異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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5章 王国に潜む悪意2 それぞれの戦い

327 ユーサーパーシモン② 翠の英雄 (改)

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 ユーサーパーシモンの能力。それは恐らく魔力に直接作用する命令魔法に違いない。

 世界に漂う魔力に直接命令を下すことで様々な現象を引き起こすことが出来る、絶対的な強制魔法。


「……だけど、打つ手が無いわけじゃない」


 あまりにも多様性に満ちていて強力すぎるその能力。

 けれど当然無制限に使えるわけではなく、ある程度の制約があるみたいだね。


 まずは詠唱。詠唱が中断されると命令が実行されないみたいだ。

 痛みで詠唱を中断させることで命令の実行を妨害できるのは、既に何度も試しているので間違いない。


 そして命令を下せるのは、あくまで魔力に対してだけということ。

 僕に直接命令を下して言うことを聞かせることは出来ない。


「でも、正直この事実は一長一短だよね……」


 直接作用する心配が無いのは安心なんだけど、魔力を介して引き起こされる現象は1度発動すると止める方法が無い。

 一定範囲なら断空で切り裂くことはできるけれど、場に命じた僕への攻撃魔法禁止令を解除する方法が今のところ見つからないんだよねぇ。


 戦い慣れていないシモンは痛みに対する耐性が無く、通常であれば詠唱の妨害は容易いんだけど……。

 流石に命の危機を感じた時は痛みよりも詠唱の優先度が高くなってしまうらしく、一瞬で完治させられてしまう。


 シモンを倒すには、やはり命令魔法を破らなければいけない。


「……はぁ~」


 こんな凄まじい能力を破る方法が、ダンとのえっちから思い至ってしまうなんて……。

 嬉しいやら恥ずかしいやら、なんだか複雑な気分だよぅ……。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ねぇねぇリーチェ。精霊魔法ってちょっと強すぎないかなぁ?」


 逆さに抱き合って互いの秘所を愛し合った後、ぼくの頭を胸に抱き締めたダンは、ふっと思い出したようにそんな事を呟いた。

 この人はいつもぼく達のことで頭がいっぱいだから、時々突拍子も無いタイミングでなにかを思いついたりするんだよねぇ。


 いつものお礼にダンの乳首を吸いながら、目線だけでダンに続きを促す。


「う、上目遣いのリーチェ、可愛すぎるぅ……!」


 あれ? ちょっとぼくの意図した反応じゃなかったかな?

 でもダンに可愛いって言って貰えるの、すっごく嬉しいよぅ。


 って、これじゃ話が進まないってばぁ。続きを話してよぉダン。


「えっとさ。この世界の魔法を発動するには詠唱が必要でしょ? だけどリーチェの精霊魔法は今まで散々寝室の音を遮断してきたように、音を遮ることが出来るんだ。これってつまり、相手の魔法の発動を封じることができるって話にならない?」


 少し興奮気味に話してくれるダンの話に、ぼくは少し懐疑的になってしまう。

 もし魔法の発動に発声が必須であるなら、詠唱短縮スキルだったり魔物の魔法発動の仕方に説明がつかない気がするよ?


「あーそっか……。確かに魔物は発声の代わりに魔法陣を構築して魔法を発動しているし、詠唱短縮や同時詠唱スキルを用いれば発声せずに魔法を行使できているかぁ」


 ぼくの指摘に、アチャーと言いながら右手で自分の額をペチンと叩いて見せるダン。


「魔法って発声によって大気中の魔力に干渉、制御して発動しているものなんじゃないかと思ったんだけど、今回は俺の勘違いだったかなぁ」


 なんでもダンの居た世界では、声や音とは空気が波のように振動して伝わるものだと認識されているそうで、詠唱によって特定の振動を大気中の魔力に伝えることで魔法を構築、発動しているのではないかと思ったんだって。


