異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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3章 回り始める物語3 1年目の終わり

206 女傑 (改)

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 ニーナとのデートを無事終えて、家に帰ったら待機メンバーの相手をして、翌日のお昼を過ぎたらティムルと手を繋いで家を出る。

 本日のデートの相手は、ニーナのお母さんと同い年のティムルお姉さんだ。


「ふふ。まさかネプトゥコをこんな風に歩けるなんてねぇ……。あの時は本当に、全てが終わったって思ったのよー?」


 ティムルとのデートの舞台はネプトゥコの街だ。

 今回の年末デートでは、今まで行った街に限りポータルを解禁しているのだ。


 濡れ衣を着せられネプトゥコで拘束されてしまった経験のあるティムルは、俺と2人で改めてネプトゥコの街を見て回ることを望んだ。

 でも行き着く先はマグエルの高級宿なんですけどね?


「マグエルと違って辛気臭い雰囲気よねー。今年のマグエルの方が異常なんだけどっ」

「異常でもマグエルの明るい年末の方が俺は好きだなぁ」

「そうそう。リーチェのおかげで、来年からここの領主は変わっちゃうんだって。だから街の人たちも、先行きが不安なのかもしれないわねぇ……」


 ああ、俺に関係ないからすっかり忘れてたよ。カザラフト家、だっけ? やっぱ処分されちゃうのかぁ。

 ひょっとしたらカザラフト家も被害者だったり? なんてことまで考えたらキリがないかぁ。


 ティムルと2人でネプトゥコを歩き、色々な店を見て回る。

 どうやらティムルは、マグエルとの相場の比較をしているみたいだな?


「あはーっ。せっかくのデートだっていうのにごめんなさいね?」

「構わないよ。ティムルが楽しんでくれれば、俺にとってはデート大成功だしね」

「もう商売には未練は無いんだけど、長年培った経験って抜けないものねぇ」

「ティムルを長年助けてくれた能力なんだし、無理に捨てる必要も無いって」


 繋いだティムルの手をにぎにぎしながらデートを楽しむ。

 俺の奴隷になった後でも、ティムルの商売人としての能力と経験にはかなり助けられてると思う。商売には未練が無かったとしても、ティムルの魂に浸透した経験には違いない。



 屋台で大量の食べ物を買って、あの時にかなりお世話になったネプトゥコの警備隊詰め所に差し入れを持っていく。

 俺の手作りじゃなくて悪いねっ! 俺の手料理は、可愛い俺の嫁にしか振舞いたくないものでねっ。


 しっかりと繋がれた俺とティムルの手と、幸せそうなティムルの表情を見て、警備隊の皆さんは俺達2人を祝福してくれた。

 うん。差し入れの効果は絶大だったね?


「いや、勿論差し入れもありがたいんだけどよ。ダンのおかげで真犯人の逮捕に至ってな。俺達の評判が良くなったんだよ」

「あ、そうなの?」


 ここの警備隊の人たちには大分お世話になったし、評判良くても驚かないけど。


「いやぁ、あの時って1度ドロームの逃走を許しちまってただろ? マルドック商会壊滅の犯人も分かってねぇのに、更には窃盗犯に逃亡を許しちまって、警備隊の信用は地に落ちてたんだよぉ」


 あー! そりゃそうか! 俺だって近所で殺人事件が起きたら、警察なにやってんだよって思うもんな。

 そんな中でドロームの逃亡を許してしまったんだから、泣きっ面に蜂だったわけだぁ……。

 
 ネフネリさんって、マジで傍迷惑な人だったんだなぁ。

 

 挨拶を終えて警備隊詰め所を後にする。


「いいえ? ネフネリだけが特別に酷かったってわけじゃないわよ?」

「ああ、ネフネリさんの他にも酷い奥さんは何人もいたんだっけ」

「結局はジジイが全部悪かったのよねぇ。ネフネリだってジジイに許されていたからあの振る舞いが出来ていたわけだし」


 うん。許される、許可されるってのは危ういんだよねぇ。

 元々はしっかりした倫理観を持っていたとしても、許されてしまうとエスカレートしてしまう。


 我が家がどんどんエロくなっていくのは、お互いのエロ行為をどんどん認め合っているからに他ならないのだ。



 ティムルと会話しながら暫く歩いて、なにやらどでかい宿に案内された。

 あれ、ここってもしかして……?


