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3章 回り始める物語1 スポットの奥で
162 ※閑話 遠征中の子供達 (改)
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「ワンダ。インベントリに余裕は?」
「まだ半分は入るかな。全然余裕だぜっ」
サウザーの確認の言葉に、自分のインベントリの中身を確認しながら答える。
格好つけてつい大袈裟に言ってしまいたくなるけど、パーティメンバーには正確な情報を伝えなきゃいけないからなっ。
「ワンダのインベントリも大分使いやすくなったね。往復の回数も荷物の量も格段に減ったし、旅人が1人いると稼ぎが全然変わってくるんだねっ」
ビリーが褒めてくれるのが少し照れくさいぜっ。
戦闘ではビリーたちに頼りっきりだし、リーダーって難しいもんなんだなぁ。
ダンたちが慌ただしく遠征に出発してから2週間。俺たちは決して無理せず、だけど確実に活動して、1歩1歩強くなっている実感がある。
本音を言えば、俺も戦闘職になってみたかった。だけどコテンの方が性格的にも種族的にも戦士に向いている事は分かっていたから、リーダーの俺が我がままを言うワケにはいかないよ。
でも残念に思っている俺に、ダンが旅人の良さをこれでもかと教えてくれた。ニーナが旅人じゃなかったら、マグエルまで辿り着く事も出来なかったよって笑いながら。
「それになワンダ。旅人になると疲れにくくなるんだよ。だからみんなが疲れてくる頃こそ、お前がみんなを支えてやって欲しいんだ」
疲れにくくなるってどういうことだ?
そんな風に思っていたけど、俺たちだけで遠征をするようになってすぐに分かった。
魔物との戦闘は、コテン、リオン、ビリーのおかげでどんどん楽になってる。だけどそれでも俺達の腕じゃ、まだまだ楽勝ってワケにはいかない。
スポットの中だと、6人の俺たちよりも魔物の群れの方が常に大きいから。
魔物との戦いが続いていくと、みんな肩で息をして、武器を持つ手が下がってくる。だけどそんな中俺だけは、明らかにみんなほど疲れが溜まってない。
俺が動き回って魔物を引きつけて、その隙をついて戦士の3人が魔物を仕留める。
俺のことはドレッドとサウザーがサポートしてくれるから、魔物に囲まれたって怖くなんかないっ。
「パーティのみんなが疲れ切っている時に1人でも元気な奴がいると、みんなの支えになれるんだよ。だからリーダーのワンダが旅人からスタートするのはピッタリだと思うよ」
ダンが言っていた通り、俺が動き回る事で他のみんなが楽を出来ている事が少しずつ分かってきた。疲れにくい俺は積極的に動き回って魔物の注意を引いて、みんなに少しでも楽してもらうんだっ!
「ワンダ。調子……、乗らない」
調子に乗っても、こうやってすぐドレッドが止めてくれるしなっ。
1日中スポットに入ると、大体2000リーフに届くか届かないかくらい稼ぐことが出来る。
始めはこの金額にただ喜んでいたんだけど、サウザーのひと言でお金を見る目が完全に変わってしまった。
「僕達6人で1日中スポットに潜って、それでもやっと2000リーフに届くか届かないかって稼ぎなのに……。たった2人でスポットに入っていたダンとニーナは、もっと稼げなかったはずだよね……?」
サウザーの呟きを聞いて血の気が引いた。
戦士と旅人の2人だけだったダンとニーナは、いったいどれ程の苦労をしてきたんだろう。
「今の僕達よりも稼げていなかったはずなのに、草むしりするだけの僕達にお腹いっぱいになるまでご飯を出して、500リーフも払ってたんだ、ね……」
お金を稼いだ事の喜びよりも、2人にどれほどお世話になっていたのかをより深く思い知らされてしまった。
そう言えばダンは、ナイフと木の盾、皮の靴しかない状態で、戦えないニーナを守りながらマグエルを目指したって言ってた。
6人でパーティを組んで全身の装備まで用意してもらって、それでもたった2000リーフなんだ。たったと言っても俺たちにとっては決して安くない金額だけど。
だけど俺達よりも間違いなく稼げていなかったはずのマグエルに到着したばかりの2人にとって、俺達に支払っていた500リーフというお金はどれ程の重さを持っていたんだろう……。
出会ってからずっと、ダンもニーナも笑っている事しか見たことがない。あの2人は俺達のために、笑顔の裏でどれだけの苦労をしていたんだろう……?
