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5章 王国に潜む悪意3 世界を呪う者
335 被害報告 (改)
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ようやく家族全員と合流出来て、さて帰ろうと思ったタイミングで呼び止められてしまう。
そんなものは無視して帰ろうと思ったけれど、リーチェの友人を無視するわけにはいかないかぁ。
ずっと独りだったリーチェが自分の友人だと俺に紹介する人物なんだもんね。リーチェの夫としては挨拶くらいしておかないと。
後ろを振り返り、声をかけてきた女性と向き合う。
初対面の俺達に代わって、リーチェがお互いを紹介を始めてくれる。
「ダン。こちらの女性がぼくの友人のマギー。この国の第2王女にして断魔の煌きのメンバーでもある、マーガレット・アクラ・トゥル・スペルディア殿下だよ。恐れ多くも、ぼくはマギーって呼ばせてもらってるんだ」
王女様なのはともかく、断魔の煌きのメンバーなの?
そう言われてみれば、開拓村襲撃の時にホーリースパークを放った人……、なのかな?
あの時は一瞬しか見れなかったからちょっと自信が無いなぁ。
「そしてこちらの男性が救世主の二つ名で知られる、ガルシア・ハーネット様だね。ガルシア様も断魔の煌きのメンバーの1人で、主に前衛を担当していらっしゃるんだ」
以前フラッタも身につけていた、聖銀のプレートメイルに身を包んだ精悍な男性がガルシアさんね。
この人がフレイムロードに切りかかって俺を助けてくれた、あの時の鎧の人だったのかな?
俺への紹介を済ませたリーチェは、断魔の煌きの2人の方を振り返る。
「そしてこの人がぼくの夫のダンだよ。こんなに早く会わせる機会が巡ってくるとは思わなかったけど、正真正銘この人がぼくの旦那様さ。後ろの女性2人はぼく達のパーティメンバーだね」
俺の紹介を終えると同時にぎゅーっと抱きついてくるリーチェ。可愛いし気持ちいい。
リーチェの事情も素性もどうでもいいわぁ。
この女性が俺の嫁って事実だけで、他のことはもう全部どうでも良すぎるぅ。
「初めまして。ただいま紹介に預かりました、ダンと申します」
どうでも良すぎるけど、俺のせいでリーチェの心証を悪くさせるわけにはいかないから、挨拶はしっかりしておこうかな。
リーチェのことは離してやらないけどっ。ぎゅー。
「断魔の煌きの活躍は何度も耳にしていますが、まずは開拓村で助けていただいた事に感謝を述べさせてください。あの時は本当にありがとうございました」
リーチェを抱きしめたままぺこりと頭を下げる俺。
……これってかえって無礼だったりしない?
俺が頭を下げるのに合わせて、リーチェもティムルもヴァルゴも一緒に頭を下げてくれる。可愛い。
俺達に頭を上げなさいと短く告げ、真剣な表情を作るマーガレット殿下。
「開拓村でのことは気にしなくていいわ。私たちはフレイムロードの討伐しか行なっていないのだから。実際に貴方を助けたのはあの場に居た騎士と警備隊の者たちなのだから、感謝はその者たちに贈るように」
「ま、そういうこった。アンタを助けられたのはただの偶然だ。感謝なんか要らんよ」
感謝は自分ではなく、現場に居た者たちにしなさいと仰るマーガレット殿下と、その言葉に気安い感じで乗っかるガルシアさん。
……この人本当にあの国王の娘なの? あのボンクラと同じ遺伝子を有しているとは思えないんだけど。
「ってかアンタ、広場でフレイムロードに殺されかかってた男だよな? あの時は間一髪の状況だったから印象に残ってる。顔を見たら思い出したよ」
「あーーっ! 居たわ、確かに居た居たっ! あれが貴方だったわけ!?」
おお? どうやらガルシアさんは俺の事を覚えていたようだ。
つまりあの時俺を助けてくれたのはこの2人で間違いないと。
ガルシアさんの言葉を聞いたマーガレット殿下は、合点がいった様子で大きく声をあげる。
その様子は先ほどの威厳を感じさせるものではなく、魔物狩りと接するような気安いものに感じられた。
「あの時はフレイムロードに集中してたから、貴方の顔は見てなかったのよね。すぐに別の者に任せちゃったし」
「はい。その節はお世話になりました。ガルシア様とマーガレット殿下のおかげでこうして生きていられます。騎士様や警備隊の方にも感謝しておりますが、お2人にも心よりお礼申し上げます」
頭を上げろと言われたばかりなので、会釈程度に頭を下げて感謝を伝える。
そんな俺の様子を見て、マーガレット殿下とガルシアさんは少し拍子抜けしたような表情だ。なぜに?
