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4章 マグエルの外へ2 新たな始まり、新たな出会い
243 魔人族 (改)
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スペルド王国全体でも、その姿を殆ど見かける事のなくなったという魔人族。
それがアウターの中で生きていて、なんか沢山いるんだけど、これってどういうことなのかなぁ。
「ヴァルゴ。森の外側と内側で色々な認識がズレているような気がするんだ。もし良ければ、詳しくお互いの認識をすり合わせたい。安全な場所でゆっくり話をすることは出来るかな?」
奪った槍を差し出しながら提案する。
出来れば関わりたくないけど、そうも言ってられないよな、もう。
俺が差し出した槍を、警戒しながらも恐る恐る受け取るヴァルゴ。
「槍の返却はとてもありがたいのですが、いいのですか? また私達が貴方に襲い掛かるかもしれないとは思わないのですか?」
「死にたけりゃ試してみれば? もうお前らに殺されるとは思わないからね」
「ぐっ……!」
バツが悪そうな顔をするヴァルゴ。
今だって技術で言えば俺よりもヴァルゴの方が上だとは思うけれど、それでも手合わせをする前ほどの開きはない。
俺に技術を盗まれた以上、職業補正で圧倒的に劣るヴァルゴたちにはもう勝ち目は無い。
「あっ」
と、話をしてたら魔物察知に反応がひっかかった。
こっちもかなりの大人数なせいか、どうやらかなりの数の魔物が接近しているようだ。
「ヴァルゴ。多分300前後の魔物がこっちに向かって来てるぞ。周りにいる奴らは応戦できるのか?」
「なっ!? 300ですって!? みんな! すぐに撤収! 戻って防備を固めてください!」
ヴァルゴが左手を真っ直ぐに掲げて周囲に指示を飛ばすと、周りにいた奴らは波が引いていくようにいなくなった。
しかしヴァルゴはそいつらとは一緒に退かず、苦悶に満ちた表情でこの場に留まった。
「その数の魔物の群れでは、集落にも被害が出る可能性が高い……!」
そしてせっかく返却したばかりの槍を地面に放り出し、俺に向かって頭を下げた。
この反応は予想していたけど、今まで敵対していた相手にすんなりと頭を下げる辺り、本当に感情を交えないで行動するのなコイツ。
「ダン! あなたの腕を見込んでお願いがあります! どうか私達ディロームの民と共闘していただけないでしょうか!?」
「うん。殺し合いしたのはマイナスだけど、ちょっとディロームの人たちとも話をする必要がありそうだからね。引き受けるよ」
職業の浸透を進めに来たんだし、魔物を倒すのは歓迎なのよ。
それに犠牲が出そうな流れを放ってもおけないよなぁ。
「恩に着ます! この礼は落ち着いたら必ず! では私についてきてください!」
無駄の無い動きで森の中を疾走していくヴァルゴ。
その動きを観察して取り入れながら、彼女の背中を追って森の中を進んでいった。
「うお……。でっけぇ……!」
10分ほどヴァルゴについていくと、茨が蒔きついた巨大な倒木に辿り付いた。
倒木の上には茨が無いのか、魔人族と思われる人間が沢山立っていて、どうやら木の上に石を運んでいるようだ。
……え~? 魔人族のメイン火力って投石なわけぇ?
「時間がありません! 今は何も聞かずにこちらへっ!」
既に魔物の気配を感じ取りつつあるのか、先ほどよりも険しい表情のヴァルゴに黙って従う。
ヴァルゴの後をついていくと、巨大な倒木に穴が空いていて、そこの前に数名の魔人族が武器を構えて陣取っていた。
「魔物の群れが近づいています。守護隊の皆は覚悟を決めなさい」
「「「おうっ!!」」」
「この人間族はダン。私を負かした相手です。今回魔物の撃退に協力してくれる事になりました」
最低限の情報を簡潔に伝えるヴァルゴ。
ヴァルゴを下したと伝えられた時だけ一瞬驚いたように目を見開いたけど、その後は直ぐにヴァルゴに視線を戻して彼女の指示を待っているようだ。
今は余計な情報は後回しにして、魔物の撃退に集中するシーンということだな。なかなか鍛えられているようだ。
「来ますよ。ディロームの里の命運は我らの槍にかかっていると心得なさい」
地面からも振動が伝わり始めて、守護隊とヴァルゴに緊張が漂い始める。
魔物察知の反応的に、魔物が現れるまであと30秒って所かな?
だけど、なんでこんなに緊迫感が漂っているんだ? あれだけの技術があるなら、この辺の魔物なんか余裕だと思うんだけどな?
「ヴァルゴ。俺は好き勝手動いていいのか? それともお前の指示に従うか?」
「……ダンは好きに動いてください。遠慮なく、1体でも多く魔物を滅ぼしてくれるとありがたいですね」
つまりなんの遠慮も要らないと。
それだと俺1人で殲滅できちゃうけど、確認は取ったからね?
