異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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4章 マグエルの外へ3 奈落の底で待ち受ける者

271 脅威 (改)

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「「「ええええええええっ!?」」」 


 みんなの驚く声が谺する。

 成功するかは五分五分だったけど、イントルーダーを造魔召喚することに成功してしまったぜっ。


 自分の人外っぷりに辟易するけれど、これで魔力とイントルーダー戦の経験があれば、敵がイントルーダーを嗾けてきてもおかしくない事が分かった。

 これは最悪の想定ではあるけど、その可能性に気付けたのは収穫だろう。


「こ、この竜王って、ダンのスキルで生み出したってことだよねっ!? 幻覚とかじゃなくて、本物の竜王を使役できちゃってるのっ!?」

「ニーナの言う通り、どうやら使役できているみたいだね」


 だけどコントローラーを持って精密に操縦するんじゃなくて、指令を与えてオートで動かす感じかな?

 細かい指示も、出そうと思えば出せそうだけど。


「てっきりロード種かデーモン種を呼び出すのかと思ったら、いきなりイントルーダーを召喚しないでよぉ! ……って、アウターエフェクトでも異常だったわねぇ。お姉さん、感覚が麻痺しちゃってるわよぉ……」


 ティムルも、最早アウターエフェクトに対する恐怖は一切なさそうだ。

 魔導師が浸透しきったティムルなら、次はソロでも問題なく撃破出来るはずだしね。


「竜人族である妾としては、竜王を弄ばれるのは少し気分が良くないところじゃが……。竜王のカタコンベが全力で生み出した魔物を、己の身1つで生み出してしまうとはのう……」

「ダンの規格外、ここに極まれりって感じだね……。えっと、ダンは竜王を使役して戦力に数えるつもりなの?」

「いや。フラッタも気分が良くないみたいだし、俺も竜王を辱める気は無いよ。今回はあくまでお試しだね」


 大体リーチェさぁ。こんな化け物、どこでどうやって運用するって話だよ?

 撃退したうちのメンバーですら姿を見ただけで臨戦態勢に入るような魔物、魔人族の集落にすら置けないでしょ?


「え、えええ!? この魔物が竜王のカタコンベに眠っている存在なのですか……!? りゅ、竜王を滅ぼしたことがあるなんて、皆さん凄すぎますよぉ……」


 エマは恐れているというよりは、畏敬の念を込めた眼差しで竜王を見ているように思える。

 竜人族にとって、竜王の存在はやはり特別なんだろうか。


「今回はお試しとのことですが……。戦力としては使えなくとも、鍛錬に用いることは出来るのではないでしょうか?」

「竜王を鍛錬に?」

「対峙しているだけで足が竦み体が震えるこちらの魔物を、ダン様は完璧に制御できるのでありましょう? であれば、我らの手合わせの相手にちょうど良いのではないでしょうか」


 ヴァルゴが少し青褪めながら、面白い提案をしてくれた。

 職業浸透の進んでいないヴァルゴは、イントルーダーの前に立つのが少しきついのかもしれない。


「ふぅむ。確かに一考の余地はありそうだな……」


 奈落の中継地点ならば他の人も来ないし、思い切り暴れ回っても誰にも迷惑はかからない。

 呼び出すたびに魔力枯渇の兆候を味わうのははっきり言ってごめんなんだけど、訓練方法としてはこれ以上ないほど有用なんじゃないか?


 まぁ……。いくら訓練ではあっても、竜王の死体を弄んでいる気がしてしまうけれど。



「それじゃみんな。スキルを実際に使用してみて分かった事を共有していくよ」


 竜王を訓練に利用するかどうかは置いておいて、まずは造魔スキルの検証を行う。


 まず、造魔で生み出された竜王は従属魔法の対象として指定できない。

 これは竜王がイントルーダーだからという問題なのではなく、造魔された魔物全てに従属魔法は適用されないということらしい。


 つまり相手の造魔を奪うことは出来ない反面、竜王を奪われる心配も無いわけだ。

 竜王とは感覚が共有されているようなことはないので、本当に全自動のロボットみたいな感覚を覚えちゃうね。


「ん~……。6つ目の中継地点や開拓村跡地で遭遇したアウターエフェクトは、造魔出来ない感じかな?」


 魔力がある程度回復して改めて確認するけど、マインドロードは生み出せそうだけどサンダーロードは造魔できそうにない。

 これは恐らく、造魔された魔物を倒しても討伐した事にならないってことなんだろう。職業浸透も進まないし。


「それじゃ次は、造魔で生み出した魔物を討伐してみてくれる?」

「オッケーなの! いつでも来いなのーっ!」


 いやいや、検証だからねニーナ?

