異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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3章 回り始める物語2 ソクトルーナ竜爵家

189 因縁 (改)

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 リーチェと2人で食堂の人間全員を避難させても、まだフラッタは帰ってこない。身動きの出来ない人を屋敷の外に運び出すだけだからな。こっちの救助が早すぎたようだ。

 フラッタは街の人に救助をお願いしにいったんだから、事情説明や救助の準備、屋敷までの移動にだって時間がかかる。


 このままフラッタを待ってるだけでも意味が無いわけじゃない。サンクチュアリを連発した分の魔力が回復していくのだから。

 でも感覚的には勿体無く感じちゃうよね。どうしようか?


「どうするリーチェ。このままフラッタを待ってる? それとも地下以外の反応を全部確認して、救助できる人は救助しておく?」

「そう、だね……。ここはアウターってわけじゃないし。トラップの類があるわけじゃない。生体察知で奇襲も対応できる……」


 先ほどは危険性を理由にフラッタと分かれる事に反対していたリーチェだったけど、要救助者の余裕の無い容態と敵っぽい反応が地下で動いていないことから、救助活動の危険性の認識を修正したようだ。


「うん。フラッタが戻る前に救助を進めた方が良いかもしれない。フラッタが来てから救助をしたら手遅れになる可能性も無くはないし」

「決まりだな。地下の反応を最後に残して、他の反応は全て確認してしまおう」


 要救助者の捜索と救助活動を再開し、屋敷中にサンクチュアリをばら撒きながらリーチェと2人で屋敷中の反応を確認して回る。


 この捜索で新たに見つかった要救助者は今のところみんな屋敷の使用人のようで、フラッタの家族らしき人は見つからない。

 1人要救助者を見つける度にリーチェと共に入り口まで運ぶのは少々面倒だけど、敵対勢力が紛れ込んでいる可能性もあるので、これ以上の分断を避けて安全策を取った。


 発見できた人は漏れなく喪心のバッドステータスにかかっており、みんな即身仏のようなガリガリの状態だ。体格の良い竜人族が骨と皮になると、他の種族が同じ状態になるよりも痛々しく感じてしまうなぁ。



「凄惨な状態でとても無事だとは言えないけど……。なんとか全員生きて運び出すことが出来たね……」

「まだ安心は出来ないけど、精神攻撃に晒されている場所からは救い出せた。あとは治療さえ出来れば……」


 助け出した人たちを見守りながら、死人を出さずに済んだ事をリーチェと共に喜び合う。


 屋敷内に感じる生体反応は地下の物を除いて全てチェックした。その結果救助できた人は26人だ。

 救助した全員が喪心でガリガリだったけど、なんとか全員生きて運び出す事に成功した。良かったぁ……。

 見て回った限りでは死体は1つも見つけられなかった。死亡者がゼロだったら不幸中の幸いって感じなんだけど、生体察知では死者は探せないからなぁ……。


 改めて被害者たちの様子を見ると、本当に痛々しくて惨たらしい。何日食事を抜いたらこんな状態になるんだよっ……!

 こんな状態で生きているのは、逆にバッドステータスの影響なんだろうか? 喪心で完全に無気力になったおかげで消費カロリーが抑えられていた、みたいな。


「フラッタ遅いな。早く戻ってきて欲しいんだけど……」

「気持ちは分かるけど仕方ないよ。いくら領主の娘でも領主邸に救援を送るなんて簡単に説明できないだろうしさ」


 なかなかフラッタが戻ってこない。少し焦りを覚える俺をリーチェが窘めてくれる。

 でももしかして、時間的にはまだフラッタが屋敷を離れて1時間も経ってない……? 敏捷性補正が累積しすぎて、俺の時間感覚がゲシュタルト崩壊してしまったようだ。


「このまま待ってても仕方ない。今のうちに俺達も休ませて貰おう」

「え? 待ってても仕方ないから休む???」


 リーチェに1度マグエルに戻ってもらって、適当に食べ物を買ってきてもらう。サンクチュアリを使える俺がこの場を離れるのは良くなさそうなので、建国の英雄をパシらせてしまったぜ。

 しかしエルフであるリーチェがヴァルハールを歩き回ると無用なトラブルが起きそうなので、面倒だけどマグエルまで戻ってもらった。


「お待たせ。状況的にここじゃ食べ難いかもしれないけどね」

「どうせ喪心で俺達を認識出来てないでしょ。気にせずいただこう」


 リーチェがマグエルの屋台で買ってきてくれた焼き串を2人で食べる。

 衰弱しきった被害者たちにこそ食事は必要だろうけど、この様子じゃ普通の食事を与えるのは無理だろう。悪いけど焼き串料理なんて食わせられないし、これから敵と対峙する可能性が高いので食事を控えるつもりもない。

 
 リーチェと軽く腹を満たすと、ようやく複数台の馬車を引き連れたフラッタが戻ってきてくれた。


「あそこに寝かされておるのが被害者なのじゃ! 全員極度の衰弱状態で、喪心という状態異常にかかっておるのじゃ!」


 戻ってくるなりテキパキと指示を出していくフラッタ。

 ……今更だけど、喪心をどうやって知ったのか、とか疑問に思われないかな? ステータスプレートにも表示されるし、フラッタがこうだと言えばここの連中は気にしないか?