「見えたぞーーーっ! 数は多すぎて確認できない! 多すぎて確認できないーーーっ!!」
伝令役なのか、倒木の上に居る誰かが力の限り叫んでいる。
その声が響き渡った数秒後、土煙と共に姿を現す魔物の群れ。
見たことがない魔物も多いけど、まぁ大丈夫でしょ。鑑定したところLV50未満の個体ばっかだし。
「守護隊は防衛陣形を取りなさい! 決して1人で魔物に対する事が無いよう、互いに常に意識してくださいっ!」
魔人族たちは打って出ずに、ここで待ち受ける作戦のようだ。
でも勝手に動いていいと言われたので、俺は1人で魔物の群れに突っ込み、範囲魔法を発動していく。
「ダンっ! 貴方何を……!」
「青き風雪。秘色の停滞。白群の嵐。碧落より招くは厳寒。蒼穹を阻み世界を閉ざし、空域全てに死を放て。アークティクブリザード」
別に火でも雷でも問題ないとは思うんだけど、無意識に氷属性を選択してしまったぜっ。
魔物以外に影響は無いと分かっているけど、森の中でフレイムフィールドやサンダースパークを使用するのに躊躇してしまったよぉ。
「なっ!? あれは……、もしや魔法っ!? あれほど槍を扱えているのに、更に魔法までっ!?」
ヴァルゴの叫びを無視して、アークティクブリザードをどんどん設置していく。
クルセイドロアを一瞬で13連発してもなんともない俺にとって、アークティクブリザードなんていくら撃っても問題がない。
「な……なななななっ……! ま、瞬く間にあれほどの数の魔物がっ……!」
魔物の群れを転々としながら、26回目のアークティクブリザードを設置したところで魔物が全滅。
ちゃっちゃとドロップアイテムを回収してヴァルゴの元に戻った。
「ヴァルゴー。皆殺しにしてきたよー。もう近くに魔物はいないっぽいかなー」
「軽ーっ!? 軽すぎますよーっ!? 何で貴方、あんな大量の魔物を瞬く間に殺しきってるんですかーっ!?」
相性の問題ですなー。
ヴァルゴみたいに対人戦に強いタイプは苦手だけど、魔物相手なら凄まじい数の職業浸透でゴリ押しできちゃうんだよね。
「通常の見張り隊に追加して、10人ほど出して周囲の確認をさせてください」
「はっ!」
驚いたのも一瞬で、ヴァルゴはすぐに立ち直って、守護隊の面々に指示を飛ばす。
「飛礫隊は解散して構いません。防衛態勢は終了で大丈夫です。皆さん、お疲れ様でした」
「「「おうっ!」」」
指示を受けた人たちもすぐにそれぞれ解散し、今言われたことを各方面に伝達しに行った。
しかし、無駄にかっこいい名前の投石担当の飛礫隊はいっぱいいるのに、守護隊の人は10人にも満たないってバランス悪いなー。
普通は守護隊の方を優先しないかなぁ?
守護隊の人が去っていったのを確認してから、ヴァルゴがこちらを振り返る。
「ダン。貴方のことを長に報告してきますので、少しこのまま待っていてもらえますか? 私の一存で集落に迎えるには、貴方は強すぎますので……」
「へーい。あまり遅くなるようなら帰るから、なるべく早く頼みまーす」
「撃退に強力してくれたのは皆も見ていたから、恐らく話は早いでしょう。では一旦失礼させてもらいます」
ヴァルゴは倒木に空いた穴に向かって走り去っていった。
あそこが集落の入り口で、倒木の壁と茨の城壁で集落は護られてるってワケか。
暇なので浸透具合を確認してみる。
紳商LV26、法王LV19、救世主LV19かぁ。
アウターエフェクト2体と、ヴァルゴって達人を倒したけど、全然進んでませんねぇっ! 割に合わないわぁ。
アウターエフェクトを倒しても浸透が進まないって、本当にムカつくよなぁ。何が呼び水の鏡だよ。今後も邪魔してやるからなぁ?
「お、ようやく戻って……って早っ!?」
10分ほどして、黒いオーラに包まれたヴァルゴが凄いスピードで戻ってきた。
俺の前に来ると黒いオーラは収まり、先ほどまでの紫肌のヴァルゴに戻った。
今の黒いオーラは、獣化みたいな種族特性なのかな? 魔人族って色々と凄いなぁ。
「お待たせしました。長がお会いになるそうです」
「お疲れ様。ここで追い返されなくて良かったよ」
「私が案内します。どうぞこちらへ」
戻ってきたヴァルゴは今の黒いオーラについては一切触れず、直ぐに集落への案内を開始してくれる。
種族の秘密だったりするんだろうか? でも気になるから聞いちゃえっ。
「ちなみに今の黒いのはなぁに? 何で俺の時には使わなかったの?」
「今のは魔力を体内に過剰に走らせる魔人族の特技で、ディローム秘伝の魔迅と呼ばれる技術です」
秘密でもなんでもなく、あっさりと教えてくれるヴァルゴ。
魔迅ねぇ。魔人族の特性だっていう魔竜化や魔獣化とは、また違う技術なんだろうか?