 そんなに張り切っても、強い魔物を造魔する気は無いよ? 疲れるから。


 ホワイトラビットを生み出して討伐してもらったけれど、造魔が撃破されても感覚的なフィードバックは無いみたいだ。

 目の前で確認していない限り、造魔が討伐された事を知ることは出来ないと。


 呼び水の鏡を奪還した直後は、敵は開拓村の解放に気付けていなかったのかもしれないな。

 今はゴブトゴさんに開発許可とか貰っちゃってるし、完全にバレちゃってるだろうけどね。



 ちなみに、造魔で生み出した魔物が撃破されると、撃破された瞬間に造魔の召喚制限が解除されるようだ。

 つまり造魔スキルを確認することで、造魔で生み出した魔物が撃破されたかを判断することは一応可能らしい。


「造魔を解除しても、消費した魔力は回復しないかぁ」


 竜王にお帰り願っても、造魔に使用した魔力が戻ってくるような事は無かった。

 生み出した魔物は使い倒さないと、魔力の無駄遣いになってしまうわけかぁ。


 造魔の試運転が終わって、まだ少し青褪めているヴァルゴを真っ直ぐに見詰める。


「ヴァルゴ。今のが俺達が戦う相手だからね。俺の傍で俺とみんなのことを守ってくれるっていうのなら、お前にももっともっと強くなってもらわないといけないよ?」


 職業補正だけでも、戦闘技術だけでも倒すことの出来ない、人類の絶対的敵対者であるイントルーダー。

 仕合わせの暴君の一員であろうとするなら、お前はこの規格外の脅威に真っ向から立ち向かわなければいけない。


「誇り高きディロームの護り手のヴァルゴ。お前は生涯俺の妻として、俺とみんなの前に立ちはだかる脅威全てを貫く槍であると、竜王を見た今でも言ってくれるかな?」

「……っ」


 俺の言葉に一瞬息を飲んだヴァルゴ。

 しかしすぐに俺の前で地に膝を着き、頭を垂れて跪いた。


「……ディロームの名に賭けて、護り手の威信に賭けて、生涯を捧げて皆様を護る槍となる事を、今ここに改めて誓います」


 まるで騎士が宣誓する様に、俺達の槍であり続ける事を誓うヴァルゴ。

 真っ直ぐ俺に向けられたその瞳には、透き通るような覚悟が宿っている。


「ダン様……、いいえ旦那様。私は旦那様の妻として、生涯貴方と寄り添い、貴方を護る槍でありたいです。旦那様。どうかこのヴァルゴという1本の槍を、受け取ってもらえますでしょうか?」

