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4章 マグエルの外へ2 新たな始まり、新たな出会い
240 呼び水 (改)
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ターニアさんを助けることが出来た事で、ニーナがターニアさんにベッタリになってしまった。
そこで、ターニアさんと少しでも一緒にいたいニーナの気持ちを尊重して、登城までの間、みんなそれぞれ別行動を取る事にした。
ターニアさんは俺と一緒に行動しても気にしないと言ってくれているけど、ターニアさんとはあまり良い関係を築いてこれなかったと後悔しているニーナが、まずは母娘の時間をやり直したがったのだ。
ターニアさんもニーナとの関係を修復するのは大歓迎ということで、数日間は親子水入らずで過ごしてもらう。夜は帰ってくるけどね。
「ふふ。段々インベントリが大きくなるのって楽しいね。成長してるのが感じられるって言うか」
「分かるーっ! 私は始め戦えなかったけど、インベントリのおかげでダンの役に立てたから、インベントリが広がる度にすっごく嬉しくなったんだよっ」
談笑するニーナとターニアさんの姿を見ると、溝なんて一切感じられないなぁ。
ニーナとターニアさんは2人でスポットに潜って、ターニアさんの職業浸透を進めつつ、稼いだお金でターニアさんの装備を整えようと頑張っているみたいだ。
まだ日帰りできる範囲でしか戦っていないけれど、2人とももう解呪されているので、かなり深い場所で戦っているらしい。
「戦力的には何の問題も無いけど……。ダンもニーナちゃんもいないのはやっぱりちょっと寂しいわねぇ」
ため息混じりに俺に抱き付いてくるティムル。
自由行動中のティムル、フラッタ、リーチェの3人は一緒に行動していて、3人パーティの状態でスポット最深部に赴き職業浸透を進めている。
「勿論寂しいのもあるが、魔物狩りの効率も著しく下がってしまっておるのじゃ。普段ダンとニーナにどれほど甘えていたのかと痛感してしまうのう」
俺もニーナも、もっともっとフラッタに刃甘えて欲しいと思ってるけどねー。よしよしなでなで。
魔物察知が無い為なのか、どうやら1度もアウターエフェクトは発生していないらしい。
竜王のカタコンベで乱獲しちゃったので感覚が狂ったけど、アウターエフェクトって本来は討伐以前に遭遇することが難しい魔物なんだよなぁ。
「ダンが頼りになるのは嬉しいんだけど、ダンの力になれないのは悔しいんだよね。竜王戦ではあまり良いところを見せられなかったからさ……!」
悔しそうにしているリーチェを抱きしめて、おっぱいの感触を堪能しながら何度もキスを繰り返す。
アウターエフェクトと遭遇したことが無いとか、イントルーダーである竜王を見た時のあの狼狽っぷりとか、リーチェに対する疑問と疑念みたいなものが膨らみつつはある。
リーチェの実力は疑っていないけれど、それでも建国の英雄譚で語られる姿と実際のリーチェは少し乖離しているように感じられた。
お前の事情ってなんなんだリーチェ? イントルーダーを滅ぼした俺でも解決してやれないのか?
ついついそんな風に問いかけてしまいたくなるけれど、俺のキスで蕩けた表情を見せてくれるリーチェに水を差したくないので、雑念を振り払ってリーチェとのキスに集中した。
……どっちが雑念なんですかねぇ?
それぞれが別行動をしていると言っても、今後の予定は大雑把には決めてある。
まず登城に関してだけど、登城日の当日にスペルディアに行くのは暢気過ぎるので、前日の日中からルーナ家所有の屋敷に向かい、衣装や礼儀等のチェックを行う予定だ。
謁見時の衣装に関しては、俺たちは魔物狩りなので装備品そのままで大丈夫らしい。
今回は半分非公式な謁見扱いみたいだし、パーティに出席するわけじゃないしな。
報告の内容の方が重要であるということで、謁見のほうは簡素に済ませる方針だそうだ。それならいっそ中止してくれてもいいんだよ?
ちなみに、礼節は俺とニーナ以外は問題無い。
ニーナは今ターニアさんに最低限の授業を受けているし、そもそも発言の予定は無いのであまり心配は要らないそうだ。
つまり謁見の時に1番不安なのはやっぱり俺だということになる。くっそー。
そうそう。奴隷解放からバタバタしていたせいで気付かなかったけど、いつの間にか新しい職業を得ていたんだよ。
この職業を得たタイミングは恐らく、ニーナとティムルを奴隷解放した時だったんじゃないかなぁ。
奴隷商人LV1
補正 魔力上昇- 幸運上昇-
スキル 従属魔法
従属魔法。これ引っかかるフレーズなんだよなぁ。
LV1の時点では人間同士の奴隷契約を行使することが出来るようだけど……。これが発展して、使役だったり召喚魔法になったりしないか?
