異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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6章 広がる世界と新たな疑問1 蜜月の日々

378 トライラムの正体 (改)

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「この世界の根幹だと思っていた職業システムが、まさか創世とは別に齎されていたとはなぁ……」


 チャールから聞かされた話は非常に興味深いものだった。

 漠然と当たり前だと思い込んでいた常識が覆され、この世界に対して新しい発見が幾つも齎された気分だ。


 しかし疑問というのは尽きないもので、1つの疑問が解消されればまた新たな疑問が生まれてしまう。

 神話に語られている内容なんて、疑問に思うだけ無駄だとは思うんだ。思うんだけど……。


「トライラム教会の前身となる組織は、実はトライラム様自らが結成した可能性が高いんですよねっ! その頃は教会とは名乗っていなかったみたいなんですけど……!」


 目の前の情熱に燃えるチャールの姿を見ていると、俺に湧いてきた新たな疑問は今ここでチャールにも聞いてもらった方がいい気がしてくる。

 彼女なら何か新しい発想で新しい発見をしてくれるかもしれない。


 一気に捲し立てて息切れしているチャールの為に少し休憩を挟んでから、改めてチャールに質問していく。


「情報の真偽は気にしなくていいから、チャールの見解を聞かせてほしい」

「はっ、はい。私に答えられることでしたらっ……!」

「まずは、レリックアイテムは幾つも記述が残っているのに、それらと神器レガリアと呼ばれる3つのマジックアイテムが明確に区別されているのはどうしてだと思う?」

「……正直に言わせてもらえば、分かりません……」


 俺の言葉に、チャールは少し考え込んだあと、静かに首を振りながら答えてくれた。


「ですが、3種の神器は初めて記述された時からレガリアと記述されているんです。太陽の如き光輝く杖、祝福を齎す異界の扉、全てに答える神の知恵と記されている3つの神器は、1度たりともレリックアイテムと呼ばれること無く、他とは明確に区別されているように思えますね」


 神器の名前までは伝わってないのかな?

 でも神器レガリアが始界の王笏、呼び水の鏡、識の水晶のことを指しているのは間違い無いと思う。そこを疑っても仕方ない。


 レリックとレガリアを明確に区別したのはいったい誰だ? 分析官の鑑定でも、レガリアなんて表記は現れていないのに。

 1つ考えられるとすれば、識の水晶から齎された情報である可能性だ。だって神器レガリアなんて、製作者側の設定だとしか思えないんだもん。


「じゃあ次。ここにはせっかくエルフのリーチェもいるんだから聞いておきたいんだけど……」

「え、ぼく? なにかな?」

「どうしてエルフ族はトライラム教会をあまり信仰していないんだと思う? 職業の加護はエルフ族にだって齎されているってのにさ」

「ええ? え~っと……」


 俺の言葉に考え込むリーチェとチャール。

 王国から距離を置いていた魔人族は仕方が無いとしても、王国とも僅かながら交流があったエルフ族ならトライラム教会にもっと親しんでいてもいいと思うんだよねぇ。


「改めて問われると難しい質問だけど……」


 そして先に口を開いたのはリーチェだった。


「エルフ族は世界樹を信仰していたから、トライラム教会を信仰する必要がなかった……? でもトライラム教会は信仰の自由を認めてる……。世界樹を信仰することとトライラム教会を信仰しないことはイコールじゃないか……」


 エルフであるリーチェ自身も答えられないみたいだ。


 世界中に存在するトライラム教会が、エルフェリア精霊国には1つも無かった。

 いくらエルフの人口が少なかったにしても、教会があった痕跡すら無いのはちょっと信じられないんだよなー……。


「聞く人が聞けば激怒するかもしれませんが……。ダンさんたちは怒らないで聞いてくれそうなので言わせてもらいますね」

「へぇ? 何か思い当たることがあるんだ?」


 エルフであるリーチェも、組織レガリアを潰した俺も思い当たることが無いのに、チャールには何か考えがあるようだ。

 答えが見つけられずに悩む俺とリーチェに、あくまで私個人の見解ですがと断ってから、言葉を選ぶように慎重に口を開くチャール。


「人々に職業の加護を齎したとされる、祝福の神トライラム。その正体は……実はエルフ族だったのではないでしょうか?」

「「「…………は?」」」


 チャールの言葉に、リーチェとヴァルゴとテネシスさんの声が重なった。

 でも俺はちょっとそれどころじゃないくらいにショックを受けている。


 トライラム様がエルフ族である可能性……。わりと否定出来ないんじゃないのかコレ……!?


