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5章 王国に潜む悪意1 嵐の前
291 夜なべ (改)
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ムーリとラトリアからの報告が終わった後は、毎夜繰り広げられる夫婦の真剣勝負が始まる。
少しずつ忍び寄ってくる不穏な空気を振り払うように、家族全員で激しく肌を合わせた結果、目の前にはベッドの上に転がる9人の失神した裸の美女があった。
うんっ、壮観だねぇ!
今日はちょっぴり張り切って、みんなに早めにお休みいただいた。
今日は少し激しめに愛していいかなってお伺いを立てたら、大歓迎されてしまったよ。
「みんなおやすみ。ゆっくり休んでね……」
眠るみんなをちゃんとベッドに寝かせなおして、毛布をかけてあげる。
いくら病気耐性があると言っても、裸で寝かせるのは気が引けちゃうからね。
「さて、それじゃ早速始めますかー」
本日みんなに先に休んでもらったのは、夜の間に色々な作業がしたいからだ。
エロエロな悪戯もしたいところだけれど、それはやるべき事を済ませてからにしよう。
「摂理の宝珠よ。神意に従い、加護と恩寵と祝福をここに。スキル付与」
まずは大量のスキルジュエルを用いた、装備品のアップグレードに着手する。
オリジナル装備の開発の可能性は示されたけれど、一朝一夕で成功するものではないみたいだし、今ある装備を限界まで強化してしまおうと思ったのだ。
大効果スキルを得られていないスキルを、可能な限り大効果にアップグレードしていく。
イントルーダーが少なくとも3体は出てきそうだから、ちょっとの強化でも疎かにすべきじゃないよね。
「ん~……。状態異常の耐性スキルはあるのに、防御系スキルのスキルジュエルって無いんだなぁ……」
物理・魔法耐性や物理・魔法防御力のスキルジュエルは1つも入手できなかったので、残念だけど防御関係のスキルはあまり伸ばせない。
イントルーダー戦はまず長期戦になるから、防御力は重要になってくるんだけどねぇ……。
「ふぅ。無い物ねだりしても始まらないか~……」
気を取り直して、全員の全状態異常耐性を大効果に引き上げる。
ラトリアの火竜の護りとエマの海竜のペンダントにもスキル枠が空いていたので、全状態異常耐性を付与。
ターニアには力の腕輪を製作して、体力自動回復と全状態異常耐性を、ムーリにはラビットシンボルを製作して、魔力自動回復と全状態異常耐性を付与してあげた。
「……これだけ付与しても、全然減った気がしないよぉ」
インベントリに未だ収納されている、大量のスキルジュエルに辟易する。
うちのパーティって6人全員付与術士が浸透していて、更には俺の勇者にまで技能宝珠出現率上昇がついてるから、ありえないほどスキルジュエルがボロボロ落ちてくれるのよね。
スポットの最深部ではあんなに喜んだスキルジュエルも、今やインベントリの中に山のように収納されるありふれた存在になってしまったのだ。
仕合わせの暴君以外のメンバーには、アクセサリーに絞ってスキルを付与する。
あまりスキルを付与させすぎると、その装備品を狙う変な虫を呼び込みかねないからね。
「は~疲れたぁ……。でもここからが本番なんだよなー」
なんとか普通のスキル付与は終わった。
……ここまでならみんなの前でやっても良かったんだけど、ここからの作業はちょっと先に1人で試してみたかったんだよね。
インベントリから、発光魔玉とテラーホーンを取り出す。
失敗したら素材は失われるみたいだけど、失われても惜しくはないよな。
スポットで初めてスキルジュエルを得てから、今ではインベントリから溢れ出そうなくらいのスキルジュエルを入手できるようになった。
そんな大量のスキルジュエルに触れるようになって、俺は次第に違和感を抱くようになっていった。
スキルジュエルは山のように出るけれど、ウェポンスキルは本当に出にくい。未だに両手の指にも足りないくらいの数しか見たことが無いはずだ。
それほどまでに出にくい割に攻撃魔法のほうがよほど効果が高くて、ウェポンスキルの希少性と効果が噛み合ってない気がしていたのだ。
そしてアウターエフェクトの素材を用いて装備品を作ると付与される、獄炎や咆哮、空蝉などの変わったスキルの存在。
魔玉と色以外はそっくりな、スキルジュエルの外見。
色々な事を加味した結果、俺は1つの可能性に思い至った。
『もしかしてスキルジュエル、自作できるんじゃね?』と。
「紡ぎ合わせ、組み立て創れ。秘蹟の証明。想いの結晶。顕現。スキルジュエル」
発光魔玉とテラーホーンを触媒にして、アイテム作成スキルを発動する。
五感上昇を総動員してスキル発動の魔力を見極め、職業補正を体中に走らせるのと同じ感覚で、アイテム作成スキルに使用されている魔力を制御する。
……なんか魔力が弾け飛びそうになっているけれど、魔力操作で押さえ込めばいいのかな?