「ダンとの時は使えなかったんですよ。消耗が非常に激しい技ですからね。維持できるのは、精々30秒弱といったところでしょうか」
「なら開幕に使えば良かったのに」
「たった今ご覧になったばかりでしょう? この森の中では常に魔物の脅威に晒されているのです。たった1人の人間族相手に魔迅を使うわけにはいきませんよ」
それで負けてたら意味無くない? という言葉はギリギリ飲み込みました。セーフ。
案内してもらいながら話を聞くと、どうやら魔迅とは平たく言えば身体能力強化魔法のことらしい。
能力的にバレても問題なさそうだからあっさり話してくれたのかもね。
魔人族の種族特性は体内の魔力の精密操作らしく、部族によって様々な特殊能力があるそうだ。
以前聞いた魔竜化や魔獣化する者もいるし、バロール族は魔力を飛ばしてオリジナルの攻撃魔法みたいなことが出来たそうだ。
魔人族って面白そうだなぁ。出来ればディローム族以外にも会ってみたい。
ってこういうこと言うと、敵として出てきそうでイヤだなぁ……!
「着きましたよ。ここが長の住居です」
「こ、これが家なのかぁ……。ちょっと想像してなかったよ……」
案内されたのは、凄まじい大きさの大木を刳り貫いて造られた家だった。
魔人族が俺のエルフのイメージに近い生活してて笑うんだけど?
「聖域の外のことは知りませんが、私たちにとってはこれが普通ですよ。許可は取ってありますので遠慮無くお進みください」
「お、お邪魔しまーす……?」
ヴァルゴ以外の魔人族とも何人か擦れ違うけど、軽く視線を感じるくらいでリアクションは薄いな。
更に10分程度階段を上らされて、まぁまぁの高さにある部屋まで案内された。
部屋の前で跪き、入室前に中に声をかけるヴァルゴ。
「護り手のヴァルゴです。協力者の人間族の男、ダンさんをお連れ致しました」
「入ってもらいなさい」
「失礼致します。ダンもどうぞお入りください」
おじいさんっぽい声に入室を許可され、大木に設置された木製のドアを開けてヴァルゴと共に入室する。
中にいたのはおじいさんが1人と、かなり屈強そうな中年男性が1人。
おじいさんの方が長で、強そうな方は長の護衛かな?
部屋の中は大木の中とは思えないほど綺麗に刳り貫かれていて、普通に木造建築の部屋の中に見える。
家具の類は特に無く、布製の敷物の上に2人とも直接座って胡坐をかいている。
服装は布製の長袖の上下を着用している。
ヴァルゴの服装もだけど、魔人族の服装には際立った特徴は無いね。
「ほっほっほ。人間族が魔人族の集落に辿り着くなど初めてのことです。長生きはしてみるものですなぁ」
初見でいきなり殺しに来たヴァルゴと違って、おじいさんは人の良さそうな笑顔を浮かべながら俺のことをマジマジと観察してくる。
「ワシはルドル。ディローム族の長を務めさせていただいとりますよ」
「俺はカラン。守護長にしてルドル様の護衛だ」
やはり屈強そうな男は長の護衛だったようだ。
座っているはずなのに隙が無い。ヴァルゴ同様、相当な腕前の持ち主なのだろう。
「魔物の撃退への協力を感謝する。おかげでなんの被害も出さずに済んだ」
「ま、俺が騒いでしまったせいで魔物を呼び寄せてしまった可能性もあるからね。気にしないでよ」
「くくっ。お前がそう言うなら気にせんがな。なんでもお前、ヴァルゴを正面から打ち負かしたそうじゃないか。あとでその話も詳しく聞かせてくれ」
カランと名乗った男は、ヴァルゴにからかうような視線を送りながら肩を揺らして笑っている。
どんな対応をされるかちょっと不安だったけど、思った以上にフレンドリーだな?
じゃあなんでいきなり殺しにきやがったんだヴァルゴはよぉ?