「お察しの通り、ここはリーチェが盗難の被害にあった宿よ。お風呂付きのね」

「やっぱり? にしても凄い宿だね。マグエルのあの宿よりも高級なんだっけ」

「実は今日ここで人と会う約束があるの。それで、ダンにも会って欲しくって」


 ほぅ? サプライズって奴?

 ティムルのやる事に文句なんて1つもないので、勿論了承する。


「それで、誰に会わせてくれるのかな?」

「うん。私の恩人で、私を本当の意味で拾って育ててくれたキャリアって女性よ。キャリア様がジジイを追い出して、シュパイン商会を立て直してくれたの」


 ああ、ティムルの話でちょいちょい名前が挙がるキャリアさんに会えるのか。

 どんな人物なのかは知らないけれど、ティムルを育ててくれたお礼くらいは言ってもいいかな?


 ティムルが受付の人にステータスプレートを提示して、取次ぎを頼む。

 数分くらい待たされたけど、無事に取り次いでもらえたようで、宿の奥に案内された。


 通された部屋には、細くて小柄な白髪の老婆が、俺達に向かって不敵な笑みを浮かべながら足と腕を組んで踏ん反り返っていた。


「久しぶりだねぇティムル。元気そうで何よりだよ。それで、そっちの男がティムルが選んだパートナーってワケねぇ……」


 あ、あれー? ティムルの延長線上で考えてたのに、大分イメージと違うぞー?

 体つきや雰囲気から察して、明らかに戦闘はこなせないだろう。だけどそのギラついた眼光には人の本質を見透かすような力を感じる。


「……へぇ? 私をひと目見て警戒心を1段階引き上げたね? 良い目をしてるよ。なるほど。どっかのクソジジイとはモノが違うみたいねぇ」
 

 け、警戒心を抱く抱かないならまだしも、抱いてる警戒心の強さまで察知してくるのかよぉ。

 これもまた職業補正に頼らない、本人の資質と強さってことか。強者なんて、どこにでも潜んでるもんなんだなぁ。


「あはははっ! いいわねぇ。確かに面白い男のようじゃないの。私に一目置きながらも自然体を崩さない。いい男みたいだねぇティムル」

「はい。最高の旦那様です。もうこの人がいない人生は考えられないくらいに、最高の男性ですよっ」


 いやぁ、それはこっちのセリフなんだってばぁ。もうティムルのいない人生なんて考えられないほどに、お前のことが大好きなんだって。


「更にはお互いにメロメロかい? はは、若いっていいわねぇ? 私が育てたティムルの目は、若い時分の私より確かなようねぇ。ふふ。いいじゃないかティムル。話を聞かせてくれるかい?」

「はい。それでは早速本題に入らせていただきますね」


 楽しそうに笑うキャリアさんに対して、少し真剣味を帯びるティムル。

 つうか俺、自己紹介すらしてないんだけど、いいのかな?


「実は私たち、マルドック商会壊滅の真相を追っているんですよ。良かったらその話にキャリア様も、1枚噛んでみませんか?」

「…………へ?」


 どうでもいいことを考えていた俺は、ティムルの言葉に意表を突かれてしまう。

 ティムル、お前どんな意図があってその話を外部に漏らしたんだ?


