異世界イチャラブ冒険譚

りっち

文字の大きさ
上 下
343 / 878
5章 王国に潜む悪意3 世界を呪う者

343 招待状 (改)

しおりを挟む
 メナスを撃退し、各自がイントルーダーを滅ぼした日。

 リーチェの事情をみんなに共有した後は、ただひたすらにみんなと愛し合って過ごした。


 俺自身みんなのことが愛おしくて仕方なかったし、大きな戦いの後でみんなもいつも以上に昂ぶっていたのもある。

 でもそれ以上に家族みんながリーチェのことで憤り、だけどリーチェの事を今まで通り家族で受け入れるんだと、みんなが俺を通してリーチェに伝えているみたいに思えた。

 うちの家族はみんな仲が良くて、それが本当に幸せだと感じられた。


 たった1度だけ寝室を出たのは、リーチェの好色家を浸透させるために奈落に潜った為だ。

 他のみんなを失神させてリーチェと2人っきりで浸透を済ませるつもりだったけど、なんと超敏感フラッタだけが新スキルを試したい一心で俺の愛撫に耐え抜いた。

 ウェポンスキルを試したいから快楽に耐え抜くって、発想が完全に無双将軍過ぎるよフラッタぁ……。


 フラッタを伴って、リーチェとキスしたまま奈落に赴く。


「それじゃ好色家が浸透し終わるまではキス続行だからねーっ」


 ……なんて宣言したものの、上限レベル30の好色家は一瞬で浸透が終わってしまった。

 リーチェの好色家浸透は、リーチェと舌を絡ませながら同時詠唱スキルでクルセイドロアをぶっ放すだけの簡単なお仕事だったのだ。


 まさか職業浸透が進んで悔しいと思う日が来るなんて……!


 リーチェの甘ーい舌をちゅるちゅるしながら絶望に打ちひしがれていると、新たに迫った魔物に向けてフラッタが真っ赤なフレイムドラゴンブレードを掲げて叫んだ。


「燃え盛るのじゃあっ、竜火葬炎っ!!」


 フラッタの叫びに呼応して、フラッタを中心に数十メートルはありそうな巨大魔法陣が出現する。

 そしてその魔法陣が赤く発光したと思った次の瞬間、魔方陣に乗っていたアウターエフェクトモドキたちが一斉に燃え上がった。


「これは……。強化版フレイムフィールド、といったところかのう?」


 魔物が燃え尽きた周囲を見渡して、フラッタがひと言感想を漏らす。

 ……確かに効果は似ているかもしれないけど、初級魔法のフレイムフィールドと比べるのも馬鹿らしい威力と範囲だったんだよ?


 フレイムドラゴンブレードに付与された竜火葬炎は、フレイムフィールドの超強化版といった効果のウェポンスキルのようだ。

 ドラゴンイーターには単体用のウェポンスキル剛震撃が付与されているから、広範囲ウェポンスキルが使用可能になったのはバランスが良さそうだね。


「ともあれ、これで焦天劫火が使えるダンと一緒に敵を焼き払うことが出来るのじゃーっ! ダンとお揃いっ、お揃いなのじゃーっ!」


 ぴょんぴょん飛び跳ねて全身で喜びを爆発させるフラッタ。

 その姿は可愛いんだけど、言っている内容が無骨すぎるんだよ?