「んぎ……! ぐうぅぅ……!」
暴れる魔力を必死に押さえつけること数分。
まさかの魔力枯渇の兆候を感じ始めた頃に、ようやくスキルの発動が止まってくれた。
「はぁ……はぁ……。ま、まさかここまで魔力を使っちゃうとはね……」
息を切らしながら、噴き出す汗を袖で拭う。
レシピを用いないアイテム作成は、スキルの魔力消費が激しいのかもしれないな。
「……まぁでも、苦労した甲斐はあっただろ」
何せ俺の目の前に真っ白な魔玉、もといスキルジュエルが落ちてるんだからなっ……!
スキルジュエル
咆哮
「うん。出来るような気はしていたけどさぁ……」
でも実際に出来てしまうと結構ビビるね。大収穫だけど。
これでインベントリの中の素材の使い道が出来たわけだし、何よりウェポンスキルを自作できる可能性が出てきた。
「アイテム作成を使うのは……まだちょっと厳しいか。何をしようかな?」
すっかり疲弊してしまったので、少し時間を持て余してしまう。
咆哮が自作できたんだから獄炎も作ってみたいところだけど、魔力が回復しないとスキルジュエルの作成は厳しそうだし……。
「あ、そうだ。咆哮が自作できるなら……」
既に咆哮が付与されているティムルのオリハルコンダガーに、咆哮を追加付与してスキル融合を試してみよう。
スキル付与に失敗しても消失するのはスキルジュエルだって話だし、仮に想定外の自体を招いたとしても咆哮のスキルジュエルを作れるようになったんだから、実質リスクも無いよね?
よっし、スキル付与ーっと。
「……うん。スキルは正常に発動した、かな」
失敗した感覚も無かったし、多分成功したんじゃないだろうか? 鑑定鑑定っと。
オリハルコンダガー
叫喚静刻 物理攻撃上昇 体力吸収+ 魔力吸収+ 無し
おお。なんと成功してしまったぞ!
叫喚静刻? なんかめちゃくちゃ物騒なスキル名になってしまったんだけど、あとで怒られないといいなぁ……?
ティムルに怒られるかどうかは朝まで分からないけど、神鉄武器に付与されるスキルも合成可能なことが分かった。
これは獄炎も試してみるしかないけど、まだ魔力が回復するまではかかりそうだ。
「んー、次はなにをして時間を潰そうかなぁ? あっ、そうだ」
スキルジュエルの自作に成功したんだから、今度は同じ効果のスキルジュエル同士を直接融合って出来ないだろうか?
装備品を介さずスキルジュエル同士を直接融合できれば、装備品を用意しなくてもスキルジュエルの整理が可能だし。
「摂理の宝珠よ。神意に従い、加護と恩寵と祝福をここに。スキル付与」
精神異常耐性-のスキルジュエルを2つ取り出して、まずはスキル付与を試してみる。
……けどスキルが発動しない。残念ながら失敗だ。
あくまでもスキル付与は装備品にスキルを付与する能力だから、スキルジュエルには効果が及ばないのかもしれない。
咆哮のスキルジュエルを製作したのだって、アイテム作成スキルの方だったわけだしな。
「それじゃあ今度は、2つのスキルジュエルを触媒にしてアイテム作成を……、とぉっ!?」
スキルを発動しようとした瞬間、合成が失敗してしまう直感のような物を感じ、反射的にスキルをキャンセルしてしまった。
「な、なんだ今の感覚は……?」
そう言えばリーチェがアイテム開発を試した時、スキルが失敗する感覚がするって言ってたっけ。
今のいやーな感覚がそれだったのかな?
