異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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2章 強さを求めて3 孤児と修道女

131 ナイトウルフがナイトウルフ (改)

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 魔物が全滅したので、ドロップアイテムの回収をしている子供達に声をかける。


「初陣はどうだった? 攻撃を喰らった奴はいるかな?」

「初陣も何も、ダンの様子を見てたら全部吹っ飛んじゃったよ……」


 なんか4人ともゲンナリとした眼差しを俺に向けてくる。

 あー、フラッタを初めて見た俺とニーナもこんな感じだったかもしれないね?


 コテンを庇ってドレッドがナイトウルフに噛み付かれたそうなので、修道士の回復魔法を試してみる。


「慈愛の蒼。自然の緑。癒しの秘蹟。ヒールライト」


 ドレッドの体全体が、淡い光に包まれる。


「す、凄い。も、もう痛くない……!」

「ドレッド。よくコテンを守ってくれたね。偉いぞ。そして今のお前を癒した力が今度お前が手に入れる力だ。楽しみにしておくといい」


 ドレッドの頭をわっしわっし撫でながら、一応回復魔法士もセットしてスキルを確認する。

 うん。どうやら同じヒールライトのようだね。


 ただ、初級攻撃魔法の例を挙げるなら、レベルアップで新しい魔法を覚える可能性も充分にある。回復魔法士も修道士もやっぱり両方上げないといけないね。


 ドレッドも回復させたし、万全の状態でまた狩りを続ける。

 初陣を経験した事で子供達の動きは良くなり、2体、3体と同時に相手取る魔物の数を増やしていく。

 そのたびに被弾は増えるけど、最初のうちに被弾を経験しておくのは重要だ。苦しいだろうけど頑張れ。


 ナイトウルフ4体との同時戦闘まで経験させて、本日のスポットの活動は終了した。


「え、もう終わり? 私たちならまだ平気だよっ!」

「俺のいたところでは『まだ平気はもう危ない』って言葉があってね。初日から無理はさせないよ」


 実際にまだまだ余裕がありそうな元気いっぱいのコテンを宥める。

 余裕があるうちに退くことが安全を確保する上で大事なんだよ、多分。


「それに今日は初日だし、ムーリがかなり心配してると思う。早めに帰って安心させてあげようね」


 ムーリは俺を信用してくれてるけど、子供の心配をしてしまうのは別の話だろう。まずは子供達が無事に帰ってくる事を示して、彼女の信頼と安心を勝ち取らなきゃいけない。

 何事も焦らず少しずつ確実に、だね。


「ドロップアイテムは全部お前たちが回収していい。ムーリに渡して教会の運営費の足しにしてもいいし、お前達の活動に必要な道具なんかを揃えてもいいよ」

「魔物狩りに必要な道具? 装備品のことじゃなくって?」

「最低限、ドロップアイテムを入れる袋と水筒くらいは用意したほうがいいぞ。水はうちの井戸から汲めば無料タダだしな」

「……そっか。これからはお金の使い道も僕達で考えなきゃいけないんだね……」


 商人志望のサウザーは、お金の運用に思うところがあるようだ。

 大いに悩んでいっぱい成長して欲しい。


「冒険者ギルドで今回のドロップを売却したら、1度ムーリに顔を見せて安心させてやってくれ。そうしたらまたうちで訓練をしよう」

「……うん。分かった」

「俺たちが遠征に出発するまでは、早めに魔物狩りを切り上げてうちでの訓練。当面はこのスケジュールで、お前達だけで戦える力を身につけてもらおうと思ってる」

「ああ! 俺たちだけで戦えるようにならないと、ダンが留守にしてる間に何も出来なくなっちゃうもんなっ。くぅ~! 早く俺も強くなりたいよっ」


 早く強くなりたいと唸るワンダ。男の子してるねぇ。


「ねぇねぇダン。スケジュールには文句ないんだけどさ。最近シスターを呼び捨てにしてるよね? シスターのこと、貰ってくれる気になったの?」


 お、まだムーリ呼びして数日なのによく見てるもんだよ。

 じゃじゃ馬な印象が強いコテンだけど、やっぱり女の子って色恋沙汰には敏感なのかねぇ?