「ダンさんでしたな。どうぞお座りくだされ。ヴァルゴの報告通りなら、ワシらは話をせねばならぬようじゃからのぅ。ヴァルゴ。お前も当事者として同席なさい」
「はっ。失礼します」
ヴァルゴがさっさと座ってしまったので、空いている場所に腰を下ろす。
布製に見えた敷物は何かの毛皮なのか、思ったよりもフカフカで座り心地が良かった。
「ダンさん。ワシはディローム族をまとめる者として、話を聞かねばならぬ。既にヴァルゴに話したとは思うが、もう1度始めからワシらに説明して貰えるかのう」
「はいよー。ちゃんと話を聞いてくれるなら話しますよー」
「ぐ、ぐぬぬ……!」
言葉を詰まらせるヴァルゴは無視して、ルドルさんに説明を開始する。
俺はアウターに潜って魔物を狩る、リーパーを生業としている。この森はスペルド王国では侵食の森と呼ばれるアウターとして認識されており、魔物を狩る為にこの森に入った。
そこでヴァルゴたちに包囲され撃退。話を聞くと森の中と外で色々な話が食い違っている事に気付く。
しかし話の途中で魔物が寄って来たので、協力して撃退した。こんな感じかな。
「ありがとう。ヴァルゴから聞いていた話と相違ないようですな」
説明中に口を挟んでくることもなく、説明が終わると静かに感謝を告げてくるルドルさん。
この人聞き上手っぽいな。説明してて快適だったわ。
「しかし、バロール族が知られていないのは何故なのじゃ……? 森の中で果てるような弱者ではなかったはずなのじゃが……」
「ヴァルゴと手合わせした感じから言うと、俺もルドルさんと同感なんだよ。バロール族のこと、俺にもう少し詳しく教えてもらえるかな?」
「……良いでしょう。年寄りの長話に少々お付き合いくだされ」
ルドルさんによると今から15年ほど前に、この聖域の樹海と呼ばれる森に異変を感じられるようになってきたという。
しかし魔人族だけでは問題の解決に到らず、こうなれば他種族の者に助けを求めるしかないと、全バロール族279名がスペルドに向けて出立したそうだ。
ヴァルゴの技量を考えて、森の中で全滅したとは考え難い。そして俺がたった1日で辿り着けているあたり、距離的にも問題ないはずだ。
なのに15年間行方が分からなくなっているという。
「ってか15年って。バロール族が帰ってこないことを不審に思ったりしなかったの?」
「お恥ずかしながら我ら魔人族は聖域の樹海から出た事がなく、その範囲も正確に把握してはおりませんでな。バロール族はなかなか帰ってこないなぁ、程度の認識だったのですよ」
暢気すぎかっ! 15年をなんとなく待ってんじゃないよまったく。
「ってことは、この森の異変ってのはそんなに緊急性は高くなかったんだ?」
「そうですな。緊急性で言えばさほど……。ですが放っておけば深刻化し、いつか手遅れになってもおかしくない問題なのです」
そこから語りだしたのは、魔人族と聖域の樹海の役割だった。
聖域の樹海は大気中の魔力を吸って植物に変換する事で、この世界の魔物の出現量を一定に保つ働きを持ち、魔人族は聖域の守人として代々森の中で暮らしてきたそうだ。
しかし15年ほど前から、この森の植物の成長と再生が鈍くなり始めているらしい。
聖域の樹海の力が弱まった事で魔物が多く、強くなり始め、魔人族だけでこの聖域を守るのが難しくなってきたため、スペルド王国に救援を要請しに向かったのがバロール族だったそうだ。
「幸いまだ各部族で聖域を守ることは出来ておりますが、戦死によって年々魔人族の数は減少しております。いずれ聖域を護りきれなくなるのは目に見えておりますのじゃ」
「いやいや、ヴァルゴと手合わせしたから分かるけど、魔人族の戦闘能力ってかなり高いでしょ? 魔物如きにやられるとは思えないんだけど?」
いくら魔人族で孤立した状況とは言え、魔物なんかに人口を減らされるほど追い込まれるとは思えない。
はっきり言って、ヴァルゴならアウターエフェクトくらい相手できるはずだ。
ヴァルゴは他の人に指示を出してたから魔人族の中でも手練れなんだろうけど、ヴァルゴだけが突出した使い手だったりするわけ?
しかしルドルさんは自嘲する様に小さく笑った後、力なく首を振る。
「……魔人族のことを高く評価してもらえるのは光栄なのじゃが、逆なんですなぁ」
「ん? 逆っていうのは?」
「加護を失った我ら魔人族は、ここまで技術を磨かねば生きることも出来なかったのですよ。魔物に対抗する術を持たないからこそ、ここまで槍を磨くしかなかったのです」
加護を失った? ヴァルゴレベルじゃないと生き残れない?
俗世から隔離された環境下。投石部隊。スペルドに協力を求めたわけ……。
「――――それって、まさか……!?」
1つの事実に思い当たって、思わずルドルさんを見詰めてしまう。
そしてルドルさんは俺の考えを肯定するかのように、ただ黙って小さく首肯して見せた。
嘘だろ……!? もしそれが事実なら、そんな状態でアウター内で暮らしていけるはずが……!
確認の為に、俺の隣りに座るヴァルゴを鑑定する。
「ん? なんですかダン?」
俺の視線に気付いたヴァルゴが、不思議そうに首を傾げてくる。
無断で覗かせてもらって悪いなヴァルゴ。けど殺し合った授業料だと思ってくれ。
ヴァルゴ
女 26歳 魔人族 魔技解放 村人LV10
装備品は皆無……。そして職業、村人なのかよぉ……!
失われた加護っていうのは職業のことで、魔物に対抗する術っていうのは装備品のことか……!
戦闘補正のかかる装備品も無く、戦闘補正のある職業も無く、生き残る為にただひたすら技術を磨いたわけか。そりゃ対人戦最強になるわけだ……。
投石部隊も、武器無しじゃHPが1しか削れないから、その分大量に石をぶつけて数でカバーするって発想だったのかよ……!
もっと技術を感じさせるような介入をしろとか思っちゃったけど、魔人族たちにとっては苦肉の策であり、けれど自分たちに取れる唯一の攻撃手段だったってわけかぁ……。
思ったより絶滅の危機に瀕してんじゃねぇか魔人族! 聖域の樹海の異変より、まずはこっちを解決しろってのーっ!