「んー? ダンさんだったかしら。貴方の評判って最悪なんだけど、実際に話してみるとそこまでって感じでもないわね。猫被ってたりするのかしら?」
「ぶははっ! ぶっちゃけすぎだろマギー!? ま、でも俺も同じ印象だよ。アンタの評判はマジで最悪なんだぜぇ?」
ガルシアさんの身分は分からないけれど、王女であるマーガレット殿下にかなり親しげに接している印象だ。
それにしても凄いな。まさか王女様や断魔の煌きのメンバーにまで俺の悪評が届いているとは……。
「あ、俺のことはガルシアって呼んでくれよ。俺もダンって呼ぶからよ。リーチェ様の旦那に様付けで呼ばれるなんて恐れ多すぎるってもんだ」
この国最強の魔物狩りにしては、思ったよりもフランクな反応だな? ま、変に堅苦しいよりはありがたいけどね。
「王国最強の魔物狩りを呼び捨てにするのは流石に憚られますので……。ガルシアさん、でお願いします」
現役の英雄であるガルシアさんを呼び捨てにするのは、こっちが恐れ多いってば。
でも俺って断魔の煌きに特に憧れとか持ってないし、あの時のお礼も言えたからそろそろお暇したいんだよ?
「では評判が悪い自分はなるべく早く自宅に引き篭もりたいと思うのですが……。失礼させていただいても宜しいですか?」
2人が話題に出した悪評を理由に帰宅を催促する。
ま、評判が良くっても寝室に引き篭っちゃうんだけどねっ!
……そういう意味ではメナスを取り逃がしたのは痛すぎるよぉ。このままじゃ安心して引き篭もれないじゃないかぁ……。
「……ダンさんにはお帰りいただいても構わないけど、リーチェにはもう少し詳しく話を聞きたいわ。あ、貴方とリーチェの馴れ初めじゃなくて、この騒動についての話だからね?」
いや、流石にこの状況下で恋バナを始めるとは思ってませんってば。
冗談なのか本気なのか分からなくてリアクションし辛いなっ?
「だからもしリーチェと一緒に帰りたいのであれば、時間を置いて迎えに来るか、一緒に城に残ってもらいたいの。これはスペルド王国第2王女マーガレットとしての言葉です」
「ぶっちゃけ今回俺らは何もしてなくて、リーチェ様1人で解決しちまったみたいなもんだからよ。話を聞かざるを得ないわけよ。旦那のアンタにゃ悪いけど、リーチェ様は置いてってくれ。この方の実力なら心配も無いだろ?」
強制はしてこないみたいだけど、王族と国最強の魔物狩りからの協力要請ってことね。
んー、確かに事情聴取は必要なんだろうけれど、ここまで来てリーチェを置いて帰るって選択肢は無いなぁ。
……だからリーチェ。上目遣いでおねだりするようにこっち見るのやめて? 押し倒したくなっちゃうでしょ?
元凶のメナスと、レガリアを率いていたという先代メナスの撃退に成功したんだから、多少城に拘束されても問題ないよな?
それにメナスの様子を見る限り、もうあいつは俺以外に興味を持っていないような気がするんだよね。
俺が愛するみんなのこと以外どうでもいいと思うように、メナスも俺以外の事に興味を持つ事は無い気がするんだよなぁ。
「えっと、悪いヴァルゴ。お前は先に家に戻って、俺の帰宅が遅れそうな事をみんなに伝えてくれる?」
「分かりました」
城に拘束されるのは構わないけど、それをみんなに伝える役は必要かな。
それと俺もまだ全員にちゃんと話を聞けたわけじゃないので、説明を補足する役も必要だよね。
「ティムルお姉さんは俺と一緒に城に残って、リーチェの話を補足して欲しいんだ。お願い」
「あ~、今回は私がみんなに指示を出したわけだしねぇ。説明役には適任かしら……」
「旦那様。皆と一緒に家で待っておりますので、なるべく早くお帰りになってくださいねぇ……?」
リーチェと一緒になって抱きついてくるヴァルゴ。
恥ずかしがり屋のヴァルゴがどんどん積極的になってきてくれて、最高に嬉しいよっ。
マーガレット殿下の前だということも忘れてリーチェとヴァルゴを抱きしめ、背後からティムルに抱きしめられてお団子になる俺達。
「……リーチェを娶りながらも複数の女性と関係を持つという話は本当なのね……?」
いいえ王女様。ニーナを貰ったらこのポンコツ姫エルフが押しかけてきただけです。
勿論受け入れたのは俺ですけどーっ!
「んーっ! そっちのほうを詳しく聞きたいけど、王女としてはまず騒動の説明をしてもらわないといけないのかーっ!」
「俺は1人の男として、そっちの話のほうを根掘り葉掘り聞きだしたいところなんだがねぇ?」
マーガレット殿下は恋バナがお好きであらせられるの?
リーチェに関して根掘り葉掘り聞かれても、餌付けしたらついてきちゃったとしか説明のしようがありませんよ?
