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6章 広がる世界と新たな疑問2 世界の果て
424 当時 (改)
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「エルフのエロスに関しては、今後も経過観察を続ける事にして……」
話がひと段落下と判断して、少し強引に話題を変える。
エルフのエロ方面の意識改革が決まってガチ凹みしているライオネルさんには申し訳ないんだけど、今回貴方に会いに来た用件はこれじゃないんだよね。
「今日はライオネルさんに聞きたい事があって訪ねたんだよ。そろそろ立ち直ってくれる?」
「はぁぁぁ……。いったい誰のせいだと思っているんだい……」
頭を抱えながら長い長いため息を吐くライオネルさん。
誰のせいって、元はと言えばエルフのエロい習性のせいだと思うんだよ?
「だけど……皆さんが私に聞きたいこと? いったいなにかな?」
「うん。大きくは2つ。1つは旧アルフェッカでの神器の扱いについて。そしてもう1つは旧アルフェッカ時代の獣人族について聞きたいんだ」
気を取り直したライオネルさんに、今回の訪問の用件を簡潔に伝える。
エルフ族のお偉いさんで旧アルフェッカ時代から生きているライオネルさんなら、きっとどちらの問いにも答えてくれると期待している。
俺の問いが思った以上に真面目だったのか少し面食らった様子のライオネルさんだったけど、すぐに顎を擦りながら考え込んだ。
「……旧アルフェッカ時代の神器と獣人族のことについてかい。ある程度なら答えられるとは思うけど、質問が漠然としすぎていて答えようがないよ。もう少し具体的な質問をしてくれるかな?」
「じゃあまずは神器だけど。自らの意思で所有者を選ぶと言われている神器レガリアを、旧アルフェッカの人々はどうやって管理してたの? インベントリに収納していたにしても、神器を収容する人をどうやって選出してたのかな?」
「神器レガリアの管理方法と、管理人の選出の仕方だね? さてさて、どうだったかな……」
ライオネルさんは過去に想いを馳せるように、瞳を閉じて静かに考え込んだ。
千年の時を生きると言われるエルフ族。彼らの記憶能力ってどんな感じなんだろう?
「確か3種のレガリアを6種族で1つずつ、一定周期で持ち回りにしていたはずだよ。周期は確か1年間だったかな? 神器を管理する人間は各種族がそれぞれ選出していたと思う」
「その選出って揉めたりしなかったの? 神器を巡って対立や争いが起こったりとかさ」
「ん? そういうのは全く無かったよ。基本的に神器の管理は名誉なことではあるけど、管理者の負担が大きかったからね」
「管理者の負担? そんなのあるの?」
「……あ~そうかぁ。ダンさんは神器を所有しても負担を感じていないわけだね? どうやら私達の認識には少々ズレがあるようだ」
得心がいったとばかりに頷いて見せるライオネルさん。
俺は特に何も負担は感じていないけど……普通は何らかの負担を感じるものなのか?
今回キュールさんが接触してきたように神器を望む者に付け狙われるとかいう意味ではなく、もっと直接的な負担があると?
私はレガリアを管理したことは無いので又聞きになるけどねと前置きをしてから、ライオネルさんは神器の所有に関して語り始める。
「レガリアの圧倒的な存在感は、インベントリに収納していても常に管理者を悩ませていたらしい。インベントリに収納しても大いなる存在が身近にあると感じて、まともに眠ることもできなくなった者も少なくなかったんだ」
「……眠れなくなるほどの存在感? 俺って2つも神器を所持しているけど、そんなの感じた覚えはないよ?」
「ダンさんが図太いのかレガリアが存在感を抑えているのかは分からないけど、そういった理由で当時は神器を求める者は殆ど居なかったと思うよ。いくら強力なアイテムでも、生涯気が休まらなくなるとしたら手を伸ばす気は無くなるだろうさ」
ライオネルさんの軽いディスりはスルーするとして、所持するだけでも実害があるなら、確かに軽い気持ちで手を出そうとは思わないかもしれないな。
始界の王笏なんて防御無効の即死攻撃が使える半面、代償に寿命の半分を……ガルクーザ相手には6人分もの命を捧げなければいけなかったんだもんな。使い辛過ぎるわ。
「どっちかって言うとダンが図太い気がするのっ。人の都合なんてぜーんぶ無視してズカズカ踏み込んできちゃうしねっ」
「それにダンは神器など無くてもまともに寝ておらんからのう。神器の存在感とやらに普通に気付いていない気がして仕方ないのじゃ」
はいはい。今真面目な話をしてるので好色家姉妹はちょっと静かにしててくれるかなー?
