異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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5章 王国に潜む悪意3 世界を呪う者

355 マグナトネリコ⑤ 魂の端末 (改)

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 6人全員で、目の前に聳え立つ呪いの根源と対峙する。

 HPは削りきったはずだけど、優に数百メートルはありそうな巨木を滅ぼすのは骨が折れそうだ。大きいってのはそれだけで厄介だよ。


 厄介だけど……、さっきからなんで動き出さないんだ?

 元々全く身動きはしてなくて、呪言魔法以外はただの気持ち悪い巨木なんだけどさ。


「これから総攻撃してアイツを倒さなきゃいけないんだけど、なんでアイツは動かないのかな? 神判くがたちが使われてからそれなりの時間が経ってる気がするんだけど……」


 みんなに背を向けたままで、反応の無くなった世界呪について問いかける。

 動かれない方が好都合なんだけど、罠だという可能性もあるからな。一応みんなの意見も聞いておきたい。


 そんな俺の疑問にいち早く反応を返してくれたのはリーチェだ。


「んー……。神判が体力が無くなった直後に放たれた呪言魔法だとすると、切り札的な扱いの能力だったんじゃないかな。効果も反則的だったし、使用魔力が膨大すぎるとか?」

「反則、的か。確かにね」


 回避不可能で、防御や耐性を完全無視の全範囲攻撃とか頭がおかしい。

 しかも精神攻撃と物理攻撃もセットで、あの時自分に敗北したら多分即死だったんじゃないのかな?


「強力すぎる反面、相応のリスクもあるんじゃないかしら。今回ダンは神判を真っ向から突破しちゃったわけでしょ? 破られた反動みたいなものがあるのかもしれないわ」


 リーチェに続いて告げられたティムルの考えになるほどと思う。


 狙ったわけじゃないけれど俺は神判を破った事になるのか。

 人を呪えば穴2つとも言うし、想定外の反作用が起きているのかもしれないな。


 ともかく、みんなの意見を総合すると、マグナトネリコが動かないのは罠じゃないと判断していいかな?


「……これから全員で全力攻撃を仕掛けるよ。覚悟はいいかな?」


 リーチェとティムルの意見を聞いて、総攻撃を決定する。

 2人の意見にも俺の判断にも異を唱える者は居らず、全員が武器を握る手に力を込めたのが分かった。


 罠じゃなければ好都合だっ! この機を逃さず今度こそ滅ぼそう!


