異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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4章 マグエルの外へ3 奈落の底で待ち受ける者

272 ※閑話 悪意 (改)

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「私に代わって、今日から貴方がメナスを名乗るのだ。それが組織の掟なのでな」


 ある日メナスと名乗る男から、名前と仮面、そしてローブを引き継いだ。

 自分にはこんな物必要ないと思うけれど、便利そうなマジックアイテムではある。くれると言うならありがたくいただいておこう。


 ある日唐突に、レガリアという古くからあるらしい組織の長に祭り上げられてしまった。


 けれど、何か果たすべき仕事や義務のようなものがあるわけではないらしい。

 組織としての目標はあるが、メナスはレガリアの象徴でさえあればいいとのことで、完全な自由を許されている。


 矛盾した話だと思うけれど、煩わしい義務が無いならどうでもいい話だ。



 自分はどこにでもいる普通の家に生まれ、普通の家で育った、ごく一般的な平民のはずだった。

 それがなんで、いきなりこんな組織のトップに据えられてしまったのか……。自分でも疑問に思う。


 突如自分の前に現れメナスの名を押し付けてきた先代の男は、名を譲った理由を語ってはくれなかった。


「人の上に立つべき者というのは、神の視点によって選ばれるものだ。貴方は神に選ばれた、レガリアの所有者に相応しい存在だ」


 ……人の上に立つとか、神に選ばれたとか。

 もう少し理解できるように話をしてもらいたいものだ。



 奴隷商を営んでいたわけでもないのに、母の職業はなぜか奴隷商人だった。

 奴隷商人は必ず国に届け出なければいけないので、有り体に言えば母は犯罪者だ。


 ステータスプレートの提示を殆ど父に任せて、人知れず他人を隷属させていた母の姿を見て育った自分にとって、奴隷とは道具であり、魔物狩りを行う為の武器でしかなかった。


 他人なんて、壊れたら交換すればいいだけの、ただの消耗品でしかない。

 母に与えられた奴隷どうぐを使い潰しながら、定期的にフォアーク神殿に足を運び、転職を繰り返した。


 別になりたい職業があったわけじゃない。

 だけど魔物を殺しているんだから、転職しないと勿体無いじゃないか。


 何度目かの転職で自分も奴隷商人を得てからは、それまで以上に精力的に魔物を狩って、魔物と奴隷が朽ちていくのを眺めていた。



 自分の人生の1つ目の転機は、フォアーク神殿で魔物使いという職業を得たことだった。


 フォアーク神殿では犯罪歴が無い限りステータスプレートの提示は任意なので、魔物使いの職業は公開しなかった。

 職業を秘匿したまま魔物狩りを続けていると、ある日従属魔法が魔物にも適用されるようになった。

 この時は心が躍ったのを覚えている。


 奴隷契約には人数制限は無いし、ステータスプレートの表示も秘匿することが可能だ。

 手当たり次第に魔物を隷属させ、その魔物を用いて更に強い魔物を殺していくのは快感だった。


 なにより、破損してもすぐに取り替えられる新しい道具は、手軽で使い勝手が良かった。




「貴方こそ……! 貴方こそメナスを名乗るに相応しい……!」

「…………うん?」


 こうして終焉の箱庭で魔物狩りを楽しんでいた自分は、突然目の前に現れた謎の男からメナスという名前と、レガリアという組織を押し付けられてしまったというわけだ。