ていうかですね。ニーナとフラッタが目の前で裸になってたら、男なら神器の存在感なんてものに意識を割く余裕なんてありはしないのですよ?
「ふぅむ。守人たちはインベントリを失って久しいですが、それがかえって良かったのやもしれませんね。個人で管理せずに種族全体で祀っていなければ、そのストレスに耐えられなかった可能性はありそうですよ」
「そう言えば守人の魔人族はどうやって呼び水の鏡を扱っていたのかな? アウター内なら安全に扱えたんだろうけれど、スペルド王国に持ち出した時は剥き出しだよね?」
ヴァルゴの呟きにリーチェが疑問を投げかける。
そう言えばインベントリの使えなかった当時の魔人族は、呼び水の鏡を剥き出しで扱ってた事になるのか。危なくね?
「聖域の樹海の中では集落に普通に安置されていましたね。アウター内では特に危険性のあるアイテムではないですし、守人たちが警戒していたのは魔物による襲撃だけでしたから」
「魔人族間での盗難や窃盗は警戒してなかったってことだね。持ち出そうにも移動魔法もインベントリも無いし、職業補正無しに少人数でアウターを抜けるのも厳しそう。勿論使命感もあったんだろうし」
「ええ。守人たちが呼び水の鏡を独断で持ち出すことは、恐らく想定されていなかったでしょう」
リーチェの想像に頷きを返すヴァルゴ。
俺も守人の魔人族の使命感の強さには疑いが無いもんな。
最近はその使命感が強すぎて、自分たちの力不足を理由にレガリアを引き取ってくれないくらいには使命感に溢れてる。
「それとアウターの外では危険な呼び水の鏡ですけど、それでも1日2日程度でアウターが発生するわけじゃないみたいですからね。だからバロールの民は聖域の外では常に移動し続けるつもりだったんじゃないでしょうか?」
「ああ、ダンがアルフェッカの広場で呼び水の鏡を発見した時は、既にある程度の時間が経過してたってことなんだ。ひと所に留まらなければアウター化は簡単には起こらないというわけだね」
「もしくは単純に、バロールの民は呼び水の鏡の危険性を知らなかった可能性もあります。アウターの外に持ち出した経験など無かったはずですから」
なるほどね。森に入って450年近く経ち、職業の補正も失われてしまった守人たちには、神器を守る使命こそ伝わっていたけれど、神器の危険性まではちゃんと伝わっていなかったかもしれないのか。
「呼び水の鏡と違って、組織の方のレガリアが奪った始界の王笏は管理自体は簡単そうだものね。帝国にあるっていう識の水晶も持ち出すだけなら簡単だったのかしら?」
腕を組んで考え込んでいるティムルの言葉に、変に納得してしまった。
自動で発動し続ける呼び水の鏡は管理が難しいけど、始界の王笏と識の水晶は恐らく管理は容易だっただろう。
インベントリに入れておくのが苦痛なら外に出しておけるからね。
勿論、盗難や紛失のリスクを度外視すればの話だけど。
「守人たちの神器の話はここまでにして……」
少し脱線し始めた話題を軌道修正し、ライオネルさんから聞いた情報を簡単にまとめる。
「要するに旧アルフェッカでも神器って腫れ物扱いされてて、凄い物だけど欲しくはない、みたいな扱いだったのかもね。ある意味最も平和な認識だと思う」
「さ、流石に敬われていたけれどね……? 少なくとも、自分こそが正当な所有者だと主張するような輩は居なかったかな」
若干引き気味に俺の言葉をやんわり訂正してくるライオネルさん。
強力なアイテムだけど扱い辛いなんて、なんだか神器の存在も呪いっぽく感じてしまうなぁ。
……いや、これは流石に考えすぎか。
「ともかく、旧アルフェッカでは神器を巡った争いなんかは起きなかったわけだね。そして管理の方も大きな問題は起こらずに行われていたってことは分かったよ。ありがとう」