 対面に座るキャリアさんも、笑顔を消して真剣な表情を作った。


「……手紙にあった竜人族の飼育と、違法奴隷取引って奴ね」


 手紙……。つまりティムルは事前にある程度キャリアさんに情報を開示していたのか。

 道理でいきなりの爆弾発言にも動じないわけだよ。


「あの手紙の内容が本当なら、はっきり言って命が幾つあっても足りないような案件だよ? ティムルはどうして危険を冒してまで、事の真相を追いたいのかしら?」

「私の大切な家族の抱える問題だからです。同じ主人を愛する女性の家族が苦しめられているんです。黙って見ていることなんて、絶対に出来ません」


 鋭くティムルを睨みつけるキャリアさんに、1歩も退かずに食い下がるティムル。

 マルドック商会壊滅事件は、フラッタとリーチェの両方に関わってきそうだからなぁ。人一倍家族想いのティムルお姉さんが放っておけなかったのも当たり前かぁ。


「それで? お前の気持ちは分かったけど、そんな危険な案件に関わる私たちに、ティムルはどんな利益を提案してくれるんだい?」

「私がシュパイン商会にいた頃に、商会には多大な利益を齎した自負があります。それに、こちらのダンのおかげでキャリア様のシュパイン商会掌握が決まったようなものでしょう! キャリア様は私たちに借りがあるはずです! どうか!」

「借り、ねぇ……」


 ティムルの言葉を鼻で笑うキャリアさん。


 んーそれじゃダメなんだよティムル。商人には明確な利益を提示してあげなきゃ。
 
 ティムルは奴隷だから何も提示することは出来ないんだろうけど、だったら気を遣わずに俺に事前相談してくれれば良かったのになぁ。

 ティムルお姉さんが自主的に動いてくれることに、俺が協力しない訳ないじゃない?


 ……って、もしかして絶対に俺が協力するからこそ、話し難かったのかなぁ?


「ティムルぅ? 私は利益を提案しろって言ったのよ? 借りを返せってぇ? アンタいつからそんな腑抜けた取引を持ちかけるような無能になっちゃったのぉ?」

「ねぇキャリアさん。あ、ティムルの旦那やってるダンですよろしくー」


 2人が険悪な雰囲気になりそうだったので、思い切り軽い感じで会話に割って入る。


「キャリアさんってさ、トライラムフォロワーっていうアライアンスを知ってるかなぁ?」

「ふぅん……?」


 胡乱な目つきでティムルから俺に視線を移すキャリアさん。

 ティムルが何かを言いたげにしているけど、ダーメ。お前だって俺に黙って話を進めたんだから、今度は俺の番でーす。


「……トライラム教会で預かっている孤児で構成された、出来たばかりの魔物狩りアライアンスでしょ? だけど、この場でその名前が出てくる理由が分からないんだけど?」

「そのアライアンスのリーダーが俺の嫁で、そのアライアンスのスポンサーをしてるのが俺だって言えば、キャリアさんも興味を持ってくれるんじゃないかと思うんだけど、どうかなぁ?」

「……へぇ」


 キャリアさんからは俺の言葉の裏まで見抜こうとする視線を感じるけど、別に真意も何もない。俺はただティムルの話に乗っかって、ティムルの交渉を後押ししたいだけだもん。


「……話だけ聞いてあげるわ。そっちの要望と提示できる条件は?」

「こっちの要望はネプトゥコでマルドック商会と取引があった商人の調査。深追いは無しで。見返りにトライラムフォロワーの魔物狩り物資をシュパイン商会から補充すると、正式に契約できるよ」


 現時点でも既にシュパイン商会で物資を補充してるんだけどね。それでも正式契約となると、この場で提示するに値するメリットになるだろう。


「ちなみにマグエルでは毎月30人前後の孤児を受け入れ続ける予定だね。最終的には150から300人規模までいくかもねぇ。しかも活動は無期限だ」

「……最終的な数字は希望的観測だろう? 現時点でそこまで増えると確実には言えない筈だ」

「教会の孤児は500人近いらしいから多分いくと思うよ? 俺抜きであいつらと直接交渉する自信があるなら、話はこれで終わりでもいいけど」

「…………思った以上に食えない男みたいねぇ? 私……商人と対峙し交渉しておきながら、欠片も悪意が見えてこないなんて」


 いやぁ悪意なんて持つだけ無駄無駄。

 調査なんてめんどくさいことは人に代行してもらうに限るし、シュパイン商会と正式に契約を結べれば、ぶっちゃけこっちの方にメリットが大きい。

 遠征物資を定期的に配達とかしてもらえるようになるかもしれないし?


