異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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5章 王国に潜む悪意3 世界を呪う者

350 マグナトネリコ① 合体技 (改)

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 今まで出会ったどのイントルーダーよりも濃密な死の気配を発する、悪意の宿り木『マグナトネリコ』。

 宿り木の根の最深部を貫く1本の巨木は、俺達が見ている今も絶え間無くアウターから魔力を吸い上げ、どんどん肥大し続けている。


「――――来るよっ!」


 異界からの膨大な魔力を自身の枝に変えて、全周囲から俺達に向かって枝を伸ばし始めたマグナトネリコ。

 さぁ戦闘開始だ。


「全員まずは素の状態で全力攻撃! ティムルは1歩引いた位置で全体を観察、気付いたことを教えてくれ!」

「「「了解っ!」」


 全員がマグナトネリコに向かって駆け出す中、ティムルだけが反対に下がり、戦場全てを視野に入れられる位置に移動する。


 ノーリッテが変化したコイツをイントルーダーって言っていいものか迷うところだけど、イントルーダー戦はギミックバトルの要素が強い。

 相手の能力と性能を探らなければ話にならないことが多いからな。まずは様子見して情報を集めないと。


「背中は預かるわっ! みんな気をつけてねーっ!」


 俺達の背中を、頼もしいティムルの激励の声が押してくれる。


 情報収集ならば、ティムルの魔力視の能力に勝るものはないはずだ。

 いつも通り頼らせてもらうよ、お姉さん!


「始めから全力で行くのっ! 重連撃発動! そして絶影ーーっ!」


 敵との距離を無視できるニーナが流れるような剣舞を披露し、生い茂る枝を斬り飛ばす。

 そうして僅かに拓いた道を、大剣を振り上げたフラッタが駆け抜ける。


「妾は双竜鬼ゴルディア、双竜姫ラトリアが娘フラッタなのじゃ! 父上と母上から受継がれし妾の剣、その身に刻むが良い! 剛震撃ぃぃっ!」


 ニーナのことを完全に信用したフラッタは、自身に迫る無数の枝には意識を割かず、枝の奥の巨木の幹に向かってドラゴンイーターを振り下ろす。

 しかしHPが残っている限り、フラッタの1撃でもマグナトネリコに傷を付ける事は出来ない。


 防御も回避も無視して斬りかかった無防備なフラッタに、悪意の枝が襲い掛かる。


「「青き風雪。秘色の停滞。白群の嵐。碧落より招くは厳寒。蒼穹を阻み世界を閉ざし、空域全てに死を放て。アークティクブリザード!」」


 しかしその枝がフラッタに到達する前に、リーチェとヴァルゴのダブルアークティクブリザードが枝の動きを阻害する。

 中級攻撃魔法の行動阻害効果はマグナトネリコにも効果があるようだ。


「まずは枝を落としていかなきゃ始まらないね。散れっ、外待天弓!」

「枝払いなら長柄を持つ私にお任せを。フラッタはマグナトネリコに集中してくださいっ」


 アークティクブリザードを放った2人は、間髪入れずに矢を放ち槍を薙ぎ、フラッタが攻撃に専念できるように枝を払ってサポートする。


「スピアオーガ戦ではウェポンスキルが役に立ちませんでしたからね。初のイントルーダー戦でウェポンスキルを披露できるなど光栄すぎますよ。薙ぎ払いなさいっ、破旋衝!」


 異次元レベルの戦闘技術を存分に活かし、ドラゴンイーターを振るうフラッタの動きを完璧に先読みして、その動きの邪魔になる枝を優先して払うヴァルゴ。

 そんなヴァルゴとフラッタの体を縫うようにして飛んでくるリーチェの弓の腕前にも、こんな状況じゃなかったら見蕩れてしまいそうだ。


 ニーナ、リーチェ、ヴァルゴが連携して、我が家で1番火力の高いフラッタをサポートすることにしたようだ。

 統率が取れているあの場に俺が参加しても、かえって邪魔になりそうだな。


 なら、俺は単独で動くとしますかねっ。


「我は魔を導く者也。我は秘蹟と共に歩む者也。神気纏いて魔を滅し、聖気満たして災禍を祓え。神威の恩寵、神降ろしの儀。宿せ。マギエフェクター。拒絶の盾。隔絶の庭。断絶の崖。降り注ぐ厄災、その全てを否定せよ。プロテクション」