自分から聞いておいてなんだけど、特に新しい情報が得られた感じではなかったな。
呼び水の鏡のリスクが俺の中でちょっとだけ下がったくらいか。
「それじゃ次は獣人族について聞かせてもらえるかな」
厳重に管理されていた神器の話題と違って、獣人族の話題ならライオネルさんにも身近なはずだ。
こっちのほうはもうちょっと情報が得たいところだね。
「人間族と同じ程度には繁殖しやすいはずの獣人が、なんで旧アルフェッカ時代は数が少なかったのか知りたいんだ。そもそもどれくらい居たのかも教えて欲しいかな」
「んー。流石に人口の少なさの理由なんて知らないけど……。当時アルフェッカに居た獣人族は、多分100名前後だったんじゃないかな?」
「は……!? 100名って、今のエルフの人口よりも少なかったの……?」
いやそもそもの話、旧アルフェッカの規模も知らないんだけどさ。
それでも100名前後って、100名を下回っていた可能性すらあったってことだろ?
そこからたった450年くらいで、よくここまで繁栄できたなぁ……。
「エルフが世界樹を管理していたように、アルフェッカの外にも人は居たんだけどね? 私はそっちについては詳しくないから解説出来ないかな」
「ん。了解だよ。アルフェッカに限った話でいいからお願い」
「ええっと、旧アルフェッカには各種族が数千~1万人程度、全体では5~8万人くらいは住んでいたと思う。その中で獣人族は稀少種族扱いだったと記憶しているよ」
「……獣人族の少なさも気になるけど、旧アルフェッカの巨大さも気になるわねぇ。数万規模の都市なんて、スペルド王国全体を見回しても殆ど無いはずよ?」
「え、そうなの?」
話の腰を折ってしまう事になるけれど、ティムルの呟きは聞き逃せなかった。
この世界の人口って、俺が思ってるよりも大分少ない?
「ちょうどいいからお姉さん。王国の人口ってどのくらいか分かる?」
「んー、王国全体の人口は知らないけど、マグエルの人口は7000人くらいだったかしら? 今はもっと増えてると思うけどね。スペルディアの人口はその数倍、10倍まではいかないくらいだと思うわよ」
「ちなみにヴァルハールの人口は18000人くらいじゃな。納税の記録から大体の人口は割り出せるのじゃ」
ティムルがマグエルとスペルディアの人口を、それに追加でフラッタがヴァルハールの人口を教えてくれた。
スペルド王国では各種ギルドに納税の記録が残るからな。簡易的な戸籍みたいなものだから、その数字は結構信用して良さそうだ。
……ただ数字のソースが納税記録からだとすると、納税出来ていない孤児たちや購入前の奴隷なんかは勘定に入ってないのかもしれない。
と言っても、俺が納税を肩代わりした孤児の人数が30人程度だったことを考えたら、誤差の範囲だろうけれど。
「つまり今から450年も前に、今のスペルディアと同等以上の規模の都市があったってことかぁ。凄まじいね」
「私からすると、竜人族、エルフ族、ドワーフ族、魔人族がアルフェッカを去ったのに、450年程度で同規模の都市が作られている事に驚くけどね。ほぼ人間族と獣人族だけで繁栄したようなものだろう?」
「んー、そんなに数が少なかった獣人族が、今や人間族と同等の人口になっているのが信じられないの。人間族だって子供を産み続けていたはずなのにねー?」
ニーナの疑問に、獣爵家が子沢山だった理由に思い至る。
当時人口の少なかった獣人族は、その筆頭である獣爵家が牽引して子作りを推奨したんじゃないだろうか?
人間族と同等の繁殖能力があるとされる獣人族。
だけど人間族よりも身体的強度に優れている彼らは、人間族よりも魔物に殺される者が少なかったんじゃないだろうか?