ニーナとティムルの奴隷解放も済んだ今、従属魔法になんて興味は無いんだけど……。
スキルの確認や上位職の存在を確認する為にも、奴隷商人ルートの浸透も進めなきゃダメそうだ。
みんながそれぞれやりたいように行動する中、俺は単独行動でステイルークに行き、フロイさんに話を聞いてみることにした。
開拓村の跡地や、侵食の森の防衛がどうなってるのか気になったからね。
拡張するアウター侵食の森。
そして俺がこの世界に降り立った場所である開拓村跡地。
なんだか開拓村近辺って少し異質な感じがして、前から気になっていたんだよね。なのでせっかく別行動が許されたのだから、この機会に調査してみることにしたのだ。
「おう、ダンじゃねぇか。流石冒険者、気軽に訪ねてくるねぇ」
ステイルーク警備隊は基本的に暇なのか、アポ無し訪問にも直ぐに応対してくれるフロイさん。
ってフロイさん。ちゃっかり騎士になっているじゃないのぉ。
「今日は開拓村のことを聞きたくってね。俺とニーナにも無関係じゃ無いし、あの後どうなったのかなってさ」
「……開拓村の再建の目処は立ってねぇ。人も物も失われすぎたからなぁ」
フロイさんはあの時の惨劇を思い出したのか、少し遠い目をしている。
開拓村、なんて呼ばれ方をしているから勘違いしていたけど、俺が初めてこの地に降り立った広場のような場所まで整備されている辺り、思ったよりもずっと大きな村だったみたいなんだよな。
壊滅する前の村を見ていないから又聞きによるイメージでしかないんだけれど、下手すりゃステイーダと同等以上の規模のコミュニティだったっぽいんだよ。
マグエルやヴァルハールを見れば分かる通り、アウターの周辺都市というのは基本的に栄えるのだ。ステイルークよりも侵食の森に近かった開拓村は、想像以上に多くの人で賑っていたのかもしれない。
あの時失われた命は、下手をすれば数千人規模だったのかもなぁ……。
「開拓村はあれ以来手付かずで、人の往来もほぼ無ぇはずだ。だから恐らく、侵食の森は少し広がっちまってることだろうよ。1年2年でなにが変わるもんでもねぇと思うがな」
「……そっか。なら自分で確かめてみるよ。ありがとね」
「おう。今のダンなら心配いらねぇと思うが、侵食の森も近いし気をつけていってこい」
一応勤務中のフロイさんをこれ以上付き合わせるわけにはいかないので、開拓村の方角だけ確認して警備隊の詰め所を出る。
バイバイと手を振る俺に、今度はお前が奢れよと手を振り返してくれるフロイさん。
フロイさんには大分お世話になってるし、食事くらいいつでも振舞いますってば。
「ん~……。これは歩いていくしかないかぁ……」
ポータルで開拓村に飛んでみようと思ったけど、飛ぶことは出来なかった。
きっと俺の記憶と今のあの場所は、大きく変わっちゃってるんだろうな。
「さてと。ポータルも使えないし、さっさと行きますかあ」
随時察知スキルを発動しながら、開拓村跡地まで一気に駆け抜ける。
かなりゆっくり移動した救助隊の馬車でも2日間しかかからなかったんだ。今の俺の足なら1時間もかからないだろ。
開拓村が壊滅してからは殆ど人の行き来は無いと言っていたからな。多少本気めに走っても問題ないはず。
1人の時間が欲しい! なんて思っていたわけじゃないけれど、いざ1人で行動してみると結構気楽で楽しいな。
1人の時間とかと言っても、朝晩はみんなと合流して接続して注入してるんだけどね。みんながいない生活なんてもう考えられないから。
「当時は気にしてる余裕は無かったけど、これはこれは……」
走り出して数分で、フロイさんが迷う心配は無いぞって言ってた意味が分かった。
まだかなり距離がありそうなのに、もう黒々とした森が見えてきたのだ。
山のように大きな大木が数え切れないほど立っていて、その周りにもまた森が広がっているようだ。どのくらいの規模の森なのか、遠目で見てもイメージが全く湧かない。
フロイさん曰く、森の反対側がどうなっているのかは記録に残っていないそうだ。
なんで確認されてないんだろうね? アナザーポータルがあれば反対側に行ける気がするんだけどなぁ。
誰もいないことをいい事に全力で走ったら、ステイルークを出て15分ほどで、無事に開拓村跡地に到着することが出来た。
「……変わってないな。あの時のままだ」
フレイムロードから逃げた後、村に戻っていく騎士の背中と一緒に見た、壊滅した村の姿。
1年ぶりに見た今の開拓村も、あの時見た光景と殆ど変わりがないように思えた。
開拓村再建の目処は立ってないって言ってたし、完全に放置の状態かぁ。
でもそれなら何でポータルが使えなかったんだろ? 村の内部は見た目以上に損壊が進んじゃっているんだろうか?
無人の村跡に足を踏み入れ、おぼろげな記憶だけを頼りに、俺が初めてこの地に降り立った広場を探す。
今改めて見直すと、フレイムサークルの痕跡って残ってないんだな。火柱が凄い勢いで地面から立ち昇るのに、地面にその痕跡が全く無い。
あるのは建物の残骸くらいで、本当に人が住んでいたのかすら分からなくなってくる。
……って、建物が燃えてるってことは、魔物が使う攻撃魔法って建物なんかにも影響を及ぼせるのか。人間が使う攻撃魔法とは少し仕様が違うみたいだ。
村の中を数分歩いて、フレイムロードと遭遇したあの時の広場を無事見つけることが出来た。
「……ここだ。間違いなくここだ」
炎の赤も血の赤も残ってないけれど、ここは間違いなくあの地獄の中心だった場所だ。
今更ここに来て何があるわけでもないんだけれど、アウターエフェクトを殺せるようになった今、なんとなくもう1度この地を訪れてみたかったんだ。
「……ん? なんだ、これ?」
しかし何の気なしに広場に足を踏み入れると、なんとなく違和感を覚えた。
この違和感……。まるでスポットに足を踏み入れたような……。
首を捻りながら広場から出るとその感覚は無くなり、広場に入ると違和感が発生する。
これじゃ完全にアウターの外壁を通過した時と同じじゃないか。アウターの外壁みたいに視覚的に何かがあるわけじゃないんだけど……。
「虚ろな経路。点と線。見えざる流れ。空と実。求めし彼方へ繋いで到れ。ポータル」
アウターという言葉に思い当たって、すぐにポータルを詠唱する、がやはり発動しない。
屋内でもないのにポータルの転移口が出現しない。魔法自体が発動しているのは感覚的に分かるのに……?
「虚ろな経路。点と線。偽りの庭。妖しの箱。穿ちて抜けよ。アナザーポータル」
ならばとアナザーポータルを使用すると、目の前に転移空間が現れた。
ポータルが使用できずに、アナザーポータルが発動する空間。
つまり開拓村がアウターになっている……? って、どういうことだこれ……?