今身につけている装備だって、6人分の全身装備をお店で購入したら恐らく100万リーフはするんじゃないのか? それを気前よく貸し出して、年内の間は貸し出し料も取らないなんて、俺たちはいったいどれくらいあの人達にお世話になっているんだよっ……!
たった2000リーフ稼いだ程度で満足してる場合じゃない! 俺達はまだまだあの2人の背中を見ることすら出来ていないんだ……!
俺達が稼いだお金は、サウザーとビリーに管理をお願いしている。けれど2人はその殆どをシスターに渡しているみたいだ。
装備代も気にする必要はないし、装備の貸し出し料は教会に請求されるわけだから、シスターに渡すのは当たり前だよな。
「みんな。ありがとうございます。でも無理しなくていいんですよ? このお金で自分達の装備を整えたり、将来の為に貯めておいたっていいんです。貴方達が自分で稼いだお金なんですから、貴方達の好きに使っていいんですよ」
シスターはダンのお嫁さんになってから、いっつもニコニコと楽しそうにしている。
ダンのこと、始めはシスターを狙う悪い奴だと思ってたのに、そのダンがシスターを悪い奴から守ってくれたんだよなぁ。
11月の礼拝日から、シスターは凄く活き活きと笑う様になった気がする。
ダンたちが遠征に出発したすぐ後、マグエルに21人も新しい孤児が送られてきた。
せっかく暮らしが少し上向いてきたと思ったら、すぐにその分の余裕を埋める様に子供を送ってくる教会本部に腹が立つ……!
なんて思っていたら、新たな子供の受け入れはダンとシスターが話し合って決めたことだと聞かされた。
「21名のうち6名は、コットンと同じで来年15を迎える子供たちなんです。ダンさんはコットンも新しい6人も、全員を奴隷になんてする気なんて全く無いみたいですよ?」
新しい子供を迎えるのに、シスターはそれが嬉しくて仕方ないみたいに笑ってる。
今までは新しい子供が来る度に、シスター室でこっそり泣いていたのはみんな知ってる。だけど今のシスターは、新しい子供を引き受けられるのが嬉しいみたいだ。
変わったのは俺たちだけじゃなくて、教会の周囲も変わっていった。
教会の敷地内に井戸が2つ新しく掘られて、ダンの家に水を汲みに行く必要すら無くなったんだ。
そしてなんだか教会の近くに、宿みたいな建物が建設され始めている。今は礼拝堂で寝泊りしている新しい子供たちの為の建物なんだって、シスターが楽しそうに語ってくれた。
新しく来た奴らとはすぐに仲良くなれた。魔物狩りをしている俺達を凄い凄いって褒めてくれるし、この教会ではお腹いっぱい食事が出来るって、みんな泣きながらご飯を食べてた。
そんなみんなの様子を見て、そう言えばいつの間にかお腹を空かせることが無くなっていたことに今更気付いた。
……いつの間にか、じゃないよな。あの2人が来てから、に決まってるよ。
新しく来た子供達は、コットン率いるダンの家の庭の管理部隊に任命された。
みんなまだダンとは会ってないけれど、貴方達を受け入れてくれた人の家なんですよとシスターが説明したから、みんなやる気満々で仕事をこなしている。
人手が増えた事でコットンの負担も減り、俺たちは魔物狩りに集中することが出来るようになった。子供が増えて嬉しいと思ったことなんて、俺も初めてだったかもしれないなぁ。
毎日寝る前に、シスターに許可を貰ってダンの庭で剣を振る。教会でやるとうるさいからな。ダンの家は今誰もいないからちょうどいい。
戦闘職じゃない俺は、とにかく戦う技術を磨くしかない。
