異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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3章 回り始める物語2 ソクトルーナ竜爵家

168 口八丁 (改)

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 お金の使い道をムーリに相談して、教会の偉い人となるべく早く話をしたいと告げる。

 するとムーリは早速今日のうちにスペルディアに行って話を通してくると言うので、俺のポータルで送ってあげた。


 確かに既に12月に入っている。14歳の孤児たちは絶望しているだろうし、自棄を起こす子が出ないとも限らない。明るいニュースは可能な限り早く届けないと普通に危ない。


「ムーリの迎えもあるから、夕食は教会でみんなで食べる事にしようか」

「了解よ。夕食の準備は任せてちょうだいねっ」

「あ、帰ってきたらすぐに入れるように、浴槽に水だけ溜めておいてくれる? 今の俺なら沸かすのはすぐにできると思うからね」


 ダブルフレイムランスも使える様になったし、それを長時間キープできるくらいの魔力補正も浸透済みだ。それに魔法攻撃力が上がった事で、フレイムランスの火力も上がってるかもしれない。


「そう言えば元々、遠征帰りの疲れを癒すのがお風呂の目的だったねっ。なんだかいっつもえっちな事にしか使われてない気がするけどっ」


 ニーナ、ニコニコしながらえっちなこと言うやめて? 普通にえっちなこと言われるよりよっぽど興奮しちゃうからね?


「フラッタ。お前との一騎打ちは教会と話がついてからにして欲しい。負けてやるつもりは毛頭ないけど、俺達の都合に教会を巻き込むわけにはいかないからね」

「妾はいつでも構わぬのじゃ。ダンが力不足だとはもう思ってないしのぅ。じゃがやはりダンには、妾を倒すくらいの実力を示してもらいたいのじゃっ」


 フラッタを押し倒すだけなら歓迎なんだけどねぇ。


 職業補正の恩恵が、魔物戦と対人戦では大きく変わってくる。デーモン種を塵も残さず消滅させてやっても、ワンダに斬られれば普通に死ぬからな。

 フラッタを安心させる為に、やはりフラッタを超える必要があるだろう。


「それじゃ食材を買い込んで教会に行こうか。えーっと、ムーリと子供達で17人、俺たちが5人、新しく来たのが21人で、合計43人かな? 50人くらいを想定した食事を作れば間に合うはずだね」

「その人数だと流石に教会の食堂は手狭になりそうだし、みんなで摘める様なものが多いといいかもしれないわね。今から準備すれば、夕食の時間はそんなに遅れずに済むかしら」


 ティムルが夕食を具体的にイメージしながら、色々考えてくれている。

 摘める物が必要なら、ホットサンドメーカーも持っていくかぁ。


「あ~! 料理を習っておいて良かったよぉ! ぼくもお手伝いするからねっ! 遠慮なくなんでも言ってねっ!」


 リーチェが何でもって言うと、脊髄反射でエロい指示を出したくなるから困るよ。

 ニコニコしたリーチェにエロい事を言うわけにもいかないので、よしよしなでなでで我慢しておくけどさぁ。


「今後俺たちは必要以上に金を稼ぐのはやめようね。魔玉を買うのも無し。必要な物以外はドロップアイテムも無視しよう」


 遠征回数を減らした分、寝室に篭る時間を増やそうではないかっ! ってまぁ、普通にマグエルを旅立つ準備が整ったってだけなんだけどさぁ。


「そうね。ニーナちゃんの呪いもだけど、フラッタちゃんの美貌、リーチェの存在と、このパーティには注目される要素が多すぎるもの。あまり派手に動くと良くないものを呼び込みかねないわ」

「美人のティムルお姉さんだって注目の的だってば。まぁティムルの言った通り、うちのパーティはちょっと目立ちすぎると思うからね。せめて行動くらいは大人しくしておこうよ」


