異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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5章 王国に潜む悪意3 世界を呪う者

347 解放 (改)

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 ライオネルから告げられた、エルフ族の滅亡の危機。

 予想もしていなかった深刻な事態に、俺もみんなもすぐに動き出すことが出来なかった。


 リーチェの誓約を破棄できれば全てが上手くいくって信じていたのに、まさかこんなことになっているなんて……。

 リーチェさえいれば他のエルフなんてどうでもいいとは言ったけど、リーチェの幸せのためにはリーチェだけ生き残らせても仕方ないんだよっ……!


 返すべき言葉が見つけられずにいる俺達に構わず、ライオネルは独白するように言葉を紡ぐ。


「本当に馬鹿な種族だよエルフ族は。新たなエルフが産まれず人口の減少を問題にしているのに、不安から目を逸らしたい為だけに多くの同胞を裁き、そして処刑したんだからね。魔物のほうがまだ分別があるんじゃないかな?」

「…………」


 ライオネルの言葉に心が重くなっていくのを感じる。


 コイツは俺達に敵対する気なんか全く無くて、ただ自分の心のままに言葉を発しているに過ぎない。

 けど絶望は……、諦めは伝染するものなんだ。


 諦め切ったライオネルの絶望に染まった言葉は、未来を目指す普通の人間が聞くには毒が強すぎる……!


「……最悪の気分だけど、エルフ族の存亡の話は分かったよ」


 絶望に飲まれるな。落ち着くんだ俺。

 まずは済ませるべき事を済ませてしまおう。他の話はそれからだ。


「でも俺たちにとって重要なのはリーチェの誓約破棄だ。もうどうでもいいって言うのなら、今この場でリーチェの誓約を破棄させてもらっても構わないよな?」

「勿論だ。その娘はエルフ族最後の1人になるかもしれないんだ。エルフ族なんかが君を縛り付けるのは間違ってる。君には幸せに、自由に生きて欲しいんだよ」

「…………ちっ!」


 ライオネルの慈愛に満ちた言葉に、思わず舌打ちを返してしまう。


 リーチェの問題を解決し、本当の意味でリーチェと1つになること。

 ずっと待ち望んでいたことだったはずなのに……、なんでこんなに悔しいんだ……!!


 リーチェも俺と同じ気持ちらしく、自身を縛り付ける誓約からの解放を許可されたというのに、怒りに満ちた目でライオネルを睨みつけている。


「ぐぅぅっ……! 今更、今更ぁっ……! くそ、くっそぉ……!」

「落ち着いてリーチェ。まずは1つ1つ片付けていきましょう?」


 けれど怒りに震えるリーチェの体を、ティムルが強く抱きしめてくれている。

 母親が我が子を抱き締めるように、リーチェの全てを肯定してくれている。


「いつか約束したとおり、ダンは貴女の事情を解決してみせたのよ? そんなダンに、貴女は応えなくていいのかしら?」


 怒りで我を忘れそうになっているリーチェに、今するべき事を優しく諭してくれる。

 そんなティムルに、固く握り締めていた拳を解いて両手で思い切り抱きつくリーチェ。


「悔しい……! 悔しいよティムル……! ずっと待ち望んでいたことなのに、悔しくて悔しくて頭がどうにかなっちゃいそうなんだっ……!」

「……うん。分かるわリーチェ。私もみんなも同じ気持ちだから」


 全身全霊の力を込めて、縋るようにティムルを抱きしめるリーチェ。

 そんなリーチェの背中を優しく擦るティムルの姿。


「でも大丈夫よ。さっきから貴女よりもずっと悔しそうな顔をしているダンが、今の貴女の気持ちもきっと受け止めてくれるからね」


 ……やっぱりエルフとドワーフが仲悪いなんて嘘だろ?

