異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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6章 広がる世界と新たな疑問1 蜜月の日々

397 新スキル (改)

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「さぁいよいよお姉さんの新技のお披露目よーっ!


 不敵に笑いながら巨大な竜王と1人対峙するティムル。

 世界呪と真っ向から戦った経験もあってか、うちのメンバーはもう造魔イントルーダー如きじゃ動じもしないなぁ。


 しっかし、サーヴァントを砕いていたティムル、全て1撃でサーヴァントを滅ぼしてるように見えたけど……。

 いくらグランドドラゴンアクスの攻撃力が高かったとしても、イントルーダーの眷属を通常攻撃で1撃死させてたワケじゃない、よな?


「ティムルー。今って朧逆月使ってたのー?」

「勿論使ってたわよー? ただ魔力を込めたのは一瞬だったけどねー?」

「ああそっか。最小限の威力に留めて魔力枯渇を防止したのかー」


 俺だって絶空を放つ時にある程度加減してるもんな。絶空をベースにした朧逆月だって込める魔力を加減できて当たり前だった。

 問答無用で魔力枯渇まで持っていかれる技とか、いくら威力が高くても使い辛過ぎるしね。


 チャージ一瞬の省エネモードでもドラゴンサーヴァントを1撃で葬れるのは、絶空以上に威力が高いと判断するべきか?

 でもこのサーヴァント、造魔竜王の呼び出した劣化バージョンだしなぁ。


 ……そもそもドラゴンサーヴァントって、俺の範囲攻撃魔法1発で全滅させられる程度には耐久力低かったんだっけ?


「さってとぉ。全力の朧逆月を試してみたいところだけど、威力によっては竜王を滅ぼしてしまいかねないからぁ……」


 竜王から視線は外さずに、次の行動に思い悩むティムル。


 造魔で召喚した劣化竜王とは言え、イントルーダーを1撃で滅ぼしてしまう可能性を考慮するってのはヤバいな。

 俺達に累積された魔力補正の数を考えれば、なんにも不思議じゃないんだけど。


 俺がエンシェントヒュドラに全力の絶空を放った時も、1撃でHPを削りきって肉体の一部をふっ飛ばしたからなぁ。


「それじゃまずは竜鱗甲光の方を試させてもらおうかしらねー?」


 どうやらティムルは、朧逆月によって魔力枯渇を起こす前に、グランドドラゴンアクスに付与されたもう1つのスキル『竜鱗甲光』を試す事にしたようだ。

 けどあれが魔力で防御障壁を生み出すスキルってのは、ティムルももう分かってるはずだよね? 何を検証するんだろ?


「ダンーっ。私に向けて集束ブレスを放ってくれるかしらーっ?」

「ちょっ!? 軽いノリでなんてこと言ってるのさっ!? ティムルに向かってブレスを放てなんて怖すぎて出来ないってばっ!」

「あはーっ。ダンってば心配性ねぇ」


 心配する俺を見て、小さく肩を揺らして面白そうに笑うティムル。

 いやいや。いくらHP制があるからって安心できないでしょ? 竜王の全力ブレスなんて喰らったこと無いんだしさっ!


「あら、私達全員、竜王のブレスは1度受けたことがあるでしょ? だから仮に竜鱗甲光を撃ち抜かれても死んだりする心配はないわよぉ」



 ケラケラと笑いながら右手をパタパタと振って、俺の心配を大袈裟ねーと切って捨てるお姉さん。


 竜王のブレスを喰らったことがあるって……それって応用型の全周囲ブレスじゃんっ!

 集束型の通常ブレスは喰らったことがないし、どう考えても拡散型ブレスよりも威力が高いはずなんだよっ!?


 必死に思い直して欲しいと説得する俺に、ティムルは決して引くつもりは無さそうだ。


「ダン。今後私達の戦う相手はイントルーダー級の魔物しかありえないわ。だから防御スキルがイントルーダー戦で役立つかどうか、しっかり確認しなきゃいけないでしょ?」

「だからって……! イントルーダーのブレスを正面から受け止めるなんて危険すぎるでしょ……!?」

「違うでしょダン。竜王のブレスに耐えられない程度の防御スキルなんて、私達の戦いには必要ないの。いざって時にみんなの盾になれるスキルじゃないと、スキルを覚えた意味が無いでしょう?」


 諭すような口調のティムル。しかし言葉の裏には強い覚悟を感じさせる。


 俺達の戦いに必要な防御スキルは、イントルーダーの攻撃スキルを正面から防げるもので無ければ役に立たない……。

 それは、そうかもしれないけどさぁ……!


