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5章 王国に潜む悪意1 嵐の前
290 好色家の必要性 (改)
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ニーナにガレルさんのことを伝えた後は、新しく妻に迎えたターニアさんとラトリアも交えて、10人での大運動会が開催された。
初参加のターニアさんに負担をかけないように気を遣いながら、悪意に翻弄され続けたみんなを抱き締めるようにゆっくりと肌を重ねて夜を過ごした。
その結果、穏やかな顔でベッドに横たわるみんなを見て、達成感に溢れた夜明けを迎えることが出来た。
うん。9人同時に相手しても俺の方に余裕があるのってありえないよなぁ。
精力増進の累積数は変わっていないけれど、魔力の量がどんどん増えているからね。
限界値がどんどん上がっていってるんだろう。
ターニアさん……いやもうターニアでいいね。
彼女を鑑定すると、無事に好色家の条件を満たしたようで何よりだ。
ラトリアもだったけど、娘と一緒に好色家の条件を満たす母親って、エロいな?
「おはよう。さぁ起きてみんな。10人での新しい朝だよ」
キスをしながらみんなを起こし、起きたみんなにまた注ぎ込む。
ニーナからもう1度みんなに注ぎ直して、1回じゃ足りないなともう1周、いやまだまだと更にもう1周して朝のお勤めの完了だ。
「ターニアさん。これからはターニアって呼ばせてもらうね」
自分でぐったりさせたターニアとニーナをよしよしなでなでしながら、みんなに1つ提案する。
「今日はまず、ターニアに好色家を浸透させてあげようと思うんだ。だからその間だけでもみんなで奈落に行ってみない?」
「みんなって言うと、私もですか?」
「うんうん。ムーリもだよっ。俺達と一緒なら危険も無いからさ。どうかなっ」
ターニアとの愛の営みを思う存分楽しむためには、好色家の浸透は必須だからね。
せっかく奈落でなら一瞬で浸透が終わるんだから、これを利用しない手は無いでしょっ!
ムーリもすぐに終わるならと同行を了承してくれたので、早速奈落に転移した。
「へ~。ここが前人未到の奈落の最深部なんだ? 随分あっさり来ちゃったのー」
「う、うぅ……。や、やっぱり私にはちょっと早い場所みたいです……。さっきから震えが……」
キョロキョロと物珍しそうに周囲を見回すターニア。武器を構えて油断なく周囲を窺っているラトリアとエマ。
そんな中、戦闘経験の浅いムーリがちょっとだけ辛そうにしている。
初の家族10人全員での出陣だ。
この9人の美女が全員俺の嫁とか信じられるぅ? 俺自身が信じられないよぉ。
「さぁお姫様。お乗りください」
「は、はうぅぅ……! は、恥ずかしいけど嬉しいよぉ……!」
震えるムーリに声をかけて、お姫様抱っこしてあげる。
9人の中では最も戦闘経験が少なく奈落の雰囲気に圧倒されているムーリのことは、お姫様抱っこして守ってあげるからねー。
職業設定でターニアを好色家にして、さぁ探索開始ー。
「ターニアの好色家、無事に浸透したよー」
「「「早ぁっ!?」」」
奈落の最深部初体験のメンバーが、声を揃えて突っ込んできた。
分かっちゃいたことだけど、30分もしないうちに好色家が浸透を終えてしまった。
LV30上限の職業なんて一瞬で浸透しちゃう場所なんだなぁ。
同時にラトリアの旅人も浸透したので商人に設定。ターニアは冒険者に戻す。
商人 最大LV30
補正 幸運上昇-
スキル 目利き
「ムーリの冒険者が間もなく浸透しそうだから、そこまで浸透させたら帰ろうか。ムーリ、もうちょっとだけ俺の腕の中で大人しくしててね?」
「う~っ! からかわれてるのが分かってても嬉しいよぉっ! 一生ダンさんの腕の中で大人しくしていたいですぅっ!」
可愛いことを言いながら悶絶しているムーリにキスをして、魔物狩りを再開する。
ムーリがあまりパワーレベリングしたくないと言っていたので、ムーリの冒険者が浸透したら終わりにしようかな?
「ムーリの浸透が済んだのは予定通りなんだけど……。ちょっと勢い余っちゃったな?」
母親組の職業浸透が思ったよりも進んでしまった気がする。
ムーリが冒険者の浸透を終える間に、ラトリアは商人と魔法使いの浸透を終え冒険者に、エマは冒険者を浸透させて探索者に、ターニアも勢い余って冒険者を終わらせてしまったのだ。
ラトリア、エマ、ターニアの3人は戦闘経験も豊富なので、職業浸透が進みすぎても不都合は無いだろうけれど。
「それじゃ私は探索魔法士にしてください。後衛希望ですからね」
「私は勿論探索者でおねがいっ。アナザーポータルが使えれば、自力での職業浸透も捗るのっ」
はいはーい。ムーリが探索魔法士、ターニアとエマが探索者、ラトリアが冒険者ねっと。
探索魔法士 最大LV50
補正 魔力上昇 魔法攻撃力上昇-
スキル 探索魔法
冒険者 最大LV50
補正 体力上昇 持久力上昇 敏捷性上昇-
スキル インベントリ ポータル
探索者 最大LV100
補正 体力上昇+ 魔力上昇 持久力上昇+ 敏捷性上昇
全体装備品強度上昇- 全体魔法耐性
スキル インベントリ アナザーポータル
「う~ん。まさか私がポータルを遣えるようになる日が来るなんて……。だけど移動魔法の重要性は取り返しがつかないほどに痛感してますからね。凄くありがたいです」
「アナザーポータルまで使えれば遭難の心配も無いし、いざと言う時にサッと退却可能ですからね。今後は正面から剣で捻じ伏せるだけでは切り抜けられない場面も想定しないと……!」
ゴルディアさんの1件で移動魔法の重要性を実感しているラトリアとエマが、少し寂しそうな表情を浮かべながらも嬉しそうにしている。
今回の転職は移動と探索がメインだね。
いつ敵に教われるか分からない現状、少しでも戦闘力を上げて欲しいところではあるけど、パワーレベリングは技術が伴わなくて危険だ。
だから自力での浸透が捗るように、移動魔法と探索魔法士というわけだね。
