異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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5章 王国に潜む悪意2 それぞれの戦い

308 偽王 (改)

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「…………というわけなの。分からないところはあるかな?」


 ターニアが僕とニーナにティムルの指示を伝えてくれる。

 頭の中で急いで反芻するけれど、分かりにくいところはない。僕はこのままスペルディアを担当すればいいみたいだ。


 大丈夫だと伝えると、ターニアとニーナはすぐにステイルークに転移していった。


 予想よりも多くの場所にイントルーダーが出現して、予定よりも細かく分断されてしまったけれど……。ティムルの指示なら信用できる。

 言われたとおり、僕はスペルディアの防衛に専念しよう。


「うわっ……。本当に話している間に片付けちゃってるよ……」


 生体察知を発動すると、姿を隠していた者たちの反応が無い。

 どうやらヴァルゴが全て片付けてくれたみたいだね。有限実行って奴かな?


 でもそのヴァルゴは誰かと交戦中のようで、まだ戻ってきていない。

 ヴァルゴと打ち合える相手がいるなんて信じられないけれど、当面は僕1人でこの場を凌がなきゃいけないみたいかな。


「ヴァルゴと打ち合える相手じゃ、僕が加勢に行っても邪魔なだけか……。それじゃ僕は魔物のほうを対処すべきかな?」


 突如王城に溢れ出した魔物たちの群れ。

 出所は地下にあると言われるルイン型アウター、『始まりの黒』で間違いないだろう。


 王族のステータスプレートが無ければ開けないと言われる扉に阻まれているはずなのに、この魔物達はどうやって地上に現れてきたのか。

 それを確かめる為にも、早く進みたいんだけど……!


「誰かっ、誰かワシを守らぬかぁっ!! お、おお! そこに居るのはリーチェ殿ではないか! ワシを守るがいいぞ! 平民たる其方には、ワシを守る栄誉を与えようではないかっ!」

「リーチェ様ぁ! お助けくださいぃ! 私はもう怖くて怖くてぇ!」


 僕の姿を見つけた者たちが、挙って縋りついてくる! 邪魔すぎるよっ!

 王城から魔物が溢れ出ているんだから、さっさと城の外に避難すればいいじゃないか! 僕に構う暇があったら走って逃げなって!


 魔物や襲撃者よりもよほど邪魔な要救助者に足止めされて、全然先に進めない。

 仕方ないのでわざと姿を晒して、僕自身を囮にして邪魔な人たちを城門まで誘導していく。


 ダンとも連絡が取れない今、こんなことしてる場合じゃないのになぁ……!


「おおっ! お前、なかなかの腕ではないかっ! 私を守らせてやるからついてくるがいいっ!」

「えぇい邪魔だっ! 纏わりつくなっ! 魔物より先に殺されたいのか貴様らっ!?」


 ヴァルゴが潜伏している敵を殺し尽くしてくれたおかげで、ペネトレイターの人たちが魔物を押し返してくれているんだけど……。

 それを見た貴族達が、ペネトレイターを配下にしようと邪魔ばかりしてくる。

 いっそこの人たちも敵だったら、全員切って捨てられるんだけどねぇ……!


