異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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4章 マグエルの外へ1 竜王のカタコンベ

215 来客 (改)

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 1分ほど走って馬車の集団が見えなくなってから、マグエルにリーチェを迎えに行った。

 移動した後の場所にもリーチェは転移できるみたいでホッとする。


「た、助かったけど、相変わらず容赦ないよねダンは……」


 しかし迎えにいったリーチェは、引き攣った笑いを浮かべている。えぇいなぜだっ。


「なんか大きい商会の令嬢らしいけど、大丈夫なの?」

「そんなの知らないよ。救援に入った相手に一方的に自分の都合を押し付ける相手でしょ? 家がどれだけ立派でも、あの子とは関わる気は無いかな」


 スペルディアで数日観光しながら情報収集するつもりだったけど……。

 面倒なことになるなら通り過ぎるべきかなぁ?


 ああ、商会の話ならティムルに聞けばいいんじゃ? 交渉も任せちゃったわけだし。


「さっきの商隊はカリュモード商会って言って、スペルド王国有数の大商会ね」

「シュパイン商会よりも大きいところなの?」

「シュパイン商会とマルドック商会を合わせても足りないくらいに大きな商会よ」


 おお、それは凄いな。その2つを合わせても足りないって、思ったよりも大きい相手だったようだ。

 ここはもう王都スペルディアの近郊だし、大商会の基準がマグエルとは段違いなのかもしれない。


「でも、さっきの娘が誰なのかまではちょっと分からないかしら。あそこの令嬢って言っても、子沢山なお家だからねー」


 ふぅん。つまり大商会のわがまま娘かぁ。もう字面だけでも嫌な予感しかしない相手だよ。


「でも評判は悪くないところだし、こっちは救助した側なんだし、面倒事までは発展しないと思うわ。こっちは報酬も受け取ってないし、怪我人の治療までしたんですからねー」

「だよねー? その俺達相手にあの態度は無いよなー?」


 うんうんとティムルと何度も頷き合う。


 援護したのに報酬も受け取らず、治療したのも無報酬なんだよ? しかも戦利品の肉だって全部お渡ししてるのにさー。

 これで面倒事になるなら、カリュモード商会とやらの底が知れるね。


「しかしさっきのダンは凄かったのじゃー。多分あそこにいた者たちは、ダンの姿をまともに確認出来ていなかったのじゃ」

「うんうん。実は姿を見られないように意識したんだ」


 なんだかフラフラと抱きついてきたフラッタをぎゅーっと抱き締める。

 中級攻撃魔法なんて使えるのがバレると煩そうだからね。だから最後にポータルを使ってニーナの元に戻ったんだよ。


「戦場から離れてたから私のところに戻ってきてくれたのー? 弓を使えるようになっておいて良かったなぁっ」

「弓が使えなくても、ニーナがいるところが俺の帰る場所だからねー? ポータルを出た瞬間にニーナに迎えてもらえて、最高に嬉しかったよ」


 あーもうデレデレニーナと早くイチャイチャコンコンしたいよぉ。

 スペルディアまだかなー? 流石にここで押し倒すわけにはいかないしー?


「攻撃魔法にあんな使い方があるとは驚いたのじゃ。妾も剣にばかり固執せず、ダンのように柔軟にならねばダメなのじゃーっ」

「ストームヴァルチャーって、かなり危険度の高い野生動物なのよ? それを殆ど1人で殺しきっちゃうなんて、ダンったら凄すぎるわよぉ……!」

「剣も魔法も凄いのに、それらを組み合わせちゃうなんて凄すぎるよぉ……。はぁ~……。空中を飛び回るダン、かっこよかったなぁ……」


 うっうおおおおおお!? ニーナだけじゃない!? みんなデレデレモードだぁっ!!!


 ……スペルディアには数日滞在する予定。つつつまりっ、今日は徹夜解禁日かぁぁぁぁっ……!?