「これでマグエル組とヴァルハール組の両方に探索者が誕生したことになるね。もうみんなを送っていく必要も無いけど、俺が送っていきたいから今日は送ってくよ。みんなは浸透を進めておいて」
一旦仕合わせの暴君メンバーと別れて、まずはマグエルへ。
「アナザーポータルが使えるようになるなんて感激だよぅ。どんどん浸透を進めて、装備品もアップグレードしていくからねっ」
「スポットでは探索魔法はあまり実用的ではありませんが、魔力と魔法の威力に補正がかかるのでしたら問題ないですね。ターニアさんに槍の指導を受けながら、1歩1歩力を付けていきたいと思いますっ」
張り切るムーリとターニアにちゅっと口付けをして送り出す。
本当は、ムーリが武器を持って戦う必要なんて無いんだよって言ってあげたい。
でも、この世界で戦う力を持たせないことは、逆に虐待に近いと俺は思う。
ムーリは俺が守らなきゃ生きていけないほど弱い女性じゃない。
強さを求める彼女の強さを信じないとな。
ムーリとターニアを送り出したらヴァルハールに転移し、ラトリアとエマと一緒にシルヴァに会いに行く。
「ようこそダンさん。今日は僕にもお話があるとか?」
「うん。フラッタに続いてラトリアとも婚姻を結んじゃったから、その報告をね?」
「……………………は?」
完全にフリーズするシルヴァ。
ごめん。なんて切り出すか思いつかなくて、結局火の玉ストレートを放ってしまったよ。
時間を置いて復活したシルヴァに、ラトリアを娶った経緯をもう少し詳しく説明する。
「ああ、母が父を忘れたというわけではないのでしたら気にしませんよ。逆に父以外でしたら、ダンさんにしか母を任せられません。実力的にもそうですけど、母は結構抜けているところもありますから」
「う~……! 謁見の件があるからなにも反論できませんっ……!」
唸りながら頭を抱えるラトリア。
もう過ぎたことだし、悪気があってしたことでもないんだから忘れていいよ。
その後国王に対峙したラトリアは立派だったからさ。
「シルヴァも見つかったことだし、ルーナ家の騒動もひと段落ついたと思うんだ。だからそろそろゴルディアさんを正式に弔ってあげられないかなって思うんだけど、どうだろう?」
「そう、ですね……。僕も父を弔ってあげたいですし、正式に当主と認められてルーナ家を安定させたい気持ちもあります。ですが竜爵家の当主の葬儀ですから、思い立ったらすぐ、という訳にはいきません。準備に多少時間がかかるかと」
俺の意見には賛成だけど、現実的な問題があるわけね。
貴族籍は王国で管理しているものだから、ゴルディアさんの死亡届けや次期当主の襲名など、幾つもの手続きをしないといけないみたいだ。
俺はそういうこと一切分からないので、シルヴァとラトリアに任せる事にする。
「俺は王国のルールには疎いから、シルヴァとラトリア主導で進めちゃって貰えると助かるよ。協力できることがあったら言ってくれていいからさ」
「僕の当主登録と、妻たちの貴族籍登録についても申請しなくてはいけないので……。父の葬儀は早くても4月、いや5月くらいになるかもしれません」
ゴルディアさんの葬儀は、春過ぎから初夏の頃。
奇しくも、彼の1周忌に当たる頃になりそうだ。
さて、葬儀の話が済んだので、今日シルヴァに会いに来た本題に移る。
「俺の鑑定スキルのことは聞いてるよね? シルヴァの事を鑑定していいかな?」
「聞いてますよ。構いません、どうぞ」
許可を得たのでシルヴァを鑑定する。
……うん。やっぱりまだ好色家を得られてないみたいだね。
従属魔法で強制的に肌を重ねても好色家は得られないし、真面目なシルヴァがその後も複数の女性を一緒に相手したことも無いのだろう。
だけど病気耐性と精力増進がある好色家は、短命で性欲が薄いと言われる竜人族にこそ必要な職業だ。
シルヴァにも浸透させてあげたいし、秘匿せずにある程度広めてあげるべきだろう。
「シルヴァ。これは真面目な話だから、そのつもりで聞いて欲しいんだけどさ……」
「……? はい」
嫁の兄にする話題じゃないよなぁ、と思いながらも話を進める。
「好色家って職業があるんだけど、知ってるかな?」
「好色家ですか……。いえ、聞いたことがないですね」
「単刀直入に言うと、男女の性行為の負担を大きく軽減させてくれる職業なんだ」
「せ、性行為……、って」
俺の言葉に怯むシルヴァ。
俺は羞恥心を押し殺し、最大級に真剣な表情を浮かべて話を続ける。
「好色家の職業補正は精力増進と病気耐性。竜人族に必要な職業なんだよ。だからシルヴァには是非好色家の浸透をお勧めしたいんだ」
「む……。た、確かにそれは竜人族には必要な職業かもしれません」
少し気恥ずかしそうなシルヴァだったけど、好色家の職業補正を知ってすぐに表情を引き締める。
「心から好き合う男女が3人以上で愛の営みを経験すると、好色家という職業が得られるんだ」
「さ、3人以上で一緒に、ですか……」
「5人の妻を娶ったシルヴァなら、人数的な条件は問題ないと思う。だけど、心から想い合うってのが結構難しくてさぁ」
この世界では、一夫多妻はありふれた行為だ。
なのに好色家の存在は、一般にも貴族層にも殆ど知られていない。
自分がどれほど良縁に恵まれていたのかを改めて噛み締めながら、シルヴァに好色家の条件の満たし方を伝えていく。
「シルヴァは5人の女性を娶り、これから次代の当主を産まなきゃいけない。でもそんな気持ちで女性を抱いたら絶対にダメなんだ。義務感で妻となる女性と接しちゃいけないんだ」
「う……。そ、それはそうなんですが……」
「直ぐには難しいかと思うけど、妻の事をちゃんと愛してあげて欲しい。シルヴァが奥さん達と心から愛し合って幸せになれば、ルーナ家の未来も竜人族の将来も明るくなるんだからさ」
シルヴァはイケメンで心根も優しく、家柄も良くて腕っ節も強いという、まるで少女マンガに出てきそうな完璧超人だ。
だけど真面目で優しすぎるから、責任感や義務感だけで女性達と肌を重ねてしまいそうな危うさがある。
5人の妻がいるなんて、頑張れば艶福家にだってなれるんだよ。多分。
嫌々とか仕方ないなんて気持ちで女性と愛し合うなんて、勿体無さすぎるからね?
