272 / 878
4章 マグエルの外へ3 奈落の底で待ち受ける者
272 ※閑話 悪意 (改)
しおりを挟む
「私に代わって、今日から貴方がメナスを名乗るのだ。それが組織の掟なのでな」
ある日メナスと名乗る男から、名前と仮面、そしてローブを引き継いだ。
自分にはこんな物必要ないと思うけれど、便利そうなマジックアイテムではある。くれると言うならありがたくいただいておこう。
ある日唐突に、レガリアという古くからあるらしい組織の長に祭り上げられてしまった。
けれど、何か果たすべき仕事や義務のようなものがあるわけではないらしい。
組織としての目標はあるが、メナスはレガリアの象徴でさえあればいいとのことで、完全な自由を許されている。
矛盾した話だと思うけれど、煩わしい義務が無いならどうでもいい話だ。
自分はどこにでもいる普通の家に生まれ、普通の家で育った、ごく一般的な平民のはずだった。
それがなんで、いきなりこんな組織のトップに据えられてしまったのか……。自分でも疑問に思う。
突如自分の前に現れメナスの名を押し付けてきた先代の男は、名を譲った理由を語ってはくれなかった。
「人の上に立つべき者というのは、神の視点によって選ばれるものだ。貴方は神に選ばれた、レガリアの所有者に相応しい存在だ」
……人の上に立つとか、神に選ばれたとか。
もう少し理解できるように話をしてもらいたいものだ。
奴隷商を営んでいたわけでもないのに、母の職業はなぜか奴隷商人だった。
奴隷商人は必ず国に届け出なければいけないので、有り体に言えば母は犯罪者だ。
ステータスプレートの提示を殆ど父に任せて、人知れず他人を隷属させていた母の姿を見て育った自分にとって、奴隷とは道具であり、魔物狩りを行う為の武器でしかなかった。
他人なんて、壊れたら交換すればいいだけの、ただの消耗品でしかない。
母に与えられた奴隷を使い潰しながら、定期的にフォアーク神殿に足を運び、転職を繰り返した。
別になりたい職業があったわけじゃない。
だけど魔物を殺しているんだから、転職しないと勿体無いじゃないか。
何度目かの転職で自分も奴隷商人を得てからは、それまで以上に精力的に魔物を狩って、魔物と奴隷が朽ちていくのを眺めていた。
自分の人生の1つ目の転機は、フォアーク神殿で魔物使いという職業を得たことだった。
フォアーク神殿では犯罪歴が無い限りステータスプレートの提示は任意なので、魔物使いの職業は公開しなかった。
職業を秘匿したまま魔物狩りを続けていると、ある日従属魔法が魔物にも適用されるようになった。
この時は心が躍ったのを覚えている。
奴隷契約には人数制限は無いし、ステータスプレートの表示も秘匿することが可能だ。
手当たり次第に魔物を隷属させ、その魔物を用いて更に強い魔物を殺していくのは快感だった。
なにより、破損してもすぐに取り替えられる新しい道具は、手軽で使い勝手が良かった。
「貴方こそ……! 貴方こそメナスを名乗るに相応しい……!」
「…………うん?」
こうして終焉の箱庭で魔物狩りを楽しんでいた自分は、突然目の前に現れた謎の男からメナスという名前と、レガリアという組織を押し付けられてしまったというわけだ。
組織運営なんて面倒臭そうなことはごめんだったので、先代の男を従属させて、表向きは先代にそのまま組織を運営してもらう事にした。
この仮面とローブは便利そうだから、メナスの名前だけは引き受けてあげよう。
そんな自分勝手な振る舞いにも、先代の男はただただ感極まっている様子だった。
自分が言うのもおかしいけれど、この男はかなり異常な思考回路をしていると思った。
2つ目の転機は、終焉の箱庭の奥深くで起こった。
連日大量の魔物を隷属させて圧倒的な物量で魔物を蹂躙していると、突如黒い魔法陣が出現してフレイムロードが……、アウターエフェクトが姿を現したのだ。
生まれた初めて味わう死の恐怖。絶望的なまでの戦力差。
人類の敵対者であるアウターエフェクトの力は圧倒的で、時間をかけて奴隷化した大量の魔物の殆どを失う事になったけど……。
それでもなんとか勝利を収めることが出来た。
アウターエフェクトとの戦いを終えて、自分の血液が沸騰しそうなほどに興奮しているのに気付く。
そう。自分は死ぬ間際の状況だったにも拘らず、生まれて初めて感じるほどの高揚感を感じていたのだ。
これが全身全霊を持って挑むという事……。これが困難を乗り越えるという事なのか……!