「風の操作……というか精霊魔法全般に言えることだけど、他の魔法に干渉してしまうというような話は聞いたことがないかな。例外を挙げるとするなら断空くらいだね」


 ぼくの精霊魔法で風を操作する事によってその振動を遮断し、魔法の構築を妨害できるんじゃないかって……。

 発想は面白いけど、今回はちょっと間違っちゃってる気がするね。


「それに魔法行使の際に消費されるのはぼくら自身の魔力でしょ? 詠唱で干渉しているものがあるとしたら、それはぼくたちの体内に宿る魔力の方に干渉してるんだと思うんだ」

「……だからこそ使いすぎると魔力枯渇が起きるわけね。考えてみればリーチェの言う通りなのに、なんか精霊魔法の方から考えて勘違いしちゃったかぁ」


 ごめんごめんと言いながらぼくの頭を撫でてくれるダン。


「魔法には詠唱が必要。精霊魔法は音を遮断できる。だから詠唱を遮断すれば魔法の発動を妨害できるって考えたんだけど……。根本的に魔法の原理が間違ってたね」


 魔法の原理かぁ。そんなもの考えたこともなかったかも。

 確かにこの世界の魔法には基本的に詠唱が必須なのだから、その詠唱さえ妨害できれば……、と考えるのは理に適っている気がするね。


 その後ベッドの上で抱き合ったまま色々と検証して、精霊魔法で声を遮断した状態でも魔法が発動可能なことは確認できた。

 でも詠唱を遮断する事によって、何の魔法を行使するのかを隠蔽することはできるみたいだ。


 職業スキルやウェポンスキルの発動にも基本的に発声は必要ないらしいね。


「んー。つまり魔法もスキルも、術者の肉体や装備品の中で術式的なものが構築させていると考えるべきか。テラーデーモンの放つ咆哮とか、相手に声をぶつけて影響を与える系のスキルは精霊魔法で防げたりしないのかなぁ……?」


 まだ1人でブツブツと呟いているダン。


 ダンが精霊魔法について真剣に考えてくれている事が嬉しい。

 逆にぼくは今までなんとも思わずに、使えて当たり前だと思って理解もしていない能力を使い続けていたんだと思い知らされる。


「魔法妨害については不発に終わっちゃったけど、戦闘において音を制御できる意味ってのは凄く大きいと思うんだ」


 気を取り直したようにぼくを抱き締めなおして、改めて精霊魔法を評価してくれるダン。


「敵パーティの意思疎通を阻害できるし、視界外からの攻撃への反応を遅らせることもできちゃう。リーチェの精霊魔法はまだまだ色んな可能性を秘めていると思うから、これから色々検証していこうね」

「精霊魔法の可能性、かぁ」


 使えることが当たり前になりすぎていて、だからこそ追求する事を忘れてしまっていた気がするよ。

 ふふ。黙って触れられるだけでも痺れるくらいに幸せなのに、口を開けば面白いことばかり聞かせてくれるんだから参っちゃうなぁ。


 さぁダン。精霊魔法の前に、ますはぼくの体を隅々まで確かめてくれる?


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 あの時ダンと話した、魔法の原理と詠唱の仕組み。

 アレから考えると、シモンの命令魔法は普通の魔法の構築とはかなり勝手が違うように感じられる。


 魔力そのものに命令を下しているあの様子、そして殆ど無尽蔵に魔物を産み魔力を制御している姿。

 いくらシモンがイントルーダーになったとはいえ、自身の体内で魔法を構築しているようにはとても見えない。


「……うん。イントルーダーになっても、シモンはシモンのままなんだね」


 偽りの玉座に満足しているシモンが、自分の力で戦うはずがなかった。

 彼の能力は全て他者の力、他者の魔力なんだ。


 恐らく地面の魔法陣が始まりの黒から魔力を奪い、あの大量の魔物を生み出す膨大な魔力を捻出しているんだろう。


 魔力に直接働きかける能力。

 それは本来であれば神の如き能力と言ってもいいほどの能力だ。


 だけど魔法の構築を外部に委ねている時点で借り物の力でしかない。


「……僕に拘らなければ、違う結果もあったかもしれないね?」


 あの時のダンの話がこんなところで活きてくるとは思わなかったな。

 シモンの命令魔法にとって、エルフの精霊魔法はまさに天敵みたいだね。


「風よ! 偽りの神言を遮断してっ!」


 精霊魔法で風を制御し、シモンの頭部周辺の音を遮断する。


 攻撃魔法を封じられたのは痛かったけれど、魔法全てを封じられなくて良かったよ。

 もしかしてシモンは精霊魔法のことを知らなかったのかもしれない。


 ま、その時はシモンの頭部周辺に断空を放って、風を操る範囲の命令魔法を叩き切るだけだけどさっ!