「お嫁さんの事を、守らなきゃいけない弱い存在なんて思っちゃダメだよ? 今はか弱くても、夫婦一緒に寄り添って強くなることだってできるんだ。ゴルディアさんとラトリアのようにね」
「あっ……。確かに父と母は、お互い寄り添って……」
「シルヴァが好色家になれれば夫婦生活は円満になるし、跡取り問題も余裕で解決出来ちゃうと思う。だから奥さん達となるべく沢山の時間を過ごして、色んな話をして欲しい」
男なんてのはただ黙って、女性の事を受け入れてあげればいいんじゃないかな。
だけどお前が距離を取ったままじゃ、奥さん達もお前に近寄れないからね。シルヴァの方からゆっくりと歩み寄って欲しいんだ。
「夫婦一緒に、寄り添って生きる、ですか……」
シルヴァは俺の言葉を噛み締めるようにしてから呟いた。
「確かに僕は彼女達を被害者だと決め付け、腫れ物のように扱っていたかもしれません。縁あって共に生きる事になったのですから、嫌い合うよりも好き合ったほうが健全ですね」
肩の力を抜くように、柔らかく微笑むシルヴァ。
シルヴァたちも特殊な出会い方をしてしまったから、無理に好き合おうとしても難しいかもしれない。
でもお互いを理解し合うことは出来ると思うんだ。
少なくとも、お互いに距離を持ったままで一緒に過ごすなんて疲れちゃうからね。
少しずつでも歩み寄ってくれればいいんじゃないかな。
俺じゃ恋愛相談や夫婦円満の秘訣なんて教えられないけど、竜人族に好色家が必要なことだけは伝えてあげられる。
好色家とか艶福家って、本来は人間族じゃなくて、竜人族やエルフ用に用意された職業なんじゃないのかねぇ?
好色家の転職魔法陣をヴァルハールに設置するのはアリだとは思うけど……。
狙って獲得するのが難しい職業でもあるんだよなぁ。維持も難しそうだし悩ましい。
「実を言うとあんまり心配はしてないんだ。シルヴァは最高のお手本を、誰よりも近くから見てきただろうからさ」
「……ははっ。そうですね。結局のところ僕が目指すべき目標は、いつだって父の背中だってことなのでしょう」
柔らかく微笑むシルヴァを見て、彼の肩の力が抜けたのを感じる。
責任を持って家族を守るのは大切だけど、お前自身もちゃんと幸せにならなきゃダメだからな?
シルヴァに伝えることは伝えたので、退室してパールソバータに戻る事にする。
でも退室した俺を追って、ラトリアとエマが部屋から出てきた。
「シルヴァのことも義娘たちのことも任せてくださいね。ダンさんの家族みたいに、笑顔溢れる家族にして見せますからっ」
「私もラトリア様も、シルヴァ様ご夫婦を少し急かしすぎていたかもしれません。ダンさんの話を聞いて、彼女達ともう少しゆっくり過ごして、彼女達と色んな話をして、もっと仲良くなりたいと思いました。ダンさん。いつもありがとうございます」
笑顔を浮かべるラトリアと、俺に向かって深々と頭を下げるエマ。
シルヴァとルーナ家の事をこんなに愛する2人がついているんだから、俺が余計な事を言う必要もなかった気がするけどね。
あとラトリアが張り切ると怖いから、エマがちゃんと手綱を握ってあげて。
ぶーっ! と可愛く膨れるラトリアと、お任せくださいと胸を張るエマにキスをして、今度こそ奈落に転移した。
「お姉さーん。盗賊の浸透終わってるよー」
合流したみんなを鑑定すると、ティムルの盗賊が浸透を終えていた。
最大LV100の職業だけど、なぜか盗賊と殺人者は浸透が結構早いんだよなぁ。
ティムルの職業を殺人者に変更する。
殺人者 最大LV100
補正 敏捷性上昇 敏捷性上昇-
スキル 対人攻撃力上昇
犯罪職なんかで街を歩かせたくないから、出来ればここまで浸透させてしまいたいなぁ。
……しかしティムル。お前戦闘力が低いって悩んでたけどさぁ。
今のお前って、絶対に出会った頃のリーチェよりも数段強くなってるからな?
累積していた五感補正と身体操作性補正に犯罪職の敏捷性補正が噛み合って、凄まじいスピードになってるからね?
このティムルを持ってしても戦闘力が低いと感じさせる、うちのメンバーの戦闘力水準よ……。
しかし職業浸透が進むのはありがたいんだけど、安易に世に出せないドロップアイテムがどんどん溜まっていくのは考えものだなぁ。
最大サイズのインベントリでも、このペースじゃ埋まりかねないよ。何かに活用できれば良いんだけどねぇ。
ティムルの殺人者まで浸透させて、彼女を暗殺者にしたところでタイムアップだ。
「おっけーティムル。殺人者の浸透が終わったよ。こんな職業さっさと変更しちゃおうねー」
「あはーっ。ダンは気にしすぎよぉ。でもこれでようやく私も気配遮断スキルが使えるわぁ」
暗殺者 最大LV100
補正 体力上昇+ 魔力上昇+ 持久力上昇+ 敏捷性上昇+
身体操作性上昇+ 五感上昇+ 幸運上昇+ 装備品強度上昇+
スキル 全体気配遮断 対人攻撃力上昇+
リーチェの侠客は浸透しているだろうけれど、ニーナとフラッタの分析官はLV68だった。
分析官ってめちゃくちゃ上がり難いじゃないか、ちくしょうめーっ!
ヴァルゴの悪魔祓いは問題なく浸透を終えていたので、次は侠客になってもらった。
パールソバータに向かう途中に人質の救出に参加したおかげで、ヴァルゴも条件を満たしてくれているからね。
侠客 最大LV50
補正 物理攻撃力上昇 物理防御力上昇 体力上昇- 魔力上昇- 幸運上昇
スキル 陽炎
「……なんとなくのイメージだけど、ヴァルゴに侠客は似合うなぁ」
「そうですか? 自分ではよく分かりませんが」
ヴァルゴって俺の護衛って立ち位置だし、なんとなく用心棒みたいな雰囲気があるんだよなぁ。
侠客は基本職っぽいわりには補正が優秀だなぁと思う。
五感や敏捷性、身体操作性に補正はかからないけれど、陽炎のおかげで戦闘力の向上幅は大きい。
ま、ヴァルゴは空蝉が使えるから、陽炎を使う機会は無いと思うけどさ。
「さぁ今日も全力でいっくよー! いでよ竜王ーっ!」
探索を終えて、手合わせのために竜王召喚!
