異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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6章 広がる世界と新たな疑問1 蜜月の日々

385 欠如 (改)

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 俺が家族を満足させている方法が知りたい。

 大真面目に、これまでのどの話をしていたときよりも真剣な表情でロイ殿下が聞いてくる。


 色狂いと評判のロイ殿下とラズ殿下。その2人の評判は全くもって正しいらしい。

 ……とは言えなんで初対面の王子様とお姫様に、我が家の性生活のことを説明しなきゃならないのよ?


 だけど、当のロイ殿下とラズ殿下は思った以上に深刻な雰囲気だ。

 口にしている内容は下世話この上ないと言うのに、その表情には必死ささえ窺える。


「えーっと……? 御2人共色狂いと評判なんですよね? 先ほどから聞く限り、評判通りに色事を楽しんでいらっしゃるとしか思えないんですけど、俺に聞くことなんてあるんですかぁ……?」

「俺自身が複数の女性と愛し合っているからこそ、ダンさんの家庭が円満なのが信じられないんだよっ! 男には明確な限界があるせいで、俺の恋人たちの仲が悪くって困ってるんだっ!」

「あ、そっすか……」


 物凄く切実に己の性生活を語るロイ殿下。

 うん、他人の性生活なんて知りたくないんだよ?


 でもまぁ確かに好色家が無ければ、ハーレムを維持するのって大変だと思う。

 異世界じゃなくても例外的に絶倫と呼ばれる人達は居たわけだけど、たとえギネス記録保持者でも、日常的に複数人と複数回なんてやってられないだろうね。仕事や義務でもない限り。


 俺の場合はティムルを迎えた時点で好色家を発見することが出来たおかげで、フラッタ、リーチェ、ムーリを迎えてもなんとか対応できたんだよなぁ。

 それでもリボルバーの辺りは限界を超えちゃったわけだし、色狂いのロイ殿下にとっては確かに切実な問題なのかもしれない。


 というか、この理屈ならラズ殿下が同席してる理由が分からない。

 女性の精力増進の効果は、好色家になってみないと実感することも知ることも出来ないはず。てかそもそも好色家って知られてなかったんだっけ?


 まぁどっちにしても、俺が家族を愛せる理由を知ったところで女性であるラズ殿下に同じことが出来るとは限らないのに、彼女がここに同席している意味ってなんだ?


「ん? ああ、ダンさんは女性である私に配慮なさっているんですか?」


 怪訝そうにラズ殿下を見てしまったことを本人に気付かれてしまった。

 しかしラズ殿下は俺の視線を別の意味に解釈したようだ。


「それでしたら心配ありませんよ、私も色狂いですから」

「あ、そっすか……」


 うん。そのセリフのどこに安心要素があるのか分からないんだよ?

 配慮って言うなら、初対面の俺にこんな話題を振ってこないように配慮して欲しいんですけどぉ?


「私の場合はこの馬鹿とは逆でして、もう少し殿方に頑張って頂きたいのですよねぇ……」


 第1王女という身分に相応しい魅力的な容姿をしておきながら、娼婦のようなことを口走るラズ殿下。

 そのギャップに興奮を覚えるよりも、どう対応していいのか分からない困惑の方が強まるってのっ!


「事が終わったあとはリムーバーを使って処理すれば心配も無いのですが、単純にもっと長く多く愛し合えればと思っているんですよ」


 詳しく聞きたくないわっ! リムーバーの使い方にはちょっと感心したけどっ!?

 つうか1国の王女が毎回中に出されてんじゃないわっ! 貞操観念バグってんの!?


 しかしボンクラ王シモンの印象と色狂いって評判から、不特定多数の異性を手篭めにしている人たちなのかと思ったけれど……。


 単純にエロい事が好きなだけで、相手のことは大切に考えているっぽいのは意外だった。

 だってこの2人、鑑定によると好色家になれるみたいなんだよなぁ。


「ちなみに、ダンさんのご家庭ではどの程度の頻度で肌を重ねていらっしゃるのでしょう? 参考程度にお聞かせ願えませんか?」

「……ラズ殿下。そういう情報はお聞かせ願えませんよ普通?」


 というか我が家の場合は数が多すぎて、逆にカウントし切れないんだよなぁ。職業補正込みでの回数だし。

 ラズ殿下の質問に思わずリーチェとヴァルゴを見るも、2人ともニッコリと笑顔を返してくれた。可愛い。


「ほらーっ! やっぱりダンさんのところは夫婦円満なんじゃないかーっ! 聞いたところによると9人も奥さんを貰ってるのに、その全員が仲良しだなんて信じられないよっ!?」