「まだ本決まりじゃないけどね。ムーリのことを嫁に迎えることになったんだ」

「ほらーっ! 言った通りじゃないっ!」


 子供達はスポットの話よりもムーリの話に興味深々で、マグエルまでの道中、ずっと事情聴取を受けてしまった。

 ようやくかーっ、安心したーっ、年越さなくて良かったーっ、とか言われてるよムーリ。


 どうやらムーリが俺を好きになってるのは子供たちにはバレバレで、子供達に反対されることもなく、みんなが祝福してくれた。

 これをご都合主義だと思ったりはしないさ。ずっと仲良くしてきたから素直にお祝いしてくれてる、そう思うことにする。


 冒険者ギルドに寄って、まずは今日1日の報酬を確認する。


「さ、316リーフ!? は、半日も戦ってないのに、こんなにっ!?」

「おー凄いな。俺が初めて貰った報酬なんて、丸1日戦って22リーフだったよ?」


 初日に22リーフしか稼げなかった俺と、初陣からマグエルに来た時の俺より稼いでいる子供達。

 やっぱり駆け出しの頃に支援してあげることが大切で、適切な指導と充分な準備さえ出来れば、子供達でもしっかりと魔物狩りとして稼ぐことが出来るようだ。


「この報酬の他に魔玉の発光も進むからね。来年からは教会のみんなの人頭税を、お前たちの稼ぎで捻出することも出来るようになるさ」

「そっ、そっか……! 魔玉ってドロップアイテムとは別なんだ……!」

「さ、まずはムーリに無事を知らせて、それが済んだらうちにおいで」


 初めての報酬に感動している子供達を急かして、冒険者ギルドで一旦解散する。

 子供達を見送った俺は、1人だけポータルを使ってとっとと帰宅する。


 帰宅すると、ポータルで帰った俺に気付いたニーナが直ぐに駆け寄ってくる。


「お帰りなさいご主人様。その様子だと、とても順調だったみたいですね」

「ただいま。そして流石ニーナだね。順調だったよ。4人も教会に顔を出したらすぐに来るよ。またドレッドに指導してあげてね」


 訓練の準備をしながら全員分の飲み物と軽食を用意していると、4人が家にやってきた。


「みんないらっしゃい。スポットから戻ったばかりだから、訓練する前に少し休憩するよ。庭の手入れをしてる皆にも、お前たちの武勇伝を聞かせてあげるといい」


 庭に布を強いて、ピクニック気分で子供達と休憩する。

 教会の仲間達の武勇伝に、庭の手入れを手伝ってくれていた子たちも興味深々だ。


「えっ、ホント!? シスターやっと告白したんだっ!? 良かったーっ!」

「もうじれったくて仕方なかったよねーっ!」

「夏前には好きになってた癖にさーっ。余計なこと考えすぎだよねー?」


 おい、子供達の武勇伝何処いった?


「ダンって10体くらいの魔物を素手で相手してたんだぜ……? しかも1体は素手で倒しちゃうしさぁ。遠目で見ててどん引きしたよ……」


 引率してやってるのにドン引きしてんじゃねぇっての。


「最後のほうとか魔物がキュウン、キュウンって鳴いてたもんねー。こっちに投げられた魔物が凄く嬉しそうな顔してたよー」


 それは気のせいです。魔物は嬉しそうな顔などしません。知らないけど。


「ナイトウルフの後ろ足を掴んで、そのナイトウルフ2匹を振り回して武器にして別のナイトウルフを殴ってたんだよ? もう何回ナイトウルフって言ったのかも分からないよ」


 ナイトウルフの、ナイトウルフによる、ナイトウルフを殴る為のナイトウルフ。リンカーン大統領かな?


 身近な仲間たちが語る武勇伝に、子供達は興奮気味だ。

 自分も自分もっ、そんなことを言っている子も何人かいるみたいだ。


 この調子ならパーティメンバーが6人になる日も近そうだ。


「ねぇダン。他にも魔物狩りをしてみたいっていう子がいるんだけどさ。その子たちにも支援はしてくれるの?」


 コテンが他の子を代表して聞いてくる。

 ほんと、物怖じしない子だなぁ。


「してもいいよ。でもその場合、俺より先にムーリをちゃんと説得してあげてね?」


 ムーリは俺のことも子供たちのことも、心から信頼してくれていると思う。

 だけどそれでも心配せずにはいられないのが保護者というものだろう。


「それにここの庭の管理は支援の条件の1つなんだから、魔物狩りしながらでもちゃんと管理してもらわないと困るよ?」

「そっかぁ。ここのお庭のお世話をする人が必要なんだった……。コットン1人じゃ流石に全部はお世話出来ないし……。う~……」


 腕を組んで唸るコテン。

 この世界には交代とかシフトとかって発想は無いかな?