 職業の加護を齎したってことは、人々を村人から転職させたって事になるんだと思う。

 そしてそれは法王の職業スキルで設定可能なことで、魔人族に対して俺が実際に行なったことでもある。


「ぎゃ、逆じゃないのっ……!? もしトライラム様がエルフ族だとしたら、エルフ族こそが篤く信仰しないとおかしいんじゃ……!?」

「……いやリーチェ。エルフ族は生まれつき魔法使い系の職業を得ている種族だって言ってたよね? つまりトライラム様がいなくても、予め職業の加護を持っている種族だったってことなんじゃないのかな」

「なっ……!? いや、でも……! えぇっと……!」


 反射的に俺の言葉を否定しようとしたリーチェが、上手く反論出来ずに言葉を詰まらせる。


 もしかしたらエルフ族は、元々職業の加護が存在する世界からやって来た種族だったりするのだろうか?

 だから職業の加護を齎したというトライラム様への信仰が薄い、とか……。


「元々職業の加護を持っていたエルフ族は、職業の加護を齎したというトライラム様を信仰しなくても不思議じゃないんじゃ……。って、まさか……!?」

「……旦那様? 今度はいったい何に気付いてしまったのですか?」


 ヴァルゴが俺の手を握りながら、心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。

 可愛いヴァルゴの顔を見たおかげでちょっとだけ落ち着いた。ありがとうヴァルゴ。


 ……けどこれって、マジでトライラム様エルフ説が信憑性を帯びてくるなぁ。


「テネシスさんは以前に、トライラムという神様が神話に登場する事は無いと言っていたよね? それはトライラム様がエルフ族であったからと考えれば納得いかないかな?」

「……確かに神話には祝福の神トライラムの名は現れませんけど……。そもそも真偽不明な神話よりも、実際に職業の加護を齎したトライラムが実在したのは事実だと思いますし……。えっと……」


 言葉に詰まるテネシスさん。

 自分の信仰していた神が実は人間だったかもしれないと言われて動揺しないはずがない。


 そんなテネシスさんに、俺はたった今思い当たったことを告げる。


「テネシスさんはその時に、相当古い記録になるけど、歴代教主の中に法王になった者がいたって教えてくれたよね? ……実はその法王だった人物こそがトライラム様の正体だったんじゃないかと思うんだよ」

「しゅ、祝福の神トライラムが歴代教主の中に……!? た、確かに法王の記述は非常に古く、もしかしたら開祖だった可能性も否定は出来ませんけど……! ええ……!?」


 動揺してテンパるテネシスさん。必死に情報を整理しようとしているみたいだ。


 法王ってさ。最初から鑑定と職業設定を使えたとは言え、たった1年で到達できた職業なんだよ、俺にとってはね。

 だから1000年を生きる長命なエルフ族が法王になったとしても、なんら不自然ではないと思うんだ。


 ……どちらかと言えば、現在のエルフ族の職業浸透数の少なさのほうが違和感があるくらいに。


「実はテネシスさん。俺は既に法王が浸透してるんだよ」

「――――はぁっ!?」


 以前来た時も匂わせたとは思うけど、それでもはっきり浸透を告げられたことで驚愕の声をあげるテネシスさん。


「法王の職業スキルは『職業設定』って言ってね。自分や他人の職業を転職魔法陣無しで変更できるスキルなんだよ。つまりコレを使えば、職業の加護を人々に齎す事が可能なんだ」

「……正にそれと全く同じことを、旦那様は守人たちにしてくださっているわけですからね。他ならぬ旦那様が思い至ったのであれば……。思った以上に信憑性は高そうです」


 ヴァルゴが独り言の様に呟いている。


 そう、正に法王を浸透済みの俺だからこそ到れる発想だよ。

 法王と職業設定を知らずに同じ答えに辿り着いたチャールって、ひょっとして天才なんじゃない?