「こらはつまり……。どういうことだってばよ???」
侵食の森の影響を受けてアウター化してるのか?
でも侵食の森って、確か侵食を押さえ込むために森を伐採してるって話だったような……。
それって、森じゃない部分はアウターじゃないってことじゃなかったのか?
「……は?」
その時、殆ど習慣で発動している魔物察知が反応を捉える。
どうやら人型くらいの大きさの魔物が2体、真っ直ぐにこっちに向かって来ているようだ。
なんだここ。マジでアウター化してんの? なにが起こってんの?
というか、この事実に誰か気付いてるの……?
そしてこっちに近づいてきた魔物を見て、俺の思考がまた一瞬停止する。
「……………………は?」
なんで、お前らがここにいるわけぇ……?
ほとんど無意識に鑑定する。
ドレッドデーモン
サンダーロード
ヴァルハールで乱獲したおかげで恐怖感は一切感じられないけど、あまりの唐突な登場に思考が追いつかない。
そもそも、1体ずつしか出現しないはずのアウターエフェクトが、なんで2体同時に襲ってくるのさ?
頭は混乱しながらも体は既に臨戦態勢を取り、災厄のデーモンスピアを取り出しながら連続詠唱を開始する。
「其は悠久の狭間に囚われし、真理と聖賢を司る者。無間の回廊開きし鍵は、無限の覚悟と夢幻の魂。神威の扉解き放ち、今轟くは摂理の衝撃。クルセイドロア」
槍を構えて突撃しながら、間断なくクルセイドロアを放ち続ける。
コイツらに一瞬でも攻撃の隙を与える気は無い。
クルセイドロアを放ち続けながらも距離を詰め、災厄のデーモンスピアをドレッドデーモンに突き刺そうとした瞬間、2体が同時に吹き飛んでいった。
……その後、魔物察知には反応が無い。
他の魔物が襲ってくる気配は無さそうだ。
アウターエフェクトを殺すのに、クルセイドロア13連発か。恐らく聖属性弱点特効の分で、インパクトノヴァよりもダメージが多いんだろうね。
なんにしても、これでアウターエフェクトが同時に100体同時に出てこようがクルセイドロアで対処できそうだ。
「さぁて……。分かっちゃいたけど、ドロップアイテムがいつまで経っても出てこないねぇ……」
だろうなぁと思いつつも自分を鑑定すると、職業の浸透も進んでいない。
つまり今の2体は、ヴァルハールで出てきたマインドロードと同じ。人の意思で操られてるアウターエフェクトだったということだ。
「うえぇ……。なんかめっちゃキナ臭くなってきたんすけどぉ?」
人の意思の介在しているアウターエフェクトが出現した意味を考えて、無人の広場で思わず頭を抱えてしまう。
フレイムロードによる開拓村壊滅も、やっぱり人為的に引き起こされたことだった?
でも俺が馬車に乗っている間にフレイムロードは討伐されたと言っていたはず。討伐してもドロップアイテムが出なかったら不審に思われるんじゃ……?
……いや、考えてみれば鑑定で職業浸透が確認できる俺以外には、自然発生した魔物かどうかなんて判断が出来ないのか。
何故かドロップアイテムが出なかったなぁ? くらいで終わるかもしれない。
断魔の煌きと接触できれば、ドロップアイテムがあったかを確認できるんだけど……。
「いやいや待て待て……。今考えるべきはそっちじゃないって……」
頭を振って思考を修正する。
今考えるべきは、開拓村の襲撃が誰かが意図したことであり、壊滅した開拓村の跡地がアウター化していて、そこをアウターエフェクト2体も投じて防衛していたという点だ。
開拓村が壊滅したあと、ここでいったい何が行なわれているっていうんだ?
単純に投入された戦力だけで考えれば、敵にとってはヴァルハールよりもここの重要度の方が高かった可能性もある。
ヴァルハールではラトリアを頭数に入れていた可能姓も否定出来ないけど。
「あ、そうだよ。ヴァルハールと言えば……」
ヴァルハールを思い出した事で思い至った。
このアウター化。もしかしてサンクチュアリで妨害できたりするのか?
思いついたら即行動だ。広場の入り口、つまりアウター化が始まっている場所から、念入りにサンクチュアリを設置していく。
魔力自動回復が2つ乗っかってる俺は、村を覆うくらいのサンクチュアリが発動できてもおかしくないはず。隙間なく、でもなるべく無駄も出ないように開拓村跡地を浄化していく。
毎晩みんなを執拗に愛しているから、粘着質な責め方は得意だぞぉ?
これで何の効果も無かったら笑えますねぇ、はっはっは。
「おっ……? これはヴァルハールでは無かった反応だな?」
恐らく100近くのサンクチュアリを設置して、自分の魔力の総量と自然回復量にどん引きし始めた時、設置したサンクチュアリの効果に反発してくる場所を発見した。
そんな場所に生身で入るのは嫌だから、サンクチュアリを追加して反発を押し切っていく。
スマンね。俺の魔力、まだまだ尽きないみたいなんで。
「……なんだ、あれ?」
サンクチュアリのごり押しで進んでいくと、石材で出来た腰の高さくらいの台座があって、その上に置かれた平たい何かから、黒っぽい空間の揺らぎが発生しているようだった。
あれが開拓村跡地のアウター化を引き起こしてんの? 鑑定できたりする?
呼び水の鏡
「おおう、鑑定できるじゃーん」
ということはドロップアイテムかマジックアイテムって事で、インベントリに収納できちゃうってことですよねー?