 はしゃぐ無双将軍フラッタが可愛すぎたので、背後からキスをしながら敏感な乳首をねちっこく責め立ててあげたけどっ。


「……待てよ? お揃い? 俺とフラッタのウェポンスキルがお揃い?」

「ダ~ン~……? やめちゃヤなのじゃぁ……」

「もっと強くぅ……。あの時みたいにめちゃくちゃにしてぇ……?」

「ごめん2人とも。ちょっと思いついた事があるんだ。帰る前に試してみていいかな? くいーっ」

「「やぁぁぁんっ!!」」


 奈落の底に響く2人の嬌声。

 本当にこの2人は敏感だなー。くりくりぎゅー。くりくりぎゅー。


 思い付きのアイディアや、瞬く間に浸透を終えた好色家の影響と2人の乳首の硬さをたっぷりと確かめてから、ぐったりしたリーチェとフラッタを抱っこして帰宅する。

 そしてそのまま寝室に直行して第2ラウンドを開始した。



 今回の戦いで強制的に発情させられたフラッタ、ラトリア、エマの3人は、俺に上書きして欲しいといつも以上に積極的に迫ってきてくれた。

 ガレルさんとの決別で強いストレスを感じたニーナとターニアも、露骨なくらいに俺に甘えてきてくれた。

 好色家を浸透させたリーチェは、まるでその効果を検証するかのように何度も俺に体を差し出してくる。

 比較的落ち着いているティムルとヴァルゴも、みんなに引っ張られていつも以上に積極的だった。

 元々エロシスターのムーリは、いつも通りエロかった。


 好色家先生のハイパー持久力補正にものを言わせて、寝室から全く出ずに寝食も惜しんで、ただひたすらに肌を合わせて、心を通わせ、愛し合った。

 そんな俺達の元にゴブトゴさんから緊急の呼び出し要請が届いたのは、みんなと肌を重ね続けて2度目の夜が明けたくらいのタイミングだった。





「宰相ゴブトゴより伝令! 仕合わせの暴君は可及的速やかに登城されたし! 事態は非常に切迫し予断を許さない、最優先で登城せよとのことですっ!」


 伝令に来た男が、我が家の玄関先で声を張り上げている。

 裸のみんなが転がっている家の中に野郎を入れる気は全く無かったので、家の前で用件を聞く事にしたのだ。


 さてどうしたものかなぁ。ゴブトゴさんの要請に素直に応じる必要は無いけど、必死さが窺える内容だ。

 それに予断を許さないと言いながら、救援要請じゃないことも引っかかる。


 ゴブトゴさんには『行けたら行きます』という返事をすることにして、納得のいかない様子の伝令役を締め出した。


「……とりあえず、ハラ、減ったなぁ」


 奈落から帰った後、食事も睡眠も取らずに丸1日以上みんなと愛し合ったせいで空腹感を覚える。

 空腹感は持久力補正では補えないからなぁ。


「起きたついでだ。なんか作るかー」


 俺が腹減ってるんだから、一緒に居たみんなだって空腹のはずだ。

 来客があった事で1度落ち着いたはずだし、間もなく身支度を整えて下りてくるんじゃないかな?


 みんなが寝室から出てくる前に、簡単な食事を用意しておく事にしよう。




 敏捷性補正と身体操作性を駆使して超高速で調理を済ませ、肉の焼ける良い匂いが食堂に漂ってきた頃、お腹を空かせたお姫様たちがヨダレを垂らしながらやってきた。


「ん~っ! とってもい良い匂いなのーっ!」

「ダン~っ! 今のぼくにこの匂いは反則だよぉ~っ! まだ食べちゃダメかなーっ!?」

「出来た料理から食べて良いよ。冷めないうちに召し上がれ」


 握った両手を胸の前で激しく上下に振っているリーチェにキスをして、食べていいよと許可を出す。

 俺はコックに専念して、みんなには俺を待たずに食事を始めてもらった。


 ……完成した端から平らげられちゃうから、作っても作っても追いつきませんねー?


 調理と配膳を続けながらみんなと会話できるように、リーチェにお願いして食堂と炊事場の音を繋いでもらい、ゴブトゴさんから呼び出しを受けた事実をみんなとも共有した。


「ふ~ん? ダンに追い出されて大人しく帰ったんだ? それなら襲撃を受けているとかいう話じゃないのかなぁ?」


 沢山食べて空腹が少し落ち着いたらしいニーナが、俺が受けた印象を代弁してくれる。

 そうなんだよ。切羽詰ってる感じだったのに割とあっさり締め出されたんだよなー、伝令の人。


「呼び出されたのは私達だけ、か。それじゃムーリやエマたちとは一旦解散ね」


 状況は不透明だけど、我が家の参謀ティムルが直ぐに行動の指針を打ち出してくれる。


「今回図らずも、寝室に篭ってひたすらダンと愛し合うことを試せたのは大きかったわ。食事や休憩の時間をどうするかは次回までに考えておきましょっ」

「そうじゃのう。まだまだ抱いてもらいたいところなのじゃが、外が騒がしいと落ち着いて愛してもらえないのじゃ。まずは雑事を片付けて、全てが終わったら心置きなく……、なのじゃっ!」


 ティムルとフラッタの言葉に、みんなうんうんと同意する。

 つまり次回からは食事の問題も解決して、数日間みんなと寝室に閉じこもれる夢の時間が過ごせるんですかね?