「ままま、待ってください……! ちょっとだけ待ってください……! お願いだからちょっと待って……!」


 テネシスさんは情報の洪水に溺れてしまって、どうやら理解が追いつかずにパニックを起こしてしまっているようだ。

 一方のチャールは自説の信憑性が高まっている事でワクワクしたような表情をしているな。

 自分で言い出したとはいえ、神様が人間でしたってショックじゃないんだろうか?


 テネシスさんが落ち着くまで少し待って、話を続ける。


「……ダンさんと話していると、どんどん自分の常識が覆されていきますよ……。幸いにも教義にはなんら反することではありませんけれど」


 教義に反しなきゃトライラム様が人間でも構わないんかーいっ!

 って叫びを喉の奥でギリギリ飲み込み、黙ってテネシスさんの言葉を聞く。


「ダンさんが法王を浸透させていて、その職業スキルを用いれば職業の加護を授けられるいう話は分かりました。ですがそれだけで、祝福の神トライラムがエルフ族であったとは……」

「勿論可能性の話であって、この話を証明する方法なんて思い付かないんだけどね。ただトライラム教会は宗教として崇高というか、潔癖過ぎる印象は前から抱いていたんだよ」


 神も魔法も存在する世界の宗教にしては、信仰の危険性をあまりにも熟知したようなその在り方。

 信仰の為に生まれた組織と言うよりも、考え抜かれて作り上げられた組織のような印象を受ける。


 人々が信仰に縋り付かない様に、教会が信仰を利用しない様に、信仰が人々にとって善いものであるようにと、潔癖なまでの教義と教えを残したんじゃないんだろうか。


「とりあえずこれ以上証明する方法も無いからこの話は今はここで終わりにして、次の質問に移らせてね」

「あっ……! はいぃ……」


 チャールはもう少しこの話題を続けたそうにしているけれど、現時点でこれ以上の進展が見込めない話題だからね。

 彼女には悪いけど、今は俺の話を進めさせてもらう。


「スペルド王国が建国されて今年で455年。これはエルフ族も証言している確かな事実なんだけどさ。スペルド建国前から存在していたはずのトライラム教会。その本部がスペルディアにある理由は分かるかな?」

「あ、それなら問題なくお答え出来ますよ」


 混乱の極みにあったテネシスさんだけど、俺の質問が答え易いものだったおかげで安堵の表情を見せている。


「元々トライラム教会の総本部は、フォアーク神殿の近くにあったとされています。ですが昔何らかの理由でその場が使えなくなってしまったことがあるそうで、その機会に王都スペルディアに本部教会を移転したのだという記録がありますね」


 フォアーク神殿の近くにあった教会の旧総本部が使えなくなった理由。もしかして、いやもしかしなくてもガルクーザかな?


 スペルディア家やエルフェリア家に迫害されたのではなくて、ガルクーザの出現によって元々の拠点を追いやられてしまい、時期的にタイミングが重なったスペルディアに本部を移転した?

 でもガルクーザは滅ぼされたのだから、元の場所に戻れば……、って。


「フォアーク神殿の近くにあったとされている、ってことは今は無いの? その旧本部教会は」

「今は廃墟になっていると聞いておりますね。私が実際に見たわけではありませんので確実とは言えませんが……。見た者の話では、何か圧倒的な力で破壊されたように見えたと言っていました」


 ガルクーザによって本部教会が破壊されてしまったのかな。

 そうなると、古い資料がある程度残っているだけでも幸運だったのかもしれないなぁ。


 そして、司教であるテネシスさんすら教会の成り立ちを知らない理由もそれなんだろう。

 沢山の資料が旧本部教会と共に失われてしまったんじゃないのかな。


 う~ん……。今回の話って最高に興味深い話ではあったけど、トライラム教会側としてはどんな印象だったんだろ?

