異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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2章 強さを求めて2 新たに2人

087 実演! チート能力 (改)

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 静寂が場を支配する。誰も口を開かない。

 俺の話など関係ないとばかりに、フラッタをよしよしなでなでし続けるニーナお姉ちゃん。
 暇になったのか、お茶を淹れてくると席を立ったティムル。
 俺の言った言葉を、よく分からないなりに頑張って理解しようと悩んでいる様子のフラッタ。
 怪訝な顔をして、こいつなに言ってんだ? みたいな視線を向けてくるリーチェ。


 くっそ。それぞれの反応を並べてみるとフラッタの反応可愛すぎだろ。

 そしてリーチェの反応が多分一般的な反応だよなぁ。日本人で例えるなら、俺って宇宙人なんだって言われたようなものだろう。


 俺の奴隷たちはさぁ。君達、自分のご主人様の話にもうちょっと興味持って?


「え、……っと。ごめんダン。君の言っていることが理解できない。別の世界? 異世界人?」

「別の世界から来たということは……。ダンはいつかその世界に帰ってしまうのかっ!?」


 困惑しながら聞き返してくるという、恐らく一般的な反応を見せるリーチェに対して、俺が居なくなってしまうかもしれないと真っ青になって身を乗り出してくるフラッタ。


 ……フラッタさぁ。お前、俺が喜ぶ反応を的確に選んでくるんじゃねぇっての。最速で俺を攻略するチャートでも組んでるの?

 もう既に攻略済みだからね? もう求婚して、お前にも受け入れてもらってる関係だからね?

 あー……。そう言えばニーナも俺が元の世界に帰るかどうかを1番に心配してくれたっけなぁ。


「落ち着いてフラッタ。これから1つ1つ説明していくからね」


 ニーナとフラッタって血の繋がりとか全然無いのに、まるで本当の姉妹みたいにどこか似た様な部分があるよなぁ。

 さて、まずは可愛いフラッタの不安を解消してあげないとな。


「まず始めに、元の世界に帰るつもりはないよ。帰れないと明言されてるし、みんなを置いて消えたりしないさ。だからフラッタとはずっと一緒だね」

「ほんとぉ……? ほんとにダン、妾を置いてどこかに行ったりしないのじゃ……?」


 かぁーーーもうっ! 涙目上目遣いやめろやぁっ!

 ニーナじゃないけど、これだからぁっ! これだからフラッタはぁっ!


「こんなに可愛いフラッタを置いてどっか行ったりしないよ。もし帰る方法があったとしても、大好きなフラッタと一緒にいるほう選ぶに決まってるでしょ。ほら、不安ならこっちおいで」


 フラッタが可愛すぎて限界だ、こっちにおいでと両手を広げてフラッタを呼ぶ。

 ニーナ、そろそろフラッタをこっちに渡して欲しいなぁ?


「ぐぅぅ……。仕方ありませんね。フラッタの不安も理解できますし……」


 仕方ないじゃないっての。フラッタは俺のお嫁さんなんだってば。

 なんで自分の嫁と自分の嫁を奪い合わなきゃいけないんだよ、まったく。


「いってきなさいフラッタ。ご主人様にいっぱい、ぎゅーってしてもらってきなさいね」

「うんっ。いってくるのじゃっ!」


 ニーナに解放されたフラッタは一直線に俺のところに走ってきて、ぽんっと膝の上に横に座った。

 すっかり横抱きがお気に入りのようだ。力いっぱい抱きついて俺の胸板に頬ずりしてくる。


 俺に一直線に向かってくるさまは尻尾振った子犬みたいだし、くっつきたがるところは猫みたいだし、なぜか竜っぽさだけがないんだけど?

 まったく、うちの末っ子は完全にマスコットになりそうだなぁ。よしよしなでなで。


「あら、お茶を持ってきましたけど、ちょっとご主人様は飲めなそうですかね? 一応置いておきますけど、飲む際はくれぐれもフラッタちゃんに気をつけてくださいね」

「ティムル。良いところに戻ってきました。ちょっと人肌が恋しいので抱きしめて良いですか?」

「……構いませんけど、お茶を配るまで待ってくださいね。ニーナちゃんってフラッタちゃんがいると、色々崩壊しちゃうんですねぇ……」


 フラッタを解放したニーナは、何故か今度はティムルに抱きつき始めた。

 なにニーナ、俺の女狙ってるの? ニーナは俺のライバルだった?