「俺は攻撃しながら絶空に魔力を込め続けるから、みんなには俺が絶空を放つのと同時に、最大威力の攻撃を合わせて欲しいんだ」

「うむっ! 全身全霊の1撃というわけじゃなっ!」

「攻撃のタイミングはティムルに任せたいんだけど……。お願いしていいかな?」

「……絶空に込めた魔力がマグナトネリコを滅ぼすのに充分か熱視で判断しろってこと? そんな重大な判断を私に委ねちゃってもいいの?」


 少し自信無さげに呟くティムル。


 でもマグナトネリコの巨体を吹き飛ばす魔力なんて俺には判断がつかないからね。

 魔力の総量を目で確認できるティムルお姉さんに判断して欲しいんだ。


「そんなに気負わなくても大丈夫だよティムル。ティムルの判断は家族の判断だ。ティムル1人が背負う必要はないし、ティムルの判断を疑う奴もいないからさ」

「ダンに任せると、魔力を込めすぎてロングソードが砕けちゃいそうだからねー。ティムル。私は貴女を信じる。だからティムルにもティムルを信じて欲しいの」


 俺のことを茶化しながらもティムルを真っ直ぐに見詰めるニーナ。


 俺の次に付き合いの長い2人。

 世話の焼ける俺に対して2人はいつも協力して信頼し合ってきた。


 そんな2人が過ごした日々がニーナの言葉に信頼感を生み、ティムルの心に自信を生み出す。


「……うん。ありがとうニーナちゃん」


 ニーナの信じるという言葉の重さを誰よりも知るティムルが、ニーナの視線を受け止めて力強く頷いてくれる。


「私も信じる。みんなのことも、自分のことも。ダンが開かせてくれたこの青い瞳を信じるわ……!」


 ティムルの瞳が青く変わっていく。


 碧眼のティムルはいつ見ても女神様のように美しいね。

 決意に満ちたその表情は、戦乙女と呼ぶに相応しい凛々しさを感じるよ。


 ティムルお姉さんの覚悟が家族全員に伝播する。

 ティムルの覚悟を無駄には出来ないからね、決めるよみんな。


「任せたよティムル。それじゃみんなも続いてねっ!」


 右手のロングソードを肩に担ぎ、マグナトネリコに一直線に走り寄る。

 接近と同時に左手のショートソードで切り掛かり、巨大な世界呪に何の効果も無さそうな小さな斬り傷を無数に刻んでいく。


 ロングソードにありったけの魔力を込めながら、でも魔力枯渇が起きる前に左手のショートソードで相手から魔力を吸収する。

 そして吸収した端からロングソードに魔力を送り、絶空の威力を高めていく。


 俺の新技。俺の戦い方の完成形をぶつけてやるぜ、ノーリッテ!


「合図までは全力攻撃でいいんだよねっ! いっくよーっ!」


 狐耳と2本の尻尾を生やした深獣化ニーナが、絶影とインパクトヴァの多重攻撃を放ち始める。


 獣化より更に補正上昇幅が大きい深獣化による高速斬撃。

 そして狐獣人の特性で魔法攻撃力が跳ね上がったインパクトノヴァ。


 動かないマグナトネリコに移動魔法は必要ない。

 移動魔法に使う魔力も全てインパクトノヴァの発動に回して、より攻撃に特化したムービングディザスターを放つニーナ。


「オーラ発動! 魔力吸収を得た妾に死角は無いのじゃーっ!」


 竜化による青い魔力を身に纏ったフラッタが、蒼い閃光のようにマグナトネリコに切り掛かる。


 ドラゴンイーターによる剛震撃とフレイムドラゴンブレードによる魔力吸収のコンボは、まさに強力無比のひと言に尽きる。

 その姿は初めて会った時に俺を全力で殺しに来たラトリアに重なるようでもあり、1匹の青い竜が猛り狂っているようにも見えた。


 しかしいつもと違って、ドラゴンイーターよりもフレイムドラゴンブレードを多用している様子のフラッタ。

 フラッタはオーラの維持にも常に魔力消費している状態だから、最強の1撃を放つために意識して魔力を奪って、常に全快の状態を保っているみたいだね。


「続きます! ダークブリンガー!」


 全身に黒い魔力を纏ったヴァルゴが、フラッタと隣り合ってマグナトネリコを強襲する。


 元々異次元レベルのヴァルゴの槍の技術に、ダークブリンガーで強化された身体能力が絶妙に絡み合い、その槍の黒き閃きは芸術品のようにさえ感じられる。

 ヴァルゴも魔力吸収を優先して、来るべきタイミングに備えているようだ。


「風よ! ぼくに力をっ! 精霊憑依!」


 風の精霊が宿った緑色の魔力を身に纏い、世界樹の星弓を引き絞るリーチェ。

 翠の魔力を纏った凜とした佇まいは、まさに翠の姫エルフと呼ばれる英雄の姿そのものだ。


 リーチェは牙竜点星の要領で精霊魔法を矢尻に込めて、ティムルの合図を待っている。


「インパクトノヴァー! んもう! 私もみんなみたいに必殺技が欲しいわっ! ダン! この戦いが終わったら開発に付き合ってちょうだいねーっ!」


 ティムルの開発に付き合うなんて、素敵過ぎるお誘いだね! 


 パーティ全員とマグナトネリコを蒼き瞳で捉えながら、離れた位置からインパクトノヴァを連射するティムル。

 だけどティムルの合図はこれじゃない。言葉にせずともみんな分かってる。


「まだ……! まだだぁぁぁぁ……!!」


 肩に担いだロングソードに際限なく魔力を流し続ける。


 さっきニーナが言ったみたいに、込めた魔力に耐え切れなくて砕け散るようなことがないと信じる。

 ティムルが俺のためだけに拵えた武器が、俺の想いに耐えられないはずがないってね!