「……愚問過ぎるよヴァルゴ。お前の覚悟、受け取らない訳ないだろ?」


 跪くヴァルゴの前にしゃがみこみ、彼女の顎を持ち上げて唇を重ねる。


「ヴァルゴの覚悟とお前の生涯、確かに受け取ったよ。お前が俺達を守ってくれるように、俺達もお前の事を生涯護り抜くと誓うよ」

「旦那様……」


 もう1度ヴァルゴの唇に誓いのキスをする。


 これからどんな敵が待ち受けているか分からないけど、頼りにさせてくれヴァルゴ。

 お互い愛し合ってお互い護りあって、いつか寿命を迎えるまで、最高に幸せでエロエロな日々を送っていこうな。



 造魔スキルの検証とヴァルゴの宣誓を終えた俺達は、本日の探索を終了して奈落を脱出した。


 奈落から出ると直ぐにリーチェはフォアーク神殿に向かい、無事に賞金稼ぎの職を得て戻ってきた。




 賞金稼ぎ 最大LV30
 補正 敏捷性上昇
 スキル 対人防御力上昇



「聖属性魔法を覚えるために賞金稼ぎを経由しなきゃいけないなんて、ダンがいなかったら絶対分からなかっただろうねぇ」


 リーチェは犯罪職ではなくて、悪魔祓いと弑逆者を進めてクルセイドロアの習得を目指すらしい。

 多分賞金稼ぎが終われば竜殺しにもなれると思うけど、まずは聖属性魔法を極めたいのだそうだ。


 リーチェが転職している間に、エマを送りがてらヴァルハールの様子を見に行った。

 しかしタイミング悪く、ちょうどシルヴァは眠りについたと言われてしまったので、今日も話は聞けずじまいだ。


 ヴァルハールで別れたエマの代わりにマグエルでムーリを攫い、パールソバータの宿でみんなと楽しく時間を潰して夜を明かす。

 翌日、予定よりも大幅に時間を潰してしまってから改めてヴァルハールに赴き、目覚めたシルヴァに話を聞いた。


「母とエマから概ね話は聞きました。皆さん、フラッタ。僕を助けてくれたこと、本当に感謝致します」

「お礼は受け取るけど、あまり気にしなくていいよ。妻であるフラッタの家の問題を解決したかっただけだからね」


 劣悪な環境化ではあったものの、食事は与えられていたシルヴァと竜人族たちは、当初の予想よりもかなり早く回復してくれたようだ。

 シルヴァも既に普通に歩き回れるらしいし、今も応接室のソファに介助も必要とせずに腰を下ろしている。


「お礼よりも話が聞きたいんだ。お前に何が起こったのか、誰がお前を隷属化していたかを教えてくれる?」


 改めて思い返すと、本当に信じられない話だよねぇ。

 シルヴァが犯人とされていた竜人族虐殺なんて全くの事実無根で、ルーナ家の受難のきっかけとなった違法奴隷はそのまま管理されていたなんてさぁ。


 いったいどんな思考回路をしていれば、ここまで最低で最悪なことが思いつけるんだよ?


「…………っ」


 俺の問いかけに、思いつめた表情を浮かべるシルヴァ。

 トラウマを抉るような行為かもしれないけど、お前しか手がかりが無いんだよ。悪いけど話してもらわないといけないんだ。


「……最初に言っておきますが、僕にもなにが起きたかはほとんど分かっていません。ですが僕を所有していた相手は、一緒に居た人間族の男に『メナス』と呼ばれていました」

「……メナス」


 申し訳なさそうなシルヴァだけど、今まで全てが謎だった敵の名前が分かっただけでもありがたいよ。

 ここから一気に本人まで辿り着ければ言うことないんだけど……、まぁ無理だろうな。


「我が家に持ち込まれた、マルドック商会の内部告発。それについてはご存知だそうですね?」

「ああ。俺達が知りたいのは、お前の身に起こったことだよ」

「僕の身に、起こったこと……」


 一瞬だけ、苦虫を噛み潰したような表情を見せたシルヴァ。

 しかし直ぐに真剣な表情を浮かべ直して、自身が失踪したときの事をポツリポツリと語りだした。


「告発の真偽を確かめるべく調査を行なっていた僕達紅竜の結束は、調査の末に奈落に辿り着き、直ぐに攻略を開始しました」


 独自調査であっさりと奈落に目星を付けたシルヴァたちのパーティは、そのままの勢いで奈落の攻略を始めたのか。

 凄いなシルヴァ。俺はフラッタに会ってから奈落に到達するまで、半年以上かかっているのに。


「既に幾つものアウターを制覇したことのある僕達の奈落攻略は順調で、現在誰も到達していないと言われている5番目の中継地点に到達できたんです。ですがそこで、強力な魔物の群れに遭遇してしまい……!」


 シルヴァが悔しそうに俯いた。

 どうやらシルヴァたちが敗北した相手とは、俺達も遭遇したアウターエフェクト5体の群れのことみたいだ。


 この世界でのアウターの制覇とは、最深部に到達してそこで戦って戻ってくる事を意味する。

 幾つものアウターを制覇した紅竜の結束だけれど、アウターエフェクトとの遭遇経験は無かったそうだ。


「魔物に敗北した僕達を待っていたのは……。本当に地獄のような日々でした……」


 アウターエフェクトの群れに敗北したシルヴァたち。

 けれどすぐには殺されず、6つ目の中継地点に捕らえられてしまったそうだ。


「魔物に敗北した数日後。メナスだと思われる仮面とローブで姿を隠した人間族は、まず僕達を強制的に奴隷に落としました。そして1人1人ステータスプレートを提出させられたんです……」