……って、とうとうイントルーダーを召喚しても魔力枯渇の症状が出なくなってしまったなぁ。
勇者と魔王が179、神殺しが34まで上がった事で、竜王召喚の魔力が足りるようになったんだね。
「はぁーーーっ!」
「せやぁーーっ!」
しかしみんなと手を合わせていると、1日1日の成長速度が凄まじいよ。
職業浸透が1日で終わっちゃうから、1日経てば動きが別人のように早くなるねぇ。
凄まじい数の職業補正に加えて、竜化や深獣化、魔迅まで駆使して戦えるうちのパーティの底力ってどのくらいなんだろうなぁ?
「んもーっ! 涼しい顔で凌ぎながら成長したって言われても、全然実感できないんだからねーっ!?」
「私が戦闘力で悩んでるのはみんなのせいじゃなくて、ダンが原因に決まってるでしょーっ!」
手合わせを終えた瞬間、俺に全力でツッコミを入れながら俺の胸に突っ込んでくるニーナとティムル。
んもー、2人とも可愛すぎるよぉ。ぎゅー。よしよしなでなで。
「職業浸透数の差は埋まってきたはず。技術の差も母上とヴァルゴのおかげで縮まっているはずなのじゃ。なのにダンの動きだけ明らかにおかしいのは何故なのじゃ? 職業補正の差だけとは思えぬ……」
「ダンはぼくの精霊魔法にすら気付くからね。職業補正の数じゃなくて、質が違うように感じられるかな。いや質じゃなくて……、理解度?」
「技術も高く加護の力も強力なのですけど、旦那様は何よりも強さに貪欲すぎます。誰よりも強い力を持ちながら、誰よりも強く強さを求める姿勢こそが恐ろしいのです」
我が家の戦闘力担当の3人が、俺と自分達を比べて首を捻っている。
う~ん……。魔力の概念はみんな理解できているのに、職業補正を魔力的な概念で捉えられないのは何でなんだろう?
魔迅は勿論のこと、獣化や竜化だって魔力操作で行われてることなんだし、熱視や精霊魔法にだって魔力が作用しているはずだ。
なのになんで職業補正だけ意識出来ないんだろうなぁ?
訓練を終えて奈落を脱出し、フォアーク神殿に向かおうとするリーチェを呼び止める。
「あ、リーチェ。フォアーク神殿の利用が頻繁になってるし、やっぱり転職費用は俺が出すよ」
「え? で、でも職業設定が使えないのはぼくの都合で……」
「俺たちはもう夫婦なんだからさ。変な遠慮はしないで欲しいな?」
「ふ、夫婦って言われちゃうと困っちゃうなぁ……! 鑑定を許可してないのはぼくの都合なのに、それでダンにお金を使わせたくないんだけど、夫婦って言われちゃうとなぁ……!」
満面の笑みでクネクネしながら困るなぁとか言われても、こっちこそ困っちゃうよ。リーチェが可愛すぎて。
我が家はお金が余ってるんだから気にせず受け取ってねと、メンバー全員に王金貨10枚ずつ配布する。
「う~ん。ぼくだけに渡されるなら困っちゃうけど、みんなに同じ金額を渡すなら受け取らないわけにもいかないか。ありがとダン。使わせてもらうね」
お礼を言いながらぎゅーっと抱き付いてきて、ちゅっちゅっと何度もキスをしてくれるリーチェ。
王金貨10枚でこれがしてもらえるなら、今すぐ全財産をお前に……あ、要りませんか、はい。
フォアーク神殿の利用は1回につき金貨15枚。
転職直後の再転職は順番は融通してくれるけれど、料金は金貨25枚になるそうだ。
リーチェって今までいくら使ったんだろ? 普通に王金貨10枚渡すくらいじゃないと足りなかったんじゃ……?
「変な気を遣わなくったっていいよ。なんたってぼくたちは、夫婦っ、なんだからねーっ」
思い悩む俺に何度も嬉しそうにキスをしたリーチェは、フォアーク神殿で無事に英雄に転職して戻ってきた。
建国の英雄が450年の時を経て、本当に英雄の職業を得るとはなぁ。
「ダンさん。ゴブトゴ様から報告が来ましたよ」
マグエル組もヴァルハール組も合流して宿での夕食を楽しんでいると、両方の組から気になる報告が寄せられた。
「最近魔物消失が確認されたアウターは、暴王のゆりかご、黄昏の箱庭、そして始まりの黒だそうです。あ、勿論報告には竜王のカタコンベも含まれていましたが、これは皆さんが起こしたことらしいので除外しました」
「だね。俺達とは関わり無く魔物消失が起きたのは3ヶ所か……」
ラトリアから報告された、魔物消失が起きたアウターは3ヶ所。
っていうか、立ち入りが制限されているはずの始まりの黒にも普通に入られてんじゃないかよ。管理ガバガバすぎぃ。
「シュパイン商会から報告です。どうやら王国中で反シュパイン商会の動きが見受けられるそうです」
そしてムーリから寄せられた、王国中の不穏な動き。
その不穏な動きについては既にキャリアさんから聞いてるけれど……。なんでシュパイン商会が標的になるんだろ?
「もし時間が取れるなら、直接会いにきて欲しいとのことです。ただそこまで危機的な状況でもないので、無理して会いにくることはないとのことです」
「危機的状況に陥ってからじゃ不味いでしょ。何も起きないうちに話を聞きに行かないとね」
シュパイン商会に迷惑をかけ続けるのも申し訳ないし、みんなの職業浸透の手を止めたくはないから、明日また俺1人でキャリアさんに会いに行こうかな。
でも、シュパイン商会が俺達に協力してくれているのは間違いないんだけど、仮にシュパイン商会が潰れたとしても、俺達にはあんまり影響無くないかなぁ?
反シュパイン商会の動きって、本当になんの意味があるんだろ?