ダンは全員に戦士、商人、旅人、修道士の4つはやってもらうって言ってたけど、俺が戦士になれるのは何年後になるか分からないからな。訓練あるのみだ。
それにダンは、旅人が1番強くなるのが早いんだよって言ってくれた。
「疲れにくいってことは、それだけ沢山訓練できるってことなんだ。フラッタから教わった技術を誰よりも早く磨けるのは、旅人のワンダなんだよ」
ダンの言葉を信じて、毎夜剣を振っている。
面倒くさくて適当に振りそうになるけれど、フラッタの剣を思い出しながら、1回1回真剣に剣を振り続ける。
「妾が出会った頃のダン、アレは確か7月辺りじゃったかのう? その頃のダンは技術も何もなく、ただ戦闘職の補正に頼って剣を振るばかりでな? ワンダはおろかリオンやビリーよりも、よっぽどめちゃくちゃだったのじゃぞ?」
俺の方があの頃のダンよりも筋がいい、そうフラッタは褒めてくれるけど、そんな状態のダンが俺たちにどれだけのことをしてくれたのかを思うと、調子に乗ってる余裕なんてない。
そんなめちゃくちゃだったダンは、俺達を助けてくれて、シスターを悪い奴から守ってくれて、コットンや新しく来た奴らを借金奴隷から助けてくれて、どんどん人を助け続けている。
俺よりめちゃくちゃだったなんて言われているダンの剣は、フラッタと打ち合い、リーチェと打ち合い、もう俺の目になんて捉えられないほどの早さと技術になっている。
俺が何にも出来ない間に、俺なんかあっさり抜き去って誰よりも強くなったダンにみたいに、俺だってなってやるんだっ!
「ワンダ。そろそろ時間。帰ろう」
寝る時間になるといつもドレッドが迎えに来てくれる。
ドレッドは本当に頼りになるよなぁ。戦闘職じゃないのにさぁ。
「ワンダ。最近あんまり調子、乗ってないね?」
短い帰り道、ドレッドから静かに告げられる。
最近調子に乗ってないって? そうなのかなぁ? ドレッドが言うならそうなのかもしれないけど、自分じゃよくわからない。
「なんだろ。剣を握って魔物と戦うようになってから、周りの人の凄さが分かってきてさ。ちょっと焦ってるのかもしれないな……」
口数の少ないドレッドには、なんだか悩みを相談しやすい。みんながいる前じゃ言えない事でも、ドレッドしかいない今なら素直に口に出来た。
「コテンもリオンもビリーも流石戦闘職って感じだし、サウザーもよく機転を利かせてくれるよな。ドレッドはいつも戦闘の要だし。俺だけ役に立ててないような、そんな気がするんだよ」
そんなことはないって、ダンが旅人を勧めてくれたのは間違ってないって思ってるけど。魔物と戦っていると、やっぱり焦る。
俺だけ役に立てていないような気が、どうしても拭えない。
「……やっぱりワンダ、変わったね? ワンダがリーダーで良かったって、思うよ」
ドレッドの言葉は嬉しいけど……。俺がリーダーって、今更ながら務まってるのかなぁ? ドレッドかサウザーのほうが、よっぽどリーダーに向いてる気がするのに。
でも、ドレッドが良かったって言ってくれるなら、リーダーをもうちょっと頑張ってみたい。
誰よりも弱かったのに、誰よりも早く強くなったダンが、リーダーの俺には旅人がピッタリだって言ってくれたんだ。旅人として、リーダーとして、みんなを支えられる男になってやるっ!
そしていつかダンみたいに、困ってる人を見境なく助けられるような男になってやるんだっ。
まずはパーティメンバー、次は教会のみんな、その次は新しくきた奴ら、そうやって少しずつ支えられる人を増やしていって、みんなに頼られるリーダーになってみせるっ!