「それじゃ私達は襲撃のあった場所の様子を確認しながら、皆さんの帰りを待ちますね」

「ムーリちゃんの言う通り、各地の事後処理は私たちで担当するから安心してねー」


 今回の襲撃の事後処理を買って出てくれるムーリとターニア。

 もうイントルーダーが潜んでいる可能性はほぼ無いだろうし、2人が一緒なら危険も無いだろう。


「えっちじゃないことを頑張った後は、えっちなご褒美をたっくさんあげちゃいますよーっ。だから早く帰ってきてくださいねっ、ダンさんっ!」

「あ~……、でもステイルークではお父様に会わないとダメかもなぁ……。めんどくさいの~……」


 えっちなご褒美を約束してくれるムーリに返事をする前に、うんざりしたようなターニアの声が風に乗って届けられた。


 勘当された身の上なのに、獣爵家当主に会う可能性を面倒臭いと切って捨てるターニア。

 この人、相変わらず豪快すぎるわぁ……。


「各地への説明と確認は4人で参りましょうか。これでも私は竜爵家の当主夫人で、現役の貴族ですから」


 ムーリとターニアが買って出てくれた事後処理に、ラトリアも同行を申し出てくれる。


「現獣爵家当主のレオデック様とも面識がありますからね。私が同行した方が話が早いでしょう」

「もう各地に危険は無いかとは思いますが、皆さんの不在中は固まって動きましょうか。ラトリア様とターニア様がいらっしゃれば、イントルーダーでも出てこない限りは撃退できるはずです」


 ラトリアとエマもムーリたちに同行してくれるなら、戦力面でも身分的な意味でも安心だ。

 いっそのこと4人でパーティを組めばいいんじゃないかなって思ったけど、なんとか口に出さずに堪えることが出来た。


 新しく魔物狩りとして足を踏み出したムーリとターニアの2人と、ゴルディアさんが残したパーティを守るラトリアとエマの状況は全く違う。

 軽はずみな事を言うわけにはいかないよね。


「みんなお腹いっぱい食べてくれた? あ、フラッタとリーチェには聞いてないからねー?」


 ぶーっ! っとほっぺを膨らませるフラッタとリーチェを抱きしめながら俺も食事を済ませる。

 自覚は無かったけどやはり相当のエネルギーを消費していたらしく、自分でも驚くほどの量を平らげてしまった。


「やっぱ職業補正だけで全てを補うのは無理があるか……」


 持久力補正で食事を取らなくても体力は持続するけど、それは魔力で無理矢理補ってるだけなのかもしれない。

 寝室に長期間篭る時には、無理せずちゃんと食事をすべきだね。


 食事を済ませ、片付けも終えて、みんなとの濃厚なおはようのキスを交わす。


「それじゃ4人には留守を任せるよ。もう危険は無いと思うけど、俺がメナスを取り逃しちゃってるから油断はしないでね」

「「「はぁい……」」」


 キスでトロトロに蕩けた表情になった4人が、瞳を潤ませながらも頷いてくれる。

 そんな4人に行ってきますと更に唇を合わせてから、ポータルを使って王城へと転移した。


「あらぁ? 何かしらあれ?」


 6人で王城の前に出ると、なにやら城門の前に人だかりが出来ている。


 近づくと面倒臭そうなので遠巻きに観察してみると、どうやら貴族連中が城に入れろとごねていて、それを兵士さんが必死に食い止めている状況のようだ。

 魔物が溢れ出したばかりの王城になんか、そんなに戻りたいものかぁ?


「あ、皆さん! お待ちしておりました! すぐにこちらへ!」


 人混みから距離を取っていたのが悪かったのか、兵士さんが俺達を見つけて駆け寄ってきた。

 城門前の状況を見ると城に向かう気が削がれる想いだけど、兵士さんに八つ当たりしても仕方ない。素直に従おう。


「あっ! リーチェ様! どうかお話をっ……!」

「ええいどけっ! 退かんかぁっ! 兵士如きが私の行く手を阻むとは何事だぁっ!」


 数人の兵士さんに先導されて城門に向かう俺達の中にリーチェの姿を見つけた貴族連中は、俺達に駆け寄ろうとしてまた兵士さんに阻まれている。

 流石は無能に定評のあるスペルド王国貴族たちだ。人の足を引っ張らせたら右に出る者はいないな?


 さて、ここで足止めを食らうのは面倒だ。なんならいっそ1度出直すかな?

 そう思い始めた俺の目の前で、俺達を先導している兵士さんが殺到している貴族達に向けて普通に抜剣したからびっくりしてしまう。


「ひっ!? き、貴様ぁっ! いち兵士の分際で、いったい誰に剣を向けぐへぁ!?」


 そして何の躊躇も無く、怒鳴り込んできた貴族の腹に剣の柄をめり込ませた。


 崩れ落ちる小太りの貴族。

 その貴族を思い切り蹴飛ばして道を開ける兵士さん。


 目の前の光景に唖然として動けない貴族を、邪魔だと言いながら躊躇なく殴り飛ばして道を開けてくれる兵士さんたち。

 心なしか、喜々として貴族を殴り飛ばしてるように見えますね?