「ええ。奥様たちも不満なところは一切無いように見受けられますね。ダンさんのご家庭ではどのように夫婦生活を維持されているのでしょう?」


 グイグイ来るなぁこの2人。それに何気に俺のことも調べ上げてるっぽい。

 夫婦円満なのがバレバレなら遠慮も要らないなと、ヴァルゴとリーチェの腰を抱き寄せながら考える。


 この2人を敵に回すのは危険だ。

 正面からやりあっても負ける要素は無いけれど、敵に回したくないと思わせる何かを感じさせる2人だ。


 好色家を得ている以上相手を大切にしているのは疑いようが無いし、そのせいで家庭不和を引き起こして癇癪を起こされるほうが恐ろしい気がする。

 ならば好色家のことを教えてあげても別にいいんだけど……。


 毎年の様に奴隷を生み出す人頭税ってシステムを知りながら、なんとも思わず税金を着服している部分がどうしても気に食わない。

 好色家を教えて性生活に不安が無くなれば、この2人は税金で贅沢三昧だろう。


 俺がみんなとイチャイチャラブラブする為に、いったいどれだけ頑張ってると思ってんだ。税金を着服して豪遊しようって奴らに、好色家の存在を教えてやる気は無いわ。

 ……がやっぱり、この2人を敵に回すのは面倒臭そうなんだよなぁ。


 整理しよう。

 俺は両殿下に好色家の存在を教えるのは構わないと思っている。けれど人の金で遊ぶこの2人のことが気に食わない。

 それでいて、この2人を敵に回したくはないと思っている。


 ふむ。つまりこの2人が他人の金で豪遊するのを止めさせれば、俺の心情的にも問題なさそうだな。

 じゃあとりあえず、さっきのラズ殿下の質問にでも答えておくとしよう。


「我が家はこの前全員で3日間ほど寝室に篭って、その間ずーっと肌を重ねてたよ。1人1人に100回は注ぎ込んだんじゃないかなぁ」

「「「はぁっ……!?」」」


 俺の言葉に両殿下の声と、なぜかリーチェとヴァルゴの声も重なる。


 あれ? この計算だと数分に1回は注いでる事になるのかな?

 でも俺みんなに散々早い早い言われたから、多分そのくらいはしたんじゃないかと思うんだよ。文字通り寝食を惜しんで肌を重ねていたわけだし。


「ダンーッ! 君ってばいったい何を口にしてるのさーっ!?」

「旦那様ぁ……。そのようなことを言いふらされては困りますよぅ……」


 小声で叫ぶリーチェと、モジモジと恥ずかしそうに身を小さくするヴァルゴ。

 2人とも可愛いよぉ。ぎゅーっ。


「お、奥様の反応を見ると、ダンさんの言っている事は嘘でもないようですが……。3日間で9人に100回ずつ……? ええ……?」

「ダ、ダンさんっ! 頼むっ! 俺を弟子にしてくれっ! 頼む、ダン師匠っ!」


 ドン引きのラズ殿下と、なぜか俺を師匠と呼び始めるロイ殿下。

 ていうか、色狂いにどん引きされる我が家って……。


「なんで王族を弟子にしなきゃなんないのよ。普通に勘弁してってば。我が家の性生活を支える秘訣を教えるのは吝かでもない「「ほほほっ、本当にっ!?」」


 食い気味に詰め寄ってくる両殿下。流石は色狂い、凄い食いつきだぜっ。

 ここまで言ってしまった以上、やっぱやーめたっ! って言ったら敵対確定だろうね。しないけど。


 両殿下を落ち着かせて座り直させてから、俺の気持ちを正直に伝える。


「我が家の性生活はある職業に助けてもらってるんだ。それについて教えるのは構わないんだけど……。直球で言うと、税金を着服してる奴らに教えたくないんだよね」

「「……へ?」」


 ロイ殿下もラズ殿下も、なんで今ここでその話が出てくるの? って顔してる。

 まぁ搾取する側の2人には分かんないよな。この国の人頭税がどれだけ人を苦しめていたかなんて。


「さっきラズ殿下も言ってたでしょ。滞納されていた孤児たちの莫大な税金を払ったのは俺なんだよ。その俺を前にして、今後も着服を続ける満々な態度が正直気に食わないんだよね」