「く……! 悪評をばら撒いて自分の評価を下げたダンが羨ましく感じるよ……!」


 状況の読めない無能者たちに、苛立ちばかりが募っていく。

 そんな時、場に良く通る美しい女性の声が響き渡った。


「皆さん、騎士の誘導に従ってすぐに城の外へ! あと数分でこの城は崩壊し、ここに残っている人はみな生き埋めになりますよ!」

「い、生き埋めだとぉっ!? 何を根拠に……って、貴女様はっ!!」


 その声の主に、その場に居た全員の視線が集まる。

 そして誰の発言かが理解できると、その言葉に偽りは無いと判断したのか我先に城の外へと逃げ出していった。


 その姿にまた苛立ちが募るけれど、邪魔者がいなくなったんだから忘れよう。

 邪魔者を排除してくれた彼女には、ひと言お礼を言っておこうかな。


「マーガレット殿下。咄嗟の機転、大変助かりました。これで彼らは安全な場所まで移動してくれるでしょう。ありがとうございます」

「リーチェ様。私のことはどうぞマーガレットと呼び捨ててくださいませ。今は緊急時ですし、マギーとお呼びいただいても構いませんよ?」


 悪戯っぽい笑顔を僕に向けてくる女性。

 咄嗟の機転で邪魔者を追い払ってくれたのは、この国の第2王女にして断魔の煌きのメンバーである、マーガレット・アクラ・トゥル・スペルディア殿下だった。


「それじゃお言葉に甘えて。悪いけど口調も崩させてもらうね」

「ええ。対等な魔物狩りとして接してくれれば助かるわ」


 ……彼女に会うといつも思うんだけど、あのシモン陛下からマギーが生まれたなんて本当に信じられないよ。


「マギー。断魔の煌きの他のメンバーもここに揃ってる?」

「いいえ。今日は出撃要請も無かったので、皆バラバラに過ごしてたから……」


 どうやら断魔の煌きの加勢は期待できないみたいだ。

 アウターエフェクトを滅ぼした実績のある彼らがいてくれれば、僕はイントルーダーに専念することが出来たんだけどな。


「城の異変に気付いてくれれば向かって来てくれると思うけど、状況は予断を許さないわ。だからリーチェ。一緒に始黒門まで来てもらえるかしら」

「うん。案内お願い。僕1人じゃ門まで到達出来なかったところだから助かるよ」


 城の奥に存在するという始まりの黒の正確な場所も知らないし、王族がいないと開かないという始黒門も僕1人じゃ突破できなかったからね。

 渡りに船とばかりに彼女の提案を飲み、マギーの案内で城の地下に向かって進んでいく。



 王女であるマギーとは、もう数年来の友人だ。

 スペルド建国史の重要人物であるリーチェ・トル・エルフェリアは、スペルディア王族とは定期的に顔を合わせる事を義務付けられている。


 その縁で王女であるマギーとは、彼女が幼い頃から親交があった。

 無能者が目立つスペルディアの貴族社会において、貴族然としていないマギーは話しやすい相手だった。


 最後に会ったのは……、カザラフト家の不正関与報告の時だっけ?

