異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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5章 王国に潜む悪意1 嵐の前

294 踏み絵 (改)

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 みんなとの話し合いを終えた俺は、シュパイン商会に顔を出すためにマグエルへと赴いた。


「やってしまった……。いや、ヤってしまったぜ?」


 ムーリとターニアと一緒にマグエルに転移してしまったせいで、2人を寝室に連れ込んでもう1度楽しんでしまった。


 お腹いっぱいになってベッドに横たわるムーリとターニアの頭を、優しくよしよしなでなでしてあげる。

 ベッドの上で気持ち良さそうにぐったりしているみんなの頭を撫でるの、好きなんだよねぇ。


 ……予定より大分遅い時間になってしまったけれど、約束をしているわけじゃないので問題ないだろう。問題ないはずだ。無いったら無いんだいっ。


「はぁ~……。職業補正のおかげだってことは分かってるけど、それにしたってダンさんは底無し過ぎなのぉ……。朝から今まででどれだけ注ぎ込んでくるつもりなのぉ……?」

「ダンさぁん……。頭を撫でてくれるのもいいんですけど、えっちなムーリはちょっとだけ物足りなく感じちゃいますよぉ~……?」

「んもー。ムーリだってずっと抱かれて消耗してるんだから、あんまり無理しちゃダメだからね?」


 えっちなムーリを窘めつつ、よしよしなでなでしている両手を下げて2人のおっぱいを優しくもみもみする。

 ツンと立った2人の乳首を指先で優しく転がしながら、欲しがりムーリの欲しがり乳首に噛みつき歯を立てる。


「はぁんっ! 私のおっぱい、ダンさんに食べられてるぅ……!」

「えっちなムーリはちゅぱちゅぱだけじゃ物足りないでしょ? ムーリの美味しいツンツン乳首、いっぱい噛み噛みしてあげるからね」

「私のおっぱい、ダンさんの歯形だらけにされちゃうよぉ……!」


 ムーリの乳首を強めに噛みながら、激しく乱れるエロシスターとくすぐったそうに身を捩るターニアの反応を目で楽しむ。


 しかし、ちょっと前にみんなを貪りすぎてるって反省した気がするのに、暇さえあればみんなを抱きまくってる気がするなぁ。

 俺がスケベなのは間違いないけど、それでもここまでだったかな?


 リボルバーを体験した後ニーナに、俺はみんなの気持ちを受け取って、それを自分の気持ちだと勘違いしているんだと言われたことがある。

 あの時はそんなわけないでしょって思ったけど、今ならなんとなくニーナが言いたかったことが分かる気がする。


 臆病者の俺はみんなに求められないとみんなに手を伸ばすことが出来ないし、お調子者の俺はみんなに求められれば調子に乗ってどんどんみんなを求めてしまう。

 みんながもっともっとって俺を求めてくれるから、俺も暇さえあればその想いに全力で応えたくなって仕方ないんだ。


 うん。なんのことはない。うちの家族は相思相愛だってだけだ。

 毎日呆れるほどみんなと愛し合ってるけど、あの時よりも確実に今の方がみんなのことを好きになってる自信がある。

 一緒に同じ時間を過ごすほど好きになれるなんて、みんな本当に最高のお嫁さんだ。


「れろれろちゅぱちゅぱ。それじゃいってくるよ」


 ムーリのおっぱいに刻まれた無数の歯形を労わるように舐めまわし、眠りに落ちた2人に出発を告げる。

 すやすやと可愛く寝息を立てている2人の、可愛く立っている乳首にちゅっちゅっちゅうううっとキスをして、ようやくシュパイン商会に向かった。


 あれ、俺ってもしかして暢気すぎですかね?

 でもいいんだ。大好きなみんなのこと以上に優先すべきことなど何もないのだから。

 
 すっかり顔パスになってしまったシュパイン商会の店舗で、待っていたキャリアさんと面会する。


「女性に会いに来る前に他の女を抱いてこないで欲しいね、まったくもう。わざわざ出向いてもらってるんだし、多少は目を瞑ってあげるけどさぁ」

「悪いね。我が家は夫婦円満なもんで」


 挨拶代わりの軽口は早々に終了して、さっさと本題に移ろう。

 主に俺のせいで、大分時間が押しちゃってるしね。


「それで? シュパイン商会に反発する動きがあるって聞いたけど」

「ええ。まだあまり問題視するほどでもないんだけど、色んな場所で一斉にシュパイン商会の商品が売れなくなってね。それと同時に、以前話したダンさんの悪評も凄い勢いで拡散されてるみたいなの」