そしていつかダンみたいに、綺麗なお嫁さんをいっぱい貰うんだっ! 調子に乗ってる暇なんかないぜっ!
「まだ半分は入るかな。全然余裕だぜっ」
サウザーの確認の言葉に、自分のインベントリの中身を確認しながら答える。
格好つけてつい大袈裟に言ってしまいたくなるけど、パーティメンバーには正確な情報を伝えなきゃいけないからなっ。
「ワンダのインベントリも大分使いやすくなったね。往復の回数も荷物の量も格段に減ったし、旅人が1人いると稼ぎが全然変わってくるんだねっ」
ビリーが褒めてくれるのが少し照れくさいぜっ。
戦闘ではビリーたちに頼りっきりだし、リーダーって難しいもんなんだなぁ。
ダンたちが慌ただしく遠征に出発してから2週間。俺たちは決して無理せず、だけど確実に活動して、1歩1歩強くなっている実感がある。
本音を言えば、俺も戦闘職になってみたかった。だけどコテンの方が性格的にも種族的にも戦士に向いている事は分かっていたから、リーダーの俺が我がままを言うワケにはいかないよ。
でも残念に思っている俺に、ダンが旅人の良さをこれでもかと教えてくれた。ニーナが旅人じゃなかったら、マグエルまで辿り着く事も出来なかったよって笑いながら。
「それになワンダ。旅人になると疲れにくくなるんだよ。だからみんなが疲れてくる頃こそ、お前がみんなを支えてやって欲しいんだ」
疲れにくくなるってどういうことだ?
そんな風に思っていたけど、俺たちだけで遠征をするようになってすぐに分かった。
魔物との戦闘は、コテン、リオン、ビリーのおかげでどんどん楽になってる。だけどそれでも俺達の腕じゃ、まだまだ楽勝ってワケにはいかない。
スポットの中だと、6人の俺たちよりも魔物の群れの方が常に大きいから。
魔物との戦いが続いていくと、みんな肩で息をして、武器を持つ手が下がってくる。だけどそんな中俺だけは、明らかにみんなほど疲れが溜まってない。
俺が動き回って魔物を引きつけて、その隙をついて戦士の3人が魔物を仕留める。
俺のことはドレッドとサウザーがサポートしてくれるから、魔物に囲まれたって怖くなんかないっ。
「パーティのみんなが疲れ切っている時に1人でも元気な奴がいると、みんなの支えになれるんだよ。だからリーダーのワンダが旅人からスタートするのはピッタリだと思うよ」
ダンが言っていた通り、俺が動き回る事で他のみんなが楽を出来ている事が少しずつ分かってきた。疲れにくい俺は積極的に動き回って魔物の注意を引いて、みんなに少しでも楽してもらうんだっ!
「ワンダ。調子……、乗らない」
調子に乗っても、こうやってすぐドレッドが止めてくれるしなっ。
1日中スポットに入ると、大体2000リーフに届くか届かないかくらい稼ぐことが出来る。
始めはこの金額にただ喜んでいたんだけど、サウザーのひと言でお金を見る目が完全に変わってしまった。
「僕達6人で1日中スポットに潜って、それでもやっと2000リーフに届くか届かないかって稼ぎなのに……。たった2人でスポットに入っていたダンとニーナは、もっと稼げなかったはずだよね……?」
サウザーの呟きを聞いて血の気が引いた。
戦士と旅人の2人だけだったダンとニーナは、いったいどれ程の苦労をしてきたんだろう。
「今の僕達よりも稼げていなかったはずなのに、草むしりするだけの僕達にお腹いっぱいになるまでご飯を出して、500リーフも払ってたんだ、ね……」
お金を稼いだ事の喜びよりも、2人にどれほどお世話になっていたのかをより深く思い知らされてしまった。
そう言えばダンは、ナイフと木の盾、皮の靴しかない状態で、戦えないニーナを守りながらマグエルを目指したって言ってた。
6人でパーティを組んで全身の装備まで用意してもらって、それでもたった2000リーフなんだ。たったと言っても俺たちにとっては決して安くない金額だけど。
だけど俺達よりも間違いなく稼げていなかったはずのマグエルに到着したばかりの2人にとって、俺達に支払っていた500リーフというお金はどれ程の重さを持っていたんだろう……。
出会ってからずっと、ダンもニーナも笑っている事しか見たことがない。あの2人は俺達のために、笑顔の裏でどれだけの苦労をしていたんだろう……?
