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3章 回り始める物語2 ソクトルーナ竜爵家
192 ※閑話 移動魔法談義 (改)
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思えばニーナの呪いがあったから、移動魔法について詳しく考えた事がなかった。
だけど全異常耐性で呪いの制限を緩和していくことが出来るのであれば、そのうちニーナも移動魔法を使えるようになるかもしれない。
ならばその時になって困らないように、今のうちに疑問を解消しておこう。
「なぁなぁティムル。1個聞いていいかな?」
「1個と言わず、なんだって答えてあげちゃうわよー?」
な、なんでもいいの!? なら是非ともスリーサイズをですね……!
と言いたいところだけど、この世界にスリーサイズの概念は無いのだ。残念だ。誠に残念で仕方ない……!
「この世界にはポータルっていう移動手段があるわけじゃん? なのになんでティムルはアッチンからマグエルまでの移動でポータルを使用しなかったの? 馬車に乗ったのってフォーベアからだったよね?」
「あはーっ。そんなの荷物が多すぎたからに決まってるじゃないのー。ダンだって見たでしょ? あの時の私の荷物の多さ」
確かにティムルはアッチンで商材を仕入れたとかで、背負った巨大リュックにパンパンに荷物を詰め込んでいた記憶はある。
でも、俺たちって花壇用の土をポータルで運搬したじゃん? ティムルが背負ってた荷物って、土がパンパンにはいったリュックより重かったって言うの?
「ポータルの荷物制限は、重さじゃなくて大きさで判定されるのよ。分かりやすく言えばインベントリと同じ。インベントリも重さは感じなくなるけど、収納できないものは運搬できないでしょ?」
重さじゃなくて大きさ。重量じゃなくて体積で制限がかかるのか。
インベントリと違って、服や食料とかの鑑定できない物品も運べるけど、大きさによって制限がかかってると。
……ん? だったら小分けにして運べば良かったんじゃないの? 荷物が多い場合は何度も往復すれば良いのでは?
我が家の花壇の土運びだって、ティムルと2人で何度も往復したわけだし。
「あはーっ。それは自分でポータルが使えるダンだからこその発想よねーっ」
「へ? どういうこと?」
「覚えてるかしら? あの時に貴方に支払った報酬が5000リーフだったわよね? でも冒険者ギルドでポータルを利用すると、マグエルとアッチンを1往復するだけで2000リーフもかかるのよぉ?」
なるほど。コストに見合ってないのね。
行商人なんて地域差による値段の違いで稼ぐような職業だろうし、冒険者ギルドのポータルを使ってちゃ商売上がったりってか。
でもあの時は野盗が出たって話があったんだから、普通安全の方を優先しない?
「あはーっ。そうねーっ。お姉さん1人だったら、ギリギリまで様子を見てからポータルで帰ったと思うわねー?」
ニコニコと笑顔を向けてくれるティムル。
……なるほど。ティムルがアッチンでポータルを使わなかったのは、俺達と会ったから、か。
お姉さんに感謝の言葉とお礼のキスをお贈りして、ポータルの話を再開する。
「前回の遠征で、俺が教会でムーリを抱いてる間に物資を届けてくれたじゃん。あの時も小分けにして何度か往復してくれたの?」
「ううん。あの時はフラッタちゃんとリーチェで3等分して運んで、スポットの中で1つに合わせたの。詰め替えに多少時間がかかっても、移動時間が皆無だから問題なかったわね」
そっか。人数がいるなら分担すれば良いだけなのか。
詰め替えする時間は充分にあっただろうな。俺も予定より大幅に遅れていったし?
「移動魔法は本当に便利なんだけど、それだけじゃ物流は成立しないのよね。だからやっぱり行商っていう商売が成立するんだし、必要なわけね」
移動と運搬は別々ってことね。移動魔法はあくまで移動手段でしかないってか。
インベントリに色々入れることが出来たら話は変わってくるんだけどなぁ。
現状でも普通に背負うリュックくらいはパンパンに詰め込んでも移動できるんだし、これ以上を望むのは欲しがり過ぎなのかなぁ?