 組織運営なんて面倒臭そうなことはごめんだったので、先代の男を従属させて、表向きは先代にそのまま組織を運営してもらう事にした。

 この仮面とローブは便利そうだから、メナスの名前だけは引き受けてあげよう。


 そんな自分勝手な振る舞いにも、先代の男はただただ感極まっている様子だった。

 自分が言うのもおかしいけれど、この男はかなり異常な思考回路をしていると思った。



 2つ目の転機は、終焉の箱庭の奥深くで起こった。

 連日大量の魔物を隷属させて圧倒的な物量で魔物を蹂躙していると、突如黒い魔法陣が出現してフレイムロードが……、アウターエフェクトが姿を現したのだ。


 生まれた初めて味わう死の恐怖。絶望的なまでの戦力差。

 人類の敵対者であるアウターエフェクトの力は圧倒的で、時間をかけて奴隷化した大量の魔物の殆どを失う事になったけど……。

 それでもなんとか勝利を収めることが出来た。


 アウターエフェクトとの戦いを終えて、自分の血液が沸騰しそうなほどに興奮しているのに気付く。

 そう。自分は死ぬ間際の状況だったにも拘らず、生まれて初めて感じるほどの高揚感を感じていたのだ。


 これが全身全霊を持って挑むという事……。これが困難を乗り越えるという事なのか……!

 圧倒的な戦力で襲い掛かってくるフレイムロードに死の恐怖を感じながらも、自分の全力を投入して相手にぶつかることで、こんなにも強い快感を得ることが出来るなんて……!


 ……もっと強い魔物を従えて、もっと強い相手に挑んでみたい。

 そしてこの快感をもっともっと味わいたいっ……!


 そんな事を考えながら、手応えの無い魔物を狩り続ける退屈な日々。

 そんな退屈な日常に終わりを告げたのは、召喚士という聞いたことのない職業だった。


 召喚士のスキル、『造魔』。

 自分が倒した事のある魔物を、魔力を元に再現する能力……!


 逸る気持ちを抑えきれず、早速フレイムロードの再現を試みる。

 しかし結果は失敗。ロード種を再現するには、自分の魔力が全く足りていないらしかった。



 だが、せっかくのアウターエフェクトを諦めてなるものか。

 自分の魔力だけでは足りない。足りないなら足せばいい。他から奪えばいいだけだ。


 自分は奴隷商人であり魔物使いでもある。魔力の供給元には困らない。

 古い武器を下取りに出すような気持ちで奴隷と魔物を捧げ、新品の武器であるフレイムロードの召喚に成功した。



 フレイムロードを護衛として従えた自分は大規模な狩りを行ない、次々とデーモン種を、ロード種を召喚していく。


 しかし大量の魔物を使った狩りは人目に付きやすく、非常に目立ってしまう。

 目撃者など殺してしまえば済む話だが、アウターエフェクトにさえ劣る魔物狩りなど殺すのさえ面倒だ。


 若干煩わしさを覚えながら仮面をつけてローブを羽織り、可能な限り姿を隠して魔物を狩った。


 1箇所で討伐するアウターエフェクトは5体までと決め、各地のアウターを回ってアウターエフェクトを狩る日々。

 大量のアウターエフェクトを従えていく自分の姿を見て、先代の男は命じてもいないのに跪くようになった。


「やはり……! やはり貴方こそがレガリアの所有者に相応しい……! 人を統べ、魔物を統べ、この世界の全てを意のままにする、神に選ばれた絶対的な存在……!」

「……?」


 先代の男が何を言っているのか理解できない。年寄りの話は分かりにくくって困るな。

 この世界のことなんて、自分にはどうでもいいっていうのに。


 だけど、先代の言葉に少しだけ苛立ってしまった。


 全てを意のままにする存在なのに、神に選ばれた存在だっていうのは矛盾していないか?