今身につけている装備だって、6人分の全身装備をお店で購入したら恐らく100万リーフはするんじゃないのか? それを気前よく貸し出して、年内の間は貸し出し料も取らないなんて、俺たちはいったいどれくらいあの人達にお世話になっているんだよっ……!
たった2000リーフ稼いだ程度で満足してる場合じゃない! 俺達はまだまだあの2人の背中を見ることすら出来ていないんだ……!
俺達が稼いだお金は、サウザーとビリーに管理をお願いしている。けれど2人はその殆どをシスターに渡しているみたいだ。
装備代も気にする必要はないし、装備の貸し出し料は教会に請求されるわけだから、シスターに渡すのは当たり前だよな。
「みんな。ありがとうございます。でも無理しなくていいんですよ? このお金で自分達の装備を整えたり、将来の為に貯めておいたっていいんです。貴方達が自分で稼いだお金なんですから、貴方達の好きに使っていいんですよ」
シスターはダンのお嫁さんになってから、いっつもニコニコと楽しそうにしている。
ダンのこと、始めはシスターを狙う悪い奴だと思ってたのに、そのダンがシスターを悪い奴から守ってくれたんだよなぁ。
11月の礼拝日から、シスターは凄く活き活きと笑う様になった気がする。
ダンたちが遠征に出発したすぐ後、マグエルに21人も新しい孤児が送られてきた。
せっかく暮らしが少し上向いてきたと思ったら、すぐにその分の余裕を埋める様に子供を送ってくる教会本部に腹が立つ……!
なんて思っていたら、新たな子供の受け入れはダンとシスターが話し合って決めたことだと聞かされた。
「21名のうち6名は、コットンと同じで来年15を迎える子供たちなんです。ダンさんはコットンも新しい6人も、全員を奴隷になんてする気なんて全く無いみたいですよ?」
新しい子供を迎えるのに、シスターはそれが嬉しくて仕方ないみたいに笑ってる。
今までは新しい子供が来る度に、シスター室でこっそり泣いていたのはみんな知ってる。だけど今のシスターは、新しい子供を引き受けられるのが嬉しいみたいだ。
変わったのは俺たちだけじゃなくて、教会の周囲も変わっていった。
教会の敷地内に井戸が2つ新しく掘られて、ダンの家に水を汲みに行く必要すら無くなったんだ。
そしてなんだか教会の近くに、宿みたいな建物が建設され始めている。今は礼拝堂で寝泊りしている新しい子供たちの為の建物なんだって、シスターが楽しそうに語ってくれた。
新しく来た奴らとはすぐに仲良くなれた。魔物狩りをしている俺達を凄い凄いって褒めてくれるし、この教会ではお腹いっぱい食事が出来るって、みんな泣きながらご飯を食べてた。
そんなみんなの様子を見て、そう言えばいつの間にかお腹を空かせることが無くなっていたことに今更気付いた。
……いつの間にか、じゃないよな。あの2人が来てから、に決まってるよ。
新しく来た子供達は、コットン率いるダンの家の庭の管理部隊に任命された。
みんなまだダンとは会ってないけれど、貴方達を受け入れてくれた人の家なんですよとシスターが説明したから、みんなやる気満々で仕事をこなしている。
人手が増えた事でコットンの負担も減り、俺たちは魔物狩りに集中することが出来るようになった。子供が増えて嬉しいと思ったことなんて、俺も初めてだったかもしれないなぁ。
毎日寝る前に、シスターに許可を貰ってダンの庭で剣を振る。教会でやるとうるさいからな。ダンの家は今誰もいないからちょうどいい。
戦闘職じゃない俺は、とにかく戦う技術を磨くしかない。
ダンは全員に戦士、商人、旅人、修道士の4つはやってもらうって言ってたけど、俺が戦士になれるのは何年後になるか分からないからな。訓練あるのみだ。