「さぁマギー。まずは移動しようぜ。話をするって言ってもこんな場所で立ったままするもんじゃねぇだろ? ヴァニィ嬢もこのまま転がしておくわけにはいかないしな」
どうやらガルシアさんのおかげで、ようやくこの場から移動できそうだ。
早く話を終わらせて、愛するみんなと合流したいよぉ。
マーガレット殿下の案内で城内に戻る。
途中でヴァルゴをキスで送り出して、マーガレット殿下に呼び出しを喰らったゴブトゴさんとも合流し、会議室のような場所に通された。
部屋にいるのは俺、リーチェ、ティムルの3人。
向かいに座るのはマーガレット殿下とガルシアさん、そしてゴブトゴさんの3人。それと護衛らしき数名の騎士だけだった。
護衛以外に着席を促したマーガレット殿下は、全員が席に着くのを確認して静かに口を開く。
「使用人も避難させてあるから、お茶も用意できないのは許してちょうだいね。それじゃゴブトゴ。まずは城内と街中の被害状況を報告して」
「はっ! 始黒門からの魔物の出現は常に想定されていたことでしたので、重軽傷者は数え切れないほどですが死者の数は12名と、被害は最小に食い止められたかと思います。魔物の発生が城の内部……始まりの黒からでしたので、スペルディアの街にはほぼ被害は出ていないようですね」
……流石に死者をゼロには出来なかったか。
いや、これはどうしようもない。俺が気に病むことじゃないよね。
メナスに関して、俺達は後手に回るしかなかった。
襲撃が始まってから駆けつけるより他無かったんだから。
だからリーチェもティムルも、そんなに心配そうな顔をしなくて大丈夫だからね。
「事はスペルディアだけでなく、国中の至る所で襲撃が行われていたようですが、各地にペネトレイターを名乗る魔人族の集団が救援に駆けつけた事によって、この規模の襲撃にしては被害は驚くほど少ないようですね。詳細は現在調査しております。明日には報告書にまとめておきましょう」
ふむ。俺達が出向かなかった都市でイントルーダーが出現して街が壊滅、なんて事はなかったか。
メナスが国家転覆よりも俺達にしか興味が無かったことが幸いしたのかな。
今回の騒動の発端は、俺達仕合わせの暴君を分断させる為だったんだろうから。
「ただ、魔物が発生した原因については一切分かっておりません。スペルディアに限って言えばマーガレット殿下ご自身が元凶と対峙されたそうですが、他の場所に関しては今のところ何の情報も無い状態です」
魔物が発生した原因なぁ……。
魔物を生み出せるマジックアイテムの存在なんて信じて貰えるのかなぁ?
仮に信じてもらえたとして、簡単に開示していい情報でもないだろうし。
でも今回のことで、王国中の職業浸透が一気に加速しそうな気はするね。
戦えない人たちは街の中でも魔物の危険に晒される可能性に気付いたわけだし、今回戦闘に参加した人たちはペネトレイターの姿を見て攻撃魔法の有用性に気付いたはずだ。
トライラムフォロワーと教会を通して、職業浸透の目安や魔法使いの転職条件が少しずつ広まってきているらしいし、次に同じ事があったら街の住人が自力で防衛したりしてな。
報告は以上です、とゴブトゴさんが着席する。
ゴブトゴさんが座ったのを確認して、今度は俺達の方に視線を向けるマーガレット殿下。
「じゃあ貴方達の話を聞かせてもらおうかしら」
マーガレット殿下の鋭い視線が向けられる。
まるで詰問しているような、追及の眼差しで俺を見るマーガレット殿下。
「結果的にリーチェに助けられる形になったけれど、貴方達がスペルディアに来るのはあまりにも迅速すぎたわ。まるで今回の襲撃を想定でもしていたみたいにね。そもそも貴方達はどうやってスペルディアの異変を知ったのかしら?」
俺達を疑っているわけではないんだろうけれど、全く無関係だとも思ってなさそうだな。
さて、なんて答えるべきかなぁ?
いっそリーチェとティムルに丸投げしたいくらいなんだけど、俺の両隣に座った2人はテーブルの下で俺の手をにぎにぎしてニヤけてるから、あんまり頼りになりそうもないんだよなぁ。可愛いんだけどさぁ。
「……ゴブトゴさんが竜爵家宛てに出した救援要請を聞いて知ったんですよ。俺達はルーナ竜爵家と懇意にさせてもらってますからね」
流石に王国最強の魔物狩りがレガリアに所属しているとは思いたくないけど、まだこの人たちが味方だと確定したわけじゃないからな。
ボンクラ国王もレガリアに与していたっぽいし、情報の開示は慎重になるべきだ。
「ヴァルハールでも不穏な動きが察知された為に、ルーナ家の人たちはそちらの対応に追われていたんです。なので代わりに我が家の最大戦力であるリーチェとヴァルゴの2人を、王都スペルディアに派遣したという訳ですね」
我ながら、スラスラとでたらめを並べる自分の口に感心するなぁ。
でもこれが1番違和感の無い回答なんじゃなかろうか。
今回の件は、メナスの存在を知らなければ真相に辿り着くことは出来ない。
レガリアに好き放題されていたスペルド王国の首脳陣に、メナスとレガリアの話が通じるとは思えないからね。軽くお茶を濁させてもらおう。
「ぬぅぅ……。ヴァルハールにも不穏な動きがあったのか……。道理でいつまで経ってもヴァルハールから救援が送られてこないわけだ……!」
今さらっ!? 今更そこかよゴブトゴさーん!? 暢気すぎぃっ!