 この世界の全てを意のままに操れるのだとするのなら、神だって自分に隷属するべきだろう。


 とそっくりそのまま口に出してやると、先代メナスは醜く顔を歪めて笑い声を上げた。


「くはははははっ! 神をも恐れぬその傲慢さ! やはり貴方こそメナス! 貴方こそがレガリアの所有者だ!」


 先代の笑い声が止まらないけど、自分は神など信じていない。

 いるかどうかも分からない神を恐れる道理なんてないし、いるのなら従属させるまでだ。


 アウターエフェクト狩りにも飽き始めていた自分は、更なる存在の情報を求めて、レガリアという古くて大きい組織を最大限に利用する事にした。

 レガリアはスペルド王国建国と同時に発生した組織らしく、その歴史はスペルド王国の歴史そのものだ。何か面白い記録が残っているかもしれない。





「イントルーダー……」


 組織に伝わる古い記録を紐解いていくと、アウターエフェクトをも超える存在について知ることが出来た。


 かつての邪神ガルクーザのような、人類を破滅に導く強大な魔物の事をイントルーダーと呼ぶらしい。

 直ぐにイントルーダーに関する文献を洗い出し、その呼び出し方を研究した。


 出来ればガルクーザそのものを呼び出して使役してやりたいところなのだが、残念ながらガルクーザに関する記述はあまり役に立つものが見つからなかった。

 邪神ガルクーザはスペルド王国が建国される前からこの地で暴れていた存在で、レガリアに残っている最も古い記録ですら、いったいいつから存在していた魔物なのか記されていないようだった。


 アウターエフェクトを超える存在らしいので、手始めにアウターに潜って魔物を狩り続けた。

 しかしアウターでいくら魔物を殺しても、アウターエフェクト以上の存在が出てきた事はない。方法が違うのだろうか?


 造魔は自分の倒したことのある魔物しか生み出せない。

 どれ程魔力を捧げようが、遭遇したことのないイントルーダーを召喚することは叶わなかった。


 ……今のままではダメだ。

 もっと広く、もっと深く情報を集めないと……!



 ある日、1つの方法を思いついた。

 昔偶然手に入れた呼び水の鏡。これを使ってみるのはどうだろう?


 元の所有者たちから話を聞いた限りだと、この鏡は異世界から際限なく魔力を呼び込む力があるという。

 人智を超えた大量の魔力を用意してやれば、アウターエフェクトを超える存在も現れるのではないだろうか?


 ……一応失敗した時のリスクを考えて、呼び水の鏡の力を抑制するという侵食の森に近い場所で試してみるべきか。

 ちょうど良さそうな場所には村が建設されていたが、済まないが譲ってもらうとしよう。




 村跡に呼び水の鏡を設置すると、目で見えるほどの大量で濃密な魔力が、呼び水の鏡から凄まじい勢いで立ち昇っていくのが分かった。

 これは期待できそうだ。


 しかし、期待に胸を膨らませていると、次々と面倒事が起こり始めた。


 なになに? 王国最強と呼ばれる竜爵家が、レガリアが運営している施設を調査し始めた?


 レガリアの施設になんて興味は無いが、この王国最強と呼ばれる竜爵家には少々興味があるな。会いに行ってみるか。

 王国最強の魔物狩りと名高い断魔の煌きはロード種を滅ぼす程度の戦力は保有していたし、同じく王国最強と称される竜爵家も同程度の実力は持ち合わせていると見るべきか。

 自分で会いに行くのだから、ここは油断せずに戦力を投入しておこう。



「竜爵家の娘が行方知れず?」


 壊滅させたはずのソクトルーナ竜爵家。

 そこの一人娘が現在行方不明になっていて、ナビネールに姿を現して以降、消息が分からなくなっているのか。


 娘1人になにが出来るとも思えないけれど、念のためパールソバータには近づけない方がいいか。面倒だし。

 そこには組織で小悪党を飼っている? ならそいつらを上手く使うとしよう。



「……竜爵家が、マインドロードの支配から逃れた、だって?」


 アウターエフェクトと竜爵家夫人に守らせていたソクトルーナ竜爵家が、何者かの手によって解放されてしまったようだ。


 マインドロードを倒したのは竜爵家の娘と……、建国の英雄リーチェか。

 竜爵家の娘には婚約者に対応してもらうとして、英雄殿には国王の相手でもさせておこう。



「……開拓村跡地の再開発計画だって?」


 待ってくれ。そんなことをしたら呼び水の鏡が……。既に持ち去られていただって? くぅ……!


