。


 お風呂から上がった俺達は、この日は珍しくも服を着て炊事場に立っている。

 さきほどシーズにあんなことを言ってしまった以上、教会の子供達全員分のお菓子を作って配らなければいけないのだ。


「ティムル。夜でも食料品って買えるよね?」

「ええ。果物とかは無理だけどね。ドロップアイテムならギルドで普通に買えるわよ」


 この世界のギルドは基本的に24時間営業だ。

 アウターに潜る魔物狩りには時間はあまり関係なくなっちゃうからね。それに対応した結果だろう。


 それにドロップアイテムの食品はインベントリに入っていれば半永久的に腐る事はないので、普通の食品と違って管理も楽なんだろうな。


「それじゃ粉と卵、それとミルクと蜂蜜かな。砂糖もお願い。バター……は売ってないんだっけ。あとは調理に使う油もある程度買ってきてくれる? ムーリ。とりあえず500人分で足りるかな?」

「サラッと500人分作ると言われてどん引きですけど、教会全体で孤児の数は500人前後だと思います。余裕を見るなら600人分程度は作ればいいかもしれませんね」

「あー……。どうせ大量に作るなら、子供達の分だけじゃなくてシスターや教会兵の分まで作るつもりで作ろうか。ティムルとニーナ、2人で買えるだけ買ってきてくれる?」


 仕合わせの暴君メンバー以外はインベントリの要領が心許無い。14歳のフラッタを夜に出歩かせるのはなんとなく気が引ける。リーチェとヴァルゴは俺にくっついているので俺が離れたくない。