あれ、ひょっとしてこのオッサン癒し系なのっ!?
でも真面目な話してる時に、場を和ませるのやめてもらえませんかねぇっ!?
「……最大戦力、ね。確かにリーチェ様の実力は凄まじかったよ。リーチェ様がいなかったらスペルディアは護りきれなかった。それは認める。アンタらが敵じゃないのも間違いないんだろうさ」
俺の話を認めながらも、どこか剣呑な雰囲気を漂わせ始めるガルシアさん。
「……だがよぉ。なーんか胡散臭いんだよなぁ、ダンって」
ゴブトゴさんに和んでいたら、なんかガルシアさんに睨まれてしまった件。
まぁ胡散臭いのはしょうがないかな。メナスの事とか一切言ってないし。
「さっきもチラッと言ったけどよ、アンタの評判って最悪なんだぜ? でも実際に話してみるとそこまで酷い印象は無い。そして陛下を唆した主犯格が、アンタの悪評を積極的に広めていたカリュモード商会のヴァニィ嬢だったってことも引っかかる」
ヴァニィっていうのか、あの迷惑女。
にしても、ここで悪評を広めていたのがトライラム教会の孤児達だって言われたら絶対吹き出すところだったよ。セーフセーフ。
「……リーチェだけじゃなく、先ほどの魔人族らしい女性も凄まじい手練れだったと聞いているわ。そして城内に突如現れ魔物を食い止めてくれた魔人族で構成された謎の勢力。いつの間にか全員が城から去っていたって話だけれど、貴方達何か知ってるんじゃないの?」
マーガレット殿下も剣呑な雰囲気になってきた。
ペネトレイターに関しては知ってるも何も、俺の主催してるアライアンスだしなぁ。
ん~……。いつかは魔人族の存在をスペルド王国に開示しなきゃいけないとは思うけど、それって今なのかなぁ?
今回の襲撃が終わったら王国の転職魔法陣を利用させる気ではいたけれど、ペネトレイターを見た馬鹿共が自陣に引き入れようと騒いでいたみたいだし……。
「……ダンよぉ。そういうところが胡散臭いって言ってんだよ、俺は」
思案する俺に目敏く気付いたガルシアさんが追求してくる。
「お前、俺達に開示する情報を選んでるだろ? 全容を知っておきながら、俺達にその情報を開示する気が無いんだ。違うか?」
おっと。流石はこの国最強の魔物狩りの1人だ。見事な洞察力だね。
でもまぁちょっと面倒臭くなってきたなぁ。
この2人がリーチェの友人だったとしても、俺にとっては他人だしな。命の恩人ではあるけど。
「んー。分かりました。じゃ俺は全部知ってるけどもうなにも話す気はありません。ってことで帰っていいです?」
ガルシアさんとマーガレット殿下からしたら、俺の事はよほど怪しく見えるのかもしれないけどさぁ。
たった今死力を尽くしてこの国の脅威を撃退してきたってのに、この扱いは流石に気分悪いんだよねぇ。
「……はぁ? なんでそうなるんだよ。逆だ逆。全部話せ」
「嫌です。知りたきゃご自分で調査なさっては? この国最強のパーティなんでしょ、ガルシアさんたちって。俺如きに知り得た情報を追えないって事はないでしょ」
自分の心がささくれ立っているのが分かる。
そもそもメナスからリーチェの話を聞いた時点で、俺はスペルディアもエルフェリアも滅ぼす気でいたんだよ。
その上帰宅を足止めされて気分が悪いことこの上ないんだ。
別に感謝して欲しくてやったわけじゃないんだけどさ。
レガリアにもメナスにも到達できない程度の奴等が、後から出しゃばってきて俺の邪魔をするんじゃないよ……。
「はぁいダン。ちょっと落ち着きなさいねー? ちゅー」
「んぐぅっ!?」
隣に座るティムルお姉さんが、突然自身の唇で俺の口を塞いできた。
ちょ、お姉さん!? ここ王城の中で、今会議中で、しかも一触即発の状態だったんですけど!?
ああもうレロレロしちゃダメ!
あっあっあっ……! そんなに強く根元から吸っちゃダメぇ! ティムル大好きぃ!
「ぷはぁ。それじゃ交代よリーチェ。メロメロにしちゃってくれる?」
「おっけー! まっかせてよねっ! ちゅー」
わぁい! リーチェ大好きぃ!
ってあれ? さっきまで何の話してたんだっけ? まいっかぁ!
ちゅーっ。相変わらずリーチェの唾液は甘くて美味しいなぁ。じゅるじゅる。
って俺の唾液には味なんてついてないよ? だからそんなに必死に啜らなくていいから。ちゅぱちゅぱ。ああ、リーチェ……、最高に気持ちいいよぉ。
「いいいいっ、いきなりなにしてるのよアンタたちはーーーっ!?」
ん~? なんか煩いなぁ~?