となるとスキルジュエル同士での融合は不可能なのか、それとも何らかの素材が必要なのか……。
って、咆哮のスキルジュエルを自作した時は発光魔玉を使ったんだった。そして今回は入れてなかった。
スキルの入れ物として、発光魔玉が必要だったりするのかな? 試そう。
精神異常耐性-のスキルジュエル2つに発光魔玉1つ追加して、精神異常耐性のスキルジュエルを作ることを明確にイメージしてアイテム作成を発動する。
「紡ぎ合わせ、組み立て創れ。秘蹟の証明。想いの結晶。顕現。スキルジュエル」
今度は失敗の予感を感じることなくスキルが発動してくれた。
そして咆哮を作ったときとは比べ物にならないほど、アッサリとアイテム作成が終了する。
スキルジュエル
精神異常耐性
目の前には、1つになったスキルジュエルが転がっている。
うん。どうやら今回も成功してしまったようだ。
スキルジュエル同士の合成が可能である意味は大きい。
装備品側のスキル枠が足りていなくても、スキルをグレードアップさせることが出来るってことだもんね。
「よっし。魔力消費も大したことなかったしどんどんいこう」
インベントリ内に溜まっていたスキルジュエルを、1つ1つ合成して整理していく。
俺抜きでも1日50個前後拾っていたので、インベントリの中がどんどん埋まっていって結構恐怖だった。
勇者の俺が参加すると、日に70個以上はドロップしてたからね。価値観が崩壊するってぇの。
スキルジュエルをまとめながら魔力を回復させ、フレイムソウルと発光魔玉を使って獄炎のスキルジュエルを作成する。
既に1度成功させたせいなのか、1度目よりも格段に短い時間でスキルジュエルを生み出すことが出来た。
それじゃ早速スキル付与してみましょうねぇっ。
神鉄のロングソード
焦天劫火 装備品強度上昇+ 魔法妨害+ 魔力吸収+ 無し
「お、おお……? 焦天劫火、でいいのかな?」
地獄の炎が融合すると、天をも焦がす滅びの劫火に変わる、みたいな感じなのかな?
獄炎が既に強力なスキルだっただけに、焦天劫火の性能が楽しみなような恐ろしいような。
なんにしても、死蔵されていたアウターエフェクトのドロップアイテムの活用法が見つかったわけだ。
どんどん試して、色んなスキルジュエルを作り出してみよう。
…………そんな風に思っていた頃もありました。
魔力を回復させつつ素材を変えつつ、何度かスキルジュエル作成を試してみたんだけれど、結果は散々だったよ……。
アイテム作成は発動するし失敗の予感はしないんだけど、魔力枯渇を起こすまでスキルを発動してもスキルジュエルが完成してくれない。
唯一成功したのが、セイントソウルを用いた光輪のスキルジュエルだった。
「……失敗と成功の違いは、何だ?」
今回スキルジュエルの作成に成功したのは、既に俺が知っているスキルに限られていた。
フレイムソウルから獄炎が、テラーホーンからは咆哮が、セイントソウルからは光輪のスキルジュエルが生み出せるだろうと、成功のイメージが完全に固まっていた。
つまりスキルジュエルを作成するためには、素材から何のスキルが得られるのかを知っていないといけないってことなのかなー。
叫喚静刻や焦天劫火のように、単純な上位スキル合成の場合は問題なく成功するんだけどねぇ……。
明確な前情報が必要となると、今日のところはこれ以上出来る事は無いか?
ティムルに協力してもらって神鉄武器を作ってもらい、どの素材からどのスキルが付与されるのかを検証してみないと、これ以上のことは出来ないっぽい。
でも名匠じゃないと神鉄武器は作れないのに、名匠じゃなくても神鉄武器に付与されるスキルのスキルジュエルを作りだせるのは、間違いなく朗報だよな。
「……ん~。神鉄武器、神鉄武器のスキルかぁ」
今のところ、アウターエフェクトの素材を用いることで、神鉄武器に付与されるウェポンスキルを生み出すことが出来た。
だけど咆哮や獄炎、光輪なんかの神鉄武器スキルと、槍円舞や烈波斬、強振打なんかのウェポンスキルって、性能があまりにも違いすぎるよね?
大した性能でもないウェポンスキルを、アウターエフェクトの素材で作り出すっていうのは、ちょっと違和感が無いか?
神鉄武器のウェポンスキルと通常のウェポンスキルは、別々の生み出し方があるんじゃないの……?
「……だ~~っ! 分っかんねーーーっ!」
なんとなく答えに辿り着けそうなんだけど、あとちょっとの所で答えが出ない。
それがもどかしくって気持ち悪くて、思わず頭を掻き毟ってしまった。
……落ち着け。ちょっと状況を整理しようか。
まず、スキルジュエルの自作が可能であることが判明した。
素材には発光魔玉が必須で、スキルジュエル同士の融合の際にも発光魔玉が必要になる。
神鉄装備の素材と魔玉を使えば、神鉄装備に付与されるスキルのスキルジュエルを自作することが出来る。
だけど、自分の知らないスキルは作成できなかった。
神鉄装備のウェポンスキルは非常に強力で、それよりももっと弱い性能のウェポンスキルは沢山存在する。
なのにどれほど性能が低くても、ウェポンスキルのスキルジュエルのドロップ率は非常に低い。
通常のウェポンスキルのドロップ率を考えると、神鉄装備素材から生み出されるスキルジュエルのほうが入手難度が低いほどだ。
だから俺は、性能の低いウェポンスキルの入手方法って、ドロップ以外にもあるんじゃないかと睨んだわけだ。
少なくとも、神鉄装備の入手よりも簡単じゃないと辻褄が合わない。
「スキルジュエルの作成にはアイテム作成のスキルが必要で、名匠じゃなくてもスキルジュエルの作成は可能、か」
……なんとなくだけど、全然手軽にウェポンスキルを作成する方法があるような気がして仕方ないな。
それがまだ実現出来ていないのは、ウェポンスキルジュエルを生み出す素材の見当がついていないからだろう。
ウェポンスキル。ウェポン、つまり武器スキルだよね。
武器スキルを生み出すために必要な素材って、なんだろう?