 スペルディアに着いたらすぐに宿を取って、今晩はずっとベッドの上でみんなと旅の疲れを癒すべきだなっ!


 もう色々なやる気が漲った俺たちは、ティムルを抱っこして限界までスピードアップ。一気にスペルディアまで駆け抜けてやったぜ!


 移動中にティムルとリーチェに相談して決めた高級宿に、早速チェックインしてベッドインだ!

 夕食を断って、夕食の時間すら惜しんでみんなと過ごしてやるんだぁい!


 デレデレモードのみんなを気絶させるなんて勿体無いので、5人で密着しながらひたすらイチャイチャする事にした。

 口を開けばみんな今日の空中戦のことを褒めてくれるかキスしてくれるかで、ラブラブデレデレモードのみんなの中を1人ずつ満たしていった。

 気絶させるくらいの全力で愛するのとは正反対の、イチャイチャダラダラしながらゆっくり時間を過ごすのも最高に楽しーっ!



 しかし全員を数回程度満たしたあたりで、すっかり癖になった生体察知に引っかかるものがあった。


 どうやら俺達の部屋の前に誰かが立っているようだ?

 時間的に夕食くらいだし、連絡ミスで夕食の確認にでも来たのかな?


 コンコンと礼儀正しい感じのノックの後に、声が聞こえてくる。


「お休みのところ失礼致します。実は皆様にお客様がいらしておりまして……」

「え、客ぅ?」

「……誠に申し訳ありませんが、どうか対応してもらえないでしょうか?」


 ドアの向こうの相手は、本当に申し訳なさそうな声色だ。

 多分俺達がイチャイチャラブラブしていることを把握してるけど、それでも連絡せざるを得なかったって感じか。


「俺達って今日スペルディアに到着したばかりで、知り合いもいないんだけど。人違いじゃない? お客って誰なの?」

「はい。カリュモード商会からの使いだと仰っておりますね。リーチェ様を名指しされておりますので、人違いということはないかと」

「ちっ……」


 カリュモード商会とリーチェを名指しって所で、ちょっと頭に血が昇る。

 もしさっきのやつらが面倒を吹っ掛けてきて、俺達の邪魔をしたんだったら絶対に許さない。


「ねぇ。それって俺達が会わなきゃダメなの? 追い返せないのかな?」

「それが……。当宿の経営をしているのもカリュモード商会でして……。皆さんに対応していただかないと、私たちも、その……」

「ああ、そういう事情ならすぐ行くよ。ただし俺1人で行くから。これすら飲めないようじゃ、ここ引き払ってでも帰ると伝えてくれる?」

「畏まりました。本当に申し訳ありませんが、ご支度をよろしくお願いします」


 ドアの前に立っていた人は、恐らく俺の伝言を伝えに戻っていった。


 オーナーには逆らえないよなぁ。雇われ者の辛いとこだ。

 今の人の態度にも悪い印象は一切なかったし、現場の顔を立てて会いにいこう。


「ダンー。1人で大丈夫? みんなで行った方がいいんじゃないのかな?」

「ふふ、大丈夫だよニーナ。でも俺結構怒ってるから、出来れば1人で行かせて欲しいなー?」


 みんなはあんまり俺の怒るところが好きじゃないみたいだからね。

 こんなにデレデレモード発動中のみんなに変な物を見せたくはないんだよーっ。


「んー……。相手には悪いけど、こっちの都合を無視して押しかけてくる相手ですものね……。ダンが怒るのも当たり前だし、私だって不快だわ。なんなのよいったいっ」

「宿の従業員にまで無理を言ったようじゃのう。カリュモード商会と言ったか。金輪際関わりたくない相手なのじゃ」

「はっきり迷惑だって何度も言ったのに、宿にまで押しかけてくるなんて……! 非常識すぎるよ! 最低だねカリュモード商会って!」


 みんなの気分も最悪だ。

 せっかくのデレデレラブラブモードを邪魔しやがって。くだらねぇ用事だったらマジで許さないからなぁ?