 あまり実感が無いけど、マギーとは半年くらい会ってなかったんだなぁ。


「あっ、そうだリーチェ! こんな時に聞くべきことじゃないのは分かってるんだけど。貴女、結婚したって本当なのっ?」

「あ、うん。おかげさまで婚姻を結ばせてもらったよ。マギーに伝えるのが遅れちゃったね。ごめんごめん」

「ううん! そんなことはどうでもいいのっ! でも結婚したなら相手の男に会わせなさいよーっ! 私のリーチェがーっ!」

「……マギーの物になった覚えは全く無いんだけど?」


 彼女も王女として堅苦しい生活を送っていた中で、素で接することが出来る僕の事を友人と慕ってくれていた。

 友人と慕ってくれるのは良いんだけど、君の物にはなれないからね。ぼくはダンのものだからっ。


「あとで絶対詳しく聞かせてもらうからねっ!?」


 そう言ってマギーは表情を引き締める。


 親しい友人としてのおふざけはここまで。

 ここからは王国最強の魔物狩りである断魔の煌きとして、事態の解決に全力を尽くすという意思表示かな。


「それでリーチェ。今この城でなにが起こっているのか、貴女は把握してるのかしら?」

「ううん。完全に予想と推測に基づいた情報しか持ってないよ」

「予想と推測で構わないから教えて。私はなにが起きているのかさっぱ……」

「やっと見つけたぜマギー! こりゃいったい何が起きたんだ!?」


 背後から僕とマギーの会話に乱入してくる男性の声。

 マギーと一緒に振り返ると、聖銀のプレートメイルに身を包んだ青年が立っていた。


「……って、一緒に居るのはもしかして、翠の姫エルフなのかっ!?」


 この人物とは初対面だけど、相手が誰なのかは見当がつく。

 軽く頭を下げて挨拶をする。


「初めまして。かの有名な、救世主セイバーガルシアに知ってもらえているとは光栄です」


 救世主セイバーの2つ名を持つ人間族の英雄、ガルシア・ハーネット。

 マギーと共に断魔の煌きのメンバーとして活動していて、戦闘では主に前衛を担当する。


 断魔の煌きの中で全身鎧に身を包んでいるのは、確かガルシアさんだけのはず。

 恐らくはダンをフレイムロードから間一髪救い出したのも、このガルシアさんだったんじゃないかな。


「建国の英雄殿に知っていてもらってるほうがよっぽど光栄だぜ……。まぁいい」


 僕の存在に大袈裟に驚いてくれたガルシアさんだったけど、彼も直ぐに表情を引き締め問いかけてくる。


「マギー。今この城でいったいなにが起こってるんだ? なんで城に魔物が溢れているのか説明してくれ」


 さっきマギーが言ったように、城の異変に気付いたガルシアさんは、マギーの所在反応を確認しながらここまで追いかけてきたようだ。

 城の一大事に、王国最強のパーティが駆けつけないわけにはいかないもんね。


「残念だけど騒動の原因も現在の状況も、何もかもが不明よ。私は今偶然合流できたリーチェと共に、魔物の出所だと思われる始黒門を確認しにいくとこ。ガル、他のみんなは一緒じゃないの?」

「ああ。今日は完全に休日のつもりで居たからな。俺たち以外はスペルディアにすらいないみたいなんだよ。合流を期待するのはちと難しそうだ」


 獣人族で構成されてるっていう残りの4人のメンバーは不在か。

 ま、この先に待っているのがイントルーダーだとしたら、マギーやガルシアさんにも下がってもらわなきゃいけないから問題ないかな。


 あ、そうだ。せっかくの機会だしあのことも言っておこう。


「話は変わるけどマギー。それとガルシアさん。開拓村ではフレイムロードから夫を助けてくれて、本当にありがとうございました」

「え? ……えーっ!? 開拓村から救助した中にリーチェの旦那が居たの!? あー、でも流石に覚えてないなぁ……!」


 城の奥に歩を進めながら、ダンを助けてくれた感謝を伝える。

 ダンが居なければこの国はメナスに滅ぼされていたのかもしれないんだから、ガルシアさんの救世主という肩書きもあながち間違いじゃないのかもね。


 記憶の底からダンの情報を浚おうとしているマギーとは対照的に、少しバツが悪そうな表情を作るガルシアさん。


「あ~、なんだ……。男女の仲に余計な口を挟みたくはないんだがよ? リーチェ様の旦那さん、随分と悪評が立っているみたいなんだが……」

「あー! 私が我慢してるのに、なにサラッと触れてるのよ! 仕方ないじゃない! 好きになっちゃったならさぁ! 相手がクズでもカスでもゴミのような男でも、好きになっちゃったら女は止まれないんだからっ!」


 ……マギー、フォローのつもりでダンを貶めるのやめてくれないかなぁ?

 好きになったら止まれないって言葉には同意するけどっ。


「世間になんと言われようとも、私と夫は心から愛し合っていますので気にしません。私から言い出しておいて恐縮ですが、夫の話はこれで終わりにしましょう。今はやるべき事がありますし」

「リーチェが気にしなくても私は気になるわっ! この騒動が終わったら絶対に紹介しなさいよっ!? どこの馬の骨とも分からない男に、私のリーチェは任せられないわっ!」


 僕の事を任せられない、かぁ。

 でもごめんねマギー。ぼくは君のじゃなくて、ダンのものなんだ。


 むしろダン以外にぼくを受け止めてくれる人っているのかなぁ?