多重サンクチュアリの中に入っても割れたりしなかったので、邪悪なものとかそういう括りじゃないのかもしれない。
呼び水の鏡は円形で平べったい鏡だった。
取っ手などは無くて、鏡としてはまぁまぁ大きいかな? 少なくとも、直系30センチメートルくらいはありそうだ。
恐る恐るつっついてみても、バチィッ! とか弾かれることもなく普通に触れる。
それじゃ証拠品はインベントリに仕舞っちゃいましょうねぇ~。回収っと。
「さて……。これで何か変化は……っと」
呼び水の鏡を回収したあと、改めて周囲の様子を確認する。
けど、そこらじゅうにサンクチュアリをばら撒いたから、アウター化が止まったのかどうか分かりにくいなぁ。
呼び水の鏡がアウター化の中心に設置されていたとするなら、サンクチュアリの外に出れば感覚の違いに気付けるかなぁ?
ってそうだ。最初みたいに移動魔法使えばいいだけか。
試した結果、アナザーポータルは発動しなくなって、ポータルの方が使用可能になっていた。
うん。どんな意図があったのかは知らないけど、アウター化を阻止してしまったぜ。
「……えーっと、アウター化を未然に防げたのはいいとして……」
マジックアイテムの設置。アウターエフェクトによる防衛。
開拓村跡地のアウター化が人為的に行われているのは間違いない。そしてそれを阻止した俺の行動が、相手にとって面白くないものだったことも間違いないだろう。
もし俺が適の立場だったら、異変に気付いたら大急ぎでここに向かうかな? ポータルが使えれば一瞬だし。
だけど、少なくともアウターエフェクト2体を倒した相手がいる場所に、無策で突っ込んでくるかな? この状況でこの場所に来るってのは、今回のアウター化に関わっていると自白するのも同じだし。
相手が待ち伏せしている可能性も考慮すると……、現れない気がするなぁ。
「分からないことだらけだけど……。さっさとここを離れるべきかな」
俺がアウターエフェクト数体を相手取れることも、呼び水の鏡を回収したことも、誰にも知られないほうがいい気がするよ。
面倒事にはなるべく首を突っ込みたくないけど、ここまでしちゃった俺が敵に意識されないのは無理だろうしな。
今回の騒動がどんな影響を及ぼすかは分からないけれど、少なくとも竜爵家を襲った相手にひと泡吹かせてやれたと思う。今はこれ以上深入りはするまい。
気配察知スキルには反応無いけど、俺自身が気配遮断使えるもんなぁ。どこかに敵が潜んでいる可能性は否定出来ない。
って、今更思い出したように気配遮だーん!
もう姿を見られてたら手遅れだけど、それでも一応は使っておくべきでしょうよ。
気配遮断を使用したまま侵食の森に突っ込んで、気配遮断したまま10分程度走り続けてみたけど、特になんのリアクションも感じられない。
どうやら尾行の類いは無さそうだ。
「……ふぅ。いったいなんだったんだよあれは」
俺、物凄い軽い気持ちでここに来たのに、いったい何に巻き込まれたわけぇ?
思い返せばターニアさんを見つけたのも偶然だったし、呼び水の鏡を回収したのも偶然だったし、なんなんだよステイルーク周辺は。物騒すぎるだろ。
「敵からはなんのリアクションも無いけど……。流石に開拓村跡地に戻るのは避けておくか……」
魔物察知を使用して近場の魔物を狩りながら、侵食の森の奥へ奥へと進んでいく。
初めて見る魔物も多いけど、災厄のデーモンスピアなら殆ど全部1撃で倒せてしまう。火力って大事ね。
今回の単独行動の本来の目的は、侵食の森で1人でどの程度戦えるのかを確かめながら、槍術の訓練と職業浸透を進めることだったんだよなぁ。
それがなんか敵さんが設置したと思われる重要施設を、完全に偶然だったけど1個潰してしまったよ。
俺が敵さんだったら今頃激怒してるわ。絶対会わないようにしよう。
照明魔法とMAP魔法を発動して、更に奥へと進んでいく。
「ひと口にアウターと言っても、色々な場所があるもんだ」
侵食の森に実際に入ってみると、ここが異質なアウターだってのがよく分かる。
スポットや竜王のカタコンベのようなアウターの内側と外側の明確な境界線が無く、森の途中からいつの間にかアウターに切り替わる感じだ。
スポットみたいに視界も確保されていなくて、鬱蒼とした木々に遮られて光が当たらず、アウター内は真っ暗だ。探索魔法を使えなかったら、進軍することも出来やしないね。
「っと、もうこんな時間か。ちょっと夢中になりすぎたかな」
察知スキルに引っかかった魔物を殺しながら進んでいくと、もうすぐ帰宅する時間帯になっている事に気付いた。
ここは真っ暗で時間が分かりにくいなぁ。タイムウォッチを持ってないと、時間感覚も狂っちゃうよ。
しかし戦闘しながらとは言え、俺の速度で丸1日走り続けても最深部にすら辿り着けないとはね……。
出来れば単独行動中に最深部くらいまでは確認したかったけど、これは無理そうかなぁ?
「――――っ!?」
さて帰ろうかなぁと思ったタイミングで、またもや察知スキルに反応があった。
「なんなんだよぉ。次から次へとさぁ……」
今日このパターンばっかりだけど、それでもやっぱり慣れはしないなぁ。
なんでこんなにアウターの奥深くまで来たのに、生体察知に反応があるのぉ?
どうやら相手は俺に視認されないような距離を保ちながら、ゆっくりと俺を包囲しているようだ。その数は優に100人を超えているね。
なんでこんな奥地に、人間っぽい反応がこんなにあるわけぇ?
俺が足を止めた事で、包囲は一気に進んでいく。
それに合わせて正面から1つ、俺にゆっくりと近づいてくる反応があるな。代表者か?