「それにポータルって、1回ごとに発動しなきゃいけないでしょ? 荷物の運搬のために往復で利用するには、ダンやリーチェみたいに自分で使えないとやってられないわよぉ」
うんざりしながら語るティムルの言う通り、ポータルは基本的に一方通行で、体半分だけ出して荷物を運搬したりすることは出来ない。
基本的に転送先から戻ることは出来ないのだ。例えばポータルに突っ込んだ腕を引き抜いたりすることは出来るけど、それをしてしまうとポータルは消滅してしまうんだよね。
つまるところポータルは入り口を作るだけの魔法であり、出口側の空間には何も無いのだ。だから往復しようと思ったら、転移先で改めてポータルを使用しなければいけない。
「行商人が立ち入り難いドワーフの里は、ほぼポータルでしか交易が出来なくてね? ポータルでしか出入りできない以上、ボッタくられるのはどうしようもないのよ。あの土地に住む限りはね」
装備品はインベントリに入れられるから大量に運搬できるけど、水や食料の運搬量は限られる。ドワーフの里に持っていく物資は限られるけど、ドワーフの里で仕入れる分にはいくらでも運搬できちゃうのね。
出入りにポータルが必要ってことは、外部から訪れた人全員がインベントリも使えるってことになるから。
1㎥のインベントリだと長柄の槍とかを運搬するの大変そうだけど、旅人と冒険者の2つを浸透させれば8㎥のインベントリは獲得できる。
1辺が2mもあれば、大抵の装備品は入っちゃうだろうなぁ。
「孤児院の子みたいに自分達で稼ぐのも、ドワーフの里に住む限りは無理なのよね。あそこって魔物すら出ないから」
「魔物すら出ないって凄まじいね……。想像つかないよ……」
「仮にドワーフが自分で冒険者になって物資を運搬したとしても、それで種族全体を賄える訳じゃないでしょ? それに魔物が出ないから、そもそも職業の浸透だって進まないと思うわよ?」
魔物すら出ないんじゃお手上げかぁ……。
この世界ってドロップアイテムで成り立ってるところがあると思うんだけど、魔物が出ない土地でどうやって暮らしてるんだろ?
ドワーフの里は農業も出来ないような枯れた大地だと聞いている。飲料水すら輸入に頼らざるを得ないなんて、はっきり言って人が生活できる場所とは思えない。
でもこの世界には魔法っていう概念があるんだよなぁ。例えばドワーフの里にスポットの土を持ち込んだら、農業が出来たりしないだろうか?
ああ、でもここで問題になってくるのが水の問題かぁ。
普通鍛冶仕事にも大量の水を使いそうなものなんだけど、この世界の鍛冶仕事には水は要らないんだもんなぁ。
「ダンが悩むことじゃないわ。ドワーフ族が勝手にやってることなんですもの」
べ、別にドワーフのことなんてどうでもいいんだからねっ!?
なんて昔懐かしいツンデレを発揮するまでも無くドワーフ族のことなんか知った事ではないんだけど、ドワーフの里にいる限りはドワーフの状況は改善しない。それはちょっと考えさせられるな。
「ただ、あの地に住むことを望まないドワーフくらいは助けてあげたいわねぇ。子供達なんて選択の余地もないのに、毎年何人も奴隷に落とされちゃってるし」
「……ティムルも口減らしに売られたって言ってたっけ」
口減らしをするということは、つまり生活できる人数をオーバーしてるってことだよな? なら移住を望むドワーフには積極的に手を貸してあげるべきなんじゃないのか?
んー。でもこれじゃ、やってることは奴隷商人と変わらないか。根本的な解決には結びつかないよなぁ。
「キャリア様に商人として鍛えられるようになって色々分かったんだけど……。なんでドワーフの里には魔物すら出ないのかが分からないのよねぇ」
「他に魔物が出ないような場所は存在しないの?」
「街中とかは別だけどね? 国中を回ったけど、魔物が出ない土地なんてあそこしか無いわよぉ?」
それも疑問なんだよな。スポットに目を向けてみても、スポットの中には水場が無いから魔物しかいない、という認識なんだよ。
つまり魔物は水も必要としないし、食事だって要らないわけだ。魔力で構成された擬似生命体なんだから。
その擬似生命体が、水も食料も無いってだけでドワーフの里に出ないなんて、おかしくない?
魔物が出ない場所としてすぐに思い浮かぶのは、街中とサンクチュアリの内部の2ヶ所だ。
人間と獣人に比べて人口の少ないドワーフ族が、人口を理由に魔物の発生を抑えられているとは考えにくい。となると、ドワーフの里にはなにか結界効果でもあるんだろうか?
