異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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5章 王国に潜む悪意2 それぞれの戦い

331 メナス③ 神を殺す者 (改)

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 剣を握る手に力を込めて、全身を巡る職業補正をフルスロットル。

 そして改めて目の前のイントルーダーたちと、それを操るメナスを見る。


「……リーチェの事を教えてくれた礼に、俺からも1つ教えておこうかな」


 もうお前らなんかに構ってる暇は無いんだ。

 今はリーチェを抱きしめてあげたくて仕方ないんだよ。


「俺の職業は神殺し。スキルは対異界生物補正。つまりはイントルーダー特効だ」

「……へぇ。神殺しなんて聞いたこともないが、イントルーダー3体を相手取る君の実力を考えれば納得がいくね。が、それを教えられてどうしろと言うのかな? まさか降参しろとでも?」


 アポリトボルボロスの中に居るメナスが肩を竦める。

 降参してくれれば楽だったんだけどねぇ。流石にしてくれないよなぁ。


「お前がするのは覚悟だけでいい。俺に殺される覚悟を決めておけ」

「ふ、ふふ……、あはははははっ!! 淡々とした口調で、なんて強い殺意を飛ばしてくるんだ君はっ!!」


 降参しないんじゃ仕方ない。

 リーチェを抱きしめる為に邪魔だから、死ね。


「お前らが人類にとっての脅威だというのなら、俺はお前たちの天敵として脅威を滅ぼしてやるだけだ」


 スキル『決戦昂揚』に意識を向ける。


 イントルーダー相手にブーストがかかるこのスキルも、今まで上手く機能してなかった気がするな。

 なんだかんだ言って、みんなが傍に居なくて俺は調子が乗ってなかったのかもしれない。


「ははっ! 嘘だろう!? アポリトボルボロスに殺されかけた時以上の絶望を感じるよ! こんな……、こんな人間が存在していたなんてっ!」

「そのまま笑ってろ。どうせお前が死ぬ未来は変わらない」


 大好きなみんなを守るためにここで1人メナスと対峙してるのに、みんなが居なくちゃ実力が発揮できないなんて本末転倒だろ。

 甘ったれてんじゃないよ俺。


 ロングソードをメナスに向けてウェポンスキルを発動する。


「煩わしい回復魔法なんざ正面からぶち破ってやる。焦天劫火」


 獄炎を合成したことによって完成したウェポンスキル、焦天劫火。

 術者の足元に六芒星の魔法陣が出現し、六芒星のそれぞれの頂点から黒い炎の龍が放たれ、敵に襲いかかるまでは獄炎と同じ。

 しかし焦天劫火の魔法陣は術者に追従し、魔力が切れるまで何発でも黒龍を放ち続けることが可能で、その火力は格段に向上している。


 足元の魔法陣から無限に放たれる黒龍を3体のイントルーダーにランダムに振り分け、アポリトボルボロスの回復魔法を分散させる。


「古き友人。同胞よ。魂の悲鳴、憎悪の嘆き。悪意に魂象られ、殺意に飲まれし哀れな友よ。皆は汝を赦し給う。今は眠れ安らかに。友愛と許容。懺悔と断罪。悠久の彼方で見えし時、汝に贈るは微笑と抱擁。天還る導。天恵、ディバインウェーブ」


