異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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4章 マグエルの外へ2 新たな始まり、新たな出会い

241 ヴァルゴ (改)

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「………………」


 目の前の美女から敵意は感じない。

 ただ、突発的な問題が起こって面倒で仕方ないってオーラが全身から出ている。

 済みませんねぇ、面倒事持ち込んじゃって。わざとじゃないんだよ?


 でも敵意が無いなら会話可能かな? 交流を試みよう。美人だし?


「言葉は通じるのかな? 俺はダン。そっちの用件は分からないけど、出来れば戦いたくないよー?」


 声をかけてみるも無反応。なんか欠伸までしてるやる気の無さだ。


 う~ん。殺す気満々でいられるのも困るけど、反応してもらえないのも困るなぁ。

 さてと、どうしたもんか……。


「って、うわぁっ!?」


 殆ど無意識に、反射だけで身を捩って、俺の首元目掛けて繰り出された槍の1撃を回避する。

 そのまま大きく3歩ほど下がって、女との間に距離を空ける。


「……へぇ?」

「な、何だよアンタ!? いきなりなにしてくるんだよっ!?」


 眠そうだった瞳に驚きの色を宿しながら、興味が湧いたように静かに微笑を浮かべる相手。

 マジかよこいつっ!? 俺、一瞬も目を離したつもりはないのに、気付かないうちに踏み込んできてやがったぞ!?


「良い反応ですね。ダンと言いましたか? その名、覚えておきましょう」


 先ほどまで無言だったのが嘘みたいに、流暢に話し出す女性。

 どうやら言葉が通じないってわけじゃないらしいね。


「死出の餞に、貴方を殺す者の名を贈りましょう。私の名はヴァルゴ。誇り高きディロームの護り手です」

「待った! 言葉が通じるなら対話しようよっ!? なんで問答無用で殺しに来るのさ! 何のために言葉があると思ってんの!?」

「ふふ。それこそ問答無用ではありません、かっ!」


 言い終わると同時に放たれる槍の連撃。

 なんで襲ってくるのかも分からないまま、未だ敵意を感じさせない相手と槍を合わせる。


「待てって……、クソッ!」


 動作全てが流れるように美しく、そして一切の無駄が無い。

 職業補正では明らかに俺より大幅に劣っているのに、それを感じさせないほどの技量差だ。



 何だこいつ……!? ターニアさんなんてもんじゃねぇ……。俺が出会った魔物狩りの中で、ぶっちぎりの技量の持ち主だ!

 単純な技量で言えば、明らかにラトリアすら上回ってるぞこいつ! 何者だよっ!?


「くっ!? やり、辛いっ……!」

「やりますねぇ。今のでも仕留められませんか」


 こいつ、単純な技量の高さもさることながら、それ以上に戦い方が上手い。


 五感を研ぎ澄ませてコイツの技を盗もうとすると、わざと技術を歪ませて緩急をつけてくる。

 俺の意識の集中度合いすら見切って、動き全てにフェイントを練りこんでくるのだ。


「うん。大変素晴らしいですね。私の技術に及ばないのを知って、すぐに私の技術を盗みに来るその貪欲さ、目を見張るものがありますよ」

「そりゃ、どうもっ……!」


 口では絶賛してくれるけど、表情の方は面倒臭くって堪らなそうだな!

 悪いね粘って! でもそんな素直に殺されてやれないってのっ!


 女の動きに集中する。


 虚実織り交ぜて放たれる槍の雨。

 職業補正の劣勢を感じさせない神速の突撃。


 だけど勿論こっちにだって、勝ち目が無いわけじゃあないんだよなぁ!


「……もう私の技術を喰らい始めましたか。何者なんです貴方?」

「それを聞きたきゃっ、槍を止めろってのっ……!」


 圧倒的な技術差のあるヴァルゴの槍に、職業補正で無理矢理対応する。


 俺はこの世界で最高水準の職業浸透数を誇っている自信がある。

 職業浸透数55個だぞ。俺より浸透が進んでる奴なんざ、エルフにだって殆どいないだろ!


 俺はこっちの世界に来てから戦いを学んだクチでね。俺が戦う相手は常に俺よりも技術が上だったんだ。

 技術が上の相手に殺されない方法なら、俺はきっとかなり上手いよ!