 支援魔法で全員の職業補正を底上げし、更に鼓舞も使用して全員の物理攻撃力補正も上昇させる。


 その裏で無詠唱のディバインウェーブを放ちながら、覚えたての双剣でマグナトネリコを切り刻む。

 襲い掛かる無数の枝……いや、根っこを双剣で迎え撃って魔力を吸収し、その魔力で本体に全力でディバインウェーブを重ねていく。


「キリが無いけど、こんなものが俺達に通用すると思うなぁっ!」


 俺とフラッタを捕らえようと、絶えず迫り続ける無数の根。

 面倒だと少しイラつきを覚えながらも、それを次々と切り飛ばし……。


「って、なんで枝を切れるんだっ!?」


 あまりにも普通に枝を切り飛ばせるから気付くのが遅れてしまったが、この世界の魔物戦はHP制なんだよ!

 HPが残っている限り、本体に傷1つ付けられないはずなんだ!


 まだ戦い始めて1分も経ってない。

 いくら特殊召喚されたイントルーダーとは言え、この短時間でHPを全て削りきれたと考えるのはあまりにも楽観的すぎる。


 だけど、ならなんで根が切り飛ばせるんだ!? こいつ、HPはどうなって……。


「フラッタぁっ! お前が斬ってるマグナトネリコに傷は……」

「みんなぁっ! 周囲の根は本体と繋がってないわっ! 根はアウターから直接生み出されているみたいなのーっ!」


 マグナトネリコのHPを確認しようとする俺の声を遮って、背後で戦場を分析しているティムルが叫ぶ。


「ちっ! そういうことか……!」


 巨木のような外見と、アウターを貫くように聳え立っているせいですっかり勘違いしたけど、アウターと本体は別扱いなのかよっ。めんどくせぇな!


 もしもティムルが居なかったら、なんの意味も無い枝の伐採に延々と対応させられていただろうな……。

 嫌がらせの好きなノーリッテらしい、分かりにくい嫌がらせだよまったくもう!


「神代より誘われし浄命の旋律。精練されし破滅の鉾。純然たる消滅の一矢。汝、我が盟約に応じ、万難砕く神気を孕め。インパクトノヴァ! ……攻撃魔法も通りが悪いわねぇ」

「通りが悪い……。つまり効いてないわけじゃないとっ!?」

「ええ。幹の表面を凄い勢いで魔力が流れてて、それが攻撃魔法の威力を殺いでいるみたい。竜王みたいに技術で対応してるんじゃなくて、偶発的にそういう効果を生み出してるように思えるわーっ!」


 ティムルが色々と検証しながら、判明した事実を次々に伝えてくれる。

 でもお姉さん。リーチェが声を繋いでくれているんだから、そんなに力いっぱい叫ばなくていいんだよ?


「とにかく、効いていないわけじゃないなら問題ない! マグナトネリコを滅ぼすまで攻撃続行ーー!」

「まっかせるのじゃーーーっ!!」


 襲い掛かる根が本体と繋がってないなら、片っ端から切り飛ばしてやるっ!

 情報収集は可愛いティムルお姉さんに任せて、俺たちはとにかく全力で攻撃だぁっ!