「宰相ゴブトゴより、この方たちの登城は最優先との通達がありました! それを阻む者は実力を行使して排除する許可もいただいております! 今より私共の前に立ち進行を阻む者は、何者であろうとも警告無しに斬って捨てさせていただきますので、皆様もそのおつもりで!」


 何人もの貴族に殴る蹴るの暴行を加えた後に、改めて警告を発する兵士さん。

 いや、その警告を先にしておけば群がられなかったんじゃないの?


 もしかして兵士さんたちもコイツらのこと殴りたかったの? 俺も殴りたいくらいだし。


 既に暴力による排除を目の当たりにし、そして剣の切っ先を向けられた貴族たちは、まるで波が引くように道を開けてくれた。

 普段は強気なくせに、自分の安全が確保されていない状況だと物凄く従順になるのな。いるいるこういう奴ら。



「……もしかして、警告を遅らせたのはわざと? 皆さんもあいつらを殴ってみたかったの?」

「はっはっは! バレてしまいましたかーっ」


 貴族達を置き去りにして入城し、貴族たちと充分距離が離れた辺りで兵士さんに声をかける。

 兵士さんたちはみんな、俺の言葉に満面の笑顔を返してくれた。


「いやぁ常日頃からあの方々には辟易してまして。今回このような機会を与えてくださった皆さんには、どれだけ感謝しても足りませんよーっ!」

「勿論貴族があのような方々ばかりというわけでは無いんですけどね。そういった方は城に詰め掛けて迷惑をかけてきたりしませんから。今あそこにいる皆様には何の遠慮も要らないってやつですよっ」


 俺の質問を皮切りに、スカッとした! よくやった! 俺も殴りたかった! などと兵士さんが騒ぎ出した。

 逆にゴブトゴさんは兵士さんたちには慕われているようで、ありがとうとか流石はゴブトゴ様だっ! とか絶賛されている。


「本当は切って捨てたいところですが、王国騎士団員たる我等が、守るべき民を切るわけには参りませんからね」

「でしょうねー。殴る蹴るの時点でアウトの気はするけど?」

「……ですが、いくら我々でも腹に据えかねることはあるんです。だから今回の件は良いガス抜きになりましたよっ」


 あははと笑い合う兵士さんたちの姿を見て、貴族と接する機会の多かったであろう王国騎士団Fのみなさんの苦労が偲ばれる。


 でもレガリアの話を聞いた後だと、この国の貴族が無能なのってレガリアの画策のような気がしないでもないんだよなぁ。

 あいつらって国王と直接繋がってるような奴らだったし、貴族籍の登録、抹消なんてお茶の子さいさいって感じでしょ。


 国王を抱きこんでいるから城や国の人事なんて自由自在だし、国力を落として民を疲弊させるのが目的で、無能な働き者を選別して国民の上に立たせていたんじゃないか?


 そんな事を考えながら和気藹々とした雰囲気の兵士さんに案内された場所は、先日マーガレット殿下とも話した会議室だった。

 兵士さんが到着を告げ、部屋の中からはやはりマーガレット殿下の声で入室が許可される。


「失礼します。仕合わせの暴君の皆様、入室致します!」


 案内の兵士さんに続いて足を踏み入れた部屋には、マーガレット殿下とガルシアさんが座っていた。

 そしてその後ろには4人の男が立っていて、油断なくこちらの様子を窺っている。


 あの人たちも断魔の煌きのメンバーかな? 開拓村では殆ど姿を確認できなかったから分からないわ。


 室内には他にゴブトゴさんと、その補佐官っぽい人と護衛っぽい人。先日は居なかった偉そうな雰囲気を漂わせる年配の男性が何人か同席しているようだ。

 この人たちが、城を締め出されなかった仕事のできる貴族さんなのかな?


 俺達を案内してくれた兵士さんが部屋を出ていくと、それを見計らってマーガレット殿下が口を開いた。


「待っていたわ、仕合わせの暴君の皆さん。早速話をさせてもらいたいから、空いている席に座ってくれる?」


 挨拶も紹介もすっ飛ばしてすぐに話をしたいというマーガレット殿下の言葉に、周囲の人も異論は無いようだ。

 予断を許さない状況っていうのは本当なんだなぁ。


 素直に空いている席に腰を下ろし、マーガレット殿下の言葉を待つ。

 俺達が席に着くとマーガレット殿下はゴブトゴさんに目配せをして、それを受けたゴブトゴさんが立ち上がる。


「仕合わせの暴君の皆さん。王国の窮地を救ってくれた皆さんを失礼ながらもこうして呼び立ててしまった理由を、どうかこれから説明させてくれ。質問などは最後に受け付けるので、まずは最後まで聞いて欲しい」


