異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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2章 強さを求めて2 新たに2人

112 ※閑話 どっちが本当? (改)

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「あ、兄上が行方不明じゃとぉっ!?」


 突如齎された凶報に、はしたなくも取り乱してしまったのじゃ。


 なんだかここ最近、ルーナ竜爵家には良くない知らせばかりが届く。

 いったい竜人族に、なにが起こっているというのじゃっ……!


 少し前、ヴァルハールから遠く離れた場所にて、竜人族が人間族に秘密裏に飼育され、違法奴隷として売り捌かれているという情報が持ち込まれた。

 その情報は、内部告発者による密告だったのじゃ。


 商売人というのは、ほんに理解に苦しむ人種じゃのう。

 上の席を空けるために自分の所属する商会を破滅させるなど、いったい何がしたいのじゃ。

 
 密告があった直後は、そんな馬鹿なと笑い飛ばしたほど荒唐無稽な話だと思ったのじゃ。

 人間族が妾たち竜人族をまるで家畜のように扱うなどと、そんな馬鹿な話があるわけがないと。

 仮に奴隷に落とされる事はあっても、人間族のような脆弱な種族に竜人族が屈することなどあり得ぬと。


 そんな妾を窘めたのは兄上じゃった。


「フラッタ。人間族を侮っちゃいけないよ。彼らは種族的に弱者であるからこそ、あらゆる手段で他の種族を引き摺り下ろすことに長けた種族だからね。彼らは脆弱であるからこそ、手段を選ぶような余裕は無いんだ」


 兄上は既に自由に各地のアウターで活動することを許されていて、パーティメンバー6人で世界中の様々なアウターで腕を磨いている、竜人族の中でもかなり腕が立つ男なのじゃ。

 その兄上が、惰弱な人間族の事を決して侮るなと警告してくる。


「僕はねフラッタ。人間族が恐ろしくて仕方ないんだ。あんなに弱いのに、あんなに脆いのに、その身に秘めた悪意は信じられないほどに濃くて、他の種族とは比べ物にならないんだよ……!」


 いつでも凜として、常に正しい事を胸を張って実行する、妾の自慢の兄上の姿はそこにはなく、その表情は真っ青で、妾から逸らした視線には怯えが混じり、妾を撫でる手からは震えが伝わってくる。


「今回の件も首謀者が他の種族であれば、ありえないと一笑に付すことも出来たんだ。でもねフラッタ。人間族はその悪意に身を任せて、どんな事でも出来てしまう種族なんだよ」


 どんな強敵相手でも背を向けずに立ち向かい、各地のアウターで腕を磨いて、妾が知るより更に強くなっているはずの兄上が、心の底から恐怖で震えておった。


「今回の件。これで終わるとはとても思えない。フラッタは絶対にヴァルハールから出ちゃダメだ。なにが起こるか分からないからね」


 そこで兄上は片膝をついて妾と目線を合わせ、妾の両肩を震える手で掴みながら、妾の目を、妾と同じ赤い瞳で真っ直ぐに見詰めながら警告してくる。


「いいかいフラッタ。僕と父上はこれからこの事件の調査を行うけれど、正直言って無事に済むとは思えないんだ。僕や父上に何かあったとしても、フラッタは絶対にこの家にいる事。いいね?」

「何を……、何を言っておるのじゃ兄上……?」

「いいから聞いてフラッタ。もし僕達に何かあったら、母上の言う事を良く聞いて、母上に指示を仰ぐんだ」


 兄上の様子に、妾の胸の奥で嫌な予感がどんどん膨らんできてしまう。

 兄上はどうしてここまで悲壮な雰囲気を漂わせておるのじゃ……?


 これではまるで、今から死地に赴くようではないか……。


「竜人族の多くは……、いやあらゆる種族が人間族を侮り下に見ている。僕にはそれが怖いんだフラッタ。人間族くらい悪意を孕んだ種族は他にはいない。だというのに多くの人は、それに気づいていないんだ」


 人間族の悪意とはなんなのじゃ……? 人間族など数が多いだけの脆弱な種族ではなかったのか……?


「フラッタ。忘れないでね。人間族の心の奥に宿した悪意は、この世界を簡単に飲み込んでしまうほどに深くて強いものなんだ」


 この世界すら飲み込むほどの悪意……?