え、気にしないで続けていいのティムル? やったぁ。
リーチェもティムルもぎゅーっとしてあげるねー。
可愛いっ! 2人とも大好きーっ!
そんなものは無視して帰ろうと思ったけれど、リーチェの友人を無視するわけにはいかないかぁ。
ずっと独りだったリーチェが自分の友人だと俺に紹介する人物なんだもんね。リーチェの夫としては挨拶くらいしておかないと。
後ろを振り返り、声をかけてきた女性と向き合う。
初対面の俺達に代わって、リーチェがお互いを紹介を始めてくれる。
「ダン。こちらの女性がぼくの友人のマギー。この国の第2王女にして断魔の煌きのメンバーでもある、マーガレット・アクラ・トゥル・スペルディア殿下だよ。恐れ多くも、ぼくはマギーって呼ばせてもらってるんだ」
王女様なのはともかく、断魔の煌きのメンバーなの?
そう言われてみれば、開拓村襲撃の時にホーリースパークを放った人……、なのかな?
あの時は一瞬しか見れなかったからちょっと自信が無いなぁ。
「そしてこちらの男性が救世主の二つ名で知られる、ガルシア・ハーネット様だね。ガルシア様も断魔の煌きのメンバーの1人で、主に前衛を担当していらっしゃるんだ」
以前フラッタも身につけていた、聖銀のプレートメイルに身を包んだ精悍な男性がガルシアさんね。
この人がフレイムロードに切りかかって俺を助けてくれた、あの時の鎧の人だったのかな?
俺への紹介を済ませたリーチェは、断魔の煌きの2人の方を振り返る。
「そしてこの人がぼくの夫のダンだよ。こんなに早く会わせる機会が巡ってくるとは思わなかったけど、正真正銘この人がぼくの旦那様さ。後ろの女性2人はぼく達のパーティメンバーだね」
俺の紹介を終えると同時にぎゅーっと抱きついてくるリーチェ。可愛いし気持ちいい。
リーチェの事情も素性もどうでもいいわぁ。
この女性が俺の嫁って事実だけで、他のことはもう全部どうでも良すぎるぅ。
「初めまして。ただいま紹介に預かりました、ダンと申します」
どうでも良すぎるけど、俺のせいでリーチェの心証を悪くさせるわけにはいかないから、挨拶はしっかりしておこうかな。
リーチェのことは離してやらないけどっ。ぎゅー。
「断魔の煌きの活躍は何度も耳にしていますが、まずは開拓村で助けていただいた事に感謝を述べさせてください。あの時は本当にありがとうございました」
リーチェを抱きしめたままぺこりと頭を下げる俺。
……これってかえって無礼だったりしない?
俺が頭を下げるのに合わせて、リーチェもティムルもヴァルゴも一緒に頭を下げてくれる。可愛い。
俺達に頭を上げなさいと短く告げ、真剣な表情を作るマーガレット殿下。
「開拓村でのことは気にしなくていいわ。私たちはフレイムロードの討伐しか行なっていないのだから。実際に貴方を助けたのはあの場に居た騎士と警備隊の者たちなのだから、感謝はその者たちに贈るように」
「ま、そういうこった。アンタを助けられたのはただの偶然だ。感謝なんか要らんよ」
感謝は自分ではなく、現場に居た者たちにしなさいと仰るマーガレット殿下と、その言葉に気安い感じで乗っかるガルシアさん。
……この人本当にあの国王の娘なの? あのボンクラと同じ遺伝子を有しているとは思えないんだけど。
「ってかアンタ、広場でフレイムロードに殺されかかってた男だよな? あの時は間一髪の状況だったから印象に残ってる。顔を見たら思い出したよ」
「あーーっ! 居たわ、確かに居た居たっ! あれが貴方だったわけ!?」
おお? どうやらガルシアさんは俺の事を覚えていたようだ。
つまりあの時俺を助けてくれたのはこの2人で間違いないと。
ガルシアさんの言葉を聞いたマーガレット殿下は、合点がいった様子で大きく声をあげる。
その様子は先ほどの威厳を感じさせるものではなく、魔物狩りと接するような気安いものに感じられた。
「あの時はフレイムロードに集中してたから、貴方の顔は見てなかったのよね。すぐに別の者に任せちゃったし」
「はい。その節はお世話になりました。ガルシア様とマーガレット殿下のおかげでこうして生きていられます。騎士様や警備隊の方にも感謝しておりますが、お2人にも心よりお礼申し上げます」
頭を上げろと言われたばかりなので、会釈程度に頭を下げて感謝を伝える。
そんな俺の様子を見て、マーガレット殿下とガルシアさんは少し拍子抜けしたような表情だ。なぜに?