圧倒的な戦力で襲い掛かってくるフレイムロードに死の恐怖を感じながらも、自分の全力を投入して相手にぶつかることで、こんなにも強い快感を得ることが出来るなんて……!
……もっと強い魔物を従えて、もっと強い相手に挑んでみたい。
そしてこの快感をもっともっと味わいたいっ……!
そんな事を考えながら、手応えの無い魔物を狩り続ける退屈な日々。
そんな退屈な日常に終わりを告げたのは、召喚士という聞いたことのない職業だった。
召喚士のスキル、『造魔』。
自分が倒した事のある魔物を、魔力を元に再現する能力……!
逸る気持ちを抑えきれず、早速フレイムロードの再現を試みる。
しかし結果は失敗。ロード種を再現するには、自分の魔力が全く足りていないらしかった。
だが、せっかくのアウターエフェクトを諦めてなるものか。
自分の魔力だけでは足りない。足りないなら足せばいい。他から奪えばいいだけだ。
自分は奴隷商人であり魔物使いでもある。魔力の供給元には困らない。
古い武器を下取りに出すような気持ちで奴隷と魔物を捧げ、新品の武器であるフレイムロードの召喚に成功した。
フレイムロードを護衛として従えた自分は大規模な狩りを行ない、次々とデーモン種を、ロード種を召喚していく。
しかし大量の魔物を使った狩りは人目に付きやすく、非常に目立ってしまう。
目撃者など殺してしまえば済む話だが、アウターエフェクトにさえ劣る魔物狩りなど殺すのさえ面倒だ。
若干煩わしさを覚えながら仮面をつけてローブを羽織り、可能な限り姿を隠して魔物を狩った。
1箇所で討伐するアウターエフェクトは5体までと決め、各地のアウターを回ってアウターエフェクトを狩る日々。
大量のアウターエフェクトを従えていく自分の姿を見て、先代の男は命じてもいないのに跪くようになった。
「やはり……! やはり貴方こそがレガリアの所有者に相応しい……! 人を統べ、魔物を統べ、この世界の全てを意のままにする、神に選ばれた絶対的な存在……!」
「……?」
先代の男が何を言っているのか理解できない。年寄りの話は分かりにくくって困るな。
この世界のことなんて、自分にはどうでもいいっていうのに。
だけど、先代の言葉に少しだけ苛立ってしまった。
全てを意のままにする存在なのに、神に選ばれた存在だっていうのは矛盾していないか?
この世界の全てを意のままに操れるのだとするのなら、神だって自分に隷属するべきだろう。
とそっくりそのまま口に出してやると、先代メナスは醜く顔を歪めて笑い声を上げた。
「くはははははっ! 神をも恐れぬその傲慢さ! やはり貴方こそメナス! 貴方こそがレガリアの所有者だ!」
先代の笑い声が止まらないけど、自分は神など信じていない。
いるかどうかも分からない神を恐れる道理なんてないし、いるのなら従属させるまでだ。
アウターエフェクト狩りにも飽き始めていた自分は、更なる存在の情報を求めて、レガリアという古くて大きい組織を最大限に利用する事にした。
レガリアはスペルド王国建国と同時に発生した組織らしく、その歴史はスペルド王国の歴史そのものだ。何か面白い記録が残っているかもしれない。
「イントルーダー……」
組織に伝わる古い記録を紐解いていくと、アウターエフェクトをも超える存在について知ることが出来た。
かつての邪神ガルクーザのような、人類を破滅に導く強大な魔物の事をイントルーダーと呼ぶらしい。
直ぐにイントルーダーに関する文献を洗い出し、その呼び出し方を研究した。
出来ればガルクーザそのものを呼び出して使役してやりたいところなのだが、残念ながらガルクーザに関する記述はあまり役に立つものが見つからなかった。
邪神ガルクーザはスペルド王国が建国される前からこの地で暴れていた存在で、レガリアに残っている最も古い記録ですら、いったいいつから存在していた魔物なのか記されていないようだった。
アウターエフェクトを超える存在らしいので、手始めにアウターに潜って魔物を狩り続けた。
しかしアウターでいくら魔物を殺しても、アウターエフェクト以上の存在が出てきた事はない。方法が違うのだろうか?