 技術で負けてる相手に職業浸透数でごり押しするのは、俺の得意技なんだよぉっ!


「……というか貴方、槍使いじゃないですね? 何故槍を使っているかは存じませんが、得意武器でもない槍で私の槍を捌くとは」

「お前っ、どういう目をして、るんだよっ……!?」


 鑑定したってそこまでの情報を抜くのは無理なんですけど!?


 しかし、段々分かってきたぞ。コイツの技術の本質が。

 こいつ職業補正で負けているから、無駄な動きを一切していないんだ。まるで宇宙空間で加速しているかのように、慣性に加速を乗せてアホみたいな速度で攻撃してきやがる。


 そして巧みなのは動作だけじゃない。

 こいつ、こっちの意識の隙間を縫うのが異常に上手い。


 俺はコイツらが生体察知にひっかかってからは、一瞬たりとも気を抜いていないつもりだ。自分ではね。

 でもこいつは、俺自身ですら気付かないほどの小さな弛みを見つけては、そこを上手く使って的確に隙をついてくる。

 自分の技術が観察されていると知るや否や、俺の意識を呼吸や体の力の入れ方で自在に操って、無理矢理隙を作り出してきやがるんだ。


「ふむ。どうやら私の技術の本質を手繰り寄せてしまったようですね」


 俺の様子から、自分の槍の技術が流出している事を悟るヴァルゴ。


 見られ、盗まれることすら織り込み済みとは恐れ入るよ。

 それが分かっていても盗まずにはいられないほど技術が洗練されてるもんだから、厄介ったらありゃしないよっ!


「身体能力では圧倒的に分が悪い。このままでは私はいずれ負けてしまうでしょう。ですが、護り手に敗北は許されません」

「……なにをっ!?」


 女が突き出す槍は流星群のように煌き続け、全く隙が無い。

 なのにそんな攻撃を繰り出しながらも、女は小さい横笛のようなものを取り出し、綺麗な高音を周囲に響き渡らせた。


 その笛の音が鳴り響くと、周囲にあった生体反応が一気に距離を詰めてきて、女と同じ紫肌に黒髪の人間達が、両手いっぱいに小石を抱えて現れた。


「……って、まさかの投石かよっ!? しかも素手ぇっ!?」

「私に気を使う必要はありません! 放ちなさいっ!」


 全方位から俺に向かって放られる石つぶて。

 なんなのこいつら!? 神業と言いたくなるような槍の技術を見せつけた後に、原始時代に遡ったような投石攻撃とか浴びせてくるんじゃないよっ!


 物理障壁で全部防いでやってもいいけど、舐めんじゃねぇぞぉ……!? 槍も石も、技術と補正で全部捌ききってやらぁっ!


「せっかく楽しい槍の勉強中だったのに、くだらねぇ水を差したことを後悔させてやるぜ、ヴァルゴっ!」

「強がりは見苦しいですよダン。私の槍を躱しながらこの数の投石を防げるなどと、本気で思っているのですか?」


 逆だろヴァルゴ。お前くらいに洗練された技術を持っているのに、どうしてここで投石なんかに頼る必要あるんだよ。

 お前の超一流の技術が泣いてるぜ。投石になんか頼るなってさぁ!


 意識は目の前のヴァルゴに全て傾けながら、五感上昇補正を最大限に駆使して、投石のぶつかり合う音、風を斬る音、空気の流れを肌で感じ、俺の周囲の空間全てをミリ単位で把握する。

 メインは常にヴァルゴとの手合わせだけれど、ヴァルゴとの戦いの動作全てを投石を凌ぐのに繋げていく。

 次第にヴァルゴの槍の攻撃さえも、投石を弾くのに利用していく。


 槍の技術では圧倒的に負けてるけどよ。総合力ならこっちのが上なんだよぉ!


「くっ、そ……! この男、急激に、しかもどこまでも早く……!」


 ヴァルゴの顔に汗が流れる。息も乱れ顔も高潮しているようだ。

 こっちは好色家先生のハイパー持久力補正を始め、凄まじい数の持久力補正を積んでるんでね。このまま数日間やりあっても構わないぜ?


 ま、敗因は疲労だったなんて、そんな言い訳させるつもりはないけどなぁ!?