「命令魔法が封じられた事に気付きもしないかぁ……」


 精霊魔法でシモンの声を遮ると、目に見えて状況が変化する。

 シモンの下の魔法陣からは未だに凄まじい勢いで魔物が生み出されているんだけど、生み出された魔物が全く動かなくなってしまった。


 指示が無いと動けない、まるで傀儡のようなその様子に哀れみを覚える。


「……無様だねシモン。でも、とっても君らしいよ」


 シモンが両手をバタバタ振り回して叫んでいるけれど、やはり魔力は作用せずに何も起こらない。

 命令魔法が発動しないなら断空は必要ない。世界樹の星弓に持ち替える。


「まずは君の注意を散らせて貰うよ。降り注げ、外待天弓ほまちてんきゅうっ!」


 シモンの右肩に魔力の篭った矢が刺さる。

 そして一瞬の間を置いて、その矢を中心に全方向から無数の魔力矢がシモンの右肩に降り注ぐ。


「――――――――!!」


 声は聞こえないけどのた打ち回るシモンの左肩に、もう1度外待天弓を放つ。


「――――!! ――――!! ――――――――!!」


 眉間、背中、胸、腹。思いつく限りの場所に矢の雨を降らせていく。

 その矢から受けた傷は瞬く間に再生してしまうけれど、痛みに弱いシモンには効果覿面だね。


 シモンの周囲から音を遮断しても、肉体に作用する治療の命令は阻害しきれない。

 ……けどそれは想定内だよ。だから今度は発声そのものを封じさせてもらう!


 世界樹の星弓に魔力を込める。

 魔力を溜めるのにほんの少し隙が出来てしまうけれど、今のシモンに僕に注意を払う余裕は無い。


「君の言葉、ずっとずっと不快だったんだ……! 貫け、牙竜点星ぇぇっ!!」


 細い矢から放たれたものとは思えない、大砲のような1撃が放たれる。


 弓のウェポンスキル、『牙竜点星』。その性能は弓版絶空と言えば分かりやすいかな?

 魔力を込めて威力と攻撃範囲を拡張した魔力矢を放つ、必殺の1撃だ。


「――――!?」


 痛みに暴れるシモンの喉を、魔力の篭った極大の矢が貫く。

 矢が通り過ぎたあと、シモンの喉に開けられた大穴からはどす黒い血液が溢れ出している。


 発声が必須な命令魔法。発声が出来なければ治療すら出来ないだろう!


「でも君には悪いけど、念には念を押させてもらうっ!」


 動きを止めた魔物から魔力を奪いながら、2度、3度と牙竜点星で喉を貫き、シモンの発声器官を完全に潰し切る。

 シモンが聞こえない絶叫をあげる度に、喉からは噴水のように血が噴き出る。


 ……命令魔法で体力を無限に回復し続けていれば、声帯を潰して言語能力を奪うなんて力技、通じなかったんだよ?

 君は毎日城に篭って怠惰な生活を送って、魔物との戦いや職業補正についてなんて、全く興味を持っていなかったんだろう?


 ここまで追い詰められておきながら、それでも魔法陣から1歩も動けないシモンの姿は、偽りの玉座に固執している僭主の姿そのものだ。


「君が1度だってその手に武器を持って、人々を守るために立ち上がっていたのなら……。自分自身の力で何かをなそうと努力することが出来ていたのなら……。きっとこんな無様は晒さなかっただろうね、シモン」


 牙竜点星がシモンの首を飛ばし、シモンの頭部が宙を舞う。

 僕は精霊魔法を制御してシモンの頭部周囲の音を遮断しながら、世界樹の星弓にありったけの魔力を込めていく。


 宙を舞うシモンの首と視線がぶつかる。

 その表情には驚愕と困惑、怒りと憎しみ、そして死への恐怖が滲んでいた。


 ……そんな表情、今更過ぎるよシモン。

 とっくの昔に君の死は確定していたんだ。


 よりにもよってダンの前でぼくを奪おうとした君を、僕は絶対に許さない!!