 ということで、ニーナとティムルに買出しをお願いする。


「あは。なんだか奴隷だった時を思い出すのっ。おつかい了解ですご主人様っ」

「あはーっ。ダンに頼み事をされるのって甘えられてるみたいで嬉しいわ。直ぐに行ってくるから良い子で待っててねー?」


 笑顔の2人をキスで送り出して、残ったメンバーで今ある食材を調理してしまおうか。

 しかし調理を始めて直ぐに、なんだか不安げな様子のフラッタが恐る恐る問いかけてくる。


「ダンよ。料理の出来ない妾が買出しに行くべきではなかったかのう? ティムルとニーナが手伝ったほうが良かったと思うのじゃ……」

「大丈夫だよフラッタ。ちゃんとお前にも手伝ってもらうからね。一緒に教会のみんなに美味しいお菓子を届けようよ」

「手伝えることがあればいいのじゃがのう……。妾はどうしても料理が上手くいかないのじゃ……」


 しょんぼりしているフラッタを抱きしめてよしよしなでなで。

 お前の料理の腕は嫌ってほど分かってるから心配しなくていいんだよ。分かった上で手伝えることを考えたんだからね。


 家に残っていた卵を割って、殻で何度か掬い取って黄身と白身を別の容器に分け集める。

 ドロップアイテムの卵は殆ど鶏卵と同じ大きさと性質なので、問題なく泡立ってくれると信じたい。


 野生動物の卵はドロップアイテムのものより凄く美味しいらしいけど、そもそも簡単に出回らないのでお金を積んでも食べるのは難しいらしい。


「フラッタ。この透明な白身の方を泡立てて欲しいんだ。100回混ぜるごとに俺に見せてくれれば失敗しないからね」

「ふむ? これをかき混ぜれば良いのか? 確かにそれくらいなら妾にもできそうなのじゃ。しかしなんなのじゃこの道具は。随分変な物を用意したではないか」


 俺が渡した泡立て器モドキを見て、フラッタが怪訝な表情を浮かべている。


 泡立て器なんて存在しない異世界だけど、フォークとナイフは普通に流通している。

 なのでフォークを2本背中合わせに縛り付けて、簡易的なホイッパーを作ってみたのだ。


 昔泡立て器が壊れた時に母がやっていたのを思い出して作ってみたけど、作ってみたら思った以上に柄が短くて使い辛そうだった。

 なのでちっちゃいフラッタに泡立てを担当してもらおう。体力も申し分ないしね。


 メレンゲ作りはフラッタにお任せして、俺は残った卵黄に牛乳と蜂蜜と小麦粉を混ぜ合わせる。

 本当はダメなんだろうけど分量は適当だ。量る方法も無いし、そもそも正解の分量を知らないので仕方ない。


「卵を分けて調理するなんて聞いたことがないよ。ダンって本当にこの世界に来るまで料理できなかったの?」

「はは。これは向こうじゃ料理をしない人でも知ってるくらいの知識だったからね。リーチェに感心してもらえるのは嬉しいけど、そんなに大したことじゃないんだよ」

「ダンー。なんだか白くなってきたのじゃが大丈夫なのかのう?」


 ちょっと目を離した隙に、フラッタに任せた卵白が既にメレンゲ化し始めている。

 竜人族恐るべしだな、ちゃんとした泡立て器すら使っていないというのに……。


 フラッタが泡立ててくれたメレンゲに数回に分けて砂糖を混ぜて、俺が作った卵黄の生地と混ぜ合わせる。


「分けて混ぜたのに結局合わせてしまうのですか? では旦那様とフラッタが別々にかき混ぜた意味とは?」

「俺も詳しい原理は知らないんだけどね。分けないと白身が泡立ってくれないんだよ確か。それじゃホットサンドメーカーに油を敷いてっと……」


 生地が出来たらホットサンドメーカー先生のご登場だ。先生に流し込んだ生地を弱火で蒸し焼きにしてもらう。

 ……けど蒸し焼きって時間かかるなぁ。料理のチョイスに失敗したかも? まぁいいけどぉ。


 弱火で15分程度両面を蒸し焼きにしたら、母が良く作ってくれたフライパンカステラの出来上がりだ。

 母は確かバターとかバニラエッセンスも入れてたと思うけど、そんなものこの世界には無いので諦めよう。


「手順はこんな感じだね。卵黄生地を作る人と卵白を泡立てる人、そして混ぜ合わせた生地を焼く人って感じで分担しよっか」

「えええっ!? てっ、手伝うのは構わないけど、味見させてくれないのっ!?」

「ははっ。味見はニーナとティムルが帰ってきてから、フラッタのお茶を飲みながらみんなでしよう。だからそれまでターニアもお手伝いお願いね?」


 それに子供達には冷めた状態で配ることになるから、焼き立ての物と冷めた物の両方の味見をお願いしたいんだよねーと零したら、みんな凄くやる気になってくれたようだ。


 夕食にあれだけ甘味を食したというのに、我が家の家族はまだまだ甘いものが食べ足りないようですね?

 みんなが太ったりしてしまわないように、毎日しっかりとカロリー消費に協力してあげないといけないなっ。


 みんなで分担して作業をすると、あっという間に大量の生地が出来上がってしまう。

 なので蒸し焼きという時間のかかる焼き工程がボトルネックになってしまい、なかなかカステラの数が増えていかない。


 最終的にホットサンドメーカーを持ちながらチャージフレイムランスで蒸し焼きを進めていると、仕合わせの暴君以外の4人がどん引きした視線を送ってくれていた。


「え、えぇ……? そ、それどうやってるんですかぁ……?」

「フレイムランスを手で維持することも難しいのに……。それで調理するとか意味が分かりませんよぉ……!」


 う~ん。いつも俺を全肯定してくれるムーリ、ラトリア、エマ、ターニアの4人から送られてくるどん引きした冷たい視線……。

 なんか新しい扉が開かれそうな気がするなっ。


 なんて倒錯的な想いを抱いていると、ニーナたちが元気良く帰宅してくる。


「ただいまーっ! 玄関まで甘い匂いが漂ってきて堪らないのっ! いったいなにを作ってるのかなっ」

「いっぱい買ってきたから足りなくなることはないと思うわよー。でっ? でっ? 何を作ってるのかしらっ!」


 待ちきれない様子で、俺達が作ったなんちゃってカステラを覗き込むニーナとティムル。

 2人が戻ってきたので、始めに焼いてすっかり冷めた物と焼きたての物の2種類を、フラッタのお茶と一緒に試食する。


「んふふーっ。甘くてとっても美味しいのっ。毎日こんなものが食べられるんだもん。呪われて生まれて良かったくらいだよーっ」

「卵の黄身と白身を分けて調理したの? そんなこと良く思いつくわねぇ。意外とボリュームもある感じだから子供達にもきっと喜んでもらえるわコレ」

「ニーナっ! 母上っ! その生地を混ぜたのは妾なのじゃっ! 妾もこんなに美味しいお菓子作りを手伝うことが出来たのじゃーっ!」

「こ、コレだけでも美味しいのに、更に果物まで乗せちゃうの……!? そ、それは流石に贅沢が過ぎるんじゃ……って、果物引っ込めないで! 食べるっ、食べるからぁっ!」

「甘くてふわふわで、まるで今日の旦那様みたいですよ。とっても美味しいです」


 なんなのこの人たちは。反応がイチイチ可愛すぎるでしょ。


 そしてその中でも、ニーナとラトリアにこれを作ったのは自分だと嬉しそうに言って回っているフラッタが別格過ぎる。

 コイツ無双将軍の癖に、なんでこんなに可愛いんだろうなぁっ。


「まったく、チャールとシーズに遠慮なく夕食を楽しんでもらいたいってだけで教会全員分のお菓子を作ろうなんて、ダンさんは手加減が下手すぎますってばっ。そんなダンさんが大好きですーっ!」

「ふふ。とても美味しいですよフラッタ。貴女ももう立派なお嫁さんになれましたね。母として貴女の成長を誇らしく思いますよ」

「フラッタ様の手料理を食べられる日が来るなんて夢みたいですよ。とっても美味しいです。ありがとうございますフラッタ様」

「まさかニーナの口から呪われて良かったなんて聞けるとは思わなかったの。ダンさん、ニーナを幸せにしてくれてありがとう。だけど私のことも一緒にもっともっと幸せにして欲しいのっ」


 フラッタをよしよしなでなでしているラトリアとエマの姿は微笑ましいのに、ムーリとターニアが真っ向から愛情をぶつけてきてクラクラしてしまう。

 お前ら傾国の姫君過ぎるからね? 油断するとすぐに傾いて押し倒したくなっちゃうから困るわ。


 累積した持久力補正のおかげで1日くらい徹夜してもなんの問題もない俺達は、家族総出で夜通しカステラを作り続けるのだった。
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