名匠にならなくても扱える素材で、神鉄武器よりありふれてる素材ってなんだ?
同じ素材から作れる武器は数種類あるんだよな。
ミスリル武器を作成した時にも実感したことだけど、武器の種類で変わってくるのは必要素材の数だけだった。
武器によって扱えるスキルも変わってくるのに、どんな素材からどんなウェポンスキルが生み出せるかなんて、皆目見当もつかないよぉ。
せめて何の武器のスキルかだけでも指定できれば……。
ん? 武器種に対応したスキルを指定……?
「……そうか、武器か? もしかして、武器そのものを素材に使えばいい、のか……?」
ダマスカス以降の武器の素材には、武器が素材として扱われていた。
つまり、通常の武器が素材として使用できることは既にティムルが証明してくれているのだ。
もしも通常のウェポンスキルが既存の武器から生み出せるのであれば……。
ウェポンスキルの稀少性は思い切り下がるし、入手難度も高くない。これ、ビンゴじゃないのか……?
「…………ごくり」
逸る気持ちを抑えながら、インベントリからナイフを取り出す。
こいつは俺がステイルークで初めて買った武器で、野盗を殺す時にもお世話になった1本だ。
なんとなく手放せずに仕舞っていたけど、まさかここで出番があるなんてね。
1つ不安なのは、これらを用いてどんなスキルが出来るのかイメージ出来ていないことか。
だけど、ダガー系のウェポンスキルなんて今まで1度だって見たことない。
ナイフっていう完成品素材が、俺をゴールまで導いてくれると信じよう。
今のドロップ率で正解を知らないと作れないようなら、結局神鉄武器スキルの方が入手しやすいって事になっちゃうからね。
多分……いける気がする。
ナイフと発光魔玉を握り締め、覚悟を決める。
「紡ぎ合わせ、組み立て創れ。秘蹟の証明。想いの結晶。顕現。スキルジュエル」
スキルのイメージは出来ないけれど、ダガー系のウェポンスキルが欲しいと念じながらアイテム作成を発動する。
……失敗の予感はしなかった。
あとは、無事完成できるかどうか。
「く……! ぐぬぬ……!」
具体的なスキルのイメージが無いためか、不安定に揺れるスキルの魔力を必死に制御する。
細心の注意を払いながら1分前後スキルを維持すると、無事にスキルの発動が終了してくれた。
そして俺の手には、白いスキルジュエルが握られている。
スキルジュエル
投刃
「……っだよなぁ~。おかしいと思ってたんだよなぁ……」
安堵と納得の混じった、長い長い吐息が零れる。
槍円舞や強振打とか、あの程度のスキルが金貨数百枚で取引されるほどの希少性があるのは、どう考えたっておかしかったんだよ。
魔法使いになれれば使い道がない程度のスキルが、あまりにも希少性が高すぎた。
大した性能じゃないからこそ、あえて低いドロップ率に抑えられているのかもしれない。
こんなに簡単に入手できるスキルジュエルなんか、ドロップしてもがっかりするだけだからな。
この世界の装備品は魔力で作られ、サイズが自動で変わったりする不思議なアイテムだ。
インベントリにも収納できるし、装備品自体が魔力の塊だったんだなぁ。だから素材としても機能すると。なるほどなるほど。
この世界のシステムって、やっぱり弱者に優しく出来てるんだよね。
新しい武器を入手しても今まで使った武器が無駄にならないように、上位武器の素材になったりウェポンスキルの素材にしたりできるんだよ。
この世界の人たちって、この世界のシステムについてあまりにも無知すぎる。
この世界を作った誰かはきっと、弱者の力になれるようにって色々なシステムを用意してくれたんだろうに、それを全く知ろうとも生かそうともしてないように思えてしまう。
まぁいい。そんなことは今考えることじゃない。
今重要なのは、今まで超稀少だったウェポンスキルの入手難度が、地の底まで下がってくれたという事実だけだ。
ティムルにも協力してもらって、重銀以下の武器を可能な限り揃えてもらおう。
まずは何の武器から何のスキルが作成できるか、じっくり検証してみないといけないね。
少しずつ忍び寄ってくる不穏な空気を振り払うように、家族全員で激しく肌を合わせた結果、目の前にはベッドの上に転がる9人の失神した裸の美女があった。
うんっ、壮観だねぇ!
今日はちょっぴり張り切って、みんなに早めにお休みいただいた。
今日は少し激しめに愛していいかなってお伺いを立てたら、大歓迎されてしまったよ。
「みんなおやすみ。ゆっくり休んでね……」
眠るみんなをちゃんとベッドに寝かせなおして、毛布をかけてあげる。
いくら病気耐性があると言っても、裸で寝かせるのは気が引けちゃうからね。
「さて、それじゃ早速始めますかー」
本日みんなに先に休んでもらったのは、夜の間に色々な作業がしたいからだ。
エロエロな悪戯もしたいところだけれど、それはやるべき事を済ませてからにしよう。
「摂理の宝珠よ。神意に従い、加護と恩寵と祝福をここに。スキル付与」
まずは大量のスキルジュエルを用いた、装備品のアップグレードに着手する。
オリジナル装備の開発の可能性は示されたけれど、一朝一夕で成功するものではないみたいだし、今ある装備を限界まで強化してしまおうと思ったのだ。
大効果スキルを得られていないスキルを、可能な限り大効果にアップグレードしていく。
イントルーダーが少なくとも3体は出てきそうだから、ちょっとの強化でも疎かにすべきじゃないよね。
「ん~……。状態異常の耐性スキルはあるのに、防御系スキルのスキルジュエルって無いんだなぁ……」
物理・魔法耐性や物理・魔法防御力のスキルジュエルは1つも入手できなかったので、残念だけど防御関係のスキルはあまり伸ばせない。
イントルーダー戦はまず長期戦になるから、防御力は重要になってくるんだけどねぇ……。
「ふぅ。無い物ねだりしても始まらないか~……」
気を取り直して、全員の全状態異常耐性を大効果に引き上げる。
ラトリアの火竜の護りとエマの海竜のペンダントにもスキル枠が空いていたので、全状態異常耐性を付与。
ターニアには力の腕輪を製作して、体力自動回復と全状態異常耐性を、ムーリにはラビットシンボルを製作して、魔力自動回復と全状態異常耐性を付与してあげた。
「……これだけ付与しても、全然減った気がしないよぉ」
インベントリに未だ収納されている、大量のスキルジュエルに辟易する。
うちのパーティって6人全員付与術士が浸透していて、更には俺の勇者にまで技能宝珠出現率上昇がついてるから、ありえないほどスキルジュエルがボロボロ落ちてくれるのよね。
スポットの最深部ではあんなに喜んだスキルジュエルも、今やインベントリの中に山のように収納されるありふれた存在になってしまったのだ。
仕合わせの暴君以外のメンバーには、アクセサリーに絞ってスキルを付与する。
あまりスキルを付与させすぎると、その装備品を狙う変な虫を呼び込みかねないからね。
「は~疲れたぁ……。でもここからが本番なんだよなー」
なんとか普通のスキル付与は終わった。
……ここまでならみんなの前でやっても良かったんだけど、ここからの作業はちょっと先に1人で試してみたかったんだよね。
インベントリから、発光魔玉とテラーホーンを取り出す。
失敗したら素材は失われるみたいだけど、失われても惜しくはないよな。
スポットで初めてスキルジュエルを得てから、今ではインベントリから溢れ出そうなくらいのスキルジュエルを入手できるようになった。
そんな大量のスキルジュエルに触れるようになって、俺は次第に違和感を抱くようになっていった。
スキルジュエルは山のように出るけれど、ウェポンスキルは本当に出にくい。未だに両手の指にも足りないくらいの数しか見たことが無いはずだ。
それほどまでに出にくい割に攻撃魔法のほうがよほど効果が高くて、ウェポンスキルの希少性と効果が噛み合ってない気がしていたのだ。
そしてアウターエフェクトの素材を用いて装備品を作ると付与される、獄炎や咆哮、空蝉などの変わったスキルの存在。
魔玉と色以外はそっくりな、スキルジュエルの外見。
色々な事を加味した結果、俺は1つの可能性に思い至った。
『もしかしてスキルジュエル、自作できるんじゃね?』と。
「紡ぎ合わせ、組み立て創れ。秘蹟の証明。想いの結晶。顕現。スキルジュエル」
発光魔玉とテラーホーンを触媒にして、アイテム作成スキルを発動する。
五感上昇を総動員してスキル発動の魔力を見極め、職業補正を体中に走らせるのと同じ感覚で、アイテム作成スキルに使用されている魔力を制御する。
……なんか魔力が弾け飛びそうになっているけれど、魔力操作で押さえ込めばいいのかな?
「んぎ……! ぐうぅぅ……!」
暴れる魔力を必死に押さえつけること数分。
まさかの魔力枯渇の兆候を感じ始めた頃に、ようやくスキルの発動が止まってくれた。
「はぁ……はぁ……。ま、まさかここまで魔力を使っちゃうとはね……」
息を切らしながら、噴き出す汗を袖で拭う。
レシピを用いないアイテム作成は、スキルの魔力消費が激しいのかもしれないな。
「……まぁでも、苦労した甲斐はあっただろ」
何せ俺の目の前に真っ白な魔玉、もといスキルジュエルが落ちてるんだからなっ……!
スキルジュエル
咆哮
「うん。出来るような気はしていたけどさぁ……」
でも実際に出来てしまうと結構ビビるね。大収穫だけど。
これでインベントリの中の素材の使い道が出来たわけだし、何よりウェポンスキルを自作できる可能性が出てきた。
「アイテム作成を使うのは……まだちょっと厳しいか。何をしようかな?」
すっかり疲弊してしまったので、少し時間を持て余してしまう。
咆哮が自作できたんだから獄炎も作ってみたいところだけど、魔力が回復しないとスキルジュエルの作成は厳しそうだし……。
「あ、そうだ。咆哮が自作できるなら……」
既に咆哮が付与されているティムルのオリハルコンダガーに、咆哮を追加付与してスキル融合を試してみよう。
スキル付与に失敗しても消失するのはスキルジュエルだって話だし、仮に想定外の自体を招いたとしても咆哮のスキルジュエルを作れるようになったんだから、実質リスクも無いよね?
よっし、スキル付与ーっと。
「……うん。スキルは正常に発動した、かな」
失敗した感覚も無かったし、多分成功したんじゃないだろうか? 鑑定鑑定っと。
オリハルコンダガー
叫喚静刻 物理攻撃上昇 体力吸収+ 魔力吸収+ 無し
おお。なんと成功してしまったぞ!
叫喚静刻? なんかめちゃくちゃ物騒なスキル名になってしまったんだけど、あとで怒られないといいなぁ……?
ティムルに怒られるかどうかは朝まで分からないけど、神鉄武器に付与されるスキルも合成可能なことが分かった。
これは獄炎も試してみるしかないけど、まだ魔力が回復するまではかかりそうだ。
「んー、次はなにをして時間を潰そうかなぁ? あっ、そうだ」
スキルジュエルの自作に成功したんだから、今度は同じ効果のスキルジュエル同士を直接融合って出来ないだろうか?
装備品を介さずスキルジュエル同士を直接融合できれば、装備品を用意しなくてもスキルジュエルの整理が可能だし。
「摂理の宝珠よ。神意に従い、加護と恩寵と祝福をここに。スキル付与」
精神異常耐性-のスキルジュエルを2つ取り出して、まずはスキル付与を試してみる。
……けどスキルが発動しない。残念ながら失敗だ。
あくまでもスキル付与は装備品にスキルを付与する能力だから、スキルジュエルには効果が及ばないのかもしれない。
咆哮のスキルジュエルを製作したのだって、アイテム作成スキルの方だったわけだしな。
「それじゃあ今度は、2つのスキルジュエルを触媒にしてアイテム作成を……、とぉっ!?」
スキルを発動しようとした瞬間、合成が失敗してしまう直感のような物を感じ、反射的にスキルをキャンセルしてしまった。
「な、なんだ今の感覚は……?」
そう言えばリーチェがアイテム開発を試した時、スキルが失敗する感覚がするって言ってたっけ。
今のいやーな感覚がそれだったのかな?
となるとスキルジュエル同士での融合は不可能なのか、それとも何らかの素材が必要なのか……。
って、咆哮のスキルジュエルを自作した時は発光魔玉を使ったんだった。そして今回は入れてなかった。
スキルの入れ物として、発光魔玉が必要だったりするのかな? 試そう。
精神異常耐性-のスキルジュエル2つに発光魔玉1つ追加して、精神異常耐性のスキルジュエルを作ることを明確にイメージしてアイテム作成を発動する。
「紡ぎ合わせ、組み立て創れ。秘蹟の証明。想いの結晶。顕現。スキルジュエル」
今度は失敗の予感を感じることなくスキルが発動してくれた。
そして咆哮を作ったときとは比べ物にならないほど、アッサリとアイテム作成が終了する。
スキルジュエル
精神異常耐性
目の前には、1つになったスキルジュエルが転がっている。
うん。どうやら今回も成功してしまったようだ。
スキルジュエル同士の合成が可能である意味は大きい。
装備品側のスキル枠が足りていなくても、スキルをグレードアップさせることが出来るってことだもんね。
「よっし。魔力消費も大したことなかったしどんどんいこう」
インベントリ内に溜まっていたスキルジュエルを、1つ1つ合成して整理していく。
俺抜きでも1日50個前後拾っていたので、インベントリの中がどんどん埋まっていって結構恐怖だった。
勇者の俺が参加すると、日に70個以上はドロップしてたからね。価値観が崩壊するってぇの。
スキルジュエルをまとめながら魔力を回復させ、フレイムソウルと発光魔玉を使って獄炎のスキルジュエルを作成する。
既に1度成功させたせいなのか、1度目よりも格段に短い時間でスキルジュエルを生み出すことが出来た。
それじゃ早速スキル付与してみましょうねぇっ。
神鉄のロングソード
焦天劫火 装備品強度上昇+ 魔法妨害+ 魔力吸収+ 無し
「お、おお……? 焦天劫火、でいいのかな?」
地獄の炎が融合すると、天をも焦がす滅びの劫火に変わる、みたいな感じなのかな?
獄炎が既に強力なスキルだっただけに、焦天劫火の性能が楽しみなような恐ろしいような。
なんにしても、死蔵されていたアウターエフェクトのドロップアイテムの活用法が見つかったわけだ。
どんどん試して、色んなスキルジュエルを作り出してみよう。
…………そんな風に思っていた頃もありました。
魔力を回復させつつ素材を変えつつ、何度かスキルジュエル作成を試してみたんだけれど、結果は散々だったよ……。
アイテム作成は発動するし失敗の予感はしないんだけど、魔力枯渇を起こすまでスキルを発動してもスキルジュエルが完成してくれない。
唯一成功したのが、セイントソウルを用いた光輪のスキルジュエルだった。
「……失敗と成功の違いは、何だ?」
今回スキルジュエルの作成に成功したのは、既に俺が知っているスキルに限られていた。
フレイムソウルから獄炎が、テラーホーンからは咆哮が、セイントソウルからは光輪のスキルジュエルが生み出せるだろうと、成功のイメージが完全に固まっていた。
つまりスキルジュエルを作成するためには、素材から何のスキルが得られるのかを知っていないといけないってことなのかなー。
叫喚静刻や焦天劫火のように、単純な上位スキル合成の場合は問題なく成功するんだけどねぇ……。
明確な前情報が必要となると、今日のところはこれ以上出来る事は無いか?
ティムルに協力してもらって神鉄武器を作ってもらい、どの素材からどのスキルが付与されるのかを検証してみないと、これ以上のことは出来ないっぽい。
でも名匠じゃないと神鉄武器は作れないのに、名匠じゃなくても神鉄武器に付与されるスキルのスキルジュエルを作りだせるのは、間違いなく朗報だよな。
「……ん~。神鉄武器、神鉄武器のスキルかぁ」
今のところ、アウターエフェクトの素材を用いることで、神鉄武器に付与されるウェポンスキルを生み出すことが出来た。
だけど咆哮や獄炎、光輪なんかの神鉄武器スキルと、槍円舞や烈波斬、強振打なんかのウェポンスキルって、性能があまりにも違いすぎるよね?
大した性能でもないウェポンスキルを、アウターエフェクトの素材で作り出すっていうのは、ちょっと違和感が無いか?
神鉄武器のウェポンスキルと通常のウェポンスキルは、別々の生み出し方があるんじゃないの……?
「……だ~~っ! 分っかんねーーーっ!」
なんとなく答えに辿り着けそうなんだけど、あとちょっとの所で答えが出ない。
それがもどかしくって気持ち悪くて、思わず頭を掻き毟ってしまった。
……落ち着け。ちょっと状況を整理しようか。
まず、スキルジュエルの自作が可能であることが判明した。
素材には発光魔玉が必須で、スキルジュエル同士の融合の際にも発光魔玉が必要になる。
神鉄装備の素材と魔玉を使えば、神鉄装備に付与されるスキルのスキルジュエルを自作することが出来る。
だけど、自分の知らないスキルは作成できなかった。
神鉄装備のウェポンスキルは非常に強力で、それよりももっと弱い性能のウェポンスキルは沢山存在する。
なのにどれほど性能が低くても、ウェポンスキルのスキルジュエルのドロップ率は非常に低い。
通常のウェポンスキルのドロップ率を考えると、神鉄装備素材から生み出されるスキルジュエルのほうが入手難度が低いほどだ。
だから俺は、性能の低いウェポンスキルの入手方法って、ドロップ以外にもあるんじゃないかと睨んだわけだ。
少なくとも、神鉄装備の入手よりも簡単じゃないと辻褄が合わない。
「スキルジュエルの作成にはアイテム作成のスキルが必要で、名匠じゃなくてもスキルジュエルの作成は可能、か」
……なんとなくだけど、全然手軽にウェポンスキルを作成する方法があるような気がして仕方ないな。
それがまだ実現出来ていないのは、ウェポンスキルジュエルを生み出す素材の見当がついていないからだろう。
ウェポンスキル。ウェポン、つまり武器スキルだよね。
武器スキルを生み出すために必要な素材って、なんだろう?
名匠にならなくても扱える素材で、神鉄武器よりありふれてる素材ってなんだ?
同じ素材から作れる武器は数種類あるんだよな。
ミスリル武器を作成した時にも実感したことだけど、武器の種類で変わってくるのは必要素材の数だけだった。
武器によって扱えるスキルも変わってくるのに、どんな素材からどんなウェポンスキルが生み出せるかなんて、皆目見当もつかないよぉ。
せめて何の武器のスキルかだけでも指定できれば……。
ん? 武器種に対応したスキルを指定……?
「……そうか、武器か? もしかして、武器そのものを素材に使えばいい、のか……?」
ダマスカス以降の武器の素材には、武器が素材として扱われていた。
つまり、通常の武器が素材として使用できることは既にティムルが証明してくれているのだ。
もしも通常のウェポンスキルが既存の武器から生み出せるのであれば……。
ウェポンスキルの稀少性は思い切り下がるし、入手難度も高くない。これ、ビンゴじゃないのか……?
「…………ごくり」
逸る気持ちを抑えながら、インベントリからナイフを取り出す。
こいつは俺がステイルークで初めて買った武器で、野盗を殺す時にもお世話になった1本だ。
なんとなく手放せずに仕舞っていたけど、まさかここで出番があるなんてね。
1つ不安なのは、これらを用いてどんなスキルが出来るのかイメージ出来ていないことか。
だけど、ダガー系のウェポンスキルなんて今まで1度だって見たことない。
ナイフっていう完成品素材が、俺をゴールまで導いてくれると信じよう。
今のドロップ率で正解を知らないと作れないようなら、結局神鉄武器スキルの方が入手しやすいって事になっちゃうからね。
多分……いける気がする。
ナイフと発光魔玉を握り締め、覚悟を決める。
「紡ぎ合わせ、組み立て創れ。秘蹟の証明。想いの結晶。顕現。スキルジュエル」
スキルのイメージは出来ないけれど、ダガー系のウェポンスキルが欲しいと念じながらアイテム作成を発動する。
……失敗の予感はしなかった。
あとは、無事完成できるかどうか。
「く……! ぐぬぬ……!」
具体的なスキルのイメージが無いためか、不安定に揺れるスキルの魔力を必死に制御する。
細心の注意を払いながら1分前後スキルを維持すると、無事にスキルの発動が終了してくれた。
そして俺の手には、白いスキルジュエルが握られている。
スキルジュエル
投刃
「……っだよなぁ~。おかしいと思ってたんだよなぁ……」
安堵と納得の混じった、長い長い吐息が零れる。
槍円舞や強振打とか、あの程度のスキルが金貨数百枚で取引されるほどの希少性があるのは、どう考えたっておかしかったんだよ。
魔法使いになれれば使い道がない程度のスキルが、あまりにも希少性が高すぎた。
大した性能じゃないからこそ、あえて低いドロップ率に抑えられているのかもしれない。
こんなに簡単に入手できるスキルジュエルなんか、ドロップしてもがっかりするだけだからな。
この世界の装備品は魔力で作られ、サイズが自動で変わったりする不思議なアイテムだ。
インベントリにも収納できるし、装備品自体が魔力の塊だったんだなぁ。だから素材としても機能すると。なるほどなるほど。
この世界のシステムって、やっぱり弱者に優しく出来てるんだよね。
新しい武器を入手しても今まで使った武器が無駄にならないように、上位武器の素材になったりウェポンスキルの素材にしたりできるんだよ。
この世界の人たちって、この世界のシステムについてあまりにも無知すぎる。
この世界を作った誰かはきっと、弱者の力になれるようにって色々なシステムを用意してくれたんだろうに、それを全く知ろうとも生かそうともしてないように思えてしまう。
まぁいい。そんなことは今考えることじゃない。
今重要なのは、今まで超稀少だったウェポンスキルの入手難度が、地の底まで下がってくれたという事実だけだ。
ティムルにも協力してもらって、重銀以下の武器を可能な限り揃えてもらおう。
まずは何の武器から何のスキルが作成できるか、じっくり検証してみないといけないね。
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