異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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6章 広がる世界と新たな疑問2 世界の果て

419 齟齬 (改)

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 さてこれからどうしようかと悩んでいた時に、突如現れたドワーフ族の女性、アウラ。

 リーチェの家族を名乗る彼女に敵意は感じられないけれど、なんだか会話が噛み合っていないような気持ち悪さを覚える。


 目の前に居るリーチェにも反応を示さないし、どう返すのが正解かなぁ……。


「ええっと、アウラだっけ。とりあえず俺の名前はダンだよ。人間族さんは勘弁してくれる?」

「人間族のダンさんね。でもここに人間族なんて他に居ないし、人間族でも問題ないんじゃないの?」

「種族で呼ばれても自分が呼ばれてる気がしないでしょ。アウラはドワーフ族さんなんて呼ばれたい?」

「あーっ、確かにちょっと嫌かも? 分かった、これからは言わないようにするっ」


 俺の言葉に素直に頷くアウラ。

 以前リーチェに付き纏ったストーカーと比べると、普通に会話できそうな感じかな。


 ただなんて言うか、反応に幼さみたいなものを感じる気がする。


「アウラはなんで俺達に声をかけてきたわけ? なんで俺達がアルフェッカから来たって思ったんだ?」

「へ? そんなの他種族で固まってたからに決まってるじゃない。ドワーフ以外の人なんてここでは見たこと無かったのに、エルフや竜人まで居るなんてアルフェッカから来たとしか思えないじゃない?」

「いやいや、いつかは多種族で賑って欲しいけど、今のアルフェッカにはまだ……」


 今のアルフェッカはまだそこまで多くの種族で賑っているわけじゃない。そう言おうとして思い至った。

 アウラってもしかして、スペルド王国建国前の旧アルフェッカのことを言っている……?


 だけどアウラはドワーフ族だ。旧アルフェッカがあった当時は間違いなく生まれていないのに、スペルディア家に記録を抹消されたはずの旧アルフェッカのことをなぜ知ってる……?

 ドワーフ族のアウラが450年前のアルフェッカに言及するって、いったいどういうことなんだ……?


 もしも彼女が嘘を付いているなら家族の誰かが反応するはず。けれど皆も困惑以上の反応を見せていない。


 欠片も悪意を抱いていないのも目利きで確認済みだ。

 彼女は当然のように、ただの世間話みたいに、歴史に葬られたアルフェッカの話を聞きに来ているのだ。


 ……相手の出方が分からないから躊躇っていたけど、ここは踏み込んでみるべきか。


「というかアウラ。リーチェならさっきから目の前にいるでしょ? 用事があるなら直接言いなよ」

「へ? 貴女もリーチェって言うんだ? すっごい偶然だねーっ!」


 リーチェがアウラのことを知らないように、アウラもまたリーチェのことを知らなかったようだ。


「でも私が言っているリーチェお姉ちゃんは違う人だよ? エルフなのは同じだけどねー」

「…………っ!?」


 無邪気なアウラの説明に、リーチェが息を飲んだのが分かった。

 ここに居るリーチェではなくて、それで居てエルフ族のリーチェと言われて思い浮かぶ人物なんて、最早1人しか居ない。


「……ねぇアウラ。君が言っているリーチェお姉ちゃんって、どんな人なのかな? 外見の特徴とか分かる?」


 リーチェが震える声でアウラに問いかける。

 そんなリーチェの様子に気付かないアウラは、自分の知っているリーチェお姉ちゃんのことを嬉しそうに語り出す。


「えっとね、リーチェお姉ちゃんはアルフェッカでも評判の美人さんなんだっ。サラサラとした青い髪がすっごく綺麗でねっ。晴れた日なんか空と同じ色の髪になるんだよっ」


 アウラから語られたリーチェお姉ちゃんの特徴。


 青い髪のリーチェ。アルフェッカでも評判の美人。

 それはかつてアルフェッカの蒼き秘宝と称えられた、蒼穹の盟約の1人で、ここにいるリュートの姉の……。


「なん、で……。なんでドワーフの君が姉さんのことを知っている!? 姉さんがアルフェッカに居たのはもう……!」

「姉さん……? あ、もしかして貴女ってリュートなのっ!?」

「なっ!?」


 アウラの口から出た名前に、全員の警戒心が一気に跳ね上がる。


 本当のリーチェのこともリュートの名前も知っているドワーフ族って、コイツいったいなんなんだ……!?