「(あはははっ! 君達は本当に素晴らしいっ! マグナトネリコと化してなお、私は圧倒されているじゃないかぁぁっ!)」


 耳障りな笑い声が場に轟く。

 するとその笑い声に呼応するかのように、アウター全体が鳴動し始める。


「……なに? ティムル、いったい何が起きてるの?」

「気をつけて! 私たちを囲むように魔力が高まって……!」


 リーチェの問いかけに警告を返すティムル。


 彼女の言葉に改めて警戒心を強くする俺達の前で、イントルーダーが出現する際に現れる漆黒の魔法陣が浮かび上がった。

 そしてそこから俺達を囲むように新たに5本の巨木が現れ、マグナトネリコと同じようにアウター最深部を貫いた。


「ええっ!? 同じような木が5本も生えてきちゃったよ!?」

「(君達相手に私1人で荷が重すぎるようだからね。私もパーティを組ませてもらうことにしたまでさっ!)」


 驚くニーナと、それに応えるノーリッテの声。

 パーティを組んだって……! 魔物側がパーティ組んで襲ってくるんじゃないってのぉ!


「くっ……、ダン! コイツら全部アウターと繋がってて、常に膨大な魔力をアウターから吸い上げてるっ! 多少根を落としてもすぐに回復されちゃうと思うわーっ!」

「ダン、各々で1本ずつ対応した方が……!」


 ティムルが状況を分析し、直ぐに情報を共有してくれる。


 独立した5本のマグナトネリコもどき。

 それら全てがアウターと繋がっているという事は、ノーリッテが変化したマグナトネリコと同じ性能を持っていると見るべきか……!?


 リーチェの言う通り各自で1本ずつ対応して、攻撃の集中化を防いだ方が……。

 いや! 本体と繋がってない奴を攻撃しても意味は無い!


「周囲の根っこは俺が全部落してみせる! みんなはそのままマグナトネリコの本体に攻撃してっ!」

「了解っ……、と言いたいところですが、6本のマグナトネリコ全てから根が伸ばされては、流石に攻撃に回す手が間に合いませんよっ!?」

「安心しろヴァルゴ! 俺に考えがあるっ!」


 襲い掛かる根を切り落としながらフラッタに駆け寄る。

 流石はご都合主義が服を着て歩いているフラッタだ。まるでこのシチュエーションを見越して準備したみたいじゃないかよぉ!


「フラッタ! アレやるぞ! 新技の出番だぁぁぁっ!」

「ふはははっ! 了解なのじゃーーっ!」


 ドラゴンイーターで周囲の根を薙ぎ払ったフラッタは、急かすように俺にフレイムドラゴンブレードの刀身を差し出してくる。

 まるで手を伸ばすように差し出されたフラッタの赤い長剣に、俺のロングソードの腹を思い切り打ち合わせる。


「燃やせぇ! 焦天劫火ぁ!」

「滾れぇ! 竜火葬炎っ!」


 刃を打ちつけた音に合わせて、2人同時にウェポンスキルを発動する。


 特大範囲・超威力のフレイムフィールドを展開するウェポンスキル、竜火葬炎。

 そこに俺のロングソードから焦天劫火の獄炎龍が流れ込み、更に威力を跳ね上げる。


 どちらも火属性のウェポンスキルだったからなのか、2つのウェポンスキルは混ざり合い、そして新たなスキルへと進化を遂げる。


「「焼き尽くせっ! ドラゴンインフェルノーーーっ!!」」


 俺とフラッタの叫びと共に、6本の巨木全てが黒い火柱に包まれる。

 6本のマグナトネリコから伸ばされていた無数の根は、火竜の吐息に一瞬で焼き払われてしまった。


 神鉄武器のウェポンスキルを超える新たな力、ドラゴンインフェルノ。

 リーチェの好色家を浸透させた時に編み出した、俺とフラッタの合体技だ。


 流石にこれだけで燃やし尽くせるほど甘い相手じゃないだろうけど……。

 邪魔だった無数の根は、生える端から燃やし尽くしてやるぜ!