「ふっ!」

「くぁっ……!」


 石の雨の中を1歩踏み出し、ヴァルゴに槍を繰り出していく。

 いくら雨あられのような投石でも、今の俺にとっては止まってるのと変わらない。お前と槍を合わせるのに何の支障も無いんだよ。


「……ふぅぅぅぅ」


 初めての俺の攻勢にヴァルゴは一瞬だけ驚いた顔をしたけど、すぐに集中力を深めたのが分かった。こいつ、劣勢にも慣れてやがるなぁ。


「ハッ!」


 石の雨をものともせずに、まるで石など1つも降っていないかのように動いて、ヴァルゴに槍を打ち付けていく。

 自分の補正にヴァルゴから盗んだ技術を上乗せし、噛み砕いて昇華して、俺だけの技術にブラッシュアップする。


 いつしか石の雨は止み、始めのように俺とヴァルゴの1対1の戦いに戻っている。始めと違って、優勢なのは俺の方だけどな。


 ヴァルゴが肩で息をして、ぜぇぜぇと大きく息を切らしている。持久力補正が低すぎるな。

 槍を構えたまま大きくバックステップして、ヴァルゴとの距離を空ける。


「何の……、つもり……、ですっ、か……!」

「バテバテのヴァルゴに休憩時間をやってんだよ。お前との決着に、疲れてなければ勝てた、なんて言われたくないからな」


 俺の方をキッと睨みつけながらも、決して感情的にはならずに静かに息を整えていくヴァルゴ。

 やはりこいつ、劣勢に慣れているなぁ。


「……この判断、あの世で後悔すると良いでしょう。万全の私に、負ける要素は何1つありませんからね」

「強がりは見苦しいと言ったのはお前だヴァルゴ。息を整えた程度で俺に勝てると、本気で思ってんのか?」


 ヴァルゴと手合わせをする前の俺なら、ここからでもひっくり返されたかもしれない。

 一瞬の気の弛みを突かれ、即死させられた可能姓は低くない。


 だけどヴァルゴのおかげで学べた。

 常に自然体でありながら戦場の全てに対応する、常在戦場のあり方を。


 警戒するのとも集中するのとも違う、反射に似た反応と対応。

 俺はもう自然体のままで、イントルーダーだって滅してやれるだろう。


「ふぅー……。ふぅー……。ふぅー……。ふぅー……」


 ヴァルゴの呼吸が整っていく。俺はそれをただ眺めている。

 俺から動くつもりはない。万全のヴァルゴの槍を、正面から打ち破るのみ。


「ふっ!」


 大きく左足を踏み込んで繰り出される、俺の胸元の中心を狙った1撃。

 だけど意識の虚をつけなければ、あまりにも遅い神速の1撃。


 止まっているようにしか見えないヴァルゴの左足を、槍の柄で思い切り打ち払う。

 体勢を崩したヴァルゴの両手首を槍の柄で打ちつけ、槍を手放させる事に成功する。


「うっ、あぁっ……!」

「これで、終わりだぁっ!」


 ヴァルゴが放した槍を自分の手元に引きながらキュアライトを詠唱して、ヴァルゴの頭目掛けて思い切り拳骨を食らわしてやる。

 ゴッ! という鈍い音が森の中に響き渡った。


「いっっっっ……たーーーーいっ!? 痛い痛いっ、いーたーいーーーっ!!!」


 キュアライトで完治した両手で頭を押さえながら、痛い痛いと地面を転げ回るヴァルゴ。


「こっちは戦いたくないって言ってんだろうが! 言葉が通じるなら話を聞けバーカ!」


 会話できるくせに襲ってきた礼だバーカ!

 槍の授業料としてこれで収めてやるんだから、有り難く思えってんだ!