…………まさかとは思うけど、魔物が発生する魔力すら無い、とか?
っと、なんだか大幅になんか脱線してしまったなぁ。ポータルの話どこいったよ?
でもティムルのおかげでポータルについてと、何故かドワーフの里についての知識は深まったと思う。
為になる話を聞かせてくれたお礼によしよしなでなでしながらちゅっちゅっとキスをして、ティムルお姉さんのポータルの講義は終了した。
ティムルお姉さんのポータルの授業が終わったので、次はリーチェ先生にアナザーポータルについて聞いてみよう。
「なんでリーチェはアナザーポータルが使えるのに、俺達が4人で遠征に行った時に後から合流してこなかったの?」
「あの時は合流しようか物凄く迷ったんだけどねぇ……。一応依頼も終わってないし、我慢したんだよ」
「でもさ、アナザーポータルがあれば日帰りも余裕だよね? 毎日この家で寝泊りしてたんなら、合流しても一緒じゃないの?」
「あのねぇ……。アナザーポータルだってポータルと一緒なんだよ? 1度行った場所じゃないと飛べないってこと、忘れてない?」
ああそうか。あの時リーチェってまだスポットに入ったことがなかったのか。
なんかもう昔から家族だったみたいに錯覚してしまってたわ。
「うん。なんだかぼくもみんなと家族じゃなかった頃を思い出せないよ。本当に、みんなと一緒にいるのが自然に感じられるようになってきたかな」
柔らかく微笑むリーチェに、親愛のキスを捧げておく。
「アナザーポータルとポータルって、使用場所がアウターの中と外ってだけで、他には何の違いも無いの?」
「んっと、微妙に違う部分はいくつかあるね。アナザーポータルは、アウター内であれば小部屋なんかにも転移できるんだ。勿論、行ったことが無ければ無理なんだけどね」
なるほど。屋内で使えないと、ルインやケイブじゃ使えなくなっちゃうもんな。
ポータルと同じだと認識していたら、意外と気付けなかった違いかもしれない。
「でも、1度到達した場所でも、アウター内が大きく変化しちゃうと飛べなくなるね。数年振りに挑戦するアウターとかだと、始めから探索しなおしたりしなきゃいけなくなる場合が多いみたい」
逆に言えば、大きく変化しない限りは大丈夫ってことか。
俺達がスポットで遠征しているように、毎日同じアウターに入ってれば心配しなくて良い要素だね。
「あとオープンを使って開けなきゃいけない、魔法で施錠された部屋には飛べないんだ」
「魔法扉って1回開けたら開きっぱなしってわけじゃないのか?」
「時間経過で閉じたり現れたりするらしいからねぇ。魔法扉がどこに設置されるかは全く読めないから、今まで転移していた場所が突然いけなくなった……、なんてこともあるみたいだよ?」
ランダムで設置されるマジックドアね。
既にオープンを使える俺には何の障害にもならないけど、オープンが使えないとかなりウザそうだ。
「魔法扉の奥は魔力が溜まりやすくて、強力な魔物や価値ある財宝が眠っていると言われているね。ただ、設置されているトラップも強力だって話だよ。……例えば、呪われたりね」
なるほど。もしかしたらニーナの両親も魔法扉の奥で呪いを貰ったのかもしれないな。
いや、もしかしたら未発見のアウターだったせいで探索が進んでおらず、呪いが発生するほど魔力が溜まっていたのかもしれないな。
「そう言えば、リーチェでさえニーナの呪いのことは何も知らなかったんだったっけ」
「うん……。移動阻害の呪いなんて、ぼくも今まで聞いたことが無かったよ。だからニーナの呪いを初めて見た時は、本当に信じられない想いだったんだ」
ああ、あれは本当に異様だもんね。ニーナは全力で走ってるのに、体は全然進んでいかないっていうチグハグさ。
「ぼくにとってポータルもアナザーポータルも、使えて当たり前のものだから……。なんとなくニーナの前で移動魔法を使う気になれなかった、そんな気もするね……」
「……ああ、俺も同じ気持ちになったことあるよ。気を使ってくれてありがとうなリーチェ」
今でこそ普通に使ってる部分もあるけど、ネプトゥコにティムルを助けに行く時、ヴァルハールにフラッタの荷物を取りに行く時、ポータルを利用すると時はいつだってニーナを置いていくのが辛かった。
リーチェも同じように感じていたから、アナザーポータルであっさり合流なんて出来なかったのかもしれないなぁ。
「っとせっかくの流れだから、呪いについても教えてくれない? リーチェが知ってる呪いの種類と、解呪に成功した前例とかあったら知りたいんだけど」
「ぼくが知っているのは、大体五感を奪う呪いだね。喋れなくなる失語の呪い、聴力を失う失音の呪い、目が見えなくなる失明の呪い、物に触れても感触が分からなくなる失感の呪いとかね」
五感を奪ってくるのはやばいなぁ。
みんなの可愛い顔を見れなくなるのも嫌だし、みんなの綺麗な声を聞けなくなるのも嫌だ。みんなに好きだって言えなくなるのも嫌だし、みんなのエロボディの感触を失うなんて生きていけそうもないよ……!