ただ、タイミング良く色んなことが起こってる感じはするね。
これら全てが偶然起こっていると考えるのは楽観的過ぎる。攻撃行為だと認識すべきか。
はぁ~、嫌だなぁ……。
何か大きい事態が起ころうとしてる気配がビンビンするよぉ。
初参加のターニアさんに負担をかけないように気を遣いながら、悪意に翻弄され続けたみんなを抱き締めるようにゆっくりと肌を重ねて夜を過ごした。
その結果、穏やかな顔でベッドに横たわるみんなを見て、達成感に溢れた夜明けを迎えることが出来た。
うん。9人同時に相手しても俺の方に余裕があるのってありえないよなぁ。
精力増進の累積数は変わっていないけれど、魔力の量がどんどん増えているからね。
限界値がどんどん上がっていってるんだろう。
ターニアさん……いやもうターニアでいいね。
彼女を鑑定すると、無事に好色家の条件を満たしたようで何よりだ。
ラトリアもだったけど、娘と一緒に好色家の条件を満たす母親って、エロいな?
「おはよう。さぁ起きてみんな。10人での新しい朝だよ」
キスをしながらみんなを起こし、起きたみんなにまた注ぎ込む。
ニーナからもう1度みんなに注ぎ直して、1回じゃ足りないなともう1周、いやまだまだと更にもう1周して朝のお勤めの完了だ。
「ターニアさん。これからはターニアって呼ばせてもらうね」
自分でぐったりさせたターニアとニーナをよしよしなでなでしながら、みんなに1つ提案する。
「今日はまず、ターニアに好色家を浸透させてあげようと思うんだ。だからその間だけでもみんなで奈落に行ってみない?」
「みんなって言うと、私もですか?」
「うんうん。ムーリもだよっ。俺達と一緒なら危険も無いからさ。どうかなっ」
ターニアとの愛の営みを思う存分楽しむためには、好色家の浸透は必須だからね。
せっかく奈落でなら一瞬で浸透が終わるんだから、これを利用しない手は無いでしょっ!
ムーリもすぐに終わるならと同行を了承してくれたので、早速奈落に転移した。
「へ~。ここが前人未到の奈落の最深部なんだ? 随分あっさり来ちゃったのー」
「う、うぅ……。や、やっぱり私にはちょっと早い場所みたいです……。さっきから震えが……」
キョロキョロと物珍しそうに周囲を見回すターニア。武器を構えて油断なく周囲を窺っているラトリアとエマ。
そんな中、戦闘経験の浅いムーリがちょっとだけ辛そうにしている。
初の家族10人全員での出陣だ。
この9人の美女が全員俺の嫁とか信じられるぅ? 俺自身が信じられないよぉ。
「さぁお姫様。お乗りください」
「は、はうぅぅ……! は、恥ずかしいけど嬉しいよぉ……!」
震えるムーリに声をかけて、お姫様抱っこしてあげる。
9人の中では最も戦闘経験が少なく奈落の雰囲気に圧倒されているムーリのことは、お姫様抱っこして守ってあげるからねー。
職業設定でターニアを好色家にして、さぁ探索開始ー。
「ターニアの好色家、無事に浸透したよー」
「「「早ぁっ!?」」」
奈落の最深部初体験のメンバーが、声を揃えて突っ込んできた。
分かっちゃいたことだけど、30分もしないうちに好色家が浸透を終えてしまった。
LV30上限の職業なんて一瞬で浸透しちゃう場所なんだなぁ。
同時にラトリアの旅人も浸透したので商人に設定。ターニアは冒険者に戻す。
商人 最大LV30
補正 幸運上昇-
スキル 目利き
「ムーリの冒険者が間もなく浸透しそうだから、そこまで浸透させたら帰ろうか。ムーリ、もうちょっとだけ俺の腕の中で大人しくしててね?」
「う~っ! からかわれてるのが分かってても嬉しいよぉっ! 一生ダンさんの腕の中で大人しくしていたいですぅっ!」
可愛いことを言いながら悶絶しているムーリにキスをして、魔物狩りを再開する。
ムーリがあまりパワーレベリングしたくないと言っていたので、ムーリの冒険者が浸透したら終わりにしようかな?
「ムーリの浸透が済んだのは予定通りなんだけど……。ちょっと勢い余っちゃったな?」
母親組の職業浸透が思ったよりも進んでしまった気がする。
ムーリが冒険者の浸透を終える間に、ラトリアは商人と魔法使いの浸透を終え冒険者に、エマは冒険者を浸透させて探索者に、ターニアも勢い余って冒険者を終わらせてしまったのだ。
ラトリア、エマ、ターニアの3人は戦闘経験も豊富なので、職業浸透が進みすぎても不都合は無いだろうけれど。
「それじゃ私は探索魔法士にしてください。後衛希望ですからね」
「私は勿論探索者でおねがいっ。アナザーポータルが使えれば、自力での職業浸透も捗るのっ」
はいはーい。ムーリが探索魔法士、ターニアとエマが探索者、ラトリアが冒険者ねっと。
探索魔法士 最大LV50
補正 魔力上昇 魔法攻撃力上昇-
スキル 探索魔法
冒険者 最大LV50
補正 体力上昇 持久力上昇 敏捷性上昇-
スキル インベントリ ポータル
探索者 最大LV100
補正 体力上昇+ 魔力上昇 持久力上昇+ 敏捷性上昇
全体装備品強度上昇- 全体魔法耐性
スキル インベントリ アナザーポータル
「う~ん。まさか私がポータルを遣えるようになる日が来るなんて……。だけど移動魔法の重要性は取り返しがつかないほどに痛感してますからね。凄くありがたいです」
「アナザーポータルまで使えれば遭難の心配も無いし、いざと言う時にサッと退却可能ですからね。今後は正面から剣で捻じ伏せるだけでは切り抜けられない場面も想定しないと……!」
ゴルディアさんの1件で移動魔法の重要性を実感しているラトリアとエマが、少し寂しそうな表情を浮かべながらも嬉しそうにしている。
今回の転職は移動と探索がメインだね。
いつ敵に教われるか分からない現状、少しでも戦闘力を上げて欲しいところではあるけど、パワーレベリングは技術が伴わなくて危険だ。
だから自力での浸透が捗るように、移動魔法と探索魔法士というわけだね。
「これでマグエル組とヴァルハール組の両方に探索者が誕生したことになるね。もうみんなを送っていく必要も無いけど、俺が送っていきたいから今日は送ってくよ。みんなは浸透を進めておいて」