造魔は自分の倒したことのある魔物しか生み出せない。
どれ程魔力を捧げようが、遭遇したことのないイントルーダーを召喚することは叶わなかった。
……今のままではダメだ。
もっと広く、もっと深く情報を集めないと……!
ある日、1つの方法を思いついた。
昔偶然手に入れた呼び水の鏡。これを使ってみるのはどうだろう?
元の所有者たちから話を聞いた限りだと、この鏡は異世界から際限なく魔力を呼び込む力があるという。
人智を超えた大量の魔力を用意してやれば、アウターエフェクトを超える存在も現れるのではないだろうか?
……一応失敗した時のリスクを考えて、呼び水の鏡の力を抑制するという侵食の森に近い場所で試してみるべきか。
ちょうど良さそうな場所には村が建設されていたが、済まないが譲ってもらうとしよう。
村跡に呼び水の鏡を設置すると、目で見えるほどの大量で濃密な魔力が、呼び水の鏡から凄まじい勢いで立ち昇っていくのが分かった。
これは期待できそうだ。
しかし、期待に胸を膨らませていると、次々と面倒事が起こり始めた。
なになに? 王国最強と呼ばれる竜爵家が、レガリアが運営している施設を調査し始めた?
レガリアの施設になんて興味は無いが、この王国最強と呼ばれる竜爵家には少々興味があるな。会いに行ってみるか。
王国最強の魔物狩りと名高い断魔の煌きはロード種を滅ぼす程度の戦力は保有していたし、同じく王国最強と称される竜爵家も同程度の実力は持ち合わせていると見るべきか。
自分で会いに行くのだから、ここは油断せずに戦力を投入しておこう。
「竜爵家の娘が行方知れず?」
壊滅させたはずのソクトルーナ竜爵家。
そこの一人娘が現在行方不明になっていて、ナビネールに姿を現して以降、消息が分からなくなっているのか。
娘1人になにが出来るとも思えないけれど、念のためパールソバータには近づけない方がいいか。面倒だし。
そこには組織で小悪党を飼っている? ならそいつらを上手く使うとしよう。
「……竜爵家が、マインドロードの支配から逃れた、だって?」
アウターエフェクトと竜爵家夫人に守らせていたソクトルーナ竜爵家が、何者かの手によって解放されてしまったようだ。
マインドロードを倒したのは竜爵家の娘と……、建国の英雄リーチェか。
竜爵家の娘には婚約者に対応してもらうとして、英雄殿には国王の相手でもさせておこう。
「……開拓村跡地の再開発計画だって?」
待ってくれ。そんなことをしたら呼び水の鏡が……。既に持ち去られていただって? くぅ……!
しかし、あそこにはアウターエフェクトを2体も配置していなかったか?
仮に竜爵家夫妻や断魔の煌きが現れたとしても、呼び水の鏡を確保するくらいは出来る戦力のはずだろう。
アウターエフェクト2体を同時に相手取って、呼び水の鏡を持ち去る暇さえ与えない実力の持ち主とは……。
「……へぇ? また英雄リーチェの属するパーティの仕業なのか……」
リーチェの属するパーティが、開拓村の再開発に乗り出しているらしい。
つまり彼女達が開拓村の再開発の為に村跡を訪れ、そして呼び水の鏡を発見し持ち去ったと見て間違いないだろう。
アウターエフェクトをモノともしない英雄リーチェの実力に、疼くような興奮が芽生えた気がした。
呼び水の鏡を奪われてしまったのは残念だが、なぜか気持ちは昂り始めていた。
「パールソバータの竜人族たちが解放された? そしてそれを成したのは、またリーチェのパーティ……、か」
胸の奥底に芽生えた昂りは、悉くレガリアの邪魔をする英雄リーチェの活躍を聞く度に少しずつ大きくなっていく。
「……偽りの英雄殿でも、500年近くも時が経てばそれなりの人物になるようだ」
邪魔をされて気分を害している反面、確実に高揚している自分もいる。
パールソバータに配置していたアウターエフェクト5体を滅ぼす戦闘力。
あそこにいた竜人族全てを迅速に救出する手際の良さ。
そもそも、パールソバータのあの施設に気付いた調査能力。
建国の英雄リーチェと、竜爵家の娘が所属するパーティか。なかなか手強そうな相手じゃないか。
全てを思い通りにするのも悪くはないけど、やっぱり遊び相手というのは必要なものだな。
久しぶりの遊び相手、気が済むまでお相手願うとしよう。
リーチェのパーティの調査をレガリアに命じ、自分は失われた戦力を回復させる為に、各地のアウターを回り直すことにした。
現地で次々と魔物を支配し、造魔で生み出した戦力も投入し、現れたアウターエフェクトを代償にアウターエフェクトを生み出していく。
そうして戦力を補充していると、今まで体験したことのない現象が起こった。
「――――これはっ……!」
アウター全体が鳴動し、今まで見たことのない巨大な魔法陣が出現。
アウターエフェクトなんて比べ物にならないほどの凄まじいプレッシャーが放たれる。
なんて皮肉な話なんだろう!