「んん? 要するに反シュパイン商会の動きと、俺に対する風評被害の話?」


 キャリアさんの報告に首を傾げてしまう。

 だってその2つ、既にキャリアさん本人から報告を受けていた案件じゃないか。


「カリュモード商会が俺の悪評とシュパイン商会排除に乗り出したって話は以前聞いたよ? キャリアさんがこの程度の報告で俺を呼ぶとは思えないんだけど?」

「ははっ。そりゃまた殺し文句だねぇ。褒め言葉として受け取っておくよ」


 俺の言葉を肯定も否定もせずに、ただ豪快に笑ってみせるキャリアさん。

 戦える動きはしていないのに、どこか戦国武将のような雰囲気を漂わせてるよなぁこの人。


「緊急性が無いって言ったのはそれよ。現在の状況自体は前回とさほど変わらないの。なのにダンさんに足を運んでもらったわけは、その動きが急速に王国中に広がり始めているからなのよ」

「ふむ? 事態は一緒だけど、拡散速度が予想以上ってこと?」


 相手の動きを放置することを決めた以上、悪評が拡散するのは仕方ないと思うんだけど、キャリアさんが異常だと思う速度で俺の悪評が拡散しているってこと?

 だけどこの世界には移動魔法があるんだ。情報の拡散が早いのは当たり前じゃ?


「移動魔法だって無料じゃないの。噂を拡散するだけにポータルを使うなんて普通はしないわ。大商会であってもね」

「大商会ならお抱えの冒険者とか居るんじゃないの? そいつらに動いてもらえばお金はかからないんじゃ?」

「ははっ。一気に職業浸透を進めたダンさんらしい意見だけど、冒険者ってそんなに数は多くないのよ? 商会の雇った冒険者が動けば、分かる人には1発で足がついちゃうの。だから暗躍みたいな事はあまりさせられないと思って頂戴」

「……なるほどねぇ」


 情報戦って現代の地球ではわりと当たり前の概念だけど、人間同士の大きな戦争が無いこの世界だとあまり馴染みのない戦略なのかもしれない。

 今まさに情報戦を仕掛けられてるのに、馴染みも何もあったもんじゃないけどね?


「でも、今回はお金をかけて噂の拡散が行われていた。そして誰かが意図的に広めたその噂は、噂を鵜呑みにしてダンさんを悪と信じる者達を繋げてしまったみたいでねぇ……」

「俺を悪と信じる者達ぃ……? なんだそりゃ……」


 キャリアさんの話では国王を筆頭に、リーチェが俺に誑かされていると信じた貴族が各地で動き始めているんだそうだ。


 ほんっとあのボンクラ王は碌なことしないなー。

 俺がリーチェを誑かしたのが真実だとしても、お前らにリーチェが振り向くわけでもないだろうに、よくやるよまったく。


「まだ分からないけれど、ダンさんに不信感を抱く貴族が結託して貴方をお尋ね者にしようとする動きもあるらしいの。罪状は建国の英雄リーチェを誑かした罪、だそうよ」

「リーチェを誑かした罪……?」


 ……なんだろう。リーチェを誑かした罪な男って、褒め言葉に聞こえない?


「んー。完全に俺がターゲットにされている感じだけど、なんでなのかな?」


 単純に、リーチェの美貌に目が眩んだ嫉妬なのか?

 それとも何か別の狙いが隠されているのか?


「……俺への不信感を軸とした結束、か」


 敵の狙いは分からないけれど、この噂は利用できるんじゃないか?

 悪評を広められて全く気分は良くないけれど、逆に言えば俺に不信感を抱いている人はメナスのターゲットから外れてくれる……、かもしれない。

 家族にさえ嫌われなければ世間の評判なんてどうでもいいし、その噂を踏み絵にさせてもらおうかなっ。


 くっくっく。情報戦なら、日々インターネットで匿名で罵り合っていた俺に一日の長があるはずだ。

 根も葉もない噂を立てる程度で俺が折れると思ったら大間違いなんだよ?