 みんなの魔力の昂ぶりを感じる。

 みんなの姿を見なくても、みんなの声を聞かなくても、魔力を通して全員が確かに繋がっているのを感じられる。


 初めてステイルークに着いた時、ラスティさんが言っていた。ステータスプレートは魂の端末なんだって。

 俺とみんなはステータスプレートで繋がっている。婚姻も結んでいるし、パーティだって組んでいるんだ。


 俺とみんなは、魂で繋がっている!


「うおおおおおおおっ!! 広がれええええ!!」


 俺の魂に浸透した職業スキル、決戦昂揚。

 みんなと魂で繋がっているなら、みんなの補正も跳ね上げろぉっ!


 魂を通じて伝染するのが呪いだけなんて認めない!

 俺の想いとみんなの想いを繋いでくれ! ステータスプレート!


 俺の体から魔力が広がり、そしてみんなに浸透していく。

 俺の意識がみんなの意識と混ざり合うかのように、段々1つになっていく。


「あはーっ。ダンの想いが伝わってくるわぁ。貴方ってほんっとうに最後の最後まで、私たちに大好きって伝えないと気が済まないんだからぁっ」


 嬉しそうなティムルの声と、ティムルの想いが返ってくる。


 ティムルが俺とニーナに最初に抱いた感情は憧憬だった。

 自分が失ってしまった物、自分が手に入れられなかったものを俺達に見出したティムルは、諦めていた幸せを思い出してくれた。


 ありがとうティムル。お姉さんが幸せを諦めないでくれたおかげで、俺達もこんなに幸せになることが出来たよ。


「妾も大好きじゃー! ダンのこともみんなのことも、大好きなのじゃーっ!」


 元気いっぱいに想いを届けてくれるフラッタ。

 フラッタはいつも俺とニーナに真っ直ぐに好意を伝えてくれたね。


 大好きな俺達に迷惑をかけまいと、1度は家族のことすら諦めてみせたフラッタ。

 フラッタのその想いを裏切りたくなくて、俺はここまで強くなれたんだよ。


「旦那様の気持ちが心地良いです。世界を呪う魔物を相手にしているというのに、安らぎすら感じてしまいますよ」


 少し呆れたような声と共に返ってくるヴァルゴの想い。


 ヴァルゴは強くなりたいって、槍のように真っ直ぐで純粋な想いを抱いているね。

 彼女にとって、強くなる事が俺を愛することと同義なんだ。


 強くなれヴァルゴ。強くなってもっと俺と愛し合おうな。


「ダンは変わらないね。ぼくも君のことが大好きだよ。リーチェもリュートも、ダンのことが大好きなんだ」


 愛の告白と共にリーチェの想いが伝わってくる。

 誰よりも寂しがり屋で、誰よりも愛に飢えていたくせに、ずっと独りで生きてきたお前を、始めはただ抱きしめてあげたかっただけだった。


 でもお前のことを知るほどに、抱きしめるだけじゃ足りなくなっちゃったんだ。


「ふふ。始めは2人だけだったのに、今では大好きな家族がいっぱいになっちゃったのっ」


 誰よりも大切なニーナから想いが流れ込んでくる。


 始めは2人だけだったのに、か。

 俺とニーナの人生は、俺達が出会ったあの日から始まったようなものだもんな。


「ダン。あの日出会ってくれてありがとう。これからもよろしくねっ」

「これからもよろしくニーナ。みんなと一緒にまだまだ幸せになろうね」


 みんなの想いが流れ込んでくる。

 俺達全員の心が重なっていくのがはっきりと分かる。


 ロングソードは肩に担いだままで、左手のショートソードで殴りつけるようにマグナトネリコに切り刻む。

 斬り付けるたびに吸収される魔力をロングソードに流し込み、みんなへの想いとみんなから流れ込んでくる想い全てを剣に乗せる。


 ノーリッテ。お前が存在をかけてこの世界を否定するなら、俺達は全ての想いをぶつけてそんなお前を否定してやるっ!!