 ささっと身支度を整えて部屋の前で待つ、けどいつまで経っても誰も来ない。

 生体察知にも魔物察知にも反応が無いから、間違いなく誰もいない。


 なんなんだよいったい。いい加減にしろよなー。


「このまま待ってても仕方ないからこっちから出向くよ。待っててねー」

「了解なの。でもダン、あんまり軽率な事はしちゃだめだからねっ」

「分かってるよ。こんな最高の夜に自分まで水を差す気は無いって」


 気分を落ち着かせる意味合いも兼ねて、ベッドのみんなを1人ずつぎゅーっと抱きしめて、ちゅっちゅっと軽いキスを繰り返してから部屋を出る。

 みんなのおかげで大分気分は落ち着いた。これなら穏便な話が出来そうな気がする。多分。


 さて、誰も来ないんじゃ仕方ない。自分からエントランスまで赴く事にしますかぁ。





「ねぇ。俺らに客が来てるって言うから部屋で待ってたんだけど?」

「あっ! はい申し訳ありません! ただ今ご案内いたします!」


 エントランスまで戻ってきて近くにいた従業員に声をかけると、すぐに案内してくれた。

 でもこの人、声的に部屋まで来た人じゃなさそうかな? それでも直ぐに事情を察してくれたようだ。


 でもその理由はすぐに分かった。

 案内された部屋の中から、ギャーギャーと喚き声が聞こえてきたから。


「いいから早くリーチェ様を連れてきなさいって言ってるのよ! 私はここのオーナーの娘なのよ! 黙って言うことを聞きなさいよ!」

「申し訳ありません……。お客様のご意向を無視するわけには……」


 うわ、聞いてらんないわ。クズってどこにでもいるんだなぁ。

 さっさと入室して、従業員さんをサルベージする。


「遅くなってごめんね。貴方はもう下がっていいよ。俺の客なんだろ?」

「あー! お前はあの時の男ー! リーチェ様をどこにやったのよーっ!?」


 迷惑料として金貨1枚握らせて従業員を下げさせる。

 部屋にはギャーギャー喚く少女と、その護衛らしい戦士達が5名ほど。


「そんで? 宿にまで押しかけてきてなんの用? はっきり言って迷惑してんだけど」

「お前になんか用は無いわよっ! 私が用があるのはリーチェ様だけよ!」


 こっちもお前になんか用は無いよ? その上で呼び出しに応じてやったのに、その俺の会話に応じる気は無いと?


 話をする気が無い相手には実力行使に限る。

 職業補正を活かして一瞬で護衛5人の首筋に軽く切り傷を入れ、もう1度口を開く。


「護衛の諸君。全員の首を軽く撫でてやったけど、俺の動きが見えた奴はいた?」

「えっ!?」「なにっ!?」


 首元を押さえて驚く護衛たち。

 ま、反応できた奴は1人も居なかったからね。誰も切られたことには気付けなかったようだ。


「それを踏まえて、今すぐ用件を言わないとお前ら全員に決闘を申し込むぞ。条件は互いの死。降参は認めない。待ってやるのは3秒だけだ。用件は?」

「なっ!? 決闘ってなに考えてるのよ! お前、私が誰だか……!」

「いーち、にーい、さー……」

「お、お待ちくださいっ! 今すぐ用件を話させますのでぇっ!」


 護衛の男が慌てた様子で俺に待って待ってと右手を翳す。

 いや、話をしてくれるなら待つから。俺はそっちと違って聞く耳持ってるからね?