 そしてやっぱりティムルは女神で間違いないじゃないかぁ。


 全てを受け入れ抱きしめてくれる女神ティムルの抱擁に、リーチェも少しずつ落ち着きを取り戻していく。


「……ぼくはエルフでティムルはドワーフなのにさ。ぼくはダンの次にティムルのことが大好きだよ。いつも傍にいてくれてありがとうティムル……」

「あはーっ。貴女のほうがずっと年上だけど、お姉さんも貴女のことが大好きよーっ。リーチェと一緒に同じ人を愛することが出来て、本当に幸せっ」


 飛び切りの笑顔を見せて大好きだと告げてくれたティムルのおかげで、リーチェの顔にも少しだけ笑顔が浮かんだ。

 ティムルはリーチェの心が上向いたのを見逃さずに、先の話を促した。


「だからリーチェ。早く貴女と一緒にダンに愛されたいから、ね?」

「……うんっ! 今度はぼくが下になってあげるねっ! 己が本質。魂の系譜。形を持って現世に示せ。ステータスプレート」


 物凄く卑猥な約束事を交しながら、リーチェがステータスプレートを取り出した。


 リーチェとティムルを一緒に、そして今度はリーチェが下ってことは、以前3人で試した擬似行為のことを言ってるのね。

 うん。今度は擬似なんかじゃなく、2人をどこまでも愛してあげられる。今からすっごく楽しみだよーっ!


 そう言えばあの時は、ティムルに2人分の愛を注いでかなり無理させちゃったんだっけ?

 でもリーチェのことは2人分愛してあげるって約束してるからなぁ~。また無理させちゃうかも?

 
 取り出した自分のステータスプレートをライオネルに向けて翳すリーチェ。


「エルフ族の長ライオネル。エルフ族に誓ったぼくの誓約、エルフ族の長たる貴方の立会いの元に破棄させてもらいたいっ!」

「エルフ族の長として、君に刻まれた誓約の破棄を認める。君が立てた3つの誓い、詐称、秘匿、純潔の誓約全ての破棄を、長ライオネルの名に誓って認めよう」


 ライオネルがリーチェの言葉を認めると、リーチェのステータスプレートは淡く発光した。

 婚姻契約を結んだ時と同じ感じだな。ステータスプレートの内容が書き換わった証拠だろう。


 リーチェが俺に向けてステータスプレートを見せてくれる。



 リュート・マル・エルフェリア 女 471歳 巫術士 仕合わせの暴君
 ダン ニーナ ティムル フラッタ ヴァルゴ
 ダン(婚姻)



 ステータスプレートの名前が書き換えられて、間違いなく3つの誓約が消失している。

 これで何の問題もなくリーチェを、リュートを愛することが出来るんだ……!


「初めましてダン。ぼくの名前はリュート。リュート・マル・エルフェリアです」


 ステータスプレートを仕舞ったリーチェは、俺の前に立って柔らかく微笑んでくれた。

 そして優しい笑顔のままで、まるで今初めて出会ったように自己紹介をしてくれる。


「初めましてだけど、ぼくは君のことが大好きな君のお嫁さんです。これからもずっとずっとよろしくねっ」


 言い終えるなり俺の胸に飛びこんできてくれるリーチェ。


 リュートと呼ぶのは2人っきりの時だけと決めている。こいつはリーチェであってリュートでもあるんだ。

 どっちも否定させないし、2人分丸ごと受け入れてやるさっ!


 だけど初めましての今だけは、君の名前を呼ばせて貰うよ。


「初めましてリュート。お前のことが好きで好きで仕方無い、世界一幸せなお前の旦那のダンだ。リュートのこともリーチェのことも大好きだよ……」


 自己紹介を済ませたら、永遠の愛の誓いに2人で抱き合ってキスをする。

 リュートのファーストキスは数分間も続けちゃったけど、2人分のキスだから多少長くても仕方ないよね。





「……これからもよろしくね。今まで以上に幸せになろう」

「あはっ。今までだって信じられないくらい幸せだったけどね?」


 長い長い誓いのキスを終えて、改めてリーチェとリュートを愛する覚悟を決める。

 さぁこの美しいエルフのお姫様と最高に幸せになる為に、彼女を悩ます問題は全部解決してみせようじゃないかっ。


「……ライオネルさん。アンタにいくつか聞きたい事がある」

「ん? 私にかい? なにかな」


 リーチェの解放の流れから自分が呼ばれるのが意外だったらしく、少し意表を突かれた様子のライオネル。


 俺は我が侭で暴君らしいからさ。

 たとえ当人達が諦めていたって、種族の滅亡なんて許してやる気は毛頭ないよ。


 リーチェと、泣きながらリーチェを抱きしめるティムルの体を一緒に抱きしめて、ライオネルに向き直る。


「エルフは長命な種族なんだよな? 存命中のエルフ族の中に、年齢的に出産が可能な者は残ってるのか?」

「ああ、流石にそれは残ってるよ。エルフ族は800歳くらいまでは男女共に子作りが可能だと言われているからね。それなりにはいるはずだ」


 800歳まで子作りが可能? それって凄くない?