それがアウターの中で生きていて、なんか沢山いるんだけど、これってどういうことなのかなぁ。
「ヴァルゴ。森の外側と内側で色々な認識がズレているような気がするんだ。もし良ければ、詳しくお互いの認識をすり合わせたい。安全な場所でゆっくり話をすることは出来るかな?」
奪った槍を差し出しながら提案する。
出来れば関わりたくないけど、そうも言ってられないよな、もう。
俺が差し出した槍を、警戒しながらも恐る恐る受け取るヴァルゴ。
「槍の返却はとてもありがたいのですが、いいのですか? また私達が貴方に襲い掛かるかもしれないとは思わないのですか?」
「死にたけりゃ試してみれば? もうお前らに殺されるとは思わないからね」
「ぐっ……!」
バツが悪そうな顔をするヴァルゴ。
今だって技術で言えば俺よりもヴァルゴの方が上だとは思うけれど、それでも手合わせをする前ほどの開きはない。
俺に技術を盗まれた以上、職業補正で圧倒的に劣るヴァルゴたちにはもう勝ち目は無い。
「あっ」
と、話をしてたら魔物察知に反応がひっかかった。
こっちもかなりの大人数なせいか、どうやらかなりの数の魔物が接近しているようだ。
「ヴァルゴ。多分300前後の魔物がこっちに向かって来てるぞ。周りにいる奴らは応戦できるのか?」
「なっ!? 300ですって!? みんな! すぐに撤収! 戻って防備を固めてください!」
ヴァルゴが左手を真っ直ぐに掲げて周囲に指示を飛ばすと、周りにいた奴らは波が引いていくようにいなくなった。
しかしヴァルゴはそいつらとは一緒に退かず、苦悶に満ちた表情でこの場に留まった。
「その数の魔物の群れでは、集落にも被害が出る可能性が高い……!」
そしてせっかく返却したばかりの槍を地面に放り出し、俺に向かって頭を下げた。
この反応は予想していたけど、今まで敵対していた相手にすんなりと頭を下げる辺り、本当に感情を交えないで行動するのなコイツ。
「ダン! あなたの腕を見込んでお願いがあります! どうか私達ディロームの民と共闘していただけないでしょうか!?」
「うん。殺し合いしたのはマイナスだけど、ちょっとディロームの人たちとも話をする必要がありそうだからね。引き受けるよ」
職業の浸透を進めに来たんだし、魔物を倒すのは歓迎なのよ。
それに犠牲が出そうな流れを放ってもおけないよなぁ。
「恩に着ます! この礼は落ち着いたら必ず! では私についてきてください!」
無駄の無い動きで森の中を疾走していくヴァルゴ。
その動きを観察して取り入れながら、彼女の背中を追って森の中を進んでいった。
「うお……。でっけぇ……!」
10分ほどヴァルゴについていくと、茨が蒔きついた巨大な倒木に辿り付いた。
倒木の上には茨が無いのか、魔人族と思われる人間が沢山立っていて、どうやら木の上に石を運んでいるようだ。
……え~? 魔人族のメイン火力って投石なわけぇ?
「時間がありません! 今は何も聞かずにこちらへっ!」
既に魔物の気配を感じ取りつつあるのか、先ほどよりも険しい表情のヴァルゴに黙って従う。
ヴァルゴの後をついていくと、巨大な倒木に穴が空いていて、そこの前に数名の魔人族が武器を構えて陣取っていた。
「魔物の群れが近づいています。守護隊の皆は覚悟を決めなさい」
「「「おうっ!!」」」
「この人間族はダン。私を負かした相手です。今回魔物の撃退に協力してくれる事になりました」
最低限の情報を簡潔に伝えるヴァルゴ。
ヴァルゴを下したと伝えられた時だけ一瞬驚いたように目を見開いたけど、その後は直ぐにヴァルゴに視線を戻して彼女の指示を待っているようだ。
今は余計な情報は後回しにして、魔物の撃退に集中するシーンということだな。なかなか鍛えられているようだ。
「来ますよ。ディロームの里の命運は我らの槍にかかっていると心得なさい」
地面からも振動が伝わり始めて、守護隊とヴァルゴに緊張が漂い始める。
魔物察知の反応的に、魔物が現れるまであと30秒って所かな?
だけど、なんでこんなに緊迫感が漂っているんだ? あれだけの技術があるなら、この辺の魔物なんか余裕だと思うんだけどな?
「ヴァルゴ。俺は好き勝手動いていいのか? それともお前の指示に従うか?」
「……ダンは好きに動いてください。遠慮なく、1体でも多く魔物を滅ぼしてくれるとありがたいですね」
つまりなんの遠慮も要らないと。
それだと俺1人で殲滅できちゃうけど、確認は取ったからね?