「お、お嬢様! 早く用件を! 殺されたくなければ話しなされっ!」

「はぁっ!? アンタなに言ってんの!? こんな男1人がどうしたって……!」

「おーい。もう3秒以上待ってやってんだけど、いつまで待たせる気なんだよ……?」


 こっちは今最高にイラついてんだよ。

 くだらない茶番なんか見せ付けられて我慢できるほど余裕ないんだわ。


「ちぃっ! 俺は降りる! 勝手にしろ、この馬鹿女が!」

「ま、待ってくれ! 俺も関係ない! 俺もこんな女とは関係ないんだ!」


 俺に対して済みません済みませんと頭を下げながら、敵意が無いことを示しているのか両手を掲げながら慌てて席を立ち始める護衛たち。

 いやいや、話に関係の無い護衛さんたちには手を出す気は無いよ? え、首切った後じゃ説得力ゼロ?


「ちょっ!? 待ちなさいよ! あんたたちなに言って……!?」

「うるせぇこのクソ女が! こっちはテメェの我が侭にはウンザリしてんだよ! テメェのわがままに付き合って殺されてたまっかよ!」

「死ぬなら1人で死んでろクソ女! 周りを巻き込んでんじゃねぇ役立たずがっ!」


 少女を置いて逃げていく護衛たち。

 何だこいつ? 護衛にすらめちゃくちゃ罵倒されてんだけど。


「で? お前の用件ってなんだよ? さっきからずっと待ってんだけど?」

「あ……、え、と……。そ……」


 急にオドオドし出す女。さっきまでの強気はどこいったんだよ? 1人じゃ何も出来ないってか。


 まぁいいや。用件を言わないなら付き合う義理もない。時間の無駄だ、切り上げよう。


「許すのは今回までだ。まだ付き纏うようなら問答無用で全員殺す」

「ぜ、ぜんいん……ころ……って……」

「カリュモード商会だかなんだか知らないけど、1人も生かしておかないからな? 2度と関わるな」


 それだけ言って部屋を出る。無駄な時間過ぎて嫌になるねぇ。


 エントランスに戻り、カリュモード商会の息がかかってない宿の場所を確認する。


「この度は、お客様には大変申し訳ないことを致しました……」

「別に貴方が悪いわけでもないでしょ。カリュモード商会のお店は2度と利用したくないけどね」


 ちょっとイラついて、軽く嫌味を言ってしまった。従業員さんは何も無いんだけど、ついね……。


 部屋に戻ると、やっぱりみんなは身支度を整えてくれていた。

 ……だよねぇ。こんな宿、もう宿泊できるはずないよねー。


「はぁ……、ごめんなさいね。私がこんな宿勧めちゃったばっかりに……。評判は悪くない宿だったんだけど、本当に失敗したわ……」

「ティムルは何にも悪くないよ。落ち込まなくていいんだ。別の宿の場所も確認してきたからすぐに移動しようね」


 落ち込むティムルをよしよしなでなで。

 なんであんな馬鹿女のせいで、何にも悪くないティムルが落ち込まなきゃいけないんだよ、クソが。


 
 宿を出て、さっきの宿の従業員に聞いた宿に移動し、カリュモード商会とは関わりが無いことを確認してからチェックインする。

 誰か訪ねてきても一切通すなと厳命して部屋に入る。


「ティムルもリーチェも何にも悪くないから落ち込まないで。2人は何にも悪くないでしょ。大好きな2人が落ち込んでると悲しいよ」


 全員が最高にデレデレのテンションマックス状態だったからこそ、それに水を差されたのが最高に不快だった。

 なのでカリュモード商会の宿を紹介してしまったティムルと、あの馬鹿女に絡まれたリーチェが物凄く落ち込んでしまった。

 ニーナとフラッタには背中側に回ってもらって、ティムルとリーチェを抱きしめて、何度も何度もキスして2人を慰めた。


 うん。たとえあの馬鹿女が世界を救う使命とか持ってたとしても、カリュモード商会は俺の敵だ。

 ちっ……。空中戦自体は楽しかったけど、あんな商会助けるんじゃなかったなぁ。俺の判断ミスでつまらない思いをさせてごめんねティムル。ごめんリーチェ。
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