「んー? ダンさんだったかしら。貴方の評判って最悪なんだけど、実際に話してみるとそこまでって感じでもないわね。猫被ってたりするのかしら?」
「ぶははっ! ぶっちゃけすぎだろマギー!? ま、でも俺も同じ印象だよ。アンタの評判はマジで最悪なんだぜぇ?」
ガルシアさんの身分は分からないけれど、王女であるマーガレット殿下にかなり親しげに接している印象だ。
それにしても凄いな。まさか王女様や断魔の煌きのメンバーにまで俺の悪評が届いているとは……。
「あ、俺のことはガルシアって呼んでくれよ。俺もダンって呼ぶからよ。リーチェ様の旦那に様付けで呼ばれるなんて恐れ多すぎるってもんだ」
この国最強の魔物狩りにしては、思ったよりもフランクな反応だな? ま、変に堅苦しいよりはありがたいけどね。
「王国最強の魔物狩りを呼び捨てにするのは流石に憚られますので……。ガルシアさん、でお願いします」
現役の英雄であるガルシアさんを呼び捨てにするのは、こっちが恐れ多いってば。
でも俺って断魔の煌きに特に憧れとか持ってないし、あの時のお礼も言えたからそろそろお暇したいんだよ?
「では評判が悪い自分はなるべく早く自宅に引き篭もりたいと思うのですが……。失礼させていただいても宜しいですか?」
2人が話題に出した悪評を理由に帰宅を催促する。
ま、評判が良くっても寝室に引き篭っちゃうんだけどねっ!
……そういう意味ではメナスを取り逃がしたのは痛すぎるよぉ。このままじゃ安心して引き篭もれないじゃないかぁ……。
「……ダンさんにはお帰りいただいても構わないけど、リーチェにはもう少し詳しく話を聞きたいわ。あ、貴方とリーチェの馴れ初めじゃなくて、この騒動についての話だからね?」
いや、流石にこの状況下で恋バナを始めるとは思ってませんってば。
冗談なのか本気なのか分からなくてリアクションし辛いなっ?
「だからもしリーチェと一緒に帰りたいのであれば、時間を置いて迎えに来るか、一緒に城に残ってもらいたいの。これはスペルド王国第2王女マーガレットとしての言葉です」
「ぶっちゃけ今回俺らは何もしてなくて、リーチェ様1人で解決しちまったみたいなもんだからよ。話を聞かざるを得ないわけよ。旦那のアンタにゃ悪いけど、リーチェ様は置いてってくれ。この方の実力なら心配も無いだろ?」
強制はしてこないみたいだけど、王族と国最強の魔物狩りからの協力要請ってことね。
んー、確かに事情聴取は必要なんだろうけれど、ここまで来てリーチェを置いて帰るって選択肢は無いなぁ。
……だからリーチェ。上目遣いでおねだりするようにこっち見るのやめて? 押し倒したくなっちゃうでしょ?
元凶のメナスと、レガリアを率いていたという先代メナスの撃退に成功したんだから、多少城に拘束されても問題ないよな?
それにメナスの様子を見る限り、もうあいつは俺以外に興味を持っていないような気がするんだよね。
俺が愛するみんなのこと以外どうでもいいと思うように、メナスも俺以外の事に興味を持つ事は無い気がするんだよなぁ。
「えっと、悪いヴァルゴ。お前は先に家に戻って、俺の帰宅が遅れそうな事をみんなに伝えてくれる?」
「分かりました」
城に拘束されるのは構わないけど、それをみんなに伝える役は必要かな。
それと俺もまだ全員にちゃんと話を聞けたわけじゃないので、説明を補足する役も必要だよね。
「ティムルお姉さんは俺と一緒に城に残って、リーチェの話を補足して欲しいんだ。お願い」
「あ~、今回は私がみんなに指示を出したわけだしねぇ。説明役には適任かしら……」
「旦那様。皆と一緒に家で待っておりますので、なるべく早くお帰りになってくださいねぇ……?」
リーチェと一緒になって抱きついてくるヴァルゴ。
恥ずかしがり屋のヴァルゴがどんどん積極的になってきてくれて、最高に嬉しいよっ。
マーガレット殿下の前だということも忘れてリーチェとヴァルゴを抱きしめ、背後からティムルに抱きしめられてお団子になる俺達。
「……リーチェを娶りながらも複数の女性と関係を持つという話は本当なのね……?」
いいえ王女様。ニーナを貰ったらこのポンコツ姫エルフが押しかけてきただけです。
勿論受け入れたのは俺ですけどーっ!
「んーっ! そっちのほうを詳しく聞きたいけど、王女としてはまず騒動の説明をしてもらわないといけないのかーっ!」
「俺は1人の男として、そっちの話のほうを根掘り葉掘り聞きだしたいところなんだがねぇ?」
マーガレット殿下は恋バナがお好きであらせられるの?
リーチェに関して根掘り葉掘り聞かれても、餌付けしたらついてきちゃったとしか説明のしようがありませんよ?
「さぁマギー。まずは移動しようぜ。話をするって言ってもこんな場所で立ったままするもんじゃねぇだろ? ヴァニィ嬢もこのまま転がしておくわけにはいかないしな」
どうやらガルシアさんのおかげで、ようやくこの場から移動できそうだ。
早く話を終わらせて、愛するみんなと合流したいよぉ。
マーガレット殿下の案内で城内に戻る。
途中でヴァルゴをキスで送り出して、マーガレット殿下に呼び出しを喰らったゴブトゴさんとも合流し、会議室のような場所に通された。
部屋にいるのは俺、リーチェ、ティムルの3人。
向かいに座るのはマーガレット殿下とガルシアさん、そしてゴブトゴさんの3人。それと護衛らしき数名の騎士だけだった。
護衛以外に着席を促したマーガレット殿下は、全員が席に着くのを確認して静かに口を開く。
「使用人も避難させてあるから、お茶も用意できないのは許してちょうだいね。それじゃゴブトゴ。まずは城内と街中の被害状況を報告して」
「はっ! 始黒門からの魔物の出現は常に想定されていたことでしたので、重軽傷者は数え切れないほどですが死者の数は12名と、被害は最小に食い止められたかと思います。魔物の発生が城の内部……始まりの黒からでしたので、スペルディアの街にはほぼ被害は出ていないようですね」
……流石に死者をゼロには出来なかったか。
いや、これはどうしようもない。俺が気に病むことじゃないよね。
メナスに関して、俺達は後手に回るしかなかった。
襲撃が始まってから駆けつけるより他無かったんだから。
だからリーチェもティムルも、そんなに心配そうな顔をしなくて大丈夫だからね。
「事はスペルディアだけでなく、国中の至る所で襲撃が行われていたようですが、各地にペネトレイターを名乗る魔人族の集団が救援に駆けつけた事によって、この規模の襲撃にしては被害は驚くほど少ないようですね。詳細は現在調査しております。明日には報告書にまとめておきましょう」
ふむ。俺達が出向かなかった都市でイントルーダーが出現して街が壊滅、なんて事はなかったか。
メナスが国家転覆よりも俺達にしか興味が無かったことが幸いしたのかな。
今回の騒動の発端は、俺達仕合わせの暴君を分断させる為だったんだろうから。
「ただ、魔物が発生した原因については一切分かっておりません。スペルディアに限って言えばマーガレット殿下ご自身が元凶と対峙されたそうですが、他の場所に関しては今のところ何の情報も無い状態です」
魔物が発生した原因なぁ……。
魔物を生み出せるマジックアイテムの存在なんて信じて貰えるのかなぁ?
仮に信じてもらえたとして、簡単に開示していい情報でもないだろうし。
でも今回のことで、王国中の職業浸透が一気に加速しそうな気はするね。
戦えない人たちは街の中でも魔物の危険に晒される可能性に気付いたわけだし、今回戦闘に参加した人たちはペネトレイターの姿を見て攻撃魔法の有用性に気付いたはずだ。
トライラムフォロワーと教会を通して、職業浸透の目安や魔法使いの転職条件が少しずつ広まってきているらしいし、次に同じ事があったら街の住人が自力で防衛したりしてな。
報告は以上です、とゴブトゴさんが着席する。
ゴブトゴさんが座ったのを確認して、今度は俺達の方に視線を向けるマーガレット殿下。
「じゃあ貴方達の話を聞かせてもらおうかしら」
マーガレット殿下の鋭い視線が向けられる。
まるで詰問しているような、追及の眼差しで俺を見るマーガレット殿下。
「結果的にリーチェに助けられる形になったけれど、貴方達がスペルディアに来るのはあまりにも迅速すぎたわ。まるで今回の襲撃を想定でもしていたみたいにね。そもそも貴方達はどうやってスペルディアの異変を知ったのかしら?」
俺達を疑っているわけではないんだろうけれど、全く無関係だとも思ってなさそうだな。
さて、なんて答えるべきかなぁ?
いっそリーチェとティムルに丸投げしたいくらいなんだけど、俺の両隣に座った2人はテーブルの下で俺の手をにぎにぎしてニヤけてるから、あんまり頼りになりそうもないんだよなぁ。可愛いんだけどさぁ。
「……ゴブトゴさんが竜爵家宛てに出した救援要請を聞いて知ったんですよ。俺達はルーナ竜爵家と懇意にさせてもらってますからね」
流石に王国最強の魔物狩りがレガリアに所属しているとは思いたくないけど、まだこの人たちが味方だと確定したわけじゃないからな。
ボンクラ国王もレガリアに与していたっぽいし、情報の開示は慎重になるべきだ。
「ヴァルハールでも不穏な動きが察知された為に、ルーナ家の人たちはそちらの対応に追われていたんです。なので代わりに我が家の最大戦力であるリーチェとヴァルゴの2人を、王都スペルディアに派遣したという訳ですね」
我ながら、スラスラとでたらめを並べる自分の口に感心するなぁ。
でもこれが1番違和感の無い回答なんじゃなかろうか。
今回の件は、メナスの存在を知らなければ真相に辿り着くことは出来ない。
レガリアに好き放題されていたスペルド王国の首脳陣に、メナスとレガリアの話が通じるとは思えないからね。軽くお茶を濁させてもらおう。
「ぬぅぅ……。ヴァルハールにも不穏な動きがあったのか……。道理でいつまで経ってもヴァルハールから救援が送られてこないわけだ……!」
今さらっ!? 今更そこかよゴブトゴさーん!? 暢気すぎぃっ!