 俺が大人しくしていても、ヴァルハールの時みたいに絡まれそうなんだけどさぁ。


「孤児院を立てたりトライラム教会に多額の寄付をしようとしたり、ダンは全然大人しくする気ないのじゃ」


 ……何気にフラッタってツッコミに回ることが多いなぁ。素直だから、思ったことをすぐに口に出しちゃうのかもしれないね。よしよしなでなで。


 5人で市場に行き、大量の食材を買い込む。

 購入した食材はいくら大人数でも明らかに1食で食べきれる量じゃなかったけど、誰も何も言わなかった。余ったって、教会で消費してもらえばいいだけだもんね。


 新しく来た子供達と俺たちの初顔合わせなので、4人の強い希望でフレンチトーストの材料を大量に購入する羽目になった。

 荷物持ちはもうリーチェ以外誰でも問題なく出来るので、いくら買い込んでも持ちきれない事はない。


 ぼそっと『フォワーク神殿じゃなくて、まずは行商人ギルドに行こうかなぁ……』と囁いたリーチェをよしよしなでなでしておく。

 何気に行商人の能力は日常生活の貢献度がめちゃくちゃ大きいからな。同情でもなんでもなく、浸透させておいて全く損がない能力だよー?


 教会に到着し、夕飯を提供する代わりに炊事場を借りる。

 うちの炊事場も大きい方なんだけど、流石に教会の炊事場みたいに大人数の料理を作ることを想定されてないからな。教会の方が大量の料理を作りやすいのだ。


 デザートのフレンチトーストは先に完成させまくっておいて、それが終わったら調理の続きをみんなに任せて、俺はムーリのお迎えだ。

 つまみ食い防止のために無双将軍が防衛にあたってくれているけど、無双将軍こそ食べちゃダメだからね? 防衛の代金として、1個だけあげるけどさぁ。



 ポータルでスペルディアのトライラム教会の大聖堂に到着する。

 最早普通に使ってるけど、移動魔法の恩恵はやはり絶大だ。これを使えないニーナのハンデはまだまだ大きい。


 スペルディアの大聖堂には入り口に来客用の窓口があるので、ムーリの迎えに来たことを伝えて待たせてもらう。ムーリとはパーティを組んでいるので、ムーリがまだ教会の中にいるのは間違いない。