だから人間族と比べても、それを上回るペースで子孫繁栄できたのだと思う。
「さっきも言ったけど、当時だってアルフェッカにしか人が住んでいなかったわけじゃないけどね? エルフェリアの地はアルフェッカ時代からエルフたちの里だったわけだから」
「うん。スペルド建国前からエルフたちはエルフェリアで森と共に生きていた。これはぼくも覚えてるから間違いないよ」
ライオネルさんが嘘をつくとは思ってないけど、リーチェも証言してくれているから確実だな。
アルフェッカの外に獣人族が居た可能性はゼロではない。けれどアルフェッカに居た獣人族は全体の1%にも満たないほどの稀少種族だった。
今回の話で分かったのはこんなところか。
「そういうことなので、アルフェッカの外に獣人族がもっと沢山居た可能性は否定出来ないよ。私達エルフ族はエルフェリアの外の事情にはあまり興味が無いからね」
エルフェリアの外には興味無くても、他種族の体には興味津々じゃないですかぁーっ!
という言葉を、ぎりぎり喉の奥に押し留める。
「そっか。色々聞かせてくれてありがとうライオネルさん」
「あまり役に立てなくて申し訳ないね。こんな話で良ければいつでも聞いてくれ」
ライオネルさんにお礼を言って、今日のところは解散した。
ライオネルさんに頼まれたアウターの土の為にも、終焉の箱庭の攻略は優先したほうがいいかなぁ?
「ねぇねぇダン」
「んー? なぁにニーナ」
「どうしてダンは獣人族の人口の少なさの理由なんて知りたがったの? ダンは何か特別な理由があると思ってたの?」
思ったよりも話が早めに片付いたので今日の予定を思案する俺の顔を、不思議そうに覗き込んで質問してくるニーナ。
あ~もうっ。ニーナは可愛いなぁっ。
「んっとね。この世界には造魔ってスキルがあって、俺たちは生贄召喚って存在を知ってるわけじゃない? だからさ、ガルクーザの出現前後で獣人族の人口が激減したりしていたなら、もしかしてガルクーザの生贄に捧げられたのかなぁとか思ったんだよー」
「「「……っ!?」」」
「……うんうん。それで、どうだったの?」
「不発って感じ? ガルクーザ出現前後の人口が分からないし、そもそも生贄行為がアルフェッカの外で行われていた可能性があるなら、可能性を絞りきれないかなって」
「…………でもさ。造魔による生贄召喚は、1度自分で戦った事のある魔物しか生み出せないんじゃないの?」
「だよねー。でも世界呪みたいに、魔力さえあれば新たな魔物を生み出すことも不可能じゃないでしょ? 各種族で神器を持ち回りにしていたなら、呼び水の鏡を用いて莫大な魔力を注ぎ込むことが出来たわけだし、ガルクーザの出現が人為的に引き起こされた可能性ってまだ否定しきれないと……って、あれ?」
「「「……………………」」」
考え事をしながらニーナの質問に答えていたら、なんだかみんながどん引きした表情で俺を見ているじゃありませんか。
この表情には微妙に覚えがあるなぁ。竜人族違法奴隷取引の黒幕がシルヴァなんじゃないのって言った時も、確かみんなはこんな顔をしてたっけ。
つまり今回の俺の予想も大外れってことだな。ヨシッ! 安心安全っ!
「じゃないでしょーーーっ! 今すぐ洗いざらい説明しなさいっ! 説明が終わるまでえっち禁止だからねーっ!?」
「え、ええええ!? と、突然どうしたのニーナ!? なんでいきなりそんなこと言い出したのさっ!? っていうか今俺って口に出してないよねっ!? 人の心の中に平然とツッコミ入れないでくれるかなぁっ!?」
「いいからすぐに全部説明するのっ! ほら、別荘に行くよっ!」
すぐさまニーナが発動したポータルに引きずり込まれて別荘に転移させられてしまう。
あ、あれー? 俺なんか変なこと言ったかなぁ?