「ダン。全力でブレスをお願い」

「…………っ」

「もう私は貴方に守られるだけの女でいるのは嫌なの。貴方が傷つかないように、貴方の前に立てる女でありたいのよ」

「……ティム、ルぅ」


 俺よりも前に出て、俺を護りたいと口にするティムル。

 そんな彼女の覚悟に触れた俺は告げるべき言葉を見失い、ただ縋るようにティムルの名前を呼ぶことしか出来ない。


「あはーっ。情けない顔しないのっ」


 いつまでも踏ん切りがつかない情けない俺を、いつも通りの明るい笑顔で笑い飛ばすティムル。


「大丈夫よダン。貴方を護りたいってお姉さんの気持ちは、貴方にだって絶対に砕かれたりしないんだからねっ」


 話は終わりとばかりに、俺から視線を切って竜王に向き直るティムル。

 そんなティムルの堂々とした姿を見て、俺も深く息を吐く。


 全てティムルの言う通りだ。

 俺達が戦う相手はもう、世界呪を基準に考えなくちゃいけないんだ。


 劣化竜王のブレスなんて正面から防ぎきるくらいじゃなければ、防御スキルとして成り立たない水準の戦いに身を置いてるんだ、俺達はっ……!


 危険だからブレスを放ちたくないなんて俺の甘えだ。

 こんなのニーナとティムル相手の模擬戦で無意識に手を止めていた頃と変わらないじゃないか……!


 今問われているのはティムルの実力ではなく、俺の覚悟。ティムルを信じることが俺の成長だ。

 彼女の想いが絶対に砕けないと信じて、彼女を殺すつもりの1撃を放ててこその信頼だろうっ……!


「……分かったよティムル。全力でブレスを放ってもらうから、絶対無事に切り抜けてねっ……!」


 俺が覚悟を決めると同時に竜王の魔力が集束していき、竜王の喉の奥から青い光が漏れ出してくる。

 それに伴って、俺の体から大量の魔力が竜王に向かって流れていく。


「いっつもお姉さんに甘えてごめん。だけどいつも俺を正しい方向に導いてくれる、ティムルのことが大好きだ……!」

「あはーっ。好きなだけお姉さんに甘えていいのよーっ?」


 青い瞳で竜王の魔力の動きを観察しながら、弾んだ声で俺に応えてくれるティムル。


「だけど私は貴方を導いているつもりなんてないわよ? 私はね、なりたい自分になれるように、今出来ることを全力でしているだけなんだからっ……!」


 槍のような長い柄のあるグランドドラゴンアクスの石好き部分を地面に突き刺し、己の前に戦斧を立てるティムル。

 その一方で、先ほどトンネル工事の為に放ったブレスとは比べ物にならないほどの量の魔力を収斂させた竜王が、ティムルに向けて大きく口を開いて、その青く眩い喉の奥の光を晒してみせる。