「解呪! 解呪に成功した前例は無いのっ!?」
「解呪に成功した例の殆どは、アウターから出た特別な霊薬で……って話だねぇ。けどそもそもの話、呪いって凄く珍しい状態異常だから、呪い自体にあまり前例が無いんだよね」
数百年旅してきたリーチェが珍しいって言うんだから、相当なんだろうなぁ。
でも、アウターで解呪可能なアイテムが入手可能であるって知れただけでも収穫だ。
もうアウターエフェクトだって返り討ちに出来るし、職業浸透を進めて解呪出来そうなスキルを探しながら、霊薬のドロップを狙っても良いかもしれない。
紳商2人に艶福家大先生もいるうちのパーティなら、霊薬が出る可能性は他の人よりも全然高いはずだ。
「うん。勉強になったよ。ありがとうリーチェ」
「ううん。大したことが教えられなくてごめんね?」
「気にすんなって。ニーナの呪いもリーチェの問題も解決の糸口はまだ掴めてないけどさ、いつか必ず俺が解決してやるからな」
アナザーポータルと呪いに関する情報を提供してくれたリーチェ先生にも、よしよしなでなでキスをお見舞いしておく。
このキスには感謝の他に、リーチェを必ず助けてやるっていう決意と覚悟も乗せておくからね。
だけど全異常耐性で呪いの制限を緩和していくことが出来るのであれば、そのうちニーナも移動魔法を使えるようになるかもしれない。
ならばその時になって困らないように、今のうちに疑問を解消しておこう。
「なぁなぁティムル。1個聞いていいかな?」
「1個と言わず、なんだって答えてあげちゃうわよー?」
な、なんでもいいの!? なら是非ともスリーサイズをですね……!
と言いたいところだけど、この世界にスリーサイズの概念は無いのだ。残念だ。誠に残念で仕方ない……!
「この世界にはポータルっていう移動手段があるわけじゃん? なのになんでティムルはアッチンからマグエルまでの移動でポータルを使用しなかったの? 馬車に乗ったのってフォーベアからだったよね?」
「あはーっ。そんなの荷物が多すぎたからに決まってるじゃないのー。ダンだって見たでしょ? あの時の私の荷物の多さ」
確かにティムルはアッチンで商材を仕入れたとかで、背負った巨大リュックにパンパンに荷物を詰め込んでいた記憶はある。
でも、俺たちって花壇用の土をポータルで運搬したじゃん? ティムルが背負ってた荷物って、土がパンパンにはいったリュックより重かったって言うの?
「ポータルの荷物制限は、重さじゃなくて大きさで判定されるのよ。分かりやすく言えばインベントリと同じ。インベントリも重さは感じなくなるけど、収納できないものは運搬できないでしょ?」
重さじゃなくて大きさ。重量じゃなくて体積で制限がかかるのか。
インベントリと違って、服や食料とかの鑑定できない物品も運べるけど、大きさによって制限がかかってると。
……ん? だったら小分けにして運べば良かったんじゃないの? 荷物が多い場合は何度も往復すれば良いのでは?