 というかよくそんな体質でここまで滅亡に瀕することが出来るよ。逆に凄いわ。


 しかしライオネルもこのように思われることに慣れているのか、表情だけで俺の気持ちを読み取り静かに首を振った。


「……肉体的には可能でも、精神的に難しいのだよ。長命であるがゆえに、エルフ族は性欲というものが生来乏しい種族なのだからね」


 ……いやそれよく言われるんだけどさぁ。

 俺の胸の中に収まってる誰よりエロいエルフのお姫様を見る限り、全くもって説得力が無いんすよ。


「精神的に弱い種族だからこそ、偽りの英雄譚に耐えられなかったのかもしれないな。他の種族からしたら馬鹿馬鹿しく映るかもしれないが、エルフ族にとっては精神的な充足が肉体に及ぼす影響は計り知れないからね」

「弱さを馬鹿にする気は無いけどさぁ。少子化に何か対策を取ったりはしなかったわけ?」

「勿論試されてるよ。肉体的に出産が可能な者たちに出産を強要するようなこともは試されたのだが、当然のように上手くいかなかった。我々としては完全にお手上げなのさ」

「……ま、その辺はなんとかするさ。無理矢理なんて俺も趣味じゃないしね」


 リーチェの誓約の流れから知ったエルフ族の醜悪さに、出生率を上げる為に取られた対策も碌でもなさそうだなと、その先を想像する事を意図的に止める。

 エルフ族のやり方に付き合う必要なんて無い。こちとら暴君様なんだからな。


「その気にならないにしても、肉体的に出産が可能なエルフが残ってるなら何とかしてみせるさ。リュートとリーチェにエルフ族の滅亡の責任なんて、絶対に負わせる気は無いから」


 お前らが勝手に押し付けたくせに、その英雄譚が原因でエルフが滅亡しましたとか絶対に言わせねぇ。

 何が何でもエルフの人口を増やしてみせるからなぁ?


 というか、もうヒントは貰ってるんだよな。フラッタが戦ったイントルーダーから。


「とにかく、今は目の前の問題を解決しよう」

「……うむ、そうだね。君がエルフ族に何を齎してくれるかは分からないが、その前に皆殺しにされては意味が無い」


 話題の切り替えに少し残念そうな素振りを見せたライオネルだったけど、それ以上に間近に迫っているメナスの脅威を思い出し、直ぐに応じてくれた。


「俺達は宿り木の根で襲撃者を滅ぼすつもりだ。エルフ族にはそこまでの案内を頼みたいんだけど」

「すぐに案内させよう。ただし宿り木の根の最深部にはエルフ族でも到達した者はいないんだ。最深部までの案内は出来ないからね」


 ですよねー。最深部に行ける者がいれば、エルフ全体の職業浸透はもっと進んでいるはずだもんなー。


 長命種なんだからもっと職業浸透を進めればいいのに。

 長命種だからこそ性欲が薄かったり、戦闘意欲や向上心も薄かったりするのかもしれないなぁ。


「問題ないよ。俺達は既に前人未到のアウターを制覇した経験があるからね。アウターの場所さえ教えてもらえれば自力で奥まで到達してみせるさ」

「頼もしいことだ。それではポータルで案内させるので、済まないが外まで移動してくれるかな」


 ライオネルの言葉に頷きで返す。これにて謁見は終了だ。

 エルフの兵士に案内されて、巨大なホールを後にした。


 出口までの案内の間、歩きながら今までの異世界生活が頭をよぎる。


 ずっと目標だったリーチェの問題が一応の解決を見たせいで、少し感傷的になっているのかな?