 俺としてはもっと突き詰めたいくらいに興味があるんだけど……。トライラム教会が嫌がることはなるべく避けたい。


「テネシスさん。今回の話は俺にとって興味深くて、出来ればもっと追求していきたいと思ってるんだけど……。それをするとトライラム教会が嫌がったりする可能性はあるかな?」

「わ、私も個人的には興味深いお話ではありましたが……。ちょっと待ってくださいね……」


 顎に拳を当てて考え込むテネシスさん。そんなテネシスさんを不安そうに見詰めるチャール。


 話の流れ的に、テネシスさんが不快感を持ってしまうようなら調査は打ち切りだもんな。

 俺と同じく追求したい派っぽいチャールとしては、気が気じゃないんだろう。


「教主イザベルにも聞いてみないといけませんが……。恐らくは彼女も真実を知りたいと思うのではないでしょうか」


 けどテネシスさんの出した答えは、意外にも肯定的なものだった。


「信仰だけでは人は救えないということは嫌というほど思い知りました。そしてダンさんが証明してくださったように、人を救うのは結局人の手しかないのだということも」


 懺悔のようなテネシスさんの言葉。

 しかしテネシスさんの言葉には後悔の念こそあれど、悲壮感は全く無い。


 テネシスさんにあるのは決意と覚悟。過去の過ちと正面から向き合う強さだ。


「むしろトライラムが人であったなら、どれだけトライラムを信仰しても子供達を救うことが出来なかった事に納得がいってしまいますよ。……トライラムはダンさんのように、神でもなんでもないただ人の身で沢山の人に祝福を齎してくれたのですね……」

「いやぁ流石に俺とトライラム様を同列に語られても困るってば。でもトライラム教会が調査に乗り気なのはありがたいよ。教会が嫌がることをしたくはないからね」


 トライラム様が元は人間だったとしても、俺をここまで導いてくれた事実に変わりはない。

 ……でもトライラム様がただの人間だったら、俺を導いた存在が別にいるってことになったりするのかな?


 いやそもそも、俺を導く高次存在なんていなかった?

 俺達家族を導いていたのは、いつだってエロだけだったのか……!?


 ……これは深く考えたらだめなやつだな。忘れるとしよう。


 さて、イザベルさん次第だけど、恐らくトライラム教会はトライラム様の正体の追求に賛成してくれそうだ。

 だけどそれを追うのは俺じゃないよなぁ?


「テネシスさん。チャール。2人が同意してくれる場合に限るけどさ。トライラム様の真相、お前が追ってみる気はないかな、チャール」

「やっ、やりたいっ! 私が追ってみたいよっ!」


 俺の提案に即答したチャールは、興奮で身を乗り出して言葉遣いも崩れてしまっている。

 けれど彼女の瞳は熱意と好奇心でいっぱいだ。やはりこの子が適任だと思う。


「どうかなテネシスさん?」

「えと、実はチャールは自分がしたいことを見つけてくれたみたいなんですけど、私達では万全に支えてあげられる自信が無くて……。出来ればダンさんに話を聞いて欲しかったんですよね」


 チャールにトライラム教会の真相の調査を依頼したことで、テネシスさんがチャールをこの場に同席させた理由を聞かせてくれる。


「どうやらダンさんは察してくれていたみたいですけど……。ほらチャール。自分の口からダンさんにお話しなさいな」

「うんっ! えっとね、私前は教会兵になって教会のお手伝いをしようと思ってたの! だけど教会の歴史を調べるうちに、王国の歴史についてもっと調べてみたくなっちゃって……! 今回ダンさんとお話したこともすっごくワクワクしたし……。私はもっともっとこの世界のことをよく知りたいんだっ」


 衝動と興奮に任せて早口で捲し立てるチャール。

 チャールの存在は、もしかしたら聖域の樹海の異変を解く事に繋がったりするんだろうか? そう考えるとやっぱりこれも、俺にとって都合の良い展開なのかな?


 ……なんてな。馬鹿馬鹿しい。


 テネシスさんも言ってただろ。人を救うのは人の手なんだって。

 チャールが歴史に興味を持ったのは俺なんか関係ない。この子自身の意思と興味だ。


 もし神様が導いてくれたのだとしても、選んだのがチャールなら同じことだっての。


「チャール。この世界の真相に迫るにはアウターの探索は避けて通れない。それなりの戦闘技術を身につけてもらわないといけないけど、その覚悟はあるかな?」

「もっちろん! だって私、元々は教会兵を目指してたって言ったじゃないっ! 戦いを教えてくれるなんて願ってもなかったんだからっ」


 そうだった。この世界の人たちって戦い方を覚えるのには積極的なんだった。

 特に教会の孤児たちには身近に頼れる教会兵の存在があったんだもんな。魔物との戦いに忌避感は持ってないか。
 

「やる気があって大変宜しい。でもいくら訓練を積んだとしても、この世界の真相を追うのにチャール1人だけじゃ危険すぎると思う。誰か協力してくれそうな人はいるかな?」

「……1人。1人だけいるかな? 話してみないと分からないけど、きっとアイツは協力してくれる気がするの。だって、世界中を見て回るのが夢だって言ってたからねっ」

「おっけいチャール。この世界の真相、お前に託すよ」


 やる気も覚悟もあって、信頼できる仲間も居るなら何も問題は無いね。

 今の俺達はガルクーザが引き起こした影響の後始末で手いっぱいの状況だ。重要度は高そうだけど緊急性の低そうな案件は、未来ある子供達に託してしまおう。


「でもチャール。それに関して俺から1つお願いがあるんだけど……、聞いてくれるかな?」

「う、うん……! な、なんでもするよっ!?」


 ん? 今なんでもって……、って何度目だよこのくだり。

 でもどうしても反応してしまうんだよなぁ。悔しい。びくんびくん?


「チャールって読み書きは出来るんだよね? 古い資料を読み込んでくれたくらいだし」

「うん。読み書きに不安は無いよー?」

「実は今度、職業の知識や浸透についての資料を作ろうと思ってるんだけど、ぶっちゃけ面倒臭くてやりたくなかったんだよ。それをチャールにお願いできないかな?」

「ダン……。君ねぇ、もうちょっと言い方を考えようよぅ……」


 心配そうなリーチェの頭をよしよしなでなで。

 言い方を考えても面倒臭い気持ちは恐らく隠せないだろうからね。我が家の基本だよ。隠せないならノーガードだ!


 それに、レベルの表記なんかは鑑定できない大部分の人には理解されないのだから、この世界の人が編纂した資料っていうのが必要だと思うんだよ。


「えっと……。お話自体は受けても問題ないんだけど、どうして私にそれを任せるの?」


 俺の申し出が予想外だったのか、チャールは少し困惑した感じだな。

 悪感情を抱いているのではなく、単純に疑問に思っているように見える。


「ダンさんが面倒臭いってことと、それを私に任せるのとは別の話だと思うんだ。何か理由があるの?」

「いいね。そのなんにでも疑問を持つ姿勢は真相を追う上で大切だと思うよ」


 さっきまであんなに興奮した様子だったのに、それでも冷静さを失わないのは素晴らしいな。

 ……それだけ孤児達が苛酷な生活を送ってきたっていう証拠なのかもしれないけれど、もう変えてしまったことを今更悲しんでも仕方ない。


「俺がチャールにお願いしたのはね。職業の加護もこの世界の根幹の1つだと思っているからなんだ」

「職業の加護も、この世界の根幹……」


 トライラム様の正体に迫るにも、法王の知識が必要不可欠だった。

 魔力によって成り立っているこの世界の真相を追うためには、職業システムを正しく理解する必要があるはずだ。


「この世界の真相を追う上で、職業の加護と知識は必ず必要になると俺は思ってる。だからチャールに資料作りをお願いして、腕を磨きながら職業の知識を身につけて欲しいなってさ」

「なるほど……。つまり私の成長の為に、あえて私に振ってくれたのね? うん。分かったわ! 職業知識の資料作りも私がやる……。いいえそうじゃない、私がやりたいわっ!」


 使命感と好奇心に燃えるチャールの姿に頼もしさを覚える。

 俺なんて100年も生きられない脆弱な人間族さんでしかないからね。せっかく取り戻した様々なものが、俺の死後直ぐに失われるようじゃ困るんだ。


 この世界の未来を作っていくのはお前らなんだからな。

 俺なんかいなくたって、好奇心の赴くままにどこまでも走って行ってくれればいいさ。


 俺やテネシスさんみたいな大人は、お前達が好きな事に打ち込める様に全力でサポートしていくつもりだからね。
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