異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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3章 回り始める物語2 ソクトルーナ竜爵家

193 事実 (改)

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 ルーナ竜爵家とシルヴァに起こった事実が、ラトリアさんの口からついに語られる。

 フラッタの手を確かに握っている事を確認して、ラトリアさんの話に耳を傾けた。


「私と主人は国からの正式な要請に従い、シルヴァが凶行を行なったとされる現場に赴きました。しかし案内人のアナザーポータルで転移した場所は、ブレス痕どころかなんの変哲も無い、ただのスポットの中だったんです」


 フラッタと繋いでいない方の俺の手が、ぎゅうっと強く握られる。

 少し驚いて隣を見ると、リーチェが俺の手を強く握り締めていた。


 どうやらフラッタだけじゃなく、リーチェもこの先の話を聞くのを恐れているようだ。

 国からの正式な要請に従った竜爵家夫婦が陥れられてしまった意味を、リーチェは理解してしまっているのだろう。


「私と主人はおかしいと思い、案内人に目を向けました。すると案内人の背後から……、複数体のデーモン種とロード種が姿を現したんです……!」

「そ、そんな馬鹿なっ!? アウターエフェクトが複数体同時に居ただって!? そんなのっ……! とっくに王国が滅亡してないとおかしいじゃないかっ!」


 リーチェが絶叫しながらラトリアさんの言葉を否定する。

 実際に戦った今だから分かるけど、あいつらは確かに他の魔物とは一線を画す強さだ。今の俺達なら複数体いても撃退できそうではあるけど、王国が滅亡するかもしれないってのは大袈裟じゃない評価だろう。


 ……でも今の話、俺には案内人の方が気になるな。


「ラトリアさん。その案内人について分かっていることは何かないのかな?」


 俺の問いかけに、静かに首を振るラトリアさん。


「案内人は大きなローブで身を隠し、仮面で素顔を隠し、やり取りは書簡による筆談だけで一切声を発しませんでしたから」


 声すら出さないとは徹底してるな。性別も年齢も分からないのか。


「案内人のことで分かっているのは人間族であるということと、国の正式な書類を用意できる人物であるということだけです」


 種族は直感で分かるんだっけ。ローブを纏っていても種族だけは分かったんだな。

 ……って、ポータルやアナザーポータルを使用した時に詠唱したんじゃないのか? それ以前に、移動魔法の為にステータスプレートを開示したんじゃ?


「残念ですがパーティ結成の時はステータスプレートは裏返しにされていて、内容は確認できませんでした」

「……そう言えばリーチェともそうやってパーティを組んでるんだったな」

「そして、案内人は詠唱を行わずに魔法を行使していましたね。恐らくですが、詠唱短縮のスキルを持っているのだと思われます」


 んー……。書類が正式なものであった以上、案内人の素性なんて気にしないかぁ?

 そして詠唱短縮があると詠唱を全カット出来るのね? 恐らくは大効果スキルなんだろうけど。


 俺とリーチェが口を噤んでしまったので、ラトリアさんは話の続きを語り始める。


「私も主人も腕には覚えがありましたけど、流石に10体を超えるデーモン種とロード種の群れには対抗できず……。私たちは敗北し、主人は私の目の前でデーモン種に胸を貫かれて……」

「ア、アウターエフェクトが同時に10体以上っ…………!? この国に、この国には今いったい何が起こってるっていうんだ……!?」


 ラトリアさんから語られる話はリーチェには信じがたいようで、俺の手を強く握りながら今まで見たこともないくらいに動揺してしまっている。


 10体以上のアウターエフェクトが発生済みなのに、それを誰も知らないってのが不気味すぎるね。明らかに使役されてるっぽいし……。

 案内人はいったい何者なんだ?


「ですが……、本当に恐ろしいのはここからだったんです……」

「……まだ何かあるの?」

「皆さんもご覧になったでしょう? 主人の皮を被っていた醜悪な魔物の存在を……!」


 話しているラトリアさんの表情に怯えが混じる。

 あれほどの実力を持つラトリアさんがここまで怯える事態……。いったいなにが……?


「案内人が右手を翳すと、主人が倒れている場所に漆黒の魔法陣が出現して……」


 漆黒の魔法陣……。

 そう言われて思い出すのは、テラーデーモンが出現した時のことだ。


 アウターエフェクトが出現する漆黒の魔法陣。それを1人の人間族が人為的に発生させた?


「主人の体は少しずつ漆黒の魔法陣に沈み込んで、やがて全身が飲み込まれました。すると主人と入れ替わるように、あのロード種……、マインドロードが魔法陣から姿を現したのです」


 フラッタもリーチェも、俺の手を強く握り締めている。


 握られたその手からは震えが伝わる。

 己の理解を超えた現実に直面して、事実を受け止め切れていないのかもしれない。


 しかし……、今の話からイメージするなら、ルーナ家当主を触媒とした生贄召喚か何かだろうか……?