 レガリアの残党? にしては敵意が一切感じられないし、もしもレガリアの残党なら偽りの英雄譚のことを知らないはずがない。


 困惑する俺達の前でうんうんと興味深げにリーチェの顔を見たアウラは、少しずつ視線を落として感心したように口を開く。


「あ~……、確かにすっごいおっぱいしてるねー……? 正にお姉ちゃんの言ってた通りって感じ?」

「おっぱいだけでぼくをリュート判定しないでもらえるかなっ!? 姉さんが言いそうな気はするけどさぁっ!」

「白髪で凄いおっぱい、エルフには珍しい濃い色の肌。うんうん、聞いてた通りだよ。でもなんで貴女がお姉ちゃんの振りをしてるの?」

「なんでって……!」


 一瞬ギャグになりかけた場の空気が、アウラの問いかけで再度引き締まる。


 どう考えてもアウラは、450年以上前に死んだ本当のリーチェと知り合いのように思える。

 けどコイツはドワーフ族のはずで、450年前の人物と知り合いのはずがない。


 それに……。異世界から転移してきた俺じゃあるまいし、偽りの英雄譚を知らない人間なんて居るのか?


「……その質問に答える前に、こっちからも聞かせて貰うよ」


 皆が見守る中、意を決したようにアウラに問いかけるリーチェ。

 
「なんでドワーフの君が姉さんのことを知っているんだい? 姉さんがアルフェッカに居たのは、もう450年以上も前の話になるのに……」

「へ……? よっ、450年っ!?」


 リーチェの問いかけに、今度はアウラが驚愕して見せた。

 何だこの反応? 旧アルフェッカのことを知っているのに、それが存在していた時期を知らない?


「うっ、嘘でしょっ!? 確かに長く寝ちゃってたみたいだけど、450年って、いくらなんでも長すぎじゃない……!!」

「長いこと眠っていた? 450年以上も?」


 いくら魔法が存在する世界だからって、そんなことありえるのか?

 それじゃまるで、封印でもされてたみたいな……。


「リュートのことを知っているなら、アウラが嘘を吐いているとは思えないわね……」


 リーチェとアウラはお互いの言葉に衝撃を受けて、会話が止まってしまった。

 それを見かねたティムルが、会話の参加を申し出る。


「ダン、リーチェ。ちょっとだけ口を挟んでいいかしら?」


 俺とリーチェが揃って頷いてみせると、ティムルは優しげな口調でアウラに語りかけた。


「はぁいアウラ。私は貴女と同じドワーフ族のティムルお姉さんよー。よろしくねー?」

「え、あ……えっと……」

「慌てなくていいわ。ゆっくり落ち着いて、お姉さんに教えてくれるかしらぁ?」


 混乱して返事が出来ないアウラを気にせず、静かに言葉を続けるティムル。


「アウラは長いこと眠っていたの? 起きたのは最近なのかな?」

「えっと……。起きたのは最近……まだひと月も経ってないかも……」

「うんうん。どうして眠っていたのかは覚えてる?」

「んと……。なんで寝てたのかは覚えてないんだ……」


 たどたどしくもティムルの問いかけに答えるアウラ。

 先ほどまでの天真爛漫な雰囲気は霧散し、今は不安でいっぱいといった様子で忙しなく視線を泳がせている。


 そんなアウラを刺激しないように、ゆっくりと言葉を紡ぐティムル。


「ねぇアウラ。もし良かったら貴女のステータスプレートを見せてくれないかしら? 何か分かるかもしれないわ」

「へ? うん、それくらいなら構わないけど……」

「ありがとうアウラ。ちょっとだけ見させてもらうわねー」


 戸惑いながらもステータスプレートを提示してくれるアウラ。

 素直にステータスプレートを見せてくれるあたり、困惑しているのは本当なんだろうな。


 さて、ステータスプレートにはどんな情報が……って、なんだこれ?



 アウラ 女 10歳 村人 
 ディッタ ハルパラ カイメン



「……は?」


 じゅ、10歳ぃ……?

 20代前半って言っても通じそうな外見してるのに……?