「2人とも待たせたのじゃ! 救助者の人数が食堂にいた人数より多いが、屋敷内の捜索は終わっておるのか?」

「屋敷の捜索はしてない。生体察知の反応を確認しただけだね」


 屋敷内を全て捜索したわけじゃないから、どこかに死体が転がっている可能性は否定出来ない。それはスキルでの捜索が出来ないので、事が済んでから目で確認しないとダメだ。

 そんな細かい言い回しを正確に汲み取ってくれたフラッタが、なるほどと頷いてくれる。


「生体反応は地下に下りていった1つを除いて、屋敷の敷地内にはもう感じられないよ。そして地下に下りていった反応は、移動後は一切動いてないみたいだね」

「了解なのじゃ。父上も母上もまだ見つかっておらぬ、早速地下に向かうのじゃ」

「そうだね。俺達がここにいても意味がないんだから、さっさと目的地に向かうべきだ」

「その反応が父上や母上ではない可能性もあるが、この状況で移動出来ている時点で他の者とは状態が違いそうじゃからな。油断するでないぞ?」


 フラッタのセリフに少しだけ嫌な想像が頭をよぎってしまう。


 まだ見つかっていないフラッタの両親。

 両親。つまり行方不明者は現在2名。屋敷内の反応は残り1つ……。


 フラッタの両親が見つかるに越したことはないけど、地下の反応は別人であってほしいなぁ。これ以上フラッタが悲しむ姿なんて見たくないよ……。


「良いか! 現在ルーナ竜爵家邸は大規模な精神異常攻撃に晒されておるっ! 妾が戻ってくるまで、誰も屋敷に近寄ることは許さぬ! 皆の者は救助された被害者の治療と護衛に専念して欲しいのじゃっ!」

「はっ! 了解しました! フラッタ様もお気をつけて!」


 屋敷への再突入を前に、間違っても屋敷に人を入れるなと指示を出すフラッタ。

 救助に来てくれた人たちもフラッタの緊迫感を感じ取っているのか、フラッタの言葉を疑う様子は無さそうだ。


 散漫のせいで、たった3人でボス戦に挑まなきゃいけないのかぁ……。

 このあと敵と対峙するであろうことを思うと気が重くなるけど、精神異常耐性大効果すら貫通してくる精神攻撃が充満してる場所だからな。下手に人数を送り込む方が、かえって危険なんだよねぇ。

 フラッタとリーチェと一緒に再度敷地内に足を踏み入れ、他の人が入れないようにフラッタは竜爵家の門を閉じてしまった。


 ……これで退路が断たれたわけじゃないけど、門が閉じるってのは心理的に結構恐怖を煽ってくるもんだ。

 でも無双将軍とラスボスが味方にいるのにビビってられない。覚悟を決めろ。腹を括れ。


 警戒心マックスのフラッタを先頭に、改めて竜爵家邸に突入する。


「他に生体反応が無いのじゃから、このまま直接地下に赴くのじゃ」


 屋敷に入るなり、地下への直行を告げるフラッタ。

 もしかしたら屋敷内で力尽きている人がいるかもしれないけど、そっちの調査は後回しだ。


「地下は先ほども言った通り、訓練場と宝物庫があるからかなり頑丈なのじゃ。もし下に居る者が敵であった場合、遠慮は要らぬぞ」


 普通は訓練施設って屋敷の外に作らない? 崩れないようにめちゃくちゃ頑丈な施設を地下に作りましたっておかしくない? 発想が逆では?