「みんな! 根の生成が追いついてないわ! 本体に攻撃するなら今がチャンスよっ!」


 ドラゴンインフェルノの有効性を確信したティムルが、ダガーを両手に構えて吼える。

 ロングソードを合わせて動けなくなっている俺とフラッタに代わって、今度は他の4人が本体への総攻撃を開始する。


「みんな続いてぇ! 乱気流ーーーっ!」

「了解ですっ! 穿てっ、貫輝閃!」

「撃ち抜けぇっ、牙竜点星--っ!」

「神代より誘われし浄命の旋律。精練されし破滅の鉾。純然たる消滅の一矢。汝、我が盟約に応じ、万難砕く神気を孕め。インパクトノヴァーーー!」


 流れるような美しい動作でオリハルコンダガーを叩き込むティムル。

 そのティムルに続いて魔迅で加速したヴァルゴの槍と、魔力を込めたリーチェの魔弾。


 そして獣化したニーナが絶影を放ちながらインパクトノヴァも重ねて、マグナトネリコ本体にダメージを重ねていく。


「(はははははっ! 凄まじい、凄まじいね諸君! 見たことも無い魔法、聞いたことも無いスキルのオンパレードだ!)」


 今のところこちら側が優勢に立っているけれど、ノーリッテの声に焦りは感じられない。

 まだまだ余裕がありそうだ。


 長引かせると何が起こるか分からないから、このまま一気に決めてしまいたいところだけど……!


「(しかも先ほどから魔法の構築が全然上手くいかないよ!? まさか全員の武器に魔法妨害が付与されてるのかい!?)」

「そのまさかだよっ! イントルーダーを単独で撃破する俺達を舐めすぎだぜノーリッテ!」


 驚きと喜びに満ちたノーリッテの言葉に、思わず返事を返してしまった。

 竜王戦で、魔物に上級魔法を使われる厄介さは身に沁みたからな。対策させてもらうに決まってるだろ。


「人のままならウェポンスキルは使えなかったのに、魔物化したのが仇となったなっ! そのままくたばれーっ!」


 ティムル達がインパクトノヴァとウェポンスキルの同時使用で総攻撃を仕掛けて、マグナトネリコのHPを一気に削り取る。

 俺達に向かって伸ばした根は即座に燃え尽き、6本の巨木は炎に包まれたまま4人に切り刻まれている。


「……通った! 旦那様! マグナトネリコに傷が付きましたーっ!」


 数分もしないうちに、マグナトネリコのHPを削りきったとヴァルゴが報告してくれる。

 ヴァルゴが放った何度目かの貫輝閃は、マグナトネリコの幹を深々と貫いてくれたようだ。


「(おっとっと。このままでは殺されてしまうね。だが簡単にはやらせないよ?)」

「言ってろ! ドラゴンインフェルノと魔法妨害スキルで封殺されたお前に、いったいどんな手が残ってるって……」

「(おいで。アポリトボルボロス。エンシェントヒュドラ。フューリーコロッサス)」


 ノーリッテの呼び声に応じて、先日俺が滅ぼしてやった3体のイントルーダーが地面から這い出てくる。

 って、待て待て待て待てぇ!?


「ざっけんなよお前っ! 魔物化したくせに造魔スキルを使用するとか舐めてんのかっ!!」

「(私の全力を受け止めてくれるのではなかったかな? 造魔も私の能力の1つさ。出し惜しみはしないよ)」


 造魔スキルは魔法じゃないから、魔法妨害スキルで発動を阻害する事は出来なかったか!


 イントルーダーがイントルーダーを造魔召喚するとか悪夢かよっ!?

 しかも3体同時に造魔しやがって、魔力枯渇が起きることを期待しても無駄か……!


 ……だけどなノーリッテ。

 その3体と俺は、既に1度対戦してるんだよぉ!


「ティムル! アポリトボルボロスは回復持ちだ! 魔法妨害を切らさないでくれ!」

「りょーかいっ! アポリトボルボロスは私が引き受けるわっ! みんなはこのままお願いねーっ!」


 俺の声に応えて、直ぐに乱気流でアポリトボルボロスを絶え間なく切り刻み始めるティムル。


 新たに現れたイントルーダー3体もドラゴンインフェルノの業火に燃やされているけど……。

 イントルーダーとなったノーリッテが呼び出した3体なら、オリジナルイントルーダーが召喚されてもおかしくなさそうだ。


「このままあいつらを野放しにするのは危険か……!?」


 それに懸念事項はコイツらだけじゃない。

 ドラゴンインフェルノを発動し続けている俺とフラッタの魔力が何処まで持つか……!