「あ、貴女10歳なの……? ず、随分と大人びて見えるわよ……?」

「なんかね、目が覚めたらおっきくなってたの……。私にも良く分かんないよぅ……」

「ああっ、ごめんなさいね? 疑ってるワケじゃなくてちょっとびっくりしただけだから、気にしないでちょうだい」


 不安げに俯くアウラに、慌てて声をかけるティムル。


 ステータスプレートによると、どうやらアウラは誰かとパーティを組んでいるみたいだけど、パーティ名は無いみたいだ。

 そう言えば仕合わせの暴君と命名されるまで、俺のステータスプレートにもパーティ名は表示されなかったなぁ。


「それでアウラ、パーティを組んでいるこの人たちは近くにいるのかしら?」

「んー、近くにはいるみたいだけど今は自由時間だから。もう少ししたら迎えに来ると思う」


 混乱している様子のアウラだったけど、ティムルの柔らかい雰囲気に少しずつ落ち着きを取り戻してきたようだ。

 ソワソワした感じがなくなってきて、受け答えが少しずつしっかりしてきている。


 その時ニーナが、俺だけに聞こえるような小声で囁いてくる。


「……鑑定結果も同じ、アウラは10歳で間違いないの。だけどこの歳でもう熱視が発現してるみたいなの」

「……そこまで言われちゃったら俺が鑑定しない意味はないね。アウラにはちょっと申し訳無いけど俺も確認してみるよ」


 ここまで情報を抜いておきながら、自分では鑑定してないからセーフ! は通らないよな。

 だから鑑定してもいいだろってのも違うと思うけど、自分で責任を負うために覗かせてもらうとしよう。



 アウラ
 女 10歳 ドワーフ族 熱視解放 村人LV7
 装備 精霊銀の戦装束 精霊の靴 



 装備は整っていないようだけど、体防具と靴は精霊銀……LV40レシピと高水準のものを身につけているみたいだ。

 しかし、村人がLV7でもう熱視が発現してるとはね。コイツの保護者は優秀な装備職人なんだろうか?


「ねぇアウラ。君と姉さんってどんな関係だったの?」

「私とリーチェお姉ちゃんの関係? って言われても、ん~……」

「君が嘘をついてるとは思ってないけど、姉さんと親しくてぼくの話も聞いているのに、なんでぼくと君は知り合ってないのかな?」


 俺とニーナがコソコソと密談していると、衝撃から立ち直ったリーチェがアウラと姉の関係を問い質している。


 確かにそこは気になる点だよな?

 なんでリーチェのことを知っているアウラが、リュートとは接点が無かったんだ?


「えっとね、私のパパとママはガルクーザに……。だけど私だけは蒼穹の盟約に助けられてね? そのままリーチェお姉ちゃんのお世話になってたんだ」

「……あの時か。確かに姉さんを含む蒼穹の盟約は、段々アルフェッカに戻ってくる余裕が失われていったからね。蒼穹の盟約結成後に知り合ったのだとしたら……ぼくが知らなくても不思議ではない、かも」

「うん。みんな早くガルクーザを滅ぼさなくちゃって必死に魔物を狩ってたから。本当は私もついてっちゃいけなかったんだけど、リーチェお姉ちゃんがいいよって言ってくれて……」


 リーチェ……いや、ややこしいので今はリュート呼びしよう。リュートが関われなかった最前線で、リーチェとアウラは会ったのか。

 アウラはガルクーザの被害者で、両親を亡くしたアウラを憐れんだリーチェがアウラの面倒を見ることにしたわけだ。


「ねぇアウラ。貴女はガルクーザが滅ぼされたのは知ってるの?」

「うん。それは知ってるよ。んっとね。流石にガルクーザのところまでついて行くことは出来なかったから、私はお留守番してたんだ」

「うんうん。それで?」

「ガルクーザを滅ぼす事に成功したって聞いて、お姉ちゃんが帰ってくるのを待ってたんだけど……。いつまで待ってもお姉ちゃんは帰ってこなくてさぁ」


 ティムルに説明するアウラの言葉に悲壮感は感じられない。

 ガルクーザが滅ぼされたのは知っているのに、蒼穹の盟約がどうなったのか……。リーチェの命が既に失われていることは知らないようだ。


「そしたらドワーフ族はみんな、アルフェッカから出て行かなきゃダメになったって聞いてね? 私はお姉ちゃんを待つんだって言ったんだけど聞いてもらえなくて。無理矢理馬車に乗せられたのは覚えてるんだけど……」