我が家の花壇の土運びだって、ティムルと2人で何度も往復したわけだし。
「あはーっ。それは自分でポータルが使えるダンだからこその発想よねーっ」
「へ? どういうこと?」
「覚えてるかしら? あの時に貴方に支払った報酬が5000リーフだったわよね? でも冒険者ギルドでポータルを利用すると、マグエルとアッチンを1往復するだけで2000リーフもかかるのよぉ?」
なるほど。コストに見合ってないのね。
行商人なんて地域差による値段の違いで稼ぐような職業だろうし、冒険者ギルドのポータルを使ってちゃ商売上がったりってか。
でもあの時は野盗が出たって話があったんだから、普通安全の方を優先しない?
「あはーっ。そうねーっ。お姉さん1人だったら、ギリギリまで様子を見てからポータルで帰ったと思うわねー?」
ニコニコと笑顔を向けてくれるティムル。
……なるほど。ティムルがアッチンでポータルを使わなかったのは、俺達と会ったから、か。
お姉さんに感謝の言葉とお礼のキスをお贈りして、ポータルの話を再開する。
「前回の遠征で、俺が教会でムーリを抱いてる間に物資を届けてくれたじゃん。あの時も小分けにして何度か往復してくれたの?」
「ううん。あの時はフラッタちゃんとリーチェで3等分して運んで、スポットの中で1つに合わせたの。詰め替えに多少時間がかかっても、移動時間が皆無だから問題なかったわね」
そっか。人数がいるなら分担すれば良いだけなのか。
詰め替えする時間は充分にあっただろうな。俺も予定より大幅に遅れていったし?
「移動魔法は本当に便利なんだけど、それだけじゃ物流は成立しないのよね。だからやっぱり行商っていう商売が成立するんだし、必要なわけね」
移動と運搬は別々ってことね。移動魔法はあくまで移動手段でしかないってか。
インベントリに色々入れることが出来たら話は変わってくるんだけどなぁ。
現状でも普通に背負うリュックくらいはパンパンに詰め込んでも移動できるんだし、これ以上を望むのは欲しがり過ぎなのかなぁ?
「それにポータルって、1回ごとに発動しなきゃいけないでしょ? 荷物の運搬のために往復で利用するには、ダンやリーチェみたいに自分で使えないとやってられないわよぉ」
うんざりしながら語るティムルの言う通り、ポータルは基本的に一方通行で、体半分だけ出して荷物を運搬したりすることは出来ない。
基本的に転送先から戻ることは出来ないのだ。例えばポータルに突っ込んだ腕を引き抜いたりすることは出来るけど、それをしてしまうとポータルは消滅してしまうんだよね。
つまるところポータルは入り口を作るだけの魔法であり、出口側の空間には何も無いのだ。だから往復しようと思ったら、転移先で改めてポータルを使用しなければいけない。
「行商人が立ち入り難いドワーフの里は、ほぼポータルでしか交易が出来なくてね? ポータルでしか出入りできない以上、ボッタくられるのはどうしようもないのよ。あの土地に住む限りはね」
装備品はインベントリに入れられるから大量に運搬できるけど、水や食料の運搬量は限られる。ドワーフの里に持っていく物資は限られるけど、ドワーフの里で仕入れる分にはいくらでも運搬できちゃうのね。
出入りにポータルが必要ってことは、外部から訪れた人全員がインベントリも使えるってことになるから。
1㎥のインベントリだと長柄の槍とかを運搬するの大変そうだけど、旅人と冒険者の2つを浸透させれば8㎥のインベントリは獲得できる。
1辺が2mもあれば、大抵の装備品は入っちゃうだろうなぁ。
「孤児院の子みたいに自分達で稼ぐのも、ドワーフの里に住む限りは無理なのよね。あそこって魔物すら出ないから」
「魔物すら出ないって凄まじいね……。想像つかないよ……」
「仮にドワーフが自分で冒険者になって物資を運搬したとしても、それで種族全体を賄える訳じゃないでしょ? それに魔物が出ないから、そもそも職業の浸透だって進まないと思うわよ?」
魔物すら出ないんじゃお手上げかぁ……。
この世界ってドロップアイテムで成り立ってるところがあると思うんだけど、魔物が出ない土地でどうやって暮らしてるんだろ?
ドワーフの里は農業も出来ないような枯れた大地だと聞いている。飲料水すら輸入に頼らざるを得ないなんて、はっきり言って人が生活できる場所とは思えない。
でもこの世界には魔法っていう概念があるんだよなぁ。例えばドワーフの里にスポットの土を持ち込んだら、農業が出来たりしないだろうか?