「ダンの魔力おもい、ちゃーんと全部受け止めてあげるわっ。聳え立てっ、竜鱗甲光!」

『ヴォォォーーーーッ』


 ティムルと竜王の間に、薄黄色く発光する巨大な魔力障壁が多重に展開された瞬間、竜王の口から青く輝くドラゴンブレスが放たれる。


 造魔で劣化しているとは言え、イントルーダーであるブラックカイザードラゴンが全力で放つ、威力特化型の集束ブレス。

 竜鱗甲光が作り出した魔力障壁はその青い光を真っ向から受け止め、そしてティムルに届くのを阻んでいる。

 
 1枚目の障壁が砕け散り、その勢いで数枚の障壁は瞬く間に砕かれ貫かれてしまったけれど、障壁が多重に展開されているおかげでティムルは未だ無傷の状態だ。


「これ、ならっ……!」


 竜鱗甲光がブレスを受け止めている事実に手応えを感じたのか、確信を得たようにティムルが笑う。

 俺を魔力枯渇にする勢いで竜王が放った15秒ほどの集束ブレスは、ティムルの展開した魔法障壁を6枚ほど貫いたものの、最後までティムルの体を貫くことはなかった。


「う~ん、凄まじい防御スキルですね。間違いなく私のウルスラグナでも貫くことは叶わないでしょう」

「はぁ~……。ティムルって、これで戦闘力が低いって悩んでるんだから困っちゃうよねぇ? こんな芸当、ティムルのほかに誰も出来ないっていうのにさぁ」


 竜王のブレスを完璧に防いで見せたティムルの姿に、ヴァルゴとリーチェがそれぞれの感想を口にしている。

 だけど当の本人は浮かれたりした様子もなく、たった今使った竜鱗甲光というスキルをブツブツと検証している。


「同時に展開できる障壁は最大9枚……。同じ場所に多重に張ればイントルーダーのブレスも完全に防ぐことが出来るみたいね。ただし障壁を張り直すには、一旦障壁を全て消し去ってスキルを使い直す必要がありそうかしら」


 きっとティムルにはブレスを防ぎきる自信があったんだろう。

 だから結果に驚くことはなく、得られた情報にこそ注目しているんだ。


「スキルの発動までに若干タイムラグがあるから、熱視で魔力の流れを見て先読みで発動するのが良さそうね。なんだか本当に私向きのスキルみたいだわ、竜鱗甲光って」


 防げて当然といったティムルの様子に、さっきまであれだけブレスを渋っていた自分が急に恥ずかしくなる。

 俺はまだまだみんなのことを自分より弱い存在だって思っちゃってるのかもしれないな。反省しよう。


「お疲れ様ティムル。イントルーダーのブレスを正面から受け止めて見せるお姉さんがかっこよすぎて、また惚れ直しちゃったよー?」

「あはーっ。惚れ直すのはまだ早いんじゃないかしら? だってスキルの試し撃ちはここからが本番なんですからねー?」


 俺の声に応えながらも、ティムルはグランドドラゴンアクスを肩に担ぎ直す。

 そして担がれた戦斧の刃部分からは、ヴァンダライズを思わせる白い光が立ち昇り始める。


 ……この月明かりのように白く輝く戦斧こそが、全力で魔力を込めた朧逆月なのか?


「あら? 白い魔力だなんてダンと一緒で嬉しいわーっ。種族特性を伴わない、ウェポンスキルのみによる魔力光は白く光るのかしらねぇ?」


 朧逆月の放つ白い閃光を目にして、少女のようにはしゃぐティムルお姉さん。

 白い輝きに黒い肢体を浮かび上がらせる、まるで月の女神のように美しいティムルが、なんだかその様子にそぐわない暢気なことを言っているなぁ。


「ダン。お疲れのところ悪いけど、もう1度ブレスを放って貰えるかしら?」

「はぁっ!? な、なんで!?」

「魔力を斬れるならブレスも斬れるはずでしょ? アウラの時に1度切り裂いてみせたけど、魔物相手にも1度試しておきたくって」


 そして暢気な口調のままで、随分と物騒なおねだりをしてくるお姉さん。


 だけどもうティムルの見立てを疑ったりはしない。

 ティムルが出来るって言うなら、朧逆月はブレスを切り裂いて竜王に1撃を食らわせることが出来るスキルなんだろう。


 ただ……、トンネル工事も含めて、短時間で3発目のブレスかぁ。流石に魔力枯渇を起こしてしまいそうだ……。


「おっけぃティムル。毎日ティムルの中に注ぎこんでるのと同じくらいに濃いブレスを放ってあげるから、今度もしっかり受け止めてくれる?」

「あはーっ。ならご褒美はダン自身に直接注ぎ込んで貰いましょうねーっ」


 ご褒美もお仕置きもやることは変わらない。そのどちらが無くてもやることは一緒だ。


 だけど、やることは一緒でも気持ちは変わる。

 お互いにご褒美のつもりで肌を重ねると、普通よりもずっと幸せを感じられるんだよね。


 朧逆月の試し撃ちが終わったら、お姉さんとイチャイチャご褒美えっちが待っている! そう思えば魔力枯渇など恐れるに足りないねっ!