いつも通りの当てずっぽう発言、しかもまだ可能性の段階の話だった気がするんだけどぉ……?
話がひと段落下と判断して、少し強引に話題を変える。
エルフのエロ方面の意識改革が決まってガチ凹みしているライオネルさんには申し訳ないんだけど、今回貴方に会いに来た用件はこれじゃないんだよね。
「今日はライオネルさんに聞きたい事があって訪ねたんだよ。そろそろ立ち直ってくれる?」
「はぁぁぁ……。いったい誰のせいだと思っているんだい……」
頭を抱えながら長い長いため息を吐くライオネルさん。
誰のせいって、元はと言えばエルフのエロい習性のせいだと思うんだよ?
「だけど……皆さんが私に聞きたいこと? いったいなにかな?」
「うん。大きくは2つ。1つは旧アルフェッカでの神器の扱いについて。そしてもう1つは旧アルフェッカ時代の獣人族について聞きたいんだ」
気を取り直したライオネルさんに、今回の訪問の用件を簡潔に伝える。
エルフ族のお偉いさんで旧アルフェッカ時代から生きているライオネルさんなら、きっとどちらの問いにも答えてくれると期待している。
俺の問いが思った以上に真面目だったのか少し面食らった様子のライオネルさんだったけど、すぐに顎を擦りながら考え込んだ。
「……旧アルフェッカ時代の神器と獣人族のことについてかい。ある程度なら答えられるとは思うけど、質問が漠然としすぎていて答えようがないよ。もう少し具体的な質問をしてくれるかな?」
「じゃあまずは神器だけど。自らの意思で所有者を選ぶと言われている神器レガリアを、旧アルフェッカの人々はどうやって管理してたの? インベントリに収納していたにしても、神器を収容する人をどうやって選出してたのかな?」
「神器レガリアの管理方法と、管理人の選出の仕方だね? さてさて、どうだったかな……」
ライオネルさんは過去に想いを馳せるように、瞳を閉じて静かに考え込んだ。
千年の時を生きると言われるエルフ族。彼らの記憶能力ってどんな感じなんだろう?
「確か3種のレガリアを6種族で1つずつ、一定周期で持ち回りにしていたはずだよ。周期は確か1年間だったかな? 神器を管理する人間は各種族がそれぞれ選出していたと思う」
「その選出って揉めたりしなかったの? 神器を巡って対立や争いが起こったりとかさ」
「ん? そういうのは全く無かったよ。基本的に神器の管理は名誉なことではあるけど、管理者の負担が大きかったからね」
「管理者の負担? そんなのあるの?」
「……あ~そうかぁ。ダンさんは神器を所有しても負担を感じていないわけだね? どうやら私達の認識には少々ズレがあるようだ」
得心がいったとばかりに頷いて見せるライオネルさん。
俺は特に何も負担は感じていないけど……普通は何らかの負担を感じるものなのか?
今回キュールさんが接触してきたように神器を望む者に付け狙われるとかいう意味ではなく、もっと直接的な負担があると?
私はレガリアを管理したことは無いので又聞きになるけどねと前置きをしてから、ライオネルさんは神器の所有に関して語り始める。
「レガリアの圧倒的な存在感は、インベントリに収納していても常に管理者を悩ませていたらしい。インベントリに収納しても大いなる存在が身近にあると感じて、まともに眠ることもできなくなった者も少なくなかったんだ」
「……眠れなくなるほどの存在感? 俺って2つも神器を所持しているけど、そんなの感じた覚えはないよ?」
「ダンさんが図太いのかレガリアが存在感を抑えているのかは分からないけど、そういった理由で当時は神器を求める者は殆ど居なかったと思うよ。いくら強力なアイテムでも、生涯気が休まらなくなるとしたら手を伸ばす気は無くなるだろうさ」
ライオネルさんの軽いディスりはスルーするとして、所持するだけでも実害があるなら、確かに軽い気持ちで手を出そうとは思わないかもしれないな。
始界の王笏なんて防御無効の即死攻撃が使える半面、代償に寿命の半分を……ガルクーザ相手には6人分もの命を捧げなければいけなかったんだもんな。使い辛過ぎるわ。
「どっちかって言うとダンが図太い気がするのっ。人の都合なんてぜーんぶ無視してズカズカ踏み込んできちゃうしねっ」
「それにダンは神器など無くてもまともに寝ておらんからのう。神器の存在感とやらに普通に気付いていない気がして仕方ないのじゃ」
はいはい。今真面目な話をしてるので好色家姉妹はちょっと静かにしててくれるかなー?