「ステータスプレートを?」


 紅竜の結束のメンバーから差し出された6枚のステータスプレートを受け取る、メナスと思しき仮面の人物。

 そいつはシルヴァたちの目の前でステータスプレートを裏返し、まるでトランプを切るかのようにシャッフルし、そして1枚のステータスプレートを引き抜いた。


 その引き抜かれたステータスプレートは、シルヴァのステータスプレートだったのだそうだ。


「そこから恐ろしい……、本当に恐ろしいことが起こったんです……! 僕の目の前で、僕の仲間達が……! 1人残らず、魔物に変えられて……!」


 青褪めながら、震える自分の体を抱きしめるシルヴァ。

 仲間を魔物に変えられて……っていうのは、恐らく生贄召喚のことだろうね。


 造魔スキルを検証した結果、造魔スキルでは相手の意志を無視して魔力を捧げさせることはできないと言う事が分かっている。

 けれど、そこで奴隷契約が活きてくるわけだ……。自分の所有物をどう扱っても、それは所有者の自由、と。


「つまり、奴隷契約を利用して生贄召喚を行なったわけだ。そのメナスとかいうクソ野郎は……」


 ……ゴールさんに聞いた限りでは、奴隷契約で命を奪うようなことは出来ないはずなんだけどなぁ。

 魔物使いを浸透させて融合・強化された隷属魔法なら可能になるのかもしれない。


「しかし……。シルヴァが生きていてくれたのは良かったけど、殺されなかったのは、ステータスカードを引き当てたから、だなんて……」


 適当にシャッフルされたステータスプレートを抜き出した結果、シルヴァ以外の5人のメンバーが殺されたって……。


 それじゃまるで、ルーナ家のことなんかどうでも良かったみたいじゃないか……。

 ゴルディアさんを殺し、幸せに包まれたルーナ家を陥れた相手が、シルヴァに対して何の執着も拘りも見せないとか、そんなことが許されていいのかよっ……!?


「その後は皆さんも知っている通りです。僕はずっと奴隷として、竜人族奴隷を増やすために利用されていました……」

「兄上……」

「あまりお役に立てなくて本当に申し訳ないんですが……。僕に分かることはもう、ありません……」


 悔しそうに顔を歪めるシルヴァ。

 自分の命が助かったことも、仲間の命が失われたことも、敵の単なる気紛れで選択された結果だったのだ。

 きっと想像を絶する無力感に苛まれている事だろうな……。


 ……俺は今まで敵の事を、なんて用心深い相手なんだろうって思ってきた。

 でも、それは勘違いだったのかもしれない。


 敵は、陥れた相手のことなんか見ちゃいない。

 シルヴァが陥れられたのは偶然奈落にいたからで、ステータスプレートを引き当てたから運よく生き延びれただけ。

 なんの考えも思い入れもない、気紛れのような動機で起こされた惨劇だった、なんて……。


「……僕は以前から、人間族の持つ悪意に恐怖を抱いていました」

「人間族の悪意?」

「はい……。助かる為に平気で他者を犠牲にする精神、相手を陥れるためならどんなことも厭わない残虐性……。他の種族には無い、人間族だけが持った恐ろしさ……」


 シルヴァたち紅竜の結束は腕の良い魔物狩りとして知られていて、アウターを巡る旅の間に何度か犯罪者の取り締まりに協力したことがあったそうだ。

 しかし快く協力を引き受けたシルヴァたちが目にしたのは、悪意に塗れた犯罪者達の現実。


 人質なんて当たり前。

 助けたと思った相手が野盗とグルだったり、逃げる為にわざと被害者達を魔物の群れに突っ込ませてシルヴァたちの足を止めたり、自棄になって無意味に人質を殺したり、長期間弄ばれたことで心が壊れた被害者の姿だったり。


 魔物相手では決して起こり得ない、人の悪意が生み出した地獄のような光景。

 それを目の当たりにしたシルヴァたちは、そんなことを平気で行える人間族に恐怖心を抱くようになってしまったそうだ。


「人間族の恐ろしさは分かっていたつもりでしたけれど……。あの仮面の人間族は何の理由も無く5人を殺して、何の意味も無く僕を殺さずにおいたんです……。あんなの、想像もしていなかった……!」