 神鉄武器のウェポンスキルを融合させ、そのスキルを無理矢理重ね合わせたドラゴンインフェルノの魔力消費は凄まじい。

 50以上の職業浸透数を誇るうちの家族でも、ずっと維持し続けるのはかなり厳しいのだ。


「フラッタ。魔力の残量はどんな感じ? まだ持ちそう?」

「全然平気なのじゃーっ! ……と言いたいところじゃが、持ってあと30秒といったところかの。あと10数秒で魔力枯渇の兆候が出始めそうじゃ」


 つまり、このままドラゴンインフェルノを発動し続けるのはジリ貧ってことか……。

 なら作戦変更だな。


「今から10秒後にドラゴンインフェルノ解除! それと同時に全員でドラゴンズネストを展開して、根を焼き払うよ!」


 ドラゴンインフェルノの代わりは全員でこなせばいい。

 全員が魔導師まで浸透させているんだから威力は充分なはずだし、獣化で魔法攻撃力を底上げしているコンコンニーナの存在がダメ押ししてくれるはずだ。


「エンシェントヒュドラは俺が引き受けるから、フューリーコロッサスは任せたよフラッタ!」

「了解なのじゃ! 我が双剣の餌食にしてくれるのじゃーーっ!」


 俺のお願いに、任せろと言わんばかりのとびっきりの笑顔を返してくれるフラッタ。

 頼りにしてるよ無双将軍!



「「…………」」


 フラッタと視線を合わせ、剣を離すタイミングを計る。


 そして10秒きっかりでお互いのロングソードを離し、俺は同時詠唱スキルでドラゴンズネストを即時発動。

 フラッタは竜化してフューリーコロッサスに突っ込んでいく。


「「「白き迅雷。不言の雷鳴。滅紫の雷光。雷雲より招くは龍王。産声上げるは霹靂神。猛き雷帝、万象余さず呑み下せ。ドラゴンズネストっ!!」」」


 俺のドラゴンズネスト発動を合図に、5人の美しいユニゾンが響き渡る。

 その美しい声に応えて、雷鳴轟く竜の巣がマグナトネリコたちを飲み込んでいく。


 俺のを含めて6連6重のドラゴンズネストだ。

 ドラゴンインフェルノの代わりを果たすには充分な威力だろっ!


「悪いがお前は最優先で仕留めさせてもらうぜ、エンシェントヒュドラ!」


 6連ドラゴンズネストがマグナトネリコの根を焼き切るのを確認し、改めてエンシェントヒュドラに意識を向ける。


「古き友人。同胞よ。魂の悲鳴、憎悪の嘆き。悪意に魂象られ、殺意に飲まれし哀れな友よ。皆は汝を赦し給う。今は眠れ安らかに。友愛と許容。懺悔と断罪。悠久の彼方で見えし時、汝に贈るは微笑と抱擁。天還える導。天恵、ディバインウェーブ!」


 高速詠唱と同時詠唱の多重ディバインウェーブを展開しながら、双剣を振るって一気に魔力を吸収していく。

 そして右手で絶空をチャージしながら左手のショートソードで魔力を吸収するという、前回のメナスとの戦いで反省し、改良を加えた俺の新しい戦闘スタイルを試していく。


 左手のシュートソードの斬撃でエンシェントヒュドラに斬撃が刻まれる。

 今だぁっ!