一旦仕合わせの暴君メンバーと別れて、まずはマグエルへ。
「アナザーポータルが使えるようになるなんて感激だよぅ。どんどん浸透を進めて、装備品もアップグレードしていくからねっ」
「スポットでは探索魔法はあまり実用的ではありませんが、魔力と魔法の威力に補正がかかるのでしたら問題ないですね。ターニアさんに槍の指導を受けながら、1歩1歩力を付けていきたいと思いますっ」
張り切るムーリとターニアにちゅっと口付けをして送り出す。
本当は、ムーリが武器を持って戦う必要なんて無いんだよって言ってあげたい。
でも、この世界で戦う力を持たせないことは、逆に虐待に近いと俺は思う。
ムーリは俺が守らなきゃ生きていけないほど弱い女性じゃない。
強さを求める彼女の強さを信じないとな。
ムーリとターニアを送り出したらヴァルハールに転移し、ラトリアとエマと一緒にシルヴァに会いに行く。
「ようこそダンさん。今日は僕にもお話があるとか?」
「うん。フラッタに続いてラトリアとも婚姻を結んじゃったから、その報告をね?」
「……………………は?」
完全にフリーズするシルヴァ。
ごめん。なんて切り出すか思いつかなくて、結局火の玉ストレートを放ってしまったよ。
時間を置いて復活したシルヴァに、ラトリアを娶った経緯をもう少し詳しく説明する。
「ああ、母が父を忘れたというわけではないのでしたら気にしませんよ。逆に父以外でしたら、ダンさんにしか母を任せられません。実力的にもそうですけど、母は結構抜けているところもありますから」
「う~……! 謁見の件があるからなにも反論できませんっ……!」
唸りながら頭を抱えるラトリア。
もう過ぎたことだし、悪気があってしたことでもないんだから忘れていいよ。
その後国王に対峙したラトリアは立派だったからさ。
「シルヴァも見つかったことだし、ルーナ家の騒動もひと段落ついたと思うんだ。だからそろそろゴルディアさんを正式に弔ってあげられないかなって思うんだけど、どうだろう?」
「そう、ですね……。僕も父を弔ってあげたいですし、正式に当主と認められてルーナ家を安定させたい気持ちもあります。ですが竜爵家の当主の葬儀ですから、思い立ったらすぐ、という訳にはいきません。準備に多少時間がかかるかと」
俺の意見には賛成だけど、現実的な問題があるわけね。
貴族籍は王国で管理しているものだから、ゴルディアさんの死亡届けや次期当主の襲名など、幾つもの手続きをしないといけないみたいだ。
俺はそういうこと一切分からないので、シルヴァとラトリアに任せる事にする。
「俺は王国のルールには疎いから、シルヴァとラトリア主導で進めちゃって貰えると助かるよ。協力できることがあったら言ってくれていいからさ」
「僕の当主登録と、妻たちの貴族籍登録についても申請しなくてはいけないので……。父の葬儀は早くても4月、いや5月くらいになるかもしれません」
ゴルディアさんの葬儀は、春過ぎから初夏の頃。
奇しくも、彼の1周忌に当たる頃になりそうだ。
さて、葬儀の話が済んだので、今日シルヴァに会いに来た本題に移る。
「俺の鑑定スキルのことは聞いてるよね? シルヴァの事を鑑定していいかな?」
「聞いてますよ。構いません、どうぞ」
許可を得たのでシルヴァを鑑定する。
……うん。やっぱりまだ好色家を得られてないみたいだね。
従属魔法で強制的に肌を重ねても好色家は得られないし、真面目なシルヴァがその後も複数の女性を一緒に相手したことも無いのだろう。
だけど病気耐性と精力増進がある好色家は、短命で性欲が薄いと言われる竜人族にこそ必要な職業だ。
シルヴァにも浸透させてあげたいし、秘匿せずにある程度広めてあげるべきだろう。
「シルヴァ。これは真面目な話だから、そのつもりで聞いて欲しいんだけどさ……」
「……? はい」
嫁の兄にする話題じゃないよなぁ、と思いながらも話を進める。
「好色家って職業があるんだけど、知ってるかな?」
「好色家ですか……。いえ、聞いたことがないですね」
「単刀直入に言うと、男女の性行為の負担を大きく軽減させてくれる職業なんだ」
「せ、性行為……、って」
俺の言葉に怯むシルヴァ。
俺は羞恥心を押し殺し、最大級に真剣な表情を浮かべて話を続ける。
「好色家の職業補正は精力増進と病気耐性。竜人族に必要な職業なんだよ。だからシルヴァには是非好色家の浸透をお勧めしたいんだ」
「む……。た、確かにそれは竜人族には必要な職業かもしれません」
少し気恥ずかしそうなシルヴァだったけど、好色家の職業補正を知ってすぐに表情を引き締める。
「心から好き合う男女が3人以上で愛の営みを経験すると、好色家という職業が得られるんだ」
「さ、3人以上で一緒に、ですか……」
「5人の妻を娶ったシルヴァなら、人数的な条件は問題ないと思う。だけど、心から想い合うってのが結構難しくてさぁ」
この世界では、一夫多妻はありふれた行為だ。
なのに好色家の存在は、一般にも貴族層にも殆ど知られていない。
自分がどれほど良縁に恵まれていたのかを改めて噛み締めながら、シルヴァに好色家の条件の満たし方を伝えていく。
「シルヴァは5人の女性を娶り、これから次代の当主を産まなきゃいけない。でもそんな気持ちで女性を抱いたら絶対にダメなんだ。義務感で妻となる女性と接しちゃいけないんだ」
「う……。そ、それはそうなんですが……」
「直ぐには難しいかと思うけど、妻の事をちゃんと愛してあげて欲しい。シルヴァが奥さん達と心から愛し合って幸せになれば、ルーナ家の未来も竜人族の将来も明るくなるんだからさ」
シルヴァはイケメンで心根も優しく、家柄も良くて腕っ節も強いという、まるで少女マンガに出てきそうな完璧超人だ。
だけど真面目で優しすぎるから、責任感や義務感だけで女性達と肌を重ねてしまいそうな危うさがある。
5人の妻がいるなんて、頑張れば艶福家にだってなれるんだよ。多分。
嫌々とか仕方ないなんて気持ちで女性と愛し合うなんて、勿体無さすぎるからね?