ああ、でもここで問題になってくるのが水の問題かぁ。
普通鍛冶仕事にも大量の水を使いそうなものなんだけど、この世界の鍛冶仕事には水は要らないんだもんなぁ。
「ダンが悩むことじゃないわ。ドワーフ族が勝手にやってることなんですもの」
べ、別にドワーフのことなんてどうでもいいんだからねっ!?
なんて昔懐かしいツンデレを発揮するまでも無くドワーフ族のことなんか知った事ではないんだけど、ドワーフの里にいる限りはドワーフの状況は改善しない。それはちょっと考えさせられるな。
「ただ、あの地に住むことを望まないドワーフくらいは助けてあげたいわねぇ。子供達なんて選択の余地もないのに、毎年何人も奴隷に落とされちゃってるし」
「……ティムルも口減らしに売られたって言ってたっけ」
口減らしをするということは、つまり生活できる人数をオーバーしてるってことだよな? なら移住を望むドワーフには積極的に手を貸してあげるべきなんじゃないのか?
んー。でもこれじゃ、やってることは奴隷商人と変わらないか。根本的な解決には結びつかないよなぁ。
「キャリア様に商人として鍛えられるようになって色々分かったんだけど……。なんでドワーフの里には魔物すら出ないのかが分からないのよねぇ」
「他に魔物が出ないような場所は存在しないの?」
「街中とかは別だけどね? 国中を回ったけど、魔物が出ない土地なんてあそこしか無いわよぉ?」
それも疑問なんだよな。スポットに目を向けてみても、スポットの中には水場が無いから魔物しかいない、という認識なんだよ。
つまり魔物は水も必要としないし、食事だって要らないわけだ。魔力で構成された擬似生命体なんだから。
その擬似生命体が、水も食料も無いってだけでドワーフの里に出ないなんて、おかしくない?
魔物が出ない場所としてすぐに思い浮かぶのは、街中とサンクチュアリの内部の2ヶ所だ。
人間と獣人に比べて人口の少ないドワーフ族が、人口を理由に魔物の発生を抑えられているとは考えにくい。となると、ドワーフの里にはなにか結界効果でもあるんだろうか?
…………まさかとは思うけど、魔物が発生する魔力すら無い、とか?
っと、なんだか大幅になんか脱線してしまったなぁ。ポータルの話どこいったよ?
でもティムルのおかげでポータルについてと、何故かドワーフの里についての知識は深まったと思う。
為になる話を聞かせてくれたお礼によしよしなでなでしながらちゅっちゅっとキスをして、ティムルお姉さんのポータルの講義は終了した。
ティムルお姉さんのポータルの授業が終わったので、次はリーチェ先生にアナザーポータルについて聞いてみよう。
「なんでリーチェはアナザーポータルが使えるのに、俺達が4人で遠征に行った時に後から合流してこなかったの?」
「あの時は合流しようか物凄く迷ったんだけどねぇ……。一応依頼も終わってないし、我慢したんだよ」
「でもさ、アナザーポータルがあれば日帰りも余裕だよね? 毎日この家で寝泊りしてたんなら、合流しても一緒じゃないの?」
「あのねぇ……。アナザーポータルだってポータルと一緒なんだよ? 1度行った場所じゃないと飛べないってこと、忘れてない?」
ああそうか。あの時リーチェってまだスポットに入ったことがなかったのか。
なんかもう昔から家族だったみたいに錯覚してしまってたわ。
「うん。なんだかぼくもみんなと家族じゃなかった頃を思い出せないよ。本当に、みんなと一緒にいるのが自然に感じられるようになってきたかな」
柔らかく微笑むリーチェに、親愛のキスを捧げておく。
「アナザーポータルとポータルって、使用場所がアウターの中と外ってだけで、他には何の違いも無いの?」
「んっと、微妙に違う部分はいくつかあるね。アナザーポータルは、アウター内であれば小部屋なんかにも転移できるんだ。勿論、行ったことが無ければ無理なんだけどね」
なるほど。屋内で使えないと、ルインやケイブじゃ使えなくなっちゃうもんな。
ポータルと同じだと認識していたら、意外と気付けなかった違いかもしれない。
「でも、1度到達した場所でも、アウター内が大きく変化しちゃうと飛べなくなるね。数年振りに挑戦するアウターとかだと、始めから探索しなおしたりしなきゃいけなくなる場合が多いみたい」