「見えたぞーーーっ! 数は多すぎて確認できない! 多すぎて確認できないーーーっ!!」
伝令役なのか、倒木の上に居る誰かが力の限り叫んでいる。
その声が響き渡った数秒後、土煙と共に姿を現す魔物の群れ。
見たことがない魔物も多いけど、まぁ大丈夫でしょ。鑑定したところLV50未満の個体ばっかだし。
「守護隊は防衛陣形を取りなさい! 決して1人で魔物に対する事が無いよう、互いに常に意識してくださいっ!」
魔人族たちは打って出ずに、ここで待ち受ける作戦のようだ。
でも勝手に動いていいと言われたので、俺は1人で魔物の群れに突っ込み、範囲魔法を発動していく。
「ダンっ! 貴方何を……!」
「青き風雪。秘色の停滞。白群の嵐。碧落より招くは厳寒。蒼穹を阻み世界を閉ざし、空域全てに死を放て。アークティクブリザード」
別に火でも雷でも問題ないとは思うんだけど、無意識に氷属性を選択してしまったぜっ。
魔物以外に影響は無いと分かっているけど、森の中でフレイムフィールドやサンダースパークを使用するのに躊躇してしまったよぉ。
「なっ!? あれは……、もしや魔法っ!? あれほど槍を扱えているのに、更に魔法までっ!?」
ヴァルゴの叫びを無視して、アークティクブリザードをどんどん設置していく。
クルセイドロアを一瞬で13連発してもなんともない俺にとって、アークティクブリザードなんていくら撃っても問題がない。
「な……なななななっ……! ま、瞬く間にあれほどの数の魔物がっ……!」
魔物の群れを転々としながら、26回目のアークティクブリザードを設置したところで魔物が全滅。
ちゃっちゃとドロップアイテムを回収してヴァルゴの元に戻った。
「ヴァルゴー。皆殺しにしてきたよー。もう近くに魔物はいないっぽいかなー」
「軽ーっ!? 軽すぎますよーっ!? 何で貴方、あんな大量の魔物を瞬く間に殺しきってるんですかーっ!?」
相性の問題ですなー。
ヴァルゴみたいに対人戦に強いタイプは苦手だけど、魔物相手なら凄まじい数の職業浸透でゴリ押しできちゃうんだよね。
「通常の見張り隊に追加して、10人ほど出して周囲の確認をさせてください」
「はっ!」
驚いたのも一瞬で、ヴァルゴはすぐに立ち直って、守護隊の面々に指示を飛ばす。
「飛礫隊は解散して構いません。防衛態勢は終了で大丈夫です。皆さん、お疲れ様でした」
「「「おうっ!」」」
指示を受けた人たちもすぐにそれぞれ解散し、今言われたことを各方面に伝達しに行った。
しかし、無駄にかっこいい名前の投石担当の飛礫隊はいっぱいいるのに、守護隊の人は10人にも満たないってバランス悪いなー。
普通は守護隊の方を優先しないかなぁ?
守護隊の人が去っていったのを確認してから、ヴァルゴがこちらを振り返る。
「ダン。貴方のことを長に報告してきますので、少しこのまま待っていてもらえますか? 私の一存で集落に迎えるには、貴方は強すぎますので……」
「へーい。あまり遅くなるようなら帰るから、なるべく早く頼みまーす」
「撃退に強力してくれたのは皆も見ていたから、恐らく話は早いでしょう。では一旦失礼させてもらいます」
ヴァルゴは倒木に空いた穴に向かって走り去っていった。
あそこが集落の入り口で、倒木の壁と茨の城壁で集落は護られてるってワケか。
暇なので浸透具合を確認してみる。
紳商LV26、法王LV19、救世主LV19かぁ。
アウターエフェクト2体と、ヴァルゴって達人を倒したけど、全然進んでませんねぇっ! 割に合わないわぁ。
アウターエフェクトを倒しても浸透が進まないって、本当にムカつくよなぁ。何が呼び水の鏡だよ。今後も邪魔してやるからなぁ?
「お、ようやく戻って……って早っ!?」
10分ほどして、黒いオーラに包まれたヴァルゴが凄いスピードで戻ってきた。
俺の前に来ると黒いオーラは収まり、先ほどまでの紫肌のヴァルゴに戻った。
今の黒いオーラは、獣化みたいな種族特性なのかな? 魔人族って色々と凄いなぁ。
「お待たせしました。長がお会いになるそうです」
「お疲れ様。ここで追い返されなくて良かったよ」
「私が案内します。どうぞこちらへ」
戻ってきたヴァルゴは今の黒いオーラについては一切触れず、直ぐに集落への案内を開始してくれる。
種族の秘密だったりするんだろうか? でも気になるから聞いちゃえっ。
「ちなみに今の黒いのはなぁに? 何で俺の時には使わなかったの?」
「今のは魔力を体内に過剰に走らせる魔人族の特技で、ディローム秘伝の魔迅と呼ばれる技術です」
秘密でもなんでもなく、あっさりと教えてくれるヴァルゴ。
魔迅ねぇ。魔人族の特性だっていう魔竜化や魔獣化とは、また違う技術なんだろうか?