イントルーダーを探し回って情報を集めていた時には手掛かりも掴めなかったのに、調査を中断した途端にイントルーダーと出会えるなんて!
……この日、自分は3度目の転機を迎える。
現れたイントルーダーはアウターエフェクトなんて歯牙にもかけない存在で、せっかく補充した戦力は瞬く間に全滅し、自分も死を待つだけの状態になる。
だけど当然、このまま大人しく死を待ってやる義理などない。
「君には悪いが、こんなところで死んであげるつもりは無いんだ」
インベントリから、太陽のように光り輝く始界の王笏を取り出す。
無貌の仮面、ミラージュローブと共にレガリアから受け取った、神器と呼ばれるレリックアイテム。
その杖の切っ先を向け、静かにウェポンスキルを発動する。
「崩界」
崩界をその身に受けたイントルーダーは、瞬く間に消滅していった。
あまり崩界を使いたくはなかったけれど、使わなければ殺されていたのだから仕方ない。
「ぐ、うう……! だが、これで……!」
崩界の使用は代償が大きかったが、イントルーダーの討伐に成功したのは間違いない。
これでこちらも、なんとか新たな力を手に入れることが出来そうだ。
さぁ偽りの英雄殿。お相手願おうか。
貴女を退屈させないようにと、こちらは崩界まで使ったんだ。
……頼むから、簡単に死んだりしないでくれよ?
ある日メナスと名乗る男から、名前と仮面、そしてローブを引き継いだ。
自分にはこんな物必要ないと思うけれど、便利そうなマジックアイテムではある。くれると言うならありがたくいただいておこう。
ある日唐突に、レガリアという古くからあるらしい組織の長に祭り上げられてしまった。
けれど、何か果たすべき仕事や義務のようなものがあるわけではないらしい。
組織としての目標はあるが、メナスはレガリアの象徴でさえあればいいとのことで、完全な自由を許されている。
矛盾した話だと思うけれど、煩わしい義務が無いならどうでもいい話だ。
自分はどこにでもいる普通の家に生まれ、普通の家で育った、ごく一般的な平民のはずだった。
それがなんで、いきなりこんな組織のトップに据えられてしまったのか……。自分でも疑問に思う。
突如自分の前に現れメナスの名を押し付けてきた先代の男は、名を譲った理由を語ってはくれなかった。
「人の上に立つべき者というのは、神の視点によって選ばれるものだ。貴方は神に選ばれた、レガリアの所有者に相応しい存在だ」
……人の上に立つとか、神に選ばれたとか。
もう少し理解できるように話をしてもらいたいものだ。
奴隷商を営んでいたわけでもないのに、母の職業はなぜか奴隷商人だった。
奴隷商人は必ず国に届け出なければいけないので、有り体に言えば母は犯罪者だ。
ステータスプレートの提示を殆ど父に任せて、人知れず他人を隷属させていた母の姿を見て育った自分にとって、奴隷とは道具であり、魔物狩りを行う為の武器でしかなかった。
他人なんて、壊れたら交換すればいいだけの、ただの消耗品でしかない。
母に与えられた奴隷を使い潰しながら、定期的にフォアーク神殿に足を運び、転職を繰り返した。
別になりたい職業があったわけじゃない。
だけど魔物を殺しているんだから、転職しないと勿体無いじゃないか。
何度目かの転職で自分も奴隷商人を得てからは、それまで以上に精力的に魔物を狩って、魔物と奴隷が朽ちていくのを眺めていた。
自分の人生の1つ目の転機は、フォアーク神殿で魔物使いという職業を得たことだった。
フォアーク神殿では犯罪歴が無い限りステータスプレートの提示は任意なので、魔物使いの職業は公開しなかった。
職業を秘匿したまま魔物狩りを続けていると、ある日従属魔法が魔物にも適用されるようになった。
この時は心が躍ったのを覚えている。
奴隷契約には人数制限は無いし、ステータスプレートの表示も秘匿することが可能だ。
手当たり次第に魔物を隷属させ、その魔物を用いて更に強い魔物を殺していくのは快感だった。