 ラトリアさんの実力は、恐らく1対1ならロード種も圧倒できると思う。

 ならきっと旦那さんも同じくらいの実力者で、アウターエフェクトを呼び込む触媒としては充分な素材なのかもしれない……。


 ……ちょっと待て。生贄召喚だと?

 シルヴァが行なったとする凶行、その犠牲者がどのくらいいたのかは聞いてないけど、大商隊を護衛できる程度の戦闘員は居たはずだ。

 そして飼育していた竜人族をわざわざ皆殺しにした理由……。

 ラトリアさんの前に現れた10体を超えるアウターエフェクト……。
 

 シルヴァの凶行の犠牲になった人たちって、もしかしてみんな召喚に……!?


 いやっ! それ以前に、まさか竜人族の飼育って、召喚の触媒の方がメインなのかっ……!? 販売先で全て召喚素材にされていた……!?

 だから大規模な奴隷販売なんてしていたのに、いつまで経っても事が露見しなかった、とか……!?


 販売されたはずの奴隷がこの世から消えてなくなってるんじゃ、事が発覚しなくっても不思議じゃないってか……!


「マインドロードが左手を掲げると、私は全身の自由を奪われました。あれがきっと私を支配した瞬間だったのだと思います」


 最低な想像に慄いていると、俺が黙っているうちにラトリアさんが続きを話し始めた。


 支配された瞬間を記憶しているのか。

 そして、そんなに何気ない動作で完了してしまうもんなのか、支配って。


「そして自由を奪われた私の目の前で、マインドロードが右腕を掲げると……。奴は私の目の前で、外見がゴルディアに……、主人そっくりの姿に変わっていったんです……!」


 話を聞く限り、マインドロードはフラッタのお父さんに擬態したようだな。

 精神攻撃を得意としていそうなマインドロードと擬態能力が重ならない。けど、認識を操る能力の応用と言われれば納得できなくもないか……?


 フラッタとリーチェが汗だくになって浅い呼吸を繰り返している。

 そんな2人に少しでも安心してもらいたくて、俺は2人の手を握る力を強くする。


 召喚の材料にしただけではなく、成り代わって社会的地位を奪い再利用するのかよ。あまりに悪意に満ちた話で、頭がおかしくなりそうだ。


「その後のことは支配状態にあったので、おぼろげにしか覚えておりません……」


 断片的に語られる、ラトリアさんの支配中の記憶。


 マインドロードが訓練場に魔法陣を設置し、散漫の状態異常を発生させていたこと。

 散漫の影響で食事も取らなくなって衰弱していく家のみんなの姿。

 日々持ち出されていくルーナ家の財産。


 ……そんな中、唯一まだ無事だった、娘フラッタの元気な姿。

 マインドロードの支配下にあっても、フラッタを想う気持ちだけで警告を繰り返した日々。


 半分夢の中の出来事のような感覚で、ラトリアさんはこの半年を過ごしていたようだ。


「私も半年間飲まず食わずだったはずですが、恐らく支配の影響なのでしょうね。私1人だけが元気なのに他の者たちが衰えていくのは、本当に恐ろしい光景でしたけど……」

「待ってくれラトリアさん。確か、10月だったかな? うちに来たフラッタは、とても食事してないようには見えなかったよ?」

「私もおぼろげな記憶しかないので確かなことは言えないのですけど……。散漫になった後も、家のみんなは普通に生活していたと思うんです。ただ、少しずつみんな、動かなくなっていってしまって……」


 散漫の状態でも日常性活を送っていた……。つまり覚えていないだけで、フラッタも食事なんかはしていたんだろうか?

 自炊できないフラッタが散漫中に何を食べていたのかは深堀しない方が良さそうだけど……。


 んー、これ以上のことは支配されていたラトリアさんに聞いても分からないか。

 なんでそんな状況下の中、フラッタだけが無事だったんだろう?


「……恐らく散漫から喪心に至るまでは、かなりの時間を要するんじゃないかな?」

「時間って?」

「フラッタは精神異常耐性のおかげか意識を保てていたし、1ヶ月ごとにこの家に数日間滞在していた。毎月の礼拝日が、フラッタの状態異常重篤化を防いでくれたんじゃないかな」