 俺に抱きつくフラッタの頭を撫でながら話を戻す。


「俺が異世界から来たって話は、信じても信じなくても構わない。帰る方法もないし、証明する方法もないからね。重要なのはそこじゃないんだ」


 知識チートや技術チートが出来るわけじゃないから、出身地が異世界でも大した問題じゃない。重要なのは転移ボーナスの方なのだ。


「この世界に来る時に、俺は2つの能力を授かった。1つ目は『鑑定』だ」

「なんだってっ!?」


 うわびっくりした。

 鑑定と口にした途端、リーチェが驚愕の声を上げて椅子から立ち上がった。


 リーチェなら知ってる可能性はあると思ったけど……。この反応は、あまり良い予感がしないな?


「鑑定だよ。知ってるのリーチェ?」

「……僕のこと、鑑定した?」

「してない。フラッタの事もまだしてないよ。ニーナとティムルは鑑定した。あと俺自身か。証明する方法は無いけどさ」


 この過剰な反応。リーチェには鑑定されると困る理由があるらしい。

 しかし今は俺の言葉を信用してくれたらしく、大きく息を吐いて椅子に座りなおすリーチェ。


「……信じるよ。というか僕を鑑定していたらそんな態度のはずがないからね」


 ……今の言葉はどういう意味なんだろう。

 ニーナの呪いを受け入れた俺ですら態度を変える情報ってなんだ?


「鑑定って『分析官』の能力でしょ? 分析官を浸透させたの? ……その歳で?」


 あっさりと分析官の名を口にするリーチェ。今のところ分析官は1人も見かけた事が無いのにやっぱすげぇな。

 そして『浸透』か。そう言えばフラッタも言っていたな。


「いや、職業は村人のままで鑑定スキルだけを貰ったんだよ。お前やフラッタへの鑑定は、無断では絶対にしないと誓う。もし鑑定する時は必ず本人に許可を得るから」

「ん、いやごめん。ダンのこと、ちゃんと信用してるよ。取り乱して済まなかった。まさかここで鑑定なんて聞くとは思ってなくてさ……」


 少し申し訳なさそうな様子のリーチェ。

 気にしなくていいからそんなに申し訳無さそうにしないでくれよ。今日はフラッタの1件もあって、謝られると辛いからさ……。


「分析官のスキルを村人の頃から使えたって言うのは凄まじいね。なるほど、異世界から来たという話もあながち嘘とも言えなそうだ」

「のぅダン。鑑定とはどんなスキルなのじゃ?」


 俺の腕に収まっているフラッタが、こてんと首を傾げながら尋ねてくる。

 フラッタがあまりにも可愛すぎて、脳が思考する前によしよしなでなでを開始する俺の右手。


「ああ、相手の名前、年齢、性別、種族、職業、そして装備が分かっちゃう能力だよ」

「ふむぅ。要はステータスプレートを無断で盗み見るようなものかのぅ? でも装備や種族まで見れるなら、ステータスプレートよりも情報が多いのじゃな。妾は鑑定されても気にせぬぞ。いつでも鑑定するが良いのじゃっ」