「キャリアさん。1つお願いしていい?」

「内容次第だね。お願いって?」

「シュパイン商会は開拓村の復興事業に携わっているから、完全に俺達との関係を絶つのは難しいけれど、シュパイン商会も俺個人に対しては悪感情を持っているように振舞えないかな?」

「…………相変わらず、ダンさんが言ってることはさっぱりだよ」


 おーっとキャリアさん。なに言ってんだこいつって表情はNG。

 なんかこの表情のキャリアさんを良く見てる気がするけど、気のせいという事にしておこう。


「悪評をなんとかしようとするなら分かるけど、それにあえて乗っかるって……。全然意味が分からないよ。詳しく話して」

「いやさ、俺への不信感で繋がっている関係なんでしょ? シュパイン商会に対する嫌がらせが行なわれているのも、シュパイン商会が俺に協力的だから、だよね?」

「……恐らく、だけどね。ダンさんの悪評を軸に繋がっている勢力だとは思うよ」

「ってことはだよ? 俺に悪感情を抱いていると匂わせたら、シュパイン商会のことも味方扱いしてくれるかもしれないじゃん?」

「…………はぁ?」

「利益の為に協力はしているけれど、シュパイン商会も実は俺個人のことは嫌っている。そういう態度を喧伝してみてくれないかな。そうなった時の相手の出方を確かめたい」


 どうせ悪評に乗っかっている大多数は、俺のことなんか大して知りもしない奴等だ。

 俺の取引先になんて、大して興味も持たないだろう。


 今は俺に協力的だからと叩いているけど、自分側の陣営だと判断したら一気に興味を失うだろうね。

 ソースは、SNSを日常的に利用していた俺の経験だ。


 シュパイン商会は国からの要請を受けて、開拓村の復興を担う事になった。

 得られる利益も大きく、誰かがやらなければいけないことだから協力しているけれど、ダンという男だけはどうにも鼻持ちならないと思っている。


 というスタンスを示せば、大して調べもせずに同胞扱いしてくれるんじゃないかな?

 SNSでガセネタに踊らされて、全く知らない相手をバッシングする人みたいにさ。


「そうすることでシュパイン商会に対する圧力は止むかもしれないけれど……。それじゃダンさんの悪評は広まっていくばかりだよ?」

「世間の悪評なんて興味無いよ。俺は家族にさえ嫌われなければ、世界中に嫌われたって気にしないから」

「そうは言うけど、王国中に悪評が浸透しきってしまえば、下手をすれば今後一生影響が付きまとうかもしれないんだ。そんなリスクを背負ってまで悪評に乗っかるなんて、ダンさんにいったい何のメリットが?」

「俺にとっての最大のメリットは、守るべき味方を減らせることだよ」

「…………ごめん。本当に意味が分からない」


 困惑しきった様子のキャリアさんは、指先で眉間をぐにぐにとマッサージし始めた。

 どうやら眉を顰めすぎて、眉間の筋肉が凝ってしまったらしい……って、そんなことあるぅ?


「はぁぁぁ……。私はメリットを聞いたんだよ? なのになんでその回答が、味方を減らせること、になるのよぉ……?」

「違う、味方を減らすことがメリットだとは言ってない。守るべき味方を減らせることがメリットだと言ってるんだ」

「……んん? どういうこと?」

「キャリアさんはピンときてないと思うけど、敵はロード種やデーモン種をほぼ無制限に生み出し使役できる存在だ。俺達のパーティがどれだけ強くなったとしても、手は限られてるよね?」


 俺達と懇意にしていると、アウターエフェクトに襲撃される可能性がある。

 これはメナスと戦うにあたって、俺達が常に想定しておかなければいけない懸念材料の1つだ。


 シュパイン商会。トライラム教会。トライラムフォロワー。開拓村復興の従事者。

 この1年で俺が関わって、俺と良好な関係を築いてくれた人たちは数多く、王国中に存在している。


 造魔を使えば、その人たち全てを同時に襲撃することも不可能ではなく、逆に俺達がその人達を同時に護りきることは現実的に考えて不可能だ。

 ならばいっそのこと一時的に寝返ってもらって、守るべき味方の数を減らしてしまえばいいという話だ。


 ここまで説明されたキャリアさんは、なんだか悔しそうに歯噛みしている。


「仕合わせの暴君の味方でいるには、シュパイン商会は実力不足ということ、ね……」

「……あくまでも戦闘力に限った話だから。シュパイン商会にはいつも助けてもらって感謝してるよ」


 戦闘力の不足は否定せず、その上でシュパイン商会に感謝している事をちゃんと伝えておく。

 ここで下らないすれ違いを起こして人間関係を拗らせてしまったら、メナスへの利敵行為に他ならないからな。


「でもさ。アウターエフェクトを自由自在に操れる相手が敵なんだ。戦闘能力に限定して言うならば、仕合わせの暴君以外の全ての人が足手纏いなんだよ」

「……はっきり言うねぇ。でも、アウターエフェクトの相手なんて出来る訳ないじゃないの……。くそっ!」


 せめてあと半年、いや3ヶ月もあれば、幸福の先端やペネトレイターたちはアウターエフェクトを相手取れるようになると思うけれど……。

 流石にまだまだ荷が重過ぎるだろう。


 俺達と共に戦闘をこなすなら、アウターエフェクトの討伐実績がある断魔の煌きクラスの実力が必要だ。


 ……って悪評が広まったら、断魔の煌きが俺を捕まえに来たりしないよな?