「叫べオリハルコンダガー! 叫喚静刻!!」


 ティムルが右手のダガーを掲げ、そしてダガーから嘆きの慟哭が鳴り響く。

 その嘆きの声は、一瞬とは言え世界を滅ぼす呪いの大樹の動きさえも止めてみせる。


 ティムルが放った叫喚静刻を合図に、全員が全力の1撃を繰り出す。


「弾けよ蒼穹! アズールブラスタァァァァ!」

「貫き晴らせ! ウルスラグナァァァァ!」


 フラッタとヴァルゴが己の全身全霊を込めた1撃を放つ。
 

 フラッタの身の丈を優に超える巨大剣ドラゴンイーターから蒼き魔力が迸り、青き竜の巨大な顎がマグナトネリコに襲い掛かる。

 魔人族の肌と同じ紫の切っ先を黒く染め上げ、黒き流星のような1撃がヴァルゴの握る災厄のデーモンスピアから放たれる。


「踊れ精霊! ジュエルバラージ!」

「吹き荒べ! ムービングディザスター!」


 ニーナとリーチェが少し離れた場所から、同時に声を張り上げる。


 世界樹の星弓から放たれる、全属性を纏った魔力矢の流星群。

 牙竜点星の要領で魔力を矢に込め、その上に精霊魔法を上乗せして放つ色鮮やかな光の雨。


 深獣化して底上げされた敏捷性と魔法攻撃力を最大限に活かした、超高速斬撃とインパクトノヴァを重ね合わせた殺意の暴風。


「今よダンっ! 後はおねがぁぁぁいっ!!」

「まっ、かせろぉぉぉ!!」


 最後に俺達を後押ししてくれるティムルの声も、しっかりと双剣に乗せてやる。
 

 右手のロングソードに絶空を纏い、左手のショートソードでは断空を纏う。

 みんなの攻撃の着弾に合わせて右手を頭上から振り下ろし、左手を横薙ぎに切り払い、十字が重なる1点に全ての魔力を集約させる。


「森羅万象全てを砕けぇっ!! ヴァンダライズッ!!」


 俺の双剣から全ての想いまりょくを乗せて放たれる、白く輝く十字の斬撃。

 その白く眩い斬撃はみんなの想いまりょくと重なり合わさって、無防備なマグナトネリコの巨体を切り裂いた。


 俺達全員の想いが込められたその1撃はマグナトネリコを切り裂いても止まらず、マグナトネリコを滅ぼさんと世界呪の内部を灼き始める。


「「「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」


 全員の声が重なり、魂が重なり合った渾身の1撃。

 仕合わせの暴君の全てを賭けた1撃を受けて、世界を呪うマグナトネリコの表面に白く大きな亀裂が走る。


 その亀裂は瞬く間に広がって行き、世界呪の表面を覆う人面は毒の涙を灼き尽くされ、まるで苦しみから解放されたような表情を浮かべながら白い魔力の奔流に沈んでいく。

 魔力の奔流はマグナトネリコを内側から飲み込みながら、次第に天に向かう1本の柱のように空へ空へと伸びていく。

 巨大な世界呪を覆う白き光の柱は、世界を滅ぼす呪いを飲み込み祓っていく。


 世界が白く弾ける。


 あまりに眩い白い閃光に視界の全てが失われ、音も体感覚も遠退いていく。


 何も見えない眩い闇の中、耳が痛いほどの静寂の中、確かなのは魂で繋がるみんなの存在。

 五感全てが消失した白い世界の中で、みんなを感じることで少しずつ心が落ち着いていくのが分かる。


 俺は五感の全てを放棄し、ただみんなとの繋がりに意識を集中する。




 ……どれだけの時間、白い世界が続いていたのかは分からない。


「……うぐっ!? あああああっ……!」


 気付くと視界は晴れて音は戻り、戻った体感覚が魔力枯渇の不調を訴え始める。


 そして開いた瞼の先には、世界を呪う大樹の姿は消え去っていて……。

 地面には巨大隕石でも落ちたかのような、広大なクレーターが広がっていた。
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