暫く待って俺の目の前に姿を現したのは、紫の肌をして長い黒髪をポニーテールにまとめている、長い槍を持った絶世の美女だった。
暗い森の中、彼女の美貌と気だるげな灰色の瞳だけが強く浮かび上がっていた。
そこで、ターニアさんと少しでも一緒にいたいニーナの気持ちを尊重して、登城までの間、みんなそれぞれ別行動を取る事にした。
ターニアさんは俺と一緒に行動しても気にしないと言ってくれているけど、ターニアさんとはあまり良い関係を築いてこれなかったと後悔しているニーナが、まずは母娘の時間をやり直したがったのだ。
ターニアさんもニーナとの関係を修復するのは大歓迎ということで、数日間は親子水入らずで過ごしてもらう。夜は帰ってくるけどね。
「ふふ。段々インベントリが大きくなるのって楽しいね。成長してるのが感じられるって言うか」
「分かるーっ! 私は始め戦えなかったけど、インベントリのおかげでダンの役に立てたから、インベントリが広がる度にすっごく嬉しくなったんだよっ」
談笑するニーナとターニアさんの姿を見ると、溝なんて一切感じられないなぁ。
ニーナとターニアさんは2人でスポットに潜って、ターニアさんの職業浸透を進めつつ、稼いだお金でターニアさんの装備を整えようと頑張っているみたいだ。
まだ日帰りできる範囲でしか戦っていないけれど、2人とももう解呪されているので、かなり深い場所で戦っているらしい。
「戦力的には何の問題も無いけど……。ダンもニーナちゃんもいないのはやっぱりちょっと寂しいわねぇ」
ため息混じりに俺に抱き付いてくるティムル。
自由行動中のティムル、フラッタ、リーチェの3人は一緒に行動していて、3人パーティの状態でスポット最深部に赴き職業浸透を進めている。
「勿論寂しいのもあるが、魔物狩りの効率も著しく下がってしまっておるのじゃ。普段ダンとニーナにどれほど甘えていたのかと痛感してしまうのう」
俺もニーナも、もっともっとフラッタに刃甘えて欲しいと思ってるけどねー。よしよしなでなで。
魔物察知が無い為なのか、どうやら1度もアウターエフェクトは発生していないらしい。
竜王のカタコンベで乱獲しちゃったので感覚が狂ったけど、アウターエフェクトって本来は討伐以前に遭遇することが難しい魔物なんだよなぁ。
「ダンが頼りになるのは嬉しいんだけど、ダンの力になれないのは悔しいんだよね。竜王戦ではあまり良いところを見せられなかったからさ……!」
悔しそうにしているリーチェを抱きしめて、おっぱいの感触を堪能しながら何度もキスを繰り返す。
アウターエフェクトと遭遇したことが無いとか、イントルーダーである竜王を見た時のあの狼狽っぷりとか、リーチェに対する疑問と疑念みたいなものが膨らみつつはある。
リーチェの実力は疑っていないけれど、それでも建国の英雄譚で語られる姿と実際のリーチェは少し乖離しているように感じられた。
お前の事情ってなんなんだリーチェ? イントルーダーを滅ぼした俺でも解決してやれないのか?
ついついそんな風に問いかけてしまいたくなるけれど、俺のキスで蕩けた表情を見せてくれるリーチェに水を差したくないので、雑念を振り払ってリーチェとのキスに集中した。
……どっちが雑念なんですかねぇ?
それぞれが別行動をしていると言っても、今後の予定は大雑把には決めてある。
まず登城に関してだけど、登城日の当日にスペルディアに行くのは暢気過ぎるので、前日の日中からルーナ家所有の屋敷に向かい、衣装や礼儀等のチェックを行う予定だ。
謁見時の衣装に関しては、俺たちは魔物狩りなので装備品そのままで大丈夫らしい。
今回は半分非公式な謁見扱いみたいだし、パーティに出席するわけじゃないしな。
報告の内容の方が重要であるということで、謁見のほうは簡素に済ませる方針だそうだ。それならいっそ中止してくれてもいいんだよ?
ちなみに、礼節は俺とニーナ以外は問題無い。
ニーナは今ターニアさんに最低限の授業を受けているし、そもそも発言の予定は無いのであまり心配は要らないそうだ。
つまり謁見の時に1番不安なのはやっぱり俺だということになる。くっそー。
そうそう。奴隷解放からバタバタしていたせいで気付かなかったけど、いつの間にか新しい職業を得ていたんだよ。
この職業を得たタイミングは恐らく、ニーナとティムルを奴隷解放した時だったんじゃないかなぁ。
奴隷商人LV1
補正 魔力上昇- 幸運上昇-
スキル 従属魔法
従属魔法。これ引っかかるフレーズなんだよなぁ。
LV1の時点では人間同士の奴隷契約を行使することが出来るようだけど……。これが発展して、使役だったり召喚魔法になったりしないか?