 ま、王国最強のパーティという評判だけど、パーティ全員でかかっても使役状態の劣化フレイムロードを瞬殺出来ない程度の戦力だ。

 敵に回ったってなんにも怖くないな。


「商売相手に寄り添うことも出来ないほどに実力不足とは、自分たちの不甲斐なさに嫌気が差すわね……。ここまで稼がせてもらっておきながら、いざという時にお荷物にしかなれないなんて……!」

「流石に今回は準備期間が短すぎたよ。気にしなくていいさ。商売人のキャリアさん達が対人戦まで担当する必要は無いって」


 餅は餅屋。適材適所って奴だよ。

 開拓村の復興、開発では滅茶苦茶お世話になっているのに、シュパイン商会を不甲斐無いなんて思う訳ないでしょ。


「恐らく今年中にはトライラムフォロワーのメンバーも戦力に数えられるようになるはずなんだけど……。現実も敵さんも、こっちの都合よくは動いてくれないもんだからね」

「……はっ! 言えてるねぇ。ままならないもんだよ、まったく」


 キャリアさんと相談して、シュパイン商会の設定を決めていく。


 リーチェを筆頭に仕合わせの暴君には世話になっているけれど、ダンという男だけはいけすかない奴なんだという認識を、シュパイン商会全体と開拓村の中で共有してもらうことになった。


 自分で手間暇かけて復興した開拓村で嫌われるのは流石に嫌なんだけど、ほぼ無防備なあの場所を防衛する為に家族の誰かを常駐させるのは、流石に負担が大きすぎるからなぁ。

 俺達に背負える荷物には限りがあるのだから、背負う荷物の方も出来るだけ減らしてあげないとね。


 シュパイン商会との話を終えて、次はスペルディアのトライラム教会本部に向かう。


 運よくテネシスさんとイザベルさんの両者に会うことが出来たので、シュパイン商会での話し合いの内容と俺へのバッシングに参加してもらうようお願いする。

 ……なんで自分へのバッシングを人にお勧めしなきゃならないんだよぉ。腹立つわぁ。


「…………ダンさんの誹謗中傷に参加するのは、無理ですね」


 その上、お願いも聞いてもらえないしさぁ。


「私たちは勿論、シスターも子供達も絶対に納得してくれませんよ。ダンさんは自分が教会にしてくれた事を、あまりにも軽く考えすぎです」

「私もテネシスに同感です。時には嘘も必要であることは理解できますが、トライラム教会の人間がダンさんを悪く言うのは無理でしょう。シスターや子供達の中には、ダンさんは祝福の神トライラムがこの世に遣わせた存在だ、と本気で思っている者すらいるんですから」

「やめてください。そういうのもう間に合ってますんで?」


 そういうのは守人だけで充分ですから。

 というか、教会の人間に信仰されるとか嫌過ぎるんだよ? 人じゃないみたいじゃんっ。


 んー……。でも確かに子供達に、好きな人の悪口を広めろってお願いするのは申し訳ないな。

 自分で好かれてるって言うのもなんだけどさ。


「それじゃあ……。教会と良好な関係を築けているのは、仕合わせの暴君というパーティ単位だって口裏を合わせてもらうことは出来ませんかね?」


 悪評に乗ることが出来ないなら仕方ない。

 ならば考え方を変えて、良好な関係を隠す方向で考える。


「世間の悪評も俺に集中していて、リーチェやフラッタのことは被害者みたいな扱いなんですよ。なのでパーティとは良好な関係を築けている、という話でも大丈夫だと思います。どうでしょうか?」

「ああ、それでしたら問題ないかと思います。ダンさんに会った事のない子供も少なくないですし、教会への協力者としてしか理解していない子も多いでしょう」

「実際に、礼拝日の手伝いはメンバー全員で参加してましたから、嘘にはならないはずです。教会側に問題が無ければこれで話を進めてください」


 初めて礼拝日の手伝いをしたのって、確か7月だったっけ?

 あの時もニーナと一緒に参加していたわけだし、パーティ単位で付き合いがあった話にも矛盾は一切無いだろう。


「シスタームーリはマグエルで教会を預かって6年。その間にティムルさんとも面識があったわけですし、その縁で援助いただけたという話ならば筋も通ります。教会との関係はこれで通すとしましょう」


 イザベルさんにもテネシスさんにも理解を得られたので、トライラム教会の件はこれで良しと。

 なんかトライラム教会って、毎回変な方向に説得してる気がするよ……。


 テネシスさんにお願いしていたレガリアという単語についての調査は、残念ながらまだ調査中とのことだった。

 お願いしてからまだ時間も経ってないし、成果が出ていなくても仕方ない。


 しかし、比較的付き合いの短いトライラム教会本部でこれとはね……。

 マグエルにきてからずっと付き合っている、トライラムフォロワーを説得するには多少骨が折れるかもな。


 何かいい作戦は……っと。







「つまり俺の事を大した人間じゃないと思わせておいて、敵を油断させたいんだよ。その為にみんなに協力して欲しいんだ。頼めないかな?」


 まっかせてーっ! という元気な声が教会に響く。

 付き合いが長くて関係も深いために寝返ってもらうのが難しいなら、そういう作戦なんだよと協力をお願いすることにした。


 素直な子供達は簡単に人の悪口を口にすることは出来ないけれど、そういう作戦だと説明されればむしろノリノリだ。

 敵を欺く為の秘密の作戦なんだと言われてワクワクしない子供なんて、そうそういないだろ。


「大体ダンはシスターを貰うのが遅すぎなんだよーっ! シスターがダンの事を好きだなんて、とっくに気付いてたくせにさーっ!」

「自分が旅したいからってシスターにポータルを覚えさせるとか、いったい何様ーっ!?」

「シスターの後にも何人お嫁さんもらってるのよー? 家の後ろの建物なんなの? いったい何人お嫁さん貰う気なの?」


 ……敵を油断させる為に俺の悪口を広めろとは言ったけど、本人に直接バッシングを浴びせろとは言ってないんだが?


 ポータルの件は何も言い返せないんだよぉ。みんな、俺にとって都合の良すぎるお嫁さん過ぎるんだよねぇ。

 でも俺に対して都合の良い女性である事を、本人たちこそが強く望んでいるから困ってるのっ!


「トライラムフォロワーがお世話になっているのは仕合わせの暴君。メンバーはとっても良くしてくれるけど、リーダーの男だけは女好きで軽薄で臆病者。子供達から巻き上げたお金で働きもせずに暮らし、毎日女性をとっかえひっかえして豪遊しているクズ男ってことでよろしく」

「あっはっはっはっは! 確かに知らない奴がダンを見たらそう見えるかもなーっ! 奥さんとイチャイチャしすぎて、よく待ち合わせに遅れるってのも広めておくなっ!」


 俺が提案した設定を聞いて、腹を抱えて爆笑するワンダ。

 そしてお前のその指摘には何も言い返せませんねぇっ!


「実際ダンって、私達が払ってるお金だけでも余裕で生活できるもんねー。あれ? 悪評って言うか、ただの事実なんじゃないの?」


 あれ? じゃないんだよコテン!

 火の無いところに煙は立たないというけれど、悪評の元になった事実をちょっとだけ言い換えただけだからねっ!?


「情報操作……。そういう戦い方もあるんだね。敵が仕掛けてきた悪評を逆に利用するっていう発想も面白い。もう悪評が独り歩きして、敵にも制御できなくなっちゃいそう」

「守るべき人が多すぎて手が足りないなら、味方を減らして必要な手を減らす、かぁ……。味方なんて多いに越しはことはなくて、敵は少ないに越した事はないとしか思ったことなかったけれど……。色々な考え方があるんだね」


 おおっとぉ? サウザーとビリーはついに情報戦という概念を得てしまったようだ。

 お前ら将来どこまでいく気なんだよぉ?


 ドレッドは相変わらず何も言わずにみんなを見守っていて、マイペースなリオンが魔法使いに関する相談を持ちかけてくる。


「攻撃魔法って便利だけど、魔力消費が多くて数が撃てないんだねぇ。でも積極的に使って慣れていきたいし……。なんだか前よりも色々考えて戦うようになったかなぁ?」


 相談って言うより愚痴に近いかな?

 でもリオンは魔法使いになって、毎日試行錯誤を繰り返しているようだ。


 試行錯誤は強くなる為の近道だと思う。

 色々試して色々失敗して、どんどん強くなっていって欲しいね。


 しかし、俺の悪評をノリノリで広めようとしているトライラムフォロワーを見ていると、微妙に不安になってくるなぁ。

 俺の悪評、いったいどれ程の広がりを見せてしまうんだろ……?
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