「いや、そんなに難しく考えることないじゃん? 例えば交代で魔物狩りをするとかさ。色々考えれば良いよ」


 この世界には曜日の概念や定休日みたいな発想って無いからな。子供達だって放っておくと体力の続く限り魔物狩りを続けかねない。

 引率する大人として、子供達に無理はさせられない。


「というか俺達の留守中も、少なくとも1週間に2回は休みを入れて欲しいんだ。急いで稼ぐんじゃなくて、長い目で見て無理なく安定して稼いで欲しいんだよ、俺は」

「交代とお休みかぁ。分かった。シスターと他の子と一緒に考えてみるね」

「そうだね。ムーリも交えて話し合ってくれると助かるよ」


 お転婆でじゃじゃ馬だけど、ちゃんと人の話を聞いてくれるコテンは、素直ないい子だと思う。


「それと参加希望の子には必ず戦闘の指導を受けさせに来てね? 指導も受けずにスポットに入るのは許さないから」

「分かった。絶対に守らせるからねっ」


 コテンは、わーっと走って他の子供のところへいく。

 ……なんで子供って移動手段が基本全力疾走なんだろうね? 若いわぁ。


 休憩を終えて、各自戦闘訓練を開始する。

 子供達も1度実戦を経験した事で、訓練に対する意識も変わったようだ。昨日よりも確実に動きがいい。


「ふふ。子供達を気にしてるなんて余裕だねぇ? それじゃどんどんいくよ。王子様っ」

「いくらでもおいでお姫様。お前がくれる全部を、零すことなく受け止めてあげるからね」


 最近のリーチェの剣の稽古は、本当に容赦が無くなってきている。

 ボコボコにされながらも目や意識は少しずつリーチェの剣に慣れ始めているけれど、体の反応が全然間に合わないのだ。悔しい。


 反応速度を上げるには集中するしかない。

 集中しても足りないなら、リーチェの動きを先読みするしかない。


 リーチェのことだけに集中して、リーチェの動作の先を読め。

 リーチェの呼吸も瞬きもおっぱいの揺れも、なに1つ見落とすな。特におっぱいの動きは脳内に焼き付けろ。


 リーチェの思考を先読みし、リーチェの動きを先回りし、裏をかき、かく乱する。

 けれど技術にも補正にも差があるのか、どれだけ趣向を凝らしても全部余裕で防がれてしまう。


 強い。本当に強い……!

 マジでラスボスなんじゃないのかこいつ?


 そう言えば昔、ヒロインを助けたら化け物になって襲い掛かってくるゲームがあったなぁ。

 助けたつもりのヒロインに、スキーのストックで刺し殺された事もあったなぁ。


 ま、仮にリーチェが敵に回ったとしても、リーチェに俺を殺させるわけにはいかないねっ。


 筋肉の動きや血液の流れまで把握するつもりでリーチェに集中する。リーチェに没頭する。


 リーチェを助ける為には、このラスボスリーチェを上回らなければいけない。

 だからリーチェにだって、負けている場合じゃないんだよぉっ。
 



 ……だけど、やっぱり届かない。

 どんなに叫んだって、気持ちだけでは覆らない。現実の実力差は埋まらない。


 振り抜かれた俺の木剣。だけどその先が喪失している。

 渾身の力と想いを込めて振った木剣は俺の想いに耐え切れずに、リーチェの剣とぶつかって砕け散った。


 砕けた剣を見詰めながら、リーチェが静かに呟いた。


「ダンは凄いねぇ……。君は本当に、1日でさえも足踏みする気はないんだねぇ……」

「ニーナを貰ってからずっと足踏みしかしてないもんでね。いい加減、俺も先に進みたいんだよ」


 砕けた木剣の不甲斐なさに、少し苛立つ。


 砕け散ってる場合じゃないんだよ。玉砕なんか、するつもりはないんだよ。

 当たって砕けるつもりはない。当たったら、必ず勝たなければいけないんだ……!


 ルーナ竜爵家。

 その当主と当主夫人は、フラッタよりも強いという。


 精神攻撃を受けた2人が襲い掛かってきても余裕で撃退できるようじゃないと、ルーナ竜爵邸に向かうわけにはいかないんだよねぇ。
 

 フラッタより強い竜人族と敵対するとか、考えたくもない。

 ……けど1度、フラッタに竜化状態でボコボコにしてもらっておこうかなぁ?
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