「ありがとうフラッタ。お前は可愛いなぁ」


 ……鑑定していいよって言われると、逆に申し訳なくなるのはなんでなんだろうな? ま、鑑定する時にはちゃんと断るとしよう。よしよしなでなで。


「なぁリーチェ。分析官と浸透について、知ってる事があったら教えてくれる? 俺はどっちのことも良く知らないんだ」

「ん? 浸透は浸透だよ。職業の力が本人の魂に浸透して定着する現象のことだよ。職業が浸透すると、別の職業に転職しても職業スキルが失われる事がないんだ」


 うん。分かってたけど、浸透が累積ボーナスを指す言葉なのはこれではっきりしたな。

 貴族令嬢であるフラッタに続いて、リーチェはエルフのお姫様らしいからな。やっぱり富裕層、支配者層に居た人間には常識的な知識なんだろう。


「……ってそうか。君達は鑑定のおかげで浸透のタイミングが分かるわけか。道理で3人ともインベントリ持ちなんてことがあり得るわけだよ」


 インベントリ持ちの職業自体は多いのになぁ。
 それにインベントリは育成具合が分かりやすいはずなのに、何でそんなに少ないんだろ。

 リーチェは得心がいったとばかりに小さく頷きながら考え込んでいるので、その間にニーナとティムルにも話を振ってみよう。


「浸透って言葉はフラッタにも聞いたんだけど、ニーナとティムルは知ってた?」


 2人揃って首を横に振って、知らないという意思表示。やっぱ知らないよね。

 隠れ住んでいたニーナはともかく、行商人として王国中を巡っていたティムルが聞いたことも無い言葉って事は、やっぱり特権階級が独占してる情報に違いない、と思う。


「っと分析官だったね。でもごめん。分析官については殆ど知らないんだ」


 考え事から復帰したリーチェだったけど、開口一番に分析官については知らないと口にしてきた。


「かなり前……。恐らく他の種族の数世代前くらいの頃に、1度だけ分析官の人間と出会った事があってね。それで知っていただけの話なんだ」


 鑑定持ちですら数世代に1人の割合かぁ。

 ……とするとこっちは、俺以外に使える奴はいないのかもしれないな。


「リーチェ。フラッタ。俺が持っている能力は鑑定だけじゃなくてさ。実はもう1つあるんだよ」


 分析官が数世代に、恐らく100年単位に1人くらいしかいないなら。

 『法王』なんて恐らく誰も――――。


「俺のもう1つの能力。それは『職業設定』というスキルだ。俺は自分も他人も制限なく、いつでもどこでも自由に職業を変更できるんだよ」


 俺の言葉に静まり返る室内。リーチェもフラッタも無言のまま固まってしまっている。


 ……あ、あれー? な、なんだってー! くらいのリアクションを予想していたのに、予想に反して誰も何の反応もない。

 割と意を決して告白したつもりだったのに、フラッタもリーチェも何のリアクションも見せてくれなかった。はんのうがない。ただの美女のようだ?


 そして視界の端のニーナとティムルは、なんで抱き合ってんだろうねぇ? なにやってんの君ら?


「……自分も他人も、何時でも何処でも制限なく、職業を変更できるスキル……? そんなの、聞いた事もないよ? そんなスキル、ありえる……?」

「ダンよ。それは流石に、妾にも信じがたいのじゃ……。 職業を、自由に……?」


 あ、やっと反応してくれた。よしよしなでなで。

 そっか。この2人には異世界から来たって話よりも、職業をほぼ無制限に変更できる能力のほうが荒唐無稽に聞こえたわけだ。
 恐らく幾つかの職業を累積……、いや浸透させている2人だからこそ、職業設定の存在を受け入れがたいのかもしれない。


「見せたほうが早いね。ニーナ、ティムル。ステータスプレート出してもらえるかな」


 2人のステータスプレートと俺のステータスプレートを出して、2人の前に並べる……、前に好色家は変えておく。あっぶなぁ!

 しかし長命種のリーチェでも、やはり職業設定は聞いたことがなかったかぁ。法王に関しては自力で見つけるしか無さそうかな?


「これが俺達の今の職業ね。2人ともよく見ててね。今俺達の職業を適当に色々変えてみるから」


 半信半疑な様子のフラッタとリーチェの前で、俺、ニーナ、ティムルの職業を適当に変更する。


 ……適当に変えつつも絶対に好色家だけは設定しない。

 これは見せるわけにはいかない。見せたらきっと、ニーナもティムルも上げようとするに決まってるからなっ……。


 こ、好色家3人で、い、1日中……?

 だ、ダメだダメだ! 絶対死ぬっ! そんなの死ぬに決まってるよっ!


 数分間職業設定を繰り返し、やがて3枚のステータスプレートが消える。

 実演が終ったので俺は好色家に、ニーナとティムルの職業は射手と豪商に戻しておく。


「とまぁ今見た通りだよ。2人の職業で試さなかった理由は、これを使うと必ず鑑定も発動しちゃうからなんだ。フラッタとリーチェが体験するのはまた今度って事で」


 俺の言葉は聞こえているはずだけど、それどころじゃない様子でブツブツと呟いているリーチェ。


「異世界から……、そんなまさか、でも今の力は……、ええ……?」

「すっごいのじゃーっ! ダンは本当にすっごいのじゃーっ!」


 そんなリーチェに対して、満面の笑みを浮かべて力いっぱい抱き付いてきてくれるフラッタ。

 ああもう、くっそ可愛い反応だなぁフラッタはさぁっ! よしよしなでなでよしよしなでなで。


「ギルドにもフォアーク神殿にも行かずに、いつでもどこでも職業を変えられるなんてダンは凄いのじゃっ」

「ああもうフラッタは可愛いなぁっ。こんな可愛いフラッタを放って、元の世界になんか帰る訳ないだろぉぉぉっ」


 可愛すぎて心の声で留めておけないよくっそぉっ! フラッタは可愛いなぁもうっ!