ていうかですね。ニーナとフラッタが目の前で裸になってたら、男なら神器の存在感なんてものに意識を割く余裕なんてありはしないのですよ?
「ふぅむ。守人たちはインベントリを失って久しいですが、それがかえって良かったのやもしれませんね。個人で管理せずに種族全体で祀っていなければ、そのストレスに耐えられなかった可能性はありそうですよ」
「そう言えば守人の魔人族はどうやって呼び水の鏡を扱っていたのかな? アウター内なら安全に扱えたんだろうけれど、スペルド王国に持ち出した時は剥き出しだよね?」
ヴァルゴの呟きにリーチェが疑問を投げかける。
そう言えばインベントリの使えなかった当時の魔人族は、呼び水の鏡を剥き出しで扱ってた事になるのか。危なくね?
「聖域の樹海の中では集落に普通に安置されていましたね。アウター内では特に危険性のあるアイテムではないですし、守人たちが警戒していたのは魔物による襲撃だけでしたから」
「魔人族間での盗難や窃盗は警戒してなかったってことだね。持ち出そうにも移動魔法もインベントリも無いし、職業補正無しに少人数でアウターを抜けるのも厳しそう。勿論使命感もあったんだろうし」
「ええ。守人たちが呼び水の鏡を独断で持ち出すことは、恐らく想定されていなかったでしょう」
リーチェの想像に頷きを返すヴァルゴ。
俺も守人の魔人族の使命感の強さには疑いが無いもんな。
最近はその使命感が強すぎて、自分たちの力不足を理由にレガリアを引き取ってくれないくらいには使命感に溢れてる。
「それとアウターの外では危険な呼び水の鏡ですけど、それでも1日2日程度でアウターが発生するわけじゃないみたいですからね。だからバロールの民は聖域の外では常に移動し続けるつもりだったんじゃないでしょうか?」
「ああ、ダンがアルフェッカの広場で呼び水の鏡を発見した時は、既にある程度の時間が経過してたってことなんだ。ひと所に留まらなければアウター化は簡単には起こらないというわけだね」
「もしくは単純に、バロールの民は呼び水の鏡の危険性を知らなかった可能性もあります。アウターの外に持ち出した経験など無かったはずですから」
なるほどね。森に入って450年近く経ち、職業の補正も失われてしまった守人たちには、神器を守る使命こそ伝わっていたけれど、神器の危険性まではちゃんと伝わっていなかったかもしれないのか。
「呼び水の鏡と違って、組織の方のレガリアが奪った始界の王笏は管理自体は簡単そうだものね。帝国にあるっていう識の水晶も持ち出すだけなら簡単だったのかしら?」
腕を組んで考え込んでいるティムルの言葉に、変に納得してしまった。
自動で発動し続ける呼び水の鏡は管理が難しいけど、始界の王笏と識の水晶は恐らく管理は容易だっただろう。
インベントリに入れておくのが苦痛なら外に出しておけるからね。
勿論、盗難や紛失のリスクを度外視すればの話だけど。
「守人たちの神器の話はここまでにして……」
少し脱線し始めた話題を軌道修正し、ライオネルさんから聞いた情報を簡単にまとめる。
「要するに旧アルフェッカでも神器って腫れ物扱いされてて、凄い物だけど欲しくはない、みたいな扱いだったのかもね。ある意味最も平和な認識だと思う」
「さ、流石に敬われていたけれどね……? 少なくとも、自分こそが正当な所有者だと主張するような輩は居なかったかな」
若干引き気味に俺の言葉をやんわり訂正してくるライオネルさん。
強力なアイテムだけど扱い辛いなんて、なんだか神器の存在も呪いっぽく感じてしまうなぁ。
……いや、これは流石に考えすぎか。
「ともかく、旧アルフェッカでは神器を巡った争いなんかは起きなかったわけだね。そして管理の方も大きな問題は起こらずに行われていたってことは分かったよ。ありがとう」