 少し待たされたのち、ムーリがこちらに向かっている事が感じ取れた。パーティ登録ってマジで便利だなぁ。


 姿を現したムーリは、おっぱいをぶるんぶるんと弾けさせながら、なんだか余裕がなさそうに俺に駆け寄ってきた。


「ダンさんっ。済みませんが、ダンさんも来ていただけますかっ!? ちょっと私だけじゃ司教様を説得できなくてですねぇ……!」


 ふむ? 寄進を受けてくれないってことかな? その可能性を考えて納税の事情を紐付けたんだけど、あれでもダメかぁ。手強い。

 清廉潔白も行き過ぎると人を不幸にしちゃうからなぁ。水清ければ魚棲まず、とか言ったっけ。

 
 息の整ったムーリに案内されて教会の奥に案内される。応接室の前で止まって、ムーリがドアをノックする。


「シスタームーリです。提供者の方を連れて参りました」

「どうぞ。入ってください」


 中からは高齢っぽい女性の声。

 ガリアが居たから男がいないってわけでもないんだろうけど、トライラム教会にはシスターから始まって、女性の方が多いのかもなぁ。

 ムーリに続いて入室する。室内には50代くらいの女性が1人、ソファから立ちあがって出迎えてくれた。


「お初にお目にかかりますわ。私はトライラム教会で司教を務めさせていただいているテネシスと申します」


 思ったよりは友好的な態度に感じるなぁ。まぁ寄付の拒絶だって教義に順じてるだけで、俺に敵対してるわけじゃないのか。


「魔物狩りをしているダンと言います。本日はお時間を取ってもらってありがとうございます」 


 こっちも敵対しに来たわけでもない。この人は味方のはずなんだから、間違えても敵対しちゃダメだな。


「それではどうぞおかけください」


 ムーリも座ったので、その隣に腰掛ける。


「では早速になりますが、本題と参りましょう。お話はシスタームーリから伺っておりますが、改めてダンさんの口からも聞かせていただけますか?」


 ふむ。ムーリが嘘をついていると思ってるわけじゃないだろうけれど、資金提供者が直接説明しなきゃいけないのは仕方ないか。


 予期せず大金を手に入れてしまい、使い道に困ってしまった。そこで普段からトライラム教会にはお世話になっているので、その恩返しのためにこのお金を使いたいと思った。

 しかし教会の教義に反してしまうのは分かっているので、教会を通して納税することで神への感謝を捧げたい、なんて適当な理由をでっち上げる。


 適当な理由をでっち上げるのは得意中の得意だからな。


「なるほど。シスタームーリのお話に間違いはないみたいですね。毎月の礼拝日の時も自主的にお手伝いに参加してくださっているといいますし、トライラム教会の教義も理解した上での行動であるようですね」


 どうやら適当な理由でも信じてもらえたようだ。

 まぁ理由は適当でも、神様に感謝してるのは本当だからね。妄信なんてしてないけど、神様への感謝だけならトライラム教会のトップにも負けない自信がある。


「ダンさんの申し出、正直に言わせてもらうと非常にありがたいと思っているのです。お恥ずかしながら、私たちだけでは子供達を救うことが出来ていないのが現状ですから」


 肯定から入ったということは、最終的に断るつもりだって事だろうなぁ。

 でもテネシスさん話し終わるまでは、黙って聞いておく。


「ですが、やはりどうしても迷ってしまうのです。当教会の教義である、信仰とは常に人々に幸福を齎す為に存在するべきであり、決して人々から奪う存在になってはいけないという教えに反するものでは無いのかと……」

「…………ふむ」

「たとえダンさんが自主的に寄進してくださると言っても、やはりこれは教会が信仰を利用して、ダンさんの財産を奪うことになってしまうと思うのです」


 す、凄いなぁ。潔癖すぎる。自主的な寄進すら許さないとか、どうやったらそんな宗教が成立できたんだろう?


「それにですね。前例を作ってしまうと次の機会に断るのが難しくなってしまうんです」

「前例、ですかぁ……」

「お金と言うのは人の心を腐敗させ、堕落させます。自分達で富を得ることを忘れた時、トライラム教会の腐敗を止める術はないでしょう」


 ふむ。確かに寄付や寄進は腐敗の温床だよね。それを防ぐ為に一切の前例を許さないってのも、理に適ってるとは思うんだけどさぁ。


「……テネシスさんのお話と考え、よく理解できました」


 でもねテネシスさん。綺麗事だけで人が救えるなら、誰も苦労はしないんだよ?


「つまりはこういうことですよね? トライラム教会の教義を守る為には孤児たちの未来を奪っても仕方がないと、テネシスさんはこう仰るわけだ」

「そうはっ! そうは申しておりませんっ!」

「そうですか? ご自身の発言、もう1度思い返してみてはいかがです?」


 テネシスさんには悪意を感じないけれど、悪意が無ければなにをしてもいいってわけじゃないんだ。

 テネシスさんにだって信念があるのは分かってるけど、だけどその信念、あえて否定させて貰うよ。


「トライラム教会は常に与える側でなければならないと言いながら、奪う側になってはいけないと言いながら、貴女は多くの子供達の未来を、ご自身の意思で奪おうとしているでしょう?」


 今目の前に、子供達の未来を救う手が差し出されているのに。

 テネシスさんの教義の解釈で、その手を振り払い、子供達の未来を閉ざし、将来を奪い、命を蔑ろにしている。


 綺麗事とか御託とかどうでもいいんだよ。そんなのは、子供達を考えてから並べりゃいい。

 少なくとも、誰かの未来を奪ってまで優先すべきことじゃねぇだろうが……!