 なるほど。散漫のバッドステータス自体は防げていなかったけど、それでもフラッタはまだ思考能力を保てていたもんね。

 そのおかげで礼拝日を忘れずに済んで、数日間の我が家での滞在がフラッタの自我を守ってくれていたと。


 やっぱりトライラム様にはいくら感謝しても感謝しきれないなぁ。いつも見守ってくださってありがとうございます。


「フラッタ。貴女の父ゴルディア・モーノ・ソクトルーナは、勇猛果敢に強者に挑み、戦士として散っていきました」

「父上は……。父上は、もうこの世にはいらっしゃらないのじゃな……」

「……その死を悲しむなとは言いません。ですが誇りに思いなさい。貴女の父は竜人族の偉大なる戦士として、私達を守ってくださったんです」


 フラッタに優しく微笑むラトリアさん。

 悲しんでも良い。悼んでも良い。だけど父の死を嘆いていけない。それが戦士として散っていった父への何よりの餞であると娘に諭す母の姿。


 柔らかくも有無を言わせない強さを持って微笑むラトリアさんに、母の強さというものを垣間見る。


「は、母上ぇ……。妾ぁ……。妾はぁ……」


 俺の手を握るフラッタの力が弱まる。

 椅子から立ちあがろうと足に力を込め、でも迷って立ちあがれない。


 ……馬鹿だなフラッタ。お前はまだ子供なんだから、遠慮なんかしなくていいんだってば。


「いっておいでフラッタ。せっかく生きて再会できたんだから、遠慮は要らないよ」


 フラッタの手を離し、その背中を押して立たせてやる。


「……うんっ! ありがとうなのじゃダン! 母上っ……! 母上ぇっ……!」


 ラトリアさんに抱きつくフラッタ。

 俺の手を振り払われるのは少し残念だけど、お母さんには敵わないよなぁ。


「妾だけっ、妾だけ何も知らなくてごめんなさいぃ……! みんながこんなに大変な目に遭っていたのに、妾だけが幸せに過ごしてしまっていたのじゃあ……!」

「馬鹿ねぇフラッタ。貴女が幸せでいて私が怒る筈ないでしょう? 貴女が幸せでいてくれることが、私とあの人の何よりの願いなんですからね……」


 フラッタを足の上に乗せて頭を優しく撫で続けるラトリアさんを見てちょっと羨ましくなったので、リーチェを足の上に横抱きにして、よしよしなでなでしてあげる。

 困惑しながらも、決して抵抗はしないリーチェが超可愛い。


 フラッタを優しく抱きしめながらも、真剣な表情で話を続けるラトリアさん。


「今回の件は王国に包み隠さず報告するつもりです。屋敷が荒らされている為、恐らく物証などは一切残っていないかと思われますが、秘匿しておくにはあまりにも大きすぎる事件ですから」


 んー。国からの正式な書類を用意できる相手が敵にいる以上、国に報告を上げるのは少し危険な気もするんだけど、ラトリアさんもその辺は了承済みなのかな。


「今回の件を受けて、王国中の貴族が警戒心を高めてくれないと危険です」

「確かに危険な案件なのは間違いないけど……。報告がどんな結果を齎すか読めないな……」

「ダンさんの懸念も理解できますが、アウターエフェクトが少なくとも10体以上発生済み。しかも人間族に使役されている可能性が高いという事実……。絶対に周知しないわけにはいきません」

「ダン。ぼくも報告を上げるべきだと思う。……王国自体の危険性は分かってるつもりだけどね」


 ラトリアさんの判断に素直に賛成出来ずにいる俺に、リーチェも報告はあげるべきだと進言してくる。


「今回ルーナ家を陥れた案内人の行動が、王国の総意だとは思いたくないんだ。それにもしそうなら、ここまでコソコソ行動する必要は無いと思うしさ」


 正体がバレたら排除される可能性があるからこそ、徹底して正体を隠しているって言いたいのか。リーチェのこの言い分には説得力がある気がする。

 国の総意であるなら暗躍する意味って無いよな? 国との見解が違うからこそコソコソと暗躍せざるを得ないんだ。


「了解。ラトリアさんとリーチェの好きなようにしてくれて構わないよ」


 敵が潜んでいる可能性が高い、この国の中枢に報告をあげる危険性は無視できない。

 けれど現状、敵の正体は全く分かっていないのだ。ならラトリアさんの言う通り、王国中に注意喚起を促すべきなのだろう。


「だけどラトリアさん。国に報告する際には、俺の名前と存在は伏せておいてくれるかな?」

「「…………え?」」


 リーチェとラトリアさんの困惑した声が重なった。


 え、じゃないよ。当たり前だろ。俺とニーナは一応ステイルークから逃げてきてんだよ。国に報告なんてされたら絶対にばれちゃうよ。

 ステイルークでは何度もステータスプレートを提示したし、俺がニーナと旅立ったのだって絶対に知れ渡ってるはずだ。

 俺があんまり注目されると、ニーナの呪いの事が芋づる式に発覚しちゃうじゃん? 


 それで解呪の情報が集まるならめっけもんだけど、絶対にトラブルの方が舞い込むでしょ。俺とニーナの存在は絶対に秘匿しておいてよね?
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