 震える声で妾に語りかける兄上には申し訳ないのじゃが、そんなこと言われても想像がつかないのじゃ……。


「お前がこれから生きていく先で、当然人間族に会う事もあるだろう。彼らの脆弱な身体能力に惑わされてはいけない。彼らの本質は、自分の破滅さえ厭わず相手を呪うその悪意にあるのだと、絶対に忘れてはいけないよ」





 あの日の兄上の言葉が正しかったことを証明するかのように、兄上の消息が絶たれてしもうた。

 あの時の兄上は、自身の身に何かが起こる事を既に予感していたのかもしれぬな……。


 兄上の消息が分からぬまま数日が過ぎ、妾が兄上の言葉通りに屋敷で大人しく待っていると、事態はどんどん悪化していった。

 飼育されていた竜人族の虐殺。

 そして飼育していた商会の人間が皆殺しにされた。


 そして、それを行ったのが兄上であると、父上の口から聞かされた。


 犯行現場に残された痕跡から、犯人は兄上でほぼ間違いない事。

 兄上のパーティメンバーも死体で発見されたこと。

 兄上の犯行によって、ルーナ竜爵家が年内をもってお取り潰しになる事が決まったこと。

 お取り潰しになる前に、竜爵家の総力を持って兄上を捜索し、この事件に終止符を打つこと。


 兄上を探し、この事件に終止符を打つ……。

 それが兄上との死別を意味している事くらい、妾にも理解できた。


 父上にも母上にも、妾も兄上の捜索に参加したいと直談判したのじゃが、実力不足を理由に断られてしまう。

 兄上が商隊を皆殺しにした場所は遠く離れた地のアウター。

 ヴァルハールから出た事もない妾に、捜索の許しが出るはずもなかった。


 じゃが待っていても事態は悪くなるばかり。

 だから許されぬならもう構わぬと、装備をまとって1人で家を飛び出した。


 初めてヴァルハールを出て訪れた、ナビネールという街。

 スポットの話を聞いて回る妾にちょっかいをかけてきた人間族。兄上の話を思い出し少し警戒したけれど、何の問題もなく撃退することが出来た。

 こんな惰弱な種族に、兄上はいったい何を恐れておったのじゃろう……。


 冒険者ギルドでスポットの場所だけ聞いて、何の準備もせずにそのままスポットに突入した。


 後から思い返すと、なんとも無謀な事をしたものじゃ。

 水も食料も用意せず、地図も案内人も用意せず、ただ衝動に駆られてスポットに入り、兄上を探して走り続けた。


 体力に限界を感じ始め、空腹と喉の渇きは限界に近く、帰ろうと思った時には、自分が立っている場所が分からなくなっていた。

 いつしか兄上よりも出口を求め、ただ闇雲にスポット内を走り続けた。


 気付くと大量の魔物に追われ、剣を握る手にも力が篭らず、魔物を目の前にしても瞼が重く、意識が朦朧とし始めた。

 もうこれまでか……。そう思った時に、1人の人間族が現れたのじゃ。


 兄上の言葉を思い出し警戒する妾に、その男は手を差し伸べるでもなく、それどころか勝手に死ねなどと言い放ちおった。

 朦朧としていた意識が、あまりに予想外の発言に驚き、一瞬だけ覚醒する。


 人間族風情が、妾を邪魔だと言いおったのかぁっ!

 その怒りに、剣を握る手に力が戻る。


 大口を叩いたくせに大した腕でもない男は、マーダーグリズリー如きに梃子摺っておった。

 その程度の腕前なのに、魔物に囲まれた妾を助ける為に、魔物の中心に突っ込んできた人間族の男。


 全ての魔物を打ち倒したあと、死なずに済んだその安堵感から、人間族の前だというのに妾は意識を失ってしまったのじゃ。


 鼻をくすぐる良い匂いに誘われ目を覚ます。

 すぐに周囲の状況を確認したのじゃが、装備も手元にあり、拘束もされておらぬ。それどころか水と食料まで好きなだけ分けてくれた。

 なんなのじゃこの男? 本当に人間族なのか?


 歩み寄ろうとする妾の手を振り払い、こっちへ来るなと突っぱねる。

 こ、こんな扱い、竜人族にすらされたことがないのじゃ……!