なにより、破損してもすぐに取り替えられる新しい道具は、手軽で使い勝手が良かった。
「貴方こそ……! 貴方こそメナスを名乗るに相応しい……!」
「…………うん?」
こうして終焉の箱庭で魔物狩りを楽しんでいた自分は、突然目の前に現れた謎の男からメナスという名前と、レガリアという組織を押し付けられてしまったというわけだ。
組織運営なんて面倒臭そうなことはごめんだったので、先代の男を従属させて、表向きは先代にそのまま組織を運営してもらう事にした。
この仮面とローブは便利そうだから、メナスの名前だけは引き受けてあげよう。
そんな自分勝手な振る舞いにも、先代の男はただただ感極まっている様子だった。
自分が言うのもおかしいけれど、この男はかなり異常な思考回路をしていると思った。
2つ目の転機は、終焉の箱庭の奥深くで起こった。
連日大量の魔物を隷属させて圧倒的な物量で魔物を蹂躙していると、突如黒い魔法陣が出現してフレイムロードが……、アウターエフェクトが姿を現したのだ。
生まれた初めて味わう死の恐怖。絶望的なまでの戦力差。
人類の敵対者であるアウターエフェクトの力は圧倒的で、時間をかけて奴隷化した大量の魔物の殆どを失う事になったけど……。
それでもなんとか勝利を収めることが出来た。
アウターエフェクトとの戦いを終えて、自分の血液が沸騰しそうなほどに興奮しているのに気付く。
そう。自分は死ぬ間際の状況だったにも拘らず、生まれて初めて感じるほどの高揚感を感じていたのだ。
これが全身全霊を持って挑むという事……。これが困難を乗り越えるという事なのか……!
圧倒的な戦力で襲い掛かってくるフレイムロードに死の恐怖を感じながらも、自分の全力を投入して相手にぶつかることで、こんなにも強い快感を得ることが出来るなんて……!
……もっと強い魔物を従えて、もっと強い相手に挑んでみたい。
そしてこの快感をもっともっと味わいたいっ……!
そんな事を考えながら、手応えの無い魔物を狩り続ける退屈な日々。
そんな退屈な日常に終わりを告げたのは、召喚士という聞いたことのない職業だった。
召喚士のスキル、『造魔』。
自分が倒した事のある魔物を、魔力を元に再現する能力……!
逸る気持ちを抑えきれず、早速フレイムロードの再現を試みる。
しかし結果は失敗。ロード種を再現するには、自分の魔力が全く足りていないらしかった。
だが、せっかくのアウターエフェクトを諦めてなるものか。
自分の魔力だけでは足りない。足りないなら足せばいい。他から奪えばいいだけだ。
自分は奴隷商人であり魔物使いでもある。魔力の供給元には困らない。
古い武器を下取りに出すような気持ちで奴隷と魔物を捧げ、新品の武器であるフレイムロードの召喚に成功した。
フレイムロードを護衛として従えた自分は大規模な狩りを行ない、次々とデーモン種を、ロード種を召喚していく。
しかし大量の魔物を使った狩りは人目に付きやすく、非常に目立ってしまう。
目撃者など殺してしまえば済む話だが、アウターエフェクトにさえ劣る魔物狩りなど殺すのさえ面倒だ。
若干煩わしさを覚えながら仮面をつけてローブを羽織り、可能な限り姿を隠して魔物を狩った。
1箇所で討伐するアウターエフェクトは5体までと決め、各地のアウターを回ってアウターエフェクトを狩る日々。
大量のアウターエフェクトを従えていく自分の姿を見て、先代の男は命じてもいないのに跪くようになった。
「やはり……! やはり貴方こそがレガリアの所有者に相応しい……! 人を統べ、魔物を統べ、この世界の全てを意のままにする、神に選ばれた絶対的な存在……!」
「……?」
先代の男が何を言っているのか理解できない。年寄りの話は分かりにくくって困るな。
この世界のことなんて、自分にはどうでもいいっていうのに。
だけど、先代の言葉に少しだけ苛立ってしまった。
全てを意のままにする存在なのに、神に選ばれた存在だっていうのは矛盾していないか?