それにダンは、旅人が1番強くなるのが早いんだよって言ってくれた。
「疲れにくいってことは、それだけ沢山訓練できるってことなんだ。フラッタから教わった技術を誰よりも早く磨けるのは、旅人のワンダなんだよ」
ダンの言葉を信じて、毎夜剣を振っている。
面倒くさくて適当に振りそうになるけれど、フラッタの剣を思い出しながら、1回1回真剣に剣を振り続ける。
「妾が出会った頃のダン、アレは確か7月辺りじゃったかのう? その頃のダンは技術も何もなく、ただ戦闘職の補正に頼って剣を振るばかりでな? ワンダはおろかリオンやビリーよりも、よっぽどめちゃくちゃだったのじゃぞ?」
俺の方があの頃のダンよりも筋がいい、そうフラッタは褒めてくれるけど、そんな状態のダンが俺たちにどれだけのことをしてくれたのかを思うと、調子に乗ってる余裕なんてない。
そんなめちゃくちゃだったダンは、俺達を助けてくれて、シスターを悪い奴から守ってくれて、コットンや新しく来た奴らを借金奴隷から助けてくれて、どんどん人を助け続けている。
俺よりめちゃくちゃだったなんて言われているダンの剣は、フラッタと打ち合い、リーチェと打ち合い、もう俺の目になんて捉えられないほどの早さと技術になっている。
俺が何にも出来ない間に、俺なんかあっさり抜き去って誰よりも強くなったダンにみたいに、俺だってなってやるんだっ!
「ワンダ。そろそろ時間。帰ろう」
寝る時間になるといつもドレッドが迎えに来てくれる。
ドレッドは本当に頼りになるよなぁ。戦闘職じゃないのにさぁ。
「ワンダ。最近あんまり調子、乗ってないね?」
短い帰り道、ドレッドから静かに告げられる。
最近調子に乗ってないって? そうなのかなぁ? ドレッドが言うならそうなのかもしれないけど、自分じゃよくわからない。
「なんだろ。剣を握って魔物と戦うようになってから、周りの人の凄さが分かってきてさ。ちょっと焦ってるのかもしれないな……」
口数の少ないドレッドには、なんだか悩みを相談しやすい。みんながいる前じゃ言えない事でも、ドレッドしかいない今なら素直に口に出来た。
「コテンもリオンもビリーも流石戦闘職って感じだし、サウザーもよく機転を利かせてくれるよな。ドレッドはいつも戦闘の要だし。俺だけ役に立ててないような、そんな気がするんだよ」
そんなことはないって、ダンが旅人を勧めてくれたのは間違ってないって思ってるけど。魔物と戦っていると、やっぱり焦る。
俺だけ役に立てていないような気が、どうしても拭えない。
「……やっぱりワンダ、変わったね? ワンダがリーダーで良かったって、思うよ」
ドレッドの言葉は嬉しいけど……。俺がリーダーって、今更ながら務まってるのかなぁ? ドレッドかサウザーのほうが、よっぽどリーダーに向いてる気がするのに。
でも、ドレッドが良かったって言ってくれるなら、リーダーをもうちょっと頑張ってみたい。
誰よりも弱かったのに、誰よりも早く強くなったダンが、リーダーの俺には旅人がピッタリだって言ってくれたんだ。旅人として、リーダーとして、みんなを支えられる男になってやるっ!
そしていつかダンみたいに、困ってる人を見境なく助けられるような男になってやるんだっ。
まずはパーティメンバー、次は教会のみんな、その次は新しくきた奴ら、そうやって少しずつ支えられる人を増やしていって、みんなに頼られるリーダーになってみせるっ!
そしていつかダンみたいに、綺麗なお嫁さんをいっぱい貰うんだっ! 調子に乗ってる暇なんかないぜっ!
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