「くたばれっ、絶空ぅぅぅ!」


 相手のHPを削り切った瞬間、回復の隙も与えずチャージしておいた絶空を放つ。


 ロングソードから放たれた魔力の剣撃に触れた瞬間、その巨躯をバラバラに千切れさせながら消滅するエンシェントヒュドラ。

 搦め手なんて使わせねぇって。


「……このショートソード凄いな。魔力吸収効率が半端じゃないよ……」


 自分の全力以上の魔力を込めたはずの絶空を放ったというのに、魔力吸収をしながらチャージしたおかげで魔力枯渇の兆候は出ていない。

 俺は改めて発動した焦天劫火を放ちながら、ティムルと一緒にアポリトボルボロスに斬撃を叩き込む。


「押し切るぞティムル! 頼りにしてるぜお姉さん!」

「あはーっ! ダンと一緒に戦えるの、すっごい嬉しいわ!」


 俺の動きに引っ張られるように、寄り添うティムルの動きが加速する。

 俺の動きを間近で見たことで、ティムルの敏捷性補正が限界の認識を更新しているみたいだ。


 俺とティムルの放つ4つの斬閃は、アポリトボルボロスの体を瞬く間に切り刻み、やがて焦天劫火の黒い炎が巨大スライムの体全てを飲み込んでいく。

 たった独りで戦ったときにはアレほど厄介だったアポリトボルボロスも、みんなと一緒ならこんなにも呆気なく滅ぼしてしまえるんだからびっくりだよ。


 すぐに魔物察知を発動。

 間違いなくアポリトボルボロスの反応が消失している。


「「…………」」


 ティムルと一瞬視線を合わせ、お互いの意志を確認する。

 俺はフラッタの加勢に走り、ティムルはマグナトネリコ本体への攻撃を再開する。


「加勢するよフラッタ!」


 フューリーコロッサスに切り込みながら、フラッタを鼓舞するべく声をかける。

 既にフューリーコロッサスの体には無数の切り傷が刻み込まれており、そして対峙するフラッタは竜化して青い魔力に包まれている。


「フラッタ1人でも勝てそうだけど、ラトリアに習った俺達の双剣、冥土の土産に見せてやろうぜっ!」

「ふははっ! 良いではないかっ! 来るが良いのじゃーー!」


 完全に優勢なくせに、駆けつけた俺に飛びっきりの笑顔を見せてくれるフラッタ。

 イントルーダーとの戦闘中まで可愛いなんて、お前はどうしたら可愛くなくなるんだよぉ?


 しかし俺からフューリーコロッサスに視線を移したフラッタは、笑顔の奥に壮絶な雰囲気を纏わせて吼えた。


「双竜は今だ死なず! 怒れる巨人よ! 双竜姫の双剣を継いだ新たなる双竜の剣舞、とくと味わうが良かろうっ!」


 魔迅で風のような速さで動くフューリーコロッサスを竜化の身体能力であっさり置き去りにしながら、獲物に向けるような獰猛な笑みで口上を叫ぶ無双将軍。

 竜化して嵐のように剣を振るうフラッタに寄り添い、合わせるように双剣を振るう。


 ……フラッタと一緒に剣を振るうのは慣れている。


 まだスポットの最深部にすら到達していない頃からフラッタとは剣を合わせて、心を繋げて来たんだ。

 俺達の剣に意思疎通の必要は無い。


 だって俺達のこころは、いつだって繋がってるんだから!