ニーナとティムルの奴隷解放も済んだ今、従属魔法になんて興味は無いんだけど……。
スキルの確認や上位職の存在を確認する為にも、奴隷商人ルートの浸透も進めなきゃダメそうだ。
みんながそれぞれやりたいように行動する中、俺は単独行動でステイルークに行き、フロイさんに話を聞いてみることにした。
開拓村の跡地や、侵食の森の防衛がどうなってるのか気になったからね。
拡張するアウター侵食の森。
そして俺がこの世界に降り立った場所である開拓村跡地。
なんだか開拓村近辺って少し異質な感じがして、前から気になっていたんだよね。なのでせっかく別行動が許されたのだから、この機会に調査してみることにしたのだ。
「おう、ダンじゃねぇか。流石冒険者、気軽に訪ねてくるねぇ」
ステイルーク警備隊は基本的に暇なのか、アポ無し訪問にも直ぐに応対してくれるフロイさん。
ってフロイさん。ちゃっかり騎士になっているじゃないのぉ。
「今日は開拓村のことを聞きたくってね。俺とニーナにも無関係じゃ無いし、あの後どうなったのかなってさ」
「……開拓村の再建の目処は立ってねぇ。人も物も失われすぎたからなぁ」
フロイさんはあの時の惨劇を思い出したのか、少し遠い目をしている。
開拓村、なんて呼ばれ方をしているから勘違いしていたけど、俺が初めてこの地に降り立った広場のような場所まで整備されている辺り、思ったよりもずっと大きな村だったみたいなんだよな。
壊滅する前の村を見ていないから又聞きによるイメージでしかないんだけれど、下手すりゃステイーダと同等以上の規模のコミュニティだったっぽいんだよ。
マグエルやヴァルハールを見れば分かる通り、アウターの周辺都市というのは基本的に栄えるのだ。ステイルークよりも侵食の森に近かった開拓村は、想像以上に多くの人で賑っていたのかもしれない。
あの時失われた命は、下手をすれば数千人規模だったのかもなぁ……。
「開拓村はあれ以来手付かずで、人の往来もほぼ無ぇはずだ。だから恐らく、侵食の森は少し広がっちまってることだろうよ。1年2年でなにが変わるもんでもねぇと思うがな」
「……そっか。なら自分で確かめてみるよ。ありがとね」
「おう。今のダンなら心配いらねぇと思うが、侵食の森も近いし気をつけていってこい」
一応勤務中のフロイさんをこれ以上付き合わせるわけにはいかないので、開拓村の方角だけ確認して警備隊の詰め所を出る。
バイバイと手を振る俺に、今度はお前が奢れよと手を振り返してくれるフロイさん。
フロイさんには大分お世話になってるし、食事くらいいつでも振舞いますってば。
「ん~……。これは歩いていくしかないかぁ……」
ポータルで開拓村に飛んでみようと思ったけど、飛ぶことは出来なかった。
きっと俺の記憶と今のあの場所は、大きく変わっちゃってるんだろうな。
「さてと。ポータルも使えないし、さっさと行きますかあ」
随時察知スキルを発動しながら、開拓村跡地まで一気に駆け抜ける。
かなりゆっくり移動した救助隊の馬車でも2日間しかかからなかったんだ。今の俺の足なら1時間もかからないだろ。
開拓村が壊滅してからは殆ど人の行き来は無いと言っていたからな。多少本気めに走っても問題ないはず。
1人の時間が欲しい! なんて思っていたわけじゃないけれど、いざ1人で行動してみると結構気楽で楽しいな。
1人の時間とかと言っても、朝晩はみんなと合流して接続して注入してるんだけどね。みんながいない生活なんてもう考えられないから。
「当時は気にしてる余裕は無かったけど、これはこれは……」
走り出して数分で、フロイさんが迷う心配は無いぞって言ってた意味が分かった。
まだかなり距離がありそうなのに、もう黒々とした森が見えてきたのだ。
山のように大きな大木が数え切れないほど立っていて、その周りにもまた森が広がっているようだ。どのくらいの規模の森なのか、遠目で見てもイメージが全く湧かない。
フロイさん曰く、森の反対側がどうなっているのかは記録に残っていないそうだ。
なんで確認されてないんだろうね? アナザーポータルがあれば反対側に行ける気がするんだけどなぁ。
誰もいないことをいい事に全力で走ったら、ステイルークを出て15分ほどで、無事に開拓村跡地に到着することが出来た。
「……変わってないな。あの時のままだ」
フレイムロードから逃げた後、村に戻っていく騎士の背中と一緒に見た、壊滅した村の姿。
1年ぶりに見た今の開拓村も、あの時見た光景と殆ど変わりがないように思えた。
開拓村再建の目処は立ってないって言ってたし、完全に放置の状態かぁ。
でもそれなら何でポータルが使えなかったんだろ? 村の内部は見た目以上に損壊が進んじゃっているんだろうか?
無人の村跡に足を踏み入れ、おぼろげな記憶だけを頼りに、俺が初めてこの地に降り立った広場を探す。
今改めて見直すと、フレイムサークルの痕跡って残ってないんだな。火柱が凄い勢いで地面から立ち昇るのに、地面にその痕跡が全く無い。
あるのは建物の残骸くらいで、本当に人が住んでいたのかすら分からなくなってくる。
……って、建物が燃えてるってことは、魔物が使う攻撃魔法って建物なんかにも影響を及ぼせるのか。人間が使う攻撃魔法とは少し仕様が違うみたいだ。
村の中を数分歩いて、フレイムロードと遭遇したあの時の広場を無事見つけることが出来た。
「……ここだ。間違いなくここだ」
炎の赤も血の赤も残ってないけれど、ここは間違いなくあの地獄の中心だった場所だ。
今更ここに来て何があるわけでもないんだけれど、アウターエフェクトを殺せるようになった今、なんとなくもう1度この地を訪れてみたかったんだ。
「……ん? なんだ、これ?」
しかし何の気なしに広場に足を踏み入れると、なんとなく違和感を覚えた。
この違和感……。まるでスポットに足を踏み入れたような……。
首を捻りながら広場から出るとその感覚は無くなり、広場に入ると違和感が発生する。
これじゃ完全にアウターの外壁を通過した時と同じじゃないか。アウターの外壁みたいに視覚的に何かがあるわけじゃないんだけど……。
「虚ろな経路。点と線。見えざる流れ。空と実。求めし彼方へ繋いで到れ。ポータル」
アウターという言葉に思い当たって、すぐにポータルを詠唱する、がやはり発動しない。
屋内でもないのにポータルの転移口が出現しない。魔法自体が発動しているのは感覚的に分かるのに……?
「虚ろな経路。点と線。偽りの庭。妖しの箱。穿ちて抜けよ。アナザーポータル」
ならばとアナザーポータルを使用すると、目の前に転移空間が現れた。
ポータルが使用できずに、アナザーポータルが発動する空間。
つまり開拓村がアウターになっている……? って、どういうことだこれ……?