 俺に寄り添い、共に歩いてくれているみんなの横顔が愛おしい。


「ニーナ。俺、この世界で君に出会えたおかげで、それまでじゃ考えられないくらいに幸せな日々を送らせてもらってるよ」

「あはっ。なぁにダン、リーチェの問題が片付いたから今までを振り返ってたのー?」


 眩しいくらいの笑顔を向けてくれるニーナ。

 こんな笑顔を見せられたら、ニーナがかつて呪われていたことなんて誰も信じられないだろうなぁ。


「今までありがとうニーナ。そしてこれからも、ずっとずっとよろしくね?」

「んもーっ。今ダンが言った言葉って、全部私のセリフだからねー? ……でも、自分とダンが同じ気持ちでいるってことが、なんだかとっても嬉しいのっ」


 ニーナは俺の心を読めるのかなって何度も思ったけど、ただ単にいつも同じことを考えていただけなのかもしれない。


 2人が同じ気持ちでいるのが嬉しい。

 俺もだよニーナ。やっぱり俺達は同じ気持ちでいるみたいだ。


 そしてニーナと話した流れで、みんなの声も聞きたくなった。


「……ティムル。お姉さんには俺もみんなも凄く支えられてると感じるよ。いつも甘えちゃって申し訳ないけど、これからもいっぱい甘えさせてね」

「あはーっ。お姉さんこそみんなに甘えてるつもりなんだけど、みんなに頼りにされてるなら嬉しいわ。これからもお互いいっぱい甘え合いましょうねー?」


 歩きながらも、俺の頭をよしよしと撫でてくれるティムルお姉さん。

 お互いもっと甘えて欲しいって思ってるのに、お互いめいっぱい甘えてるつもりだったなんておかしいね。


 俺なんかよりもよっぽどみんなに頼りにされてるティムルお姉さんは我の家の大黒柱……いや、幸運の女神様に違いない。


「フラッタ。お前と一緒に過ごすほどみんなをどんどん好きになっていくよ。戦闘面でも頼りにしてる。俺を強くしてくれてありがとう」

「毎日毎日、ダンのことがどんどん好きになっちゃうからのぅ。それが伝わっているなら嬉しいのじゃあっ。強くなる前から妾を守ってくれた、優しいダンが大好きなのじゃーっ」


 全身で大好きだって伝えてくれるフラッタ。可愛すぎるよこの無双将軍。

 俺の異世界生活、重要な場面では常にフラッタがいてくれたような気がするよ。


 まったく、これだからフラッタは……。俺をどこまで幸せにしてくれるんだか。


「リーチェ。遅くなっちゃったけど、ようやくお前のことも全部丸ごと貰ってあげられるよ。リーチェのこともリュートのことも、この世界の誰よりも幸せにしてあげるからな」

「454年もぼくを縛っていた誓約から、1年も待たずにぼくを解放してくれたんだよ? どこが遅くなったって言うのさ?」


 初めて婚姻を申し込んだ時には、泣きながら俺の申し出を拒否したリーチェ。

 そんなお前の事を、俺は1秒だって待たせたくなかったんだよ。


「ふふ。454年分、そして2人分も愛してもらえるなんて楽しみだなぁっ。900年分も愛してもらわなきゃいけないなんて大変だよぅ……、お互い頑張ろうねっ!」


 長い間独りきりだったリーチェを誰よりも幸せにしてやりたい。

 それだけでここまで頑張ってきて、ようやくリーチェを笑顔にしてやれた気がするよ……。


 我が家のハウスルールに則って、908年分を取り立てなきゃいけないなぁ。毎日愛する分とは別にねっ。


「ヴァルゴ。恐らくメナスは、イントルーダー3体を超える戦力を用意してるはずだ。お前の槍に頼らせてくれ」

「未だに私だけイントルーダーとの戦闘経験がありませんからね。そんな私の槍を信じてくれる旦那様の期待を裏切ることが無いよう、あらゆる敵を貫くとお約束しましょう。……だから全てが済んだあとのご褒美も、約束してくれますか?」

「もっちろん。全部終わったらいっぱい愛し合おうな。立ち塞がる障害全てを貫いたあとは、思い切り貫いてあげるからねー」


 はじめは遠慮と恥じらいがあったヴァルゴも、今やなんの遠慮もなく俺におねだりまでしてくれるようになったのが嬉しすぎる。


 ご褒美をあげるのは構わないんだけど、ヴァルゴへのご褒美って俺があげてるのかもらってるのか分からなくなってくるんだよなぁ。

 いや、これはヴァルゴに限った話じゃないかー。


「それでは早速参りましょう。皆さん準備は宜しいですか?」

「おっと」


 突然みんな以外の声が耳に届いて、少しだけ戸惑う。


 みんなと言葉を交わしていたら、いつの間にか入り口まで戻ってきていたようだ。

 みんなと居るとあっと言う間に時間が過ぎちゃうから、本当にびっくりするよ。


 ガルシアさんの時と同じように一時的に、だけど案内のエルフさんにはファミリアに加入してもらい、彼の唱えたポータルでメナスとの決戦の地に赴くのだった。
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