 蝶よ花よと育てられ、兄上に手を引かれ、妾の周りにはいつも人が集まってきた。だというのにこの2人は、妾の事を厄介事としか見ておらぬのじゃ。

 なのに決して、妾を見捨てようとだけはしない。


 彼らの話を聞いてどんどん興味が引かれていく。

 ニーナは呪われており、ダンは武器を持ってまだ3ヶ月ほどの駆け出しじゃった。

 それでもたった2人で生きていく為に、スポットに入り魔物を狩る日々。

 そんな余裕の無い状況なのに、仕方ない、仕方ない、と言いながら、2人とも妾の世話を焼いてくれる。


 2人の家に着くと、そこには沢山の子供たちがいた。

 2人の家は笑顔に溢れ、人間族も獣人族も竜人族も関係なく、みんなで同じご飯を食べて、みんなで同じ時間を笑って過ごした。


 2人ともっと仲良くなりたくて、わがままばかり言ってしまう。

 ダンが妾に出来るだけ踏み込みたくないと思っているのは伝わってきた。

 でもそれがなんだか寂しくて、変に踏み込んでしまうのじゃ。


 予定より長く滞在し、生活に余裕が無い2人に更に負担を強いていたと言うのに、2人は笑って、いつでも来いと見送ってくれた。

 ヴァルハールに帰って自分のステータスプレートを見た時、2人の名前の無いことがなんだか悲しかったのじゃ。


 2人と別れてからの1ヶ月間、妾はアウターで活動する為の様々な知識や技術を勉強することにした。

 しかし妾は戦闘以外が本当にからっきしで、ダンもニーナも簡単そうにしていた事が、妾には全然出来なかったのじゃ。


 自分1人で色々なことを試してみて、改めてあの2人にどれだけ世話になったかを知った。

 お金も装備も無く、頼れるのは互いのみというあの2人が、どれ程の苦労をしてあの家を築き上げたのか、妾には想像も出来なくなった。


 日に日に2人が恋しくなって、ふと礼拝日の話を思い出した。

 2人はトライラム教会の礼拝日に参加し、次回も必ず参加すると言っていたと、一緒に遊んだ者たちが言っておったのじゃ。


 ちょうどいい口実を見つけ、日付を確認し、指折り待った礼拝日の前日。1ヶ月ぶりに2人の家を訪れた。

 妾のいない間に2人も同居人が増えておるのじゃ。そのどちらも極上の美人。


 それどころかリーチェ? リーチェじゃと? この女性が建国の英雄殿であるのか? 妾の料理を皿から奪っていくこの女性が?


 次の日は色々と大変じゃった。

 朝からダンにおっぱいを揉みしだかれてしまったのじゃ。でも、別に嫌だとは思わなかったのじゃ。


 礼拝日の手伝いも楽しかった。妾に出来る事があまり無くて申し訳なくなったけれど、リーチェも似たようなものだったので気が紛れたのじゃ。


 でもその夜、竜人族殺害事件とマルドック商会壊滅事件について淡々と語るダンに、兄上の言っていた事を思い出して恐ろしくなった。

 あまりにも当然のように、あまりにもなんでもないことのように、これは俺が勝手に思ったことだよと、最悪で最低の想定を語るダン。

 妾の信じてきたもの、リーチェが信じてきたもの、それら全てを否定する最悪の想定じゃった。


 吐き気がするほど最低な予想なのに、なんとなくダンは、これ以上に酷い想定をしているのではないのかと、そのように思ってしまったのじゃ。

 これほどの悪意をさも当然といった様子で語るダンに、人間族の持つ悪意の恐ろしさの片鱗を見た気がした。


 そして次の朝は、ダン自身の恐ろしさを体の奥の奥まで刻み込まれてしまったのじゃ。

 何度やめてとお願いしても、絶対に止まることのないダンの指の動き。


 死ぬほど気持ちよすぎて辛かったのに、なぜだか妾は最後まで抵抗することができなかったのじゃ。


 そしてその夜、妾はダンに求婚されてしまったのじゃ。

 なんだか恥ずかしくて照れくさくて、ダンの顔が見れなくなったのじゃ。


 気付いたら、リーチェに抱かれて地下室で寝ておったのぅ。


 次の礼拝日までの1ヶ月間、妾は竜爵家の歴史や兄上の過去の行動記録などを調べることにした。


 なのに……、なんだかおかしいのじゃ。

 確かに妾は調べ物が苦手な自覚はあるが、それでもここまでじゃったかのぅ?