自分から聞いておいてなんだけど、特に新しい情報が得られた感じではなかったな。
呼び水の鏡のリスクが俺の中でちょっとだけ下がったくらいか。
「それじゃ次は獣人族について聞かせてもらえるかな」
厳重に管理されていた神器の話題と違って、獣人族の話題ならライオネルさんにも身近なはずだ。
こっちのほうはもうちょっと情報が得たいところだね。
「人間族と同じ程度には繁殖しやすいはずの獣人が、なんで旧アルフェッカ時代は数が少なかったのか知りたいんだ。そもそもどれくらい居たのかも教えて欲しいかな」
「んー。流石に人口の少なさの理由なんて知らないけど……。当時アルフェッカに居た獣人族は、多分100名前後だったんじゃないかな?」
「は……!? 100名って、今のエルフの人口よりも少なかったの……?」
いやそもそもの話、旧アルフェッカの規模も知らないんだけどさ。
それでも100名前後って、100名を下回っていた可能性すらあったってことだろ?
そこからたった450年くらいで、よくここまで繁栄できたなぁ……。
「エルフが世界樹を管理していたように、アルフェッカの外にも人は居たんだけどね? 私はそっちについては詳しくないから解説出来ないかな」
「ん。了解だよ。アルフェッカに限った話でいいからお願い」
「ええっと、旧アルフェッカには各種族が数千~1万人程度、全体では5~8万人くらいは住んでいたと思う。その中で獣人族は稀少種族扱いだったと記憶しているよ」
「……獣人族の少なさも気になるけど、旧アルフェッカの巨大さも気になるわねぇ。数万規模の都市なんて、スペルド王国全体を見回しても殆ど無いはずよ?」
「え、そうなの?」
話の腰を折ってしまう事になるけれど、ティムルの呟きは聞き逃せなかった。
この世界の人口って、俺が思ってるよりも大分少ない?
「ちょうどいいからお姉さん。王国の人口ってどのくらいか分かる?」
「んー、王国全体の人口は知らないけど、マグエルの人口は7000人くらいだったかしら? 今はもっと増えてると思うけどね。スペルディアの人口はその数倍、10倍まではいかないくらいだと思うわよ」
「ちなみにヴァルハールの人口は18000人くらいじゃな。納税の記録から大体の人口は割り出せるのじゃ」
ティムルがマグエルとスペルディアの人口を、それに追加でフラッタがヴァルハールの人口を教えてくれた。
スペルド王国では各種ギルドに納税の記録が残るからな。簡易的な戸籍みたいなものだから、その数字は結構信用して良さそうだ。
……ただ数字のソースが納税記録からだとすると、納税出来ていない孤児たちや購入前の奴隷なんかは勘定に入ってないのかもしれない。
と言っても、俺が納税を肩代わりした孤児の人数が30人程度だったことを考えたら、誤差の範囲だろうけれど。
「つまり今から450年も前に、今のスペルディアと同等以上の規模の都市があったってことかぁ。凄まじいね」
「私からすると、竜人族、エルフ族、ドワーフ族、魔人族がアルフェッカを去ったのに、450年程度で同規模の都市が作られている事に驚くけどね。ほぼ人間族と獣人族だけで繁栄したようなものだろう?」
「んー、そんなに数が少なかった獣人族が、今や人間族と同等の人口になっているのが信じられないの。人間族だって子供を産み続けていたはずなのにねー?」
ニーナの疑問に、獣爵家が子沢山だった理由に思い至る。
当時人口の少なかった獣人族は、その筆頭である獣爵家が牽引して子作りを推奨したんじゃないだろうか?
人間族と同等の繁殖能力があるとされる獣人族。
だけど人間族よりも身体的強度に優れている彼らは、人間族よりも魔物に殺される者が少なかったんじゃないだろうか?