 奴隷にされて食い物にされたティムル。

 人頭税が払えなくて盗賊に落ちていったクリミナルワークス。

 15歳が人生の終焉だと認識していたトライラム教会の孤児たち。

 そんな孤児達を見送ることしか出来なかった教会のシスター達。


 そんな人達の事情を全部知れとは言わないけどさぁ。お前らが着服してる金は、他の誰かの人生を左右するほど重いもんなんだよ。

 それを好き勝手に着服されちゃあ、払った側が面白くないのは当たり前だろ?


「つうかアンタら2人、普通に優秀だろう? 国庫に手をつけなくてもいくらでも金を稼げるはずだ。王家が占有してる始まりの黒から硬貨が産出するならなおさらだ。遊ぶ金が欲しいなら、奴隷にでも働かせて自分で稼げ。税金に手をつけるのは許さないよ」


 納税したあの日、奴隷に落ちなくて涙を流した14歳の孤児の姿は、きっと一生忘れることは出来ないだろう。

 納税が終わって教会に帰ったあと、兄弟姉妹と泣きながら抱き合っていた子供達の姿を忘れることなんて、絶対に出来はしないんだ。

 泣きながら俺に頭を下げたイザベルさんの姿も、俺に納税を託したテネシスさんの姿だって、俺の記憶に焼きついてるっ!


 人々の未来を奪い集められていた金が好き勝手に使われているなんて、俺には到底我慢出来ないんだよっ……!