 ダンと会うまでに450年も旅して生きてきたっていうのに、僕はたった独りで過ごしてきたんだから。


「話の続きは騒動を終えてからにしようか。マギーは後衛、ガルシアさんは前衛ですよね? じゃあ今回は僕も剣を使って前衛を担当するよ」


 簡単な役割を決めて、場内に溢れる魔物を倒しながら進んでいく。


 マギーのホーリースパークはそれなりの威力だけど、身のこなしだけを見たら槍を握ったばかりのムーリと大差がない。

 完全に後衛に徹していて、近接戦闘技術を磨いてはいないみたいだね。


 一方のガルシアさんは、エマと同じくらいの戦闘能力かな? かなりの腕前だ。

 アウターエフェクト相手なら問題ないけど、流石にイントルーダー戦には参加させられないか。


「はっ!」


 入り組んだ城内では範囲攻撃魔法の効果が減衰されてしまうので、翠緑のエストックで片っ端から魔物を切り捨てていく。


 ヴァルゴとラトリアに見てもらっているおかげで、僕の剣の腕も間違いなく向上している。

 まさか450年も旅をした果てにこんなに腕を上げられるなんて、思ってもみなかったよ。


 僕から見るとあの2人は、剣と槍の使い手として間違いなく世界最強だ。

 だけどダンはあの2人を同時に相手取って訓練してるんだもんなぁ。本当に信じられないよ。


 少し上の空で魔物を斬り殺していると、僕の剣を見たガルシアさんが驚愕していた。


「け……、建国の英雄を侮っていたつもりは無かったが、まさかこれほどの腕とは……!」

「恐縮です。英雄ガルシア・ハーネットにそう言ってもらえるのは光栄ですね」

「止してくださいよ、背中が痒くなっちまいます。セイバーなんて言われて褒め称えられて、ちょっと天狗になっちまってたかもしれないなぁ……」


 僕の剣なんかで驚いていたら身が持たないよ、ガルシアさん。

 仕合わせの暴君の中なら、僕の戦闘力は下から数えた方が早いんだから。


 自分自身を鑑定する。

 無数の魔物を蹴散らしているのに、僕の職業浸透が全然進んでいない。


 こいつらは、メナスの造魔スキルで作り出された魔物なのかな?

 でも造魔召喚にしては、あまりにも際限なく生み出されているように感じる。 


 もしかしたらドラゴンサーヴァントのように、イントルーダーの配下なのかもしれない。それなら無限に湧き出てくるのにも説明がつく。

 ただそうすると、今度は様々な種類の魔物が襲ってくる理由に説明がつかなくなっちゃいそうだけど……。


「どちらにしても、この先にイントルーダー級の敵が待ち構えているのには違いない、か……」


 去年まではアウターエフェクトの討伐経験すら無かった僕が、まさかイントルーダーとソロで対峙することになるなんて思ってもみなかったなぁ。

 襲いかかる魔物を蹴散らしながら、静かに覚悟を決めていく。


 やがて僕達は、魔物察知の反応が沸き出てきている場所に到達した。


「ここが始まりの黒を封じる始黒門、なんだけど……」

「……開いてるな」

「ええ、完全に開放されているわね……。門の開閉には王に連なる者のステータスプレートが必要なのに……!」


 マギーが信じられないといった様子で解説してくれるように、目の前では金属で出来た巨大な扉が大きく開かれ、その向こう側から大量の魔物が襲ってくる。

 だけど部屋が広くなったおかげで、広範囲魔法の真価を発揮できそうだね。


「白き閃光。不言の万雷。滅紫の衝撃。雷霆響くは界雷の宴。汝、瞬き奔る者よ。サンダースパーク」


 走る雷光が眼前全ての魔物を焼き殺していく。

 やっぱり大量の魔物を殲滅するのは、攻撃魔法が便利で楽だなぁ。


「い、今のは上級攻撃魔法かっ!? 剣の腕も凄まじいのに、魔法までこの水準で……!?」

「一瞬で全ての魔物を……! 範囲攻撃魔法でここまでの威力が……!」


 僕のサンダースパークを見て、ガルシアさんとマギーが驚愕している。

 でもガルシアさんは上級魔法を見たことがあるみたいだね。流石は現役の英雄だよ。


「――――え?」


 魔物が殲滅されて晴れた視界の先を見て、思わず声が漏れてしまう。


 僕の目の前には予想外の光景が……。

 始黒門の向こう側には、僕達の見知った人物が立っていたのだ。


「……なんで。なんで貴方がここに?」


 大量の魔物をどうやってやり過ごしていたの?

 マギーやガルシアさんですらたった今到着したのに、戦闘能力を持たない貴方がいったいどうやってここまで辿り着いたの?