だから人間族と比べても、それを上回るペースで子孫繁栄できたのだと思う。
「さっきも言ったけど、当時だってアルフェッカにしか人が住んでいなかったわけじゃないけどね? エルフェリアの地はアルフェッカ時代からエルフたちの里だったわけだから」
「うん。スペルド建国前からエルフたちはエルフェリアで森と共に生きていた。これはぼくも覚えてるから間違いないよ」
ライオネルさんが嘘をつくとは思ってないけど、リーチェも証言してくれているから確実だな。
アルフェッカの外に獣人族が居た可能性はゼロではない。けれどアルフェッカに居た獣人族は全体の1%にも満たないほどの稀少種族だった。
今回の話で分かったのはこんなところか。
「そういうことなので、アルフェッカの外に獣人族がもっと沢山居た可能性は否定出来ないよ。私達エルフ族はエルフェリアの外の事情にはあまり興味が無いからね」
エルフェリアの外には興味無くても、他種族の体には興味津々じゃないですかぁーっ!
という言葉を、ぎりぎり喉の奥に押し留める。
「そっか。色々聞かせてくれてありがとうライオネルさん」
「あまり役に立てなくて申し訳ないね。こんな話で良ければいつでも聞いてくれ」
ライオネルさんにお礼を言って、今日のところは解散した。
ライオネルさんに頼まれたアウターの土の為にも、終焉の箱庭の攻略は優先したほうがいいかなぁ?
「ねぇねぇダン」
「んー? なぁにニーナ」
「どうしてダンは獣人族の人口の少なさの理由なんて知りたがったの? ダンは何か特別な理由があると思ってたの?」
思ったよりも話が早めに片付いたので今日の予定を思案する俺の顔を、不思議そうに覗き込んで質問してくるニーナ。
あ~もうっ。ニーナは可愛いなぁっ。
「んっとね。この世界には造魔ってスキルがあって、俺たちは生贄召喚って存在を知ってるわけじゃない? だからさ、ガルクーザの出現前後で獣人族の人口が激減したりしていたなら、もしかしてガルクーザの生贄に捧げられたのかなぁとか思ったんだよー」
「「「……っ!?」」」
「……うんうん。それで、どうだったの?」
「不発って感じ? ガルクーザ出現前後の人口が分からないし、そもそも生贄行為がアルフェッカの外で行われていた可能性があるなら、可能性を絞りきれないかなって」
「…………でもさ。造魔による生贄召喚は、1度自分で戦った事のある魔物しか生み出せないんじゃないの?」
「だよねー。でも世界呪みたいに、魔力さえあれば新たな魔物を生み出すことも不可能じゃないでしょ? 各種族で神器を持ち回りにしていたなら、呼び水の鏡を用いて莫大な魔力を注ぎ込むことが出来たわけだし、ガルクーザの出現が人為的に引き起こされた可能性ってまだ否定しきれないと……って、あれ?」
「「「……………………」」」
考え事をしながらニーナの質問に答えていたら、なんだかみんながどん引きした表情で俺を見ているじゃありませんか。
この表情には微妙に覚えがあるなぁ。竜人族違法奴隷取引の黒幕がシルヴァなんじゃないのって言った時も、確かみんなはこんな顔をしてたっけ。
つまり今回の俺の予想も大外れってことだな。ヨシッ! 安心安全っ!
「じゃないでしょーーーっ! 今すぐ洗いざらい説明しなさいっ! 説明が終わるまでえっち禁止だからねーっ!?」
「え、ええええ!? と、突然どうしたのニーナ!? なんでいきなりそんなこと言い出したのさっ!? っていうか今俺って口に出してないよねっ!? 人の心の中に平然とツッコミ入れないでくれるかなぁっ!?」
「いいからすぐに全部説明するのっ! ほら、別荘に行くよっ!」
すぐさまニーナが発動したポータルに引きずり込まれて別荘に転移させられてしまう。
あ、あれー? 俺なんか変なこと言ったかなぁ?
いつも通りの当てずっぽう発言、しかもまだ可能性の段階の話だった気がするんだけどぉ……?
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