「そこで記憶は途切れていて、気付いたら450年も眠っちまってたってわけかぁ。これはまた、どうしたもんか……」


 アウラの存在は明らかに異質だけど、アウラ本人は自身の事情を一切理解していないようだ。

 俺達と話をしたことでアウラ本人も困惑している。これ以上彼女から情報が引き出せるとは思えないな。


 アウラ本人が分からないのであれば、アウラとパーティを組んでいる相手に話を聞いてみたいところだけど……。

 仮に接触できてたとしても、素直に答えてくれるかは怪しいな。


「アウラはこれから時間あるか? お互いもう少し詳しく話をした方が良さそうに思えるんだけど、どう?」

「んー、お話したいけど時間は無いかも。私ってまだあんまり長くお外に出られないから。多分間もなくお迎えが……」

「アウラ。時間だ。そろそろ帰るぞ」


 アウラの言葉を遮るように、アウラの背後から会話に割り込んでくる男の声。

 声のしたほうに視線を向けると、そこにはクラメトーラの住人にしては身なりの良さそうな中年男性が立っていた。


 コイツがアウラの保護者か? だとしたら接触してみるべきかな。


「オタクがアウラの保護者さん?」

「そうだが、誰だアンタは? 奴隷商人でもない人間族がクラクラットにいるなんて珍しいな」


 軽い感じで声をかける俺に、不信感の篭った視線を向けるアウラの保護者。

 だけどそんな視線で怯むほど俺はナイーブじゃないんでね。


「保護者さんには悪いけど、もうちょっとだけアウラと話をさせてくれないかな。今盛り上がってたところなんだよね」

「はっ! アウラの美貌に惹かれでもしたか? だがアンタこそ悪いが連れ帰らせてもらう。まだアウラは長時間外で活動できる体ではないからな」


 まだ外で活動できない? それってなんだか調整しているみたいな……。


 俺の頭の中で色々なピースが繋がっていくのが分かる。


 450年前に眠りに落ちたというアウラ。年齢と釣り合っていない外見。

 村人LV7で既に熱視が発現していて、長く活動できない体を調整中……。


 まさか……まさかアウラがドワーフ族の狂気の産物……なのか……!?


「アウラも分かっているだろう? そろそろ体に痛みが走り始める頃だからな。早く戻るぞ」

「この人はこう言ってるけど、本当なのかアウラ? 少しも話す時間は無い?」

「……うん。カイメンが言ってることはほんとだよ。私はまだあまり長くお外に居られないの」


 外に居られない。この言葉はいったいどういう意味で使われているんだろう。

 アウラの言う外って、単純に外出って意味で使われていない気がする。


「そっか……。アウラが言うんじゃ本当なんだね……」


 なんにしても、アウラ自身がカイメンという男の言葉を肯定してしまっているからお手上げだ。

 ここで無理を通して、アウラの心証を悪くするのは悪手だろう。


「ならさ。また会おうぜアウラ」


 今出来る事がなにも無いなら、せめて次の機会に繋げるとするか。


「俺達も何度かクラクラットには足を運ばないといけないんだ。だから友達になってくれない?」

「ほんとっ!? ほんとにまた来る!? ならなるっ! ダンとティムル、あとリュートと友達になるよっ!」

「また来るって約束するよ。他のみんなのことも次の機会に紹介してやるからな」

「挨拶は済んだな? じゃあ急いで戻るぞアウラ。お前の体に何かあっては大変だからな」


 俺とアウラの会話に割り込むように、帰宅を急かしてくるカイメン。

 会話を妨害しようとしたわけではなく、なんだか本当に少し焦っているようだ。それだけアウラの体調は不安定なのか?


「私も毎日は外に出られないと思うけど……、次に会ったらもっとお話しようねっ! じゃあまたねみんなっ!」

「おう、またなアウラ。また必ず来るよ」

「私達は仕合わせの暴君ってパーティを組んでるからね。あそこのアウター管理局に、仕合わせの暴君宛で伝言を残しておいてもいいからね?」

「またねアウラ。今度会った時は姉さんの話を聞かせて欲しいなっ」


 俺の後にティムルとリュートが続いて、他のみんなも笑顔でアウラに手を振っている。

 そんな俺達の前で、カイメンが唱えたポータルに消えていくアウラ。


「……まさか暴王のゆりかごにすら入らないうちに接触しちゃうなんてねぇ?」


 アウラとカイメンが消えたあと、ティムルが呆れたように口を開く。


「流石はダンと言うべきかしらぁ? 本当に貴方って、運が良いんだか悪いんだか……」

「アウラ自身にはなんの悪意も無さそうだったね。カイメンと呼ばれた男も別にぼく達に敵意を向けてはこなかったし……。当面はクラクラットに通ってアウラとの接触を図りたいね」


 リーチェの言葉にみんなが頷く。

 どうやら説明しなくても、みんなもアウラの正体には思い至っているみたいだ。


 思ったよりも平和的に、クラメトーラで行われている狂気の研究に接触できたっぽいけれど……。

 現状は情報が足りなくて迂闊に動けなさそうだ。


 特に、アウラが長時間外に出られないという情報は重要だ。

 最終手段としてアウラを無理に連れ出しても、彼女の体が持たないなら意味は無いからな。


 ま、友好的に接してもらえたんだ。これからゆっくりと知っていけばいいさ。

 なんせ俺達はアウラと友達になったんだから。
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