「お嫁さんの事を、守らなきゃいけない弱い存在なんて思っちゃダメだよ? 今はか弱くても、夫婦一緒に寄り添って強くなることだってできるんだ。ゴルディアさんとラトリアのようにね」
「あっ……。確かに父と母は、お互い寄り添って……」
「シルヴァが好色家になれれば夫婦生活は円満になるし、跡取り問題も余裕で解決出来ちゃうと思う。だから奥さん達となるべく沢山の時間を過ごして、色んな話をして欲しい」
男なんてのはただ黙って、女性の事を受け入れてあげればいいんじゃないかな。
だけどお前が距離を取ったままじゃ、奥さん達もお前に近寄れないからね。シルヴァの方からゆっくりと歩み寄って欲しいんだ。
「夫婦一緒に、寄り添って生きる、ですか……」
シルヴァは俺の言葉を噛み締めるようにしてから呟いた。
「確かに僕は彼女達を被害者だと決め付け、腫れ物のように扱っていたかもしれません。縁あって共に生きる事になったのですから、嫌い合うよりも好き合ったほうが健全ですね」
肩の力を抜くように、柔らかく微笑むシルヴァ。
シルヴァたちも特殊な出会い方をしてしまったから、無理に好き合おうとしても難しいかもしれない。
でもお互いを理解し合うことは出来ると思うんだ。
少なくとも、お互いに距離を持ったままで一緒に過ごすなんて疲れちゃうからね。
少しずつでも歩み寄ってくれればいいんじゃないかな。
俺じゃ恋愛相談や夫婦円満の秘訣なんて教えられないけど、竜人族に好色家が必要なことだけは伝えてあげられる。
好色家とか艶福家って、本来は人間族じゃなくて、竜人族やエルフ用に用意された職業なんじゃないのかねぇ?
好色家の転職魔法陣をヴァルハールに設置するのはアリだとは思うけど……。
狙って獲得するのが難しい職業でもあるんだよなぁ。維持も難しそうだし悩ましい。
「実を言うとあんまり心配はしてないんだ。シルヴァは最高のお手本を、誰よりも近くから見てきただろうからさ」
「……ははっ。そうですね。結局のところ僕が目指すべき目標は、いつだって父の背中だってことなのでしょう」
柔らかく微笑むシルヴァを見て、彼の肩の力が抜けたのを感じる。
責任を持って家族を守るのは大切だけど、お前自身もちゃんと幸せにならなきゃダメだからな?
シルヴァに伝えることは伝えたので、退室してパールソバータに戻る事にする。
でも退室した俺を追って、ラトリアとエマが部屋から出てきた。
「シルヴァのことも義娘たちのことも任せてくださいね。ダンさんの家族みたいに、笑顔溢れる家族にして見せますからっ」
「私もラトリア様も、シルヴァ様ご夫婦を少し急かしすぎていたかもしれません。ダンさんの話を聞いて、彼女達ともう少しゆっくり過ごして、彼女達と色んな話をして、もっと仲良くなりたいと思いました。ダンさん。いつもありがとうございます」
笑顔を浮かべるラトリアと、俺に向かって深々と頭を下げるエマ。
シルヴァとルーナ家の事をこんなに愛する2人がついているんだから、俺が余計な事を言う必要もなかった気がするけどね。
あとラトリアが張り切ると怖いから、エマがちゃんと手綱を握ってあげて。
ぶーっ! と可愛く膨れるラトリアと、お任せくださいと胸を張るエマにキスをして、今度こそ奈落に転移した。
「お姉さーん。盗賊の浸透終わってるよー」
合流したみんなを鑑定すると、ティムルの盗賊が浸透を終えていた。
最大LV100の職業だけど、なぜか盗賊と殺人者は浸透が結構早いんだよなぁ。
ティムルの職業を殺人者に変更する。
殺人者 最大LV100
補正 敏捷性上昇 敏捷性上昇-
スキル 対人攻撃力上昇
犯罪職なんかで街を歩かせたくないから、出来ればここまで浸透させてしまいたいなぁ。
……しかしティムル。お前戦闘力が低いって悩んでたけどさぁ。
今のお前って、絶対に出会った頃のリーチェよりも数段強くなってるからな?
累積していた五感補正と身体操作性補正に犯罪職の敏捷性補正が噛み合って、凄まじいスピードになってるからね?
このティムルを持ってしても戦闘力が低いと感じさせる、うちのメンバーの戦闘力水準よ……。
しかし職業浸透が進むのはありがたいんだけど、安易に世に出せないドロップアイテムがどんどん溜まっていくのは考えものだなぁ。
最大サイズのインベントリでも、このペースじゃ埋まりかねないよ。何かに活用できれば良いんだけどねぇ。
ティムルの殺人者まで浸透させて、彼女を暗殺者にしたところでタイムアップだ。
「おっけーティムル。殺人者の浸透が終わったよ。こんな職業さっさと変更しちゃおうねー」
「あはーっ。ダンは気にしすぎよぉ。でもこれでようやく私も気配遮断スキルが使えるわぁ」
暗殺者 最大LV100
補正 体力上昇+ 魔力上昇+ 持久力上昇+ 敏捷性上昇+
身体操作性上昇+ 五感上昇+ 幸運上昇+ 装備品強度上昇+
スキル 全体気配遮断 対人攻撃力上昇+
リーチェの侠客は浸透しているだろうけれど、ニーナとフラッタの分析官はLV68だった。
分析官ってめちゃくちゃ上がり難いじゃないか、ちくしょうめーっ!
ヴァルゴの悪魔祓いは問題なく浸透を終えていたので、次は侠客になってもらった。
パールソバータに向かう途中に人質の救出に参加したおかげで、ヴァルゴも条件を満たしてくれているからね。
侠客 最大LV50
補正 物理攻撃力上昇 物理防御力上昇 体力上昇- 魔力上昇- 幸運上昇
スキル 陽炎
「……なんとなくのイメージだけど、ヴァルゴに侠客は似合うなぁ」
「そうですか? 自分ではよく分かりませんが」
ヴァルゴって俺の護衛って立ち位置だし、なんとなく用心棒みたいな雰囲気があるんだよなぁ。
侠客は基本職っぽいわりには補正が優秀だなぁと思う。
五感や敏捷性、身体操作性に補正はかからないけれど、陽炎のおかげで戦闘力の向上幅は大きい。
ま、ヴァルゴは空蝉が使えるから、陽炎を使う機会は無いと思うけどさ。
「さぁ今日も全力でいっくよー! いでよ竜王ーっ!」
探索を終えて、手合わせのために竜王召喚!