「ダン、って言ったわね。貴方の話が嘘ではないと証明できるかしら? ハッタリで貧乏くじ掴まされるのはごめんだよ?」

「そのくらい自分で判断できない程度の商人と契約してやる気は無いよ。素人のハッタリも見抜く自信が無いなら、商売やめた方がいいんじゃない?」

「ダ、ダンっ!? あ、貴方キャリア様になんてこと言うのよっ……!?」


 慌てるティムルと、眉間にシワを寄せて俺を睨みつけるキャリアさん。

 トライラムフォロワーのことを知っているなら、孤児院の建設や武器の購入、服屋での大量購入のことだって知っているはずだ。

 つまり俺の話の裏はとっくに取れてるはずなのだ。だから今の発言はただの挑発でしょ。


 真っ向からやりあえば百戦錬磨の商人であるキャリアさんを出し抜くのは難しい。なら出し抜かずに普通に交渉すればいいのだ。WIN-WINになるように。


「……参った。降参」


 暫く黙っていたキャリアさんだったけど、はぁ~っ、と大きく息を吐いて、組んでいた両手を開いて頭の上に上げてみせた。


「貴方とはやりあうよりも手を結んだ方が利益が大きそうね。でも私たちだって調査を専門にしてるわけじゃないし、情報の精度にはさほど自信が無いわよ?」

「構わないよ。俺が知りたいのはマルドック商会が担っていた物流の流れだから」


 むしろ敵が存在するのであれば、コッソリと調査するほうが怪しまれかねないだろう。

 だから食料や衣料品の流れを調査して、人口と消費が合っていない場所を調べたいのだ。商人の視点からね。


「特に食料の流れは絶対に隠蔽しきれないと思ってるんだよ。国家機密を暴くんじゃなくて、商品や食料の流れの調査だったら、ティムルの師匠であるキャリアさんの手腕を信用してもいいでしょ?」

「あれだけバチバチやりあって最後は褒め殺しとは、随分女泣かせねぇ? 裏も含みもない、正攻法での一点突破。どこかのジジイにも見せてやりたいわ」


 単純にこの手しか知らないだけです。それにティムルの恩人にはちゃんと報いてあげたい。ティムルの旦那としてはさ。


 正式にマルドック商会壊滅事件捜査の協力を約束してくれたキャリアさんとは、ティムルを窓口として交渉していく事になった。

 トライラムフォロワーとシュパイン商会の提携については、この場でキャリアさんと大雑把に口約束を交わし、後日ティムルとキャリアさん、そしてムーリの3人で正式な契約を行うそうだ。

 キャリアさんとの話を終えて、マグエルの高級宿に転移した。






 ニーナの時と同じように、まずは夕食を楽しむ。

 連泊してるので、夕食のメニューが毎回違うのはありがたいなぁ。


 流石に超高級宿だけあって、食事もこの世界の水準とは大きくかけ離れている。現代日本の味に慣れ親しんだ舌にも普通に美味しい料理だ。


「うー。ダンの力になりたかったのに、結局ダンに交渉させちゃうなんてぇ~!」

「いやいや。商売人であるティムルが情なんかに期待して交渉しちゃダメだって」


 俺の腕の中で悶えるティムルをぎゅっと抱き締めよしよしなでなで。

 お姉さんのその気持ちは嬉しいんだけど、家族の問題は家族全員で共有していいんだよ?


「奴隷であるティムルには独断で差し出せるものがなかったのは分かるけどさぁ。出来れば事前に相談してもらえてたら嬉しかったかなぁ?」


 それにしてもティムルとのネプトゥコデート。なんかデート感少なくなかったかなぁ?

 仕方ない。これからベッドの上で、たっぷりとティムルとのデートを楽しむとしようっ。
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