 もしも帰る方法があっても、迷い無く元の世界を捨てる決断が出来ちゃうよぉっ!


「……職業設定にも驚いたけど、侠客、魔法使い、盗賊、殺人者、修道士。こんな職業まで持ってるのが意味分からないよ。君は……、君は本当に異世界から来たんだねぇ……」


 ……ん? リーチェの様子が微妙におかしいな。


 フラッタをよしよしなでなでしていたら、リーチェが俺を真っ直ぐに見ていた。

 夕食後の薄暗い食堂の中でも美しく存在を主張するその翠の瞳は、なんだか熱っぽく潤んでいるようにも見える。


 えーっと、リーチェ? どうかしたの?

 あと修道士は多分、お前もフラッタも持ってるからね? 鑑定できないから多分だけど。


 そんなリーチェの様子に、視界の端で抱き合っているニーナとティムルが、やれやれといった感じで肩を竦めている。


「こうなるとは思いましたよ。というか元々陥落寸前というか、ほぼ陥落してましたしねぇ」

「私もそうでしたけど、自分じゃどうしようもないと思ってるところに現れたのが異世界から来た王子様、となると燃え上がりますよねぇ。リーチェの場合、どれ程の重さの事情を、どれほどの期間抱えて生きてきたのかすら分かりませんし」


 何々? ティムルって俺に燃え上がってくれてたの?

 話した時は、何言ってんだこいつ、って顔されてた気がするんだけど。


「それにご主人様はその事情を知らずにリーチェにプロポーズしてるわけですし、そんな相手が特別な力を持っているとなったら、もう燃え上がっちゃいますよねぇっ」

「そうなのじゃっ! 妾ももうダメだと思った時に、ダンが助けに来てくれたのじゃっ。しかも妾は嫌な態度を取ったのに、それでも助けてくれたのじゃっ!」


 ティムルの言葉に同意して、嬉しそうに俺達が初めて会ったときの事を捲し立てるフラッタ。


「わざと妾を雑に扱って、自分に怒りを向ける事で妾に生きる活力を取り戻させてくれたのじゃっ。本当はあの時からずーっと、ダンの事が大好きだったのじゃーっ!」


 世界一可愛いフラッタの真っ直ぐすぎる好意をぶつけられて、幸せやらばつが悪いやら、なんだか複雑な想いで眩暈がしてきた。


 お、おかしいな? 美女4人の好意を感じるのに、それがむしろ針の筵のように感じてしまうぞ?

 むしろむしろって洒落にもなってないからね?


「っていうかフラッタ。その時って初対面だったし、フラッタの方が全然強かったでしょ。まぁ今もだけど。何処に惚れる要素があったのか分からないんだけど?」

「だってあの時妾はボロボロで、何日も道も分からぬまま彷徨って、あの時は本当に、もうだめなのじゃーって思った瞬間だったのじゃ……」


 あの時の絶望的な状況を思い出したのか、俺に抱き付いている両手が少しだけぎゅっと強張った。

 かと思った次の瞬間、輝かんばかりの笑顔で俺を見上げてくるフラッタ。


「そんなところを助けてくれて、嫌な態度を取っても助けてくれて、気を失った妾を守ってくれて、水も食料も好きなだけくれて……。こんなの好きになるなというほうが無理なのじゃーーっ!」


 いやいや。スポット内で独りボロボロになってるフラッタを見たら、誰だって同じことすると思うよ?

 仮に俺が見捨てても、ニーナは絶対に見捨てなかったと思う。


「いくら妾とて、好きでもない男と夜を共にしようとはせぬし、おっぱいを触られても良いなどとは思わぬのじゃっ。ぜーんぶダンだからなのじゃーっ!」

「あああもうなんなんだよこいつぅぅっ! いちいち可愛すぎるんだよぉぉっ!」


 よしよしなでなでよしよしなでなで。

 撫でたら撫でたで嬉しそうな顔するしさぁっ! もーっ! んもーっ!


「フラッタちゃんの好意は純粋すぎて、ニーナちゃんやご主人様に効果抜群ですねぇ。ある意味、フラッタちゃんが最強……?」


 いやいや、むしろティムルが陥落してないのが信じられないんだってばぁ。

 こいつ可愛すぎるよぉ。俺の中にあった黒い感情まで吹き飛ばすほど、ただひたすらに可愛いんだけどぉっ!


 お前もっと人のこと疑えよっ。くっそぉ! フラッタは可愛いなぁもうっ!
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