「ダンとの時は使えなかったんですよ。消耗が非常に激しい技ですからね。維持できるのは、精々30秒弱といったところでしょうか」
「なら開幕に使えば良かったのに」
「たった今ご覧になったばかりでしょう? この森の中では常に魔物の脅威に晒されているのです。たった1人の人間族相手に魔迅を使うわけにはいきませんよ」
それで負けてたら意味無くない? という言葉はギリギリ飲み込みました。セーフ。
案内してもらいながら話を聞くと、どうやら魔迅とは平たく言えば身体能力強化魔法のことらしい。
能力的にバレても問題なさそうだからあっさり話してくれたのかもね。
魔人族の種族特性は体内の魔力の精密操作らしく、部族によって様々な特殊能力があるそうだ。
以前聞いた魔竜化や魔獣化する者もいるし、バロール族は魔力を飛ばしてオリジナルの攻撃魔法みたいなことが出来たそうだ。
魔人族って面白そうだなぁ。出来ればディローム族以外にも会ってみたい。
ってこういうこと言うと、敵として出てきそうでイヤだなぁ……!
「着きましたよ。ここが長の住居です」
「こ、これが家なのかぁ……。ちょっと想像してなかったよ……」
案内されたのは、凄まじい大きさの大木を刳り貫いて造られた家だった。
魔人族が俺のエルフのイメージに近い生活してて笑うんだけど?
「聖域の外のことは知りませんが、私たちにとってはこれが普通ですよ。許可は取ってありますので遠慮無くお進みください」
「お、お邪魔しまーす……?」
ヴァルゴ以外の魔人族とも何人か擦れ違うけど、軽く視線を感じるくらいでリアクションは薄いな。
更に10分程度階段を上らされて、まぁまぁの高さにある部屋まで案内された。
部屋の前で跪き、入室前に中に声をかけるヴァルゴ。
「護り手のヴァルゴです。協力者の人間族の男、ダンさんをお連れ致しました」
「入ってもらいなさい」
「失礼致します。ダンもどうぞお入りください」
おじいさんっぽい声に入室を許可され、大木に設置された木製のドアを開けてヴァルゴと共に入室する。
中にいたのはおじいさんが1人と、かなり屈強そうな中年男性が1人。
おじいさんの方が長で、強そうな方は長の護衛かな?
部屋の中は大木の中とは思えないほど綺麗に刳り貫かれていて、普通に木造建築の部屋の中に見える。
家具の類は特に無く、布製の敷物の上に2人とも直接座って胡坐をかいている。
服装は布製の長袖の上下を着用している。
ヴァルゴの服装もだけど、魔人族の服装には際立った特徴は無いね。
「ほっほっほ。人間族が魔人族の集落に辿り着くなど初めてのことです。長生きはしてみるものですなぁ」
初見でいきなり殺しに来たヴァルゴと違って、おじいさんは人の良さそうな笑顔を浮かべながら俺のことをマジマジと観察してくる。
「ワシはルドル。ディローム族の長を務めさせていただいとりますよ」
「俺はカラン。守護長にしてルドル様の護衛だ」
やはり屈強そうな男は長の護衛だったようだ。
座っているはずなのに隙が無い。ヴァルゴ同様、相当な腕前の持ち主なのだろう。
「魔物の撃退への協力を感謝する。おかげでなんの被害も出さずに済んだ」
「ま、俺が騒いでしまったせいで魔物を呼び寄せてしまった可能性もあるからね。気にしないでよ」
「くくっ。お前がそう言うなら気にせんがな。なんでもお前、ヴァルゴを正面から打ち負かしたそうじゃないか。あとでその話も詳しく聞かせてくれ」
カランと名乗った男は、ヴァルゴにからかうような視線を送りながら肩を揺らして笑っている。
どんな対応をされるかちょっと不安だったけど、思った以上にフレンドリーだな?
じゃあなんでいきなり殺しにきやがったんだヴァルゴはよぉ?