「こらはつまり……。どういうことだってばよ???」
侵食の森の影響を受けてアウター化してるのか?
でも侵食の森って、確か侵食を押さえ込むために森を伐採してるって話だったような……。
それって、森じゃない部分はアウターじゃないってことじゃなかったのか?
「……は?」
その時、殆ど習慣で発動している魔物察知が反応を捉える。
どうやら人型くらいの大きさの魔物が2体、真っ直ぐにこっちに向かって来ているようだ。
なんだここ。マジでアウター化してんの? なにが起こってんの?
というか、この事実に誰か気付いてるの……?
そしてこっちに近づいてきた魔物を見て、俺の思考がまた一瞬停止する。
「……………………は?」
なんで、お前らがここにいるわけぇ……?
ほとんど無意識に鑑定する。
ドレッドデーモン
サンダーロード
ヴァルハールで乱獲したおかげで恐怖感は一切感じられないけど、あまりの唐突な登場に思考が追いつかない。
そもそも、1体ずつしか出現しないはずのアウターエフェクトが、なんで2体同時に襲ってくるのさ?
頭は混乱しながらも体は既に臨戦態勢を取り、災厄のデーモンスピアを取り出しながら連続詠唱を開始する。
「其は悠久の狭間に囚われし、真理と聖賢を司る者。無間の回廊開きし鍵は、無限の覚悟と夢幻の魂。神威の扉解き放ち、今轟くは摂理の衝撃。クルセイドロア」
槍を構えて突撃しながら、間断なくクルセイドロアを放ち続ける。
コイツらに一瞬でも攻撃の隙を与える気は無い。
クルセイドロアを放ち続けながらも距離を詰め、災厄のデーモンスピアをドレッドデーモンに突き刺そうとした瞬間、2体が同時に吹き飛んでいった。
……その後、魔物察知には反応が無い。
他の魔物が襲ってくる気配は無さそうだ。
アウターエフェクトを殺すのに、クルセイドロア13連発か。恐らく聖属性弱点特効の分で、インパクトノヴァよりもダメージが多いんだろうね。
なんにしても、これでアウターエフェクトが同時に100体同時に出てこようがクルセイドロアで対処できそうだ。
「さぁて……。分かっちゃいたけど、ドロップアイテムがいつまで経っても出てこないねぇ……」
だろうなぁと思いつつも自分を鑑定すると、職業の浸透も進んでいない。
つまり今の2体は、ヴァルハールで出てきたマインドロードと同じ。人の意思で操られてるアウターエフェクトだったということだ。
「うえぇ……。なんかめっちゃキナ臭くなってきたんすけどぉ?」
人の意思の介在しているアウターエフェクトが出現した意味を考えて、無人の広場で思わず頭を抱えてしまう。
フレイムロードによる開拓村壊滅も、やっぱり人為的に引き起こされたことだった?
でも俺が馬車に乗っている間にフレイムロードは討伐されたと言っていたはず。討伐してもドロップアイテムが出なかったら不審に思われるんじゃ……?
……いや、考えてみれば鑑定で職業浸透が確認できる俺以外には、自然発生した魔物かどうかなんて判断が出来ないのか。
何故かドロップアイテムが出なかったなぁ? くらいで終わるかもしれない。
断魔の煌きと接触できれば、ドロップアイテムがあったかを確認できるんだけど……。
「いやいや待て待て……。今考えるべきはそっちじゃないって……」
頭を振って思考を修正する。
今考えるべきは、開拓村の襲撃が誰かが意図したことであり、壊滅した開拓村の跡地がアウター化していて、そこをアウターエフェクト2体も投じて防衛していたという点だ。
開拓村が壊滅したあと、ここでいったい何が行なわれているっていうんだ?
単純に投入された戦力だけで考えれば、敵にとってはヴァルハールよりもここの重要度の方が高かった可能性もある。
ヴァルハールではラトリアを頭数に入れていた可能姓も否定出来ないけど。
「あ、そうだよ。ヴァルハールと言えば……」
ヴァルハールを思い出した事で思い至った。
このアウター化。もしかしてサンクチュアリで妨害できたりするのか?
思いついたら即行動だ。広場の入り口、つまりアウター化が始まっている場所から、念入りにサンクチュアリを設置していく。
魔力自動回復が2つ乗っかってる俺は、村を覆うくらいのサンクチュアリが発動できてもおかしくないはず。隙間なく、でもなるべく無駄も出ないように開拓村跡地を浄化していく。
毎晩みんなを執拗に愛しているから、粘着質な責め方は得意だぞぉ?
これで何の効果も無かったら笑えますねぇ、はっはっは。
「おっ……? これはヴァルハールでは無かった反応だな?」
恐らく100近くのサンクチュアリを設置して、自分の魔力の総量と自然回復量にどん引きし始めた時、設置したサンクチュアリの効果に反発してくる場所を発見した。
そんな場所に生身で入るのは嫌だから、サンクチュアリを追加して反発を押し切っていく。
スマンね。俺の魔力、まだまだ尽きないみたいなんで。
「……なんだ、あれ?」
サンクチュアリのごり押しで進んでいくと、石材で出来た腰の高さくらいの台座があって、その上に置かれた平たい何かから、黒っぽい空間の揺らぎが発生しているようだった。
あれが開拓村跡地のアウター化を引き起こしてんの? 鑑定できたりする?
呼び水の鏡
「おおう、鑑定できるじゃーん」
ということはドロップアイテムかマジックアイテムって事で、インベントリに収納できちゃうってことですよねー?