「「おおおおおおおっ!!」」


 剣が重なり合うのと同じように、俺とフラッタの声が重なる。

 その声で俺達は、巨人との決着が近い事をお互いに悟る。


 巨人の両足がボロボロになるまで斬撃を繰り出し、巨人の膝が折れたタイミングでロングソードの腹をフラッタの足元に用意する。


 何も言わずに俺のロングソードを踏み込むフラッタ。

 そして俺はフラッタの乗ったロングソードを思い切り振り上げて、フラッタを巨人の首元まで投げ上げる。


「喰いちぎれっ! 剛震撃ぃぃぃ!」


 完全に息の合った踏み込みで巨人の首元まで飛んで行ったフラッタは、小さな自分の体より巨大なドラゴンイーターを、隙だらけの巨人の首元に思い切り叩き込む。

 フラッタのドラゴンイーターがその首元に触れた瞬間、まるで猛獣に喰いちぎられるかのように、巨人の首が荒々しく千切れ飛んだ。


「(3体ものイントルーダーがこんなにもあっさりと……!)」


 その光景を目にしたノーリッテは、焦っているのか喜んでいるのか分からない声を轟かせた。


 巨人の首が地面に落ちるのと同時に地面に降り立ったフラッタは既に竜化を解除していて、すぐにマグナトネリコに向かって駆け出していく。

 マグナトネリコに向かって焦天劫火を放った俺は、フラッタに続いてマグナトネリコに双剣を叩き込んでいく。


「さぁ幕引きだぜ! 今度こそ逃がさないからなぁっ!」


 3体のイントルーダーを滅ぼしている間にみんなが攻撃を続けてくれたおかげで、マグナトネリコの体にも切り傷が刻まれ続けている。


 右手のロングソードにありったけの魔力を込める。

 お前には回復の暇も、発狂の機会も与えてやらない!


「くたばれノーリッテ! 絶空ーーーーーっ!」

「(これがダン君の本気の魔りょ……!)」


 魔力枯渇覚悟で全力を込めた、渾身の絶空をノーリッテに放つ。


 HPが切れたマグナトネリコはその剣撃に耐えることはできず、剣撃に飲まれて呆気なくその幹を爆散させた。


「く……! 倒せた、か……!?」


 魔力枯渇でグラつく頭で魔物察知を発動。

 マグナトネリコの反応は消失している。


 本体を滅ぼしても未だ健在の5本の巨木に双剣で切りかかり、枯渇しかけた魔力を一気に回復。

 焦天劫火とディバインウェーブで他の5本も一気に殲滅していく。


「吹き飛ばすのっ! ムービングディザスターッ!!」


 絶影とクルセイドロアを重ね合わせた、ニーナの超高速の暴風が全ての巨木を薙ぎ倒し、最深部には全ての魔物の反応が消失する。


 ――――だけど、死の気配だけがそのままだ。


「終わった……? けど、それにしてはこのプレッシャーは……」


 みんなの顔を見ると、やっぱりみんなも俺と同じく緊張した面持ちで、武器を構えながら周囲を注意深く見回している。

 そして異変に最初に気付くのは、やはり魔力視が出来るティムルだった。


「おかしいわ……。周囲の魔力がどんどん濃くなっていく……。まるでどこからか魔力が注ぎ込まれているみたいに……!」

「魔力が注ぎ込まれる? それってまるで呼び水の鏡みたいに……」


 ティムルの言葉を聞いた瞬間、胸の奥から言い知れぬ不安が湧き上がってくる。


 そう言えばティムルが戦ったエロジジイが持っていたマジックアイテムって、確か異界の門を開くとかって……。

 そしてノーリッテは戦う前に、マジックアイテムが体内に……。


「(流石だ! 流石だよ仕合わせの暴君の諸君! 君達なら私を殺してくれると信じていたよ!)」

「ノーリッテ! やっぱりまだ生きて……」


 最深部に響き渡るノーリッテの声。

 それと同時に激しく揺れる宿り木の根。


「(さぁアナザーポータルで外に出たまえ! 決戦といこうじゃないか!)」


 外に出ろって……? 殺してくれると信じていたって?

 いったい、何が起きたんだ……!?


 混乱する頭で、一緒に戦っているみんなの顔を見る。


 俺の大切な家族の顔。

 いつもと変わらない、頼もしいパーティメンバーの顔。


「…………外に出よう」


 みんなを見ると自然と心が落ち着いていき、そして覚悟が決まっていく。


「ノーリッテは決戦と言った。なら奴は外にいるはずだ。決着をつけよう、今度こそ……!」


 俺の言葉に頷いてくれるみんな。

 気負っている様子も飲まれている様子も無い。いつも通りの可愛い顔だ。


 ……可愛いみんなにいつも笑っていてもらうために、やっぱりここで決着をつけないとな。


 無詠唱でアナザーポータルを発動。

 ノーリッテの言葉に従い、みんなと一緒に宿り木の根の入り口に転移する。


 さぁて、外では何が待ち受けているのやら……。
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