逆に言えば、大きく変化しない限りは大丈夫ってことか。
俺達がスポットで遠征しているように、毎日同じアウターに入ってれば心配しなくて良い要素だね。
「あとオープンを使って開けなきゃいけない、魔法で施錠された部屋には飛べないんだ」
「魔法扉って1回開けたら開きっぱなしってわけじゃないのか?」
「時間経過で閉じたり現れたりするらしいからねぇ。魔法扉がどこに設置されるかは全く読めないから、今まで転移していた場所が突然いけなくなった……、なんてこともあるみたいだよ?」
ランダムで設置されるマジックドアね。
既にオープンを使える俺には何の障害にもならないけど、オープンが使えないとかなりウザそうだ。
「魔法扉の奥は魔力が溜まりやすくて、強力な魔物や価値ある財宝が眠っていると言われているね。ただ、設置されているトラップも強力だって話だよ。……例えば、呪われたりね」
なるほど。もしかしたらニーナの両親も魔法扉の奥で呪いを貰ったのかもしれないな。
いや、もしかしたら未発見のアウターだったせいで探索が進んでおらず、呪いが発生するほど魔力が溜まっていたのかもしれないな。
「そう言えば、リーチェでさえニーナの呪いのことは何も知らなかったんだったっけ」
「うん……。移動阻害の呪いなんて、ぼくも今まで聞いたことが無かったよ。だからニーナの呪いを初めて見た時は、本当に信じられない想いだったんだ」
ああ、あれは本当に異様だもんね。ニーナは全力で走ってるのに、体は全然進んでいかないっていうチグハグさ。
「ぼくにとってポータルもアナザーポータルも、使えて当たり前のものだから……。なんとなくニーナの前で移動魔法を使う気になれなかった、そんな気もするね……」
「……ああ、俺も同じ気持ちになったことあるよ。気を使ってくれてありがとうなリーチェ」
今でこそ普通に使ってる部分もあるけど、ネプトゥコにティムルを助けに行く時、ヴァルハールにフラッタの荷物を取りに行く時、ポータルを利用すると時はいつだってニーナを置いていくのが辛かった。
リーチェも同じように感じていたから、アナザーポータルであっさり合流なんて出来なかったのかもしれないなぁ。
「っとせっかくの流れだから、呪いについても教えてくれない? リーチェが知ってる呪いの種類と、解呪に成功した前例とかあったら知りたいんだけど」
「ぼくが知っているのは、大体五感を奪う呪いだね。喋れなくなる失語の呪い、聴力を失う失音の呪い、目が見えなくなる失明の呪い、物に触れても感触が分からなくなる失感の呪いとかね」
五感を奪ってくるのはやばいなぁ。
みんなの可愛い顔を見れなくなるのも嫌だし、みんなの綺麗な声を聞けなくなるのも嫌だ。みんなに好きだって言えなくなるのも嫌だし、みんなのエロボディの感触を失うなんて生きていけそうもないよ……!
「解呪! 解呪に成功した前例は無いのっ!?」
「解呪に成功した例の殆どは、アウターから出た特別な霊薬で……って話だねぇ。けどそもそもの話、呪いって凄く珍しい状態異常だから、呪い自体にあまり前例が無いんだよね」
数百年旅してきたリーチェが珍しいって言うんだから、相当なんだろうなぁ。
でも、アウターで解呪可能なアイテムが入手可能であるって知れただけでも収穫だ。
もうアウターエフェクトだって返り討ちに出来るし、職業浸透を進めて解呪出来そうなスキルを探しながら、霊薬のドロップを狙っても良いかもしれない。
紳商2人に艶福家大先生もいるうちのパーティなら、霊薬が出る可能性は他の人よりも全然高いはずだ。
「うん。勉強になったよ。ありがとうリーチェ」
「ううん。大したことが教えられなくてごめんね?」
「気にすんなって。ニーナの呪いもリーチェの問題も解決の糸口はまだ掴めてないけどさ、いつか必ず俺が解決してやるからな」
アナザーポータルと呪いに関する情報を提供してくれたリーチェ先生にも、よしよしなでなでキスをお見舞いしておく。
このキスには感謝の他に、リーチェを必ず助けてやるっていう決意と覚悟も乗せておくからね。
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