この世界の全てを意のままに操れるのだとするのなら、神だって自分に隷属するべきだろう。
とそっくりそのまま口に出してやると、先代メナスは醜く顔を歪めて笑い声を上げた。
「くはははははっ! 神をも恐れぬその傲慢さ! やはり貴方こそメナス! 貴方こそがレガリアの所有者だ!」
先代の笑い声が止まらないけど、自分は神など信じていない。
いるかどうかも分からない神を恐れる道理なんてないし、いるのなら従属させるまでだ。
アウターエフェクト狩りにも飽き始めていた自分は、更なる存在の情報を求めて、レガリアという古くて大きい組織を最大限に利用する事にした。
レガリアはスペルド王国建国と同時に発生した組織らしく、その歴史はスペルド王国の歴史そのものだ。何か面白い記録が残っているかもしれない。
「イントルーダー……」
組織に伝わる古い記録を紐解いていくと、アウターエフェクトをも超える存在について知ることが出来た。
かつての邪神ガルクーザのような、人類を破滅に導く強大な魔物の事をイントルーダーと呼ぶらしい。
直ぐにイントルーダーに関する文献を洗い出し、その呼び出し方を研究した。
出来ればガルクーザそのものを呼び出して使役してやりたいところなのだが、残念ながらガルクーザに関する記述はあまり役に立つものが見つからなかった。
邪神ガルクーザはスペルド王国が建国される前からこの地で暴れていた存在で、レガリアに残っている最も古い記録ですら、いったいいつから存在していた魔物なのか記されていないようだった。
アウターエフェクトを超える存在らしいので、手始めにアウターに潜って魔物を狩り続けた。
しかしアウターでいくら魔物を殺しても、アウターエフェクト以上の存在が出てきた事はない。方法が違うのだろうか?
造魔は自分の倒したことのある魔物しか生み出せない。
どれ程魔力を捧げようが、遭遇したことのないイントルーダーを召喚することは叶わなかった。
……今のままではダメだ。
もっと広く、もっと深く情報を集めないと……!
ある日、1つの方法を思いついた。
昔偶然手に入れた呼び水の鏡。これを使ってみるのはどうだろう?
元の所有者たちから話を聞いた限りだと、この鏡は異世界から際限なく魔力を呼び込む力があるという。
人智を超えた大量の魔力を用意してやれば、アウターエフェクトを超える存在も現れるのではないだろうか?
……一応失敗した時のリスクを考えて、呼び水の鏡の力を抑制するという侵食の森に近い場所で試してみるべきか。
ちょうど良さそうな場所には村が建設されていたが、済まないが譲ってもらうとしよう。
村跡に呼び水の鏡を設置すると、目で見えるほどの大量で濃密な魔力が、呼び水の鏡から凄まじい勢いで立ち昇っていくのが分かった。
これは期待できそうだ。
しかし、期待に胸を膨らませていると、次々と面倒事が起こり始めた。
なになに? 王国最強と呼ばれる竜爵家が、レガリアが運営している施設を調査し始めた?
レガリアの施設になんて興味は無いが、この王国最強と呼ばれる竜爵家には少々興味があるな。会いに行ってみるか。
王国最強の魔物狩りと名高い断魔の煌きはロード種を滅ぼす程度の戦力は保有していたし、同じく王国最強と称される竜爵家も同程度の実力は持ち合わせていると見るべきか。
自分で会いに行くのだから、ここは油断せずに戦力を投入しておこう。
「竜爵家の娘が行方知れず?」
壊滅させたはずのソクトルーナ竜爵家。
そこの一人娘が現在行方不明になっていて、ナビネールに姿を現して以降、消息が分からなくなっているのか。
娘1人になにが出来るとも思えないけれど、念のためパールソバータには近づけない方がいいか。面倒だし。
そこには組織で小悪党を飼っている? ならそいつらを上手く使うとしよう。
「……竜爵家が、マインドロードの支配から逃れた、だって?」
アウターエフェクトと竜爵家夫人に守らせていたソクトルーナ竜爵家が、何者かの手によって解放されてしまったようだ。
マインドロードを倒したのは竜爵家の娘と……、建国の英雄リーチェか。
竜爵家の娘には婚約者に対応してもらうとして、英雄殿には国王の相手でもさせておこう。
「……開拓村跡地の再開発計画だって?」
待ってくれ。そんなことをしたら呼び水の鏡が……。既に持ち去られていただって? くぅ……!