 しかし、あそこにはアウターエフェクトを2体も配置していなかったか?

 仮に竜爵家夫妻や断魔の煌きが現れたとしても、呼び水の鏡を確保するくらいは出来る戦力のはずだろう。


 アウターエフェクト2体を同時に相手取って、呼び水の鏡を持ち去る暇さえ与えない実力の持ち主とは……。


「……へぇ? また英雄リーチェの属するパーティの仕業なのか……」


 リーチェの属するパーティが、開拓村の再開発に乗り出しているらしい。

 つまり彼女達が開拓村の再開発の為に村跡を訪れ、そして呼び水の鏡を発見し持ち去ったと見て間違いないだろう。


 アウターエフェクトをモノともしない英雄リーチェの実力に、疼くような興奮が芽生えた気がした。

 呼び水の鏡を奪われてしまったのは残念だが、なぜか気持ちは昂り始めていた。


「パールソバータの竜人族たちが解放された? そしてそれを成したのは、またリーチェのパーティ……、か」


 胸の奥底に芽生えた昂りは、悉くレガリアの邪魔をする英雄リーチェの活躍を聞く度に少しずつ大きくなっていく。


「……偽りの英雄殿でも、500年近くも時が経てばそれなりの人物になるようだ」


 邪魔をされて気分を害している反面、確実に高揚している自分もいる。


 パールソバータに配置していたアウターエフェクト5体を滅ぼす戦闘力。

 あそこにいた竜人族全てを迅速に救出する手際の良さ。

 そもそも、パールソバータのあの施設に気付いた調査能力。


 建国の英雄リーチェと、竜爵家の娘が所属するパーティか。なかなか手強そうな相手じゃないか。


 全てを思い通りにするのも悪くはないけど、やっぱり遊び相手というのは必要なものだな。

 久しぶりの遊び相手、気が済むまでお相手願うとしよう。


 リーチェのパーティの調査をレガリアに命じ、自分は失われた戦力を回復させる為に、各地のアウターを回り直すことにした。



 現地で次々と魔物を支配し、造魔で生み出した戦力も投入し、現れたアウターエフェクトを代償にアウターエフェクトを生み出していく。

 そうして戦力を補充していると、今まで体験したことのない現象が起こった。


「――――これはっ……!」


 アウター全体が鳴動し、今まで見たことのない巨大な魔法陣が出現。

 アウターエフェクトなんて比べ物にならないほどの凄まじいプレッシャーが放たれる。


 なんて皮肉な話なんだろう!

 イントルーダーを探し回って情報を集めていた時には手掛かりも掴めなかったのに、調査を中断した途端にイントルーダーと出会えるなんて!



 ……この日、自分は3度目の転機を迎える。

 現れたイントルーダーはアウターエフェクトなんて歯牙にもかけない存在で、せっかく補充した戦力は瞬く間に全滅し、自分も死を待つだけの状態になる。

 だけど当然、このまま大人しく死を待ってやる義理などない。


「君には悪いが、こんなところで死んであげるつもりは無いんだ」


 インベントリから、太陽のように光り輝く始界の王笏を取り出す。


 無貌の仮面、ミラージュローブと共にレガリアから受け取った、神器と呼ばれるレリックアイテム。

 その杖の切っ先を向け、静かにウェポンスキルを発動する。


「崩界」


 崩界をその身に受けたイントルーダーは、瞬く間に消滅していった。

 あまり崩界を使いたくはなかったけれど、使わなければ殺されていたのだから仕方ない。


「ぐ、うう……! だが、これで……!」


 崩界の使用は代償が大きかったが、イントルーダーの討伐に成功したのは間違いない。

 これでこちらも、なんとか新たな力を手に入れることが出来そうだ。


 さぁ偽りの英雄殿。お相手願おうか。

 貴女を退屈させないようにと、こちらは崩界まで使ったんだ。


 ……頼むから、簡単に死んだりしないでくれよ?
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