「そんなに僕を求めるならくれてやるっ!! これが僕の全てを込めた1撃だ!! 受け取れシモン!! 牙竜点星ぇぇぇぇぇ!!」


 僕の魔力の殆どを注ぎ込んで放たれた矢は、まるで流れ星のように眩い光を放ちながらシモンの眉間を貫通する。


「――――!! ――――!!」


 偽りの王の断末魔の叫びは、精霊魔法によって遮断される。

 絶対の命令権を持つ彼の最期の言葉は、誰の耳にも届くことなく風に阻まれ消えていく。


 シモンの頭部は矢の着弾点から急速に膨れ上がっていき、そして間もなく爆散した。

 魔力の矢に焼かれたシモンの頭部は、欠片も残さず消滅したみたいだ。


「どうやら、倒しきれたみたいだね……」


 シモンの頭部が消滅すると、魔法陣からの魔物の流出が止まり、そして魔物が地面に沈んでいく。

 残された首から下の上半身は、千切り飛ばされた首の部分から大量の魔力を吐き出して少しずつ萎んでいった。


 最後に人間大のサイズに戻った首無しの上半身は、地面の魔方陣に縋りつくようにして倒れ、そしてやはり最期には地面に沈んでいった。


 あの魔法陣が誰かに与えられた玉座だったのだとしたら、その玉座に死んでも縋りついていたその様子は、見苦しくもシモンらしい最期に思えた。


「……ふぅ~。相手がシモンじゃなかったらちょっと危なかったかも……」


 最後はちょっと考え無しだったかなぁ。あれで倒しきれなかったら厳しかったね。

 翠緑のエストックに魔力吸収が付与されているから、アレで倒しきれなくても挽回は出来たと思うけれど……。


 全魔力を牙竜点星に込めちゃったし、ちょっと他の場所に加勢にいける状態じゃないや……。


 改めて周囲を確認する。

 残っている魔物は存在していないっぽいし、敵対的な勢力は残っていないようだね。


 離れたところにガルシアさんと、その背中に庇われているマギーを見つける。

 戦闘中は余裕が無くて気を使ってあげられなかったから、2人とも無事で安心したよ。


「ガルシアさん。マギー。怪我は無い?」


 弓を仕舞って2人に声をかける。


「僕は回復魔法も治療魔法も使えるから、怪我しているなら遠慮無く言ってね? ……って、2人ともどうしたの?」

「「………………」」


 2人は僕の声に反応せずに、なんだか放心状態のままだ。


 ん、でも無理もないのか。目の前で国王がイントルーダー化したわけだしね。

 特に実の父親の狂気を目の当たりにしたマギーのショックは、僕には想像も出来ないほど大きいのだろう。


 魔力枯渇寸前の僕は、休憩がてら2人が我に返るのをのんびり待つ事にする。

 数分後、先に復帰したのはやっぱりガルシアさんの方だった。


「これが……、これが建国の英雄、神話に語られる翠の姫エルフの実力なのか……! 邪神ガルクーザを滅ぼしたというその力、目の当たりにすることが出来て光栄です……!」


 感極まったように呟いた後、僕に向かって跪くガルシアさん。


 あー……。実はその英雄譚、大体嘘なんですよー?

 イントルーダーを初めて見たであろうガルシアさんには、ユーサーパーシモンは絶望的な相手に映ったのかもしれないけどさぁ。


 でもねガルシアさん。ガルクーザはこの程度の存在じゃなかったんだ。

 シモンはイントルーダーとしても紛い物に過ぎない存在だったしね。


 ふふ。でも今ガルクーザなんか出てきても絶望はしないかな。

 ぼくの愛する夫が、どんな敵でもあっという間に滅ぼしてくれるだろうからね。
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