 ゴブトゴさん、説明を始める前にひと言添えてくれるあたりが憎いよね。

 部下にも慕われているみたいだし、仕事が出来る人には違いないんだろう。


 危機感が足りないように感じてしまうのは、もしかしたら城に潜り込んだレガリアの構成員に情報操作でもされてたんじゃないかなぁ。


「2日前にスペルド王国の各地で魔物の襲撃が起きたのは、当事者である諸君に説明する必要は無いだろう。これについては説明を省かせてもらうが構わんか?」

「大丈夫だよ。その件に関しては俺達のほうが詳しいくらいだろうしね」

「うむ。諸君が各地に現れた襲撃者と魔物を排除してくれたおかげで、王国が被った被害は信じられないほどに軽微だった。こと人的被害に至っては皆無に近かったと言っていい。この国の宰相として、諸君には改めて感謝申し上げる」


 ……皆無に近かった、かぁ。


 被害を抑えられた事を喜ぶべきだけど、それでも犠牲者が出てしまったので素直には喜べないな。

 俺達は俺達に出来る事を精一杯頑張ったけれど、それでも襲撃を未然に防ぐことは出来ず、被害をゼロにすることは出来なかったんだ。


 両隣のニーナとフラッタが俺の手をぎゅっと握ってくれる。

 ありがとう2人とも。俺は大丈夫だから心配しないで。


「しかし同日、エルフたちの生活圏であるエルフェリア精霊国が何者かに襲撃されてな。エルフェリアでは多くの犠牲者を出てしまっているらしいのだ」


 エルフの生存圏、エルフェリア精霊国。

 スペルド建国前はエルフ族もアルフェッカで共に暮らしていたはずだから、エルフェリア精霊国もスペルドと時を同じくして建国された場所なのかな?


「エルフェリア精霊国への襲撃のタイミングは、諸君が襲撃を撃退してから数時間後のことだったようだ」

「…………」


 エルフの里が襲撃を受けたと聞いても、リーチェには何の反応も現れなかった。

 ニーナのように見限っているという感じではなく、単純にピンと来ていない様だった。


 450年以上も関わりが無ければ、もう無関係みたいなものか?

 そもそもリーチェはエルフェリア精霊国に足を踏み入れたことが無いとか?


「襲撃者は人間族の女性。単独で現れて次々に魔物を生み出して虐殺を始めたらしい。魔物を生み出したこと、そしてタイミング的にもスペルド襲撃とは無関係だとはとても思えないな」

「人間族の、女ぁ……?」


 魔物を生み出せるのは造魔が使えるメナスだと思うけど、アイツって女だったのか?

 でも、貪汚の呪具やサモニングパイルが存在する以上、召喚士じゃない者にも魔物を生み出す術はある。まだ確定じゃないか。


「襲撃者の女は虐殺を繰り返した後、エルフェリア精霊国が管理しているケイブ型アウター『宿り木の根』の奥に消えていったそうだ。君たちに渡すようにとこれを残してな」


 ゴブトゴさんが取り出したのは1枚の封筒。手紙……か。


 やっぱりエルフェリアを襲ったのはメナスっぽいけど、アイツって女だったの?

 精神支配したラトリアに手を出さなかったあたり、女性っぽいと言えなくもないけど……。


「女は3日後にエルフェリア全土にアウターエフェクトを放つと宣言し、それを阻止したければこの手紙を君たちに届けろと言ってきたそうだ」

「……国を滅ぼすと脅迫しておいて、それの要求が手紙の配達かよ? 迷惑すぎぃ」

「私達のほうでも内容を検めさせてもらった結果、諸君に連絡するしかないという結論に到ったのだ」


 ゴブトゴさんから封筒を受け取る。

 既に確認済みということなら遠慮なく開封しても大丈夫だろう。


 封筒の中には1枚の便箋。


『この世界を滅ぼしたくなければ、なるべく早く私の元に辿り着いてくれたまえ。宿り木の根の底で君達を待っている』


 ……完全にメナスだこれー! アイツ女だったのかよっ!


 エルフェリアが滅んでくれればリーチェを解放する手間が省けるけど、流石にそういうわけにもいかないかぁ。

 仕方ない。メナスの招待状に乗っかるとしましょうかねぇ。


 ……逃がしてしまったメナスの件と、リーチェの誓約を同時に解決出来そうなことだけはありがたいかな?
しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます

neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。 松本は新しい世界で会社員となり働くこととなる。 ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。 PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

処理中です...