あれ、ひょっとしてこのオッサン癒し系なのっ!?
でも真面目な話してる時に、場を和ませるのやめてもらえませんかねぇっ!?
「……最大戦力、ね。確かにリーチェ様の実力は凄まじかったよ。リーチェ様がいなかったらスペルディアは護りきれなかった。それは認める。アンタらが敵じゃないのも間違いないんだろうさ」
俺の話を認めながらも、どこか剣呑な雰囲気を漂わせ始めるガルシアさん。
「……だがよぉ。なーんか胡散臭いんだよなぁ、ダンって」
ゴブトゴさんに和んでいたら、なんかガルシアさんに睨まれてしまった件。
まぁ胡散臭いのはしょうがないかな。メナスの事とか一切言ってないし。
「さっきもチラッと言ったけどよ、アンタの評判って最悪なんだぜ? でも実際に話してみるとそこまで酷い印象は無い。そして陛下を唆した主犯格が、アンタの悪評を積極的に広めていたカリュモード商会のヴァニィ嬢だったってことも引っかかる」
ヴァニィっていうのか、あの迷惑女。
にしても、ここで悪評を広めていたのがトライラム教会の孤児達だって言われたら絶対吹き出すところだったよ。セーフセーフ。
「……リーチェだけじゃなく、先ほどの魔人族らしい女性も凄まじい手練れだったと聞いているわ。そして城内に突如現れ魔物を食い止めてくれた魔人族で構成された謎の勢力。いつの間にか全員が城から去っていたって話だけれど、貴方達何か知ってるんじゃないの?」
マーガレット殿下も剣呑な雰囲気になってきた。
ペネトレイターに関しては知ってるも何も、俺の主催してるアライアンスだしなぁ。
ん~……。いつかは魔人族の存在をスペルド王国に開示しなきゃいけないとは思うけど、それって今なのかなぁ?
今回の襲撃が終わったら王国の転職魔法陣を利用させる気ではいたけれど、ペネトレイターを見た馬鹿共が自陣に引き入れようと騒いでいたみたいだし……。
「……ダンよぉ。そういうところが胡散臭いって言ってんだよ、俺は」
思案する俺に目敏く気付いたガルシアさんが追求してくる。
「お前、俺達に開示する情報を選んでるだろ? 全容を知っておきながら、俺達にその情報を開示する気が無いんだ。違うか?」
おっと。流石はこの国最強の魔物狩りの1人だ。見事な洞察力だね。
でもまぁちょっと面倒臭くなってきたなぁ。
この2人がリーチェの友人だったとしても、俺にとっては他人だしな。命の恩人ではあるけど。
「んー。分かりました。じゃ俺は全部知ってるけどもうなにも話す気はありません。ってことで帰っていいです?」
ガルシアさんとマーガレット殿下からしたら、俺の事はよほど怪しく見えるのかもしれないけどさぁ。
たった今死力を尽くしてこの国の脅威を撃退してきたってのに、この扱いは流石に気分悪いんだよねぇ。
「……はぁ? なんでそうなるんだよ。逆だ逆。全部話せ」
「嫌です。知りたきゃご自分で調査なさっては? この国最強のパーティなんでしょ、ガルシアさんたちって。俺如きに知り得た情報を追えないって事はないでしょ」
自分の心がささくれ立っているのが分かる。
そもそもメナスからリーチェの話を聞いた時点で、俺はスペルディアもエルフェリアも滅ぼす気でいたんだよ。
その上帰宅を足止めされて気分が悪いことこの上ないんだ。
別に感謝して欲しくてやったわけじゃないんだけどさ。
レガリアにもメナスにも到達できない程度の奴等が、後から出しゃばってきて俺の邪魔をするんじゃないよ……。
「はぁいダン。ちょっと落ち着きなさいねー? ちゅー」
「んぐぅっ!?」
隣に座るティムルお姉さんが、突然自身の唇で俺の口を塞いできた。
ちょ、お姉さん!? ここ王城の中で、今会議中で、しかも一触即発の状態だったんですけど!?
ああもうレロレロしちゃダメ!
あっあっあっ……! そんなに強く根元から吸っちゃダメぇ! ティムル大好きぃ!
「ぷはぁ。それじゃ交代よリーチェ。メロメロにしちゃってくれる?」
「おっけー! まっかせてよねっ! ちゅー」
わぁい! リーチェ大好きぃ!
ってあれ? さっきまで何の話してたんだっけ? まいっかぁ!
ちゅーっ。相変わらずリーチェの唾液は甘くて美味しいなぁ。じゅるじゅる。
って俺の唾液には味なんてついてないよ? だからそんなに必死に啜らなくていいから。ちゅぱちゅぱ。ああ、リーチェ……、最高に気持ちいいよぉ。
「いいいいっ、いきなりなにしてるのよアンタたちはーーーっ!?」
ん~? なんか煩いなぁ~?
え、気にしないで続けていいのティムル? やったぁ。
リーチェもティムルもぎゅーっとしてあげるねー。
可愛いっ! 2人とも大好きーっ!
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