「……う~ん。確かに高額納税を果たしたダンさんの前でぶっちゃけすぎたかな。演技でもなんでもなく、今すぐ俺達を殺してもおかしくないほど怒ってるっぽいよダンさんは」

「少々デリカシーが足りていませんでした。反省しましょう。しかし自分で稼ぐんですか……? 面倒なんですよねぇ。余計なことは一切したくないんですけど」


 心からの怒りをぶつけても、ぶつけられた2人は飄々としたものだ。

 恐らく、俺の怒りを正面から受け止める気が無いのだろう。


 この2人を相手にするのは時間の無駄だ。

 この2人はある意味でノーリッテに近い印象を受ける。まともに相手をするだけ損って奴だ。


「面倒なら話は終わりだな。俺は2人のことが嫌いだから2度と接触してくるなよ? じゃあねゴブトゴさん。手紙の件はよろしくお願い……」

「ちょっと待ってもらえるかなダンさん。面倒だけどやらないとは言ってないよ?」


 俺が席を立つ前に言葉で制止してくるロイ殿下。

 だからさぁ。そういう言葉遊びに付き合う気は無いんだって。


「やるとも言ってないね。だから話はお終「やりますっ!」


 俺の声を遮って叫ぶラズ殿下。その表情は今までで1番真剣だ。


「あとになって、何をするとは言ってないとか言うんでしょ? そういうのに付き合ってあげる気……」

「他人のお金に手をつけるのは金輪際止めて、今後は自分でお金を稼ぎますっ!」

「ラズに同じく。俺も人のお金に手を付ける事は金輪際しないと約束するよ。遊ぶ金は自分で稼いで用意する。だから教えてもらえないかな? ダンさんの知ってる情報を」


 2人とも好色家の情報を絶対に逃す気は無いと、猛禽類のような視線を送ってくる。


 色狂いの評判に相応しく、金より情事を優先か。

 それにしたって、手の平を返すのがかなり早かったな。


「長年他人の金で豪遊して、今だって散々渋っておきながら、随分とあっさり手の平を返すんだね? どういう心境の変化?」

「簡単だよ。俺達はお金を稼ぐアテはあるけど、ダンさんの持っている職業の情報は見当もついていない。なら優先すべきはどちらかなんて馬鹿の俺でも分かると思わない?」


 ドヤ顔で語るロイ殿下。

 いや金を稼ぐアテがあるなら始めからやれよ。そんなこと言ってっから馬鹿馬鹿言われるんだよバーカ。


「……これもデリカシーに欠ける発言だとは思いますが、私の本音としてお聞きください」


 ロイ殿下に続いて口を開くラズ殿下。

 さっきの自分の発言が俺の不興を買った自覚があるのか、ひと言断ってから自分の考えを述べ始める。


「実は年々人頭税による納税額は減り続けておりましてね。国庫の着服をするのも限界だとは思っておりました。なので今回を良い機会として、自力で稼ぐ方法を確立することも必要かと判断しました」


 人頭税の納税額が減っているのを分かっていて着服し続けて、もう着服するのは無理だから働きますって……?


 これもうデリカシーとかそういう問題じゃないよな。欠如してるのは客観性だろ。

 自分の発言が相手にどんな印象を与えるのかが分かってないとしか思えない。


 ……もしかしたら、わざとそういう風に振舞っているのかもしれないけど。


「ふぅん。まあいいや。我が家の家族はみんな好色家って職業を浸透させててね。性生活に職業補正が適用されてるんだよ」

「こっ、好色家っ……! 性生活に職業補正がかかるんですかっ……!?」

「情報提供はありがたいけど、随分あっさり教えてくれるんだね? 散々渋った割には? てっきりステータスプレートに宣誓くらいはさせられると思ったけど」

「アンタらのことが嫌いだって言ったろ? これ以上関わりたくないから情報を開示したんだよ」


 意趣返しのつもりなのか、たった今俺の言った言葉をそのまま返してくるロイ殿下。

 情報を提供したのは、これ以上アンタらの相手をするのが馬鹿馬鹿しくなっただけだよ。


「これで満足したか? 満足したら2度と関わるな。俺はお前らが大嫌いだからな」

「は、はっきり言うじゃないか……。でも困ったね。本当に俺達は貴方と敵対したくないんだよ。悪印象を持たれるのも出来れば避けたいんだけれど……」

「ロイ兄様。食い下がるほど印象が悪くなると思いますよ。食い下がるのであれば相手の要求を素直に聞くべきです」


 始めてロイ殿下を名前で呼んで窘めたラズ殿下は、そのまま俺の方を向いて問いかけてくる。


「ダンさん。現時点で貴方が私たちに良い印象を持っていないことは理解できました。では貴方の印象を良くするために私達がするべきことはなんでしょう?」

「…………普通そういうこと、俺に聞いてきます?」


 ……なんだろう? なんていうか、どこか人間味を感じない。機械的な印象さえ受けるんだよなこの人。

 本人はいたって真面目に聞いているんだろうけれど、この人とは本質的な部分で話が噛み合っていない様な気分にさせられてしまうんだよ。


「……自分の稼いだ金でなら2人が豪遊していても気にしない。他人に迷惑をかけずに生活するなら俺は悪印象を抱かない」


 多分この人たちには感情的になっても伝わらないんだ。

 だからストレートに、明確にはっきりと言葉にしてこっちの考えを告げるべきだな。


「人の気持ちが分からないなら、極力他人に関わらないように生きればいい。愛する人も既に居るんだろ? その人たちと一緒に他人に迷惑かけずに生きてろよ」


 自分で言って、これって俺の理想の寝室生活そのものじゃんとか思ってしまう。


 ……ああ。だから俺はこの2人がこんなにも気に食わないのか?

 俺が寝室に篭る為にやっている事を台無しにしながら、この2人は寝室に篭ろうとしているのだから。


「了解だよ。というか好色家の補正次第では、こっちこそ他人と関わっている暇なんて無くなるだろうしね。転職条件は教えてもらえるのかな?」

「必要ないよ。ロイ殿下もラズ殿下も既に好色家の資格を得ているみたいだからね。流石にお相手のほうまでは分からないけど」


 こんな奴らに好色家先生のことを教えるのは癪ではある。

 けどこの2人は己が満たされていれば寝室に篭りっきりで、他人に迷惑をかける気は本当に無いのだと思う。


 既に使い込んだ金のことは目を瞑ってやるからさ。2度と外に出てこないでくれ。
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