多重サンクチュアリの中に入っても割れたりしなかったので、邪悪なものとかそういう括りじゃないのかもしれない。
呼び水の鏡は円形で平べったい鏡だった。
取っ手などは無くて、鏡としてはまぁまぁ大きいかな? 少なくとも、直系30センチメートルくらいはありそうだ。
恐る恐るつっついてみても、バチィッ! とか弾かれることもなく普通に触れる。
それじゃ証拠品はインベントリに仕舞っちゃいましょうねぇ~。回収っと。
「さて……。これで何か変化は……っと」
呼び水の鏡を回収したあと、改めて周囲の様子を確認する。
けど、そこらじゅうにサンクチュアリをばら撒いたから、アウター化が止まったのかどうか分かりにくいなぁ。
呼び水の鏡がアウター化の中心に設置されていたとするなら、サンクチュアリの外に出れば感覚の違いに気付けるかなぁ?
ってそうだ。最初みたいに移動魔法使えばいいだけか。
試した結果、アナザーポータルは発動しなくなって、ポータルの方が使用可能になっていた。
うん。どんな意図があったのかは知らないけど、アウター化を阻止してしまったぜ。
「……えーっと、アウター化を未然に防げたのはいいとして……」
マジックアイテムの設置。アウターエフェクトによる防衛。
開拓村跡地のアウター化が人為的に行われているのは間違いない。そしてそれを阻止した俺の行動が、相手にとって面白くないものだったことも間違いないだろう。
もし俺が適の立場だったら、異変に気付いたら大急ぎでここに向かうかな? ポータルが使えれば一瞬だし。
だけど、少なくともアウターエフェクト2体を倒した相手がいる場所に、無策で突っ込んでくるかな? この状況でこの場所に来るってのは、今回のアウター化に関わっていると自白するのも同じだし。
相手が待ち伏せしている可能性も考慮すると……、現れない気がするなぁ。
「分からないことだらけだけど……。さっさとここを離れるべきかな」
俺がアウターエフェクト数体を相手取れることも、呼び水の鏡を回収したことも、誰にも知られないほうがいい気がするよ。
面倒事にはなるべく首を突っ込みたくないけど、ここまでしちゃった俺が敵に意識されないのは無理だろうしな。
今回の騒動がどんな影響を及ぼすかは分からないけれど、少なくとも竜爵家を襲った相手にひと泡吹かせてやれたと思う。今はこれ以上深入りはするまい。
気配察知スキルには反応無いけど、俺自身が気配遮断使えるもんなぁ。どこかに敵が潜んでいる可能性は否定出来ない。
って、今更思い出したように気配遮だーん!
もう姿を見られてたら手遅れだけど、それでも一応は使っておくべきでしょうよ。
気配遮断を使用したまま侵食の森に突っ込んで、気配遮断したまま10分程度走り続けてみたけど、特になんのリアクションも感じられない。
どうやら尾行の類いは無さそうだ。
「……ふぅ。いったいなんだったんだよあれは」
俺、物凄い軽い気持ちでここに来たのに、いったい何に巻き込まれたわけぇ?
思い返せばターニアさんを見つけたのも偶然だったし、呼び水の鏡を回収したのも偶然だったし、なんなんだよステイルーク周辺は。物騒すぎるだろ。
「敵からはなんのリアクションも無いけど……。流石に開拓村跡地に戻るのは避けておくか……」
魔物察知を使用して近場の魔物を狩りながら、侵食の森の奥へ奥へと進んでいく。
初めて見る魔物も多いけど、災厄のデーモンスピアなら殆ど全部1撃で倒せてしまう。火力って大事ね。
今回の単独行動の本来の目的は、侵食の森で1人でどの程度戦えるのかを確かめながら、槍術の訓練と職業浸透を進めることだったんだよなぁ。
それがなんか敵さんが設置したと思われる重要施設を、完全に偶然だったけど1個潰してしまったよ。
俺が敵さんだったら今頃激怒してるわ。絶対会わないようにしよう。
照明魔法とMAP魔法を発動して、更に奥へと進んでいく。
「ひと口にアウターと言っても、色々な場所があるもんだ」
侵食の森に実際に入ってみると、ここが異質なアウターだってのがよく分かる。
スポットや竜王のカタコンベのようなアウターの内側と外側の明確な境界線が無く、森の途中からいつの間にかアウターに切り替わる感じだ。
スポットみたいに視界も確保されていなくて、鬱蒼とした木々に遮られて光が当たらず、アウター内は真っ暗だ。探索魔法を使えなかったら、進軍することも出来やしないね。
「っと、もうこんな時間か。ちょっと夢中になりすぎたかな」
察知スキルに引っかかった魔物を殺しながら進んでいくと、もうすぐ帰宅する時間帯になっている事に気付いた。
ここは真っ暗で時間が分かりにくいなぁ。タイムウォッチを持ってないと、時間感覚も狂っちゃうよ。
しかし戦闘しながらとは言え、俺の速度で丸1日走り続けても最深部にすら辿り着けないとはね……。
出来れば単独行動中に最深部くらいまでは確認したかったけど、これは無理そうかなぁ?
「――――っ!?」
さて帰ろうかなぁと思ったタイミングで、またもや察知スキルに反応があった。
「なんなんだよぉ。次から次へとさぁ……」
今日このパターンばっかりだけど、それでもやっぱり慣れはしないなぁ。
なんでこんなにアウターの奥深くまで来たのに、生体察知に反応があるのぉ?
どうやら相手は俺に視認されないような距離を保ちながら、ゆっくりと俺を包囲しているようだ。その数は優に100人を超えているね。
なんでこんな奥地に、人間っぽい反応がこんなにあるわけぇ?
俺が足を止めた事で、包囲は一気に進んでいく。
それに合わせて正面から1つ、俺にゆっくりと近づいてくる反応があるな。代表者か?
暫く待って俺の目の前に姿を現したのは、紫の肌をして長い黒髪をポニーテールにまとめている、長い槍を持った絶世の美女だった。
暗い森の中、彼女の美貌と気だるげな灰色の瞳だけが強く浮かび上がっていた。
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