 続いて、高速詠唱と同時詠唱を駆使してディバインウェーブを乱射する。

 俺の魔力量なら焦天劫火とディバインウェーブの同時使用にも問題なく耐えられるし、俺の詠唱速度なら3体同時にディバインウェーブを重ねて行くことが出来る。



 さぁ、一気に殺してやる。



 襲い掛かるエンシェントヒュドラの首を全て迎え撃ち、魔力を回復しながら斬撃を見舞う。

 その口からは紫っぽい色をした液体が俺に向かって噴射されるけれど、今更そんなもの遅すぎて当たらない。


 液体を回避する俺に合わせて振り下ろされる、巨大な棍棒の1撃。

 その1撃が地面に着弾する前に擦れ違い、フューリーコロッサスを切り刻む。


 魔迅を使用した神速の1撃も今の俺には止まって見える。

 俺の魂に累積している全ての職業補正が、決戦昂揚によって励起しているみたいだ。


「あはっ! 古の邪神ガルクーザでさえ君に比べれば可愛げがありそうだ! アポリトボルボロス! 2人を援護しろ!」


 メナスの声に応えてサンダースパークを乱射するアポリトボルボロス。

 サンダースパークを防ぐ為に魔法障壁を展開するけれど、その為に動きを止められてしまい攻撃の手が止まってしまうな。


 ……なら防ぐのをやめようか。

 障壁を解除する。


「……痛いな」


 隙間無く放たれるサンダースパーク。

 障壁を解除したことで、全身に痛みと痺れが襲い掛かる。


 でも、それだけだ。


「慈愛の蒼。自然の緑。癒しの秘蹟。ヒールライト。生命の黒。再生の銀。活力の赤。刻みし針を戻して治せ。流れし時を早めて癒せ。我願うは命の灯火。神意を纏いて轟く福音。キュアライト」


 しかし直ぐにヒールライトとキュアライトを発動して、落雷の衝撃と痺れを無効化する。


 詠唱の長いディバインウェーブを同時詠唱スキルで無詠唱発動し、詠唱の短い回復魔法は口頭で発動。

 サンダースパークを無視してフューリーコロッサスに斬りかかる。


「あははははっ! 信じられない、信じられないよ! イントルーダーの放つ上級攻撃魔法に耐えるだけでも賞賛に値するというのに、その痛みを無視してまで攻撃に拘るなんて人間に出来ることなのかっ!?」


 耳障りな笑い声に構わず剣撃を見舞っていると、直ぐに巨人に裂傷が走る。

 早速HPが尽きたようだな。


「こちらの回復能力をあっさり上回ってくるし、いったいなんなのだ君はっ! 素晴らしすぎるだろう!?」


 狂ったように笑いながらもイントルーダーに指示を出すメナス。

 するとフューリーコロッサスの動きが変わる。

 今まで魔迅を使ってとにかく俺を叩き潰しに来ていた巨人は、魔迅を使って俺の攻撃を回避し、他のイントルーダーへの攻撃を妨害するような立ち回りをし始めた。


 そしてエンシェントヒュドラも、今まで吐き出した液体に向かって炎を吐き始める。

 焼かれた液体は蒸発し、毒の煙となって周囲に漂い始め、さっきから状態異常耐性が発動しっぱなしだ。


「これは……、毒性のある体液を蒸発させているのか」


 自分で吐いた毒液を自ら焼いて気化させるとは、確かに搦め手が得意ってのは伊達じゃないな。


 周囲に充満する毒霧は俺の耐性を貫通し、ズキンズキンと俺の体を蝕み始める。

 が、関係ないんだよこんなもの。


「永久の鹽花。清浄なる薫香。聖なる水と浄き土。洗い清めて禊を済ませ、受けし穢れを雪いで流せ。ピュリフィケーション」


 全状態異常耐性を貫通される度にピュリフィケーションを使って浄化する。

 回復魔法と治療魔法を連射しながら激痛を齎す猛毒を無効化し、メナスの手札を1つ1つ丁寧にすり潰していく。


「い、今のは状態異常回復魔法かっ!? まさかそんなものまで……、そんなものまでぇ……!! あははははっ!! 君には死角ってものが存在しないのかなぁ!?」


 馬鹿笑いしてるところ悪いけど、お前がフレイムロードで開拓村を滅ぼしたせいで手に入れる事になった魔法なんだよ。

 これで死んだら自業自得って奴だな。


「……逃げ回るなら標的を変えるだけだ」


 逃げるように立ち回るビビリの巨人への攻撃を緩め、その分を回避能力に乏しいエンシェントヒュドラに注ぎ込む。

 でかい図体を全力で切り刻んでやると、エンシェントヒュドラの体にも直ぐに傷が刻まれる。


「神代より誘われし浄命の旋律。精練されし破滅の鉾。純然たる消滅の一矢。汝、我が盟約に応じ、万難砕く神気を孕め。インパクトノヴァ」


 HPを削り切ったエンシェントヒュドラの頭を、インパクトノヴァで根元から吹き飛ばしていく。

 部位破壊を行なうなら、単体火力最強のインパクトノヴァが最適だ。


「アポリトボルボロスは絶えず回復し続けているというのに、あっさりとその回復力を上回って……!」


 エンシェントヒュドラはフューリーコロッサスとは対照的に、首を吹き飛ばされても構わずその巨体を俺にぶつけようとしながら、千切れた箇所から噴出している体液を周囲にばら撒いている。

 これも毒っぽいな?


 と思ったら、体液が触れた地面が燃えて融けてるな。マグマかよ?


「青き風雪。秘色の停滞。白群の嵐。碧落より招くは厳寒。蒼穹を阻み世界を閉ざし、空域全てに死を放て。アークティクブリザード。青き揺り篭。秘色の檻。汝、凍てつく終焉たる者よ。アイスコフィン」


 アークティクブリザードでイントルーダーの体温を下げつつ、アイスコフィンで傷口を凍結させていく。


 単純に考えればマグマ級の温度の体液を凍らせるなんて不可能だけれど、魔法は物理法則を超越する力だ。

 そこにあるのは温度勝負なんかじゃなくて、本質は魔法防御力と魔法攻撃力のせめぎ合いのはず。


 それなら決戦昂揚がかかってる今の俺の方が、絶対に上のはずだっ!


「我は魔を導く者也。我は秘蹟と共に歩む者也。神気纏いて魔を滅し、聖気満たして災禍を祓え。神威の恩寵、神降ろしの儀。宿せ。マギエフェクター!」


 更にはダメ押しのマギエフェクター発動。

 決戦昂揚でブーストがかかっている職業補正を更に押し上げながら、ロングソードに魔力を集中させていく。


「搦め手使いは残しておくと面倒臭いんだよ! くたばれ、絶空--っ!!」


 毒とマグマを撒き散らすエンシェントヒュドラにロングソードが接触した瞬間、異形のドラゴンの体は粉々に爆散した。


 本日2度目の絶空は、魔力枯渇を起こさない程度に込める魔力を調節した省エネ仕様ったけれど、HPが枯渇した状態のエンシェントヒュドラを粉々にするには充分な威力だったようだね。


 そして失った魔力を回復させる為に、孤立しているアポリトボルボロスを斬り付ける。


「エ、エンシェントヒュドラがっ……!! イントルーダーであるエンシェントヒュドラを、たった1人で正面から……!!」


 驚くメナスを無視してアポリトボルボロスを攻撃しまくる。


 魔力が一気に回復する感覚と共に、神鉄のロングソードに付与された魔法妨害+が良い仕事をしてくれる。

 間断なく降り注いでいた電撃が止み、そして回復魔法の発動も阻害してやれた。


 チェックメイトって奴だなっ、メナスさんよぉ!


「古き友人。同胞よ。魂の悲鳴、憎悪の嘆き。悪意に魂象られ、殺意に飲まれし哀れな友よ。皆は汝を赦し給う。今は眠れ安らかに。友愛と許容。懺悔と断罪。悠久の彼方で見えし時、汝に贈るは微笑と抱擁。天還る導。天恵、ディバインウェーブ」


 同時詠唱と高速詠唱を並行使用し、魔迅を使って逃げ回るフューリーコロッサスにディバインウェーブを重ねていく。

 お前がどれだけ早く動こうとも、インパクトノヴァやディバインウェーブみたいな対象指定型単体攻撃魔法は回避できないんだよ。次はお前だぁっ!


「ディバインウェーブ! ディバインウェーブ! ディバインウェェェェイブ!!」


 アポリトボルボロスの魔法構築を阻害したことで、ヒールライトとキュアライトにリソースを割く必要が無くなった。

 高速詠唱と同時詠唱を駆使して、今までの倍の速さでディバインウェーブを積み重ねていく。


 アポリトボルボロスがその体を変化させて、トゲのような攻撃を仕掛けてきたり、俺を飲み込もうと体当たりをしてくるけれど遅すぎる。

 魔法が凄まじく厄介な相手だっただけに、その魔法さえ封じてやれれば大したことないなぁ!


「ははっ……! し、信じられない、打つ手が無いぞ……!? オリジナルイントルーダーを3体も用意したのに、君1人を止める手立てが全く思い浮かばない……!」


 やがて回避は諦めたのか、魔迅による全力攻撃を始めたフューリーコロッサスに、焦天劫火の黒龍全てを集中させる。

 ヴァルゴほど精密に魔迅を操れないフューリーコロッサスは攻撃直後には魔迅を発動できず、炎の龍にその身を蝕まれていく。


「ディバインウェーブ! ディバ……って、うわぁ……」


 と思った次の瞬間、フューリーコロッサスが体の中心に圧縮されるように潰れ絶命する。グッロ。

 
 恐らくディバインウェーブの効果によってその巨躯を思いきり圧縮されたフューリーコロッサスは、凝縮された次の瞬間には弾けるように千切れ飛んで、戦場に血と臓物の雨を撒き散らした。

 ……だからグロいってばぁ。


「フュ、フューリーコロッサスまで……!! あは、あははははは!! 怖い、恐ろしすぎるよダン君っ!! 自分は君が恐ろしくて仕方が無いよ!!」

「そうか。じゃあ怯えたまま死んでけよ。絶空」


 気が触れたようにしか見えないメナスを無視して、アポリトボルボロスに絶空を放つ。


 ロングソードの1撃がアポリトボルボロスの滑った体を吹き飛ばす。

 ……が、アポリトボルボロスは流体の体を上手く活かして、絶空の衝撃を受け流してしまったようだ。


「……お前らイントルーダーの強さの本質って、人を超える技術と発想にこそあるよなぁ」


 そう言えばイントルーダーって、巨大な見た目に似合わず多芸なのを忘れてたよ。

 おかげで相手の攻撃を体内の魔力操作で受け流す竜王の姿も思い出せたけどな。


「青き揺り篭。秘色の檻。汝、凍てつく終焉たる者よ。アイスコフィン」


 ディバインウェーブの圧縮にも期待したいけれど、受け流しを封じるのはやっぱり凍結だろう。

 流体のアポリトボルボロスにアイスコフィンを放って、竜王のように全身を凍らせて固めていく。


「あはははっ!! 君のその手札の豊富さもさることながら、イントルーダーの動きに即対応するその適応能力の高さはいったいなんなんだ!?」


 次第に凍り付いていくアポリトボルボロスの中で、それでも狂人のように笑い続けるメナス。

 出てきた瞬間斬り殺してやるから、もう死ぬまで笑ってればいいさ。


「魔迅を使ったフューリーコロッサスへの対応、エンシェントヒュドラの毒液への対処、そして絶対の耐久力を誇るアポリトボルボロスを貫くその力……。君はいったいどれだけの死線の果てにここに立っているというんだいっ!?」

「おかげさまで、キューブスライム相手にも死闘を繰り広げた末にここに立ってんだよ」


 キューブスライムから始まった俺の異世界生活が、とうとうスライム型のイントルーダーを屠るところまで来てしまったよ。


「強かったぜアポリトボルボロス。……絶空」


 アイスコフィンで体の動きが大分鈍くなったアポリトボルボロスに、魔力を込めて絶空を放つ。

 受け流しを凍結によって阻害されたアポリトボルボロスは、その灰色の巨体を破裂させてこの世から消滅した。


 しかしウェポンスキルの影響を受けない人間のメナスは、当然無傷で健在なままだ。


 アポリトボルボロスの鎧を失ったメナスは、始界の王笏をこちらに向かって翳している。

 そしてその背後にはアナザーポータル……!


「させるかぁっ!」


 始界の王笏の射線から外れるように大きく動いて回りこみ、俺の動きに反応できていないメナスに斬りかかる。


「なにっ!?」


 が、剣には何の手応えも無く、斬られたメナスの体がブレて……。

 これは……空蝉かっ!


 直ぐに生体察知を発動する。


「――――ここだぁっ!!」


 ほんの少しズレた位置に感じる反応目掛けてロングソードを一閃。

 宙を舞う始界の王笏と、それを握ったメナスの肘から先の右腕。


 返す刀でもう1度斬りかかるも、右腕を囮に時間を稼いだメナスは、俺の剣から逃れてアナザーポータルに飛び込んでしまった。


「…………やっちまったぁ」


 まさかここで主犯のメナスを取り逃してしまうとは……。

 こっちの手の内も全部晒してしまった上で逃亡を許してしまうなんて大ボカすぎるでしょ……。


 頭を抱える俺の目の前にはメナスの右腕と始界の王笏、そしてメナスの象徴とも言うべき仮面とローブが両断されて地面に転がっていた。
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