「ダンさんでしたな。どうぞお座りくだされ。ヴァルゴの報告通りなら、ワシらは話をせねばならぬようじゃからのぅ。ヴァルゴ。お前も当事者として同席なさい」
「はっ。失礼します」
ヴァルゴがさっさと座ってしまったので、空いている場所に腰を下ろす。
布製に見えた敷物は何かの毛皮なのか、思ったよりもフカフカで座り心地が良かった。
「ダンさん。ワシはディローム族をまとめる者として、話を聞かねばならぬ。既にヴァルゴに話したとは思うが、もう1度始めからワシらに説明して貰えるかのう」
「はいよー。ちゃんと話を聞いてくれるなら話しますよー」
「ぐ、ぐぬぬ……!」
言葉を詰まらせるヴァルゴは無視して、ルドルさんに説明を開始する。
俺はアウターに潜って魔物を狩る、リーパーを生業としている。この森はスペルド王国では侵食の森と呼ばれるアウターとして認識されており、魔物を狩る為にこの森に入った。
そこでヴァルゴたちに包囲され撃退。話を聞くと森の中と外で色々な話が食い違っている事に気付く。
しかし話の途中で魔物が寄って来たので、協力して撃退した。こんな感じかな。
「ありがとう。ヴァルゴから聞いていた話と相違ないようですな」
説明中に口を挟んでくることもなく、説明が終わると静かに感謝を告げてくるルドルさん。
この人聞き上手っぽいな。説明してて快適だったわ。
「しかし、バロール族が知られていないのは何故なのじゃ……? 森の中で果てるような弱者ではなかったはずなのじゃが……」
「ヴァルゴと手合わせした感じから言うと、俺もルドルさんと同感なんだよ。バロール族のこと、俺にもう少し詳しく教えてもらえるかな?」
「……良いでしょう。年寄りの長話に少々お付き合いくだされ」
ルドルさんによると今から15年ほど前に、この聖域の樹海と呼ばれる森に異変を感じられるようになってきたという。
しかし魔人族だけでは問題の解決に到らず、こうなれば他種族の者に助けを求めるしかないと、全バロール族279名がスペルドに向けて出立したそうだ。
ヴァルゴの技量を考えて、森の中で全滅したとは考え難い。そして俺がたった1日で辿り着けているあたり、距離的にも問題ないはずだ。
なのに15年間行方が分からなくなっているという。
「ってか15年って。バロール族が帰ってこないことを不審に思ったりしなかったの?」
「お恥ずかしながら我ら魔人族は聖域の樹海から出た事がなく、その範囲も正確に把握してはおりませんでな。バロール族はなかなか帰ってこないなぁ、程度の認識だったのですよ」
暢気すぎかっ! 15年をなんとなく待ってんじゃないよまったく。
「ってことは、この森の異変ってのはそんなに緊急性は高くなかったんだ?」
「そうですな。緊急性で言えばさほど……。ですが放っておけば深刻化し、いつか手遅れになってもおかしくない問題なのです」
そこから語りだしたのは、魔人族と聖域の樹海の役割だった。
聖域の樹海は大気中の魔力を吸って植物に変換する事で、この世界の魔物の出現量を一定に保つ働きを持ち、魔人族は聖域の守人として代々森の中で暮らしてきたそうだ。
しかし15年ほど前から、この森の植物の成長と再生が鈍くなり始めているらしい。
聖域の樹海の力が弱まった事で魔物が多く、強くなり始め、魔人族だけでこの聖域を守るのが難しくなってきたため、スペルド王国に救援を要請しに向かったのがバロール族だったそうだ。
「幸いまだ各部族で聖域を守ることは出来ておりますが、戦死によって年々魔人族の数は減少しております。いずれ聖域を護りきれなくなるのは目に見えておりますのじゃ」
「いやいや、ヴァルゴと手合わせしたから分かるけど、魔人族の戦闘能力ってかなり高いでしょ? 魔物如きにやられるとは思えないんだけど?」
いくら魔人族で孤立した状況とは言え、魔物なんかに人口を減らされるほど追い込まれるとは思えない。
はっきり言って、ヴァルゴならアウターエフェクトくらい相手できるはずだ。
ヴァルゴは他の人に指示を出してたから魔人族の中でも手練れなんだろうけど、ヴァルゴだけが突出した使い手だったりするわけ?
しかしルドルさんは自嘲する様に小さく笑った後、力なく首を振る。
「……魔人族のことを高く評価してもらえるのは光栄なのじゃが、逆なんですなぁ」
「ん? 逆っていうのは?」
「加護を失った我ら魔人族は、ここまで技術を磨かねば生きることも出来なかったのですよ。魔物に対抗する術を持たないからこそ、ここまで槍を磨くしかなかったのです」
加護を失った? ヴァルゴレベルじゃないと生き残れない?
俗世から隔離された環境下。投石部隊。スペルドに協力を求めたわけ……。
「――――それって、まさか……!?」
1つの事実に思い当たって、思わずルドルさんを見詰めてしまう。
そしてルドルさんは俺の考えを肯定するかのように、ただ黙って小さく首肯して見せた。
嘘だろ……!? もしそれが事実なら、そんな状態でアウター内で暮らしていけるはずが……!
確認の為に、俺の隣りに座るヴァルゴを鑑定する。
「ん? なんですかダン?」
俺の視線に気付いたヴァルゴが、不思議そうに首を傾げてくる。
無断で覗かせてもらって悪いなヴァルゴ。けど殺し合った授業料だと思ってくれ。
ヴァルゴ
女 26歳 魔人族 魔技解放 村人LV10
装備品は皆無……。そして職業、村人なのかよぉ……!
失われた加護っていうのは職業のことで、魔物に対抗する術っていうのは装備品のことか……!
戦闘補正のかかる装備品も無く、戦闘補正のある職業も無く、生き残る為にただひたすら技術を磨いたわけか。そりゃ対人戦最強になるわけだ……。
投石部隊も、武器無しじゃHPが1しか削れないから、その分大量に石をぶつけて数でカバーするって発想だったのかよ……!
もっと技術を感じさせるような介入をしろとか思っちゃったけど、魔人族たちにとっては苦肉の策であり、けれど自分たちに取れる唯一の攻撃手段だったってわけかぁ……。
思ったより絶滅の危機に瀕してんじゃねぇか魔人族! 聖域の樹海の異変より、まずはこっちを解決しろってのーっ!
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