 っていうか、そんな場所を地下に作っちゃったらさぁ。イベントバトルの舞台としてピッタリすぎると思うんだよねー……。

 
 嫌な予感を振り払いながらフラッタに続いて竜爵家邸を進んでいく。

 するとフラッタはエントランスの奥にある金属製の大きな扉の前に止まり、そこにステータスプレートを差し込んだ。

 こんな巨大な扉があったのに、さっきまでは全然気付かなかったな……。やっぱ俺も緊張してるのかもしれない。


 金属製の重厚な扉は、金属の軋む嫌な音を立てながらゆっくりと開いていった。

 ちっ、嫌な雰囲気だな。まるで地獄の窯の蓋が開いたように感じてしまうぜ……。


 不安な気持ちを振り払うように、すかさずサンクチュアリを展開して、ここでもフラッタを先頭にして扉の先の階段を下りていった。


「こ、ここって地下だよね? ず、随分頑丈な構造をしてるみたいだけど……」

「うむ。竜化して暴れても平気なように設計されたと聞いておるのじゃ」


 キョロキョロと周りを見渡しながら思わず感想を呟くリーチェと、どこか誇らしげに説明をするフラッタ。


 階段と地下施設の建材が、石材どころか金属で笑うんだけど……? 地下には宝物庫もあるらしいから過剰な強度とは言えないかもしれないけど、ただの訓練施設に金使いすぎじゃない?

 ルーナ竜爵家は脳筋。これではっきりしたね。


 何気に1分くらい階段を下りると、扉の付いていない大部屋が見えてきた。ここが訓練場ってことか。

 パッと見だけど、屋敷の面積くらいありそうな訓練場だな。屋内にどんだけ巨大な訓練場作ってんだよ脳筋貴族め。


「フラッタ。生体反応はこの先から全く動いてない。警戒してくれ」

「了解なのじゃ。敵である想定をしておくのじゃ」


 ……この先に居るのがフラッタの親であっても、この状況下で自由に動けてる時点で敵だよなぁ。


 フラッタの実力は疑いようもないけど、それでもまだフラッタは13歳の少女なんだ。家族と敵対した場合、迷いなく動けるとは考えない方がいいだろう。

 静かに覚悟を決めて、訓練場に足を踏み入れる。


「あっ……!?」


 室内にいた人物を見て、思わずフラッタが叫ぶ。


「父上! 母上! 2人とも大丈夫なのじゃっ……!?」


 訓練場に立っていたのは1組の男女。フラッタの反応を見る限り、どうやらこの2人がフラッタの両親で間違いないらしい。


 1人は非常に体格の良い、まさに武人といった雰囲気を纏った男性。

 銀髪のフラッタとは違い燃えるような赤い髪は短く刈り揃えられており、こちらをねめつける双眸は髪と同じく真っ赤だ。

 遠目からでもかなり大きいのが分かる。下手すりゃ2mを優に超えるくらい身長がありそうだ。

 武器や鎧を身につけてはおらず、黒いフォーマルスーツを着用している。服装と雰囲気がちょっと合ってない気がするなぁ。


 そしてもう1人は、フラッタをそのまま大人にしたような非常に美しい成人女性。

 フラッタと同じ銀の長髪、赤い瞳でこちらを静かに見詰めている。

 ……この人がフラッタの母親だとするなら、フラッタの将来はおっぱい的な意味で非常に明るそうである。


 こちらの女性は俺が使っているようなロングソードを両手で1本ずつ握り、その全身は金属製のプレートメイルで覆われている。

 着込んでいるのは恐らくフラッタの鎧と同じ、聖銀のプレートメイルじゃないかなぁ。


 ……プレートメイルを着こんでいてもおっぱいのサイズが分かるなんて、魔法によるサイズ調整の精密さには舌を巻くよ。


「父上! 母上! 今この屋敷は危険な……」

「フラッタ。帰ってきちゃダメって、あんなに言ったでしょう? どうして戻ってきちゃったの? 私の言うことが聞けないなんて悪い子ですねぇ?」


 フラッタの必死の言葉を遮るフラッタの母。

 笑顔を崩さず口調も穏やかなのに、既に臨戦態勢に入っているのは疑いようもないほどの強烈な殺気を放っている。


「母上! 事情を話して欲しいのじゃ! 妾にだって出来ることはあるのじゃ! もう妾は待っているだけの無力な子供ではないのじゃぁっ!」


 母親に対して必死に訴えるフラッタ。
 
 ダメだな。フラッタは戦える状態じゃない気がする……。元々予定していた通り、フラッタの両親の相手は俺がするしかないか……!

 
 と、お義母さんには悪いけど、まずは無断で鑑定させてもらおう。



 ラトリア・ターム・ソクトルーナ
 女 41歳 竜人族 竜化解放 竜騎士LV167
 装備 重銀のロングソード 重銀のロングソード 聖銀のプレートメイル
    火竜のグリーヴ 火竜の護り
 状態異常 支配



「……支配っ!?」

「ダン!? 君はいったい何を見たの!?」


 鑑定内容には色々ツッコミたいけどそれどころじゃねぇっ!

 リーチェの問いかけに応えるよりも、今はこの情報をフラッタに伝えないとっ!