 様々な疑問が渦巻く僕を見て、目の前の男はニヤリと厭らしい笑みを浮かべた。


「自らの足で我が元を訪れるとは、随分と殊勝な心がけだなリーチェよ。褒めてやろう」


 魔物の群れの先に居たのは、マギーの父親にしてこの国の王、シモン・トエ・ルゥル・スペルディア陛下だった。

 魔物の湧き出る場所に立つ父親の姿に、マギーが戸惑いながらも声をかける。


「お父様……? いえ、王よ。これは何の真似です? ご説明を……」

「黙れマーガレット!! たかが娘の分際で、王たる我の言葉を遮るなぁっ!!」

「ひっ!? お、お父様……?」


 マギーに怒声を放った後、厭らしい表情を浮かべながら僕に視線を向けてくるシモン陛下。

 ……怠惰で有名なシモン陛下とは思えないほど、異様にギラついた雰囲気を漂わせているね。


「さてリーチェよ。自ら我の元に足を運んだことは褒めてやるが、誰に断って魔物を葬っているのだ?」

「……どういう意味でしょう? 魔物を葬るのに、何故陛下の許可が必要なのですか?」

「ここに居る魔物は全て我が生み出したもの。言うなれば我の所有物だ。王の所有物を破壊するなど、万死に値する大罪だぞ?」

「……この騒動を起こしたのは陛下なのですね」


 状況を見ればシモンがこの騒動に関わっている事は予想がついたけど、こうもはっきり自分の口で語ってくるとはね。

 怒りを通り越して呆れてくるよ。この愚王めっ!


「万死に値するって? ソレはこちらのセリフだよ! 今回の騒動の加担者は1人も逃しはしない。皆殺しにする方針だからねっ! 覚悟してっ!」

「生意気な……! ふんっ、まぁいい」


 僕の言葉に一瞬不快げな表情したけど、すぐにニタリと笑って懐から黒い水晶玉を取り出すシモン。


「我こそは国王、シモン・トエ・ルゥル・スペルディアである! 我の言葉は神の言葉! 我の言葉は絶対の命令なり! 万物は黙って言うことを聞けぇいっっ!!」


 シモンの叫びと共に、激しい光を放つ黒い水晶。

 そしてシモンの足元に現れる、漆黒の魔法陣。


 ……不味いっ! これってイントルーダーの出現予兆じゃ!?


「白き迅雷。不言の雷鳴。滅紫の雷光。雷雲より招くは龍王。産声上げるは霹靂神。猛き雷帝、万象余さず呑み下せ。ドラゴンズネスト。 ……くっ! これでも殲滅が間に合わない……!」


 しかし足元の魔法陣から凄まじい勢いで魔物が飛び出してきて、サンダースパークやドラゴンズネストで蹴散らしてもシモンに近づくことが出来ない。

 そうして僕が手を拱いている間に、シモンは魔方陣に沈んでいった。


「い、いったい何が……!? お父様、お父様ーーーっ!!」

「マギー下がれ! 後衛のお前が前に出るんじゃ……。って、なんだこれは!? いったい何が起きてやがるっ……!?」

「魔物たちが……魔方陣に向かって平伏して……!?」


 魔法陣から生み出された無数の魔物が、突如僕達に背を向けて、無人になった魔法陣の中心に向かって頭を垂れ始めた。

 その姿はまるで、これから現れる存在に忠誠を誓っているように思えた。


 そして跪く魔物の群れの中心から突き出される、巨大な人間の腕。


「ひっ……!? って、これはまさか……、おっ、お父様、なの……!?」


 目の前の光景が理解できず、ガルシアさんに縋りながら驚愕の声を上げるマギー。

 まるでマギーの呼びかけに応じるように漆黒の魔法陣から這い上がり姿を現したのは、竜王並みの巨体になったシモンの上半身だった。


「我は王なり! 我は神なり! 我は絶対者なりぃっ!!! 平伏せ! 従え! 差し出せ愚民どもぉぉぉっっ!!」

「なっ!? ま、魔物たちが……!?」


 シモンの咆哮と共に、跪いた魔物たちがシモンに吸収されていく。

 その光景は、搾取する者とされる者を髣髴とさせる。


 魔物から奪った魔力に包まれたシモンは、欲望に染まった瞳を僕に向けてくる。

 そんなシモンに向けて鑑定を使用する。



 ユーサーパーシモン



「……『僭主ユーサーパー』、か。君にピッタリの名前だね、シモン」


 嘘と欺瞞に塗れたこの国の歴史は、間もなく終わりを迎えるだろう。


 ダンが変えてくれるこの国の未来。

 誰もが自分の足で歩み、自分の手で魔物を狩り、自分の意思で幸福を掴み取る時代。


 この国にはもう、偽りの建国神話なんて必要ない。

 僕も君も、もうお呼びじゃないんだ。


 偽りの王である君の最期は、君と同じく偽りの英雄である僕に討たれるのがお似合いさっ!
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