 資料を開けばいつの間にか意識が落ち、自分が何を調べて何を読んでいたのかも思い出せぬ。

 違和感が募る日々に、なんだか屋敷の様子もおかしくなってきた気がするのじゃ。


 父上にそれとなく聞いてみるも取り合ってはもらえず、母上はただ、早くこの屋敷を去りなさいと、それ以上の事は何も教えてくれなかった。

 この屋敷に、いったい何が起こっているのじゃ……?


 なんだか兄上と最後に話したときのような、得体のしれない恐怖を感じる。

 自宅なのに、生まれてからずっと、13年間過ごした屋敷なのに、まるでアウターの中に取り残されているような気持ち悪さを感じるようになっていったのじゃ……。



 そんな不安な日々を過ごし、待ちに待った月に1度の礼拝日がやってきた。


 ダンの家に着くと、まずはリーチェが出迎えてくれた。

 妾の家のことを話すと、親身になって相談に乗ってくれたのじゃ。


 ダンのお嫁さんになる話は保留したままで、ダンの家に住めることになった。

 今の妾にはこの家こそが自宅のように感じられてる。我が家でいったい何が起こっておるのじゃろう。


 ダンと一緒にヴァルハールに、妾の荷物を取りに行く。ダンと一緒にヴァルハールを歩くのがなんだか嬉しくて仕方ないのじゃ。


 ダンと別れ自宅に戻る。

 流石に装備品は持ち出せぬ。最低限の着替えくらいしか持っていけぬかのぅ。


 荷物をまとめて、父上と母上に報告に向かう。でもやっぱり父上は忙しいと取り合ってくださらなんだ。


「フラッタ。この家はお取り潰しになるのだから、もう戻ってきてはいけませんよ。絶対に戻ってきてはいけません。もし母に会いたくなったら、私が実家に戻ってからにしてくださいね」


 笑顔で妾に警告する母上。

 母上、この屋敷でなにが起こっているのか、どうして妾には教えてくださらないのじゃ……。


「いいですかフラッタ。貴女はもう、この屋敷には絶対に戻ってきてはいけませんよ?」


 しかしそんな風に落ち込む妾がはいと返事をするまで、母上は決して妾を解放しようとはしなかった。

 母上はこの笑顔の裏側で、いったいなにを考えておられるのじゃろう……。


 少し気落ちしながらダンの待つ冒険者ギルドに向かうと、突然ダンがパーティから脱退してしまったのじゃ。

 驚いて急ぎ冒険者ギルドに到着すると、6人の竜人族にたった1人で対峙するダンの姿。


 なにがなにやら分からぬうちに、ダンはあっさりと6名を切り捨てて決闘に勝利してしまったのじゃ。

 だけど決闘相手を打ち倒したダンは、今まで見た事も無いほどの怒りを周囲に見せ始めた。


 怖い。怖い怖い怖い……!

 ダンが見せたあまりの怒りに身が竦んでしまう……。


 恐怖を抱いたのは妾だけでなく、周囲にいた竜人族全てが、たった1人の人間族の怒りに気圧されてしまったのじゃ。

 とにかくダンの言う通りに動いてみても、ダンはどんどん怒りを増していく。怖い。怖いのじゃぁ……。

 妾が動いてもダンの怒りは増す一方で、怖くて怖くて堪らない。このままではダンに嫌われてしまう。それが怖くて仕方ない。


 あまりの恐怖に泣き出してしまった妾を、それまでの怒りが嘘だったみたいに優しく抱きしめてくれるダン。

 ずっと抱きしめたまま家まで連れて帰ってくれて、優しく抱きしめ続けてくれたのじゃ。


 優しいダン。大好きなダン。妾の知っているいつものダンなのじゃ……。
 

 世界全てを滅ぼすのではないかと思えるほどの怒りを見せ、人の悪意を当然の様に語るダン。

 いつも優しく妾を抱きしめ、父上よりも母上よりも、兄上よりも深い愛情を妾に注いでくれるダン。


 のうダン。いったいどちらが本当のおぬしなのじゃ?
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