「フラッタぁっ! ラトリアさんは支配って状態異常にかかってるっ! 恐らく話が通じる状態じゃないぞぉっ!!」

「なっ!? 支配、じゃとぉっ!?」


 フラッタにラトリアさんの状態を伝えつつ、最速で詠唱してサンクチュアリを展開。どう考えても散漫よりも重いバッドステータスに思えるけど、支配にも効果はあるかっ……!?

 そして母親が支配状態だっていうなら、父親の方も支配状態なのかっ!?


 ――――しかし父親の鑑定結果で、全てを理解する。


「…………そういう、ことかよぉ……!!」


 この屋敷で起こっていた異変の全ての元凶がコイツであることを、理解できてしまった……!


 ありったけの魔力を込めるつもりでサンクチュアリを展開し、訓練場全てを結界で包み込む。

 しかし残念ながらラトリアさんの支配状態に変化は無く、ラトリアさんは会話していたフラッタから、サンクチュアリを展開した俺のほうに注意を向けてきている。


 そして父親にサンクチュアリの光が届くと、フォーマルスーツに身を包んでいた美丈夫の姿は炎に包まれる。


「なぁっ!? ち、父上!? 何が、なにが起こったのじゃぁっ!?」

「フラッタ! リーチェ! お義母さんの方は俺が抑えておく! だから2人はそっちのクソ野郎を頼むっ!!」

「ええっ!? ダン、いったいどういう……。って、これはっ……!!」


 サンクチュアリによって齎させら清浄な空気を押し返し、突如訓練場内に満ちる濃密な死の気配。

 それに気付いたリーチェが、戸惑いながらも事態を把握していく。フラッタも異変を感じ取り、距離を取って聖銀のバスタードソードを構えた。


 ――――この感覚ももう3度目だ。いつまでもビビッてられるかよっ……!!


「父上……じゃ、ないっ!?」


 破邪の炎から突き出されたのは、肉も皮もない白骨の腕。
 
 纏っていた格式高い紳士服は襤褸切れに変わり、燃えるような赤い髪も赤い瞳も失われている。


 道理で生体反応に1つしか反応が無いわけだよ。なぁっ……!


 サンクチュアリの炎の中から現れたのはいつか見た骸骨。

 その顔には眼球もなく、なのに俺を睨みつけているのだけは感じられる。


 ……これで会うのは3度目か。俺とアウターエフェクトには本当に因縁でもあるのかねぇ?

 俺を睨む視線に対抗するように相手を睨みつけ、そして現れた相手を鑑定する。



 マインドロード



 ……マインドロード。ロード種か。

 テラーデーモンの時と同じく、アウターエフェクトは鑑定では名前しか分からないようだ。


 でもコイツがアウターエフェクトで、竜爵家邸への精神攻撃の元凶で、ラトリアさんの支配を行なっているのは間違いないだろうなぁ!


「こいつはマインドロード! アウターエフェクトだ! 名前からして、この屋敷で起こっている異変の元凶は間違いなくこいつだぁっ!」

「マインドロード……、ロード種じゃとぉっ!? ヴァルハールの中に、竜爵家邸の中に……、人々の中になぜロード種なんぞが潜んでおるのじゃぁっ……!?」


 困惑したようにフラッタが叫ぶ。

 正確なメカニズムは分かっていないけれど、魔物は人の生活圏に現れることは無いはずなのに。そして開拓村が壊滅したように、アウターエフェクトとは出現と共に殺戮を繰り返す存在のはずなのに……!

 なんでヴァルハールの中心にある竜爵家邸に、こんな奴が潜んでいたんだか……!


「はは……。呆れるよ……。たったひと月の間にデーモン種とロード種の両方に遭遇するかい、普通……?」


 弓を番えながら、まるで愚痴を零すように呟くリーチェ。

 何でいるかは俺にだって分からないし、遭遇したのは俺のせいじゃないからねっ!? 俺が悪いみたいな言い方しないでくれるかなぁっ!?


 ……だが何も分からないけど、こいつが全ての元凶で俺達の敵だってことだけは明白だっ!


 ちっ……。出来れば魔物との相性が良い俺が戦いたいところなんだけどなぁ。

 フラッタとお母さんを戦わせたくないし、ロード種にフラッタ1人で挑ませるわけにもいかない。マインドロードは2人に任せて、ラトリアさんのことは俺が食い止めるしかないか……。


 ていうか対人戦だと、攻撃魔法の通じるマインドロードより、フラッタを上回る剣の達人らしいラトリアさんの方が強くね?

 たとえそうでも負けてやるつもりは、一切無いけどねっ!
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