「おいっ! これ以上かかってくるつもりなら、次は容赦しねぇぞ!? こっちこそ問答無用で、テメェら皆殺しにしてやるからなぁっ!」


 周りで呆然としている奴らにも警告しておく。

 投石なんかで水差しやがって。せめてもうちょっと技術を感じさせる介入の仕方をしろってんだ、まったく。


「ヴァルゴ。いつまで大袈裟に痛がってんだ。もう完治してんだろ。立て」

「痛い痛いいたいいた、い……? あれ、本当に痛くない……?」


 頭の痛みが引いている事に気付いたヴァルゴが、不思議そうに首を傾げている。


 キュアライトナックルは怪我の心配なしに全力でぶん殴れるからいいよね。

 おかげで殴られた瞬間はめちゃくちゃ痛いんだろうけどさ。


「誇り高きディロームの護り手のヴァルゴさんよ。いい加減説明してくれないかな? 何で俺を殺そうとした? お前らはいったい誰なんだ?」


 警戒心をむき出しにしたまま立ち上がり、けれど俺が奪った槍を悔しそうに見詰めるヴァルゴ。

 槍の技術は凄かったけど職業補正は低かったもんな。槍が無いと勝てないのは自覚しているようだ。


「さっさと答えろ。お前が瞬きする間にお前以外の人間を全員殺すぞ?」

「こここ、殺そうとしたのは謝ります! 謝りますから早まらないでっ……!」

「お前が会話に応じる気なら手は出さないっての」

「けど、ダンこそいったい何者なんですかっ……!? この森にはモリビトしか、この付近にはディロームの一族しかいないはずなのに……。しかも貴方、人間族ですよね……!?」

「モリビト? ディロームの、……?」


 一族ってことは、ディロームっていう稀少種族なんじゃなくて、ディローム家ってことか?

 なんか色々と話を聞く必要がありそうだな。殺しあってる場合じゃねぇってのまったく。


「俺は人間族のダンだ。このアウター、侵食の森に調査に来ただけなんだよ。お前らと遭遇したのは偶然、というかお前らが俺を包囲したせいだろ」

「うっ……! も、申し訳ありませんでした……」

「過ぎたことはいいとして、お前らこそ何者だよ? ディロームって種族名じゃないんだよな?」

「……わ、私達はこの聖域の樹海で暮らしている魔人族で、ディロームというのは私たちの一族のことですよ」


 魔人族っ! まーたみんなが居ないところで変な事に巻き込まれちゃったよぉ!

 絶対怒られる! これ絶対怒られる奴だわぁ!


「人間族がここまで来たことなんて、ほとんど記録に無かったのですが……」


 ふぅむ? 侵食の森の反対側の調査も行なわれていないようだし、ここってあんまり調査されてなかったのかな?


 スポットや竜王のカタコンベと比べると、最寄りの街である筈のステイルークとはかなり距離がある。

 そもそもステイルークは侵食の森のドロップアイテムで繁栄している街ではなく、侵食の森が広がるのを押さえるため、王国の南端側の防衛を目的として建設された街なんだったっけ?

 侵食の森の扱いって、スポットや竜王のカタコンベと比べるとかなり異質に感じるな。


「それに、侵食の森と言いましたね? 外ではここを侵食の森と呼ぶのですか?」

「ああ、外ではこの森は侵食の森って呼んで、危険な場所だと認識されてるよ。魔人族……、ディロームの人たちの認識は違うって事でいいのかな?」

「当然でしょう! 世界の再生と循環を司る聖域を侵食の森などと……! 外に行ったバロールの者たちは、いったい何をしているのか……!」

「外に行った者たち……?」


 なんかヴァルゴが1人で怒ってるけど、バロールってのはきっとこの森を出た魔人族の事なんだろうな。

 でもなぁ……?


「ヴァルゴ。森の外、スペルド王国って言うんだけどさ。スペルド王国に魔人族って殆どいないらしいよ?」

「はぁっ!? そ、そんなはずは……!? バロールの者たちが、知られていないですって……!?」」

「勿論、俺が知らないだけの可能性はあるけど……。バロールの人たちってどこに向かったのかな?」


 まぁスペルド王国では、森の反対側って観測されてないらしいからね。

 もしかしたらスペルド王国の無い場所で活動してる可能性はあるんじゃないの?


 だけどヴァルゴは首を振って、俺の疑問を否定する。


「バロールの者たちは、そのスペルド王国に向かったはずなのですよ。かつてガルクーザを共に滅ぼした盟友である、スペルド王国に向かったはずなんです……!」


 自分と俺の認識の食い違いに慄くヴァルゴ。


 ……やっべぇ。単独行動した途端にこれだよ。

 呼び水の鏡、魔人族、聖域の樹海と侵食の森の食い違い、消息の分からないバロールの人たち。


 せっかくニーナの問題が解決したと思ったらさぁ。次から次へとなんなのこれぇ?

 何がタチ悪いって、なんとなくスルーしたらやばそうな気がすることなんだよなぁ……!
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