 人の汚い部分を何度も目にしてきたシルヴァですら想像もしていなかった、メナスという人物の言動。

 特に何の理由も無く、何のメリットもデメリットも無く、まるで川に石を投げるような気軽さと無意味さで5人の命を奪い、シルヴァの命を見逃した相手。


 自分たちの命や存在、その全てを否定されたかのように感じてしまったそうだ。


「……シルヴァに起きたことは分かった。けどラトリアの時もそうだったけど、シルヴァも相手のことがなにも分からないのか」


 ラトリアの時は短い時間しか相対せず、しかも直ぐに支配状態にされたから仕方ないとは思う。

 けれど思考能力が奪われていないはずの隷属状態で長期間囚われていたシルヴァですら、仮面の人物の情報を何も持っていないなんて。


「シルヴァやラトリアほどの達人が、相対した相手の情報を何も読み取れないなんて……。そんなことあるのかな?」

「……言い訳のようで心苦しいのですが、恐らく仮面かローブのどちらかがマジックアイテムなのではないでしょうか。自分の情報を隠蔽するような効果があるとしか思えません」

「隠蔽効果のあるマジックアイテムか……」

「改めて思い返そうとしてみても、思い出せるのはマントとローブだけで、他のことは殆ど思い出せません。声はおろか身長や体格に至るまで記憶が曖昧で……」


 思い出せない……。つまり散漫のような、認識阻害系のマジックアイテムってことか?

 ってことはもしかしたら、魔法の詠唱も普通に行なってたりするかもしれないね。聞いていても認識できなかっただけとかで。

 そこを疑ったらキリがないんだけどさ。


「分かったのは、メナスという名前だけか……」


 ルーナ家を襲って、開拓村に呼び水の鏡を設置して、竜人族を飼育していた相手の名は、メナス。

 仮面とローブ姿の人間族であり、恐らく召喚士まで浸透していると思われることくらいしか分かっていることがない。


「話を聞けば聞くほど捉えどころがないな……。目的も執着も、何も見えてこない相手だ……」


 竜爵家に何らかの恨みがあったり、イントルーダーを呼び出したいとか、ルーナ家で騒動を起こした動機がまったく読み取れない。

 竜人族で何かしようとか思ってたわけじゃなくて、ただなんとなく、気紛れに騒動を巻き起こしただけなのか?


「厄介だな……。思っていたよりもずっと厄介な存在だ……」


 なんの動機も無く、なんとなく人を殺し、人を不幸に貶められる奴が、魔物を操り魔物を生み出し、マジックアイテムの開発に携われたり公文書を手配したり、国王やゴブトゴを超えるような権力を手にしている事実。


 存在が知れたら潰されるから。そんな理由で暗躍していたわけじゃない。

 権力にも興味が無くて、ただなんとなく姿を隠しているだけなんじゃないのか……!?


「……悪意、か」


 あまりに自然体で人を不幸に陥れる、純粋で最低なその人物。

 まるで人の悪意が形を成してこの世界に顕現したかのような、メナスという人物。


 巨悪になんて立ち向かいたくないのは今でも変わらない。

 だけどどうやら、メナスは放置できない相手みたいだ。


 好みの女の子だったからなんて理由で俺の嫁にちょっかいをかけてきても不思議じゃないし、見た目が気に入らないなんて理由でトライラムフォロワーにアウターエフェクトを仕向けてくる可能性もある。


 フラッタの元婚約者であるブルーヴァに接触したのもメナスだとすれば、俺たちは既に標的にされているんだろうか?

 それともフラッタとブルーヴァの関係を聞いて、深い理由も無しになんとなくスレイブシンボルを用意し、事の成り行きを見物していたんだろうか?


「……あ~もうっ! どいつもこいつも、なんで大人しく出来ないんだよ~っ……!?」


 想像の中の悪意を散らしたくて、ぐしゃぐしゃと頭を掻き毟る。


 人間族さんはこの世界じゃ脆弱な種族なんだよ?

 そんな人間族さんの癖に、悪意に従って行動するなんて、そんな大それたことをするんじゃないってのーっ!
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