……って、とうとうイントルーダーを召喚しても魔力枯渇の症状が出なくなってしまったなぁ。
勇者と魔王が179、神殺しが34まで上がった事で、竜王召喚の魔力が足りるようになったんだね。
「はぁーーーっ!」
「せやぁーーっ!」
しかしみんなと手を合わせていると、1日1日の成長速度が凄まじいよ。
職業浸透が1日で終わっちゃうから、1日経てば動きが別人のように早くなるねぇ。
凄まじい数の職業補正に加えて、竜化や深獣化、魔迅まで駆使して戦えるうちのパーティの底力ってどのくらいなんだろうなぁ?
「んもーっ! 涼しい顔で凌ぎながら成長したって言われても、全然実感できないんだからねーっ!?」
「私が戦闘力で悩んでるのはみんなのせいじゃなくて、ダンが原因に決まってるでしょーっ!」
手合わせを終えた瞬間、俺に全力でツッコミを入れながら俺の胸に突っ込んでくるニーナとティムル。
んもー、2人とも可愛すぎるよぉ。ぎゅー。よしよしなでなで。
「職業浸透数の差は埋まってきたはず。技術の差も母上とヴァルゴのおかげで縮まっているはずなのじゃ。なのにダンの動きだけ明らかにおかしいのは何故なのじゃ? 職業補正の差だけとは思えぬ……」
「ダンはぼくの精霊魔法にすら気付くからね。職業補正の数じゃなくて、質が違うように感じられるかな。いや質じゃなくて……、理解度?」
「技術も高く加護の力も強力なのですけど、旦那様は何よりも強さに貪欲すぎます。誰よりも強い力を持ちながら、誰よりも強く強さを求める姿勢こそが恐ろしいのです」
我が家の戦闘力担当の3人が、俺と自分達を比べて首を捻っている。
う~ん……。魔力の概念はみんな理解できているのに、職業補正を魔力的な概念で捉えられないのは何でなんだろう?
魔迅は勿論のこと、獣化や竜化だって魔力操作で行われてることなんだし、熱視や精霊魔法にだって魔力が作用しているはずだ。
なのになんで職業補正だけ意識出来ないんだろうなぁ?
訓練を終えて奈落を脱出し、フォアーク神殿に向かおうとするリーチェを呼び止める。
「あ、リーチェ。フォアーク神殿の利用が頻繁になってるし、やっぱり転職費用は俺が出すよ」
「え? で、でも職業設定が使えないのはぼくの都合で……」
「俺たちはもう夫婦なんだからさ。変な遠慮はしないで欲しいな?」
「ふ、夫婦って言われちゃうと困っちゃうなぁ……! 鑑定を許可してないのはぼくの都合なのに、それでダンにお金を使わせたくないんだけど、夫婦って言われちゃうとなぁ……!」
満面の笑みでクネクネしながら困るなぁとか言われても、こっちこそ困っちゃうよ。リーチェが可愛すぎて。
我が家はお金が余ってるんだから気にせず受け取ってねと、メンバー全員に王金貨10枚ずつ配布する。
「う~ん。ぼくだけに渡されるなら困っちゃうけど、みんなに同じ金額を渡すなら受け取らないわけにもいかないか。ありがとダン。使わせてもらうね」
お礼を言いながらぎゅーっと抱き付いてきて、ちゅっちゅっと何度もキスをしてくれるリーチェ。
王金貨10枚でこれがしてもらえるなら、今すぐ全財産をお前に……あ、要りませんか、はい。
フォアーク神殿の利用は1回につき金貨15枚。
転職直後の再転職は順番は融通してくれるけれど、料金は金貨25枚になるそうだ。
リーチェって今までいくら使ったんだろ? 普通に王金貨10枚渡すくらいじゃないと足りなかったんじゃ……?
「変な気を遣わなくったっていいよ。なんたってぼくたちは、夫婦っ、なんだからねーっ」
思い悩む俺に何度も嬉しそうにキスをしたリーチェは、フォアーク神殿で無事に英雄に転職して戻ってきた。
建国の英雄が450年の時を経て、本当に英雄の職業を得るとはなぁ。
「ダンさん。ゴブトゴ様から報告が来ましたよ」
マグエル組もヴァルハール組も合流して宿での夕食を楽しんでいると、両方の組から気になる報告が寄せられた。
「最近魔物消失が確認されたアウターは、暴王のゆりかご、黄昏の箱庭、そして始まりの黒だそうです。あ、勿論報告には竜王のカタコンベも含まれていましたが、これは皆さんが起こしたことらしいので除外しました」
「だね。俺達とは関わり無く魔物消失が起きたのは3ヶ所か……」
ラトリアから報告された、魔物消失が起きたアウターは3ヶ所。
っていうか、立ち入りが制限されているはずの始まりの黒にも普通に入られてんじゃないかよ。管理ガバガバすぎぃ。
「シュパイン商会から報告です。どうやら王国中で反シュパイン商会の動きが見受けられるそうです」
そしてムーリから寄せられた、王国中の不穏な動き。
その不穏な動きについては既にキャリアさんから聞いてるけれど……。なんでシュパイン商会が標的になるんだろ?
「もし時間が取れるなら、直接会いにきて欲しいとのことです。ただそこまで危機的な状況でもないので、無理して会いにくることはないとのことです」
「危機的状況に陥ってからじゃ不味いでしょ。何も起きないうちに話を聞きに行かないとね」
シュパイン商会に迷惑をかけ続けるのも申し訳ないし、みんなの職業浸透の手を止めたくはないから、明日また俺1人でキャリアさんに会いに行こうかな。
でも、シュパイン商会が俺達に協力してくれているのは間違いないんだけど、仮にシュパイン商会が潰れたとしても、俺達にはあんまり影響無くないかなぁ?
反シュパイン商会の動きって、本当になんの意味があるんだろ?
ただ、タイミング良く色んなことが起こってる感じはするね。
これら全てが偶然起こっていると考えるのは楽観的過ぎる。攻撃行為だと認識すべきか。
はぁ~、嫌だなぁ……。
何か大きい事態が起ころうとしてる気配がビンビンするよぉ。
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