「俺はトライラム教会の教義に深く感銘を受けているんですよ。だから孤児たちの借金を払って、子供達に未来を齎したいと思ってるんです。ねぇテネシスさん。俺の行動って、本当にトライラム教会の教義から外れてることかなぁ?」

「……そ、れは」


 なんで俺、大金を自主的に寄進する為に相手を脅すようなことしてんだよ。意味分からないわぁ。


「テネシスさん。よく考えて。今まさに子供達に15歳以降の人生が齎されようとしてるんだよ? そして14歳の子供達にはもう時間が残されていないんだ」

「…………っ」

「それに俺の金が教会に寄進されるわけでもないでしょ? なんだったら14歳の子供を集めてもらうだけで、納税処理は俺が直接こなしてもいい。そうすれば教会には1リーフも入ることがないからね」


 テネシスさんは融通が利かないだけで、子供の将来を閉ざしていいと思ってるわけじゃないはずだ。だけど信仰心に篤過ぎて、教義の解釈が狭くなっちゃってる。

 だから俺が口八丁で、教義を拡大解釈して教えてやればいい。


「テネシスさんの信仰心も、トライラム教会の教義も、本当に素晴らしい物だと思ってるよ。でも俺の信じるトライラム教会ってさ。教義のために子供を犠牲にするような場所じゃないんだ」

「……今の私は、子供達を教義の犠牲、に……?」

「そもそもの話だけど、俺の提案がトライラム教会の教義に悖るものだとは思ってないからね?」


 ガリアみたいなクソも居たけど、トライラム教会は本当に立派な組織だと思う。

 ――――だからこそ。


「俺の信じるトライラム教会の教義。信仰とは、常に人々に幸福を齎すべきという考え。その教義に則ってする行動を、テネシスさんにこそ否定して欲しくないんだよ」


 テネシスさんに反論の機会を与えず畳み掛けた。

 これでとりあえず言いたいことは言ったつもりだ。これでもダメなら、ムーリに別のお偉いさんを紹介してもらおう。


「……来年で15を迎える孤児は、現在30名ほど教会で預かっている状態です。その子たち全員を救ってくださることは……?」


 目を閉じたままのテネシスさんが、孤児の人数を教えてくれる。

 んーと、コットンと新しく来た6人で7名。それに30名追加で37名。37人×150万リーフって、計算面倒だけど大体6000万弱か。

 まだ手元に発光魔玉が2000個以上あるし、余裕だな。


「可能ですね。30人の奴隷落ちは間違いなく回避可能です。その30名って、この教会でって事ですか? それともトライラム教会全体での人数?」

「教会全体の人数です……。マグエルに居る子供達も含めた、教会全体の人数、です……!」


 あ、なんだ。マグエルの7人も入ってるのね。4500万とか下手したら魔玉に手をつけなくても賄えそうだわ。

 つうか0歳から14歳が均等に居るとすると、450人くらい孤児を預かってんのかな? 凄すぎるわトライラム教会。


 テネシスさんはゆっくりと目を開き、そしてまたゆっくりと俺に向かって頭を下げた。


「……ダンさん。私の負けですわ。子供達に未来を齎す事が出来るのであれば、私にもこれ以上嬉しいことはありません。どうか子供達の事、よろしくお願いします……!」

「ん? いや勝ちも負けもないでしょ。別に俺たちは敵対してるわけじゃないし。俺もテネシスさんも、そして子供達自身も協力すりゃいいんですよ」


 そもそもの話、教義の解釈だってお互いにぶつかり合ってるってほどじゃない。テネシスさんの視野が少し狭くなってただけの話だ。


「そう、ですわね……。私もダンさんも、等しくトライラム教会の教義に順ずる者なんですね。ならば勝ちも負けも無い。子供達のために手を取り合っても、いいんですね……」


 頭を下げたままで肩を振るわせるテネシスさん。

 いや、別にテネシスさんの考え方だって立派だと思うよ。その考えのおかげでトライラム教会は清廉潔白でいられたんだろうしさ。


 でもいくら立派な考えでも他の人を犠牲にしてまで守るほどのもんじゃない。俺が勝手にそう思うってだけの話さ。
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