しかし、あそこにはアウターエフェクトを2体も配置していなかったか?
仮に竜爵家夫妻や断魔の煌きが現れたとしても、呼び水の鏡を確保するくらいは出来る戦力のはずだろう。
アウターエフェクト2体を同時に相手取って、呼び水の鏡を持ち去る暇さえ与えない実力の持ち主とは……。
「……へぇ? また英雄リーチェの属するパーティの仕業なのか……」
リーチェの属するパーティが、開拓村の再開発に乗り出しているらしい。
つまり彼女達が開拓村の再開発の為に村跡を訪れ、そして呼び水の鏡を発見し持ち去ったと見て間違いないだろう。
アウターエフェクトをモノともしない英雄リーチェの実力に、疼くような興奮が芽生えた気がした。
呼び水の鏡を奪われてしまったのは残念だが、なぜか気持ちは昂り始めていた。
「パールソバータの竜人族たちが解放された? そしてそれを成したのは、またリーチェのパーティ……、か」
胸の奥底に芽生えた昂りは、悉くレガリアの邪魔をする英雄リーチェの活躍を聞く度に少しずつ大きくなっていく。
「……偽りの英雄殿でも、500年近くも時が経てばそれなりの人物になるようだ」
邪魔をされて気分を害している反面、確実に高揚している自分もいる。
パールソバータに配置していたアウターエフェクト5体を滅ぼす戦闘力。
あそこにいた竜人族全てを迅速に救出する手際の良さ。
そもそも、パールソバータのあの施設に気付いた調査能力。
建国の英雄リーチェと、竜爵家の娘が所属するパーティか。なかなか手強そうな相手じゃないか。
全てを思い通りにするのも悪くはないけど、やっぱり遊び相手というのは必要なものだな。
久しぶりの遊び相手、気が済むまでお相手願うとしよう。
リーチェのパーティの調査をレガリアに命じ、自分は失われた戦力を回復させる為に、各地のアウターを回り直すことにした。
現地で次々と魔物を支配し、造魔で生み出した戦力も投入し、現れたアウターエフェクトを代償にアウターエフェクトを生み出していく。
そうして戦力を補充していると、今まで体験したことのない現象が起こった。
「――――これはっ……!」
アウター全体が鳴動し、今まで見たことのない巨大な魔法陣が出現。
アウターエフェクトなんて比べ物にならないほどの凄まじいプレッシャーが放たれる。
なんて皮肉な話なんだろう!
イントルーダーを探し回って情報を集めていた時には手掛かりも掴めなかったのに、調査を中断した途端にイントルーダーと出会えるなんて!
……この日、自分は3度目の転機を迎える。
現れたイントルーダーはアウターエフェクトなんて歯牙にもかけない存在で、せっかく補充した戦力は瞬く間に全滅し、自分も死を待つだけの状態になる。
だけど当然、このまま大人しく死を待ってやる義理などない。
「君には悪いが、こんなところで死んであげるつもりは無いんだ」
インベントリから、太陽のように光り輝く始界の王笏を取り出す。
無貌の仮面、ミラージュローブと共にレガリアから受け取った、神器と呼ばれるレリックアイテム。
その杖の切っ先を向け、静かにウェポンスキルを発動する。
「崩界」
崩界をその身に受けたイントルーダーは、瞬く間に消滅していった。
あまり崩界を使いたくはなかったけれど、使わなければ殺されていたのだから仕方ない。
「ぐ、うう……! だが、これで……!」
崩界の使用は代償が大きかったが、イントルーダーの討伐に成功したのは間違いない。
これでこちらも、なんとか新たな力を手に入れることが出来そうだ。
さぁ偽りの英雄殿。お相手願おうか。
貴女を退屈させないようにと、こちらは崩界まで使ったんだ。
……頼むから、簡単に死んだりしないでくれよ?
0
お気に入りに追加
1,820
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます
neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。
松本は新しい世界で会社員となり働くこととなる。
ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。
PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。
この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。
こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる