異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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5章 王国に潜む悪意4 戦いの後

368 押し売り (改)

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「責任者にお話があると? では少々お待ちくださいね」


 俺の用件が宿泊ではない事を伝えると、宿の従業員さんは直ぐに対応してくれて、責任者に確認を取ってきますと宿の奥に消えていった。


 毎回高級宿で通してるから宿の名前を知らなかったんだけど、この宿は『夢の一夜亭』というらしい。

 今まで散々ラブホ扱いしてきたけれど、実際にそういう目的に特化して運営されている宿のなんだそうだ。宿泊施設ではなくて、ご休憩施設なわけですね。


 俺自身もそうなんだけど、この世界ではお金を持つ者ほど沢山の異性を愛することが出来るわけで、ご休憩施設を利用する者たちはお金持ちの傾向がかなり強い。

 ラブホにひと晩金貨1枚以上を支払うなんて馬鹿げていると思わなくもないけど、利用客には困らないそうだ。


 ……俺自身も、既にふた桁回数利用してますしね?


「お待たせしました。当宿の支配人を任されているソルベと申します。皆様どうぞこちらへ」


 多少待たされた後、問い合わせた従業員さんではなく支配人本人が俺達の案内に現れた。


 この宿を運営している夢の宿グループはご休憩施設に特化した商会で、他の商会との競合を徹底的に避けながら独自路線だけで成功した、少し変わった商会なのだそうだ。

 いくら常連客とは言え、あっさりと支配人に面通りが叶うあたりサービスが徹底しているなと感じるよ。


 応接室のようなところに案内された俺は、早速ミスリル製に見える食器について聞いてみる。


「ふむ。お目が高いですね。確かに当宿の食器は全て聖銀を使用させていただいております」


 秘匿されるかなと思ったけれど、思った以上にあっさりと認めてくれるソルベさん。


「聖銀は高級感を演出してくれるだけでは無く、優れた強度と耐久性に加え、人体に対して有害な毒素を分解する力もあるのですよ。なので気持ちよく酔えるのに次の日にお酒が残らないと、お客様には大変好評をいただいております」


 え、なにそれ。アルコール自体は分解しないのに、人体への悪影響だけをカットするってこと? ミスリル凄すぎじゃない?


 だけど、凄いからこそ疑問だ。なんで貴族連中にその知識が伝わってないんだ?

 確か用心深い貴族は、毎食自分でマジックアイテムのリムーバーを使用して毒素を分解していると聞いた覚えがある。

 ミスリルの毒素分解性能なんて、そういう貴族こそ欲しがりそうなものだけどなぁ?


 分からない事は素直に聞いてみるか。

 なんで貴族連中はミスリルの食器について無知、というか無関心なのかな?


「それは勿論私達が情報を秘匿しているせいなのですが……。それ以前にミスリルの食器に気付かれるお客様は殆どいないのですよ」

「そうなの? 俺は確かムーリと一緒に来た時に気になった記憶があるけど……」

「ミスリル装備を手にしたことがあるような叩き上げの魔物狩りの方は、高額な利用料を払ってまで夢の宿グループの宿を利用する事はあまりありません。逆に当グループの宿を頻繁に利用してくださるお客様は、ミスリル装備になど触れたことがある方は滅多にいませんから」

「あ~……」


 確かに俺もこの宿を初めて利用した時は、そのあまりに高額な利用料に馬鹿じゃないのかと思ったもんなぁ。


 それに、長年大商会で商売を続けてきたティムルさえも、豪商の上位職である紳商についての知識が無かった。

 つまり豪商になっても魔物狩りを続けるような人は、俺の想像以上に少ないってことなんだろう。


「それに、当宿の食器は全て装飾を控えてありますからね。聖銀の厳かな雰囲気こそあれど、無骨な金属製の食器などに興味を示すお客様は少ないのです」


 なるほど。実用性を重視する魔物狩りはあまりこの宿を利用しなくて、派手な装飾や見栄えを気にする無能なスペルディア貴族はシンプルなデザインのミスリル食器には目もくれないと。

 それを狙ってシンプルなデザインにしてるとは、経営者はかなりやり手のようだ。


「聖銀の食器は当グループの強みの1つですから。権力者になるべく興味を持たれたくないのですよね」

「あ~……、俺の用件って正にその製法について聞きたかったんだけどね……。無理を承知でお願い。食器を作ってる人たちに会わせてもらうことって出来ないかな?」


 宿の強みであって、なるべく広めたくないから秘匿しているって言われた直後のこのお願い。空気読めてないにも程があるな?


 案の定、支配人さんも困った様子で腕を組んで唸っている。

 空気読めなくて済みませんね。ご迷惑おかけします。


「当宿の1番のお得意様であるダン様のことは信用しておりますが……、流石に私の独断でお応えするわけには参りません」


 ぷっ。俺ってこの宿の利用数ナンバー1なの? 流石は艶福家なだけはあるね!


「……お手数ですがダン様。私も同行しますのでスペルディアの本店舗までご足労願えませんか? 会長に事情を説明してみますので、そこからは直接交渉でお願いできませんか?」

「あ、それで充分。凄く助かるよ。ありがとう」


 門前払いされないだけでもかなりありがたい。

 支配人さんは直ぐに行けるという事だったので、サクッとスペルディアに転移して本店舗に足を運んだ。


 マグエルでしか利用したことなかったけど、スペルディアにもパールソバータにも夢の宿経営の高級宿は存在しているらしい。

 流石にヴァルハールには無いそうだけど。


 辿り着いた夢の一夜亭本店舗は、本店という割に思ったよりも大きくなかった。


「スペルディアは長らくカリュモード商会が席巻していましたからね。あまり大きな宿を作って対立するわけにもいかなかったんですよ」

「ああ。徹底的に競合を避けてるって言ってたねぇ」


 本店の規模を見て意外に思っている俺達の気持ちを読み取ったソルベさんが、訪ねる前に説明してくれた。

 それと、創業者であるカラソル会長さんとやらが店舗1つ1つを大切にしているそうで、商会が大きくなったからといって1号店を改修したりはしなかったため、本店が他の店舗よりも少し小さくなっているようだ。


「それでは話を通して参りますので、皆様はおかけになってお待ちくださいませ」

「無理言ってごめんね。宜しくお願いします」


 マグエルの宿の支配人であるソルベさんは、俺達をエントランスホールのテーブル席まで案内したあと、本店舗の奥に消えていった。

 俺はリーチェとヴァルゴの2人を抱き寄せて、2人の体温を楽しみながらゆっくり待つ事にした。


「お待たせして申し訳ありません。こちらはソルベからのサービスです」

「へ?」


 ほどなくして、ソルベからです、と軽食が運ばれてくる。

 これ全部、ソルベさんの好意で振舞われる無料のサービスとかマジぃ?


「凄いですね。無茶を言った相手にこの心配り……。高額な宿泊料にも思わず納得してしまいますよ……」

「うんうんっ。しかもここの料理って美味しいんだよねっ。食堂でも始めてくれないかなーっ?」


 食いしん坊リーチェが、運ばれてきた料理を美味しそうにモギュモギュと頬張っている。


 リーチェが言う通り、夢の一夜亭の料理は拘りを感じられて美味しいんだよねぇ。

 そしてこれから真面目な話をすると言ったからか、飲み物に酒類は含まれていないという心配り。完璧かな?


「はぁ~おいしかったぁ~っ……」

「大変お待たせしました。これより会長のところにご案内させていただきます」

「おっ、了解。あ、差し入れありがとう。美味しかったよ」


 料理を平らげて食後のお茶を飲んでいると、お話の準備が整いましたとソルベさんが呼びに来てくれた。


 ……もしかして、俺達の食事が終わるのを待っていてくれたのかね?

 突然不躾なお願いをした俺達に対して配慮しすぎでは?


 夢の宿グループが一代で成功したことに納得しながら、ソルベさんに案内してもらって店舗の奥の応接室に通してもらう。


「お客様をお連れしました」

「どうぞ入っていただいてください」


 ソルベさんと共に入室した部屋の中には、黒い肌をした初老の男が姿勢良く立っていて、柔らかく微笑みながら俺達を迎えてくれた。

 どうやらこの男性は真っ黒な外見通りドワーフ族らしい。リーチェが小声で教えてくれた。


「なんでも当グループの宿を大変ご贔屓にしてくださっているとか。いつもご利用ありがとうございます。夢の宿グループを纏めさせてもらっているカラソルと申します」


 ……この宿を贔屓にしてるって言われると微妙に恥ずかしいな?

 昨晩はお楽しみでしたね? って言われてる心境になるというか……。


「皆様の本日のご来訪、心より歓迎いたします。ダン様。リーチェ様。ヴァルゴ様。さてソルベ……、マグエルの支配人に簡単にお話は伺っておりますが、改めて詳しいお話をお聞かせ願えますか?」


 俺達の紹介は必要無いのね。マグエルの支配人さんは仕事が出来る男のようだ。

 カラソルさんも回りくどい話をする気がなさそうだし、単刀直入に聖銀食器を作った人を紹介して欲しいとお願いする。


 俺の話を聞いたカラソルさんは頭ごなしに拒否するわけでもなく、なんだか悩ましげに思案している様子だ。


「ん……、実は私としても、いつまでも聖銀食器の製法を隠し続けるのは難しいとは思っているんですよ。ですがあまり大々的に流布するのも危険な技術であるとも思っているんです」

「製法も貴重だし素材も貴重だもんね。独占するのも公開するのもリスクを伴うわけか」

「ええ。ダン様はどうして聖銀の製法をお知りになりたいのですか? やはりなにか商売を始められるご予定があるとか?」


 カラソルさんは真剣な眼差しを俺に向けてくる。

 そう言えばマグエルでは理由を説明しなかったな。理由も聞かずに会長を紹介してくれたソルベ支配人が男前過ぎる。


 ゴブトゴさんとヴィアバタの人たちに許可を取っているので、隠すことなど何もない。

 ……いや、造魔重機のことは隠すしかないですけど?


 まぁとにかくグルトヴェーダに輸送路を建設する計画のこと、そしてその工事の為に魔物素材を活用する方法を模索している事を告げる。


「「ク、クラメトーラまで道を通すなど正気ですか……!?」」


 俺の話を聞いたカラソルさんも同席しているソルベさんも、他の人と同じく仲良く俺の正気を疑ってきた。

 流石にみんなに同じ反応を繰り返されたので、もう気分を害することもなくなったなぁ。


「あそこは熟練の魔物狩りの足で数ヶ月かかるような険しい道のりなのですよ……! いくら宰相様の許可とヴィアバタの理解が得られたからと言って、とても実現できるとは思えません……!」

「そこはカラソルさんが心配するところじゃないでしょ? 俺が勝手にやることなんだからさ」


 人が勝手にやる事にケチをつけないでよねー? お宅に迷惑をかけるつもりも無いしー。

 加工技術の情報提供だってあくまでお願いしてるだけなんだから、ダメって言われたら引き下がる所存ですよー?


「……って、本当にそんな工事をするのかって疑われてるのかな? それならもう工事は始めてるから、明日以降に工事現場に案内することは可能だよ?」


 今日連れて行くと竜王の姿が見えてしまいそうだからな。一般の人に造魔イントルーダーの姿を見せるのは色々な意味で危険だろう。

 1日あれば竜王が見えなくなる程度まで進んでくれる……、と思うんだけどどうだろう?


「あっ、しっ、失礼しましたっ! 決してお客様を疑っているわけではありません! ですが私もクラメトーラで生まれた者として、あそこまでの陸路を建設するなどどうしても想像ができなくて……」

「あ、カラソルさんはクラメトーラ出身なんだ? じゃあ良かったら少し話を聞かせてもらえないかな?」


 ここにもまた1人、先祖代々の土地を捨てて逃げてきたドワーフが居るわけだ。

 やっぱりもう限界なんじゃないのか、クラメトーラの暮らしって。


「俺が知っているのはドワーフの里が不毛の大地で、水源も無く作物も育たない上に魔物すら現れないから、現地の住人が困窮してるってことくらいなんだよね」

「……ええ、ダン様の認識で間違っておりませんよ。私はクラメトーラの最も外側の地域に住んでいたので、そこでの暮らしのことしか話せませんが……、それで宜しければ」


 それで構わないと、カラソルさんに説明をお願いする。


 クラメトーラは、クラクラットという集落を中心に円の範囲で広がっている、ドワーフ族のコミュニティなんだそうだ。

 なぜクラクラットが中心として認識されているかと言えば、暴王のゆりかごを管理しているのがクラクラットだかららしい。


 暴王のゆりかごからのドロップアイテムも、暴王のゆりかごに入って職業浸透を進めるのにもクラクラットの許可が必要で、だけどそれに不満を抱いても逃げる場所などどこにもない。

 満足な飲み水すら確保出来ない外周地域は、ずっと苦しい生活を強いられていたそうだ。


 ……中心であるクラクラットすら、他の場所と比べると貧困地域と言って差し支えない場所らしいけどね。


「……私がそんなクラメトーラを出ることが出来たのは、本当に運が良かったんです」


 カラソルさんは、クラメトーラに出入りしていたスペルド王国の商人と偶然仲良くなって、18の時にその商人と共にスペルド王国に移住し、2人で夢の宿グループを立ち上げたのだそうだ。

 恩人の商人は既に他界していて、共に創業したカラソルさんが現在会長職を務め上げていると。


「なるべくクラメトーラで奴隷に落とされる子供達を買い取っているのですが……。正直、いたちごっこなんですよね……」

「だろうね。奴隷に落ちた子供を買うよりも、子供が奴隷に落ちる状況を改善できなきゃ追いつかないでしょ」

「ええ……。奴隷になる前に救い出したいのですけれど、ドワーフたちは教育によってあの土地に縛り付けられていますから。雇うと言っても、なかなか彼の地を出ようとはしてくれなくて……」


 ……なんかカラソルさんの話、トライラム教会の話を髣髴とさせてくれるなぁ。

 苦しい生活を強いられていても、ドワーフの誇りを胸に土地を捨てられないドワーフ族かぁ。


 ドワーフ族の大部分は、純粋に種族の誇りだけで貧困に耐えているんだろう。

 だけどその誇りのせいで、毎年のように子供達が奴隷に落とされてしまうのだ。


 カラソルさんが頑張って掬い上げていたみたいだけど、ティムルのように弄ばれてしまう子だってどうしても出てきてしまう。


「……ダン様とは腹を割ってお話したほうがいいかもしれませんね」

「ん? どういうこと?」

「実は聖銀は、私自身がある方法を用いて生み出している素材なんです。そしてその素材をクラメトーラの外周地域、クラマイルと呼ばれる貧困地域に持ち込み加工してもらっているのです。少しでも彼らの暮らしの助けになれば……、と」


 ある方法って言うのは、恐らくレシピを用いないスキルの使用のことだろうな。

 マジックアイテム開発は国家機密ではあるけれど、スキルが使える者なら独自に辿り着いてもおかしくないだろう。


 腹を割ってと言ったのは、素材を生み出しているのが自分自身であると打ち明ける事のリスクを無視してでも、俺ともっと踏み込んだ話をしたいって意味かな?


「カラソルさんのやっている事は立派なことだけど、それだけじゃクラマイル? の生活は向上しないよね。いくら賃金をもらえても、クラメトーラ全体の物流が不十分だから、お金があっても買うべき商品が存在しないんだから……」

「ええ……。根本的に物資が不足しすぎていて、経済が機能していないんですよ……」


 腹を割ってと言われたので、俺の本音を遠慮なくぶつけてみたところ、カラソルさんも異論無く同意を示してくれた。

 問題点は分かっているけれど解消する方法が無いので、とりあえず対処療法で対応してるって感じか。


「ま、そういう現状を踏まえて陸路を建設しようって話なんだよ。移動魔法で食糧は運べないからさ」

「そう。移動魔法では水や食料を大量に運ぶことは出来ない……! せめて嵩張る水の輸送だけでも何とかなれば、その分食料の運搬量を増やすことも出来るのですが、水玉など大量に用意するのも難しいですし……」


 おお、水玉懐かしいな! まさかここでその名が聞けるとはね。

 でも水玉の名前を口にしたことで、カラソルさんがどれだけ真剣にインベントリを使った水の運搬方法を模索していたかが窺えるよ。


「はいっ。そんな貴方にピッタリの商品はこちらでございます!」


 そんなカラソルさんの前にレインメイカーを取り出してみせる。

 リーチェとヴァルゴが冷ややかな視線を送ってくるけど、こういうのは勢いが大事なんだよーっ。突っ走れーっ!


「こちらはレインメイカーというマジックアイテムでございまして、我が家の可愛い女神のようなドワーフが開発した、魔玉を用いて水を生み出すことが出来るマジックアイテムなのですっ!」

「――――はぁっ!? 水を……、水を生み出すマジックアイテム……!?」


 一瞬理解が遅れたカラソルさんだったけど、水を生み出すマジックアイテムと聞いた瞬間、飛び上がって驚いてみせた。

 たった今、水の運搬に苦労してるって口にしたばかりでこの流れだもんね。そりゃびっくりしても無理はないわ。


「1つの発光魔玉からレインメーカー約10杯分の水が取り出せ、魔玉を取り替えれば何度でも利用可能。しかもマジックアイテムなのでインベントリに収容可能と、大変便利なアイテムでございます!」

「み、みみみ水を……! 水をインベントリで、運搬できるようになるっ……!?」

「場所を取らず何度も使えて経済的! しかも開発は我が家で行なっていますので、必要数を直ぐにご用意することも可能です! さぁこの機会に購入を検討してみませんかっ!?」


 通販風に畳みかけながら、カラソルさんの目の前で発行魔玉をセットして、レインメイカーで水を生み出して見せる。

 水瓶型のマジックアイテムが水で満たされていく様子を、固唾を呑んで見守るカラソルさん。


「し、失礼ながらお聞きします……。この水は飲んでも問題は……?」

「問題ないよー。実際俺達も何度も飲んだしね」


 一旦流れが途切れたので、通販風の口調は終了だ。

 これ以上続けると、リーチェとヴァルゴから送られてくる絶対零度の視線が癖になっちゃいそうだし?


「魔物すら出ないクラメトーラでは発光魔玉を用意するのも簡単じゃないとは思うけど……。それでも渇きに悩まされる事は格段に減るんじゃないかな」


 カラソルさんとソルベさんはコップを用意して、恐る恐るレインメイカーが生み出した水を口にする。

 そして小さく美味しい……と呟くソルベさん。


 魔力で作り出された水なので、この水って不純物の混ざらない純水に近いはずなのに、なんでか凄く美味しいんだよねぇ。

 確か純水っておいしくない上にあまり体にも良くないって聞いたことがあるんだけどな。


 流石はマジックアイテム。ご都合主義万歳だ。


「この水が発光魔玉1つで10杯も……! 魔玉は安いものではありませんが、それでもインベントリに収納して大量に運搬することが可能です……! 今まで苦労していた水の運搬の負担が一気に解消される事に……!」

「…………く」


 ……俺が言い出しておいてなんだけど、カラソルさんの感想も通販っぽくて笑いそうになってしまった。

 レインメイカーの性能を目の当たりにして体を震わせていたカラソルさんは、突然思い出したかのように俺達に向き直り、そして深々と頭を下げた。


「……ダン様。どうやら詳しくお話を伺う必要があるようです。聖銀などいくらでも用意してご覧に見せますので、どうかこのマジックアイテムをクラマイルの地に譲っていただけませんでしょうか……!?」

「はいはいストップストップ。俺は腹の探りあいなんてする気は無いから、ちゃんと情報と条件を提示した上で正式な商談をしたいと思ってるんだよ。俺に依存した取引なんて、長期的に見てデメリットしかないからね」


 クラメトーラの外周地域であるクラマイルで既に取引を行なっているカラソルさんが協力してくれれば、俺が直接レインメイカーを持ち込むよりも話はスムーズに運びそうだ。


 クラメトーラの現状を変えるなんて言っても、出来るだけ面倒なことは人に押し付けてしまいたい。

 せっかく乗り気なカラソルさんがいるんだから、巻き込んで押し付けてしまおうじゃないか。


「ダンは本当に嘘つきだねぇ……。でもえっちなことがしたいために余計なことをしたくない、っていうのも君の本音なのかなぁ?」

「考えてみたら、魔人族の集落も既に旦那様の手を離れています。面倒なことはしたくないって仰ってるのは本音なんでしょうねぇ」


 あったりまえだよー。リーチェとヴァルゴみたいな可愛いお嫁さんと、ずーっと寝室でいちゃつく為にやってることなんだよ?

 俺が居なきゃ動かないシステムなんて邪魔すぎるよ。


 世の中は適材適所。やりたい人がいるならどんどん任せてしまうべきだ。

 俺がやりたいことなんてみんなと愛し合うことだけで、これだけは他の誰かには絶対に任せるつもりはないんだから、それ以外のことはどんどん人に押し付けてしまおうねっ!
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