 むしろ一刻も早くえっちしたいので、魔力回復を待つ時間が勿体無いくらいだっ!


 ああ、盛り上がったティムルに引っ張られたリーチェとヴァルゴも、昨日よりもずっと奮闘してくれるに違いない……!

 魔力は枯渇しそうだけど、別の物が体中に漲ってきたぞぉぉぉっ!


 行けぃ竜王! 俺のほどばしるリビドーを、全力でお姉さんにぶっかけるんだぁいっ!


「行くよお姉さんっ! ご褒美は望むところだから、さっさと新スキルを試してえっちするよーっ!」


 再び竜王に向かって俺の魔力が大量に流れていく。

 ヴァンダライズを放ってから重くなった魔力枯渇の症状が出始め、立っていられず地面に膝をついてしまう。


 がっ! 今の俺はこの程度で折れぬ! 引かぬ! 省みぬぅぅぅぅっ!


「受け取ってねお姉さん! 放て竜王! ドラゴンブレース!!」

『ヴォーーーーッ』


 竜王を通して、性欲に彩られた卑猥な青い閃光をお姉さんに全力で解き放つ!

 竜王から再度放たれるブレスに向かって、お姉さんは戦斧を担いだままで正面から走り寄る。


「叩き割れぇ、朧逆月ぃぃっ!!」


 白い残像を残しながら、ブレスに向かって戦斧を振り下ろすティムル。


 朧逆月が触れた場所からブレスが両断され、そしてグランドドラゴンアクスから放たれた白い衝撃はそのままブレスを割りながら、ブレスの発射口である竜王の頭部に命中する。

 ティムルが全力で放った1撃は、無傷だった竜王の頭部を1撃で割り、そしてそこから竜王の頭部を爆散させた。


「う、お……。1撃とか、お姉さん凄すぎぃ……」


 朦朧とする意識の中で、無傷のイントルーダーを1撃で粉砕した朧逆月にどん引きしていると、朧逆月の魔力吸収+が発動したのか、大量の魔力が俺から抜けていったのが分かった。


 ノーリッテ戦で体験した、全ての感覚が喪失する重度の魔力枯渇。

 あの時は無理矢理立ち上がることも出来たっていうのに、今の症状はどうやらあのときよりも更に重そうだ。

 視界は閉ざされ音は消え、体中の感覚が消失してしまったせいで自分の体が存在しているのかすら自信が無くなる。


 魔力が完全に失われたことで、ステータスプレートで繋がっているはずのみんなのことすら感じ取れなくなってしまう。

 1度体験しているから大丈夫だって分かっちゃいるけど、みんなの存在を感じられないのはなんて孤独で不幸なんだろう。


 孤独と恐怖に苛まれる思考を必死に振り払う。

 魔力が完全に失われているので俺の職業スキルも効果を失っている可能性もあるけど、他ならぬティムルお姉さんが聖者を浸透させてくれたおかげで、俺の魔力回復速度も早まってくれるはずだ。


 落ち着けよ俺……。直ぐに回復してくれるはずだからな……。


 どのくらい時間が経ったのかは分からない。

 数秒かもしれないし、1時間以上掛かったのかもしれない。


 だけど未だに感覚が戻らない俺の体の1番深いところから、少しずつみんなの存在が感じられるようになってきた。


「……っ! ……ンっ……! ……てよぉ!」


 魔力が戻るにつれて、少しずつ五感も戻ってくる。


 みんなの声が凄く遠い。けどなんだか凄く心配させちゃっているみたいだ?

 ノーリッテと決着をつけた時もティムルには心配させちゃったし、魔力枯渇はもう起こせないなぁ。


 そんな風に暢気に構えていた俺は、徐々に戻ってきた視界に映った光景に凍りつく。

 光が戻った俺の目に飛び込んできたのは、ティムルとリーチェとヴァルゴの3人が、泣きながら俺の名前を必死に叫び続けている姿だった。
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